書いてあること
- 主な読者:官公庁や地方自治体、外郭団体などが公告している入札案件に興味がある経営者
- 課題:そもそも入札のルールがよく分かっていない、大手企業との競争に勝てるか不安
- 解決策:「入札参加資格」を取得すれば、どの企業も入札に参加できるが、細かいルールは発注機関により異なる。「競争率の低い案件を探す」などのポイントを押さえる
1 案件の50%超を中小企業が落札! 入札市場とは
「新規顧客の開拓が難しい」「安定的な収益が欲しい」――今、その解決策として注目されているのが「入札」市場への参入です。入札とは、
官公庁や地方自治体、外郭団体など(以下「官公庁など」)が公開した案件について、各企業が見積金額や企画を提示し、一番条件の良い企業に官公庁などが案件を発注すること
です。
全国約8000の行政・公的機関から年間180万件以上の案件が公表され、その総額は25兆円以上、1案件当たり1000万円以上にもなる大きな市場です。「入札なんて出来レース」「受注するのは大手だけ」と思っている人もいるかもしれませんが、実は
2021年度の時点で、入札案件の50.1%を落札しているのは中小企業
で、中には個人事業主でも参加できる案件もあるなど、広く開かれた市場でもあります(中小企業庁「官公需法に基づく『令和5年度中小企業者に関する国等の契約の基本方針』について」)。
入札は「入札参加資格」という資格さえ取得すれば、実績のない企業などでも参加できます。つまり、
入札の流れを理解し、「競争率の低い案件を探す」など勝つためのポイントを押さえる
ようにすれば、御社にもチャンスがあるかもしれません。
この記事では、「中小企業が入札市場に参入すべき理由」「入札の基本的な流れ」「入札で勝つためのポイント」を紹介します。
2 なぜ、中小企業こそ入札市場に参入すべきなのか?
1)国が精力的に後押ししている
国は今、「中小企業向けの入札案件を増やす」という方針を定め、精力的に中小企業の参入を後押ししています。企業規模や入札経験にかかわらない公平な制度で競争できる環境整備が進められており、入札実績のない企業にもチャンスが広がってきているのです。
中小企業庁「中小企業者に関する国等の契約の基本方針」では、案件全体に対する中小企業・小規模事業者の契約比率、金額を年々引き上げており、直近では次のようになっています。
- 2021年度実績:50.1%、4兆6535億円
- 2022年度目標:61%、5兆2738億円
- 2023年度目標:61%、5兆6598億円
2)手間がかからず、手続きがスムーズに進む
入札は、公開された案件に企業が応募するスタイルなので、通常のビジネスのように、見込み客を獲得したり、商談のアポイントを取ったりする手間がかかりません。
また、公告された案件は、オンラインで入札に参加できる「電子入札システム」などで簡単に検索できますし、入札の締切、開札(企業が入札した内容の確認)の日時なども案件ごとに決まっているので、手続きがスムーズに進みます。
3)与信上のリスクが低く、案件次第では短期間での収益化も期待できる
入札は、官公庁などの公的機関が発注者なので、通常のビジネスでありがちな支払い遅延・滞納などのリスクがほとんどありません。契約後の値引き交渉なども基本的にないですし、落札(受注)後も仕様書に基づき作業を行うので、後から追加作業が発生するリスクも比較的低いといえます。
落札・作業完了後の入金についても、時期が明確になっているので安心です。また、例えば、物品調達などの単発的な入札案件の中には、取引代金の締め日から支払日までの期間が「物品検査後30日程度」などと短く設定されているものもあり、短期間での収益化が期待できます。
4)官公庁などとの取引実績がブランディングにつながる
入札の大きな魅力は、官公庁などとの取引実績を獲得できることです。仮に大規模なプロジェクトの案件を落札できれば、企業の信頼度は増し、ブランディングにもつながります。案件を落札すると金融機関からの信用を得られるケースもあるようです。
3 入札の基本的な流れを理解する
入札に参加するメリットが分かったら、次は基本的な流れを押さえましょう。主なプロセスは「1.入札参加資格を取得する」「2.案件を探す」「3.仕様書を確認し、入札する」です。
1)入札参加資格を取得する
入札に参加するためには、発注機関(官公庁など)や事業内容によって異なる「入札参加資格」を取得する必要があります。入札参加資格は、大きく次の4つに分けられます。
- 全省庁統一資格(全省庁の「物品・役務系案件」に参加できる資格、全国共通)
- 地方自治体の「物品・役務案件」に参加できる資格(原則、地方自治体ごとに異なる)
- 「建築・建設・土木系案件」に参加できる資格(官公庁や地方自治体ごとに異なる)
- 外郭団体(独立行政法人など)の案件に参加できる資格(団体ごとに異なる)
この4つの資格は、さらにいくつかのランクに分かれます。例えば、全省庁統一資格は、資格取得申請の際に提出する財務諸表などをベースに、売り上げや資本金、営業年数などの合計ポイントからA~Dの4つのランクに分かれます。
自社が参加したい入札の案件によって必要な入札参加資格は異なるので、不安な場合は、参加可能な案件数が多い1.の全省庁統一資格を最初に取得するとよいでしょう。
資格取得の細かいルールも発注機関などによって異なりますが、基本的に試験などはなく、必要書類を提出し、審査を通れば資格を取得するという流れになります。ただし、資格によっては取得期間が限定されている場合もあるため注意が必要です。
例えば、全省庁統一資格は随時取得が可能ですが、地方自治体の資格は取得期間が短い傾向があります。また、地方自治体は「〇〇県内・〇〇市内の業者限定」などと、参加条件を限定しているケースもあるので、資格要件の内容はしっかり確認しておきましょう。
2)案件を探す
前述した通り、入札の案件は全国約8000の行政・公的機関から、年間180万件以上公表されています。その中から自社に合ったものや、狙い目の案件を探していくことになります。
なお、入札というと建設工事のイメージが強いかもしれませんが、実は「物品・役務の提供」に関するものが数多くあります(例:衣服、紙製品、図書、車両、電子機器、清掃、管理、派遣など)。
入札情報は公開される時期やサイト、仕様書なども発注機関によって異なりますが、例えば、民間の入札情報サービス「NJSS(エヌジェス)」を活用すると、全国の入札情報と入札結果を一括で検索できます。なお、NJSSでは、自社の業種や業務内容、所在地などから適した入札案件があるか、そもそも入札に向いているかどうかを無料で診断するサービスも展開しています。
■NJSS■
3)仕様書を確認し、入札する
入札したい案件を決めたら、その仕様書を取得します。仕様書には、入札方式や参加資格要件、見積もりを出すために必要な情報などが掲載されています。基本的にはネット上で取得が可能ですが、案件によっては、説明会への参加が必要なケースもあるので注意が必要です。
仕様書をもとに、見積もりや企画書などを作成し、入札に臨みます。入札方法は「電子入札」「会場での入札」「郵便入札」があり、近年は「電子入札」を利用する企業が増えています。
見事落札した場合、その結果は、発注機関のウェブサイトに掲載されます。その際は同時に入札に参加した企業の入札金額も公表されるので、相場感や競合他社の動向を把握するのにも役立ちます。晴れて自社が落札できたら、発注機関との契約に進みます。
4 入札で勝つためのポイントを押さえる
1)競争率の低い案件を探そう
落札の可能性を高めるには、いかに競合他社が少ない案件を見つけるかが重要です。
例えば、第3章の入札参加資格の項では、全省庁統一資格よりも地方自治体の資格のほうが取得のハードルが高い場合があるとお伝えしましたが、これは逆に考えると、
地方自治体の「物品・役務案件」のほうが、競争率は低くなりやすい
ということでもあります。また、東京などの主要都市の入札案件は多くの企業がターゲットにしやすいため、その点でも地方自治体のほうが狙い目といえます。
なお、地方自治体よりさらに競争率が低くなる可能性があるのが、外郭団体です。
- 特殊法人・会社(日本年金機構、日本たばこ産業株式会社など)
- 財団法人(全日本交通安全協会、日本生産性本部など)
- 独立行政法人(日本貿易振興機構、国際協力機構など)
- 国立大学法人(東京大学、一橋大学など)
- 都道府県や市区町村の外郭団体(〇〇県スポーツ協会、〇〇市信用保証協会など)
などが該当しますが、これらの外郭団体の中には、
省庁が所管する法人の他、都道府県や市区町村の出資によって運営されているものなど一般に知名度の高くない機関もあり、そうした案件は比較的狙い目
です。
また、官公庁の案件の場合、データのやり取りについてセキュリティの観点からチャットツールやクラウドツールを活用していないケースがあります。一方で、外郭団体は民間企業に感覚が近く、最新のツールを導入している場合が多いため、民間企業を相手にしているような感覚でスムーズにやり取りを進めることができます。
こうした狙い目の外郭団体をリスト化し、常に案件情報などにアンテナを張っておくことが重要です。
2)案件ごとの相場感をつかむ
入札案件の中で多くを占める一般競争入札方式の場合、納品物の品質保証を前提としつつ、見積価格での競争になることが少なくありません。このとき重要になってくるのが、案件ごとの相場感をつかむことです。
前述したNJSSなどの入札情報サービスでは、案件の過去の落札金額を検索できます。
過去の落札金額が分かれば、今年度についてもある程度予想がつき、それより少し低い見積金額を提示すれば、落札できる可能性は高くなる
といえます。自社の利益を確保できる金額であることが条件ですが、確保できるなら入札に参加してみる価値はあるでしょう。
ただし、過去数年にわたって同一企業が落札しており、しかも落札金額が年々下がっている場合などは、その企業の中で業務効率化が進み低コストで業務を遂行できるようになっていると推察できるため、他社が参加するのはハードルが高いといえます。
一方で、落札企業や落札金額が一定でない場合は、落札の判断基準が明確でなかったり、要件が変化したりしている可能性が高いため、新規参入でも落札のチャンスがあるといえます。
3)落札できなくても、タダでは転ばない
入札に参加する目的は、あくまで安定的な収入源の確保や新規顧客の開拓です。その意味では、自社に合った案件を大手企業が落札している場合、
落札した企業に営業をかける
という戦略も有効かもしれません。
大手企業の場合、落札した業務を下請け企業に発注するケースも少なくありません。そこで大手企業に営業をかけることで、結果的にその案件を請け負うことができる場合があるのです。
こうした可能性もふまえ、自社に合った案件を多く落札している企業に対して、事前に営業をかけておくのも一策でしょう。
以上(2023年11月作成)
pj80195
画像:GDM photo and video-Adobe Stock