目次
1 勘や感覚ではなく、指標を使った客観的な判断を
設備投資の判断を「なんとなく」といった勘や感覚で決めていませんか? お金をかける以上、その投資がいつ回収できて、どれだけ利益を生むのかを数字で確かめることが大切です。会社にとって資金は最重要のリソースです。だからこそ、指標を使うだけで勘や感覚だけに頼らない客観的な判断が求められます。投資評価の判断で使う主な指標には、
- 回収期間法
- 投資利益率法
- 現在価値法
- 内部利益率法
の4つがあります。今回はこれらのうち、回収期間法と投資利益率法の2つについて、考え方やシミュレーション例を用いた計算方法を整理します。末尾に実務でそのまま使えるExcel(ダウンロード用)も用意しています。Excel内で使われている関数についても解説しておりますので、ご活用ください。
2 収支がトントンになる指標「回収期間法」
回収期間法は、
投資したお金が何年で戻ってくるかという「回収期間」を使って、投資のリスクの大きさを測る指標
です。金利の低い時代には、中小企業で最もよく使われてきたシンプルな指標になります。回収期間は、ざっくり言えば「投資後、何年たったら収支がトントンになるのかを予想した期間」です。例えば、新しい工場を建てるための投資の回収期間が2年と予測されるなら、順調にいけば2年後には、投資で出ていった金額と同じ金額が入ってくる(元がとれる)という意味です。
ここでいう「回収」とは、支払ったお金が回収できること、つまり、収支がトントンになることです。管理会計上の有名な指標に「損益分岐点売上高(損益計算書上の収支がトントン、つまり利益がゼロになる売上高のこと)」がありますが、回収期間を「投資版の損益分岐点売上高」と考えると分かりやすいかもしれません。
判断の仕方は、とてもシンプルです。例えば、回収期間が2年と4年の案があった場合には、当然回収期間が短い2年のほうが良いとされます。この数年の間(コロナ禍や紛争などを要因とした経済環境の変化)で痛感した方も多いと思いますが、遠い将来ほど予測することは難しいものです。回収期間においても、先は分からないので、長くないほうが安全という考え方がベースにあります。
では、一般的にどのくらいの回収期間が良いのか。これは、業種が回収期間の判断に大きな影響を与えます。製造業で設備投資が大きな業種であれば10年を超えても良いケースもあります。一方で、AIなど新しく移り変わりの早い業界であれば2、3年で回収したいと考えることも合理性があります。また、小売業など店舗を持つ業態は、賃貸借契約に合わせて5、6年を目安にしているようです。
早速、次の事例(A案、B案、C案)を使って回収期間を計算し、比べてみましょう。

A案の場合の計算式を解説すると、機械の購入代金、つまり投資額(-100)に、回収額を1年目から順に足していくと(25+35+50)、3年目でプラス(10>0)になります。もし、比較する案件の中でプラスになる年目が同じであれば、小数点以下の端数をみて判断する必要があるため、追加の計算が必要になります。
最初の2年と、3年目は40だけあれば良いので、40を1年分の50で割って0.8年…との合計(2+(50-10)/50=2.8)で、この投資の回収期間は2.8年となります。
このようにA~C案の回収期間を計算すると、最も回収期間が短くなるA案が良い案であると判断できます。
3 どれだけ効率良く稼ぐかが分かる指標「投資利益率法」
投資利益率法は、
投資額に対してどれだけの見返りがあるか(追加のキャッシュ・フローが生まれたか)を示す指標
です。英語ではReturn on Investment(リターン オン インベストメント)、略称をROI(アールオーアイ)といい、実務では非常によく使われる指標です。具体的には、
年間のキャッシュ・フロー÷投資額
の算式で計算します。計算結果は%で表され、投資に対してどれだけの追加のキャッシュ・フローが生まれたか、投資の効率が良いかどうかを一目で確認できます。
判断の仕方は、例えば投資利益率が4%と6%の案があった場合には、6%のほうが大きなリターンがあることを示しているため良いとされます。
では、一般的に投資利益率は何%以上であれば良いのか。まず大前提として、自社の資金調達コスト(借入金の金利など)を必ず上回っていなければなりません。さらに、全社の利益率を下げないようにするためには、現在の利益率との比較も欠かせません。
中小企業の利益率は、一般的に5%前後といわれているので、このあたりを基準として設定しておくのが良いでしょう。筆者の感覚で言うと、投資計画段階では10%を見込めるような投資案件でなければ、なかなか踏み出せないというのが経営者の本音ではないでしょうか。
早速、次の事例(A案・B案・C案)を使って投資利益率を計算し、比べてみましょう。

A案の場合、まず、期間全体の合計キャッシュ・フローを出します。-100+25+35+50+30+35=75です。そして、年あたりのキャッシュ・フローを計算するため、効果が出る年数(5年)で割ります。75÷5で15と計算されます、これを投資額100で割ると、15/100=15%と投資利益率を求めることができます。
このようにA~C案の投資利益率を計算すると、最も投資利益率が大きくなるC案が良い案であると判断できます。
4 回収期間法と投資利益率法の合わせ技で、判断の精度が高まる
ここまで見てきたように、回収期間法は「どれだけ早く元がとれるか」という安全性や時間的な価値を重視した指標であり、投資利益率法は「投資がどれだけ儲かるか」という収益性に焦点を当てた指標です。言い換えると、回収期間法では収益性が考慮されず、投資利益率法では安全性や時間的な価値が反映されません。このため、どちらか一方だけの方法を用いて判断するには不十分なケースもあり、両者は組み合わせることで、「早く回収できて、かつ儲ける投資かどうか」をバランス良く評価できるようになります。
投資は一度決めると後戻りが難しいからこそ、複数の視点で評価することがリスク管理につながるのです。次回は、時間的な価値と収益性の両方を考慮した指標を紹介したいと思います。
5 ダウンロードして実務で使えるExcelとその解説
1)回収期間法
実務では、エクセルを活用することがおすすめです。次のExcelでは、各期間のキャッシュ・フロー(CF。青色背景の箇所)を入力すると、その他のマスは自動計算になっています。なお、Excelには、本リポートの計算例で使用した事例(A案、B案、C案)の数値を入れております。
【図表ダウンロード_WS:3(DL対応)投資評価の例 (回収期間)】
このExcelでは累計キャッシュ・フロー(累計CF)が翌年にマイナスからプラスに転じる年目を特定し、それに端数部分(プラスに転じるのに必要なキャッシュ・フロー÷その年のキャッシュ・フロー)を合算することで回収期間が求められます。
Excel関数上のポイントは、累計CFがプラスに転じる年を確認できる回収期間のセル(A案の場合はF5セル)にあります。複製する場合にはご参考ください。

(注1)AND(G4>0,F4<0),F2
翌年の累計キャッシュ・フロー(G4)がプラスで、当年の累計キャッシュ・フロー(F4)がマイナスなら、当年の年数を表示
(注2)IF(AND(ISNUMBER(E5),E5=E2),(F3-F4)/F3,””
そうでない場合は、前年の回収期間に数値が入っていて、それが前年の年目と同じであれば、 当年CFから累計CFを引いた金額を当年CFで割る
2)投資利益率法
【図表ダウンロード_WS:4(DL対応投資評価の例 (投資利益率法)】
投資利益もエクセルで計算しましょう。キャッシュ・フローの合計を年数で割ります。
Excel関数上のポイントは、期間に含まれるデータ個数を数えるのにCOUNT関数を使っています(A案の場合はC6セル)。複製する場合にはご参考ください。
‘=I3/(COUNT(C3:H3)-1)/(-C3)
ここで、0年目、投資年の1年分を引いているところを注意してください。5年間にわたって効果があるので5で割ります。その結果を、0年目のキャッシュ・フロー、つまり投資額で割ると、投資利益率が計算されます。
以上(2025年12月作成)
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