書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:最近話題のZ世代(1990年代後半以降生まれで会社においては20代前半くらいまで)だけでなく、それ以前の平成生まれ(30代前半くらいまで)の世代と、現在経営や管理職を担っている昭和世代との世代間ギャップが注目されています。それは価値観の違いやコミュニケーションの違いとして表れ、変化や多様性が求められる昨今、日本企業において深刻な経営の足かせとなりつつあるようです。
  • 解決策:まず会社においてZ世代を含む平成生まれと昭和生まれの世代背景を整理しながら、ギャップを埋めるための「価値観の変化」を明らかにします。その上で、筆者が多くの講演や企業研修で紹介してきた『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』を実践的に指南します。

1 より早くリーダーに抜てきされた人ほど陥りがちな失敗とは?

今シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』も今回を含めて残り2回となりました。引き続き、管理職・リーダー側の皆さんがすぐにでも取り組むべき3つの習慣をご紹介していきます。

これらは昭和生まれのリーダーはもとより、「自分は一応昭和生まれだけど、まだ30代だから大丈夫」という人にも、「自分はぎりぎり平成生まれだから平気」と考えている人にも、身に付けていただきたい習慣です。

第3回から第5回までは『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』3つのうちの1つ目の「傾聴」について、第6回から第9回までは2つ目の『褒める』についてお話ししました。

前回第10回に引き続き、今回は3つ目の「前向き発想」についてお話ししていきます。

前回は、いつの時代もリーダーには「前向き発想」が求められているということ。とはいえ「一生懸命頑張ったけれど、目標を達成できなかった」といった状況の直後にいくら鼓舞されても、すぐに切り換えられないメンバーもいることを忘れてはいけないとお伝えしました。

一線で活躍するプロやトップアスリートならいざ知らず、世の中は簡単に気持ちが切り換えられる人ばかりではないと考えるべきでしょう。個人差もあります。メンバーの中には気持ちの切り換えが上手にできない人、長く引きずってしまう人がいるはずです。

また、目標達成への意欲が強く、それにふさわしい努力を重ねてきたからこそ、悔しくて簡単に気持ちを切り換えられないという人もいるかもしれません。

こうした一人ひとりの状況が分かっていないリーダーは暴走しがちです。

「どれほど努力してきたにせよ、出てしまった結果は変わらない。だったら次に向けて一秒でも早く気持ちを切り換えるしかないじゃないか、なにをモタモタしているのだ」と。

メンバーに対しても自分と同じスピードで気持ちの切り換えを要求してしまうと、誰もついていけないばかりか、チーム全体がすっかり疲弊しかねません。これではチームとして次の成果は上がらないでしょう。

個人として優秀で、より早くリーダーに抜てきされた人ほど陥りがちな失敗です。

「頑張ったのに結果が出なかった」ときに、リーダーが最初にするべきことは「メンバーの今の気持ちをしっかりと受け止める」こと。その上で「前向き発想」の言葉で次に向かって鼓舞すること。それが次の成功への近道なのです。

2 まずはメンバーの何人かに声をかけ、本音を聞いて受け止める

前回投げかけた質問の

1)全員で(あるいは個人が)一生懸命頑張ったけれど、目標を達成できなかった

ケースについて、リーダーとしてどのように声をかけてあげるべきかについて振り返ってみました。

続いて宿題とさせていただいた、2)3)についても見ていきましょう。メンバーが次のように思っている、あるいは口に出したとき、リーダーとしてはどのように声をかけてあげればいいでしょうか。

2)この目標達成は正直言って難しいですね

3)〇〇が邪魔して目標達成できそうにありません

みなさんの答えはどうでしょう。

2)も3)も、まずは1)と同じようにメンバーの気持ちを想像してあげましょう。

リーダーとしては、メンバーが端から達成を諦めているように感じたかもしれませんが、彼らが前向きではないとは必ずしも言い切れません。前向きな気持ちはすごくありながらも、少し気後れして弱気になっているだけなのかもしれないのです。

そんなときにリーダーが即座に、「何を言っているんだ、目標は達成するためにあるのだろう」「後ろ向きなことを言うな、士気が下がるじゃないか」などと声をかけたらどうでしょう。彼らのやる気を引き出せるでしょうか。

そこでメンバーの何人かに声をかけて、本音の部分を聞いてみてはどうでしょう。ただし、リーダーは発言に対して一切否定することなく「なるほど、そうか」と受け止め、ひたすら傾聴するのみです。

まずは発言した本人に「〇〇さんは、本当のところどう思っていますか?」と聞きます。次に他のメンバーにも「同じような気持ちの人はいますか?」「〇〇さんはどうですか?」と声をかけましょう。

最後のほうでは一番戸惑っていそうなメンバー、ふだんから本音を言えていなさそうなメンバーを指名してみましょう。そして「他にも意見はありませんか」と広く本音の意見を募るのです。

そうして2)や3)の言葉に表れたメンバーの不安な気持ちを、しっかりと受け止めてあげてください。

3 リーダーが道筋を示すだけでなく、メンバーにも考えてもらう

広く本音を聞いていくと、「目標は達成したいのだけれど、今回ばかりは数字が大きすぎて自信がない」といった達成意欲の存在を表明する意見が飛び出してきます。

彼らの気持ちが全くもって後ろ向きなのであれば、既に職場を離れている可能性が高いのではないでしょうか。そうでないということは、前向きな気持ちがどこかにあって、それぞれに奮闘してくれているのです。

前向きな気持ちがあるという点では一致しているのだと分かれば、あとはリーダー次第です。「前向き発想」の言葉とともに、達成への道筋を示して背中を押してあげましょう。

2)であれば例えば、「確かにこの目標達成はかなり厳しく感じますよね。私も簡単だとは思っていません。でももし頑張って達成できたら、会社もみんなも成長できて次のステージに行けると思うのです。一人ひとりが成長できるだけでなく、きっと次回の賞与にも反映できるでしょう」

「例えば〇〇に対して、〇〇という取り組みをしてはどうでしょうか。少し可能性が見えてきませんか」と。

3)であれば、「〇〇が邪魔しているのは確かですね。確かに大きな障害です。そこで発想を変えて、逆に何があればもしかしたらできそうかを考えてみましょう」と。

リーダーから具体案や道筋を示すのもよいのですが、ぜひメンバーにも考えてもらいましょう。自分たちで考え出した案のほうがやる気も違ってきますし、考えることで彼らの成長にもつながります。

現場で日々格闘しているからこそ思いつくアイデアがあるはずです。目標達成への可能性が見いだせたなら、実行計画は実際に取り組む彼らに立ててもらったほうが実現性も高いでしょう。

アイデアが何も出て来なかったり、行き詰まったりした際には、リーダーが高い視点や新たな視点を示してあげましょう。「こういう方向から考えてみてはどうだろう」と。

シリーズの第1回でも触れたように、リーダー自ら実行計画を立てて強引について来させるのではなく、メンバーの個性を尊重し、彼らがやる気の持てる実行計画を立てられるように支援する。それこそが、これからのリーダーに求められる姿です。

4 一度困難を乗り越えた組織は、人が成長し、どんどん強くなれる

このようにしてリーダーが「前向き発想」で個人やチームを支援し、困難と思えた状況を乗り越えられたとしましょう。一人ひとりが深く関わったぶん、彼らは仕事において成長し、自信もつけているはずです。

そこに新たな困難と思える状況がやってきたらどうでしょう。彼らはまた尻込みをするでしょうか。中には「また来ましたねー、やってやろうじゃないですか」と笑いながら戦いに燃えるメンバーが出てくるかもしれません。

みんなで力を合わせて大きな困難を克服できたという成功体験は、何にも代えがたいものです。何人かが「今回もやってやろう!」と言い出してくれれば、少し腰の重いメンバーもついていってくれることでしょう。

となればリーダーがやるべきことは、「前向き発想」の言葉で応援の旗を振り続け、側面や後ろから足りない部分を支援してあげるだけです。

前回も申し上げましたが、「前向き発想」の言葉の正解は1つとは限りません。場面や相手によっても異なりますし、投げかける側のあなたの気持ちや発想によっても変わってきます。

AIがいくら進化しても敵わない、あなたならではの一言で、メンバーのやる気を引き出すことができるのです。

こうして困難を乗り越えていくことを覚えた組織は、人も成長し、ますます強くなっていくことでしょう。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回はいよいよシリーズの最終回です。全体を振り返ってまとめながら、みなさんが実践していくに当たってのアドバイスを追加したいと思います。

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以上(2024年5月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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