書いてあること
- 主な読者:新しい形の福利厚生を模索している経営者、労務担当者
- 課題:社員が特別休暇(夏季休暇など)を使わない場合、その休暇を買い取ろうと思うが、どの程度ニーズがあるのか分からない
- 解決策:独自アンケートによると、実は経営者よりも社員のほうが買い取りに前向き。ただ、「休暇として取得しづらくなる可能性」などには注意
1 これからは「休む」「休まない」も個人の自由?
2024年6月、神奈川県横浜市が「市営バスの運転手が夏季休暇を返上する場合、特別手当を支給する制度」を開始したことがニュースになりました。2024年問題などで運転手不足が深刻化する中、「夏季休暇の買い取り」を実施し、これを解消しようというのが市の意図です。
夏季休暇とは、一般的には7~9月の間に与える休暇のことで、
法律で定められた「法定休暇」ではなく、会社が独自に実施する「特別休暇」に該当
します。法定休暇の代表格である年次有給休暇(年休)は、社員の疲労回復やリフレッシュの観点から、「買い取りは基本的に不可(休暇として与えるのが原則)」とされていますが、
特別休暇は会社独自の制度なので、これを買い取るルールを設けることは特に問題ない
と考えられています(ただし、就業規則等への定めは必要です)。
少し前までは、働き方改革の名の下、「とにかく社員を休ませることが大事」という風潮がありましたが、最近は「働きたい人が自分の意思で働くのは自由」という声もよく聞きます。そういった意味で「特別休暇の買い取り」は今後、新しい形の福利厚生になる可能性があります。ただ、「実際のところ、どの程度社員にニーズがあるの?」と気になる人も多いでしょう。
そこで、この記事では、経営者303人と社員313人それぞれに独自アンケートを実施し、「特別休暇の買い取りに賛成か、反対か」や、その理由などを聞きました。すると、
買い取りに「賛成」の人の割合はそれぞれ、経営者が38.3%、社員が66.5%となっていて、実は社員のほうが買い取りに前向きであること
が分かりました。以降でアンケート結果の詳細を紹介します。早速見ていきましょう。
2 「特別休暇の買い取り」に関するアンケート結果
経営者303人と社員313人に対し、「特別休暇の買い取り」に関するアンケート調査を実施しました(実施期間は2024年7月16日から7月17日まで)。
1)特別休暇の買い取りについてどう思う?
まず、回答者全員に、特別休暇の買い取りに「賛成」か「反対」かを聞きました。
前述した通り、実は経営者よりも社員のほうが、買い取りに前向きのようです。
2)特別休暇の買い取りに「賛成」の理由は?
1)で特別休暇の買い取りに「賛成」と答えた人に、その理由を聞きました。
経営者も社員も「忙しい人にとってはありがたい制度だと思うから」が1位、「働き方・休み方の幅が広がるから」が2位となっています。
会社として、社員が過重労働などにならないように配慮するのは当然ですが、「忙しくて休めないなら、代わりに金銭で補填するのも1つの方法」「働きたい人が自分の意思で働くのは自由」という感覚は、経営者と社員である程度一致しているようです。
3)特別休暇の買い取りに「反対」の理由は?
1)で特別休暇の買い取りに「反対」と答えた人に、その理由を聞きました。
経営者も社員も「休暇の意味がなくなりそうだから」の割合が圧倒的に高くなっています。
法定の年休については、前述した通り「社員の疲労回復やリフレッシュを図るなら、買い取らずに休暇として与えるべき」というのが基本的な考え方ですが、特別休暇についても同じように考える人が多いようです。
4)特別休暇を買い取るとしたら「いくら」?
1)で特別休暇の買い取りに「賛成」と答えた人に、買い取り金額はどの程度が妥当だと思うかを聞きました。
経営者も社員も「1日働いた場合の賃金と同じ」の割合が圧倒的に高くなっています。一方、「1日働いた場合の賃金よりも多く」の割合は、社員のほうが経営者よりもやや高く、仮に福利厚生として実践するのであれば、このあたりのニーズをくむのも1つの考え方です。
なお、1日当たりの賃金額は社員ごとに異なる可能性がありますが、冒頭で紹介した横浜市のケースでは、「1日当たり1万円」という定額での買い取りを実施しているようです。
3 特別休暇の買い取りは、あくまで社員主導で行う
前述した通り、特別休暇は法律の制度ではないので、会社が就業規則等で自由にルールを決められます。とはいえ、例えば「会社は社員の意思に関係なく、休暇を買い取ることができる」といった、休暇制度を有名無実化させるような運用はトラブルになりかねません。
特別休暇の買い取りは、社員が希望する場合にのみ実施する
など、買い取りについては社員が選択できる制度設計にしておきましょう。
なお、本アンケートでは、特別休暇の買い取りに前向きな社員が多かったですが、このあたりの傾向は、会社によって異なる可能性があります。実施を検討する場合、自社の社員のニーズをアンケートなどで調査し、制度設計について社会保険労務士などの専門家に相談した上で行うようにしてください。
以上(2024年8月作成)
pj00719
画像:Vadym-Adobe Stock