おはようございます。この会社を退職していく社員がいます。残念なことですが、新天地でのさらなる飛躍を期待しています。忘れないでほしいのは、退職してもこの会社にいた事実は変わらないこと、そして、新天地でもこの会社の元社員という肩書を背負い続けるということです。
これは、今この会社で働いている皆さんにとっても同じことがいえます。皆さんもまた、この会社の社員という肩書だけでなく、過去に勤めていた会社や、出身校に所属していたという歴史を背負い続けるのです。
そのことをよく理解してもらうために、少し昔の話ですが、サッカー元日本代表のゴールキーパー・楢﨑正剛(ならざきせいごう)さんのエピソードを紹介します。楢﨑さんは1999年に、所属していた横浜フリューゲルス(以下「横浜F」)というチームが消滅してしまったため、当時の名古屋グランパスエイト(以下「名古屋」)への移籍を余儀なくされました。楢﨑さんはその後の約20年間、他チームからのオファーを断り続け、引退するまで名古屋でプレーし続けました。
楢﨑さんが移籍をしなかった大きな理由が、かつて所属した「横浜F」の存在でした。サッカー選手は、選手紹介などの際に、前の所属チームも記載されることが少なくありません。楢﨑さんは、なるべく長い間、前の所属チームの欄に「横浜F」の名前を残したいという思いで、移籍を断り続けたといいます。
実際に、楢﨑さんが日本代表や名古屋で活躍するたびに、すでに消滅した「横浜F」の名前が登場しました。そのことで、横浜Fの存在を忘れていた人や、存在自体を知らなかった人に、かつて日本代表ゴールキーパーを育てた強豪チームがあったことを認識してもらえたはずです。そして、「あの楢﨑さんが所属したチーム」として横浜Fは語り継がれ、かつての所属選手やファンが誇りを持ち続けることにもつながったでしょう。
楢﨑さんのように、私は皆さんにも、今この会社で頑張って評価を高めることが、前の会社や出身校の評価を高めることにつながるのだということを意識してもらいたいです。そして、前の会社や出身校の評価が高まれば、今度は逆に、皆さんが「あんなすごい会社や学校にいたんだ」と評価されるケースも出てきます。皆さんは過去を書き換えることはできませんが、その過去の評価は、今の頑張りによって変えられます。つまり、今の頑張りは、過去の自分さえ輝かせることができるのです。逆に、皆さんが何か問題を起こせば、今だけでなく、過去の自分の評価まで下がってしまうこともありますから、そこは注意が必要です。
「今の自分だけが自分だ。過去は関係ない」という考えの人もいるでしょう。ですが、どんな人も過去が積み重なって今の自分があります。過去に縛られる必要はありませんが、楢﨑さんのように、過去を誇りに思うからこそ湧いてくる力があるというのもまた事実なのです。
以上(2023年9月)
pj17155
画像:Mariko Mitsuda