書いてあること
- 主な読者:経理人材の育成や、経理部全体の効率化に悩む中小企業のマネジメント職
- 課題:業務分担とその評価は、メンバーのモチベーションに直結する。うまく分担できていない場合には、最悪退職してしまうケースもある
- 解決策:数多くの勘定科目の経験を早回しで経験してもらうよう業務分担を行い、目標設定の段階で期待値を伝えるなどコミュニケーションを密にとった上で評価を伝える
1 モチベーションや成果に影響を与える業務分担と評価
今回は、
業務分担の決め方や評価の方法
についてお話しします。管理職の皆さんから、「業務分担は一度決めてしまうと、なかなか変えるのが難しい」という声をお聞きします。しかし、担当している本人にとっては、何年も同じ業務を続けていると飽きてしまいます。最悪、成長機会の少ないことを理由に転職してしまうケースも見られます。
評価についても、評価の仕方や、伝え方に苦労している方もいるのではないでしょうか。私自身も経験がありますが、評価結果が本人の期待よりも悪い場合には、なかなか納得してもらうのは難しいものです。
では、どのようにメンバーのモチベーションや成果に良い影響を与えられる業務分担と評価をしていけばいいのか見ていきましょう。
2 分担は勘定科目と業務量をベースに考える
経理業務の分担を決める際にまず注目すべきは、
その業務に関連する勘定科目
です。経理業務の最終成果物は決算書なので、ほぼすべての業務は、決算書の中のいずれかの勘定科目にひも付きます。メンバーが業務で成果をあげられるよう、なるべく幅広い経験を積んでもらうためには、色々な勘定科目に関連する業務を経験させることが必要です。とくに、ITツールの導入により手作業が減ってきている中で、従来のように「売掛金一筋ウン十年」といったキャリアは現実的ではありません。これまで以上に経理パーソンは決算書全体を理解する必要が高まっているのです。そのためにも、メンバー自身にとって、数多くの勘定科目の経験を早回しで経験することが重要です。
勘定科目によって業務の難しさは異なります。
- 現金預金や固定資産などの勘定科目は、実際にかたちがあるものは確認しやすく、比較的経験が浅いメンバーでも習得しやすいでしょう
- 売上・売掛金や仕入・買掛金など営業周りの勘定科目は、会計システムの使い方など一通りの経理の流れを理解した経理メンバーにおすすめです。営業部門など他部門とのやり取りが頻発しますし、自社事業の知識も必要になるためです
- 税金や引当金といった高度な会計知識を必要とする勘定科目は、税法や会計基準をしっかり理解する必要があるため、経理経験をある程度積んでから担うのがいいでしょう
なお、インボイス制度の導入や収益認識会計基準など時事的に必要になる取り組みも、経理経験の高い人が担当することが多いようです。このように、
勘定科目の固有の性質に加え、各社のシステムや関係者などの状況を踏まえ、総合的な難易度を、業務ごとに一度整理しておく
といいでしょう。体系化された自社オリジナルの「業務分担表」は、「メンバー育成計画表」としても活用でき、効果的です。
このように、勘定科目の難易度や経験の有無をもとに分担を決めるのは、理想的な決め方です。しかし、現実には、業務量への配慮も不可欠です。例えば、売上・売掛金や仕入・買掛金、経費・未払金などは、件数も多く、業務量が多くなりがちです。実際にどのくらいの頻度・業務量があるのかを踏まえて、最終的な分担を決めることが必要です。ただし、これらの業務は色々なITツールの進化がもっとも多い分野でもありますので、
従来のやり方を前提にした業務量にとらわれない
ようにしましょう。「業務量が多すぎて分担の見直しが難しい」と感じた場合には、それは、業務の進め方自体を見直す必要があるシグナルかもしれません。
分担を変えるのは、個人のモチベーションのためだけではありません。担当者の不在や退職が急遽発生したとしても、経理業務を止めないためには、どの業務も2人以上が実施できる必要があります。会社のリスクマネジメントの観点からも、管理職は分担を見直し、ジョブローテーションを行う必要があるのです。
3 分担した業務の意義や成果は、何度でも口に出して伝える
決めた分担について伝える場合には、その伝え方も重要です。
例えば、売掛金の回収確認や督促は、煩雑かつ精神的な負担もあり、メンバーにとってはあまり気が進まない業務です。しかし、その重要性について疑問をはさむ人はいないでしょう。
では、その重要性について担当者に直接口頭で伝えていますか。煩雑な業務や気が重い業務ほど、会社にとっての重要性を、担当することになったときはもちろん、その後も継続的に伝えていくべきです。そうすることで、本人も業務の位置づけをより理解し、多少なりともモチベーションを上げることができます。また、業務への取組みの結果、〇〇円回収が進んだといった成果を定量的に示すのも成果が感じやすく、おすすめです。
皆さんが思っている以上に、管理職は、業務の重要性や結果を口に出して伝えることが大事です。本人にとっては日常のルーティンになってしまいがちですし、視座の高さの違いから意味を本当に理解してもらうことは難しいように感じます。
4 モチベーションを上げる業務分担の決め方
会社側から見た好ましい業務分担の決め方は、メンバー目線で分担を見ることです。
「キャリアの3要素」という考え方があります。
- 本人の得意分野や経験(Can)
- 本人の希望(Will)
- 会社としての必要性(Must)
この3つがかなう業務を経験することがキャリアにとってもっとも望ましいといわれています。つまり、先ほど紹介した考え方は、会社のMustの話でしたが、個人のCanやWillも合わせて考慮して決めるのがキャリア上望ましいのです。
もちろん、会社の事情もありますから、すべての特性や希望をかなえることはできません。例えば、いくら本人がある業務を希望したとしても、他にも希望している人がいたり、本人の能力に対して難易度が高かったりする場合もあるでしょう。
そこで、まずはなるべく本人の希望や特性を幅広く把握することが大事です。その上で、本人の希望の3割は1年以内の期間で叶えることを目指します。そして、別の3割については2~3年以内に叶えられるように、スキル習得とジョブローテーションの予定をたてます。
つまり、すべてをすぐに対応するのではなく、短期と中期に分けて、できることからかなえられるようにしましょう。自分の考えや希望がかなうことで、本人のモチベーションが上がり、成果も出やすくなります。
5 評価の成否は、事前の目標設定で決まる
業務分担の内容に基づいて、年度末に各人の評価を行う会社も多いでしょう。この際に、気を付けていただきたいのは、
- 目標はあらかじめ決まっているか
- 本人はきちんと理解しているのか
の2点です。
分担を決めただけでは、この業務をどのように頑張ったらいいのかが不明確です。分担というのは、何をやるか(What)という話にすぎず、それだけではまだ良し悪しの評価をすることはできません。目標として、どのくらいの時間数をかけるのか、あるいはいつまでにやるかの期限、ミスをどのくらい減らすかという正確さなど、どのくらいやるか(How Much)というモノサシを明確にしてはじめて、良し悪しが判定できるのです。
このように、分担を決めることと、目標を決めることは別ですので、評価が必要な場合には、必ず目標を決めるようにしてください。もし皆さんの部門全体の目標がある場合には、それを細分化して設定するのがベストです。このように部門全体と個人の目標を整合させることで、個人の目標が達成されれば、結果として組織目標も達成する仕組みができあがります。
6 評価面談の場ではじめて評価を伝えるのはNG
評価面談の場でメンバーともめるケースがしばしば見かけられます。もめずに評価を伝えるための最大のポイントは、「No Surprise」=びっくりさせないことです。なぜもめるかといえば、本人の予想と評価が異なることがほとんどです。もちろん、ときに評価の内容が良くないことが原因になることもありますが、それでも事前に把握できていれば、納得するかどうかは別ですが、大きくもめることは少ないはずです。
びっくりさせないためには、
まず目標設定の段階で期待値を正しく伝えておくこと
が必要です。先ほどの目標の話でもお伝えしたとおり、何をどの程度期待しているかを、具体的に事前に伝えておきましょう。
また、達成状況について途中経過を共有することも大事です。もし月次で面談などを行っているのであれば、その場を活用してもいいでしょう。多くの会社では、年度の真ん中で半期の評価面談を行うようです。これも、年度末での食い違いを防ぎ、達成に向けて調整するための取り組みといえます。このような場を使って、少なくとも1回、できたら軽く触れる程度でもいいので年に2~3回、途中経過としての皆さんの見解を伝えておくといいでしょう。
そして、3つ目は、途中経過や最終評価の面談の場で、本人のコメントに十分に耳を傾けることです。メンバー本人にも、設定された目標に対して思うところなどがあるはずです。まずはそれをきちんと聞いた上で、管理職の皆さんの見解を伝えるようにします。このとき、皆さんが評価の拠り所とした事実やエピソードも用意しておくと説得力が増します。
つまり、評価面談の場ではじめて、一方的に評価を伝えるのはNGということです。管理職をやっていると、分担や評価は気が重いイベントかもしれません。しかしながら、どちらも会社にとって重要で成果に大きく影響するものであり、かつメンバー個人のキャリアにとってもあたえる影響は大きいものです。ぜひ今後分担や評価を行う際の参考になれば幸いです。
以上(2023年10月作成)
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