書いてあること

  • 主な読者:2024年度の注目すべき法務分野の改正を知りたい経営者、法務担当者
  • 課題:法務分野は改正が多いため、注目すべき話題に絞って把握したい
  • 解決策:「フリーランスの保護」「不当表示等に関する自主的な是正の促進や、違反行為に対する抑止力の強化等」「デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化」に注目する

1 2023年度・2024年度の3大ニュース

2023年度は、改正消費者契約法の施行による「契約書・約款の見直し」、改正電子通信事業法の施行による「電気通信事業該当性のチェック」の対応が求められた他、改正民法の施行による「所有者不明の不動産の有効活用」が認められるようになりました。

2024年度は、フリーランス保護新法の施行による「フリーランスの保護」、改正景品表示法の施行による「不当表示等に関する自主的な是正の促進や、違反行為に対する抑止力の強化等」が行われます。また、知財一括法の施行により、「デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化」が図られるため、スタートアップや中小企業において、知的財産を活用した新規事業展開が後押しされるようになるという法改正もあります。

2023年度・2024年度の法務3大ニュースは次の通りです。

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2 2023年度の総括

2023年6月1日より、改正消費者契約法が施行され、「法令に反しない限り、○万円を上限として賠償する」など、免責の範囲が不明確な条項が無効になった他、消費者を保護する規制が設けられました。自社の契約書や約款を見直し、消費者に不利益となる契約条項を修正するなど、法改正への対応を迫られた会社も多いのではないでしょうか。

また、2023年6月16日より、改正電子通信事業法が施行され、登録・届出を要する電気通信事業者の範囲が拡大しました。自社の事業が、電気通信事業に該当しないか改めてチェックする必要が出てきました。

その他、民法改正により、所有者が不明な不動産の処分につき新たな制度が設けられました。不動産業者を中心に、新たな法制度への理解が求められています。

3 2024年度の主なニュース

1)フリーランスの保護

遅くとも2024年秋ごろまでに、特定の会社に所属せず、業務委託で働くフリーランスを保護するための「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下「フリーランス保護新法」)が施行される予定です。主なポイントは次の通りです。

  1. 書面等での契約内容の明示
  2. 報酬の支払い時期の明確化
  3. 委託事業者の遵守事項
  4. 募集情報の的確な表示
  5. 就業環境の整備

フリーランスは、通常の従業員のように、労働関係法令(労働基準法など)が適用されません。一応、一定の資本金要件を満たす会社と契約するフリーランスであれば、下請法による保護を受けられるケースもありますが、中小企業はこの資本金要件を満たさないケースが多く、フリーランスが不利益を受けやすいという問題があります。そこで、

下請法に関係なく、「特定受託事業者」(業務委託の相手方で、従業員を使用しない事業者。つまりフリーランス)に該当すれば、法律による保護を受けられるようにする

というのが、フリーランス保護新法の趣旨です。

「1.書面等での契約内容の明示」「2.報酬の支払い時期の明確化」は、会社とフリーランスの契約における「取引条件が明確でない」「報酬の支払いが遅れる、一方的に減額される」といった典型的なトラブルを防止するためのもので、フリーランスに業務を委託する会社に対し、次の対応を義務付けています。

  • 給付の内容や報酬の額、支払い期日等を書面やメールで明示すること
  • 報酬の支払い期日について、原則として、フリーランスから給付を受けた日から起算して60日以内で、かつできる限り短い期間内に設定すること

「3.委託事業者の遵守事項」は、立場の弱いフリーランスが、会社から不利益を押し付けられないよう、会社が遵守すべき事項を定めるものです。具体的には次の通りです。

  • フリーランスの責めに帰すべき事由なく給付の受領を拒絶すること
  • フリーランスの責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
  • フリーランスの責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
  • 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
  • 正当な理由がなく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
  • 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
  • フリーランスの責めに帰すべき事由なく給付内容を変更させ、またはやり直させること

その他、通常の従業員と同じように、フリーランスを募集するに当たって「4.募集情報の的確な表示」を行うこと、ハラスメントの防止や出産・育児・介護への配慮といった「5.就業環境の整備」を行うことなどが求められます。

2)不当表示等に関する自主的な是正の促進や、違反行為に対する抑止力の強化等

遅くとも2024年秋ごろまでに、会社の自主的な是正の促進や違反行為に対する抑止力の強化等を目的とした、「不当景品類及び不当表示防止法」(以下「景品表示法」)の改正法が施行される予定です。主な改正点は次の通りです。

  1. 確約手続の導入
  2. 課徴金制度の見直し
  3. 直罰規定の新設
  4. 適格消費者団体による開示要請規定の導入

景品表示法は、商品・サービスの品質・内容・価格等を実際よりも良く見せる(不当表示)、過大な景品を提供するなどして、消費者を惑わすのを防ぐための法律です。違反した会社は、行政指導や措置命令、課徴金納付命令等の対象になります。とはいえ、悪気なく不当表示等をしてしまい、自主的に是正しようとする会社にまで行政処分を課すのは酷です。そこで、

自主的に不当表示等の是正を進める会社に対しては、ある程度寛大な対応をしつつ、一方で悪質な会社に対しては、より重い処分を課すことで消費者を保護していく

というのが、今回の改正法の趣旨です。

「1.確約手続の導入」は、

不当表示等の疑いがある会社が「是正措置計画」を申請し、内閣総理大臣から認定を受けたときは、措置命令、課徴金納付命令の適用を受けないようにする

というものです。是正措置計画は、不当表示等を疑われるきっかけとなった行為とその影響を是正するための措置に関する計画です。

「2. 課徴金制度の見直し」は、

  • 適切な売上額を報告できない会社について、行政庁が売上額を推計することで、速やかに課徴金を納付させる規定
  • 一定期間内に繰り返し違反する会社の課徴金を、本来の1.5倍に増額する規定

を新設するというもので、これにより、会社の違反行為に対する抑止力が強化されます。

「3.直罰規定の新設」も、会社の違反行為に対する抑止力を強化する改正です。現行法では、悪質な不当表示等を行った会社に対しては、行政処分を経てから、刑事罰を科せるようになっていますが、改正法では、

行政処分を経ずに直罰(100万円以下の罰金)を科すことができる

ようになります。

「4.適格消費者団体による開示要請規定の導入」は、適格消費者団体(消費者保護のための、違反行為の差止請求権を持っている団体)が、一定の場合に会社に対し、表示の裏付けとなる根拠資料の開示を求められるようにするものです。

3)デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化

2023年6月7日に「不正競争防止法等の一部を改正する法律」(以下「知財一括法」)が成立し、2024年4月1日までに不正競争防止法、商標法、意匠法、特許法、実用新案法、工業所有権特例法等の改正法が順次施行されます。複数の改正の中で特に重要なのが「デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化」で、ポイントは次の通りです。

  1. 登録可能な商標の拡充
  2. 意匠登録手続の要件緩和
  3. デジタル空間における模倣行為の防止
  4. 営業秘密・限定提供データの保護の強化

デジタル技術の活用により、特にスタートアップや中小企業の事業活動が多様化していますが、現行法では商標登録のハードルが高かったり、法律で十分に保護されないデータがあったりして、事業活動の妨げになる恐れがあります。そこで、

商標登録やデータ保護の問題をクリアして、スタートアップや中小企業の新事業展開を後押ししていく

というのが、知財一括法の趣旨です。

「1.登録可能な商標の拡充」は、類似する複数の商標の取り扱いを定めたものです。現行法では、他人が既に登録している商標と類似するものは原則登録できませんが、知財一括法では、

先行する商標権者が同意して、出所混同の恐れがなければ、併存して登録できる

ようになります。また、一定の場合には、他人の氏名を含む商標も、当人の承諾なく登録ができるようになります。

「2.意匠登録手続の要件緩和」は、創作者等が出願前にデザインを複数公開した場合の意匠登録のルールを定めたものです。通常、出願前にデザインが公開されると、新規性(新しく、まだ世に知られていないこと)が失われ、意匠登録が受けられなくなりますが、所定の証明書を提出すると意匠登録が受けられるようになります。現行法では、複数のデザイン全てについて証明書の提出が必要ですが、知財一括法では、

最初のデザインについての証明書を提出すれば、例外規定の適用を受けられる

ようになります。

「3.デジタル空間における模倣行為の防止」は、メタバース等のデジタル空間における模倣行為を規制するものです。

他人の商品形態を模倣した商品を提供する行為について、デジタル空間上であっても不正競争行為の対象とし、差止請求権等を行使できる

ようになります。

「4.営業秘密・限定提供データの保護の強化」は、他社に共有するビッグデータ(地図データ、消費動向データ等)の保護対象が拡充されるというものです。

データを秘密管理している場合も含め限定提供データとして保護し、侵害行為の差止請求権等を行使できる

ようになります。

4 今後の対応について

2024年度の各種法改正は、いずれも主に中小企業にとって、大きな影響があります。

最近は、フリーランスに業務を発注する中小企業が増えてきましたが、そうした会社は、フリーランス保護新法の内容を正しく理解し、規制に沿った対応をする必要があります。

一般消費者向けの商品やサービスを販売・提供する会社は、常に景品表示法を意識しなければなりません。直罰規定の新設や課徴金制度の見直し等の違反者に対する制裁も強化されていますので、意図せずに不当表示等を行ってしまった場合には確約手続を利用する等、早期に是正できる社内体制を構築しておくのもよいでしょう。

ビジネスを規制する法改正もあれば、一方で知財一括法のように、ビジネスを後押しする法改正もあります。自社に関係するものについては、タイムリーに情報を収集する必要があるでしょう。

以上(2024年3月作成)
(執筆 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:Artur Szczybylo-shutterstock

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