書いてあること
- 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
- 課題:最近話題のZ世代(1990年代後半以降生まれで会社においては20代前半くらいまで)だけでなく、それ以前の平成生まれ(30代前半くらいまで)の世代と、現在経営や管理職を担っている昭和世代との世代間ギャップが注目されています。それは価値観の違いやコミュニケーションの違いとして表れ、変化や多様性が求められる昨今、日本企業において深刻な経営の足かせとなりつつあるようです。
- 解決策:まず会社においてZ世代を含む平成生まれと昭和生まれの世代背景を整理しながら、ギャップを埋めるための「価値観の変化」を明らかにします。その上で、筆者が多くの講演や企業研修で紹介してきた『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』を実践的に指南します。
1 昭和生まれの管理職・リーダーだけでなく、30代にも必須の習慣
今シリーズの『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』では、管理職・リーダー側の皆さんがすぐにでも取り組むべき3つの習慣をご紹介しています。
第1回、第2回で取り上げたように、昭和生まれの管理職・リーダー世代と、平成生まれ、とりわけ「Z世代」との価値観に、ここ10年ほどで“真逆”といえるほどのギャップが生まれています。
「自分は一応昭和生まれだけど、まだ30代だから大丈夫」という人も、「自分はぎりぎり平成生まれだから平気」と考えている人も、入社当時を思い出してみてください。10年以上前と現在のビジネス、世界の潮流、IT環境などは劇的に変わっていませんか。
変化の激しい時代には、自分が社内で積み重ねてきたはずのスキルや経験があっという間に使い物にならなくなってしまいます。最近「ソフト老害」という言葉が注目されているように、30代ですら新時代の若い才能の邪魔をしているかもしれません。
昨今の世界のビジネス上の価値観は、「Z世代」の価値観のほうに寄っており、会社の成長を今後も目指すためには現在管理職やリーダーの側の皆さんが、これまでの価値観やコミュニケーション習慣を見直す必要に迫られているのです。
ということで、第3回から第5回までは3つの習慣の1つ目「傾聴」について、第6回から第9回までは2つ目の『褒める』について、今日から始められるレベルでお話ししてきました。
前回第9回では「叱る」についても触れました。
社内や人生の先輩であっても世の中の新たな潮流で知らないことはあるし、スマートフォンやそのアプリなど新しいデバイスにおいては若い世代のほうがずっと詳しく、上司や先輩といえど“教えてもらう”立場にあります。
そもそもお互い同じ大人で同じ社会人である以上、一方的に「叱る」のはおかしい。
必要なら良い所を先に褒めた上で、「注意やアドバイス」をすればいいのです。
むろん社会人1年目から先輩諸氏と同じレベルでできることは少なく、同じ大人、社会人として要望することは厳しい対応かもしれません。が、そこで子ども扱いせずに一人の大人として認めて期待をするからこそ、彼らは自身の長所や良さに対して誇りを失わず、前向きに頑張ろうと思えるのではないでしょうか。
それ自体は、昭和生まれ、一部平成生まれの管理職・リーダー世代が、かつて上司から叱られながらも「なにくそ、自分にだって長所や良さがあるはずだ!」とはい上がってきた経験と重なって見えませんか。ただ時代とともに頑張り方が変わっただけで。
さて今回は、3つ目で最後の『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』である「前向き発想」についてお話ししていきます。
2 いつの時代もリーダーには「前向き発想」が求められているけれど…
「前向き発想」自体は別に新しいものではありません。いつの時代もリーダーに求められてきたものではないでしょうか。
リーダーとは文字通り、メンバーをリード=導いていくのが仕事です。会社の掲げるビジョンや与えられた目標に対して、メンバー一人ひとりがやる気を持てて、その個性や能力を存分に発揮できるように導くこと。失敗しても再び立ち上がって頑張れるように導く役割が求められます。
そのためにもリーダーは常に前向きに発想し、やや高い目標に対しても、部下に対して「きっとやれる、一緒に頑張ろう」と鼓舞する必要があります。少しでも早く気持ちを切り換えさせて動き出すことで、自己や組織の成長、次の成功へと近づくことができるのです。
では皆さんに質問です。メンバーが次のような状況のとき、リーダーとしてはどのように声をかけてあげればいいでしょうか。少し考えてみてください。
1)全員で(あるいは個人が)一生懸命頑張ったけれど、目標を達成できなかった
いかがでしょう。リーダーとしては、苦しい今の状態を脱して、一瞬でも早く気持ちを切り換えさせてやりたいでしょうか。実にメンバー想いの発想だと思います。
けれどもいくら鼓舞されても、すぐに切り換えられないメンバーもいるのです。それは目標達成への意欲が強かったメンバーほどそうなのかもしれません。
3 リーダーになった人が忘れがちな、大切なこと
相手が全員トップアスリートであれば、監督(リーダー)は1)の状況の直後に次のように声をかければいいでしょう。
「終わったことは変えられない。我々に落ち込んでいる暇などない。1秒でも早く気持ちを切り換えて、次につなげよう!」と。
しかしながら、トップオブトップのアスリートである日本代表チームにあっても、ベテランと若手では国を背負う覚悟には温度差があると聞きます。何度も悔しい思いを経験してきたベテランは、まさに命がけで臨み、監督と共に敗戦の事実をすぐに受け入れ、冷静に気持ちを切り換えられるようです。
一方で代表に選ばれたばかりの若手は、選ばれたことに浮足立ち、代表として負けた経験も少ない分、結果をすぐには受け入れられないかもしれません。いわんや、皆さんの抱えるメンバーはスポーツの日本代表でもトップアスリートでもないわけです。
ある元日本代表アスリートの奥様がこぼしていました。その方は一般人なのですが、「普段、私がうまくいかないことがあって落ち込んで動けないでいると、旦那はすぐに“切り換え、切り換え、次に行こう!”って急かすんです。気持ちなんてすぐに切り換えられないし、正直言ってしんどいです」と。
「誰もが簡単に気持ちを切り換えられるわけではない」。それが分かっていないリーダーは一人で暴走しがちです。気が付けばメンバーの誰もついていけていないばかりか、みんなすっかり疲弊してしまっています。いつしかあなたに対して「このリーダーにはしんどいだけでついていけない」となっていることでしょう。これではチームとしての成果が上がりようもありません。
とりわけ早くリーダーになった人が陥りがちなのが、この「誰もが簡単に気持ちを切り換えられるわけではない」ことへの無理解です。
早くリーダーになった人はこう考えて生きてきたはずです。「失敗しても落ち込んでいる暇はない、すぐに気持ちを切り換えてライバルに追いつき、追い越すための努力を始めよう」。もっと言えば、「失敗して落ち込んでいる時間など無駄でしかない。勝利への近道は、いかに一瞬で気持ちを切り換えて次に向かえるかなのだ」と。
裏返せば、「誰もが簡単に気持ちを切り換えられるわけではない」からこそ、早く切り換えられた自分だけがその差で勝てたということです。それなのに、自分がリーダーになった途端に今度はメンバー全員に求めているという“矛盾”に気付いていないのです。
確かにスポーツやビジネスの場面では、「失敗しても落ち込んでいる暇はない、すぐに気持ちを切り換えてライバルに追いつくために努力を始めよう」が正解です。けれども人間には人それぞれ個性があり、トップアスリートや一部のリーダーを除いては、「誰もが簡単に気持ちを切り換えられるわけではない」と知るべきです。
勘違いしてはいけないのは、すぐに気持ちを切り換えられない人が人生の弱者というわけではないということ。他人の気持ちに寄り添うことで誰かを救えたり、感受性の強さが生きる場面は人生はもちろん、ビジネスにおいてもたくさんあるのですから。
すぐに切り換えられない人が多いということは、あなたのメンバーの中にもそうした人が多いのかもしれないと思ってください。リーダーであるあなただけが気持ちを切り換えられれば組織がうまく回り、高いパフォーマンスを上げられるわけではないのです。
組織を任されたリーダーにとっての成果は、リーダー個人の成果ではなく、チームの総量であることを忘れてはいけません。
では、1)の「全員で(あるいは個人が)一生懸命頑張ったけれど、目標を達成できなかった」という状況で、リーダーはメンバーに対して、最初にどのように声をかけてあげればいいでしょうか。
例えば、まず「みんな、〇カ月の間、よく頑張ってきた。それなのに達成できなくて悔しいね。本当に悔しいよね」と声をかけてあげましょう。気持ちを受け止め、共有して、しばし振り返りの時間を持つのです。それから次に向かっても遅くないはずです。
「頑張ったのに結果が出なかった」ときに、リーダーが最初にするべきことは「メンバーの今の気持ちをしっかりと受け止める」。それこそが次に向かうための近道なのです。
4 「前向き発想」の言葉は1つじゃない
さて最後に、次の質問を皆さんに投げかけて終了としましょう。メンバーが次のように思っている、あるいは口に出したとき、リーダーとしてはどのように声をかけてあげればいいでしょうか。答えは1つとは限りません。少し考えてみてください。
2)この目標達成は正直言って難しいですね
3)〇〇が邪魔して目標達成できそうにありません
2)も3)も、先ほどの1)と同じように、まずはメンバーの気持ちを想像してあげてください。中には数字だけを見て、最初から達成を諦めている否定的な人もいるでしょう。ですが彼らとて、仕事に前向きではないとは限りません。
また前向きにチャレンジしようとしたものの、やっぱり難しいなと弱気になっているメンバーもいるかもしれません。その辺は、個々に聞いてみないと分かりませんよね。
「前向き発想」の言葉は、どんなケースにおいても1つとは限りません。場面や相手によっても異なりますし、投げかける側の気持ちや発想によっても変わります。だからこそ奥が深いし、面白いのです。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回も『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』その3「前向き発想」をテーマに、今回の宿題2)と3)の解説と、さらなる応用スキルをご紹介していきます。
<ご質問を承ります>
ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで
Mail to: brightinfo@brightside.co.jp
※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。
『新スペシャリストになろう!』 https://amzn.asia/d/e8GZwTB
『なぜ社長の話はわかりにくいのか』 https://amzn.asia/d/8YUKdlx
以上(2024年4月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/
pj90259
画像:PureSolution-Adobe Stock