書いてあること

  • 主な読者:既存事業の販路拡大や新規事業の開発を考えている経営者
  • 課題:トレーラーハウスで事業展開できるかを知りたい
  • 解決策:事業プランの作成と設置場所の確保をしつつ、製造・販売会社に相談。車両とみなされるように適法な設置をする

1 コツを押さえてトレーラーハウスで新事業に挑戦!

トレーラーハウスとは、

タイヤの付いたシャーシ(車台)の上に居住空間(上物)が乗っている工作物で、車でけん引して移動するもの

です。サイズや重量が道路運送車両の保安基準に適合する場合は、車両(被けん引自動車)として道路を走行できます。車両扱いとなれば、

  • 固定資産税の課税対象にならない
  • 建築確認の申請が必要ない
  • 市街化調整区域など建築に規制のかかる土地にも設置できる

などのメリットがあります。土地さえ確保できれば、建築物を建てるよりも安く早く店舗を開設でき、販路拡大や新規事業に挑戦しやすくなる可能性があります。実際、トレーラーハウスを活用したビジネスは広がっていて、近年特に注目されているのが、グランピングやホテルなどの宿泊施設や飲食店としての活用、市街化調整区域での事務所設置などです。

ただ、トレーラーハウスは、設置方法によっては車両ではなく、建築物として扱われる場合もあります。実際には適法ではない設置がされた使用例も少なくないようです。

せっかくの新事業が法的な問題でつまずいてしまうのは、もったいないことです。トラブルを最小限に抑えるため、この記事では、

  • トレーラーハウスを設置する際の法的な注意点
  • トレーラーハウスの店舗を開業するまでのステップ
  • トレーラーハウスの事業例

について紹介します。

2 トレーラーハウスを設置する際の法的な注意点

トレーラーハウスは、日本建築行政会議(JCBA)により「車両を利用した工作物」とされ、設置方法によっては、建築物とみなされることがあるので、注意が必要です。

なお、日本建築行政会議とは、建築基準法に関わる特定行政庁と指定確認検査機関を会員として設立された行政会議で、建築基準法の解釈や審査・検査の統一化などを図っています。

1)建築基準法上、建築物とされないトレーラーハウスとは

トレーラーハウスが建築物とみなされないためには、次の3つの条件を満たす必要があるとされています。

  1. 随時かつ任意に移動できる状態で設置すること
  2. ライフラインとの接続が工具を使用しない着脱方式であること
  3. 適法に公道を走れること

この条件は、1997年に建設省(現国土交通省)の通達により、バスやトレーラーハウスなどを建築基準法第2条第1号で規定する建築物として取り扱うとされ、それを逆説的に解釈したものとなっています。

建築物として取り扱う場合は、次のいずれかに該当するものとなります。

  • トレーラーハウス等が随時かつ任意に移動することに支障のある階段、ポーチ、ベランダ、柵等があるもの
  • 給排水、ガス、電気、電話、冷暖房等のための設備配線や配管等をトレーラーハウス等に接続する方式が、簡易な着脱式(工具を要さずに取り外すことが可能な方式)でないもの
  • 規模(床面積、高さ、階段等)、形態、設置状況から、随時かつ任意に移動できるとは認められないもの

なお、

  • 事前に建築確認申請を行わず、車両とされる条件も守っていない場合
  • 使用中に「随時かつ任意に移動できない」設置になった場合

は、その時点で違法建築物となります。違法建築となった場合、建築物の改築、移転、除却などの命令を受け、是正しない場合は、懲役や罰金の罰則が科されることもあります。

2)「道路運送車両の保安基準」上のトレーラーハウスとは

トレーラーハウスは、

住居、店舗、事務営業所、公共施設等として使用するための施設・工作物を有する被けん引自動車であって、その大きさが「道路運送車両の保安基準」第2条の制限(長さ12メートル、幅2.5メートル、高さ3.8メートル)を超えているもの

です。保安基準を超えた大型のトレーラーハウスは、設置予定地の運輸局に基準緩和の認定を申請し、管轄する国道事務所などで特殊車両通行許可を取得することで公道を走行できるようになります。

なお、保安基準第2条の制限以内のトレーラーハウスは、車検を取得する必要があります。

3)都市計画法上、トレーラーハウスが設置できる場所とは

都市計画法上、市街化調整区域では建築や特定工作物の建設が規制されますが、トレーラーハウスは建築物に当たらないため、設置基準を満たしていれば設置できる可能性があります。

ただし、自治体によってはトレーラーハウスであっても設置が禁止されている地域があります。また農地の場合、管轄する農業委員会への確認が必要となります。

3 トレーラーハウスの店舗を開業するまでのステップ 

トレーラーハウスの価格帯は、土地代を別にして、本体の製作費、運搬費、設置諸費用、自動車税等、トレーラーハウスの法的基準の整備や普及を図っている日本トレーラーハウス協会(以下「協会」)への申請費などを合計し、600万円から1000万円ほどになるようです。特に本体は安いものであれば、1台200万円前後で購入できるものもあるそうです。

■日本トレーラーハウス協会■

http://www.trailerhouse.or.jp/

1)設置したい場所を確保し、内装などイメージを固める

トレーラーハウスを使ったビジネスをする際は、まず設置する土地の確保が必要です。例えば、大自然を満喫するグランピングルームをつくりたいと思っても、確保した場所までトレーラーハウスを運搬できないとなると本末転倒です。トレーラーハウスを使ったビジネスコンセプトにふさわしい場所を探しましょう。

2)事業内容が決まったら許認可や申請先などを確認する

土地が決まったら内装などのイメージを固め、許認可や申請の必要な事業であれば、その確認も必要です。例えば飲食店や宿泊施設であれば、食品衛生管理者資格や旅館業の営業許可の取得、所轄の保健所と消防署への申請が必要になります。

なお、車両であるトレーラーハウスは消防法の適用外ですが、トレーラーハウスでの宿泊施設が増加していることから、一部の自治体では消防法が適用されるケースも出てきているそうです。そのため協会では、用途によっての防火基準を定めています。また、製造・販売メーカーは国土交通大臣が認定した防火材料で製作し、無線式警報装置を設置するなどの対応も行っているようです。

また、協会では許認可が必要となる運送・飲食・宿泊などの事業は、は「車検付トレーラーハウス」に限定します。

3)製造・販売会社に相談する

設置はトレーラーハウスの製造・販売を行っている会社に相談するとよいでしょう。協会では、加盟会社をウェブサイトで公開しているので、設置場所に近い地域の会社を探すことができます。トレーラーハウスは製作場所から設置場所まで運搬しなければいけないため、両者が近いほうが運搬コストを抑えることができます。

4)購入か、リースかを決める

購入は新品の場合は納品までに1、2カ月ほどかかるそうですが、中古の場合はもっと早くなるそうです。

また、イベント出店などの一定期間のみの設置でリース利用をしたい場合は、リースを行っている製造・販売会社か確かめてから連絡しましょう。

5)日本トレーラーハウス協会の調査を受ける

相談を受けた製造・販売会社は協会にトレーラーハウスを設置する際に形状や設置場所などに問題がないかを確認します。

6)設置場所まで運搬・設置してもらう

トレーラーハウスは製作現場から設置場所まで運搬され、到着すると設置作業に入ります。設置場所にもよりますが、設置は数時間から半日程度で終わるそうです。設置後、不備がないか協会の設置検査(図表参照)を経て、受け渡しとなります。

なお、協会は設置検査報告とともに、適法に移動できることを証明する公的な書類(車検証または基準緩和認定書と特殊車両通行許可症証)をトレーラーハウス内に常備しておくことを勧めています。

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7)撤去・移動の際には

トレーラーハウスは給排水、ガス、電気、電話などの配線や配管が工具を使わずに着脱可能であることが前提のため、別の場所への移動も容易です。運搬に関しては発注した製造・販売会社に相談するといいでしょう。

4 トレーラーハウスの事業例

実際に中小企業がトレーラーハウスを活用して事業を行っている例を紹介します。

1)宿泊施設

1.グランピング施設:Tiny Cabin TATEGU 軽井沢御代田

建具屋の花咲(東京都板橋区)は、「アウトドアが体験できるトレーラーハウス」というキャッチフレーズでグランピング施設を軽井沢で開業しています。2区画の森の中に1台ずつ設置して、木の素材を活かしたデザインにするなどし、非日常感を演出しているそうです。2区画は、屋外BBQエリア、薪サウナなどが設置されている区画と、ドッグラン、電気サウナなどが設置されている区画とになっているそうです。

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2.トレーラーホテル:Trail inn

トレーラーハウスの製造・販売や宿泊施設を運営するヒーローライフカンパニー(東京都港区)は、自社工場で製作した木質ユニットを活用したトレーラーハウスを使い国内9カ所のトレーラーホテルを運営しています。1台を1室として独立して、セルフチェックインで入室できるようです。

2)飲食店

1.バー:BAR GREEN ATSUMA

BAR GREEN-厚真-(北海道勇払郡厚真町)は、トレーラーハウスのバーとして同町で運営しています。かつてバーテンダーだった職歴を活かしてトレーラーハウスのバーを開業したといいます。店内にはDJブースもあり、CDやレコードを持ち込むことができるそうです。

2.カフェ・ステーキ:隠れの宮 あさごろも

隠れの宮 あさごろも(愛知県蒲郡市)は、トレーラーハウスのステーキ店として同市で運営しています。三河湾を眺めながらゆっくりブランチを楽しむ」をコンセプトにした店で、狭くてもメニューを充実させた店をつくりたく、トレーラーハウスなら自由に設計できると思って開業したそうです。

3)事務所

運送会社「阪神ロジテム」(兵庫県西宮市)は、事務所と乗務員の休憩施設を併設する岡山営業所(岡山県倉敷市)を、2台のトレーラーハウスにしています。一般的に、トラックなどの車両保管場所は建物を建てられない市街化調整区域であることが多く、従来の岡山営業所は車庫と営業所が約2キロメートル離れていました。そのため、飲酒チェックや車両の様子を報告する「乗務前点呼」を行う際、ドライバーは駐車場に出勤しトラックを点検した後に、点呼のためにマイカーで営業所まで移動し、再び駐車場へと戻る必要があったそうです。

車庫と同じ敷地内に営業所を設置することで、ドライバーの負担が大幅に軽減され、経費削減にもつながったといいます。

4)トレーラーハウス製造・販売

トレーラーハウス事業への進出が増えているのが住宅メーカーだといいます。住宅メーカーは自社の建築や販売のノウハウを活用できるので、新事業として参入しやすいそうです。住宅メーカーがトレーラーハウス事業に参入した例を紹介します。

1.住宅メーカーのノウハウを活かし製造・販売

住宅メーカーのアースデイ・システム(広島県福山市)は、一般住宅並みの構造や建材を採用して耐震性、快適性を持たせたトレーラーハウス「DASH‐BASE」を製造・販売しています。店舗・オフィス用と風呂など水回り設備付きの住宅用を用意。別荘や庭に置ける趣味の部屋を持ちたい個人や初期投資を抑えて店舗を構えたい飲食店、理美容院などの需要を取り込む狙いだそうです。

2.トレーラーハウス製造・販売企業と代理店契約を結ぶ

狭小地の住宅建築が得意分野で、デザイナーズ戸建賃貸住宅の設計施工を手がけるエーテル(岐阜県多治見市)は、トレーラーハウス製造・販売のカンバーランド・ジャパン(長野県長野市)と代理店契約を締結し、トレーラーハウスの専門展示場を開設しました。住居タイプを1台、店舗タイプ1台、床暖房完備の寒冷地仕様1台の3台の屋上付きトレーラーハウスを展示しています。また、法人利用についてはリースやレンタルにも対応する他、不要になった場合の売却もサポートするそうです。

以上(2023年10月作成)

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画像:losmostachos-Adobe Stock

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