書いてあること

  • 主な読者:自著の出版に興味のある中小企業経営者、士業、専門家
  • 課題:書籍の執筆・出版は資金や手間が掛かりそう
  • 解決策:無料ツールなどを使ってプロ顔負けの電子書籍を作れる。執筆・校正・表紙デザインなどを外部サービスに比較的安価で依頼することも可能

1 自著を出版する6つのメリット

「何をきっかけとして創業したのか、どのような苦難があったのか、社員や顧客への思い、商品・サービスの誕生秘話、自身や会社ならではの専門知識」。こうした経営者の思いなどを知りたい人は社内外にたくさんいます。

それらを書籍にまとめ自費出版すれば、社員教育や採用、自身や会社の周知やブランディングに役立てることができます。自著を出版するメリットは主に次の6つです。

  1. 自身や会社の理念、事業内容などを社員や求職者に知ってもらい、社員教育や採用活動に活用できる
  2. 自身や会社の専門知識や経験を顧客や取引先にアピールすることで、その情報を参考にしてビジネスの相談や取引の機会が生まれる可能性がある
  3. 専門知識や特定のノウハウを書けば、その業界やトピックにおける「専門家」「その道のプロ」としての信頼性や評判を上げることができる
  4. 外部の人が口コミやSNSなどを通じて他の人に推薦することがあれば、自身や会社の知名度が広がる可能性がある
  5. テレビや雑誌などのメディアがネタを探す際の事前資料となるため、インタビューや特集記事などに取り上げられやすくなる
  6. 経営者自身が会社の専門知識やビジネス戦略、経験、理念などをまとめることで、自社の強みを再構築することができる

とはいえ、

書籍を出版するのは簡単ではない、ましてや中小企業や一個人には難しい

と考える人は多いでしょう。

確かに出版社に委託して紙の書籍を作ってもらったり、書店に流通させたり、不特定多数に届けるために広告宣伝を打ったりすると、数十万円~数百万円規模の予算が必要。原稿の確認や修正のやり取りにも相当の手間が掛かります。

しかし、

社員や顧客、名刺を配った相手などにPCやスマホで読んでもらう

ことを第一の目的にした場合、

予算や手間を抑えながら一定以上のクオリティの電子書籍を自費出版することが可能

です。

電子書籍なら紙の書籍のように在庫を抱える必要はなく、名刺の裏に自著の表紙画像と書籍のQRコードをプリントして配ったり、メールにURLを添付したりすることができます。また、電子書籍なら価格を0円に設定することができ、多くの人に読んでもらいやすくなります。

この記事では、誰でも手軽に電子書籍を出版する方法を分かりやすく解説します。

2 まずは書籍の中身を決める

1)テーマと内容

まずは肝心のテーマ・内容を決めます。自身の経営人生をただまとめるのではなく、読んだ人が「何かを得られる」内容が書かれているとなお良いでしょう。

創業に至った経緯を書くのであれば、その道程でどんな失敗をし、どう苦難を乗り越えてきたのかという教訓を織り交ぜます。社員への思い、顧客への思いを熱く述べれば、著者や会社への親近感や信頼感の醸成につながります。

地域に根ざした経営をしているのであれば、これまで地域とどう関わってきたのか、どのような貢献をしてきたのかなどを書けば、想定読者である地域住民になじみ深さを感じてもらうことができます。

お世話になった取引先などへ事前に許可を取り、印象的なエピソードなどを紹介すれば取引先との関係を深めることにつながる上、取引先が書籍を紹介してくれることもあるでしょう。

自社の商品・サービスの誕生秘話を紹介するのであれば、誕生に至った苦労だけでなく、開発するに当たってどのような工夫を施したのか、他社商品・サービスとの差異化ポイントなど、商品・サービス開発のヒントとなるような情報も書くといいでしょう。

そうすることによって社員や既存顧客がその商品・サービスへの親近感を抱きやすくなる上、新規顧客からの問い合わせなどのビジネスチャンスにつながる可能性もあります。

2)タイトルは一工夫が必要

社員や顧客などに読んでもらう書籍とはいえ、タイトルが「●●社の創業史」「■■商品の誕生秘話」といったお堅いものでは、読んだ人が何を得られるのかが明確になっておらず、読んでもらいづらくなります。

例えば、「●●社が絶体絶命の危機から回復した5つの方法」「地元で20年愛され続ける3つの習慣」や「■■商品が一日100個売れるようになったのは▲▲をやめたから」など、読んだ人が自分に照らし合わせて有益そうだ、内容が面白そうだと感じるタイトルを付けるのがおすすめです。

書店やAmazonのビジネス・経済のカテゴリーでヒットしている書籍のタイトルなどを参考にするといいでしょう。

3)文字数は少なくてもOK

一般的に紙の新書の場合、一冊当たりの文字数は8万~12万字程度と言われています。しかし電子書籍の場合、文字数の決まりは特にありません。価格も自由に設定できるため、例えば「1万字の書籍を200円で売る」といったことも可能です。

文字数の目安として、例えばビジネスパーソンを対象としたビジネス書籍なら2万字が推奨されています。2万字は、通勤電車や休憩時間に20分~30分前後で読める文量と言われているためです。

宣伝広報を目的として0円で配布する、ということを念頭に置けば、伝えるべき内容が分かりやすく書かれてさえいれば文字数はそれこそ数千字でも構いません。

4)校正・校閲は意外に重要

誤字脱字のチェックは重要です。一般的に書籍に対して人は「しっかりしたもの」という権威性を感じています。些細な漢字のミスや、表記の揺れ、事実誤認などが多いと「チープさ」「手作り感」が出てきてしまいます。

自費出版といえども、読者は書籍に対して一定の権威性を求めているので、校正・校閲は繰り返し行ったほうがいいでしょう。自身で見直したり社員に任せたりするだけでなく、外部の校正のプロに頼るのも一策です。

例えば、ココナラやランサーズといったアウトソーシングサービスでも校正・校閲を手軽に依頼することができます。金額的にもリーズナブルですが、依頼する際はなるべく対応実績の豊富なプロを選ぶと間違いがないでしょう。

■ココナラ■

https://coconala.com/

■ランサーズ■

https://www.lancers.jp/

5)必ずしもあなたが書く必要はない

書籍になるような長い文章を書いたことがないという方も多いでしょう。その場合、経営者自身が無理して書く必要はありません。自著を作る上で最も重要なのは、伝えたい情報を読者に面白く、分かりやすく伝えることです。そのためには、慣れない文章を貴重な時間を使って書くよりも、別の誰かに書いてもらったほうがいい場合があります。

現に経営者や著名人の著書の中には、外部のライターが著者にインタビューをし、その内容をライターがまとめ、最終的に著者がチェックするといった形で出版されているケースも少なくありません。

前述したココナラやランサーズなどでは、こうしたインタビューに特化したライターに数万円~で依頼することも可能です。

3 表紙やタイトルデザインは権威性の象徴

自費出版で見落としがちなのが、表紙とタイトルデザインの豪華さ・ゴージャス感です。ここでいう豪華さ・ゴージャス感とは、一般に流通している書籍のような品格や、プロの手が入っている感じを指します。

自費出版では表紙やタイトルデザインも自前のパワーポイントなどを使って用意することができますが、どうしてもレイアウトや文字のフォントでは先述したような「チープさ」「手作り感」が出てきてしまいます。

表紙やタイトルデザインは書籍の看板であり、著者や会社の権威性や信頼性を想起させるものですので、こだわるべきポイントと言えます。

最近ではCanva(キャンバ)といったウェブ上の無料ツールで、誰でも手軽に表紙をデザインすることが可能です。Canvaで「電子書籍 表紙」などと検索すれば、商業書籍と遜色ない表紙・タイトルデザインの案がいくつも出てきます。自著のイメージに合ったテンプレートを選んだり、自前で用意した画像などを組み合わせたりしてプロ顔負けの表紙を作成することができます。

■Canva■

https://www.canva.com/

また前述したココナラやランサーズでも、数千~数万円で書籍の内容やタイトルに合った表紙を作成してくれるサービスが数多く出品されているので、こちらを利用してもいいでしょう。

4 電子書籍を出版する

書籍の原稿が出来上がったら、いよいよ電子書籍として出版手続きを行います。電子書籍を販売できるストアは数多くありますが、本記事では世界で最も利用者の多い電子書籍ストアであるAmazon Kindleストア(以下「Kindleストア」)において無料で出版する方法を紹介します。

1)原稿をEPUB形式にする

Kindleストアに限らず、多くの電子書籍ストアでは、EPUBというファイル形式で電子書籍が販売されています。そのためWordやPDFにまとめた原稿をEPUB形式に変換する必要があるのですが、これもRomancer(ロマンサー)といったウェブ上の支援ツールを活用すれば手軽に行うことができます。

Romancerは月額660円(税込)でWordやPDFをそのままの見た目・文字サイズでEPUB化したり、Romancer上に直接見出しや本文を入力して読者が自由に文字サイズなどを変更できる形式に変換できたりします。

■Romancer■

https://romancer.voyager.co.jp

2)Kindleストアに登録する

EPUB化した原稿が用意できたら、Kindleストアに登録します。登録方法は下記のKindle Direct Publishing(以下「KDP」)のウェブサイト上でも詳細に説明されていますが、本記事でも簡単に解説します。

■KDPでの出版■

https://kdp.amazon.co.jp/ja_JP/help/topic/GHKDSCW2KQ3K4UU4

KDPで自費出版する手順は次の通りです。

1.アカウントの作成

KDPのウェブサイト(https://kdp.amazon.co.jp)にアクセスし、無料でアカウントを作成します。

2.著者ページの設定

KDPのダッシュボードにログインし、著者ページの設定を行います。著者ページには自己紹介やプロフィール画像、連絡先情報などを設定できます。

3.タイトル情報の入力

書籍の詳細情報を入力します。タイトル、サブタイトル、著者名、言語、カテゴリーなどの情報を提供します。

4.書籍の内容のアップロード

EPUB化した原稿をKDPにアップロードします。

5.表紙画像のアップロード

書籍の表紙画像を設定します。

6.価格を設定する(0円にするにはKDPセレクトの登録設定をオフにしておく)

希望の価格を入力します。ここで著書のロイヤリティを設定することができます。「KDPセレクト」の登録設定をオンにすると希望小売価格の70%を受け取る代わりにKindleストアでの専売となり、さらにKindle Unlimitedという月額読み放題サービスに加入した読者が無料で読める書籍の対象となります(著者には1ページ読まれるごとに報酬が支払われます)。

ただし、

KDPセレクトの登録設定をオンにしてしまうと価格を0円(無料)にすることができない

ため、オフにしておきます。その上で、初期設定では価格を0円にすることはできないため、適当な価格を入れておきます。価格を0円に設定する方法は後述します。

7.出版とプレビュー

必要な情報を入力した後、プレビュー機能を使用して書籍のレイアウトや表示を確認します。問題がなければ、「出版」ボタンをクリックして書籍を出版します。

3)Kindleストアで無料販売する

長期的にKindleストアで無料販売する場合は、「プライスマッチ」という手続きを踏む必要があります。

これはKindleストア上で販売されている書籍と、他の電子書籍ストアで販売されている同一の書籍の価格を合わせるというものです。

そのため、先ほどKDPで出版した電子書籍を、楽天koboといった価格を0円に設定できる電子書籍ストアで登録・販売し、その上でAmazonにプライスマッチを申請する必要があります。

楽天koboで販売するには、AmazonのKDPに当たる楽天koboライティングライフにアカウント登録する必要があります。出版手続きはAmazonと同様に銀行口座や必要情報、EPUB形式の原稿データを登録していくだけです。

楽天koboにおいて0円で出版したら、KDPにログインし、メニューの「ヘルプ」→画面左端の「お問い合わせ」→「価格設定」→「プライスマッチ」の順にクリックしていきます。

すると画面右側に、楽天koboで0円に設定した書籍の販売ページURLや販売価格など、申請時に必要となる内容が表示されるので、それに従って申請メールを書き、「メッセージを送信」をクリックすればプライスマッチの申請は終了です。

なお、2)の6.でも先述しましたが、KDPセレクトに登録しているとプライスマッチの申請が通らないので、

必ずKDPセレクトの登録設定はオフにしておく

ことがポイントです。

なお、ここまで紹介したKindleストアや楽天koboの出版手続きやプライスマッチの申請方法などは、あくまで2023年5月時点の情報です。システムや規約の変更などで手続きや方法が変わる可能性があることにご留意ください。

4)出版申請の手続きを外部に丸投げすることもできる

ココナラやランサーズでは、この出版申請の手続きの代行サービスも出品されています。こちらは表紙やタイトルなどの制作も込みで5万円~というものが多いようです。

サービスによっては、本記事でこれまで解説してきた原稿の執筆(企画・構成)、校正・校閲などもひっくるめて代行してくれるところもありますが、全てを丸投げするとそれなりに費用も掛かります。

また、出版申請の代行は、KDPアカウントや銀行口座の情報などの漏洩リスクがゼロではありません。さらに、丸投げすると書籍の内容を修正・加筆したり、価格を変更したり、出版を取り下げたりする際に勝手が分からず、また代行業者に依頼することになってしまいます。

外部サービスに依頼する際はそうしたリスクを踏まえつつ、あくまで自身が制作をハンドリングするということを念頭に置くようにしましょう。

以上(2023年7月作成)

pj10073
画像:BGStock72-Adobe Stock

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