書いてあること

  • 主な読者:社員の不妊治療を支援して、離職防止や採用時のPRなどにつなげたい経営者
  • 課題:デリケートな問題ゆえに、支援制度を設けても社員が利用しにくいかもしれない
  • 解決策:各社員に不妊治療に対する正しい知識を身に付けさせる。不妊治療のことを知られたくない社員の気持ちに寄り添う

1 なぜ、「不妊治療」の支援が求められるのか?

今、仕事と子育ての両立支援の中で強く求められているのが「不妊治療」の支援です。少子化対策が会社の社会的な責任ということもありますし、何より、

不妊治療を受ける社員のうち15.8%が、仕事と治療を両立できずに離職する

という驚愕の事実があります。

改めて確認すると、不妊とは、健康な男女が避妊をせず性交しているのに一定期間(通常1年)妊娠しないこと、不妊治療とは、不妊を解決するためのタイミング法、体外受精などの治療のことを指します。不妊治療には時間がかかり、また精神面の負担も大きいため、仕事と不妊治療の両立を諦める社員が多いのです。

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皆さんの会社の状況はどうですか。会社が不妊治療の支援制度を整備することの意義は大きいです。また、不妊治療はデリケートな問題なので、制度を利用しやすい工夫をすることも大切です。具体的には、次の2つのポイントを押さえることです。

  1. 組織が不妊治療の正しい知識を身に付ける
  2. 不妊治療のことを知られたくない社員に配慮する

2 組織が不妊治療の正しい知識を身に付ける

皆さんは、「通常、不妊治療には2年ほどかかること」「男性も不妊治療を受けるケースがあること」をご存じですか? 不妊治療について正しい知識がないと、不妊治療を受ける社員に「休み過ぎだよ」「男のくせに不妊治療?」などと心無いことを言ってしまう恐れがあります。

ですから、不妊治療を支援するための第一歩は、会社全体が正しい知識を身に付け、支援に前向きな風土をつくることです。

1)不妊の原因は3つ

不妊に悩む夫婦が医療機関を受診した場合、まず不妊の原因を探るための検査をします。不妊には、

  • 男性側に原因がある不妊
  • 女性側に原因がある不妊
  • 原因が分からない不妊

があり、それぞれ治療法は図表2のように異なります。

なお、2022年3月までは、原因が分かる不妊のみが保険適用の対象でしたが、2022年4月からは、原因が分からない不妊の治療にも保険が適用されています。ただし、「第三者の精子・卵子等を用いた生殖補助医療」については、法規制の在り方などについて議論があり、現状は保険適用外です。

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2)不妊治療は2年程度

通常、不妊治療にかかる期間は2年程度です。ただ、治療期間は受診開始から妊娠・出産まで、あるいは治療をやめるまで続くので、個人差があります。治療内容によって通院日数などに違いがありますが、1回の不妊治療で妊娠・出産に至らなければ、月経周期に合わせて繰り返し治療を受けます。

治療にかかる通院日数の目安は図表3の通りです。

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3)不妊治療の平均費用は約32万円

厚生労働省によると、不妊治療にかかる費用は平均で約32万円です。また、治療内容ごとの費用は、「人工授精」で約3万円、「体外受精」で約50万円、「精巣内精子採取術」で約17万円、「顕微鏡下精巣精子採取術」で約30万円です(厚生労働省「令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業『不妊治療の実態に関する調査研究』」)。

4)不妊の原因の約半数が男性

WHO(世界保健機関)によると、不妊の約半数は男性に原因があるとされています。男性の場合は性交障害、精液異常など、女性の場合は排卵因子(排卵障害)、卵管因子(閉塞、狭窄、癒着)などが不妊の主な原因として挙げられます。

3 不妊治療のことを知られたくない社員に配慮する

主な不妊治療の支援制度は図表4の通りです。図表4の支援制度の具体的な内容を知りたい場合は、次のマニュアルをご確認ください。

■不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル■

https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001073885.pdf

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通院のために休暇が取れたり、会社が治療費を補助してくれたりすると、社員は喜ぶでしょう。一方、会社に不妊治療を受けている(またはその予定がある)ことを知られたくない社員もいるので、次のような配慮が必要になります。

1)必要最低限の範囲に情報をとどめる

社員の不妊治療を支援するためには、その社員が報告してもらわないとなりません。社員は必要最低限の範囲で、不妊治療について報告したいと考えるかもしれないので、その気持ちに寄り添いましょう。言うまでもないことですが、不妊治療は機微に触れるような個人情報なので、情報の取り扱いには細心の注意を払います。

また、厚生労働省推奨の「不妊治療連絡カード」を利用するのも有効です。不妊治療連絡カードとは、社員の主治医が不妊治療に当たって会社が配慮すべき事項などを記載するカードです。このカードを上司などに提出すれば、社員は上司などと直接面談しなくても、必要な情報を伝えられます。

■不妊治療連絡カードをご活用ください!■

https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/30b.pdf

2)不妊治療だと悟られにくくする

どうしても不妊治療のことを知られたくない社員に配慮するのであれば、経営者が個別に相談を受け、「不妊治療連絡カード」の情報を基に特別休暇を与えることも考えられます。とはいえ、個別に判断するようにすると制度化しにくいため、「不妊治療」を含めた家族支援の休暇制度をつくるほうが制度化しやすいでしょう。

例えば、「不妊治療」であることがすぐに分かるような「不妊治療休暇」などの名称にするのではなく、「ファミリーサポート休暇制度」などとして、育児や看護、介護にも利用できるようにすることで、不妊治療だと悟られにくくなります。また、「フレックスタイム制」と「テレワーク」を同時に適用すれば、社員は不妊治療の間だけ席を外し、治療後に仕事に戻るという働き方ができます。

3)相談窓口を設置する

不妊治療を受けている社員が相談できる窓口を設定しましょう。とはいえ、誰に相談するか問題です。特に女性の場合、妊娠・出産の経験者である実母や義母にも悩みを分かってもらえず、相談できないことがあるそうです。

そこで、専門家による個別カウンセリング窓口や外部の相談機関などの情報提供をすることを検討します。会社が社員と専門家の仲介をする場合は、相談場所は申し込みがあった本人のみに通知し、開催時間帯も離席しやすい時間帯(昼休みに近い12時から14時の間など)にするといった配慮があるとよいでしょう。

4 補足:政府が実施している不妊治療支援

1)両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)

両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)とは、次のいずれか、または複数の制度を導入し、社員に利用させた中小企業に支給される助成金です。

  1. 不妊治療のための休暇制度(多目的・特定目的とも可)
  2. 所定外労働制限制度
  3. 時差出勤制度
  4. 短時間勤務制度
  5. フレックスタイム制
  6. テレワーク

支給額は

A:最初の社員が休暇制度・両立支援制度を合計5日(回)利用した/30万円

B:Aを受給し、社員が不妊治療休暇を20日以上連続して取得した/30万円

となっています。支給はともに1回限りとなります。

■両立支援等助成金■

https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000928925.pdf

2)くるみん認定プラス

2023年4月から、次世代育成支援対策推進法に基づく3種のくるみん認定(くるみん認定、プラチナくるみん認定、トライくるみん)に、仕事と不妊治療を両立できていることを証明する「くるみん認定プラス」が追加されました。すでに3種のくるみん認定のいずれかを受けている会社が、政府の基準を満たすことで「くるみん認定プラス」の認定を受けることができます。自社ウェブサイトなどに掲載すれば、会社のPRなどにつながるでしょう。

■くるみん認定・トライくるみん認定・プラチナくるみん認定を目指しましょう!!!■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/pamphlet/26.html

以上(2023年8月作成)

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画像:adragan-Adobe Stock

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