書いてあること

  • 主な読者:2024年1月1日から随時施行される改正著作権法が気になっている経営者
  • 課題:どういう改正なの? 自社には関係なさそうだけど放っておいてもいい?
  • 解決策:DX時代に対応した著作権制度の見直しがテーマ。対象者は限られるが、著作権制度は情報を発信する全ての人に関わりがあるので、一般常識として押さえておく

1 押さえておくべき改正内容は3つ

著作権法では、書籍、楽曲、映画、ソフトウェアなどの「著作物」を創作した著作者には、

  • 著作権(著作財産権):著作物を勝手に複製されたり、配信されたりしない権利
  • 著作者人格権:著作物を勝手に公表されたり、内容を変更されたりしない権利

が認められます(著作権(著作財産権)については、著作者以外への譲渡も可)。また、著作者ではないものの、著作物を伝達する上で重要な役割を担うレコード製作者や放送事業者には、

  • 著作隣接権:著作物を複製したり、二次使用料を受けたりできる権利

が認められます。これらをまとめて「著作権等」、その権利者を「著作権者等」といいます。

まだインターネットがなかった昔、著作権等に関わりがあるのは、基本的にレコード製作者や放送事業者などの「プロ」だけでした。ですが、今はウェブサイトやSNSで誰もが簡単に情報を発信でき、誰もが著作権等の当事者になり得ます。

一方、最近はChatGPTなど、いわゆる「生成AI」が登場したことで、「AIが作った生成物に著作権等は認められるのか」「既存のイラストなどをベースにAIが画像を生成した場合、著作権等の侵害にならないか」など、新しい議論が起きています。著作権等の内容は、時代とともに複雑化しているのです。

そのような中、「デジタルトランスフォーメーション(DX)時代に対応した著作権制度の見直し」というテーマで、2023年5月26日に改正著作権法(以下「改正法」)が公布されました。改正内容は次の3つで、2024年1月1日から随時施行されます。対象者が限られる法改正もありますが、一般常識として動向を押さえておいたほうがよいでしょう。以降で概要を紹介します。

  1. 海賊版被害による損害賠償額の算定方法が見直される(2024年1月1日施行)
  2. 立法・行政組織の内部で著作物の公衆送信等が可能になる(2024年1月1日施行)
  3. 著作物の二次利用に関する新制度が創設される(2023年5月26日から3年以内に施行)

2 海賊版被害による損害賠償額の算定方法が見直される

2024年1月1日から、海賊版(著作隣接権者でない者が、著作物を無断で複製したもの)被害に遭った場合における、侵害者(海賊版サイトの運営者等)に対する損害賠償額の算定方法が変わります。

現行法では、海賊版被害の損害賠償額は

「1.侵害者が販売した数量」×「2.著作権者等が正規品を販売した場合の1個当たり利益」

で算定されます。ですが、この計算式には、

著作権者等の販売等の能力を超える数量は、「1.侵害者が販売した数量」に含まれない

というルールがあります。例えば、侵害者によって映画やソフトウェアの海賊版が100点複製されたとしても、もともと著作権者等に10点しか販売する能力がなければ、90点分については損害賠償を請求できないのです。そのため、海賊版サイト等による被害が深刻化している実態に対し、実際に認定される損害賠償額が低くなりやすいという問題がありました。

この点を踏まえ、2024年1月1日以降は

現行法のルールで算定した損害額に、著作物のライセンス料(使用料)相当額を加算して損害賠償を請求できる

ようになります。例えば、著作権者等に著作物を10点しか販売する能力がなくても、海賊版が100点複製されているなら、90点分についてライセンス料相当額を請求できるイメージです。

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なお、このライセンス料相当額ですが、改正法では、損害賠償の際に著作権が侵害された事実を請求額の考慮に入れることができる旨が明示されています。簡単に言うと、

著作権侵害があったことを前提に、ライセンス料相当額を通常の額(著作権侵害がなかった場合の額)より高く設定してもよい

ということです。具体的にどの程度の増額が認められるのかなどについてはまだ不明瞭ですが、著作権者等にとっては法改正前よりも有利な損害賠償請求が可能になります。

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3 立法・行政組織の内部で著作物の公衆送信等が可能になる

2024年1月1日から、立法・行政組織での内部資料として必要な場合に限り、一定の範囲内で著作物の公衆送信等が認められるようになります。

著作権(著作財産権)の1つに、著作権者が著作物を自分の意思で公衆(不特定多数または特定多数の人)に送信する「公衆送信権」というものがあります。現行法では、第三者が公衆に著作物を送信する場合、著作権者の許諾が必要です。ですが、クラウド保存やオンライン会議での共有などを利用してスピーディーに情報をやり取りしたい場合、許諾の手続きがその妨げになってしまうことがあります。

この点を踏まえ、2024年1月1日以降は、

立法・行政組織での内部資料として必要な場合に限り、必要な範囲に限って、著作権者の許諾がなくても、著作物のクラウド保存、オンライン会議での共有などが認められる

ようになります。具体的には、行政機関における法律案・予算案の審議、施策の企画、立案などの場面で用いられます。ただし、著作物の一部しか必要とされていないのに全部を共有・送信するなど、必要な範囲を超えた運用は認められません。

この改正は立法・行政組織のみを対象としたものです。民間の会社が、第三者の著作物を公衆に送信する場合については、引き続き著作権者の許諾が必要となるので注意が必要です。

4 著作物の二次利用に関する新制度が創設される

2023年5月26日(改正法の公布日)から3年以内に、著作物の二次利用の可否などについて、著作権者等が不明である場合や著作権者等の意思が確認できない場合、一定の手続きを経て、補償金を支払うことによりこれを利用できるようにする新制度が創設されます。施行の具体的な日付は未定です。

現行法では、インターネット上などにある著作物を利用したいものの、「著作権者等が誰か分からない」「どこにいるのか分からない」といった場合、文化庁長官の裁定を受けることでこれを利用することが認められています。ですが、申請してから裁定を受けるまでに約2カ月かかる上に、著作権情報センターウェブサイトに権利者に関する情報提供を求める記事の掲載を依頼しなければならないなど手続きも複雑です。

この点を踏まえ、法改正後は

文化庁長官指定の民間の窓口組織を新設し、利用者はそこに「補償金を供託」することで、合法的かつ迅速に著作物を二次利用できる

ようになります。補償金を「著作物のライセンス料(使用料)」と考えるとイメージしやすいでしょう。先に民間の窓口組織に補償金を払って著作物を利用させてもらい、後になって著作権者等から「自分の著作物が勝手に使われている」と申し出があったら、それまでの利用期間のライセンス料として補償金を支払うというものです。

なお、著作物を利用できるのは最長3年間(再申請することで更新は可能)で、著作権者から申し出があったら、そこから先の二次利用については著作権者と交渉する必要があります。

また、裁定制度の申請受付や要件確認、補償金額の決定に関する事務の一部も民間機関に一元化される予定なので、法改正前よりも利用に係る手続きは簡便かつスピーディーになることが期待されています。

以上(2023年12月作成)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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