私たちは、仕事やプライベートで関わる人に対し、無意識のうちに「〇〇な人」というイメージを持つことがあります。優しい人、怖い人、面白い人、退屈な人、いろいろありますね。ただ、それらのイメージはあくまで自分がつくり上げたもので、実態とかけ離れていることも少なくありません。歴史上の人物を例に一つ話をします。
皆さんは、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」という言葉を聞いて、誰を思い浮かべますか。おそらく、多くの人が「マリー・アントワネット」と答えるでしょう。18世紀にフランス王妃となるも、フランス革命により処刑台に追いやられた悲劇の女性です。大変な浪費家だったとされ、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」は、王妃としてぜいたくな日々を送る彼女が「民衆がパンを食べられずに苦しんでいる」と告げられた際に発した言葉として有名です。
ですが、実はこれは誤りとされています。先ほどの言葉は、フランスの思想家ルソーの自伝に記されたものですが、それが出版された頃のマリー・アントワネットは、まだフランス王妃になる前の10歳ぐらいの少女なのです。にもかかわらず、彼女の「浪費家」というイメージが強すぎるせいで、本当は他の誰かが口にした言葉が、彼女が言ったものと200年以上誤解されているのです。ちなみに、彼女が本当に浪費家だったのかも実は定かではなく、飢饉の際、彼女が宮廷費を削って寄付をしたという話もあるのです。
このように、「〇〇な人」というイメージは、大きな誤解を生むことがあります。ビジネスでも、意図せずに相手から悪いイメージを持たれてしまうケースというのはよくあります。
例えば、若手社員が上司に同行して、取引先との商談に臨む場面を想像してみてください。商談は上司メインで話が進むため、若手社員は「上司の邪魔にならないように」と、口を挟まず黙っています。しかし、相手は、若手社員が全く話に入ってこないのを見て、「この人は全く発言しないけど、何しに来たのかな」「話に入ってこないということは、半人前なんだな」と、ネガティブなイメージを持つかもしれません。
こうしたネガティブなイメージを払拭するための方法は、たった1つ。相手と積極的に話して、相手が自分に対して抱いている「○◯な人」というイメージを塗り替えるのです。「怖いと思っていた人が、話してみたら意外と優しかった」というのはよくある話です。
先ほどの商談であれば、事前に上司に相談して自分がメインで話をするパートをつくってもらったり、気になる点を相手に質問してみたりするとよいでしょう。多少拙い部分があっても、一生懸命話そう、話を聞こうとしてくる人には、相手も好意的なイメージを持つものです。「もしも嫌われたら……」と何もしないでいるのが一番よくありません。自分のイメージは自分から相手にアタックしてつくるのです。
以上(2023年10月)
pj17159
画像:Mariko Mitsuda