書いてあること

  • 主な読者:保育や子育て支援関係のビジネスチャンスを探している経営者
  • 課題:「児童発達支援事業」「放課後等デイサービス事業」について知りたい
  • 解決策:事業の特徴や外部環境についてポイントを押さえる

1 ニーズが高まる児童発達支援・放課後等デイサービス

「児童発達支援」「放課後等デイサービス」(以下、一部を除き「児発」「放デイ」)は、児童福祉法に基づいて自治体の認可(指定)を受けた事業者が、

身体・精神・知的障害をもつ子どもや、発達に心配のある子どもを預かり、集団生活や社会生活を送るために必要な能力を身につける支援(療育)を行う福祉サービス

です。

児発と放デイが大きく異なるのは利用者(対象となる子ども)の年齢で、

  • 児発:0歳から小学校就学前の6歳までを対象とし、日常生活における基本的な動作の指導、知識技能の付与、集団生活への適応訓練などのサービスを提供
  • 放デイ:就学している6歳から18歳まで(特例により20歳まで)を対象とし、学校の授業の終了後または休業日に、生活能力の向上のために必要な訓練、社会との交流の促進などのサービスを提供

します。

児発・放デイの事業所数は、児童福祉法の改正により制度がスタートした2012年から直近の統計データが確認できる2021年の10年間で、

  • 児発:2804事業所→1万183事業所(約3.6倍)
  • 放デイ:3107事業所→1万7372事業所(約5.6倍)

と、少子化にもかかわらず、大きく増えています。

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児発・放デイの事業所数が増えているのは、主に次のような理由からです。

  • 社会全般的な傾向として、発達障害を含む「自閉症・情緒障害」の児童・生徒数が増加している
  • サービス提供者側の視点で見ると、経営者自身が専門的な資格を保有する必要はないため、スタッフを確保できれば新規参入しやすい
  • サービス提供者側の視点で見ると、売上の回収が困難になる可能性が低い(利用料金の9割は国民健康保険連合会に請求し、自治体経由で報酬として支払われる)
  • 利用者(子どもの保護者)側の視点で見ると、子どもの成長をサポートしてもらえ、比較的低料金で預けることができる(世帯収入に応じて利用金額に上限がある)

少子化が進む中、小・中学校、義務教育学校の特別支援学級に在籍する児童・生徒数は、2012年の16万4428人から2021年には32万6457人と倍増しています。特に顕著なのが、発達障害を含む「自閉症・情緒障害」の児童・生徒数で、2012年の6万7383人から2021年には16万6323人と約2.5倍になっています(文部科学省「学校基本調査」)。

児発・放デイは、一定のニーズを見込むことができ、政府が進める「子ども・子育て支援」や、SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」にも合致する社会的にも意義のあるビジネスとして注目されています。

この記事では、児発・放デイ事業所の開業を検討する際に押さえておきたいポイントを紹介していきます。

なお、児童発達支援には、中核施設として地域支援の役割も担う「児童発達支援センター」がありますが、この記事での「児発」は、児童発達支援センター以外の事業所のことをいいます。

2 どれくらいの収益が見込まれる? 児発・放デイの経営状況

実際のところ、児発・放デイはどれくらいの収益が見込まれるのでしょうか。福祉医療機構が公表した調査結果によると、児発・放デイの経営状況(2021年度)は次の通りです。

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ここでは営利法人に注目して見てみましょう。

児発は、従事者1人当たりサービス活動収益が466万3000円、1事業所当たり従事者数が7.0人なので、1事業所当たりのサービス活動収益(≒売上高)は約3264万円となります。

放デイは、従事者1人当たりサービス活動収益が492万5000円、1事業所当たり従事者数が6.8人なので、1事業所当たりのサービス活動収益(≒売上高)は約3349万円となります。

1事業所当たり年間3000万円超のサービス活動収益が見込まれる一方、赤字事業所割合は、児発で25.2%、放デイで32.4%となっており、苦戦する事業所も少なくないことがうかがわれます。

かつてのように開業しただけで利用者が集まる時代は終わりつつあり、

  • 利用率を高める:療育プログラムを充実させる、独自プログラムを導入するなど
  • 年間営業日数を増やす:土日祝日にも営業するなど
  • 利用児童単価を高める:「送迎」などの障害福祉サービス等報酬が加算されるサービスも提供する

といった、他の事業所と差別化を図る工夫が必要になってきています。また、人件費率、経費率、減価償却費率を抑える努力は必要ですが、良質なサービスを提供する上では適切な値にとどめることも重要です。

3 開業を検討する際に押さえておきたいポイント

1)開業には法人格が必要

児発・放デイとして自治体の認可(指定)を受けるには、株式会社、社会福祉法人、NPO法人などの法人格が必要です。定款に児童福祉法に基づき児童発達支援事業ないしは放課後等デイサービス事業を行う旨を明記します。すでに法人格がある場合は、事業目的を変更する手続きが必要です。

2)人員基準

児発・放デイ事業所が満たすべき基準については、「児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準」(平成24年厚生労働省令第15号)に定められており、児発・放デイともにほぼ共通です。

児発・放デイ事業所の主な人員基準は次の通りです(重度の肢体不自由と重度の知的障害とが重複した「重症心身障害児」以外を通わせる場合)。

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この他に、機能訓練を行う場合は、機能訓練担当職員(理学療法士や作業療法士、難聴の子どもが通う場合は言語聴覚士など)を、医療的ケアが必要な子どもに人工呼吸器による呼吸管理や痰の吸引などの医療行為を行う場合は、看護職員(保健師、助産師、看護師または准看護師)を配置する必要があります。

なお、児童発達支援管理責任者、児童指導員、保育士になるにはそれぞれ資格や所定の実務経験、研修受講などが必要ですが、管理者になるための特段の資格はありません。

3)設備基準

児発・放デイ事業所の設備については、

  • 指導訓練室のほか、サービス提供に必要な設備および備品等を備えなければならない
  • 指導訓練室は、訓練に必要な機械器具等を備えなければならない

とされています。指導訓練室のほかに必要となる空間などについては、別途、厚生労働省によるガイドライン(後述の「4 参考」を参照)が作成されており、これを基に全国的に同様の基準が設定されています(実際には自治体により基準が異なる場合があるため、確認が必要です)。

一般的には、相談室、事務室、洗面所、トイレなどが必要になります。また、静養室(興奮した子どもを落ち着かせる部屋)を備える事業所もあるようです。

なお、事業所として使用する物件は、建築基準法や消防法の基準を満たしていなければなりません。

4)利用定員

児発・放デイ事業所の利用定員については、10人以上(主な利用者が「重症心身障害児」の場合は5人以上)とされています。

5)利用料金

児発・放デイの利用者は、障害の医学的な診断や障害者手帳が必須というわけではなく、自治体から「通所受給者証」が発行された子どもが対象となります。通所受給者証があれば利用料金の9割は公費負担で、残りの1割が利用者の自己負担になるのが一般的です。ただし、児発については、就学前の障害児を支援するため、満3歳になって初めての4月1日から3年間は利用者の自己負担は無償化されています(2019年10月~)。

利用料金は障害福祉サービス等報酬改定に基づき自治体ごとに定められた金額で、1回当たりの利用者の自己負担は1100円前後です。また、利用者の自己負担は、前年度の世帯所得に応じて上限額が定められており、

  • 生活保護世帯や住民税非課税世帯は0円
  • 年間所得890万円までの世帯は月額4600円
  • 年間所得890万円以上の世帯は3万7200円

です。

なお、昼食・おやつを提供する場合や、行事・イベントなどで実費が発生する場合は利用者の自己負担となります。

6)障害福祉サービス等報酬改定

障害福祉サービス等報酬改定は3年に1回行われており、次の改定は2024年度(令和6年度)になります。要件を満たすことで基本報酬と別に得られる加算、事業所が認可(指定)基準を満たさない場合に基本報酬を減らされる減算について確認が必要です。

また、報酬改定によって公費負担の対象となる活動が変わる可能性があることに要注意です。2023年5月に公表された、厚生労働省「障害児通所支援に関する検討会報告書―すべてのこどもがともに育つ地域づくりに向けて―」では、ピアノや絵画等の支援について「これらのみを提供する支援は、公費により負担する児童発達支援として相応しくないと考えられる」といった意見も示されており、単なる習い事のような活動は規制されていくかもしれません。

7)送迎サービスには子どもの置き去りを防止する安全装置が必要

多くの児発・放デイでは、障害福祉サービス等報酬の「送迎加算」もあって、自動車による利用者の送迎サービスを行っています。

こうした中、2022年9月に静岡県牧之原市の認定こども園で、送迎用バスに園児が置き去りにされ、亡くなる事件が起きたことを受け、2023年4月から児発・放デイにも、送迎用の自動車に子どもがまだ車内にいるのを見落とさないようにするブザーなどの装置を装備し、降車時に子どもの所在を確認することが義務付けられました。

対象となるのは、座席が2列以下の自動車を除く全ての送迎用の自動車です。3列シート車やマイクロバスなどを送迎サービスに使っている場合、経過措置が終了する2024年3月末までに対応が必要です。

なお、児発・放デイの送迎サービスは、道路運送法の旅客自動車運送事業には当たらず、ドライバーが第2種免許を持っている必要はありません。第1種運転免許を持っているスタッフや管理者が送迎を担当するのが一般的です。

8)日本版DBSの導入

政府は、子どもと接する職業に就く人に性犯罪歴がないことの証明を求める仕組み(日本版DBS)の導入に向けた検討を進めています。国会への法案提出は、この記事の執筆時点で未定ですが、児発・放デイが義務化の対象になる可能性もあります。

4 参考

■児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準■

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=424M60000100015_20230401_505M60000100048

■児童発達支援ガイドライン■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000117218.html#h2_free3

■放課後等デイサービスガイドライン■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000117218.html#h2_free2

■障害福祉サービス等報酬改定検討チーム■

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syougai_446935_00001.html

■障害児通所支援に関する検討会■

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_27047.html

■こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議■

https://www.cfa.go.jp/councils/kodomokanren-jujisha/

以上(2023年11月作成)

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画像:milatas-Adobe Stock

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