書いてあること

  • 主な読者:高齢社員(おおむね60歳以上)の働き方について検討中の経営者や労務担当者
  • 課題:何歳まで雇用するか、賃金はいくらに設定するかなどの方針を決めあぐねている
  • 解決策:法令遵守は大前提。2024年度以降の法改正の動向を押さえた上で方針を決める

1 法改正の動向を押さえつつ、自社の方針を決めよう

人手不足に悩む経営者にとって、高齢社員の活用はぜひ、検討したいところです。特に2024年度以降は、厚生年金保険法や高年齢者雇用安定法について

  1. (2024年4月~)在職老齢年金の支給停止調整額が「48万円→50万円」に引き上げ
  2. (2025年4月~)高年齢雇用継続給付の最大給付率が「15%→10%」に引き下げ
  3. (2025年4月~)希望者全員を65歳まで継続雇用することが義務化

といった具合に法改正が続きます。これからの高齢社員の働き方も変わってくるでしょうから、法改正の動向をしっかり押さえた上で、雇用の方針を決めましょう。

以降で上記3つの法改正の概要を紹介した上で、今後の高齢者雇用を考える際のポイントを紹介します。また、高齢者雇用に関する参考記事も併せて紹介するので、ご確認ください。

2 高齢社員に関する3つの法改正

1)(2024年4月~)在職老齢年金の支給停止調整額が「48万円→50万円」に引き上げ

在職老齢年金とは、

働きながら老齢年金をもらうと、年金額がカットされることがあるという制度

です。厚生年金保険に加入しながら老齢年金をもらう60歳以上の社員が対象で、賃金(賞与を含む)と年金の合計額が「支給停止調整額」というボーダーラインを超えると、十分な収入があるとみなされ、老齢年金の一部または全額が支給停止となる仕組みです。

せっかく働いても年金が減ってしまうので、以前はこれを避けようと就業調整する人が少なくなく、人手不足の会社などから不満の声が多く上がりました。こうした問題を解決するため、

2024年4月から、ボーダーラインである支給停止調整額が「48万円→50万円」に引き上げ

られました。具体的には、

  • 基本月額(1年間の年金額÷12)と、総報酬月額相当額(毎月の賃金額+1年間の賞与額÷12)の合計額が50万円以下の場合、老齢年金は全額支給される
  • 合計額が50万円を超える場合、超えた分の1/2の額が年金から差し引かれる

という仕組みになっています。なお、支給停止を受けるのは老齢年金のうち老齢厚生年金(厚生年金保険)だけで、老齢基礎年金(国民年金)は対象になりません。

画像1

2)(2025年4月~)高年齢雇用継続給付の最大給付率が「15%→10%」に引き下げ

高年齢雇用継続給付とは、

賃金が「60歳時点の75%未満」に低下した状態で働く場合に支給される雇用保険給付

です。雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある、60歳以上65歳未満の社員が対象です。

再雇用制度(定年退職後に、パートや嘱託として再雇用すること)で契約を結び直すと、定年前と比べ賃金がガクッと下がることがあります。こうした場合に、社員の仕事へのモチベーションが下がらないよう、高年齢雇用継続給付が減った分の賃金を補填するわけです。

ただ、この高年齢雇用継続給付は、

2025年4月から、最大給付率が「15%→10%」に引き下げ

られることが決まっています。例えば、60歳以降の賃金が20万円の場合、改正前は高年齢雇用継続給付を最大3万円もらえたのが、改正後は最大2万円しかもらえなくなるわけです(年間で12万円のマイナス)。ただし、受給者が1965年4月1日以前生まれの(2025年3月31日までに60歳を迎える)場合、原則として現行法が適用され、最大給付率15%のままで支給されます。

画像2

3)(2025年4月~)希望者全員を65歳まで継続雇用することが義務化

会社は高年齢者雇用安定法により、社員を65歳まで雇用するために

  • 定年の引き上げ(65歳まで)
  • 定年制の廃止
  • 継続雇用制度(65歳まで)の導入 ※前述した再雇用制度も継続雇用制度の一種

のいずれかの措置(雇用確保措置)を実施する義務があります。これを「65歳までの雇用確保」といいます。

このうち継続雇用制度(65歳まで)については、労使協定(2012年度以前に締結されたものに限る)により、老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢以上の社員を、継続雇用の対象から除外すること(雇用確保義務に対する経過措置)が認められていました。しかし、2025年3月をもってこの経過措置は終了し、

2025年4月から、定年後も働くことを希望する社員は全員、継続雇用(65歳まで)の対象

になります。

画像3

3 これからの高齢者雇用をどう考える?

1)定年引き上げ(または定年制の廃止)か、継続雇用か?

現在、定年を60歳に設定している会社が、社員を65歳まで雇用する場合、「定年の引き上げ(65歳まで)」「定年制の廃止」「継続雇用制度(65歳まで)の導入」のいずれかで対応します。

広く浸透しているのは、継続雇用制度の一種である再雇用制度ですが、この制度は

定年をきっかけに労働契約をまき直し、雇用形態がパートや嘱託になることで、待遇が大きく変わり、それが原因で会社と社員がトラブルになるケース

が少なくありません。定年引き上げ(または定年制の廃止)で対応する場合、退職金の在り方や賃金カーブの見直しなどの課題はありますが、一方で労働契約のまき直しが不要なため、待遇をめぐるトラブルのリスクを低減できる可能性があります。

なお、会社が社員を雇用する義務を負っているのは65歳までですが、その後も努力義務ではあるものの、社員に70歳まで働ける機会を与えることが求められています。これを「70歳までの就業機会確保」といいます。こちらは自社で雇用する以外に、他社で再就職させたり、フリーランスとして契約を締結してもらったりといった選択肢(創業支援等措置)もあります。

画像4

高齢者雇用の基本的な考え方については、次の記事をご確認ください。

2)高齢社員の待遇は、何を考慮して決めるべきか?

定年後の社員を再雇用する場合、賃金は定年前よりも下がるのが一般的ですが、

「パートや嘱託だから」というだけで賃金を下げるのは、同一労働同一賃金違反

です。仕事内容や役職、労働時間、責任、ノルマなどが定年前とどう変わるのかを考慮した上で、待遇を決めるようにしないといけません。

社員が60歳以降も厚生年金保険に入ったまま働く場合、在職老齢年金にも注意しましょう。法改正でボーダーライン(支給停止調整額)が引き上げられたとはいえ、高所得であればあるほど老齢年金のカット幅が大きくなるのは変わりません。カットされた分の年金は退職後も戻ってきませんから、賃金設計を考える際は確認が必要です。

また、賃金が「60歳時点の75%未満」に低下する場合、高年齢雇用継続給付の支給対象になりますが、こちらは前述した通り、最大支給率の引き下げが予定されています。将来的には廃止される見通しなので、会社としてはこの給付をあてにしない賃金設計をすることが大切です。

あと、もう1つ注意しておきたいのが、社員の社会保険料の負担です。定年後は社会保険に加入するパターンが複数あり、「会社の健康保険に入るのか」「任意継続の制度を利用するのか」などによって、保険料負担が変わってくるのです。

高齢社員の待遇については、次の記事をご確認ください。

3)健康に無理なく働いてもらうためには、どうすればいいか?

高齢社員に働いてもらう上で、特に気になるのは「健康」でしょう。人間は基本的に加齢によって身体機能が変化するので、高齢社員は若手社員よりも労働災害に遭いやすい傾向にあります。例えば、身体のバランス能力に支障を来し、障害物にぶつかったり転倒したりして、骨折などに至るケースは珍しくありません。

実際、60歳以上の男女別の労働災害発生率は、30代と比較して男性が約2倍、女性が約4倍です。また、年齢に着目した場合、「転倒」「墜落・転落」は高年齢になるほど労働災害発生率が上昇します。特に60歳以上の女性の転倒による骨折などは、20代女性の15倍にも上ります(厚生労働省「令和5年高年齢労働者の労働災害発生状況」)。

高齢社員の多くは、「自分はまだ若い」と思っているケースが少なくないので、健康診断や体力テストで自分の体の状態を正しく理解してもらうことが大切です。また、時短勤務やフレックスタイム制、在宅勤務制度、あるいは労働時間の枠にとらわれないフリーランスなど、加齢に合わせて自分のペースで稼働できる働き方を提案してみるのもよいでしょう。

高齢社員の健康を考慮した働き方については、次の記事をご確認ください。

以上(2024年7月作成)

pj00718
画像:folyphoto-Adobe Stock

Leave a comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です