書いてあること
- 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
- 課題:コミュニケーションに関わる知識やノウハウは、頭では理解できても、実際の場面で使いこなせるようになるまでには高いハードルがあるものです。
- 解決策:前回シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』での知識やノウハウを聞いただけではまだ一歩を踏み出せない、あるいはトライしてみたがうまくいかないという方のために、新シリーズでは【実践編】として社内の“あるある”場面を想定した質問に対して一緒に考えながら、実践イメージを膨らませていただきます。またリーダー側の視点とは別に、若手社員側の視点による上司世代との上手な付き合い方のヒントも紹介していきます。リーダー世代と若手社員とのコミュニケーションギャップを埋めることは、世界を舞台にスピーディな成長をめざす日本企業にとっても喫緊の課題だからです。
1 年上の部下Fさんが指示命令を素直に受け入れてくれません、どう声をかけますか?
今シリーズは、前シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』の実践編です。毎回実際にありそうなさまざまなシチュエーションを想定して、どんなコミュニケーションを取るのが望ましいかを一緒に考えていきます。
知識やノウハウは分かったけれど、「現場で実践するにはまだハードルが高い」「うまく一歩を踏み出せない」という方を想定しています。前回第6回では皆さんの最近の日常に起こりがちな話題として、「欠員(補充)」を取り上げてみました。いかがだったでしょうか。
今回は課題[事例6]です。再掲しますので、考えた解答を思い出してみてください。まだ考えていなかった方もぜひ考えてみてください。自ら考えないで、解説だけを読んでいても力はつきませんよ。
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Q.年上の部下Fさんに対して、あなたはこの後、最初にどんな声をかけますか?また、それを考える際に注意するべきポイントを3つほど挙げてください。書かれているさまざまな要素を考慮してみましょう。
[事例6]
〇あなたの部下として、年上のFさんが配属されました。他の部下と同じように指示命令を出したところ、「はいはい、分かりました」といった返事の仕方で、素直に受け入れてくれている感じがしません。上司と部下の関係なのに、正直そうした態度は気になります。
〇これからも普通に指示命令を出していいものか、また話し方は他の部下に対するのと同じような“ため口”でいいのか、どう話すべきか迷っています。
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テーマは「年上の部下との付き合い方」です。これまでの事例と同様に起こっている事象を整理することから始め、現場で起こっていることの可能性を探ってみましょう。
2 上司と部下は、“役割の違い”でしかない。互いをリスペクトし合える関係に
年上の部下について考える前に、皆さんに質問です。そもそも「上司は部下よりエライ」のでしょうか?「上司は部下よりエライ」という考え方は、日本中の働く人にとって常識と捉えられているかもしれません。でも本当にそうでしょうか。
上司と部下は、“役割の違い”でしかありません。
「じゃあ、給料が違うのはなぜだ、上司の方がエライから給料も高いんじゃないの?」と思われるでしょうか。
上司は部下よりも会社における役割や責任が重いから給料が高いだけで、部下よりエライわけではありません。
組織にとっては、上司も部下も同じくらい重要で必要です。
部下は、それぞれが任された日常の仕事を成し遂げることが役割であり仕事です。一人ひとりがプロとしての自覚を持って業務を遂行しないと会社の業績につながりませんし、取り組み次第では時としてクレームとなってマイナスに作用するかもしれません。彼らが日々前向きかつ一生懸命に働いてこそ、会社組織は回っていけるのです。
片や上司はどうでしょうか。上司の役割や仕事も時代と共に変わりつつありますが、現状求められているのは「部下が日々前向きかつ一生懸命に働いて」いけるようにすること。継続的な育成やモチベーション向上を図り、部署に求められている結果が出せるように支援することです。
部下の仕事にも業種や職種、仕事の任され方などで向き不向きといった適性と求められるスキルがあり、上司の仕事にはまた別の向き不向きの適性や求められるスキルがあります。けれども、日本ではずっと、部下の業務で結果を残した人から順に、上司=管理職に登用されてきました。
部下としての業務で結果を出すのに長(た)けた人が、必ずしも上司に向いているとは限りません。チームスポーツで、「優秀なプレーヤーが優秀な監督になるとは限らない」とよくいわれる所以(ゆえん)です。むしろ、上司としての役割や責任の重い仕事を任せられる人かどうかは、別の形で選ばれるべきでしょう。
話を戻しましょう。
「上司と部下は、“役割の違い”でしかない」のだとすれば、相手が年上の部下だろうと、年下の部下だろうと関係なく、“互いの役割を理解し、リスペクトし合える関係”を築くことが理想なのです。
「そうは言っても現状は違うじゃないか。上司の顔色を見ないといけないし、指示命令に従わないと部下のほうが不利益を被る」と感じられているでしょうか。例えば、少し前にはパワハラやセクハラという言葉が存在しなかったように、「上司と部下は、“役割の違い”でしかない」が常識になる日も近いと思いますよ。
3 上司は、部下に任せた業務に対してプロフェッショナリズムを求める
勘違いしがちなのですが、上司と部下が“互いの役割を理解し、リスペクトし合える関係”とは決して甘く緩い関係ではありません。むしろ高いプロフェッショナリズムを求め合う関係です。
私なら上司として部下に次のように求めます。「この業務はあなたが担当です。この業務で給料をもらう以上、この業務のプロとして、高い当事者意識と責任を持って担ってください」と。
具体的には「この業務について一番知っているのはあなたです。だからこの業務をもっと効率良く進め、価値を高めていくためにあなたならどうしたいかを、一生懸命考えて私に提案してください」と求めます。
そう求めても動いてくれない場合は、「プロとしてこの業務に向き合えないのなら、あなたにこの業務は任せられません」と言って担当から外すでしょう。その先に取引先や顧客がいれば、直接の迷惑を被るのは彼らであり、結果として会社にも損害をもたらしかねません。
任せる業務とそれに必要なスキル習得は表裏一体ですから、新人や初めて業務を担当する人に対しては業務の意義を伝えつつ、教育・育成の機会は必須です。上司の役割としては、そうした機会を十分に用意した上で部下に要望し続けていくことです。
それでもプロとして取り組まない、あるいは仕事を任されないことを喜んでいる部下がいれば、それに見合った人事評価をせざるをえないでしょう。その先については、今回の主旨から外れるのでまたの機会に譲りますが。
4 上司は自分が完璧ではないことを自覚し、部下の声を聴く
事例のように“指示命令”が必要な場面もありますが、基本的にはその都度部下の意見も求めるようにしましょう。「今回、あなたにはこれをやってもらいたいのですが、あなたから意見やアイデアはありますか?」といったように。
上司には見合った適性やスキルが必要であり、役割や責任が重いわけですが、だからといってエライわけでも完璧なわけでもありません。
上司も一人の人間で、ミスや間違った判断をしてしまうこともあります。意図せず不正に手を染めてしまっている可能性だってあるのです。
「上司だからエライわけでも完璧なわけでもない」と分かっている上司は、普段から部下に対してこう言います。「私が言うことについて、あなたが違うかなと思うことがあったらどうか遠慮せずに言ってほしい」と。
上司も部下も人間である以上、ミスもすれば間違った判断もするのです。ひと昔前までは、現場で部下が起こしたミスを“知らなかった”で済まされたことがありました。逆に上司がミスをしてもかん口令を敷いて、表に出ないで済んだ時代もありました。
ところが今はどうでしょう。インターネットが普及して誰もが一瞬で世界へ発信できる力を得たことで、“ここだけの話”はなくなりました。ささいなミスや不正もすぐに世の中の知るところとなります。昨今多くの企業で、数十年前から隠蔽されてきたことが白日の下にさらされ、大きな非難を浴びているのも周知の通りです。
となれば、上司と部下が“互いの役割を理解し、リスペクトし合える関係”を築いてチェックし合い、世間に知られる前に先手を打って対応したほうが傷も浅く済み、早く前に進めて、より成長できそうです。
今回のテーマ「年上の部下との付き合い方」に立ち返ってまず申し上げたいことは、「上司と部下の関係は“互いの役割を理解し、リスペクトし合える関係”が理想であって、年上か年下かは関係ない」ということです。
部下が新入社員だろうと、自分より年上の先輩社員だろうと、「上司は、部下に任せた業務に対してプロフェッショナリズムを求める」べきですし、「上司は自分が完璧ではないことを自覚し、部下の声を聴く」べきです。
ただ、日本には人によって差はあれ、年長者を敬う文化が根付いています。年下の上司から指示命令されて素直に従える人もいれば、感情的に反発してしまう人もいます。表向きは従順に見えて、内心は穏やかではないといった人もいるでしょう。
であるならば、上司としては新入社員と同じように“互いの役割を理解し、リスペクトし合える関係”を保ちながら、少しだけ年上の部下に配慮してあげてはどうでしょうか。彼らは新入社員に比べ、あなたよりも経験があり、幅広いノウハウも持っていることは間違いないのですから。
年上の部下に対する話し方は、“ため口”ではなく、少なくとも丁寧語を使って年長者へのリスペクトを表現したいものです。
イノベーション(新価値創造)が強く求められる時代には、経験が邪魔をしてしまうケースもあるでしょうが、それを彼らに理解してもらうのも上司の重要な仕事です。その上で年上の部下に今でも使える経験やノウハウを期待しつつ、イノベーションも求めていきましょう。
ちなみに年下の社員に対しても、初対面は少なくとも「さん」付けかつ丁寧語で話しかけるとよいでしょう。その上で時間をかけて徐々に互いのコミュニケーションにおける最適な距離感を測っていくことをお勧めします。
5 年上の部下Fさんに、新人とは違う期待を伝える
年上の部下Fさんに最初にかける言葉は次のようなイメージです。
「私の依頼の仕方が悪かったらごめんなさい。私はお任せする業務に、Fさんがこれまでに培ってこられた経験やノウハウを活かしていただくことを期待しています。ただ同時に会社としては、従来のやり方にとらわれないイノベーションも求めています。長年プロとして鍛えてこられたFさんの力を貸してください。この部署を支えてください!」
『新たな3つのコミュニケーション習慣』の「褒める」の表現として、直接的に「褒める」よりも「期待」と「感謝」を伝えましょう。
直接的に「褒める」行為は、時に年長者から “上から目線”と受け取られることもあります。
それでもなかなかこちらの思いが伝わらない場合は、十分な時間をとって年上の部下の思いを「傾聴」してみましょう。
「傾聴」の基本を思い出してください。予め答えを用意したり、そこに誘導したりしてはいけません。相手の話を途中で遮ったり、決めつけたり、まとめたり、結論を急いだりすることなく最後まで聞いてあげてください。
一方で、「私みたいな年寄りには今さらイノベーションなんて無理ですよ」と諦めている人には、「前向き発想」の言葉で鼓舞しましょう。
年長の社員ほど、とりわけIT系のリテラシー(活用能力)を身に付けることには及び腰です。人生100年時代には、リテラシーがないと私生活でも不便を強いられます。それを「今なら会社の教育機会を通して学べる」ことを伝えて説得しましょう。
ベテラン、新人を問わず自部署に求めるITリテラシーのレベルを定めるのも一つの方法です。業務上の必要性に応じて、PCやAIの活用など社内外の講座を受けた上で一定の到達レベルを基準とするといいでしょう。
【今回の3つのポイント】
- 上司と部下の関係は“互いの役割を理解し、リスペクトし合える関係”が理想であって、年上か年下かは関係ない
- 上司は、部下に任せた業務に対してプロフェッショナルを求めながら、自分が完璧ではないことを自覚して部下の声を聴くべき
- 年上の部下に対する話し方は、“ため口”ではなく丁寧語を使ってリスペクトを表現し、経験・ノウハウと同時にイノベーションへの期待も伝える
最後に、皆さんが年上の部下の立場だとしてできることを考えてみましょう。今回、“互いの役割を理解し、リスペクトし合える関係”を言い続けていますが、それを年上の立場から率先していくことです。
年上の部下の皆さんが、年下の上司を十分にリスペクトして支えていく気持ちがあれば、それはきっと彼らに伝わります。彼らを支援していくことは、長年お世話になった会社への恩返しにもなるのです。
また、皆さんが培ってきた経験やノウハウが生きて部署を救うこともあれば、イノベーションが求められる時代に邪魔になることもあるのだと知りましょう。そして自らもイノベーションを起こすためには、ITが苦手だなんて言っている場合ではないという自覚を持ちましょう。
生涯学び続けることで、あなたの残りの人生もきっと豊かになっていくはずです。
6 新人Gさんが「こんな仕事をしたかったわけじゃない」、どう声をかけますか?
次回に向けた課題[事例7]を紹介します。
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Q.新入社員のGさんに対して、あなたはこの後、最初にどんな声をかけますか? また、それを考える際に注意するべきポイントを3つほど挙げてください。書かれているさまざまな要素を考慮してみましょう。
[事例7]
〇あなたの部署に配属された新入社員のGさんが、退職を考えているようだという噂を耳にしました。
〇上司であるあなたは気になって、Gさんと1on1ミーティング(1対1の面談の機会)を持つことにしました。Gさんは開口一番「この仕事は自分に向いていなのになぜ任されたのか分からない。自分はこんな仕事をしたかったわけじゃない」と訴えました。
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テーマは「仕事への期待」です。これまでの事例と同様に起こっている事象を整理することから始め、現場で起こっていることの可能性を探ってみましょう。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。もし日常で近いシーンに出会うことがあれば、ご自身で考えて『新たな3つのコミュニケーション習慣』の実践にトライしてみてください。
次回もお楽しみに。
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※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。
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以上(2025年1月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/
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