書いてあること
- 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
- 課題:最近話題のZ世代(1990年代後半以降生まれで会社においては20代前半くらいまで)だけでなく、それ以前の平成生まれ(30代前半くらいまで)の世代と、現在経営や管理職を担っている昭和世代との世代間ギャップが注目されています。それは価値観の違いやコミュニケーションの違いとして表れ、変化や多様性が求められる昨今、日本企業において深刻な経営の足かせとなりつつあるようです。
- 解決策:まず会社においてZ世代を含む平成生まれと昭和生まれの世代背景を整理しながら、ギャップを埋めるための「価値観の変化」を明らかにします。その上で、筆者が多くの講演や企業研修で紹介してきた『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』を実践的に指南します。
1 なぜ「Z世代」が注目されるのか
「Z世代」という言葉をよく耳にするようになりました。1990年代後半以降生まれで、20代前半から中盤くらいまでを指しています。皆さんの会社の新入社員から20代後半くらいまでの世代です。
ではなぜ彼らが注目されているのでしょうか。理由は3つあると考えます。1つ目は若い消費世代であるということ。一般消費財を扱う多くの会社にとっては「主要購買層の1つ」です。
民放テレビ番組を見ていればわかりますが、ドラマもバラエティーも「Z世代」を意識したものが多く、お年寄り相手の番組はNHK以外ではほんの一握りしかありません。可処分所得も資産においても高齢者のほうが明らかに持っているじゃないかと言いたいところですが、末永い顧客という意味では明らかに若い人に分があります。
実際は若者のテレビ離れは言われて久しく、彼らにテレビを見てもらうために各局は日々頭を悩ませています。人生100年時代がもう少し現実になってくれば、年配者向けの番組も今より増えてくるのかもしれませんが。それでも若い層がもたらす生涯価値(ライフ・タイム・バリュー)は、他の世代への波及効果も含めて甚大と言えるのです。
「Z世代」が注目される2つ目の理由は、会社内において「中心的な働き手」として次代を背負っていく存在だからです。この点を否定する人はいないでしょう。
会社は1年で1歳年を取ります。定年制が延びたとしても、いずれ上の世代は会社を去り、下の世代が主役となって受け継ぐことになります。
つまり、彼らを活かして伸ばせるか否かが、今後の会社の成長力を決定付けると言えるでしょう。
ただここまでは「Z世代」という呼び名を除けば、以前から若手社員に期待されていたことと同じです。
「Z世代」より上の世代の方たちも、かつてはこの2つの意味では注目されてきたはずです。誰もが通ってきた道です。
2 昭和世代と明らかに異なる「Z世代」
さて問題は最後の1つです。それは、彼らが「昭和世代とはかなり異なる価値観を持っている」という点です。時代が移ろえば価値観も移ろうのは世の常ですが、ここ10年ほどで“真逆”と言えるほどに変化しているのです。
その点については第1回でも触れました。おさらいしておきましょう。
30代後半~50代が占める管理職のほとんどは昭和生まれ(1988年まで、大体35歳代後半以上)でしょう。現場を任されている平成生まれ(大体35歳前半まで)、とりわけ20代前半から中盤くらいまでの「Z世代」とは、幼少期から過ごしてきた環境や教育が全くと言っていいほど異なっています。
例えば新入社員が理想とする職場像、上司像はこの10年で大きく変化しています。
昭和世代の上司が育ってきた時の「情熱/引っ張る/厳しい」「活気/鍛え合う/目標の共有」といった価値観は「Z世代」の新入社員にはあまり支持されていません。彼らは「丁寧な指導/褒める/傾聴」「個性の尊重/助け合い」を求めているのです。
3 従来の価値観による指導では、若手社員は育てられない
私は「Z世代」という言葉が出てくる少し前から、変化に気付いていました。ある時、取引先の上司の立場にある方からこんな話を聞きました。
ある日のこと。上司が重要な取引先の社長との打ち合わせに、ベテラン社員を同行させる予定が急遽その社員が行けなくなり、代わりに若手社員を連れて行くことにしたそうです。上司は彼に言いました。「こんなに早くあの社長に会えるなんてラッキーだよ。途中であなたにも話を振るから2~3質問してみなさい。またとないチャンスだよ、よかったね!」と。
すると若手社員は困ったようにこう返しました。「突然そんなことを言わないでください。だったら前日からその会社のことを調べて十分な準備もしたのに。もし失敗したら恥ずかしいし、会社にとっても損失じゃないですか」と。まさかの反応に上司はあっけにとられ、こう告げたそうです。
「チャンスなんて突然来るものだよ。そこで取りに行かない人に二度とチャンスは来ないから!」
上司の言い分はある意味正論です。チャンスは突然訪れることが多いものです。ですが、今の若手社員は褒められて育ち、失敗することに慣れていません。むしろ十分な準備をして備えることを期待されて育っているのです。それを思えば、若手社員の反論も理解できます。
因みに仕事に一生懸命に向き合っていた彼は、前日に言われていれば寝ないでも準備するつもりだったそうです。最後の上司の突き放した言葉は相当ショックだったようで、やる気も上司との信頼関係も失くしてしまいました。
その上司はどのように若手社員を指導すればよかったのでしょう。例えば「あなたの育成のために突然重要な取引先に連れて行って、社長への質問を求めることもあるかもしれないから日頃から準備をしておいてください」「一度私が社長役をやって練習してみましょうか」
そこまでしなければいけないのかと思われるかもしれません。けれども次世代を担う人材に上司たちの時代の価値観を押し付けても育たないのであれば、彼らの価値観である「丁寧な指導/褒める/傾聴」に少しでも寄り添うべきではないでしょうか。
4 なぜ上司が、わざわざ「Z世代」を理解しないといけないのか
会社内において「Z世代」は「中心的な働き手」として次代を背負っていく存在である以上、上司は育成するために彼らが育ってきた時代の価値観を理解する必要があります。
とはいえ50代後半以降の方の中には、「自分はあと数年で定年だし、年長のこちらから寄り添う必要などない。目をつぶってやり過ごせばいい」と考えている方もいるでしょうか。
定年後を「昭和世代」だけで固まって過ごすつもりなら、それで回避できるかもしれません。が、あなたが動けなくなった途端、面倒を主に見てくれるのは「Z世代」以降の人でしょう。
頑固で話の通じない老人として内心嫌われながら最期を遂げるのか。あるいは若い世代の介護士さんや、お孫さんたちに愛されながら穏やかな最後を過ごすのか。
後者でありたいのであれば、やはり若い世代、「Z世代」以降の価値観を理解する必要がありそうです。
5 若い世代、「Z世代」と話せるとシンプルに楽しい
それに、私の体験談から申し上げれば、「Z世代」と話ができると実に楽しいですよ。
私には娘が2人いるのですが、たまたまどちらも「Z世代」です。私は、彼らが「丁寧な指導/褒める/傾聴」「個性の尊重/助け合い」といった、昭和世代の私とはほぼ真逆の価値観の中で育っているのだと、ある時に気が付きました。
以来、個性を認めて伸ばすことを意識し、それぞれの話に真剣に耳を傾けるように心掛けました。親として一方的に説教をするのではなく、多少はらはらしても本人自身が気付くまで我慢して待つ。失敗は本人が一番分かっているので責めたりせず、前向きな言葉を掛け、できるだけ褒めて接してきたつもりです。
結果として2人とも、私とは全く異なる、それぞれが見つけた好きな世界を仕事に選び、社会に出て独立しています。自分が知らない世界にいるからということもありますが、彼らの話を聞いているだけで楽しいし、とても刺激的です。
娘にとって父親は、母親に比べれば思春期以降は遠く疎ましい存在でしょう。けれど私に話せば頭ごなしに否定することも説教することもなく、最後まで話を聞いてくれると分かっているからでしょう。「話したいことがあったらいつでも聞くよ」と言って後は放任していますが、よく日頃の職場の悩みを打ち明けてきます。「聴いて」「教えて」「どう思う」「相談に乗って」と。
もちろん母親に相談することと、父親の自分に相談することは異なるでしょう。でも、そういうものだし、本人がよければそれでいいのです。職場でも同じ。
信頼できる上司がいたとしても、上司に相談したいことと個々の先輩に相談したいことは違います。それでいいのです。そのために先輩たちもいるのですから。
先輩が解決できるなら、わざわざ上司が出しゃばる必要はありません。必要と思えば先輩が本人の許可を得て上司に報告してくれるでしょう。上司は先輩が担ってくれたその分の時間を、上司にしかできない他の業務に向ければいいのです。
若手社員とまだ十分な関係が築けていないという方は、彼らの話をひたすら聞いてあげる「傾聴」から始めてみてください。社会人としての経験の差はあっても、生きてきた世界や趣味、日頃の生活を含めれば一人ひとりが自分とは異なる世界を持っています。そのことを認めて話を聞いてみるだけでも楽しいものですよ。
「Z世代」をはじめとする若い世代は、昭和世代と違い、小さい頃から携帯電話やパソコンといったデジタルに触れ、分厚いトリセツ(取扱説明書)などなくても触っているうちに使いこなせる世代です。SDGsやESG、DEIといった価値観もすんなりと受け入れており、あなたと「世界とのギャップ」も埋めてくれます。
彼らはデジタルネイティブとして、世界の価値観を先んじて吸収する存在として、上司の仕事を助け、チームに刺激をもたらしてくれることでしょう。
上司の皆さんは、彼らの価値観に寄り添って話しかけていったほうが、仕事の上でも人生の上でも、豊かに暮らせそうです。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回からは、具体的な『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』についてお話ししていきたいと思います。
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以上(2023年8月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
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