書いてあること

  • 主な読者:機能性表示食品制度の動向について知りたい食品関連事業の経営者
  • 課題:機能性表示食品制度の見直しで、今後どのような対応が必要になるのか分からない
  • 解決策:国(消費者庁)の関与する度合いが高まる。政策動向をウォッチする

1 機能性表示食品制度とは?

機能性表示食品制度は、国が定めるルールに基づき、

事業者が、販売しようとする食品の安全性と機能性に関する科学的根拠などを消費者庁長官に届け出れば、国の審査なしで、健康効果(例えば「脂肪の吸収を抑える」「睡眠の質を高める」などといった機能)を表示できる

というものです。機能性表示食品制度が導入されたのは2015年4月。当時の規制緩和による経済成長戦略の一環で、「特定保健用食品(トクホ)」や「栄養機能食品」とは異なる、食品の新しい表示制度として期待され、大手メーカーを中心に普及してきました。

民間調査会社・富士経済によると、機能性表示食品の国内市場は、2024年予測で7350億円(対2022年比27.7%増)と拡大しています。

ところが2024年3月、制度の根幹を揺るがす事案が発覚しました。小林製薬(大阪市)が製造販売していた「紅麹(べにこうじ)」の成分を含むサプリメントを摂取した人の多くから、腎疾患などの健康被害が発生し、関連性は明らかではないものの複数の死亡事例も報告されたのです。

この事案を受け、消費者庁は、すべての機能性表示食品の緊急点検を実施し、また有識者らによる「機能性表示食品を巡る検討会報告書」を公表しました。さらに政府は、「紅麹関連製品への対応に関する関係閣僚会合」を立ち上げ、次のようなポイントを柱とする機能性表示食品制度の見直しの方向性を示しました。

  • 機能性表示食品による健康被害が発生した場合、事業者から行政への速やかな情報提供を義務化
  • 機能性表示を行うサプリメントについて適正製造規範(Good Manufacturing Practice : GMP)に基づく製品管理を要件化

この記事では、食品関連事業の経営者の方に、現行の機能性表示食品制度の問題点と、同制度がこれからどうなるのか、見直しの方向性を整理して紹介します。また、そもそも機能性表示食品が何なのか、特定保健用食品、栄養機能食品と比較してどのような違いがあるのか解説します。

2 機能性表示食品制度の見直しの方向性

1)現行の機能性表示食品制度の問題点

機能性表示食品制度の導入当初から、消費者団体などによって指摘されてきたのが、

消費者庁に届け出がされた機能性表示食品の中には安全性や機能性の科学的根拠が十分でないものがある

ことです。届け出をしようとする事業者が遵守するべき「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」を見てみると、「事業者の責任」に委ねる部分が大きいことが分かります。

例えば、安全性については、届け出ようとする製品または類似するものの食経験、医薬品と機能性関与成分との相互作用という、主に2つの観点からの評価が必要とされますが、評価自体は、届け出を行う事業者の責任です。

事業者には生産・製造における衛生管理、品質管理に関する情報を届け出ることが求められていますが、生産・製造や品質管理の体制構築については義務付けられていません。

事業者は健康被害の情報を収集し行政機関への報告を行う体制を整備することが適当であるとされ、入手した情報が不十分であったとしても速やかに消費者庁および都道府県等(保健所)に報告することとされています。しかし、報告時期は明確でなく事業者側に判断が委ねられています。

機能性の根拠は、最終製品を用いた臨床試験(ヒト試験)の実施、もしくは最終製品または機能性関与成分に関する研究レビューのいずれかによって実証することとされています。このうち研究レビューについては、データベース上の学術論文等の関連研究を網羅的に収集し、肯定的なデータだけではなく否定的なデータも含めて総合的に判断するという条件はあるものの、事業者が自己責任で総合的に機能性の評価を行うこととなっています。

2)「紅麹関連製品への対応に関する関係閣僚会合」が示した見直しの方向性

規制緩和に重きが置かれて「事業者の責任」に依拠した機能性表示食品制度の負の側面が顕著に表れてしまったのが、今般の「紅麹関連製品」による健康被害の事案なのかもしれません。

以降では、政府の「紅麹関連製品への対応に関する関係閣僚会合」が示した、制度見直しの主な方向性を紹介します。

1.健康被害に関する情報提供の義務化

健康維持・増進に役立つ効果を表示し、反復・継続して摂取することが見込まれる機能性表示食品について、

  • 健康被害と疑われる情報(医師が診断したものに限る)を把握した場合、当該食品との因果関係が不明であっても速やかに消費者庁長官および都道府県知事(保健所を設置する市の市長または特別区の区長)に情報提供することを、食品表示法に基づく内閣府令である「食品表示基準」における届出者の遵守事項とする
  • 提供期限については、重篤度等に対応した明確なルールを設ける

とされています。

これらを遵守しない場合、事業者(届出者)は食品表示法に基づく指示・命令を受け、機能性表示を行うことができなくなります。また、情報提供の義務化に違反した場合は、食品衛生法に基づき営業の禁止・停止の行政処分を受けることになります。

2.サプリメントについて適正製造規範(GMP)に基づく製品管理の要件化

機能性表示を行うサプリメントについて、

  • GMPに基づく製造管理を、食品表示法に基づく内閣府令である「食品表示基準」における遵守事項とする
  • 届出者が自主点検をするとともに、必要な体制を整備した上で消費者庁が食品表示法に基づく立入検査等を行う

とされています。

GMPとは、Good Manufacturing Practiceの略で、原料の受け入れから最終製品の出荷に至るまでの全工程において「適正な製造管理と品質管理」を求めるものです。従前も「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」で、「サプリメント形状の加工食品については、GMPに基づく製造工程管理が強く望まれる」とされていたものが義務化されるかたちです。

なお、健康食品については、日本健康・栄養食品協会がGMP適合認定を行っています。同協会は、機能性表示食品の届け出の支援も行っており、相談・問い合わせを受け付けています。

■日本健康・栄養食品協会「適正製造規範 GMP」■

https://www.jhnfa.org/gmp-0.html

3.その他

「紅麹関連製品への対応に関する関係閣僚会合」では、これら以外にも、信頼性の確保のための措置、情報提供のDX化、消費者教育の強化、国と地方の役割分担などの見直しの方向性や、更なる検討課題を示しています。もっと知りたい方は、次のURLから資料をご参照ください。

■内閣官房「紅麹関連製品への対応に関する関係閣僚会合」■

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/benikouji/

3 機能性表示食品、特定保健用食品、栄養機能食品の比較

ここであらためて、機能性表示食品、特定保健用食品、栄養機能食品について整理してみましょう。

1)機能性表示食品、特定保健用食品、栄養機能食品の位置付け

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ヒトが口から摂取するもののうち医薬品・医薬部外品以外のものは食品に該当します。食品のうち、機能性の表示ができないものを一般食品といいます。一方、食品のうち、機能性の表示ができるものを保健機能食品といいます。保健機能食品は、2015年4月より前は「特定保健用食品(トクホ)」と「栄養機能食品」に限られていましたが、規制緩和によって導入されたのが「機能性表示食品」です。

なお、栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品といった表示で販売されている食品は、紛らわしいですが一般食品です。

2)機能性表示食品、特定保健用食品、栄養機能食品で何が違うのか?

機能性表示食品、特定保健用食品、栄養機能食品について、それぞれの概要を押さえておきましょう。

1.機能性表示食品

安全性および機能性に関する一定の科学的根拠に基づき、食品関連事業者の責任において特定の保健の目的が期待できる旨の表示を行うものとして、消費者庁長官に届け出が行われた食品です。販売予定日の60日前までに届け出が必要であるものの、国の審査はなく、あくまでも事業者の責任において機能性を表示します。

消費者庁「機能性表示食品の届出情報検索」によると、販売中の機能性表示食品は3340件となっています(2024年7月17日更新時点)。

2.特定保健用食品

身体の生理学的機能や生物学的活動に影響を与える保健機能成分を含み、特定の保健の目的のために摂取をする者に対し、その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をする食品です。

個別に生理的機能や特定の保健機能を示す有効性や安全性等に関する国の審査を受け、国から個別に許可/承認を受ける必要があります(許可は健康増進法第43条第1項に基づく国内での表示、承認は同法第63条第1項に基づく外国での表示に関するものです)。

消費者庁「特定保健用食品許可(承認)品目一覧」によると、許可を受けた特定保健用食品は1038件、承認を受けた特定保健用食品は1件となっています(2024年7月8日更新時点)。

3.栄養機能食品

身体の健全な成長、発達、健康の維持に必要な栄養成分(ミネラル、ビタミン等)の補給を目的として、栄養成分の機能の表示をする食品です。

国(厚生労働省)が定めた規格基準に適合すれば許可申請や届け出の必要はなく、製造販売することができます。公的な統計情報はありません。

機能性表示食品、特定保健用食品、栄養機能食品の主な相違点をまとめると、次のようになります。

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4 参考

■消費者庁「機能性表示食品について」■

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims

■消費者庁「特定保健用食品について」■

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_for_specified_health_uses

■消費者庁「栄養機能食品について」■

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_nutrient_function_claims

■消費者庁「機能性表示食品を巡る検討会」■

https://www.caa.go.jp/notice/other/caution_001/review_meeting_001

以上(2024年8月作成)

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画像:pat_hastings-Adobe Stock

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