書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:最近話題のZ世代(1990年代後半以降生まれで企業においては20代前半くらいまで)だけでなく、それ以前の平成生まれ(30代前半くらいまで)の世代と、現在経営や管理職を担っている昭和世代との世代間ギャップが注目されています。それは価値観の違いやコミュニケーションの違いとして表れ、変化や多様性が求められる昨今、日本企業において深刻な経営の足かせとなりつつあるようです
  • 解決策:まず企業においてZ世代を含む平成生まれと昭和生まれの世代背景を整理しながら、ギャップを埋めるための「価値観の変化」を明らかにします。その上で、筆者が多くの講演や企業研修で紹介してきた『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』を実践的に指南します

1 昭和のコミュニケーションを見直すべき1つ目の理由は「現場との世代ギャップ」

職場でリーダーと呼ばれる立場の人たちには、チームや課や部といった組織を文字通りリードしたり、マネジメントしたりする役割が求められています。

組織は人でできており、そのパフォーマンスは属する一人ひとりが互いに関わりながら付加価値を生み出していくことで決まります。そこにはコミュニケーションが欠かせません。

メンバー同士のヨコのコミュニケーションも重要ですが、日々のマネジメントにおいて、リーダーとメンバーとの間のいわゆるタテのコミュニケーションは、組織のパフォーマンスに大きな影響を及ぼします。

しかし、日本企業においてタテのコミュニケーションに危機が訪れています。理由は2つあって、1つ目はリーダーと「現場との世代ギャップ」です。

日本企業は、1955年以降の高度成長期を終身雇用制と年功序列の下に経験してきました。ところが1980年代後半からのバブル経済をピークに、それが崩壊した1991年以降は低成長の時代がずっと続いています。少子高齢化や定年制の延長も相まって、多くの日本企業では、中高年代が多く若手が少ない逆ピラミッド構造になっています。

そして30代後半~50代が占める管理職のほとんどは昭和生まれ(1988年まで、大卒で35歳くらい以上)であり、現場を任されている平成生まれ(35歳以下)とは、幼少期から過ごしてきた環境や教育が全くと言っていいほど異なっているのです。

2 平成以降の価値観は「丁寧な指導/褒める/傾聴」や「個性の尊重/助け合い」

あるアンケートによれば、新入社員が理想とする職場像、上司像はこの10年で大きく変化しているそうです。

理想の上司像として低下している項目は、低下幅が大きい順に「仕事に情熱を持って取り組む」「周囲を引っ張るリーダーシップ」「言うべきことを言い、厳しく指導する」など。上昇している項目は、上昇幅が大きい順に「一人ひとりに丁寧に指導する」「よいことやよい仕事を褒める」「相手の意見や考え方に耳を傾ける」などでした。

理想の職場像として低下している項目は、同じく「活気がある」「互いに鍛え合う」「みんなで1つの目標を共有する」など。上昇している項目は「互いの個性を尊重する」「互いに助け合う」などでした。

キーワードを拾うと、低下しているのが「情熱/引っ張る/厳しい」「活気/鍛え合う/目標の共有」、上昇しているのが「丁寧な指導/褒める/傾聴」「個性の尊重/助け合い」となります。

昭和時代を生きてきた上司の世代にとっては「情熱/引っ張る/厳しい」「活気/鍛え合う/目標の共有」が理想とされてきた価値観であり、「丁寧な指導/褒める/傾聴」「個性の尊重/助け合い」は推奨されてこなかった、むしろ避けられてきた価値観ではないでしょうか。

昭和世代は、終身雇用制と年功序列で約束されたポストと未来を信じて、丁寧な指導もないままに失敗を繰り返し、上司に叱られながら働いてきました。褒められた経験などほとんどありません。上からの命令は絶対で、今なら完全アウトのパワハラまがいの日常に、個性を押し殺して耐え忍んできたのです。

一方で、平成以降の世代は少子化の中で、個別指導や個性重視の教育を受けてきました。“褒めて伸ばす”を合言葉に、昭和世代とは逆に大きな失敗の経験も叱られた経験もほとんどありません。互いが平等で、競争よりも困った仲間がいれば助け合う、それが当たり前の日常で、価値観です。

一般に、一人の人間の価値観は成人する頃にはでき上がり、以降は年齢を経るにつれて固まり強化される一方だといわれます。社会人として最初に身に付いてしまった価値観は、容易には変えられません。結果として、目の前で大きな変化が起きていようと認めようとせず、わずかに残る昔の価値観を探し出しては変われない自分を正当化してしまうのです。

世代間のギャップは、平成・令和世代が今の昭和世代と同じくらいの年齢になっても、次の世代に対して感じることなのでしょう。若い世代も人ごとではありません。

少なくとも組織においてリーダーとなる人たちは、世代間の価値観のギャップとしっかりと向き合い、メンバーの目線に合ったリーダーシップやマネジメントへとアジャストしていく必要がありそうです。

3 コミュニケーションを見直すべき2つ目の理由は「世界とのギャップ」

日本企業のリーダーが昭和のコミュニケーションを見直すべき2つ目の理由は、「世界とのギャップ」です。

大きな背景としては申し上げるまでもなく、国内の少子高齢化によるマーケットの縮小が挙げられます。事業が国内で完結している、あるいは海外比率が少ない状態なら、日本は日本のやり方で成長していけばよかったのですが、そうはいかなくなったのです。

海外に市場を求める必要に迫られ、人材採用において国内の人手不足による売り手市場と海外進出に必要な人材獲得の2つの意味で向き合うことになりました。

しかしながら、バブル経済後から続く低成長の影響で相対的な円の価値は下落し、日本の給与水準は世界的に見て高いとは言えないレベルになっています。

高度人材だけでなく、サービス業などの分野においても給与で日本企業を選ぶ外国人は減り続けています。以前から指摘されている日本語習得の難しさも原因の1つと聞きます。日本人の専門知識や語学力のある優秀な人材さえ、ビジネスチャンスや好待遇を求めてどんどん海外に流出しているのです。

日本企業のリーダーが、国内だけを見ていればよかった時代はとうに終わっています。むしろ「世界とのギャップ」は広がっていくばかりです。ここでも変わりゆく世界の価値観を理解し、アジャストしていかなければなりません。

たとえばセクハラやパワハラなどのハラスメントへの厳しい目、すでに常識となりつつあるDEI(ダイバーシティ:多様性、エクイティ:公平性、インクルージョン:包括性)という価値観、企業の社会的存在としてのSDGsやESGといった価値観など。

さまざまな分野におけるイノベーションも価値観の変化を革新的に迫ってきています。最近でいえば「生成AI」などが代表でしょう。

「生成AI」は2022年11月末に公開され、2023年は年明けから対話だけでなく、画像生成、音楽生成などの分野でも大きな話題となり、開発と規制の是非が世界的に議論されています。

ところが2月に実施された日本の経営者に向けたあるアンケートでは、約6割が生成AIの存在を知らないと答えていました。こんな状態では、日本企業のリーダーが「世界とのギャップ」を埋めることは容易ではないといえるでしょう。

4 2つの価値観のギャップを埋めるヒントは、メンバーとのコミュニケーションに

立派な次世代のリーダーとなるためには、「現場との世代ギャップ」「世界とのギャップ」を埋めていく必要がありそうです。

では具体的に、どんなことに取り組めばいいでしょうか。

「世界とのギャップ」を埋めるためには、まず日常的に目を外に向けて、自身の従来の価値観に縛られずに広く情報収集を怠らないことです。何でも一度は体験するなり吸収してみる。その上で自分なりの感想や考え方を持って追い続けることが重要です。

かくいう私も早々に生成AIサイトに登録し、いろいろと試しつつ自分なりに考えてみました。今回もこのシリーズの企画書を付けた上で、「第1回のタイトルを、読者にぐっと刺さる感じで20字以内で10個考えて」と聞いてみました。

A4で1枚くらいある企画書をいつの間に読み込んだのでしょう。わずか数秒でまるで魔法のように異なる10案が生成されました。一つひとつ切り口や言葉のチョイスが異なり、私1人では出てこなかっただろう表現もありました。が、最終的には自分がオリジナルで考えたものを採用しました。結局ピンとくるものがなかったからです。

生成スピードには驚かされつつも、精度はまだまだかなという印象でしたが、案自体がとても参考になったのも事実です。片や生成AIは平気で嘘をつくマイナス面などが指摘されています。あくまでの過去データからの学習ですし、最新情報を教師データとして提供しない限りアップデートもしてくれません。

とはいえAIは人間と違って24時間、365日、猛スピードで学び続けます。あっという間に嘘のない、高い精度の案をいくつも提案してくれるレベルに成長するでしょう。すでに対話だけでなく、画像・動画・音楽・3D・プログラミングやアプリ開発の分野まで、誰にでもアプローチできる世界を作り出しています。

さて、日常的に目を外に向けて広く情報収集を怠らないことで、「世界とのギャップ」は少しずつ埋めていくことはできそうですが、「現場との世代ギャップ」はどうでしょう。

例えば生成AIについても、昭和世代のマネジメントよろしく、部下に対して「生成AIを知っているか。私が使ってみたらこうだった、だから仕事ではこう使え」と上意下達で指示命令を出しますか。

彼らに本音を聞けば、「とっくに使ってみて、メリットとデメリットもわかっていますよ」と答えるかもしれません。ネットやSNSの時代です。昭和世代よりも平成・令和世代のほうが新しい価値観、世界のトレンドをキャッチするスピードは速いのです。

であるならば素直に彼らに聞いてみてはどうでしょう。「世界とのギャップ」と同時に「現場との世代ギャップ」も埋まっていくことと思います。メンバーとのコミュニケーションを深めることは、2つの意味でリーダーの価値観のギャップを埋めることにつながるのです。

最後までお読みいただきありがとうございました。次回は、今回お話しした2つの価値観のギャップを埋めるためのキーワードをご紹介していきたいと思います。

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以上(2023年7月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
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