書いてあること
- 主な読者:音楽フェスなどイベントの主催企業、協賛企業、後援する地方自治体
- 課題:環境への負荷が大きいとされる音楽イベント業界で、少しでも環境負荷を軽減するための取り組みを進めたい
- 解決策:飲食物の提供にプラスチック容器を使わない、電力を電気自動車で供給するなどの取り組みで環境負荷の軽減につなげることができる
1 知っていますか? 実は環境への負荷が大きい音楽業界
かつてはCDやレコード製造で消費されるプラスチックの量が問題とされてきた音楽業界でしたが、今はストリーミングやダウンロードによる視聴が主流になり、プラスチックの消費量は減りつつあります。
ただし、デジタル化が進んだから環境への負荷が減ったとは言い切れません。特に環境への負荷が大きいとされているのは、
- 音楽のストリーミング、ダウンロードにかかる電力消費
- 音楽フェスでの二酸化炭素排出
- 音楽フェスでの飲食物の食べ残し、ごみの放置
です。
こうした問題を解決するため、音楽フェスでは再生可能エネルギーの導入やごみのリサイクルに取り組む事例も増えており、海外では「家で寝て過ごすよりもサステナブル」といわれるくらいに環境への負荷を減らすことが考えられた音楽フェスもあります。
そこでこの記事では、環境への負荷が高いとされている音楽イベント業界で、環境負荷を軽減するために実際に行われている先進事例について紹介します。
2 環境への負荷を軽減するための取り組み事例
環境への負荷を軽減するための取り組み事例には、目的に応じて次のようなものが挙げられます。
1)電力を再生可能エネルギーなどで賄う
音楽フェスでは、照明やスピーカーなどによる膨大な電力消費がつきものです。そうした電力消費を再生可能エネルギーなどで賄う取り組みがあります。
例えば、中津川THE SOLAR BUDOKAN 実行委員会などが主催する音楽フェスの「中津川 THE SOLAR BUDOKAN」では、コンサートの運営にかかる電力のすべてを太陽光発電で賄っています。同イベントでは、会期中の来場者の移動で発生したCO2排出量のカーボン・オフセット(削減しきれないCO2排出量を、カーボンクレジットを購入することで相殺すること)にも取り組んでおり、2022年の実績で、119万6000円(1トン当たり2000円)分を購入しています。購入代金はクラウドファンディング、リユースカップ、オリジナルグッズ、募金の収益で賄っているといいます。
他にも、電力を賄う方法として、サンライズプロモーション東京(東京都港区)などが主催となって2022年10月に開催した「BLUE EARTH MUSIC FEST 2022 in MITO supported by 茨城日産グループ」では、音楽ライブのメインステージの一部と会場外の無料エリアの電力を電気自動車で賄う取り組みを行った他、飲食物をプラスチック容器ではなく、紙の包装紙を使って提供するといった取り組みを実践しています。
2)飲食物の食べ残しをリサイクルする
音楽フェスでの飲食物の食べ残しの処理も問題の1つです。この問題の解決策として、食べ残しを堆肥に変える取り組みがあります。
ロックバンドの「くるり」が主催する音楽フェス「京都音楽博覧会」では、2022年に環境に配慮した新しい取り組みとして、コンポストの設置を行いました。これは、フードエリアで出た飲食物の食べ残しや食材の使い残しを微生物によって発酵・分解して堆肥としてリサイクルするものです。出来上がった堆肥はフェス会場の梅小路公園の指定管理者である京都市都市緑化協会に寄贈し、公園の樹木の肥料に使われました。
また、同イベントでは飲食物を提供する際の食器を使い捨てでないリユース容器を導入したり、フライヤー、チラシを配布したりしないことでごみの削減につなげています。
他にも、生ごみの堆肥化はウエス(北海道札幌市)が主催する音楽フェス「RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO」でも行われています。これは、NPO法人のezorock(北海道札幌市)が「RSRオーガニックファーム」という名称で取り組んでいる企画で、同イベントで回収された生ごみの一部を堆肥に変え、栽培したじゃがいもを翌年の会場で食材として無償で配布しています。
3)CDパッケージの脱プラスチックを進める
これまで、CDパッケージはプラスチック素材がメインとなっており、環境への負荷が問題となっていましたが、近年では植物を原材料にしたリサイクル可能なものが出ています。
その例として、ソニーグループ(東京都港区)が手掛ける「オリジナルブレンドマテリアル」があります。竹やさとうきび繊維を原料にしたパッケージで、外箱や内箱だけに限らず、クッションや商品保護シートも同素材で作ることができます。リサイクルが前提の素材のため、廃棄の際にも他の紙類と一緒に回収に出すことが可能です。これによって、既存のプラスチック製のCDトレイと比較して、約97%の石油系プラスチックの削減ができたとしています。
4)ごみのリサイクルを図る
会場内で出たごみを回収し、リサイクルを図るイベント内資源循環リサイクルに取り組んでいるイベントの1つに「フジロックフェスティバル」があります。
同イベントでは、「ごみゼロナビゲーション」活動として、ボランティアスタッフがごみの分別を呼びかけるだけでなく、食用に適さない古米、米菓メーカーなどで発生する破砕米などを材料にしたごみ袋を来場者に配布し、ごみの放置やポイ捨てを防いでいます。
他にも、同イベントでは来場者と一緒に森林保全活動を図る取り組みもあります。イベント内で使われる割り箸やフライヤーなどは会場周辺で伐採した間伐材を材料に用いることで、森林整備や保全活動につなげています。
5)カーボン・オフセットでCO2排出を相殺する
前述した、削減しきれないCO2排出量を、カーボンクレジットを購入することで相殺するカーボンオフセットも環境に配慮した取り組みの1つです。
例えば、滋賀ふるさと観光大使を務める西川貴教氏が発起人の「イナズマロック フェス」では、2022年の9月に開催された「イナズマロック フェス 2022」でカーボン・オフセットによる開催を実現しています。
これは、イベント期間中に来場者の移動や会場での電力使用に伴って排出される30トン分のCO2を、提携する滋賀銀行がカーボンクレジットを購入・提供することで埋め合わせをする仕組みです。購入したカーボンクレジットは、滋賀県の森林資源の整備に利用されます。
3 参考:海外での先進事例
1)観客の熱気をエネルギーに変換:SWG3
スコットランドにあるナイトクラブの「SWG3」では、観客の体温をエネルギーに変換するシステムの「BODYHEAT」を導入しています。このシステムは、ヒートポンプシステムを用いて観客から発生する熱を地下に開けた穴に保存し、冷暖房に使用するという仕組みです。
このシステムによって、年間で70トン分のCO2排出を抑えることができるとしています。
2)オーディオファイルの環境負荷軽減:MQA
レーベルやDSP向けデジタル配信業者である英国のMQAでは、ハイレゾ音源データのCO2排出量を従来から80%削減することを実現しています。環境への負荷で置き換えると、MQA形式の音楽ファイルの場合で日6時間、365日再生した場合に19本の木を植えることと同様の効果があるとしています。
以上(2023年10月作成)
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画像:Africa Studio-Adobe Stock