書いてあること

  • 主な読者:自社のウェブサイトやSNSなどを通じて社内外へ情報発信を担う広報担当者
  • 課題:写真を掲載してビジュアルを充実させたいが、意図しない権利侵害が不安
  • 解決策:どういった場合に権利侵害になる恐れがあるのか、写真の著作権・肖像権について理解する

1 写真の権利についてしっかり理解していますか?

社内外へ情報を発信するとき、ビジュアルを充実させる写真は欠かせません。スマホで撮った写真をSNSにアップするのを誰もが日常的に行っている今、

他人が撮った写真を勝手に使ったり、被写体となった人の許諾を得ずに、個人が特定されてしまう載せ方をしたりするのはNGだというのは、もはや常識

でしょう。とはいえ、なぜNGなのか、写真や被写体の権利についてしっかり理解していない人も多いのではないでしょうか。

写真は著作権で保護されており、正しく扱わないと撮影者の権利を侵害することになります。また、被写体が人の場合は肖像権の問題が絡んできます。

これらの権利を侵害すると、損害賠償請求を受ける事態になってしまう恐れがあります。また、著作権侵害で刑事告訴された場合、罰則として、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方が科されることになるかもしれません。さらに、法人の業務に関して著作権侵害があったときは、行為者だけでなく法人にも3億円以下の罰金が科されます。

この記事では、注意が必要な「写真の著作権」「被写体となった人の肖像権」に焦点を当て、広報担当者として押さえておきたい基本的なポイントを、具体例を交えて解説します。

2 写真の著作権:写真は撮影者の著作物

他人が撮った写真を勝手に使うのがNGな理由は、

写真は撮影者の著作物であり、著作権の保護の対象

だからです。

著作物とは「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの」をいいます。写真も、著作権法で著作物の一つとして例示されています。

例えば、風景や料理などは、それ自体は著作物ではないですが、それを撮影した写真は撮影者の著作物として保護の対象となります。

なお、外国の著作物にも同じように著作権があり、「ベルヌ条約」や「万国著作権条約」によって各国が保護し合っています。日本はどちらの条約も批准しており、「外国人が撮った写真ならば、日本の著作権法は関係ない」という考えは誤りです。

3 被写体となった人の肖像権:プライバシー権の侵害は要注意

人が被写体の場合は肖像権の問題が絡んできます。肖像権とは、

自分の顔や姿を許可なく撮影されたり、自分が写った写真や画像、動画を無断で使用したり公表されたりしない権利

です。肖像権については、個人情報保護法の個人情報の定義と重なる部分がありますが、法律上明文化された権利ではなく、裁判例で認められ、保護されている権利です。

肖像権には、プライバシー権とパブリシティ権の2つの側面があります。いきなり写真を撮られたり、その写真がSNSでさらされたりすることがプライバシー権の侵害なのは言うまでもありません。また、芸能人やプロスポーツ選手など著名人の肖像は一定の経済的価値を生むため、実務上は、芸能プロダクションや所属チームなどがパブリシティ権として管理し、無断使用を禁止しています。

被写体から個人を特定できる場合、被写体となった本人に写真の使用や公開の許諾を得るのが筋です。人が写っている写真を使いたい場合は、撮影者の責任において権利処理(撮影だけでなく公開の許諾)がなされているものを使いましょう。

4 よくあるケース別 写真の権利に関する注意点

1)画像素材サイトからダウンロードする場合

画像素材サイトには「Adobe Stock」「PIXTA」「Shutterstock」「iStock」などがありますが、こうしたサイトからダウンロードする写真は、各サイトの利用規約や使用許諾契約に定める範囲内で、許諾を受けて、自社のウェブサイトや印刷物などに使えます。

注意が必要なのは、商用利用が可能かどうか、撮影者の情報を掲載する必要があるかどうか、二次加工が可能かどうかといった条件です。有償の写真を購入したから何をしても良いというわけではなく、利用規約や使用許諾契約に従って適正に取り扱わなければなりません。

また、画像素材サイトにアップロードされている素材が、そもそも第三者の著作権を侵害したものではないかということにも気を付ける必要があります。

2)自分以外の社員が撮った場合

自分以外の社員が撮った写真は、業務の一環として撮ったものか、私的に撮ったものかによって誰が著作者なのかの判断が変わります。

社員が業務の一環として撮った写真であれば、一般論としては、著作権法第15条第1項の「職務上作成する著作物」に当たり、会社(法人等)が著作者となります。こうした写真は、会社が自由に自社のウェブサイトや印刷物などに使えます。

一方、社員が私的に撮った写真は撮影者である社員の著作物ですから、利用目的を伝え、許諾を得て使うのが筋です。それ以外の用途に無断で使うのはNGです。例えば、社内報に掲載する写真を社員から提供してもらう場合などは、後でトラブルにならないように注意しましょう。

3)カメラマンに発注して撮ってもらう場合

カメラマンに発注して写真を撮ってもらう場合、撮影業務に関する委託契約の中で、「著作権の帰属」「利用目的」についても決めることになるでしょう。著作権を委託者である会社に帰属させる(移転する)という契約もあり得ますが、ここでは、受託者であるカメラマンに著作権を帰属させたままにする場合の注意点を紹介します。

納品された写真を二次加工したり、発注時とは異なる用途で利用したりする場合には、撮影者の許諾を得る必要があります。例えば、ホームページ用に撮影してもらった写真を、プレスリリース用にちょうどよさそうだからといって無断で一部分を切り抜いて使うのは、撮影者の同一性保持権(自分の著作物の内容または題号を自分の意に反して勝手に改変されない権利)を侵害することになります。なお、用途が増えれば、その分、追加料金が発生します。そのため、著作者人格権を行使しないことを合意することも考えられます。

また、委託者以外に対する許諾を禁止する場合や、撮影者自身による利用を禁止する場合は、その旨を契約内容に盛り込んで双方が合意する必要があります。

4)人が写っている場合

たとえ被写体として意識していなくても、人が写っている場合、肖像権が問題になる恐れがあります。

デジタルアーカイブに関わる研究者や実務家らによって組織されるデジタルアーカイブ学会では、「肖像権ガイドライン~自主的な公開判断の指針~」を取りまとめ公表しています。

同ガイドラインでは、非営利目的のデジタルアーカイブ機関が所蔵している写真をインターネットなどで公開する場合を想定し、次のステップで、公開に適しているか、一定の判断基準が示されています。

  1. 知人が見れば誰なのか判別できるか?(デジタル拡大すれば判別できる場合も含む)
  2. その公開について写っている人の同意はあるか?(撮影の同意だけでは足りない)
  3. 公開によって一般に予想される本人への精神的な影響をポイント計算すると何点か?

詳細は割愛しますが、写真に写っている人が誰なのか判別できない場合や、写っている人が公開に同意している場合であれば、肖像権の侵害にはなりにくいと考えられます。

例えば、写り込んだ人の顔にぼかしを入れるなどの処理は、誰なのか判別できないようにすることで肖像権の問題を回避するための一つの手段といえます。

5)他人の著作物が写っている場合

たとえ被写体として意識していなくても、他人の著作物が写っている場合、その著作権侵害に当たるでしょうか? この点は、著作権法第30条の2「付随対象著作物の利用」で規定されています。

同条文などを解説した、文化庁「いわゆる『写り込み』等に係る規定の整備について」によると、次のような場合は、著作権侵害には当たらないとされています。

  • 写真を撮影したところ、本来意図した撮影対象だけでなく、背景に小さくポスターや絵画が写り込む場合
  • 絵画が背景に小さく写り込んだ写真を、ブログに掲載する場合

一方、次のような場合は、原則として著作権者の許諾が必要となります。

  • 本来の撮影対象として、ポスターや絵画を撮影した写真を、ブログに掲載する場合
  • 漫画のキャラクターの顧客吸引力を利用する態様で、写真の本来の撮影対象に付随して漫画のキャラクターが写り込んでいる写真をステッカー等として販売する場合

6)AIを使って生成された画像の場合

AIを使って生成された画像などは、原則として著作権法上の著作物とは認められません。もっとも、文化庁は、AIを使って生成された画像について、既存の画像(著作物)との類似性や依拠性が認められれば、著作権侵害に当たる恐れがあるとの見解を示しています。

なお、写真の創作性について、この記事では詳しく触れませんが、定点カメラで機械的に撮影された写真など創作性がない場合は、著作物とは認められない場合もあります。

5 参考

1)法令

■著作権法■

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC0000000048

■文化庁「いわゆる『写り込み』等に係る規定の整備について」■

https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/utsurikomi.html

2)条約

■文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約(抄)■

https://www.cric.or.jp/db/treaty/t1_index.html

■万国著作権条約パリ改正条約■

https://www.cric.or.jp/db/treaty/bap_index.html

3)判例

■最大判昭和44年12月24日刑集23巻12号1625頁:京都府学連事件■

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51765

■最一小判平成17年11月10日民集59巻9号2428頁:法廷写真事件■

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52388

4)その他

■著作権情報センター(CRIC)「著作権って何?(はじめての著作権講座 )」■

https://www.cric.or.jp/qa/hajime/

■デジタルアーカイブ学会「肖像権ガイドライン~自主的な公開判断の指針~」■

http://digitalarchivejapan.org/bukai/legal/shozoken-guideline/

■文化庁「令和5年度著作権セミナー『AIと著作権』■

https://www.youtube.com/watch?v=eYkwTKfxyGY

■文化庁「写真の撮影 | 著作権契約書作成支援システム」■

https://pf.bunka.go.jp/chosaku/chosakuken/c-template/type06_precution.php

以上(2023年10月作成)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:andranik123-Adobe Stock

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