書いてあること
- 主な読者:運送業者・運輸業者、地域の特産品生産者、飲食店事業者、EC事業者など
- 課題:旅客の運送車両に貨物を載せる「貨客混載」を活用したビジネスチャンスを知りたい
- 解決策:新幹線での産直品配送や路線バスでの車内販売など、貨客混載の事例を参考にする
1 「貨客混載」は新ビジネスのチャンス!
鉄道やバス、タクシーといった旅客を運送する車両が空きスペースを使って貨物を配送したり、トラックが旅客を搬送したりする「貨客混載」を活用する動きが、広がりをみせています。
2023年6月30日からは、これまでの鉄道、路線バス、高速バスに加えて、貸切バス、タクシー、トラックについても、全国で貨客混載を活用できるようになりました(従来は人口3万人未満の市町村の過疎地域のみで活用が可能でした)。
貨客混載は、コロナ禍でのタクシーなどによるデリバリー事業でも注目されましたが、本来はコロナ対策だけでなく、
人口減が進む日本の貨客運送を効率化し、持続性を高めるための手段
として大きな意味を持っています。2020年の関連法の改正により、地域公共交通計画に「貨客運送効率化事業」を盛り込むことが可能になったことを受けて、貨客運送に関する課題解決のために貨客混載を活用する動きが広がってきています。
貨客混載の活用は、運送業者・運輸業者はもちろん、地域の特産品生産者や飲食店事業者などにとっても、次のようなメリットがあります。
- 商品の新たな配送エリアの確保
- 配送時間の短縮や配送の効率化
- 配送の担い手不足の解消
この記事では、貨客混載をビジネスに活用するための参考になるよう、貨客混載の事例(一部は実証実験)を紹介します。
2 広域での物流の新サービス
1)特産品や産直品の都市部などへの配送・販売
農水産物などの特産品や産直品を都市部の消費者に届ける手段として、鉄道やバスを活用する事業が生まれています。
JR東日本は、埼玉県さいたま市の大宮駅構内に、長野県の特産品を新幹線で直送して販売する地方創生ショップ「信濃の風」を開店しました。長野県内の旬の野菜や果物を毎日新幹線「あさま」で輸送しています。
食材のマーケティングなどを手掛けるアップクオリティ(東京都新宿区)が運営する東京・新宿三丁目に立地する飲食店「バスあいのり3丁目TERRACE」は、全国からの高速バスの空きトランクを使った配送で入手した全国各地の食材を使った飲食物を販売しています。メニューには、福井の甘エビを使ったユッケご飯や、高知の藁焼きかつおが入ったサラダ、岩手の豚肉や鶏肉を使ったバーガー、新潟や熊本などのご当地アイス・ジェラートなどがあります。
銚子電気鉄道(千葉県銚子市)はJRバス関東(東京都江東区)と連携して、同社が手掛ける商品や銚子の特産品をJRバス関東の高速バスで配送し、さまざまな場所で販売する企画を行っています。2023年3月には東京駅構内のコンビニで「ぬれ煎餅」や「まずい棒」、銚子の特産品である「醤油羊羹」などを販売しました。
2)新幹線でみどりの窓口に配送
JR九州は、博多駅と鹿児島中央駅間、博多駅と熊本駅間で、九州新幹線の未活用スペース(旧車内販売準備室)を使って荷物を輸送するサービス「はやっ!便」を展開しています。博多駅と鹿児島中央駅間は最速2時間35分、博多駅と熊本間は最速1時間50分で届くスピードが売りです。荷物の受け付けと引き渡しはみどりの窓口で行っており、事前予約は不要です。配送料は、3辺の合計が60センチメートル以下、重量が3キログラム以下の荷物は900円です。
同社は、法人による支店間の書類の送付や機械部品の搬送、飲食店による産地からの生鮮品の購入、個人などによるギフトの送付などの利用方法を紹介しています。
3)高速バスで小荷物を配送
鉄道だけでなく、高速バスでも配送サービスが始まっています。西日本鉄道(福岡県福岡市)は高速・特急バスによる小荷物の配送サービスを行っています。福岡市を起点に、福岡県内や九州の都市のバスターミナルや営業所などでの発送および受け取りが可能です。小荷物のサイズは、重さは30キログラム以内、1辺1メートル以内、容積0.25立方メートル以内。約2時間から約3時間で配送が可能で、福岡市と北九州市(小倉)間は1350円、福岡市と長崎市間は2900円としています。
3 地域内の物流の新サービス
1)タクシーでの買い物支援・代行
タクシー事業を行うつばめ交通(広島県広島市)は、タクシーの乗務員が買い物を代行する「お買い物『おつかい』サービス」や、買い物をする乗客に付き添う「お買い物『付き添い』サービス」を行っています。買い物代行は乗務員が1回で運べる大きさや重さであることを前提に、基本料金を2キロメートル1800円、1キロメートルにつき300円加算としています。同じ料金で薬の受け取りサービスも行っています。付き添いサービスはタクシー貸切料金となる30分3300円からの料金設定としています。
岡山県久米南町が導入している町内限定の乗合タクシー「カッピーのりあい号」は、町内の店舗に注文した商品の宅配サービスも行っています。配送料は、配達用ケース1個につき300円としています。対応している店舗は、食料品や衣料品、農具などの7店舗(2023年2月時点)です。また、同じ金額で町内の住民間の荷物の配送サービスも行っています。
2)路線バスによる移動販売
バス事業を行う十勝バス(北海道帯広市)は2021年12月から2022年2月に、路線バスの後部に食品や日用品を販売する店舗機能を付けたバス「マルシェバス」を運行する実証実験を行いました。通常の路線バスとして運行する一方、運行の途中で所定の3カ所の駐車場にそれぞれ1時間半から2時間停車し、車内販売を行いました。
3)観光客の手荷物配送
佐川急便と、愛媛県内で路線バスを運営する伊予鉄グループ(松山市)、宇和島自動車(宇和島市)、瀬戸内運輸(今治市)は共同で、「しまなみ海道」のサイクリングを目的とした観光客などを想定した、提携宿泊施設間の手荷物配送サービス「バスパ」を提供しています。提携宿泊施設からの集荷を佐川急便が行い、それぞれのバス会社の最寄りの倉庫まで配送。路線バスの荷室で配送し、配送先の提携宿泊施設の最寄りとなるバス会社の倉庫から佐川急便がホテルに配達するサービスです。提携宿泊施設の宿泊者しか利用できません。3辺の合計が160センチメートル以内、重量は30キログラム以内の手荷物が対象で、配送料は2200円としています。
4)地元のパンの販路拡大
JR西日本とヤマト運輸は岡山県総社市の総社商工会議所などと協力して、総社市内の複数のパン製造業者の工場から、パンを毎週水曜日に岡山駅構内の店舗まで配送しています。総社市内の工場のパンをヤマト運輸が集荷して総社駅まで配送し、総社駅から岡山駅までJR西日本・伯備線の旅客列車で配送しています。
岡山市は1世帯あたりのパン消費量が全国で最も多い一方、総社市は岡山県でパンの製造出荷額が最も多いことを踏まえ、総社エリアのパンの認知度や販路の拡大などを目的としたといいます。
4 広域での物流の効率化
貨客混載が可能になったことで、これまで配送事業者が自社の配送網のみで行っていた配送の一部区間を、鉄道やバスを活用することで、物流を効率化させる動きが進んでいます。
1)配送事業の一部区間での鉄道の活用
北越急行(新潟県南魚沼市)は、ほくほく線のうらがわら駅と六日町駅間の旅客列車で、佐川急便の配送物を配送しています。これにより、佐川急便は上越営業所から六日町営業所への配送について、従来は長岡営業所を経由する133キロメートルの輸送区間だったのが、上越営業所からうらがわら駅の17キロメートルと六日町駅から六日町営業所の3キロメートルに短縮されたといいます。
2)配送事業の一部区間での路線バスの活用
バス事業などを行う両備ホールディングス(岡山県岡山市)は、楽天による配送サービス「Rakuten EXPRESS」による、岡山県瀬戸内市と岡山市東区の一部のエリアへの配送に関して、配送ルートの一部区間を路線バスで行っています。
また、丹後海陸交通(京都府与謝野町)は、ヤマト運輸による京都府北部の「伊根・府中地区」への配送に関して、配送ルートの一部区間を路線バスで行っています。ヤマト運輸の配送スタッフは、同市の営業所から最寄りのバス停で路線バスに配送物を積み込み、別のスタッフが約13キロメートル先の停留所で配送物を受け取ります。これにより、ヤマト運輸の同地区への配送トラックの走行距離が、1日約52キロメートル減ったといいます。
3)配送事業の一部区間での高速バスの活用
前述の丹後海陸交通は、ヤマト運輸が契約している京都府北部の若狭湾沿岸で取れた海産物や農産物の配送に関して、野田川丹海前(京都府与謝野町)と京都駅(京都府京都市)間の約130キロメートルの配送を、高速バスで行っています。
この他、近鉄バス(大阪府東大阪市)と宮城交通(宮城県仙台市)が共同運行する大阪と仙台間の夜間高速バスは、福山通運(広島県福山市)および南東北福山通運(宮城県仙台市)による大阪・仙台両市内のバス車庫までの配送を行っています。
5 地域内での物流の効率化
1)タクシーによるラストワンマイルの配送
配送事業者が、ラストワンマイルに地元のタクシー事業者を活用するケースもみられます。
佐川急便は、配送先のタクシー事業者の乗車待ちや空車の時間を利用して、同社の営業所からの宅配を委託しています。2017年11月に、旭川営業所(北海道旭川市)から旭川市米飯地区への宅配業務を旭川中央交通(同)に委託した他、2018年10月には、京都精華営業所(京都府精華町)から京都府笠置町での宅配・集配業務を山城ヤサカ交通(京都府京田辺市)に委託するなどしています。
2)路線バスでパンや農産物を配送
東急バス(東京都目黒区)は路線バスを活用して、沿線に立地するパン製造会社「プロローグ」(神奈川県横浜市)の工場で製造されたパンを、店舗の最寄りのバス停「たまプラーザ駅」まで配送しています。東急バスにとっては新たな収入源となる一方、プロローグには配送のための人員や時間の節減に加え、配送中の事故のリスクの低減につながるなどのメリットがあるといいます。
兵庫県神戸市は国土交通省の「共創モデル実証プロジェクト」の一貫として、路線バスを利用した貨客混載プロジェクトを進めています。2022年度から2023年度にかけて、地元の神姫ゾーンバスによる路線バスを使って、農産物直売所からショッピングセンター内に農産物を配送して店舗で販売したり、飲食店に農産物を配送したりする実証実験を検討しています。
3)鉄道で農産物を道の駅に配送
WILLER TRAINS(京都府宮津市)が運営する京都丹後鉄道は、京都府京丹後市の「久美浜地区」の農産物を、同市内の道の駅「丹後王国 食のみやこ」への配送を担っています。従来、久美浜地区の農家は、道の駅までの往復約50キロメートルを、各自トラックで農産物を配送していました。京都丹後鉄道の久美浜駅から峰山駅への約22キロメートルを旅客列車が配送し、峰山駅で丹後王国が集荷することにより、農家の搬送距離は久美浜駅までの往復約15キロメートルのみとなりました。
以上(2023年9月作成)
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