書いてあること
- 主な読者:トラック運送会社の経営者、管理職
- 課題:ドライバーへの安全教育は今の方法でいいのか? ドライバーに指導しなければならない「法定12項目」の内容と、どのような指導方法があるかを改めて確認したい
- 解決策:他社事例にあるような動画教育やコンテストなどを実施するのも一策。「いつでも見返せる」「競うことで意欲を盛り上げる工夫」などがポイント
1 トラックの事故は大きな事故になる
日本国内の貨物輸送量の約90%は、トラック輸送が占めているといわれます。災害時には救援輸送を担うなど社会的な使命も大きく、トラックは産業や生活に必要な大事なものです。
一方で、トラックは大事故を引き起こす恐れもあります。国土交通省が発表している走行距離1億キロあたりの交通事故件数でみると自家用車のほうが2倍近く多いのに対し、交通「死亡」事故件数はトラックのほうが多くなっています(ここ数年は減少傾向にあります)。
運送会社はとにかく安全が第一、ドライバーへの安全教育は欠かせません。2024年問題に直面している中、各社には効率的に事業を行うことに加え、高い安全性が求められます。
そこで、この記事ではトラックドライバーへの指導項目として決められている「法定12項目」の内容を確認した上で、実際に指導に取り組んでいる運送会社や協会などにヒアリングした内容を紹介します。
こうした事例なども参考にして、今行っている指導方法を改めて見直してみましょう。自社のドライバーが「ちゃんと関心を持って安全教育に参加する、指導内容をしっかり身に付ける」ように工夫することが大切です。
2 法定12項目とは
法定12項目とは、国土交通省が定める指導項目で(貨物自動車運送事業輸送安全規則第10条)、年に1回、必ず全ドライバーに指導を実施する必要があります。
また、指導内容は具体的に記録し、指導で使用した資料の写しとともに3年間保存することが必要です。法定12項目の内容は以下の通りです。
運転時の心構えからトラックの構造や荷物の積載方法、安全運転や健康管理まで、トラックドライバーとして身に付けておくべき項目が盛り込まれています。法定12項目の指導や指導記録の保持を怠ると、車両使用停止など行政処分の対象となる場合もあるので注意しましょう。
3 法定12項目をどのように指導すればいいのか
運送会社や協会などが行っている、法定12項目をはじめとした安全教育の事例を紹介します。
1)運送会社の取り組み事例
1.西濃運輸(岐阜県大垣市)
西濃運輸は、月ごとに重点を置く法定項目を決めて各エリアで指導を行っています。
本社から各エリアに重要な点をまとめた資料(国土交通省が公表している資料を基に作成)を送り、各店所の責任者(運行管理者・安全推進インストラクター)の下、討議またはミーティングで理解させる(初任ドライバーについては安全推進インスタラクターが解説を行う)という仕組みです。
さらに、初任ドライバーについては、Googleフォームを使った確認テストを解いてもらうことで、法定12項目の教育を受講していることを確認・管理します。他にも、安全推進インストラクター制度やセーフティーライセンス制度といった独自の資格を作り、資格取得を昇進条件にしています。
「ドライバーへの教育ができることを証明する安全推進インストラクター制度はドライバーの10分の1弱程度(697人/10897人中)、自分自身が安全運転をできることを証明するセーフティーライセンス制度はドライバーの10分の2弱程度(1542人/10897人中)程度が取得しています。これらの制度を作ったことでドライバーの安全運転への意識が向上し、全国トラックドライバーコンテストでは自社ドライバーが2連覇を達成しています」(西濃運輸)
2.西部運輸(広島県福山市)
西部運輸は、YouTube配信でドライバーへの法定12項目の指導を行っています。
法定12項目の解説や指導について視聴できるYouTube動画のQRコードが載ったアンケート用紙を配布し、ドライバーはQRコードから動画を見てアンケート用紙に感想を記載し提出する仕組みです。動画は、提携の保険会社が提供する「法定12項目を1項目ずつ解説する」計12本の動画を利用しています。
また、法定12項目とは別に自社でヒヤリハット映像などを用いた安全教育の動画も作成していて、これらの動画と法定12項目の動画を月ごとに分けて配信しています。
「YouTubeでの動画は好きな時に視聴できるためドライバーに好評です。また、気になる部分を何度も繰り返し視聴しているドライバーもいます。今年の安全教育は構内事故の削減を目標に動画を作成していて、2024年1月~4月の構内事故の件数は前年同月比で40%減少しています」(西部運輸)
3.ジャパンロジスティクスパートナーズ(神奈川県横浜市)
ジャパンロジスティクスパートナーズは、毎月実施する部署ごとの安全会議で1項目ずつ法定12項目の教育を行っています。
安全教育の支援などを行っている会社ディ・クリエイトより提供されるドラレコ映像を基に資料を作成し、各部署で講習を実施する仕組みです。また、前月の安全会議の内容を基に振り返りテストも実施していて、テストの順位を車庫に提示しています。
「振り返りテストを実施する仕組みを作ったことで、ドライバーがより前向きに安全会議に参加するようになりました。また、毎月の安全会議や振り返りテストの実施などの取り組みを続けた結果、事故件数は減少し、2021年度以降の年間事故件数(製品事故除く)は1桁を継続しています」(ジャパンロジスティクスパートナーズ)
同社は、他にも「法定速度を超過した際にデジタコが鳴った回数をドライバーへ周知することで、安全運転の意識向上を目指す」という取り組みも実施しています。この取り組みにより、3年間でスピード超過(デジタコが鳴った回数)が96%減少しました。
さらに、トレーナー養成講座を1年かけて受講したトレーナーが社内に複数人いるため、協力会社のドライバーなどに指導教育・講演も行っています。
2)協会の取り組み事例
トラック協会でも、会員運送会社が法定12項目の指導をスムーズに行えるように支援をしていますので紹介します。
1.全日本トラック協会(東京都新宿区)
全日本トラック協会は、会員事業者向けに「事業用トラックドライバー研修テキスト」を提供しています。また、経営者や管理者を対象にした「プラン2025目標達成セミナー~削減目標達成への取り組み」で事故防止をテーマにセミナーも行っています。
「トラック業界として安全は一丁目一番地です。安全な業界を作っていく上で、法定12項目は各運送事業者が最低限やらなくてはいけない項目となっています。ぜひ、全日本トラック協会が会員事業者様向けに提供している研修テキストやセミナーなども活用しながら事故削減に取り組んでいただきたいです」(全日本トラック協会)
2.神奈川県トラック協会(神奈川県横浜市)
神奈川県トラック協会は、会員事業者の運行管理者などを対象とした「安全教育リーダー養成講座」を開催していて、法定12項目の一部やドライバーへの添乗教育・安全教育の方法を学べます。また、初任ドライバーなどを対象に「初任運転者安全教育講習」も開催していて、自動車教習所において実車を用いて、法定12項目の一部に関する指導を受けることが可能です。
「コンプライアンス遵守という観点でも、法定12項目に基づいた指導は、各運送事業者が必ず実施しなくてはならないことです。神奈川県トラック協会では、ドライバーへの法定12項目に基づいた指導をサポートするための講習や講座を実施しているので、ぜひご利用ください」(神奈川県トラック協会)
3)運送会社の安全教育をサポートする会社による取り組み事例
法定12項目の指導をより効率的かつ効果的に行うために、運送会社の安全教育をサポートする民間のサービスもあります。例えば、VR動画で法定12項目に関して効果的な教育が行えるサービスを提供する「WacWac」もその1つです。運輸安全マネジメントに沿ってご活用ください。
WacWac(東京都練馬区)
WacWacは、VR動画を視聴することで安全教育を行い、さらに受講実績をシステムで自動的に管理できるサービス「らくらく監査システム」を提供する会社です。
VRゴーグルを着けてトラック事故を疑似体験することで、安全運転のポイントをリアルに学べます。また、視聴履歴は自動的に管理システムに転送されるため、教育履歴の管理を効率的に行うことができます。
「導入している企業様の車両台数は20~1500台までと幅広く、さまざまな企業で事故削減の実績があります。業務効率化も可能なので、法定12項目の指導サポートとして、ぜひらくらく監査システムをご利用ください」(WacWac)
らくらく監査システム(VRプラン)の利用料金は次の通りとなっています。
以上(2024年7月作成)
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画像:Nuad Contributor-Adobe Stock