書いてあること

  • 主な読者:フィットネスクラブの開設を検討している人
  • 課題:賃借物件を借りてフィットネスクラブを運営する
  • 解決策:開業、運営に掛かる費用の目安を押さえ、収支計画をシミュレーションしてみる

1 フィットネスクラブ業界の動向

1)フィットネスクラブの形態

フィットネスクラブは、室内プール、トレーニングジム、スタジオなどを設けて、インストラクターやトレーナーが運動の指導を行う施設です。

昨今では、利用者のニーズに合わせて、パーソナルトレーニングを行う施設や、トレーニングマシンのみを設置し、24時間利用できる施設など、サービスを特化させることで他社との差異化を図る動きがあります。

主な施設の形態と特徴は次の通りです。

1.スポーツクラブといわれる複合施設

トレーニングマシン以外にもスタジオやプール、お風呂などが併設されている複合施設です。昔からあるものも多く、施設自体が大きく会員数も多いのが特徴となっています。利用者の年齢層も幅広いです。運営側からすると、さまざまな施設を保有するため施設の管理費や賃料などが高額になるデメリットがあります。

2.パーソナルトレーニング

パーソナルトレーニングは、専属のトレーナーがつき、基本的にマンツーマンでトレーニングをサポートします。本格的に体を鍛えたいスポーツ選手や自分の意思ではサボってしまう人、金銭的に余裕のある人などが利用するサービスです。利用者はトレーナーの専門性やコミュニケーションの取りやすさを重視するため、運営側からすると、どのようなトレーナーを雇用できるか(もしくは業務委託できるか)も重要となります。

3.マシン特化ジム

マシンのみを設置しているジムです。24時間営業している場合も多く、利用者が好きなタイミングで利用できます。また、近年は簡易的なマシンのみを設置して無人で営業する施設もあり、複合施設などと比べて利用料が安いのが特徴です。ただし、マシンの使い方がわからない人は利用しづらいといったデメリットもあります。

4.スタジオ特化型フィットネススタジオ

マシンなどは設置せず、ヨガやダンス、ピラティスなどのスタジオでのエクササイズに特化して運営する形態です。トレーニングというよりは、女性などが運動目的で利用することも多いです。スタジオという環境から、会員同士のつながりも生まれやすくなっています。 また、定員を設けることが一般的なため、利用者の混雑に悩まされることもありません。運営側からすると、いかに人気があるインストラクターを起用できるかも集客アップや継続率アップに欠かせないポイントです。

2)フィットネスクラブの市場規模について

フィットネスクラブの市場規模は調査資料によって異なります。ここでは経済産業省「経済構造実態調査」のフィットネスクラブに関するデータを用います。最新データである2022年のフィットネスクラブの売上総額(市場規模)は5344億8900万円です。

また、資本金や事業従事者規模別の売上高が出ている2020年のデータは図表1の通りです。

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2020年におけるフィットネスクラブの事業所数は4840事業所、年間売上高は5899億1300万円です。1事業所当たりの年間売上高は1億2200万円となります。

総務省「人口推計」によると2020年10月1日時点の人口は1億2614万6000人なので、1人当たりマーケットサイズは4676円(5899億1300万円/1億2614万6000人)です。

3)消費者ニーズについて

一般的に、フィットネスクラブの利用目的として次のようなものが挙げられます。

  • 日々の運動不足を解消して、健康維持と体力向上を目指したい
  • 運動やトレーニングにより理想的な体・スタイルを手に入れたい
  • トレーナーから自分に合ったトレーニング方法を教わりたい
  • 運動を通じてストレスを解消したい
  • 会員同士の交流により交友関係を広げたい

どの消費者ニーズに応えたいかによって、開業するフィットネスクラブの形態は変わってくるでしょう。

2 フィットネスクラブの最新技術・店舗の事例

1)破格の月会費で手軽にジムを利用できる

低価格で手軽にジムを利用できる「chocoZAP」の利用者が急増中です。chocoZAPはRIZAPグループ(東京都新宿区)が運営する全国に800店舗以上あるジムです。月額3278円(税込)で24時間・365日全店舗のジムが使い放題となっており、普段着のままでトレーニングやエクササイズができることが特徴です。

2022年7月にサービスを開始し、2023年8月時点の会員数は80万人となっています。同じく、Fast Fitness Japan(東京都新宿区)が運営する24時間営業フィットネスの「エニタイムフィットネス」の会員数が約78万人(2023年6月末時点)なので、サービス開始から約1年でエニタイムフィットネスの会員数を追い抜きました。

低価格で手軽に利用できることから、本格的なトレーニングやハードなメニューに壁を感じる若年層の利用が多いです。

2)サウナブームを取り入れる

昨今のサウナブームに乗じて、併設されたお風呂やサウナを売りにするフィットネスクラブもあります。

例えば、コナミスポーツ(東京都品川区)では、「コナスポ的湯るジム通い」をキャッチコピーに、運動後だけでなく、仕事帰りや体調を整えるためにお風呂やサウナを利用できることをアピールしています。店舗によっては、プール・お風呂・サウナのみの利用が可能な「アクア&スパ・アクアプラン」があります。

3)アミューズメント型フィットネスクラブで集客を狙う

フィットイージー(岐阜県岐阜市)では、ジムやスタジオ以外にもさまざまなサービスを用意して入会者の獲得を狙っています。

フィットイージーが用意するサービスには、次のようなものがあります。

  • ゴルフシミュレーター
  • ドライブシミュレーター
  • エステマシン
  • タンニングマシン
  • サウナ
  • ボルダリング
  • 高濃度酸素ルーム
  • コワーキングスペース

コワーキングスペースがある店舗は、フリーランスやテレワークが多い人にも人気です。

4)働きながら運動できる

快眠グッズ製造直販を手掛けるムーンムーン(熊本県熊本市)では、オフィスチェアとフィットネスバイクが合体した「コズクワール」を開発しました。コズクワールを使えば、仕事や勉強をしながらフィットネスバイクをこぐことができます。忙しいビジネスパーソンにとっては、運動のために時間を取るのではなく、仕事と運動を同時に行える本商品は魅力的かもしれません。

5)AIトレーナーによるトレーニング指導を受けられる

AIヘルステックスタートアップのLifeform AI(オーストラリア・シドニー)では、人間の姿勢や運動の状態を分析できるAIを開発しています。2023年2月から3月にかけて東京ドームシティ内のフィットネスクラブで、AIトレーナーによるコーチングのデモンストレーションが行われました。さまざまなプロフェッショナルのトレーナーの動きを学習したAIコーチから、トレーニングのやり方を評価され、フィードバックが受けられる仕組みです。

AI技術が進展していくなかで、いつでも手軽に高度なトレーニングを受けられるAIトレーナーのニーズは高まっていくかもしれません。

3 新規開業・運営に当たっての留意点

1)新規開業で必要な各種届出を確認する

フィットネスクラブ内にシャワーやジャグジー設備などを用意する場合、公衆浴場法による届出が必要です。事前にフィットネスクラブ所在地を所管する保健所へ届け出て、営業許可をもらいましょう。

2)開業する地域の需要を見極める

フィットネスクラブを開業するに当たって、あらかじめ需要を見極めることは重要です。開業する地域にどのような人が多いかによって、フィットネスクラブの形態は変わってきます。忙しいビジネスパーソンや若年層が多いのであれば、いつでも気軽に利用できる24時間営業の店舗の需要が高いでしょう。また、家族連れや高齢者が多いのであれば、さまざまな利用用途があり会員同士のつながりもできやすい複合型のフィットネスクラブがいいでしょう。

3)トレーナーやインストラクターを確保する

スタジオでのレッスンやパーソナルトレーニングを行うフィットネスクラブでは、トレーナーやインストラクターが必要です。どのようなトレーナーやインストラクターを雇用するかによって、集客力や継続率が変わります。トレーニングに関する専門性だけでなく、人柄なども含めて採用しましょう。また、人気インストラクターなどに業務委託やスポットで講師を依頼して、集客力を高める方法も考えられるでしょう。

4)衛生管理に注意する

フィットネスクラブは、人が密集することに加え、1つのトレーニング機器を多くの人で利用するため、感染症のリスクが高い施設です。消毒液の設置や空気の入れ替えなどで、できるだけ感染リスクを下げましょう。

フィットネスクラブにおける新型コロナウイルス感染症対策はこちらで紹介されているので、参考にしてみてください。

■日本フィットネス産業協会「FIAフィットネス関連施設における新型コロナウイルス感染拡大対応ガイドライン」■

https://fia.or.jp/covid19-fitness/

5)安全面に注意する

フィットネスクラブでは、トレーニング機器の故障や破損などによる事故に注意が必要です。トレーニング機器の定期的な検査やメンテナンスが必要になります。また、万が一のことが起きた際に備えてAEDを設置し、スタッフにAEDの使い方の訓練を受けてもらいましょう。さらに、施設の不備などが原因で事故が起きた場合には高額な賠償請求を受けることもあります。賠償請求に備えて、賠償責任保険への加入も検討してみてください。

6)個人情報の管理に注意する

フィットネスクラブは1施設あたり300~数千人の会員がいることが一般的です。会員数や施設規模を問わず、個人情報の管理には特に注意しましょう。他会員への会員情報の開示禁止、会員情報の持ち出し禁止などを徹底し、個人情報の流出が発生しないような管理体制を作りましょう。

4 開業収支を考える

1)前提条件

1.売上高

ここでは、会員1人当たりの平均年会費10万1283円(注)×見込会員数1500人=1億5192万円を3年度目に達成すると仮定し、シミュレーションをします。

また、1年度目の売上高は1億634万円(1億5192万円×70%)、2年度目の売上高を1億3673万円(1億5192万円×90%)とし、4年度目以降は10%ずつ売上が増えるものと仮定します。

(注)経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」における、2022年のフィットネスクラブの売上高と会員数を基に算出した数値です。

2.原価率

日本政策金融公庫「小企業の経営指標2021」を参考に、売上高の15%とします。

3.人件費

日本政策金融公庫「小企業の経営指標2021」を参考に、売上高1億5192万円の35.2%となる5348万円とします。

4.店舗設備整備費用等

  • 内装工事費、トレーニング機器、設備等の整備費用:1億5000万円
  • 開設する物件の賃借料:月額126万6000円

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5 経営指標

日本政策金融公庫「小企業の経営指標2021」によると、フィットネスクラブの経営指標は次の通りです。

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以上(2023年11月作成)

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画像:gajj-Adobe Stock

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