書いてあること
- 主な読者:「ハラスメント」と言われるのが怖くて、部下の指導などに消極的な上司
- 課題:上司にとっては悪気のない言動が、部下にハラスメントと受け取られるケースがある
- 解決策:荒い言葉遣いや容姿に触れる発言を、ハラスメントにならない言い方に変換する
1 ハラスメントと言わせない指導をお手伝いします
部下の指導は上司(管理職)の仕事。とはいえ、部下との関係が浅いうちに少し突っ込んだ指導をすると「ハラスメント!」と言われかねません。「そんなつもりはないのに……」と言いたいことも言えなくなってしまった経験もあるかもしれませんが、ご安心。
以降で、ハラスメントになる問題発言と、それをホワイト発言に変換した例を紹介するので、どこがいけないのか確認してみてください。この記事を読めば、
ハラスメントと言わせない指導
に一歩近づきます!
早速、パワハラ(パワーハラスメント)、セクハラ(セクシュアルハラスメント)、マタハラ(マタニティハラスメント)の順番で確認していきましょう。
2 パワハラ発言になりやすい言い方、なりにくい言い方
パワハラは、職場の優越的な関係(上司と部下など)を背景に、業務上必要のない(または行き過ぎた)言動によって相手を傷付けるハラスメントです。パワハラになりやすい言い方、なりにくい言い方の例は次の通りです。
赤字が問題発言です。退職をにおわせる発言(1.と2.)、相手を侮辱する言葉(3.と4.)は、パワハラの典型例です。短時間で仕事を終わらせることを強制する(5.と6.)、部下から仕事を取り上げる(7.)というのも、部下の業務量や納期の状況などによってはパワハラになります。「自分は正論を言っているから」と部下の言い分に耳を傾けない(8.)、休日や休暇などのプライベートに干渉する(9.と10.)というのもリスキーです。仲間はずれにしたり(11.)、業務外の場面で特定の役割を強要したりする(12.)のも慎みましょう。
これを踏まえ、図表右側の「パワハラになりにくい言い方」に言い換えていきます。ポイントは次の通りです。
- 1.のセリフ:何ができていないのかを明確にしつつ、できていることは評価する
- 2.のセリフ:「新人のお手本になる」というポジティブなメッセージに言い換える
- 3.のセリフ:部下の勉強不足は事実として指摘しつつ、改善策も示す
- 4.のセリフ:上司の指示に問題があったことは素直に認め、その上で部下に改善を促す
- 5.のセリフ:残業を認めない理由を伝え、仕事を引き取った上で部下を帰らせる
- 6.のセリフ:仕事の目標時間と併せて、目標を達成するためのヒントも伝える
- 7.のセリフ:安易に仕事を取り上げず部下にやらせつつ、次回の目標を設定する
- 8.のセリフ:教えたことのヒントを与えて、部下自身に思い出させる
- 9.のセリフ:休日の過ごし方には干渉せず、遅刻したことについてのみ注意する
- 10.のセリフ:有給休暇の取得は妨げず、一方で休み明けにやるべきことは伝える
- 11.のセリフ:親睦会を任意参加にして、参加するかどうかは部下自身に決めさせる
- 12.のセリフ:部下にもメリットがあることを伝え、「命令」ではなく「お願い」する
3 セクハラになりやすい言い方、なりにくい言い方
セクハラは、身体的な接触や性的な言葉によって相手を傷付けたり、相手がこうした言動を拒否した場合に評価を下げるなどの嫌がらせをしたりするハラスメントです。セクハラになりやすい言い方、なりにくい言い方の例は次の通りです。
赤字が問題発言です。相手の容姿の特徴を指摘する発言(1.と2.)、恋愛や結婚など個人のプライベートに干渉する発言(3.と4.)、下心があると受け取られそうな発言(5.と6.)、「女性らしい」「男のくせに」など性差を強調する発言(7.と8.)は、セクハラと受け取られがちです。愛称やおばさん、お嬢さんなどと呼ぶ(9.と10.)のも、避けたほうが無難です。相手の体調を気遣う発言(11.と12.)は、業務上必要であっても、周囲に社員がいる状況などでは言い方に配慮が必要です。
これを踏まえ、図表右側の「セクハラになりにくい言い方」に言い換えていきます。ポイントは次の通りです。
- 1.のセリフ:容姿の特徴的な部分を指摘するのではなく、容姿全体を褒める
- 2.のセリフ:「雰囲気が変わった」「健康的」など、オブラートに包んだ表現にする
- 3.のセリフ:具体的な休暇の過ごし方には触れず、楽しんでくるようにとだけ伝える
- 4.のセリフ:「年齢」「結婚」に関するワードを使わずに、不安なことがないかを聞く
- 5.のセリフ:部署の集まりであることを伝え、個人的な誘いと疑われないようにする
- 6.のセリフ:部下の声や話し方が「仕事にどう役立っているか」という視点で褒める
- 7.のセリフ:「女性らしい」というワードが、具体的に何を意味するかを考える
- 8.のセリフ:個性を尊重しつつ、「元気があるとさらにいい」と遠回しに伝える
- 9.のセリフ:職場の風土などにもよるが、「○○さん」などの呼称で統一する
- 10.のセリフ:「○○さん」、名前が分からない場合は「清掃員さん」などと呼ぶ
- 11.のセリフ:「生理痛」「更年期」というワードを使わずに、体調不良を気遣う
- 12.のセリフ:「肌荒れ」というワードを使わずに、疲労が見えることを指摘する
4 マタハラになりやすい言い方、なりにくい言い方
マタハラは、妊娠等(妊娠や出産、育児休業の取得など)をした相手を傷付ける発言をしたり、育児休業などの取得を理由に評価を下げるなどの嫌がらせをしたりするハラスメントです。マタハラになりやすい言い方、なりにくい言い方の例は次の通りです。
赤字が問題発言です。妊娠・出産等への否定的な発言はマタハラの典型例です(1.)。また、相手を気遣ったつもりでも、退職や雇用形態の変更をにおわせる発言(2.と3.)、仕事を一方的に取り上げる発言(4.)、育児休業を取りにくくなる発言(5.と6.と7.)などは、マタハラと受け取られがちです。部下を必要としていないように取れる発言(8.)、育児休業中の過ごし方などに干渉する発言(9.と10.)、職場に復帰したばかりの部下を焦らせるような発言(11.)にも注意しましょう。なお、マタハラは、社員が妊娠・出産等で「働けない」ことを理由に行われるイメージがありますが、「働いている」ことを理由に行われる発言(12.)もマタハラになり得ます。
これを踏まえ、図表右側の「マタハラになりにくい言い方」に言い換えていきます。ポイントは次の通りです。
- 1.のセリフ:部下のつらさに寄り添って、安心できる言葉をかける
- 2.のセリフ:「復帰が大変」という話ではなく、「復帰のサポート」に関する話をする
- 3.のセリフ:育児休業を取得しても、部下に不利益がないことを強調する
- 4.のセリフ:妊娠中の業務について部下の要望を聴く(医師の指示がある場合はそれも)
- 5.のセリフ:育児休業は、子どもを育てるための大切な休みであることを強調する
- 6.のセリフ:家族のサポートを受けられるか、柔らかい言い方で確認する
- 7.のセリフ:育児休業を取ることに「謝罪」は不要、「感謝」をするよう伝える
- 8.のセリフ:部下が職場に戻ってくるのを待っていることを強調する
- 9.のセリフ:育児休業中の連絡は原則せず、する場合も必要最低限にとどめる
- 10.のセリフ:育児休業中の勉強は強制しない、プレッシャーがかかる言い方も避ける
- 11.のセリフ:育児休業中のブランクに配慮して、徐々に仕事の感覚を取り戻させる
- 12.のセリフ:自分の中の子育てのイメージを押し付けず、ポジティブな言葉をかける
以上(2024年4月更新)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)
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