書いてあること
- 主な読者:社員が休職中で、かつ復職が難しい場合の対応を知りたい経営者
- 課題:社員に退職の話をするのはつらいが、曖昧な対応でトラブルが起きるのも困る
- 解決策:「社員の健康」を第一に考えつつ本人の心情にも寄り添う。「休職期間満了通知書(兼合意書)」で認識を合わせる
1 休職中の社員がそのまま退職するケースは珍しくない
「休職(私傷病休職)」とは、社員が私傷病(仕事以外の理由によるケガや病気)で働けない場合、労働契約を維持したまま、労働の義務を一定期間免除する制度です。
就業規則で定めた休職期間が満了するまでに、
- 社員が働ける状態まで回復したら、復職(元の業務か、もっと軽い業務に復帰させる)
- 回復しなければ、退職(休職期間の満了とともに、労働契約が自動的に終了する)
となるのが一般的です(なお、休職期間の満了による退職は、通常「自然退職」と呼ばれます)。理想は社員が復職することですが、うつ病などの場合、状況によって治療にかかる時間に幅があり、症状が回復せず退職に至るケースも珍しくありません。
経営者や労務担当者にとって、苦しい状況にある社員に退職の話を切り出すのは、とてもつらいことです。かといって、曖昧な対応をすると、休職期間が満了して退職となったときに、社員が「そんな話は聞いていない!」と言い出してトラブルになる恐れがあります。
この記事では、休職中に社員の症状が回復せず、いよいよ退職を考えざるを得なくなった場合の対応のポイントとして、次の2つを紹介します。
- 「社員の健康」を第一に考えつつ本人の心情にも寄り添う
- 「休職期間満了通知書(兼合意書)」で認識を合わせる
2 「社員の健康」を第一に考えつつ本人の心情にも寄り添う
1)復職させることが、必ずしも社員のためになるとは限らない
休職は法律で定められた制度ではなく、会社がそれぞれの就業規則に基づいて運用しますが、
- 社員が休職要件(一定日数の欠勤など)に該当したら、休職命令を出す(休職開始)
- 休職期間の満了が近づいてきたら、復職の可否を判断し、社員に伝える
- 休職期間の満了とともに(またはその前に)、社員が復職または退職する(休職終了)
という流れは、基本的にどの会社でも同じです。
社員が退職するケースにおいて、2.は経営者や労務担当者にとって特につらいものです。苦しい状況にある社員に退職の話は切り出しにくいですし、経営者や労務担当者にも「社員が復職を望んでいるなら、できる限りその気持ちに応えたい」という思いがあります。
ですが、うつ病などのように完治の判断が難しい病気の場合、
復職を急ぎすぎたせいで、回復しつつあった症状が再び悪化してしまうケース
は珍しくなく、その場合、社員は余計に苦しむことになります。ですから、復職の可否は
会社が第一に守るべきは「社員の健康」である
ということを念頭に置いて、努めて冷静に判断しなければなりません。
2)休職中、社員とじっくり話す機会を設けることが大切
社員の健康を第一に考えると言っても、会社側の主観で「復職できない」と決めつけるのはNGです。社員の体調や治療の状況など必要な情報を集めた上で判断しなければなりません。
また、仮に「復職できない」という判断が妥当だとしても、突然退職を切り出されたら社員は動揺しますし、場合によっては会社に反発してきます。ただでさえ、私傷病でつらい状況にあるわけですから、コミュニケーションには配慮が必要です。
復職の可否を判断するのに必要な情報を集めつつ、社員の心情に寄り添うには、休職中、社員とじっくり話す機会を設けることが大切です。具体的には、
休職開始からある程度時間がたったタイミングで、電話やオンラインでの面談を実施
します。時間とともに社員の状況が変化する可能性があるので、社員の体調にもよりますが、できれば「休職開始から1カ月ごと」など目安を決めて、複数回実施するのが望ましいです。
面談の主な目的は、
- 復職の可否を判断するのに必要な情報を集める
- 不安を感じたり自分を責めたりしてしまう社員の心情に寄り添う
- 休職について、会社と社員との間で認識のギャップがないかを確認する
の3つです。これらの目的を意識し、会社から社員に聞くこと、会社から社員に伝えることを事前に整理した上で面談に臨みましょう。具体例は次の通りです。
面談の際は、社員の体調に配慮してあらかじめ時間を区切り、時間内に聞けなかったことは、次の機会にヒアリングします。また、うつ病などの場合、社員の話すスピードや会社側が言ったことに対するリアクションが遅くなる場合がありますが、そこは社員のペースに合わせるようにします。なお、面談時の社員の様子も、復職の可否を判断する大切な要素のひとつです。
3)復職の可否は明確に伝える。ただし、社員への感謝も忘れない
休職中の面談で社員の状況を把握したら、休職期間の満了前に社員から主治医の診断書を提出してもらい、復職の可否を判断します。ただし、社員の主治医が仕事内容を詳しく把握していないケースもあるため、場合によっては会社指定の医療機関などに協力を仰ぎます(このあたりは就業規則で明確に定めておく必要があります)。
復職の可否について判断したら、電話やオンラインで結果を社員に通知します。復職できると判断した場合、それを社員に伝えた上で、職場に復帰する時期や復職後の業務、勤務形態などについてすり合わせをしていきます。一方、復職できないと判断した場合、どのように社員に伝えるかが悩ましいですが、曖昧な言い方をするとかえってトラブルになる恐れがあるので、
- 社員が復職可能な状態まで回復したとは認められないと判断したこと
- 社員が休職期間の満了とともに退職となること
などを明確に伝えるようにします。
社員によっては会社を辞めたくなくて「私はもう大丈夫です、働けます」と食い下がってくる人もいますが、主治医の診断書なども踏まえた上での判断ですから、
「復職を急いで症状を悪化させたくない、あなたの健康を第一に考えた結果だ」
などと伝え、会社の決定を安易に曲げることはしないようにします。
逆に、退職を受け入れつつ「会社に迷惑ばかりかけてしまい、申し訳ありません」と謝罪してくる人もいますが、社員に落ち度はありませんし、会社にとっても不本意な退職ですから、
「在職中、社員がいてくれてどれだけ助かったか」など、社員への感謝
を精一杯伝え、誠実な態度を示して社員と別れるようにします。
3 「休職期間満了通知書(兼合意書)」で認識を合わせる
1)書面を交わしておくと、「言った」「言わない」のトラブルが起きにくい
社員と慎重に対話すれば、休職に関するトラブルをある程度防ぐことができますが、口頭でのやり取りだけでは、お互いに誤解が生じたり、重要なことを聞き漏らしたりするリスクがあります。よりトラブル防止に重きを置いた対応をするのであれば、
会社と社員との間で「休職期間満了通知書(兼合意書)」を交わすこと
をお勧めします。
休職期間満了通知書(兼合意書)とは、休職期間が満了する前に、社員に対して
- 社員が復職可能な状態まで回復したとは認められないと判断したこと
- 社員が休職期間の満了とともに退職となること
などを通知する書面です。復職の可否については前述したように口頭でも社員に通知しますが、併せて書面も交わすことで、「言った」「言わない」のトラブルが起きにくくなります。
また、社員が雇用保険の被保険者の場合、休職期間の満了により退職した際に、その旨を所轄ハローワークに届け出る必要がありますが、この際、退職理由を証明する添付書類として休職期間満了通知書(兼合意書)を活用できます。
2)退職について社員が合意する署名欄を設けておくと安心
休職期間満了通知書の書式は任意ですが、次のように退職について社員が合意する署名欄を設けておくと、トラブル防止に役立ちます。なお、ここでは割愛していますが、実際は「就業規則の休職に関する条文」「休職期間の計算方法」などを別紙として添付するのが望ましいです。
〇年〇月〇日
休職期間満了通知書 兼 合意書
〇〇〇〇 様
株式会社〇〇〇〇
代表取締役 〇〇〇〇 印
記
あなたは、病気療養のため、当社就業規則第〇条の規定により、〇年〇月〇日より休職されていますが、〇年〇月〇日をもって本休職期間が満了となります。
当社は、電話および面談(オンライン)でのあなたの様子、医師の診断書などを基に、慎重に復職の可否を検討して参りましたが、最終的に、復職可能な状態まで回復したと認めることはできないと判断しました。
つきましては、当社就業規則第◯条の規定により、あなたは本休職期間が満了する〇年〇月〇日をもって退職となりますので、本書をもって通知します。
あなたの一日も早いご回復を心よりお祈り申し上げます。
以上
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株式会社〇〇〇〇
代表取締役 〇〇〇〇 殿
上記の内容について承知しました。〇年〇月〇日をもって退職となることに合意します。
〇年〇月〇日
氏名 〇〇〇〇 印
4 その他、休職期間の満了に当たって押さえるべきこと
1)傷病手当金や基本手当の手続きは迅速に行う
社員が休職期間の満了とともに退職する場合、私傷病の状況によっては、退職後もしばらく働けない可能性があります。仮に社員が健康保険や雇用保険の給付の受給資格を持っているのであれば、支給が滞らないよう、給付に関する会社側の手続きを迅速に行うことが大切です。
例えば、退職時に健康保険の被保険者だった社員が一定の要件を満たす場合、
退職後も健康保険から傷病手当金が支給
されます。支給額はおおむね在職中の賃金の3分の2で、支給期間は同じ傷病について最初に傷病手当金を受けた日から通算1年6カ月間です。会社は所定の申請書について、勤務状況や賃金の支払い状況などの証明をし、その他必要な事項(振込先や療養担当者の意見)を社員やその主治医に記入してもらった上で、保険者(全国健康保険協会など)に送付する必要があります。
また、退職時に雇用保険の被保険者だった社員が一定の要件を満たす場合、
退職後、就職活動をしている間、雇用保険から基本手当が支給
されます。支給額はおおむね在職中の賃金の45~80%で、支給期間は退職日の翌日から原則1年間です(正確には、そのうち失業中で就職活動をしている期間)。ただし、私傷病などですぐに働けない場合、最大3年間の延長が可能です。会社は所定の離職証明書を、所轄ハローワークに提出して離職票の交付を受け、社員に送付する必要があります。
2)場合によってはフリーランスとして働いてもらうことを検討する
ここまで、社員に配慮しつつトラブルなく別れることを前提に話をしてきましたが、経営者や労務担当者の中には「このまま別れるのはつらい、何とか一緒に働く道を残したい」と考える人もいるはずです。こうした場合、社員が退職した後に、
業務委託契約を結んでフリーランスとして働いてもらう
という手があります。もちろん、症状が回復してからという前提ですが、決められた就業時間の中で働く社員と違い、フリーランスは自分で働く時間をコントロールできますし、会社も必要なときだけ仕事を依頼できるので、お互いに無理をせず仕事ができる可能性があります。
一方、自由な働き方である分、自分で自分を管理できない人はフリーランスに向きません。
- 会社から逐一指示を受けなくても、自分で仕事の筋道を立てられるか?
- 仕事のスケジュールやお金の管理などにルーズでないか?
- 発破をかけられなくても、自分で努力し、成長していく意欲があるか?
などを検討した上で、フリーランスとしての働き方を打診するかを決めましょう。
ただし、社員の症状が回復していない状況でいきなりフリーランスの話を持ちかけると、かえってプレッシャーを与えてしまう恐れがあります。まずは退職後の連絡方法だけ確保しておき、退職からある程度時間がたってから連絡を取るなどの配慮が必要です。
以上(2024年4月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)
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