全部を出し切ったと思った瞬間に、さらにもう一度出し尽くす
ジェイミー・ジョセフ氏は、ラグビー日本代表のヘッドコーチとして、2019年に開催されたラグビーワールドカップ2019日本大会で、日本を初のベスト8に導きました。「ONE TEAM」のスローガンを掲げて活躍した日本チームの勇姿は、まだ記憶に新しいでしょう。ジョセフ氏は2023年9月から10月に開催される2023フランス大会でも、日本代表のヘッドコーチを務めています。
冒頭の言葉は、2019年の日本大会一次リーグで最大の難関となったアイルランド戦を前に、ジョセフ氏が選手やスタッフに語った言葉です。大会直前の世界ランキングが1位だったアイルランドとの試合は、当然ながらハードな内容になることが予想されました。このためジョセフ氏は、後半の戦い方について、冒頭の言葉を述べたのです。
ジョセフ氏は、選手たちに根性論を訴えたわけではありません。この言葉に続いて、「宮崎(での合宿)で、網走(での合宿)で、我々はそのための準備をしてきた」「お互いを信頼しろ。皆を信じている」と語っています。合宿で心も体も極限まで鍛え上げ、ONE TEAMになった選手とスタッフは、一人ひとりが全力を出し切るのはもちろん、チームのために、全力のさらに上の力を出せるための準備ができていると、ジョセフ氏は確信していたのでしょう。それは、根性論という単純な論理ではなく、「全員がチームのために、全力以上の力を出して貢献してくれる。もちろん自分もそうする」という、チーム内の固い信頼関係によって生まれた考えだといえるでしょう。
アイルランド戦では、ジョセフ氏の言葉がまさに現実になりました。前半を9対12でリードされて迎えた後半、日本チームは一丸となって力を出し尽くし、19対12で逆転勝利したのです。
会社でも社会でも、チームが弱体化する要因の一つに、メンバー間の「不公平感」があります。例えば、手抜きをしたり、ルールを守らなかったりする社員がいると、他の社員は「なぜ自分だけ真面目に頑張らないといけないんだ。不公平だ」と、やる気を失っていきます。ですが、逆に「全社員が目標に向かって全力を出している」という思いが共有されると、皆が「自分が足を引っ張るわけにはいかない」と奮起し、それが全力以上の力を引き出すきっかけになるのです。
そんなチームをつくるには、システムとして全社員が公平感を持てる仕組みをつくるか、トップが率先して全力以上のものを出す姿を見せ、社員の目線を引き上げることが重要です。
ちなみに、ジョセフ氏は日本代表の試合後に、最優秀選手を指名して表彰する制度を創設していました。ところがアイルランド戦では、最優秀選手は「誰か一人にではなく、チーム全体に」と言って、スタッフを含めた全員をたたえたそうです。ジョセフ氏は試合の勝因は、全員が全力以上を出したことだと確信していたのでしょう。
出典:「ラグビー日本代表ONE TEAMの軌跡:あの感動と勇気が甦ってくる」(藤井雄一郎、藪木宏之著、伊藤芳明文・構成、講談社、2020年7月)
以上(2023年9月作成)
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