書いてあること

  • 主な読者:転勤制度の見直しを検討している経営者や労務担当者
  • 課題:転勤があると人材採用で不利になるし、社員が離職するきっかけにもなる
  • 解決策:社員が転勤を拒んだときは、転勤者を変更したり、手当を支給したりして対応するケースもある。足元では、労働条件通知書に「転勤の有無」などを記載することも忘れずに

1 サラリーマンの悲哀だった「転勤」も今は昔?

単身赴任は嫌だけど、会社の命令だから仕方ない……。

こんな時代は終わりを告げるかもしれません。なぜなら、社員の負担になる「不本意な転勤」を見直す動きが広まりつつあるからです。実際、

  • 社員が望まない転勤を廃止する
  • 転勤手当を引き上げる
  • 転勤がないことを採用時のアピールポイントにする

などの動きがあります。こうした背景には、リモートワークの浸透などによって社員が働く場所にとらわれなくなってきたことのほか、特に若い世代にある「できる限り転勤を避けたい」という意識の存在があります。

もちろん、転勤には「さまざまな地域・職場で経験を積むことができる」という良い面がありますし、そもそも現地でないとできない仕事もあるわけですが、このあたりを経営者はどのように考えているのでしょうか。

独自アンケートから見えてきたのは、

転勤を維持する意向の企業は多いが、社員から転勤を拒まれた経験のある企業が過半数であり、今後、何らかの対応が必要になるだろう

という結果でした。詳しくは以下をご確認ください。

2 【経営者アンケート】転勤制度を見直しますか?

ここでは、転勤制度がある企業の経営者108人に対して、転勤制度の見直し予定や、社員から転勤を拒まれたときの対応などについて聞いたアンケートの結果を紹介します(実施期間は2023年12月6日から12月12日まで)。

1)転勤制度の有無について

転勤制度について、「就業規則」などに定めている企業が全体の85.2%と大多数になっています。転勤命令は就業規則に基づくことが通常であり、定めていないのは問題といえます。

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2)転勤制度を維持する企業が約9割

転勤制度の「見直しをする予定はない」企業が68.5%と最も多く、「縮小を検討している」企業と合わせると、95.4%に達します。転勤制度を廃止するところまで踏み込む企業はほとんどいません。

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3)転勤制度を維持する理由について

転勤制度を維持する理由としては、「適材適所な人材配置ができるから」の50.0%、「現地でないとできない業務があるから」の47.3%、「社員が様々な経験を積み、成長につながるから」の44.6%が拮抗しています。1つ目の適材適所と3つ目の社員の成長は人材登用や社員教育に関する企業の方針です。一方、2つ目の現地でないとできない業務については、現地採用などを進めなければ、転勤が避けがたい状況を示しています。

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4)転勤制度を縮小、もしくは廃止する理由について

対して、転勤制度を縮小、もしくは廃止する理由としては、「転勤制度で人材採用が不利になっている、あるいは今後不利になる懸念があるから」が64.7%、「育児、介護などの家庭の事情で、転勤が難しい社員が増えているから」が47.1%と多数になっています。これらの問題は、今後ますます深刻化するかもしれません。

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5)単身赴任のある企業が多く、支援の中心は家賃補助など

「単身赴任がある」企業は全体の76.9%と、高い割合を占めています。

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単身赴任者への支援としては、「家賃を補助している」の65.1%、「引っ越し費用や、新たに購入する生活用品の購入代金を補助している」の61.4%が上位となっています。単身赴任は何かと費用がかかるので、金銭的な支援が中心になっているのでしょう。また、一部の企業では今後、単身赴任者への支援を拡充する方針もあるようです。

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6)社員から転勤を拒まれた経験と対策

社員から「転勤を拒まれたことがある」企業が全体の54.6%と、過半数となっています。

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では、社員に転勤を拒まれたときに、どのように対応しているのでしょうか?

最も多いのは「他の候補者を探した」の39.0%、次いで「業務命令なので、そのまま転勤を受け入れてもらった」と「昇給、昇進や手当の支給など社員のメリットになる条件を付けて受け入れてもらった」が同率の30.5%となっています。他の候補者を選べる状況であればよいですが、これができない場合、業務命令として押し切るか、条件面で譲歩する対応が取られているようです。

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3 今後、転勤制度の見直しは必須になる?

いかがでしたでしょうか。就業規則で定めていれば転勤命令は正式な業務命令となり、基本的に社員はそれを拒むことはできません。にもかかわらず、企業が譲歩しなければならないという実態から、転勤制度の難しさが分かります。今回のアンケートでは転勤制度を現状維持するという企業が大半でしたが、今後は何らかの見直しが進むかもしれません。

また、2024年4月からは、労働基準法施行規則などの改定に伴い、社員が就職する時点で転勤の有無や、転勤がある場合は異動する可能性のある勤務地を示すことが求められますので、この点への対応も忘れずに済ませましょう。

以上(2024年3月作成)

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画像:takasu-Adobe Stock

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