書いてあること

  • 主な読者:社員の資産形成をサポートするために、職場つみたてNISAの導入を検討している経営者・人事労務担当者
  • 課題:そもそもどういう制度なのかがよく分からない。iDeCo+(イデコプラス)など他の制度と比較してどうなの?
  • 解決策:会社が社員のNISA口座の開設や株式などの購入手続きを支援する。投資金額の一部を会社が支援することも可。投資可能額が大きく、途中引き出しもできる

1 「人生100年時代」の資産形成……社員をどうサポートする?

「人生100年時代」ともいわれる現代において、長い老後生活に向けた資産形成はますます重要になってきています。社員の資産形成をサポートする会社も少なくありません。

かつては資産形成のサポートというと、退職金制度一択でしたが、「定年まで同じ会社で働く」という価値観が薄れている昨今、退職金制度の存在意義を疑問視する声もあります。

そのような状況で、社員の資産形成をサポートする方法として注目されているのが「職場つみたてNISA」です。「職場つみたてNISA」は、2024年1月に実施予定のNISA制度の改正もあり、社員にとってメリットが大きい制度となっています。

そこで、この記事では

  • 職場つみたてNISAがどういう制度なのか
  • どういう社員が多い会社に職場つみたてNISAが向いているのか

をNISAに詳しくない人にも分かりやすく解説します。2024年1月の改正内容やiDeCo+(イデコプラス)との比較についても紹介するので、ぜひご確認ください。

2 そもそも「NISA」って何なの?

「職場つみたてNISA」に触れる前に、まずは「NISA」について簡単に説明します。

NISAとは、「NISA口座」と呼ばれる口座を使って個人が株式投資などを行った場合、毎年一定金額の範囲内で得た利益が非課税になる(税金がかからなくなる)制度のこと

です。

通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかります。例えば、100万円で購入した株を120万円に値上がりしたタイミングで売却した場合、利益20万円(120万円-100万円)に対して約4万円(20万円×約20%)の税金がかかるイメージです。しかし、NISA口座で投資すれば利益が非課税になるため、約4万円の税金は発生せずに、利益20万円を全て受け取れます。

また、NISAは年間投資可能額や非課税期間、対象年齢などによって「一般NISA」「つみたてNISA」「ジュニアNISA」の3種類に分かれおり、このうち一般NISAとつみたてNISAが、この後紹介する「職場つみたてNISA」に対応しています。

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 一般NISAは、年間投資可能額が120万円と高額ですが、非課税保有期間は5年間と短くなっています。一方で、つみたてNISAは年間投資可能額が40万円と低額ですが、非課税保有期間は20年間と長いことが特徴です。

3 職場つみたてNISAとは?

さて、ここから本題の職場つみたてNISAについて見ていきます。職場つみたてNISAとは、会社が、社員のNISAを使った資産形成を支援する制度です。通常、NISAは個人が口座開設手続きや投資商品の購入手続きを行いますが、

職場つみたてNISAとは、会社が社員のNISA口座の開設や株式などの購入手続きを支援することが特徴

です。

まず、会社は証券会社などのNISA取扱事業者と契約し(契約時に一般NISAか、つみたてNISAのいずれかを選択)、NISA取扱業者が社員に対して説明会等を実施します。社員は任意でNISA口座を開設し、NISA取扱業者が選定する金融商品の中から投資対象を指定して、投資を行うという仕組みです。

指定した金融商品は毎月同額購入します。投資資金は、給与天引や口座引落で支払います。なお、会社が「奨励金」として投資金額の一部を支援することも可能です。奨励金制度を設ければ、社員が職場つみたてNISAを利用するメリットはより大きくなるでしょう。

1)職場つみたてNISAの特徴

職場つみたてNISAの特徴は次の通りです。

  • 職場で相談できるため、NISAを始めやすい
  • NISA取扱業者から情報提供が受けられる
  • 自動で長期分散投資ができる
  • 少額から投資を始められる
  • いつでも引き出せる
  • 福利厚生として始めやすい
  • 奨励金は損金になる

職場つみたてNISAの最大の特徴として、職場で説明会などを実施するため、社員同士での相談がしやすく、資産形成に取り組むハードルが低いことが挙げられます。また、基本的に毎月同額を積み立てるため、長期的な分散投資が可能です。

さらに、職場つみたてNISAで運用するお金は社員が好きなタイミングで自由に引き出せます。他にも、会社が奨励金を出す場合、奨励金を全額損金として計上できるのも会社にとってはメリットです。

2)どういう会社に向いているの?

職場つみたてNISAは比較的簡単に導入できる福利厚生制度で、人材不足や社員の離職に悩む会社、若い社員が多い会社などにおすすめです。イメージは次のような会社です。

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3)どうすれば導入できるの?

次に、実際に職場つみたてNISAを導入する場合の手続きを見ていきましょう。日本証券業協会が公表する導入までのスケジュール例は次の通りです。あくまで例ですので、実際に導入する際は、金融庁や職場つみたてNISAを取り扱う金融機関に相談してください。

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金融庁や金融機関から詳細は案内されるため、基本的には案内に沿って導入手続きを進めます。利用規約等は日本証券業協会ウェブサイトにひな型があるので、参考にするとよいでしょう。なお、スケジュール例の通り、導入までにある程度時間がかかることに注意してください。

4)2024年1月から制度はどう変わる?

現在、職場つみたてNISAは「一般NISAか、つみたてNISAのいずれか」を会社が制度導入時に選択する仕組みになっています。この仕組みが2024年1月から変わります。具体的には、

一般NISAが「成長投資枠」に、つみたてNISAが「つみたて投資枠」に名称変更され、両者を併用することが可能

になります。つまり、制度導入時に一般NISAかつみたてNISAかの選択で迷う必要がなくなるのです。

5)職場つみたてNISAとiDeCo+、どっちがいい?

社員の資産形成サポートで、よく話題に上がるのが「iDeCo+(イデコプラス)」です。

iDeCo+とは、社員が自分で掛金を拠出する個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」に、会社が追加して掛金を拠出できる中小企業限定の制度

で、正しくは「中小事業主掛金納付制度」といいます。iDeCo+も、NISAと同様、投資で得た利益が非課税になります。また、掛金が所得控除の対象となるため、毎年支払う所得税や住民税を抑えられます。

ここで、「2023年12月までの職場つみたてNISA」「2024年1月からの職場つみたてNISA」「iDeCo+」の制度内容を比較してみましょう。

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2024年1月からの職場つみたてNISAは、最大で年間360万円(成長投資枠240万円+つみたて投資枠120万円)の投資が可能になります。また、非課税期間も無期限になるため、より長期投資向きの制度といえるでしょう。

一方で、iDeCo+は、図表の通り導入できる会社に制限があります。また、原則として60歳にならないとお金を引き出せないため、急にお金が必要となる可能性の高い若手社員などには向いていないかもしれません。ただし、所得控除により、所得税や住民税を抑えられる点は、職場つみたてNISAにはないメリットです。

職場つみたてNISAとiDeCo+は併用が可能なため、場合によっては両方を導入することを検討してみてもいいかもしれません。

3 資産形成のシミュレーション

職場つみたてNISAを使って資産運用をしたら、実際にどれくらい資産が増えるのかシミュレーションしてみましょう。

【シミュレーションの条件】

  • 社員の拠出分と会社の奨励金を合わせた毎月の投資額が月5万円
  • 積立期間は5年間・10年間・20年間・30年間の4パターン
  • 運用利回りは年利1~6%の6パターン

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運用期間が長く運用利率が高いほど、資産を大きく増やせます。例えば、年利6%で30年間投資を続けた場合、5000万円を超える資産を築くことが可能で、運用による利益は3200万円を超えます。

ただし、投資は最初から運用利率が決まっているわけではなく、経済動向や投資対象によって運用成績が異なります。つまり、元本割れするリスクもあるということです。職場つみたてNISAを導入する際は、社員にこうしたリスクについて周知することが大切です。

以上(2023年11月作成)
(監修 社会保険労務士法人AKJパートナーズ)

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画像: hearty-Adobe Stock

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