書いてあること

  • 主な読者:2024年度の注目すべき税務分野の改正を知りたい経営者、税務担当者
  • 課題:税務分野は改正が多いため、注目すべき話題に絞って把握したい
  • 解決策:「賃上げ促進税制の拡充」「交際費(社外飲食費)の金額基準引き上げ」「事業承継税制の特例承継計画等の提出期限を2年延長」に注目する

1 2023年度・2024年度の3大ニュース

2023年度は、消費税のインボイス制度の導入に伴う小規模事業者の急激な税負担の増加を軽減させる措置が取られた他、中小企業の積極的な研究開発を促進する「中小企業技術基盤強化税制」の適用期限の延長、「中小企業経営強化税制」の対象設備の一部見直しが行われるとともに、適用期限が2年延長されました。

2024年度は、「賃上げ促進税制」を適用するにあたり、子育て支援・女性活躍支援をした企業に対しては控除率が加算され、最大控除率が従来の40%から45%まで拡充されるとともに、赤字決算の中小企業に対する救済・賃上げの動機づけとして、5年間の「繰越控除制度」が導入されます。また、交際費の範囲から除外される社外飲食費の金額基準が引き上げられます。その他には、中小企業を中心とした事業承継を円滑に実行させることを趣旨とした「事業承継税制」につき、特例承継計画・個人事業承継計画の提出期限が2年延長されます。

2023年度と2024年度の税務3大ニュースは次の通りです。

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2 2023年度の総括

2023年度は、消費税の仕入税額控除の方式としてインボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入され、影響範囲の大きさから、大きな関心事になりました。このインボイス制度の導入対応として、各社においては請求書のひな形変更などに追われましたが、国税当局における事前の周知などもあり、おおむね順調にスタートしたといえそうです。ただし、今後は実務上の不明点・疑問点なども出てくると考えられるため、国税当局側から示されるQ&Aなどには注視するようにしましょう。

3 2024年度の主なニュース

1)賃上げ促進税制の拡充(中小企業向け)

前年比で給与等を増加させた場合に、法人税から一定の税額控除が受けられる「賃上げ促進税制」について、控除率の上乗せ措置が見直され、税額控除率が最大40%から最大45%まで拡大されることになりました。

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新設された上乗せ措置の要件の1つとなる「くるみん・プラチナくるみん」とは、子育てサポート企業として厚生労働大臣の認定を受けた会社に与えられるものです。また、「えるぼし・プラチナえるぼし」とは、女性活躍への取り組み状況が優れているとして、厚生労働大臣の認定を受けた会社に与えられるものです。具体的な説明は省略しますが、子育て支援・女性活躍支援をした企業に対しては、税務上のインセンティブ(控除率の上乗せ)が与えられることになります。

なお、賃上げ促進税制は、法人税を直接減額させる「税額控除」のため、赤字で法人税が生じない会社では、これまでは要件を満たしてもメリットを受けることができませんでした。今回の税制改正で、このような会社が制度を活用できるよう新たに「繰越税額控除」制度が導入されます。

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これにより、赤字であっても翌事業年度以降にメリットを受けられる可能性があるため、控除額に必要な資料などを整理しておくようにしましょう。

2)交際費(社外飲食費)の金額基準引き上げ

交際費は限度額を超えると損金(税務上の費用)に算入できませんが、社外飲食費で1人あたりの金額が一定基準以下であれば交際費とせず、会議費などとして損金に算入できます。この一定基準は今まで5,000円/1人でしたが、これが2024年4月1日以降の支払いから10,000円/1人に引き上げられます。

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なお、金額基準以下で会議費として処理できるのは、得意先その他の社外の人に対する接待飲食などに関連するものに限られ、役員や従業員のみの社内飲食費(全従業員参加の懇親会のような福利厚生費となるものは除く)は対象とならず、金額に関わらず交際費となるので注意しましょう。

3)事業承継税制の特例承継計画等の提出期限を2年延長

事業承継税制とは、特例承継計画などを提出した場合、事業承継時の贈与税・相続税の納税が猶予・免除される制度です。この特例承継計画等については、2024年3月末をもってその提出期限を迎える予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響の長期化などによって経営者の事業承継が遅れているため、この期限が2026年3月末まで延長されます。

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なお、「提出期限」は延長されるものの、「適用期限」は従来のままで延長されない見込みなので注意しましょう。

4 今後の対応について

2024年度においても、今回ご紹介した制度の他、中小企業の中堅企業への成長を後押しする税制など、各趣旨のもとで多くの税制改正が予定されています。税法上の優遇措置は、適用することによって大きな効果をもたらす一方、適用するための要件が厳格に定められているため、適用する上での理解を誤っていたり、必要な書類をそろえていなかったりすることで、税務調査で指摘され、思わぬ税負担を強いられることもあります。そのため、特に改正された規定については早めに準備を進めるとともに、適用する上での判断その他について迷いがある場合には、税理士などの専門家に相談し、適切に手続きを進めることが重要です。

以上(2024年3月作成)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:Artur Szczybylo-shutterstock

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