他の企業がどうであろうと、自分のお客様のニーズを満たせば自分たちの存在意義はある

鈴木敏文氏は、1970年代から2016年に名誉顧問に退くまで、現在のセブン&アイ・ホールディングスを率いて、日本を代表する流通グループに成長させました。その優れた経営手腕と実績から、「流通王」などとも称されています。

数ある鈴木氏の功績の中でも最大のものは、今から50年前の1973年に、日本のコンビニエンスストア(以下「コンビニ」)の草分けであるセブン-イレブン・ジャパンを創設したことでしょう。

鈴木氏はコンビニを創設した後、精緻な商品管理システムの開発、独自の商品開発や物流体制の構築、公共料金の収納代行など公共サービスの提供、新銀行の設立を通じたコンビニ内へのATM設置など、常にコンビニを進化させ続けていきました。その結果、今やコンビニは、災害時に優先的な復旧が望まれるほど、私たちの生活に欠かせないインフラ基盤になっています。

冒頭の言葉は、鈴木氏がなぜコンビニを日本に導入し、本家の米国とは違う「日本式」のコンビニスタイルを発展させていったかを理解する上で、象徴的な言葉といえます。鈴木氏は冒頭の言葉の前後に、自らの経営指針に関して、「(同業)他社さんとの競争における勝者と敗者というのではなく、お客様のニーズをどうつかめるかだけが勝負」「お客様を喜ばせなければならないというより、そうしないと自分たちの存在価値がない」と語っています。

自社の存在意義を重視する鈴木氏の言葉は、決して人ごとではないはずです。

足元の経営環境が厳しく、目先の業績改善と会社の生き残りに汲々(きゅうきゅう)とするあまり、ついつい同業他社との勝ち負けに目がいってしまうことは、どの会社も陥りがちな“わな”といえます。それは経営者のみならず、現場の社員にも当てはまります。会社のためには、自社の商品・サービスを、同業他社のものより多く売り込むことこそ最重要だと考えてしまうものです。

本来、会社の存在意義と、顧客のニーズをつかむこと、同業他社との競争に勝つことは、三位一体のものです。ただ、同業他社を意識しすぎて、同じフィールドでの競争に一喜一憂するだけになってしまえば、その会社は「同業他社でも代わりがきく会社」ということになってしまいます。顧客が喜ぶ商品・サービスを生み出そうという気概を失えば、やがては顧客のニーズをつかめなくなり、結局は同業他社に負けてしまうでしょう。

社員にとっても、「同業他社に勝ちたいだけの会社」と、「顧客が喜ぶ商品・サービスを生み出そうとしている会社」とでは、仕事のやりがい、会社に対する思い入れが違ってくるはずです。こうした会社の姿勢は、採用活動などで求職者に「この会社に入りたい」と思ってもらえる分かれ目になる可能性もあります。進化し続ける「50歳」のコンビニを参考に、もう一度、自社の存在意義を問い直してみるのはいかがでしょうか。

出典:「鈴木敏文経営を語る」(鈴木敏文述、江口克彦著、PHP研究所、2003年4月)

以上(2023年7月)

pj17610
画像:naka-Adobe Stock

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