書いてあること
- 主な読者:ビジネスで判断の難しい問題などに直面している経営者
- 課題:自分の判断を信じたいが、いまひとつ自信が持てない。誰かに背中を押してほしい
- 解決策:現役の経営者たちから尊敬を集めている“伝説の経営者”の名言に触れる
1 経営者の心に響く “伝説の経営者”の名言
経営者はビジネスのあらゆる局面で、難しい判断を迫られます。判断の責任を一身に背負わなければならず、常に孤独。そんな経営者を支えてくれるのは、同じ苦しみを知っている経営者の言葉です。例えば、パナソニックホールディングス(旧松下電器産業)創業者の松下幸之助氏、本田技研工業創業者の本田宗一郎氏など、もはや“伝説”ともいうべき経営者の名言は、困ったり悩んだりしている今の経営者に勇気を与えてくれます。
実際、190人の経営者に対し「尊敬する経営者の名言」に関するアンケートを実施したところ、
121人に尊敬する経営者がいて、59人にその経営者の名言で印象に残っているものがある
ことが分かりました(アンケートは2023年7月実施)。
さらに、このアンケートでは、印象に残っている名言が「ある」と回答した59人の経営者に、具体的にどのような名言が印象に残っているのかを質問しました(自由回答)。その結果、名言のタイプは大きく次のように分けられることが分かりました。以降で詳しく見ていきましょう。
- 失敗に対して前向きになれる名言
- ストイックになれる名言
- 決断を後押ししてくれる名言
2 失敗に対して前向きになれる名言:松下幸之助氏など
経営に失敗はつきものであり、それをどう受け止めるかが大切です。数々の失敗を糧に成功をおさめ、“伝説の経営者”となった松下氏や本田氏が、失敗に関する数多くの名言を残しています。「前向きになれる名言なので心に残っている」と回答する経営者もいました。
1.失敗を恐れて毎回「前例踏襲」に陥ってしまう人へ
「とにかく考えてみること、くふうしてみること、そしてやってみること。失敗すればやりなおせばいい」(松下幸之助*1)
松下氏は、「同じことを同じままに繰り返すだけでは、何の進歩もない」として、上の名言を残しています。「自分もものづくりに携わってきたから(この名言が印象に残っている)」と回答した経営者(60代男性)もいました。
なお、この名言の中の「やってみること」は、松下氏が敬愛していたサントリーホールディングス(旧サントリー)創業者の鳥井信治郎氏の口癖だった「やってみなはれ」に通じる言葉です。「やってみなはれ」という名言について、「やる気を後押ししてくれる」と回答した経営者(80代男性)もいました。
2.一度失敗するとそこで立ち止まってしまう人へ
「成功するまで続けたならば失敗というものはない。成功あるのみである」(松下幸之助*2)
松下氏は「失敗したところでやめてしまうから失敗になる」として、上の名言を残しています。松下氏の失敗に関する名言は他にもあり、「自分の現状と重なって、これから頑張るモチベーションになった」と回答した経営者(40代男性)もいました。
3.部下の失敗につい声を荒げてしまう人へ
「成功は九九パーセントの失敗に支えられた一パーセントである」(本田宗一郎*3)
国内自動車メーカーとして後発だったホンダを先行企業と肩を並べるブランドに成長させた本田氏の名言です。「実際に本人から聞いたから(印象に残っている)」と回答した経営者(70代男性)もいました。
なお、本田氏は上の名言を述べる際、「現役時代、部下の失敗に腹が立ち、本気で怒鳴りつけるなどして、後で自己嫌悪に陥っていた時期もあった」と述懐しています。この名言には、本田氏が「失敗を受け止められる人間になれ」と自分自身に言い聞かせる意味もあったのかもしれません。
4.失敗続きで「もう成功しないんじゃないか」と思っている人へ
「色々の失敗が、将来のびる為めには良い体験であった」(豊田喜一郎*4)
国内自動車メーカーの先行企業として、国産自動車の開発に腐心したトヨタ自動車創業者の豊田氏の名言です。この他にも失敗に関する名言を残していて、「失敗が多いが、創意工夫によって成功すると信じているから(印象に残っている)」と回答した経営者(50代男性)もいました。
5.失敗続きの自分を責めてしまう人へ
「最初にあったのは夢と根拠のない自信だけ」(孫正義*5)
ソフトバンクグループを一代で築いた孫氏は、10代後半のころを振り返って、上の言葉を残しています。「開業にあたり、(心に)響いた」と回答した経営者(50代男性)もいました。
3 ストイックになれる名言:稲盛和夫氏
京セラ(旧京都セラミック)やKDDI(旧第二電電)を創業し、日本航空の再建にも尽力した稲盛和夫氏。ストイックな名言が多く、「生き方の指針となる」と回答した経営者も少なくありませんでした。
1.結果が出ないなどで、努力する意味が分からなくなっている人へ
「人生における労苦とは、己の人間性を鍛えるための絶好のチャンスなのです」(稲盛和夫*6)
稲盛氏は、「生きていくということは、苦しいことのほうが多い。それでも日々成長しようとたゆまず努力することに人間の生きる目的や価値がある」として、上の名言を残しています。「労苦があるということは、自分が前に進んでいると捉えている」と回答した経営者(60代男性)もいました。
2.仕事が嫌になり、投げ出したいと思っている人へ
「与えられた仕事を天職と思い、それに全身全霊を傾けることです」(稲盛和夫*7)
稲盛氏は、「1つのことを究めることによって初めて真理やものごとの本質を体得することができる」として、上の名言を残しています。「一生懸命に取り組むことに共感を得ました」と回答した経営者(60代男性)もいました。
3.努力を惜しんで、つい近道をしたがってしまう人へ
「人生や仕事の結果は、考え方と熱意と能力の3つの要素の掛け算で決まります」(稲盛和夫*8)
稲盛氏は、「能力を鼻にかけ努力を怠った人よりは、自分には普通の能力しかないと思って誰よりも努力した人の方が、はるかにすばらしい結果を残すことができる」として、上の名言を残しています。「うまくいってないときに、何が足りなかったかを考えるきっかけになる」と回答した経営者(70代男性)もいました。
4 決断を後押ししてくれる名言:スティーブ・ジョブズ氏
Appleの共同創業者で、Pixar Animation Studiosの創業者でもあるスティーブ・ジョブズ氏は、創業したAppleの仲間たちから一度は追放されながらも、傾きかけた同社に復帰。強力なリーダーシップを発揮して立て直しに成功し、世界的な企業に成長させました。
1.今、考えていることを実行すべきか否か迷っている人へ
「If today were the last day of my life, would I want to do what I am about to do today?(もし今日が人生最後の日だとしたら、今日やろうとしていることをやりたいと思うだろうか?)」(スティーブ・ジョブズ*9)
ジョブズ氏が米スタンフォード大学の卒業式で、卒業生たちに送ったメッセージです。「分かりやすく、実践しやすいと思った(から印象に残っている)」と回答した経営者(50代男性)もいました。
2.「自分の決断は間違っているんじゃないか?」と足を止めてしまう人へ
「Stay Hungry. Stay Foolish.(ハングリーであれ、愚か者であれ)」(スティーブ・ジョブズ*10)
同じく、米スタンフォード大学の卒業式でのスピーチで、ジョブズ氏が残した名言です。「常識にとらわれず、前進し続ける感じがジョブズ氏の生き方を表現していると思う」と回答した経営者(40代男性)や、「説得力があります」と回答した経営者(60代男性)もいました。
5 他にこんな名言も:盛田昭夫氏など
この他、現役の経営者の印象に残っている名言には、次のようなものがありました。
1.チャレンジする会社をつくりたい人へ
「出るクイを求む」(盛田昭夫*11)
井深大氏と共にソニーの共同創業者として、「ウォークマン」などを世に送り出した盛田氏の名言として有名です。盛田氏は、社員がおとなしいだけのイエスマンにならず、自分で活躍できる場所を見つけ出すことを重視しており、他にもこうした趣旨の名言を残しています。「個性の重視、オリジナリティーの確立(が重要と感じているので印象に残っている)」と回答した経営者(70代男性)もいました。
2.一つ一つの仕事を丁寧にやる会社をつくりたい人へ
「凡事徹底」(樋口武男*12)
約20年間にわたって大和ハウス工業のトップを務め、同社の「中興の祖」とも呼ばれた樋口武男氏の名言です。樋口氏は現役時代、赤字のある支店を立て直すに当たり、「電話のベルは1コールで取り、元気な声で挨拶して担当者に回す」ということを社員に徹底させました。基本的なこと(凡事)ですが、これが社外の評判を上げることにつながったそうです。「いつも継続して仕事をこなすことによって成果が上がる(ことを示すので印象に残っている)」という経営者(70代男性)もいました。
【参考文献】
(*1)「道をひらく」(松下幸之助、PHP研究所、1968年5月)
(*2)「松下幸之助日々のことば : 生きる知恵・仕事のヒント」(松下幸之助、PHP研究所、1988年6月)
(*3)「やりたいことをやれ」(本田宗一郎、PHP研究所、2005年9月)
(*4)「豊田喜一郎文書集成」(和田一夫編、名古屋大学出版会、1999年4月)
(*5)「孫正義語録 孫氏の兵法」(孫氏の兵法製作委員会、ぴあ、2007年2月)
(*6)「『成功』と『失敗』の法則」(稲盛和夫、致知出版社、2008年9月)
(*7)京セラ「稲盛和夫 OFFICIAL SITE ものごとの本質を究める」
(*8)京セラ「稲盛和夫OFFICIAL SITE 人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」
(*9)Stanford University「Stanford News, JUNE 12, 2005」
(*10)Stanford University「Stanford News, JUNE 12, 2005」
(*11)「盛田昭夫語録」(盛田昭夫研究会編、小学館、1999年3月)
(*12)「凡事を極める」(樋口武男、日本経済新聞出版社、2013年3月)
以上(2023年10月)
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