書いてあること

  • 主な読者:地域商社との取引がある、あるいは取引開始を検討中の経営者
  • 課題:取引すべき地域商社を知るために、どのような地域商社が成功しているのか知りたい
  • 解決策:成功している地域商社の事例を参考に、成功している地域商社の特徴を押さえる。最後に重視すべきは「地元愛」の強さ

1 取引したい、取引すべき地域商社とは?

近年、数を増やしている地域商社。この記事では、地域商社の成功事例を紹介します。成功している地域商社の事例から、自社の発展の強い味方になってくれる地域商社にはどのような特徴があるのかを知るための参考にしてください。

なお、ここ数年の地域商社の動向と分類に関しては以下のコンテンツで紹介していますのでご参照ください。

2 地域の課題解決のためにビジネスの視点からアプローチ

1)地域商社の概要

社名:karch(カーチ、北海道上士幌町)

事業領域:プロデュース、地域内調整(観光事業が中心)

設立母体:上士幌町(50%超出資)、旅行業・観光事業者、ガス会社、新聞社、地域金融機関

2)町内の観光資源のマネタイズが使命

karchは、上士幌町が50%超を出資する第3セクターの地域商社です。大雪山国立公園の麓の十勝平野北端に位置する同町の主な産業は、5000人弱の人口に対して約4万7000頭の牛を飼育する酪農業と、「日本一広い公共牧場」であるナイタイ高原牧場や旧国鉄士幌線コンクリートアーチ橋梁群などの資源を活用した観光業です。

karchは2018年5月、強風で倒壊したナイタイ高原牧場レストハウスの再整備(ナイタイテラス、2019年6月オープン)と、町内への道の駅の開設(道の駅かみしほろ、2020年6月オープン)という、町の2つの大きな構想の運営主体の受け皿として設立されました。社名は、「上士幌の価値(カーチ)を見出す、伝える」ことを目指して名付けられました。現在のkarchの事業統括で、設立時は町役場の商工観光課の職員として設立に関わった石井竜也さんは、「2つの観光施設の運営だけでなく、町内の魅力的な観光資源を観光ビジネスという観点からマネタイズし、地域に経済効果をもたらすために、DMO(観光地域づくり法人)のような株式会社の組織が好ましいということになった」といいます。

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3)コロナ禍の逆風に早期に対応

2つの観光施設は、オープン早々にコロナ禍の影響を受けました。特に道の駅は、コロナ禍によってオープン自体が1カ月遅れるなど、初年度から当初計画を下回っています。逆風下でのスタートでしたが、karchは早期に対策を打つことで、損害を最小限に食い止めました。

売り上げを補うのに最も貢献したのは、ふるさと納税業務でした。2021年度に全体の売上高の2割以上に当たる1億700万円の売り上げを叩き出し、飲食部門のマイナスを補いました。石井さんは、「主力商品の乳製品の知名度が高いこともあり、もともと町のふるさと納税のポータルサイトは、都市部の多くの方に見てもらっていました。そこで、町の担当者からのアドバイスをもらいながら、人気商品のラインアップを増やすなどの変更を行った」といいます。

道の駅については、オープンからこれまでの3年間、常にショップや品ぞろえの見直しを図っています。3つのテナントショップのうち、直営店舗だった1店も委託に切り替え、自社のリスクを軽減しました。その一方で、物販店での自社開発商品のラインアップについては、当初の10種類弱から約40種類へ増やしました。また、レストランのメニューをコース料理からプレートメニューに変更して価格帯を下げるとともに、開店時間を早めて車中泊の観光客向けのモーニングを開始。石井さんは、「コロナ禍で観光客の動向が変わっている。リスクマネジメントは行いつつ、やれることはできるだけ早く手を打っていかないと取り残されてしまう」と話します。

4)地域の課題を解決するための起点になれる商社

karchの強みは、過半を出資する町と連携しながら、地域の課題解決に向けた町全体の合意形成の起点になる「課題解決型の地域商社」であることです。町内で合意形成を図る際には、採算性や費用対効果などの視点に立った地域商社ならではの強みも発揮できるといいます。

その1つが、電力小売り事業への参画です。町の課題の1つに、牛などの家畜のふん尿処理の問題がありました。この課題を解決するため、町役場や地元農協が主体となって処理施設を設置する一方で、処理の際に発生するバイオガスで発電した電力を販売する役割を、karchが請け負うことにしたのです。「一定の要件であれば大手の電力会社より安く提供できている」(石井さん)といい、2019年2月の事業開始から順調に利用者を増やし、今では柱の事業の1つとして安定収益を生み出すようになっています。

また、2021年12月と2023年3月に町内で開催した、約300機のドローンが夜空に絵を描く「ドローンショー」でも、karchは存在感を示しました。1974年に日本で初めて熱気球大会を開催して以来、毎年バルーンフェスティバルを開催している上士幌町は、同じ「空のコンテンツ」であるドローンを、物流、観光、遭難救助などに活用する取り組みに力を入れています。初回は、まだ他地域での開催も少なかった時期でしたが、ドローンショーによる誘客と町内の経済効果や、町のPRで期待される関係人口の増加など、町の活性化につながるメリットを示すことで、開催のための合意形成につながったといいます。実際に、2021年の第1回開催時は9日間で約1万2000人を集め、メディアにも取り上げられるなどの成果につながったそうです。

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石井さんは、「町と当社は運命共同体。町の発展がなければ当社の発展もなく、町が衰退すれば当社の経営も成り立たない。その一方で、当社の経営状態が悪くては町の発展に貢献できない。町の課題解決のために、どのように解決するのか、誰と解決するのかを決め、実行していくことが、町と当社の発展につながる」と話しています。

3 地元の強みを活かして地元産りんごの輸出を拡大

1)地域商社の概要

社名:ファーストインターナショナル(青森県八戸市)

事業領域:流通(海外、農水産物が中心)

設立母体:商工会議所青年部の有志

2)地元産のりんごを世界に!

ファーストインターナショナルは、地元の特産品であるりんごなど、青森県や岩手県北部の農水産品の輸出などを手掛ける、貿易業を中心とした地域商社です。

同社は1994年9月、地元の八戸商工会議所青年部の有志たちが出資して設立しました。設立のきっかけは、1994年に八戸港に国際コンテナ定期航路が開設されたことでした。常務取締役の桜庭雅紀さんは、「当時の商工会議所青年部のメンバーが、地元に商社がなければ地域として国際航路が開設されたメリットにつながりにくいと考え、当社が設立された。八戸港を利用してりんごなどの地元特産品を自分たちの手で海外に届けたいという気持ちもあった」といいます。

設立に際して、海外との貿易に関する知見や実務経験がなかったので、大手商社出身の経験者を招いてノウハウやコネクションを取り入れました。

こうして設立されたファーストインターナショナルですが、知名度も規模もないため、販路の開拓は簡単ではなかったといいます。

3)地元企業のニーズを聞く

こうした状況を打破したのは、地域密着ならではの、「ニーズを聞く力」でした。最初の取引となった玉ねぎの輸入は、地元の青果卸問屋から玉ねぎを輸入したいという相談を受け、独自に輸入ルートを開拓したことで実現しました。

桜庭さんは、「地元の企業と情報交換を頻繁に行うようにしている。地元にいる利点を活かして、企業1社1社に対して、細かい対応をするように心がけている。輸出先からのニーズや要望があれば、それらを正確に伝えるようにしている」といいます。

同社では海外にも社員を派遣し、ニーズを探るようにしています。例えば、主に地元で水揚げされたサバなどの輸出先である中国やベトナムには、社員が毎年訪問し(2020年から2022年はコロナ禍により海外出張が中断)、取引先から何か商品や取引に問題がないか、新しい引き合いがないかなどを聞き、地元の企業に伝えているそうです。

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りんごの輸出の拡大は、台湾へのルートの開拓からでした。「台湾はフルーツの消費大国なので、輸出先として一番のターゲットに考えていた」(桜庭さん)といい、地道にコンタクトを続ける中で、取引先を広げていくことに成功しました。当時、青森県産りんごは関西地方など他県の商社が多く取り扱っていたそうですが、ファーストインターナショナルは「生産地と距離が近い利点を活かし、青森県産りんごの魅力を伝えた」(桜庭さん)ことで、取引先からの信頼を得ていったといいます。今では青森県産りんごの輸出が、ファーストインターナショナルの主力ビジネスになっています。

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4)地元愛の共有が自社の強みに

こうしてファーストインターナショナルは、設立して約30年が経過した現在、海外の取引先が18カ国に広がっています。

桜庭さんは自社の強みについて、「距離的にも、心理的にも地元に近いこと。1社1社にきめ細かい対応ができるだけでなく、地元の企業の方々に、なるべく地元の企業と取引したいという気持ちを持ってもらっていることが強みになっている」と話します。取引先との「地元愛」という思いを共有することが、地域商社の存在を高めているといえそうです。

以上(2023年8月作成)

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画像:ipopba-Adobe Stock

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