書いてあること
- 主な読者:予算管理を自社に取り入れたい、あるいはしっかり取り組みたい経営者
- 課題:予算を作ったのはいいものの、その数字は年度初めの情報に基づいたものに過ぎない
- 解決策:四半期ごとに予測を更新し、その結果を見てどのように行動をとるのか考え、実行に移す
1 予測は四半期ごとにスピード感を持って
前回、予算と予測の違いを解説しました。今回は実際に予測を作成する時の留意点や活用方法について掘り下げていきたいと思います。
予測は日々刻々と変化していきます。例えば、今日作成する予測と明日作成する予測では数字が変わってきます。なぜかといえば、
- 予測の材料となる情報は今日よりも明日のほうが多く入手できる
- その情報の正確性は、基本的に時間の経過とともに上がっていく
ためです。とすると、予測は今日より明日、あるいは翌週作成したほうが価値あるものになるのでしょうか。答えは、否です。予測は数字の精度以上に、スピードこそに本当の価値があります。予測は作成すること以上に、活用することに意味があります。
「活用する」とは、
予測結果を見て、どういう行動を取るかを考え、そして実行する
ことです。この過程を通じて、目標である予算達成に近づくことが可能になるのです。そのためには、行動の内容を考えたり、実際に行動したりする時間が必要になります。多少の正確性は犠牲にしても、予測をある一定の時点でスピード感を持って作成しなければなりません。
具体的には、四半期(3カ月)ごとに予測をすることが有用と考えられます。逆に、月次での予測の作成では予測作成後に次の予測作成がすぐにきてしまい、行動の時間が十分に取れないため、あまり有用とはいえません。
2 予算の数値は予測に使ってはいけない
「こうなるだろう」という見込みである予測を作る際には、その時点までの実績と最新情報に基づいて、翌月以降の予測の数値を置いていきます。
図表の中で予測と赤字で書かれているところに、予算の数値を入れてしまってはいけません。あくまで「予測」の数字を入れるのです。なぜ予算の数値を入れてはダメなのでしょうか。
その理由は3つ挙げられます。
1つ目の理由が、
情報のアップデートがされていない
という点です。例えば、半期予測時点のケースで考えてみると、作成から半年もたっていれば、景気などの外部環境にも、経営方針などの内部環境にも大きな変化が起きていてもおかしくありません。このため、売上などの残り半年の見込みも、期首で立てた予算の時とは当然変わってくるはずです。
2つ目の理由は、
予算が「こうなりたい」という目標であり、理想や期待を含めた数値である
という点です。期中で行う予測は、正確な業績見込みをするために現実的な数字を入れないといけません。このため、予算の数字を使うわけにはいかないのです。
3つ目の理由は、
費用の期ズレの問題
です。例えば、8月に開催する予定であった広告イベントが11月に延期になったとします。8月の実際の費用は少なくなり、8月に予算と実績の差(予実差)が生じます。しかし、その事実を反映していない予算の数値のままで11月の予測費用を作成してしまうと、年度の着地見込みを見誤ってしまいます。このように、予算で発生を見込んでいた月と異なる月に計上された費用が、二重計上や計上漏れとならないよう、予算ではなく予測の数値を使わなければならないのです。
3 予算が作れていない中小企業必見! 決算3カ月前予測
中小企業では、予算計画を立てるところまで手が回っていないケースもあり、もしかしたら、「ウチの会社は予算を作っていないから、予測を作っても意味がない?」と考えられる方もいるかもしれません。
いいえ、決してそんなことはありません。実際、中小企業の現場では、月次決算ができるようになった後に、予算よりも先に予測にトライしている会社が多くあります。
どういう場面で使うかというと、
決算の着地見込みをつかむため
です。決算が近づいてくると、業績は良さそうだけど、いったいいくら税金を払わないといけないのだろうかなどと考え始めます。また、決算賞与を出して従業員の頑張りに報いてあげたいけど、どれくらい賞与を払えるだろうかといったことも考えることもあるかもしれません。
この場合に、そこまでの月次決算の数字に、残りの決算期末までの見込みをつなげて、年間の売上、費用、利益を予測するのです。
具体的には、期首から9カ月くらいまでの実績が出た時に、年度の予測をするというのをおすすめします。3月決算であれば、12月の月次が締まった1月中旬ごろに予測するわけです。この時期になれば、残り3カ月の売上の見込みも見えてきます。そして、変動費や固定費も9カ月の実績からかなり正確に見込むことができるはずです。そうすると、年度の売上、費用、利益が正確につかめるはずです。
それをもとに、税金に充てる資金の確保や、従業員への決算賞与の支払いなどのアクションにつなげていきます。
ここでは、9カ月の実績に3カ月の予測を合算して、年度の予測をつかみます。しかし、予算がないので予算と予測を比較して行動を起こすことはありません、しかし、年度の着地見込みが見えることで、決算賞与などの具体的なアクションにつなげていくことができます。
一般的に上場会社では、四半期ごとに予測が行われています。まだ予算の作成をしたことがない会社においては、予測を、期首から9カ月たった頃に行うというところから始めてみてもよいでしょう。
以上(2024年10月作成)
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