書いてあること

  • 主な読者:職場で盗難が起きた場合の対応を知っておきたい経営者、労務担当者
  • 課題:盗難は許せないし、被害者には真摯に向き合いたい。でも、大ごとにはしたくない
  • 解決策:被害者と足並みをそろえ、情報が拡散しないようにする。警察への届け出などについては、被害者の意向を尊重して決める

1 職場で盗難! しかも、犯人は社員……!

職場のロッカーに入れていた財布が社員の誰かに盗まれた……。こうした職場の盗難は本来あってはならないことですが、万が一のときに素早く、冷静に対応できますか? 対応が遅れると、被害者が「財布を盗まれた!」と大声で騒ぎ立てて社内が混乱し、SNSに「ウチの職場で盗難が起きた」と書き込む社員も出てくるかもしれません。

「盗難は許せないし、被害者には真摯に向き合いたい。でも、大ごとにはしたくない」というのが経営者や労務担当者の本音ではないでしょうか。この記事では、職場で盗難が起きた場合の基本的な対応を紹介していますので、万一の備えとしてご活用ください。

  • 盗難が起きにくい状況を作る
  • 相談窓口を事前に決めて情報を一元管理する
  • 被害者などへの聞き取り調査は焦らずに行う
  • 警察への届け出は被害者の意向を尊重して決める
  • 捜査には協力するが、他の社員への配慮も忘れない
  • 処分後の情報開示は最低限にし、再発防止に努める

2 盗難が起きにくい状況を作る

職場で財布などの盗難が起きやすい場所はロッカールーム(更衣室)です。作業服や制服に着替える必要があって、なおかつロッカールームを使用する時間が社員によってバラバラだと、盗難は起きやすくなります。

ロッカールームでの盗難防止策として有効なのが「防犯カメラ」の設置です。ロッカールームにカメラを設置するのは、プライバシーの問題もあってハードルが高いですが、入口付近に設置するだけでも、「誰が、いつ出入りしたのか」が証拠として残ります。カメラの設置が難しければ、最低でもロッカーを鍵付きにしましょう。

また、この他にも、例えば、ジャケットを脱いで椅子にかけたまま離席し、ジャケットのポケットに入れていた財布を盗まれるといったケースがあります。貴重品は常に身に着けておくことを社員に周知徹底しましょう。

3 相談窓口を事前に決めて情報を一元管理する

万が一盗難が起きた場合、大切なのは「盗難に関する情報がむやみに拡散されないようにする」ことです。盗難に関する情報がむやみに拡散されてしまうと、被害者のプライバシーを害するだけでなく、犯行発覚を恐れた加害者が証拠隠滅を図ったり、被害者を脅迫したりするリスクが生じるためです。

そのために、盗難が起きた際に被害者が最初に連絡する相談窓口を決めておきます。例えば、

社内の不正行為全般に関する相談を受け付ける「内部通報窓口」

などがその役割を果たします。内部通報窓口は、公益通報者保護法で社員数301人以上の会社に設置が義務付けられている窓口ですが、設置義務のない中小企業でも、いわゆる「ハラスメント相談窓口」の対応範囲を拡大して、幅広い相談を受け付けるようにしているケースがあります。

なお、窓口の存在を社員が知らなければ意味がないので、就業規則等で窓口について定めた上で、担当者の連絡先や連絡方法を社内ポスターで掲示するなどしましょう。

また、いざ盗難が起きると、気が動転した被害者が、相談窓口を介さず自分の上司や同僚などに直接相談するケースもありますが、こうした場合は同僚などから相談窓口に報告させるなどして、情報を一元管理できるようにします。

4 被害者などへの聞き取り調査は焦らずに行う

盗難の相談があったら、まず相談してきた被害者に聞き取り調査をします。具体的には、

  • いつ、何を、どういう状況で盗まれたのか(できるだけ具体的に)
  • 加害者の心当たりはあるか(ある場合、その根拠は何か)
  • 盗難に関することを誰かに相談したか(相談した場合は誰にしたか)

などを確認します。同時に、被害者には「会社が対応するので、許可があるまで盗難に関する情報を周囲に漏らさないように」と伝えます。すでに事情を知っている社員がいる場合はその人についても同じことを伝えます。

加害者について根拠となる証拠(防犯カメラの映像や、目撃者の証言など)があるならば、加害者と思われる社員に事情を聞きます。ただし、最初から加害者扱いしたり、語気を荒らげたりせず、相手にも弁明の機会を与えながら話を聞きます。特に、弁明の機会を与える手続きをおろそかにすると、後述する懲戒処分などが無効になる恐れがあります。

5 警察への届け出は被害者の意向を尊重して決める

社員への聞き取り調査によって加害者が分かっていても、そうでなくても、盗難の疑いがあれば警察に被害届や告訴状を出すことができます。単に被害を受けたことを届け出るのが「被害届」、犯行者の刑事処罰まで前提として届け出るのが「告訴状」です。

警察に届け出るか否か、被害届と告訴状のどちらを選択するのかは、

  1. 被害者の意向
  2. 盗難の悪質性

を基に判断します。

優先すべきは「1.被害者の意向」です。仮に被害者が「大ごとにしたくないから、警察に届け出ないでほしい」と言ってきたら、その意向を尊重するのが基本です。逆の場合もしかりです。ただし、「2.盗難の悪質性」によっては、被害者の意向に反してでも、届け出るべきケースがあります。具体的には、「被害者が過去にも職場で盗難の被害に遭っている」「他にも被害に遭っている社員が複数いる」など、放置すれば企業秩序を危うくするケースがそうです。

こうした場合、

「窃盗」ではなく、「建造物侵入」として警察に届け出る

という方法があります。「建造物侵入」とは正当な理由なく建造物に侵入することで、社員が会社の建造物内で盗みを働くことも、「正当な理由のない建造物への侵入」とみなされます。建造物侵入の場合、被害者は会社になるので、警察に届け出るか否かは会社が決められます。

なお、警察に届け出ない選択をした場合も、加害者が分かっているならば、その者には毅然とした態度で臨みます。具体的には、

「今回は被害者の意思を尊重するが、次に同じ犯行をした場合は警察に届け出るし、会社としても重い処分を下す用意がある」

といった旨を伝えます。

6 捜査には協力するが、他の社員への配慮も忘れない

警察への届け出が受理された場合、

  • その時点で加害者が分かっていれば、加害者は警察に出頭して取り調べを受ける
  • その時点で加害者が分かっていなければ、警察が会社を訪問して現場検証を行う

ことになります。後者の場合、当事者以外の盗難の事情を知らない社員に、必要以上に不安を与えないように配慮します。

具体的には、警察が届け出を受理して、現場検証を行う前に、社員に一定の説明を行って協力を要請します。現時点で会社として把握していることを伝えますが、開示する情報は「社内で盗難が発生したこと」など必要最小限にとどめましょう。「誰が被害者か」「盗難物が何か」などの情報が拡散してしまうと、被害者のプライバシーに関わりますし、「犯行者しか知り得ぬ情報」が漏れると捜査に支障を来す恐れもあります。警察が捜査を開始した後は、事件への対応は基本的に警察の手に委ねる形になります。

7 処分後の情報開示は最低限にし、再発防止に努める

警察の捜査が終わったら、会社側でも加害者に対する懲戒処分を検討します。警察への届け出と同様、「1.被害者の意向」「2.犯罪の悪質性」が検討のポイントになります。被害者が処分を望んでいない場合、その意向を尊重して厳重注意だけで済ませることもできますが、悪質性の高いものについてはこの限りではない、という意味です。

ただし、懲戒処分を与えるにしても、犯行の内容に対して重すぎる処分は無効になるので、「盗んだ額はどの程度か」「反省は見られるか」などを考慮して慎重に処分内容を検討する必要があります。なお、就業規則等に懲戒事由に関する規定があることが大前提です。

処分に関する手続きが終わったら、最後に、二度と同じような事案が起きないよう再発防止に努める必要があります。基本は、

  1. 発生した盗難事件に関する情報開示
  2. 会社として「盗難を許さない」旨の再周知

です。

1.については、犯行者が特定され、犯行者に対する処分が確定した後に行います。ただし、社員に開示する情報は「社内で盗難が発生したこと」など必要最小限にとどめましょう。「加害者や被害者の氏名」「盗難物の具体的な内容」「加害者の処分内容」などはプライバシーに関わるので、基本的に開示は避けるべきです。

2.については、会社の就業規則等の懲戒事由について改めて全社員に説明し、犯罪行為をした場合、ことと次第によっては「懲戒解雇」のような重い処分を下す可能性があることを周知します。

以上(2023年9月作成)
(監修 弁護士 八幡優里)

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画像:Andrey Popov-Adobe Stock

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