書いてあること

  • 主な読者:高齢の親が認知症になった場合の、親の財産管理が心配な人
  • 課題:成年後見制度を利用したいけれど、内容がよく分からない
  • 解決策:「任意後見」「成年後見」の違いを押さえる。後見人になるための手続きや、与えられる権限の違いに注意

1 高齢者5人に1人が認知症に!? 親がなったらどうなる?

65歳以上の高齢者の数は、2022年9月時点で3627万人(全人口の29.1%)になっています(総務省統計局)。そんな超高齢社会の日本と切り離すことのできないテーマの1つが認知症です。高齢化の進行とともに65歳以上の認知症患者は年々増えており、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)になるといわれています(厚生労働省「成年後見制度の現状(2023年5月)」)。

もし、仮に自分の親が認知症になるとどうなってしまうのでしょうか? 認知症になる前に何の対策もしていないと、特に困るのが親の財産の管理です。認知症で記憶力や判断能力が低下してしまった場合、財産面では次のようなリスクが生じます。

  • どのような財産があるのか誰も分からなくなってしまう
  • 預貯金が引き出せず、生活や医療・介護の費用を親族が立て替えざるを得なくなる
  • 所有する不動産の売却や活用ができない状態になる
  • 遺言などによる相続対策が困難になる
  • 詐欺や悪徳商法に引っかかりやすくなり、財産を失う恐れがある

こうしたリスクに備える上で知っておきたいのが「成年後見制度」です。成年後見制度とは、

大人(成年者)が、認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が低下してしまい、自分のことをちゃんと管理できなくなった場合、「後見人」と呼ばれる人が本人に代わって財産の管理などを行う制度

です。これにより、仮に親の認知症が進んで自分で物事を決められなくなっても、前述したようなリスクを回避することができます。ただ、成年後見制度には複数の種類があり、それぞれ後見人になるための手続きや、与えられる権限などが異なるので、基本的な内容を押さえておかないと「親の万が一」に対応できません。以降で確認していきましょう。

2 「成年後見制度」は2種類ある

1)成年後見制度には「任意後見」と「法定後見」がある

1.任意後見

任意後見とは、

本人(親)の判断能力が不十分になったときに備え、本人が所有する財産の管理などを、あらかじめ契約によって定めた将来の後見人(任意後見人)に委託する

というものです。

本人に判断能力があるうちに、信頼できる人(任意後見人になる人)に「自分が認知症になったらこうしてほしい」という希望を伝え、任意後見契約を結びます(公正証書で締結する必要があります)。

その後、本人の判断能力が低下したら、任意後見人になる人や親族などが家庭裁判所に任意後見人監督人選任の申立てを行い、家庭裁判所が任意後見監督人を選任します。任意後見監督人が選任されると、任意後見契約の効力が生じ、任意後見人が本人から委託されたことを行えるようになります。また、任意後見監督人は、任意後見人が委託されたことを適正に行っているかを監督します。

2.法定後見

法定後見とは、

本人(親)の判断能力が低下してしまった後に、本人が所有する財産の管理などをサポートする後見人(法定後見人)を、家庭裁判所の審判によって選任する

というものです。

法定後見開始審判の申し立てができるのは、本人や4親等内の親族、市区町村長などで、家庭裁判所が申立てを審理した後、法定後見人を選任します。なお、家庭裁判所は、本人の判断能力の低下の程度に応じて次のいずれかの人を選任します(以下「成年後見人等」)。

  • 成年後見人:本人の判断能力がいつも欠けている場合
  • 保佐人:本人の判断能力が著しく不十分な場合
  • 補助人:本人の判断能力が不十分な場合

2)「任意後見」と「法定後見」の違いを整理

任意後見と法定後見の主な違いをまとめてみました。

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任意後見の場合、本人が完全に判断能力がある状態で、信頼できる人を任意後見人として自由に選ぶことができます。

任意後見人の権限内容は、任意後見契約を締結する際、本人の意思に従って自由に決められます。例えば、財産管理や介護に必要な身上保護などの具体的な依頼内容を、本人と任意後見人との協議で自由に決めることが可能です。また、任意後見人の報酬も、事前に協議で決めることができます。

一方、法定後見の場合、申立人の推薦を踏まえて、家庭裁判所が成年後見人等を選任します。実際には、申立ての時点で本人の判断能力は低下してしまっているので、本人の意思で誰かを推薦することは困難です。また、推薦した人が必ずしも選任されるとは限りません。

成年後見人の権限内容は民法で定められています。保佐人や補助人の権限内容については、本人の状態に応じて一部個別に設定できますが、家庭裁判所の審判による必要があります。成年後見人等の報酬は、報酬付与の申し立てを受けて家庭裁判所が報酬額を決定する審判をします。

このように違いはさまざまありますが、留意しておきたいのは後見人等の権限です。後見人等の権限は、

  • 代理権:財産に関する法律行為を本人に代わって行う権利
  • 取消権:本人が行った法律行為が本人に不利益を与える場合に、これを取消す権利
  • 同意権:本人が行う法律行為について同意を与え、法律上の効果を生じさせる権利

に大別できます。

任意後見の場合、任意後見契約によって代理権の範囲が決まるので、任意後見人は契約次第で幅広い法律行為を行うことができますが、一方で取消権が認められていないため、認知症の本人が任意後見人の見ていないところで契約などをしてしまったときなどには対応できない場合があります。

一方、法定後見の場合、取消権(保佐と補助の場合は同意権も)が認められているので、本人が成年後見人等の見ていないところで法律行為をした場合にもある程度対応できます。ただし、代理権などの範囲は法律で細かく決められています。 

親族(子)の立場からすると、高齢の親が認知症になって判断能力が低下してしまう前に、親が蓄えてきた財産の管理についてしっかり話し合う機会をつくり、必要に応じて「遺言書を書いておいてもらう」「任意後見契約を結ぶ」などの対策をしておきたいところです。

認知症になって判断能力が低下してしまうことも念頭に、いかにトラブルなく生活していくかがポイントです。成年後見制度の趣旨を理解し、本人(高齢の親)の意志を尊重しつつ、大切な権利や財産をどのように守っていくかを考えてみましょう。

3 知っておきたい「成年後見制度」の実際のところ

1)制度の利用は「法定後見」が圧倒的。成年後見人がつくケースが特に多い

成年後見制度の利用者数は増加傾向にあり、2022年12月末時点で24万5087人となっています(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況」2023年3月)。

利用者数の内訳を見ると、任意後見が2739人、法定後見が24万2348人(成年後見:17万8316人、保佐:4万9134人、補助:1万4898人)と、法定後見が圧倒的に多いです。本人が認知症を発症し十分な判断能力がなくなってしまい、預貯金等の管理・解約などのため、法定後見(成年後見人等)に頼らざるを得なくなるケースが多いようです。

2)親族以外の専門職(司法書士や弁護士)が成年後見人等になっている

2022年に後見開始、保佐開始、補助開始の審判が申し立てられ、成年後見人等が選任された3万9564件を見ると、成年後見人等として「親族(配偶者、親、子、兄弟姉妹およびその他親族)」が選任されたものが7560件(19.1%)、「親族以外」が選任されたものが3万2004件(80.9%)となっています。

また、親族以外での内訳を見ると、司法書士が1万1764件(36.8%)、弁護士が8682件(27.1%)、社会福祉士が5849件(18.3%)などとなっています。親族が関与しない本人による申立てや市区町村長による申立てによって、司法書士や弁護士などの専門職が成年後見人等として選任されるケースが増えているようです。

なお、2022年3月に閣議決定された「第二期成年後見制度利用促進基本計画」では、家庭裁判所による適切な後見人等の選任・交代の推進が掲げられ、次のような内容が示されています。

市民後見人・親族後見人等の候補者がいる場合は、その選任の適否を検討し、本人のニーズ・課題に対応できると考えられるときは、その候補者を選任する。親族後見人から相談を受けるしくみが地域で十分に整備されていない場合は、専門職監督人による支援を検討する

3)専門職は報酬目当て? トラブルになる例も

成年後見人等の報酬については、法令上特段の定めはありませんが、例えば、東京家庭裁判所/東京家庭裁判所立川支部は「成年後見人等の報酬額のめやす」(2013年1月)として、

通常の後見事務を行った場合の基本報酬は月額2万円、ただし管理財産額が1000万円超~5000万円の場合は月額3万~4万円、管理財産額が5000万円超の場合は5万~6万円

などと示しています。例えば、所有する財産が1000万円超~5000万円の認知症の高齢者が、市区町村長による申し立てにより、司法書士や弁護士などの専門職の成年後見人等をつけられたとすると、年間36万~48万円を基本報酬として支払うことになります。

司法書士や弁護士などの専門職が成年後見人等に選任された場合、中には、

  • 後見事務に差し障ることを理由に認知症の高齢者を介護施設に入居させて、身近な親族と連絡や面会をさせないようにする
  • 権限があるとはいえ、法定相続人である親族にも黙って、危篤状態となった認知症の高齢者の所有する不動産を売却する

などしてトラブルになるケースもあるようです。最高裁判所の調査によると、2022年には専門職による不正事案として20件、約2億1000万円の被害額が報告されています。

4 もっと詳しく知りたい方へ(参考URL)

1)成年後見制度について

■厚生労働省「成年後見はやわかり」■

https://guardianship.mhlw.go.jp/

■法務省「成年後見制度・成年後見登記制度 Q&A」■

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html

■東京家庭裁判所後見センター「後見サイト」■

https://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/kokensite/

■日本司法支援センター 法テラス「成年後見」■

https://www.houterasu.or.jp/service/kouken/

2)主な相談窓口

■東京家庭裁判所後見センター「成年後見制度についての相談窓口」■

https://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/kokensite/madoguchi/

■日本弁護士連合会「高齢者・障害者に関する法律相談窓口」■

https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice/search/other/guardian.html

■成年後見センター・リーガルサポート■

https://legal-support.or.jp/

以上(2023年9月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:photo-ac

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