書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:経営幹部や管理職の方はもちろん、若手社員の方でも「経営的視点で見るように」と社長や上司から求められた経験がないでしょうか。その場でうなずきはするものの、「経営的視点とは何か?」「それは社長以外の社員に必要なのか?」「会社員として働く上で、人生において価値があるのか?」「そもそもどのように身に付けていけばいいのか?」といった疑問をお持ちではないでしょうか
  • 解決策:課題で挙げたさまざまな質問に対して、『“経営的視点”の身に付け方』というテーマで、全国で多くの講演を行っている筆者が明快に回答します。“経営的視点”はこれからの時代において新入社員から求められる視点であって、より早く身に付けられれば、その分、仕事においても人生においてもプラスであると分かるはずです

1 「採用」=エントリーマネジメントの重要性

シリーズ『武田斉紀の「誰もが身に付けておきたい“経営的視点”」』も残すところあと2回となりました。

“経営的視点”をより早く身に付けられれば、誰にとってもその分、仕事においても人生においてもプラスになります。では「どうすれば身に付けられるのか」について、次の3点をご提案してきました。

全社員が持てる“経営的視点”の観点として、ご提示している3点
1)会社の【成長】
2)会社の【組織力】
3)会社の【存在意義】

前回は「3)会社の【存在意義】」について、いかにして企業の【存在意義】を定めて社内で共有浸透していけばいいかについて取り上げました。最初で肝心なのは入り口となる「採用」です。各社で異なる会社の【存在意義】を共有できる人材かどうかを「採用基準」の1つとするべきです。

いくら「実績が高い」人であっても、「【存在意義】に対する共有度が低い」ことで一人会社の目指す目的や価値観と異なる方向に走り出してしまったら、お客様は「この会社は私の期待と違う」と失望するでしょう。周りの従業員にとっても、これまで【存在意義】の実現に向けて取り組んできた努力が水の泡です。

「実績が高い」に越したことはないですが、「実績が低い」人であっても「【存在意義】に対する共有度が高い」ならば、本人はその実現に向けて努力を惜しまないでしょう。姿勢は周りの従業員にも良い形で伝播(でんぱ)しますし、お客様も時に支援者となって一緒に育てていってくれるでしょう。

「【存在意義】に対する共有度が高い」か否かを限られた面接でどうやって見抜けばいいか自信がないという担当者もいらっしゃるでしょうか。採用決定までにできるだけたくさんの場面を用意して会って判断していくことをお薦めしますが、1つヒントを差し上げましょう。

「【存在意義】に対する共有度が高い」か否かを判断するには、本人に直接「この会社は入社後に、あなたに毎日【存在意義】の実現を求め続けるけれど、大丈夫ですか?」と最終確認することです。

まだ言葉が足りないようでしたらこう添えてください。「もしあなたがそれを苦痛に感じそうなら、お互いにとって不幸でしかないから今からでも考え直したほうがいいですよ。でも喜んで取り組めそうなら大歓迎です、ぜひ一緒に頑張りましょう!」

2 “経営的視点”を理解できても、「継続し、習慣化していく」難しさ

「採用」=エントリーマネジメントで成功して、「【存在意義】に対する共有度が高い」人材を迎えられたとしましょう。次は【存在意義】を実際に実現していく段階です。

【存在意義】を共有していれば、日々の仕事を通じて実現していくことはごく自然なことになるはずです。全員で同じ目的や価値観を共有することで、結果的に“経営的視点”が身に付くことになります。それは全従業員にとって、「1)会社の【成長】」や「2)会社の【組織力】」の観点よりもより身近な方法といえるでしょう。

しかしながら3つの観点に共通していえるのが、“経営的視点”を維持し、高めていくことの難しさです。“経営的視点”とは何かが何となくでも分かったとして、それを「継続し、習慣化していく」のは簡単ではないからです。

「継続し、習慣化していく」難しさについては、私の他のシリーズでも何度か説明したことがあります。私が講演で「プライベートでもよいので、毎日あるいは毎週、長く続けていることがありますか?」と質問しても、自信をもって手を挙げる人はほんのひと握りです。

続けている習慣があるという人にコツを聞くと、前提となるポイントが2つあるようです。1つは“楽しいこと”。もう1つはいつまでにこうなりたいといった“明確な目標があること”。例えば「1年後に海外留学できるように語学を習得したい」「来年のゴルフコンペで優勝したい」。それによって何かが得られるというご褒美は、“楽しいこと”でもあるでしょう。

趣味などであれば“楽しいこと”に直結するでしょうし、「継続し、習慣化していく」のもさほど苦痛ではないでしょう。よく言われるように最初から大きな目標を掲げず、小さいことから3日、1週間と始めてみればいいのです。

これが仕事となるとどうでしょう。のっけから“楽しい”イメージはしづらそうですが、「3)会社の【存在意義】」に共感していて、共に実現していきたいと思えていたらどうでしょうか。

「お客様を笑顔で幸せにする」という【存在意義】を共有して入社した会社で、ある日自分の試行錯誤で1人のお客様を笑顔にできた。うれしい、明日はもっと笑顔にしたい、もっと多くの人を笑顔にしたいと思える。

とはいえうまくいかない日もある。なぜだろうと振り返り、明日こそはと自分なりに考えて工夫する。翌日またお客様を笑顔にできた。よしっとガッツポーズをして、明日はもっと工夫してやってみようと心に誓う。

こうした試行錯誤はぜひ職場の仲間とミーティングやコミュニケーションツールを活用して随時共有してください。同じ失敗を全員がする必要もありません。前向きな失敗は宝物、失敗を責め合うより、みんなで共有して、一人ひとりがさらなる高みに進んでいけるように工夫し合えばいいのです。

気が付けば【存在意義】の実現という仕事が、習慣のように変わっているでしょう。

3 “経営的視点”で上司に提案して撥(は)ね返されたら、その上の上司に提案しよう

“経営的視点”を「継続し、習慣化していく」ために、3つの観点に共通して肝要なのは、上司がメンバーの「邪魔をしない」むしろ「応援する」ことです。

「1)会社の【成長】」や「2)会社の【組織力】」の観点においても、一度理解できれば「継続し、習慣化していく」のは可能です。

「1)会社の【成長】」で、「全従業員が1年で1年分成長しなければ、会社組織は衰退するし、給料だって上げられない」とある社員が気付いたとします。彼は自分が1年後にいるべきピラミッドの高い位置から俯瞰(ふかん)して、職場の改善点を上司に提案します。

ところが上司が「余計なことはするな、あなたは与えられた目の前の仕事だけをこなせばいいのだから」と叱ったらどうでしょう。本人は二度と“経営的視点”を持とうと思わないかもしれません。上司に目をつけられたら、今後の会社員人生すらも危ういからです。

これでは、せっかく社員が気付いた“経営的視点”の継続も習慣化も不可能でしょう。

部下が“経営的視点”を持つことを邪魔する上司は、きっと怖いのです。部下が“経営的視点”を持って、いつか自分の地位を脅かすのではないかと。

だとすれば、あなたはどうすればいいでしょうか。

直属の上司を飛ばして、さらに上の上司に提案してみましょう。そして機会があれば、最後は社長に聞いてみてください。社員一人ひとりが“経営的視点”を持つことに反対する経営者はいないはずです。

もしもあなたの会社の経営者が、社員一人ひとりが“経営的視点”を持つことに反対したら、即刻転職することをお薦めします。そんな会社に未来はないからです。

4 上司が“経営的視点”の継続のために、すぐに取り組めること

私がふだん企業理念コンサルタントとして、企業理念やパーパスを共有浸透した後に、継続していくためのマストとしてご提案していることが3つあります。

  1. トップと上司が社員に語り続ける
  2. 理念一貫、個人目標化
  3. 仕組み作り…「理解する」「実践する」「褒める」

2.は少し解説すると、一人ひとりが自分の個人目標から企業理念を見上げたとき、「自分の目標を達成すれば、課の目標に、部の目標に、全社の目標に貢献できて、企業理念の実現に一歩近づける」という実感が持てる目標設定にすることです。

3.も解説すると長くなるので、例だけ挙げておきましょう。「理解する」仕組みはたとえば企業理念やパーパスの中身を最初に理解するための初期研修や、その後現場で実践し応用していくための継続研修です。

「実践する」仕組みは、日々の現場で一人ひとりが企業理念を行動に移して実践し、それを振り返りながら高めていくためのPDSの仕組みです。定期的なミーティングに組み込むことが多いでしょうか。「褒める」仕組みは、理念の実現に貢献した社員の表彰制度の導入や人事評価制度への反映です。

これらの中で、あなたがもし上司の立場ならば、“経営的視点”の継続のためにすぐに取り組んでいただきたいことがあります。1つは「1.トップと上司が社員に語り続ける」こと。“経営的視点”を持つことは本人にとっても会社にとってもメリットが大きいことを、3つの観点を用いながら語り続け、一人でも多くの理解者を増やしていってください。

部下との関係性が良好なのであれば、こう発破をかけてみてもいいでしょう。

「早く“経営的視点”を磨いて成長して、私のポジションを奪ってみせてよ。でないと私もいつまでたっても上に行けないじゃないの」

上司がすぐに取り組めることのもう1つは、先ほど触れたように部下が“経営的視点”に目覚めて、何かを提案してきたら「邪魔をしない」むしろ「応援する」ことです。その一歩はマストの「3.仕組み作り」にある「褒める」です。仕組み作りには時間もかかりますが、上司がその場で「褒める」だけでも部下のモチベーションはぐっと上がります。

若手や新人が“経営的視点”を持って、会社の課題を全体最適で見つけて取り組んだり提案したりしている会社なんて、最強じゃないですか。上司はただそれを「応援する」「褒める」だけでいいのです。

全社員が“経営的視点”を持って取り組んでいる会社は、世の中の変化にも機敏に対応しながら自ずと成長していくに違いありません。

第11回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回最終回は、シリーズをまとめた上で、さらなる実践方法について触れたいと思います。

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以上(2023年5月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
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画像:NicoElNino-shutterstock

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