1 組織変革がうまくいかない原因

「従業員のモチベーションが上がらない」「部署間のコミュニケーションがうまくいかない」企業規模に関わらず、こうした悩みは尽きません。もちろん、目の前の課題に対処することも大切ですが、本当に組織を変えたいなら、もう一歩踏み込んで「組織ってそもそも何だろう?」と考えてみることが必要です。

この記事では、経営組織論の視点から、次の3つのテーマについて解決策の一例を紹介します。

  • なぜ組織は間違った意思決定をしてしまうのか?
  • 組織変革を成功させるには何が必要か?
  • 多様化する働き方にどう対応するか?

2 なぜ組織は間違った意思決定をしてしまうのか?

「みんなで話し合えば、きっといい答えが出るはず」多くの人はそう考えます。確かに、一人で考えるより、複数の視点が入る方が良い判断ができそうです。ところが、現実には組織での意思決定が、個人なら絶対にしないような間違いを犯してしまうことがあるのです。

1)間違いが起きる2つの理由

1.「空気を読んで」しまう同調圧力

組織での意思決定が間違いを犯してしまう原因の一つが「同調圧力」です。会議で「これ、ちょっと違うんじゃないかな」と思っても、周りがみんな賛成していたら言いづらいですよね。「私だけ反対したら、変な人だと思われるかも」という不安が、正しい意見を飲み込ませてしまうのです。

2.集団思考(グループシンク)の罠

もう一つ注意したいのが「集団思考(グループシンク)」という現象です。これは、チームとしての一体感や合意を優先するあまり、冷静な判断ができなくなってしまうことです。例えば、「仲間への批判を避けようとする」「自分たちのチームを過大評価してしまう」「外部の意見や競合を過小評価してしまう」など誤った情報処理をして、おかしな決定を下してしまうのです。

集団思考が発生する要因はさまざまですが、例えば、

  • 意思決定をするチームの結びつきが強すぎる
  • 外部からの情報が入りにくい環境にある
  • カリスマ的なリーダーがいて、その人の意見が絶対になっている

といった場合に発生しやすいといわれています。特に3つ目は要注意。優秀で強いリーダーシップを持つ人がいると、つい「あの人が言うなら間違いない」と考え、意見の妥当性を検討しないまま決定が進んでしまいます。

2)どうすれば間違いを防げる?

1.「あえて反対意見を言う人」をつくる

同調圧力を和らげるには、誰かが先に「ちょっと待って」と言える環境をつくることが大切です。一人でも違う意見を言う人がいれば、他の人も「ああ、反対意見を言ってもいいんだ」と感じられます。「自分だけじゃない」と思えることが、発言のハードルを下げます。

例えば、会議で「デビルズ・アドボケイト(悪魔の代弁者)」という役割を決めて、その人には必ず反対意見や懸念点を述べてもらう、というやり方もあります。

2.メンバーを固定しない

いつも同じメンバーで会議をしていると、チームの一体感が高まりすぎて集団思考が発生しやすくなります。全員を毎回変えるのは難しいかもしれませんが、「最近、議論がマンネリ化してるな」と感じたら、若手社員を入れてみたり、普段は参加しない部署の人を呼んでみたり。役職や経験にとらわれず、メンバーに多様性を持たせることがポイントです。

新しい視点が入ることで、「当たり前」だと思っていたことに疑問が生まれ、より良い意思決定につながります。

3 組織変革を成功させるには何が必要か?

企業が生き残っていくためには、変化し続けることが不可欠です。DXの波、新規事業への挑戦など、常に新しい組織の形を模索する必要があります。ですが、現実には「変革しよう!」と掛け声をかけても、なかなかうまくいきません。

その理由はシンプル。組織には「変わることを拒む」という性質があるからです。この問題を理解するには、「組織全体」と「個人」の2つのレベルで考える必要があります。

1)「組織全体レベル」「個人レベル」の問題

1.組織全体レベルでの問題

特に意識して変革に取り組まなければ、組織は自然と「現在の組織構造をもっと強化しよう」いう方向に進みます。例えば、

  • 設備投資:既存事業をより効率化する設備を選ぶ
  • 採用・教育:今の事業に必要な能力を持つ人材を育てる
  • 組織構造:既存の事業に最適な部署編成にする
  • 組織文化:今の事業遂行に適した文化が根付く

といった具合です。

これらは悪いことではありません。むしろ、既存事業を強化するには必要なことです。ただ、組織を変えようとするときには、このような「現在の組織構造を強化する」という流れは大きな障害になってしまいます。

2.個人レベルでの問題

組織を動かしているのは、結局のところ「人」です。そして、人は基本的に変化を好みません。なぜなら、「先がどうなるか分からない」という不安があるからです。

  • 新しい業務、私にできるかな?
  • 今は評価されてるけど、新しい仕事でも同じように評価されるだろうか?
  • 業務量が増えるんじゃないか?

といった具合に、不安が積み重なって、「やっぱり今のままがいいや」という気持ちになってしまうのです。

組織変革の難しさは、この「組織全体」と「個人」の2つのレベルを、同時にバランスよく変えていかなければならない点にあります。実際には、制度を変えるなど「組織全体レベル」の変革には手が打たれても、「個人レベル」の変革、つまり社員の心の問題には十分な注意が払われていないことが多いのです。では、個人レベルの変革はどうすれば成功するのでしょうか?

2)個人レベルの変革を成功させる4つのステップ

個人レベルでの変革には、次の4つがポイントになります。

1.「変わらなきゃいけない理由」を腹落ちさせる

「このままじゃダメなんだ」という危機感を、社員全員が実感する必要があります。「なんとなく変革した方がいいよね」ではなく、「今のままでは会社が(自分の仕事が)立ち行かなくなる」という切迫感を共有することが大切です。

2.「どんな未来を目指すのか」を具体的に示す

「先が見えない不安」を取り除くには、変革後の姿を具体的に描いて見せることが重要です。例えば、「3年後、私たちの会社はこうなっている」「あなたの仕事はこう変わる。そのために、こんなスキルを身につけてほしい」といった具合です。

3.小さな成功体験を積み重ねる

変革の成果を早めに実感してもらうことも大切です。「やっぱり変わって良かった」「新しいやり方、意外といいかも」そんな手応えがあれば、変革へのモチベーションが維持できます。大きな成果でなくても構いません。小さな成功を積み重ねて、変革の正しさを実感してもらうことが重要です。

4.語り続ける、伝え続ける

そして、何より大切なのが「継続」です。人の心には「やっぱり元に戻りたい」という気持ちが、時折ひょっこり顔を出します。特に変革の途中で壁にぶつかった時には、その気持ちが強くなります。だからこそ、経営者は「変革の必要性」と「目指す未来」を、熱意を持って語り続ける必要があります。

個人レベルでの変革で、経営者が注意しなければならないのは、

「分かっている『はずだ』」という思い込み

です。特に中小企業では、日頃からコミュニケーションが取りやすい分、経営者は「何度も言わなくても、みんな分かってくれているはず」と思いがちです。しかし、これが落とし穴。「はず」で終わらせていては、個人レベルの変革は実現しません。しつこいくらいに、繰り返し伝える。熱意を持って語り続ける。それが変革を成功させる鍵なのです。

4 多様化する働き方に対応する組織づくり

副業解禁、フリーランスとの協業、時短勤務、育児や介護との両立など、働き方はどんどん多様化しています。こうした変化に対応しながら、組織をスムーズに運営していくには、どうすればいいのでしょうか?ここでは「組織のライフサイクル」という考え方を使って、解決のヒントを探ってみましょう。

1)組織のライフサイクル

組織の変遷は、「誕生・成長・衰退」といったライフサイクルで表すことができます。ライフサイクルの考え方はさまざまですが、ここでは「1.起業段階→2.共同化段階→3.公式化段階→4.精巧化段階」の4段階で考えてみます。

1.起業段階:経営者の情熱が原動力

組織が生まれたばかりの頃。まだ規模も小さく、柔軟に動けます。この段階では、組織的な仕組みよりも、経営者の個人的な魅力や情熱が事業を引っ張ります。経営者の「こんな世界を作りたい!」という熱い思いが社員に自然と伝わり、みんながその夢に向かって一丸となって働きます。それがこの段階の強みです。

2.共同化段階:マネジメントが必要になる

組織が少しずつ大きくなると、経営者一人の力だけでは回らなくなってきます。いろいろな考え方の人が増えてきて、創業時の理念や夢を自然に共有することも難しくなります。この段階では、組織を運営するためのマネジメント能力が求められるようになります。

3.公式化段階:仕組み化が進む

さらに規模が拡大すると、経営者が全部を管理するのは不可能になります。そこで、部門ごとに権限を委譲し、組織を階層化していきます。役割分担が明確になり、いわゆる「官僚的組織」が形成されていくのです。経営者の役割も、日々のマネジメントから、戦略策定や方向性の決定へとシフトしていきます。

4.精巧化段階:硬直化との戦い

官僚的組織が定着すると、今度は別の問題が出てきます。セクショナリズム(縦割り)、責任の押し付け合い、新しいことへの抵抗など、組織の硬直化が進んでしまうのです。これを打破するには、プロジェクトチームやタスクフォースなど、部署を横断する柔軟な仕組みを導入することが必要になります。

2)「起業段階」から「共同化段階」への移行に注意

組織のライフサイクルは「従業員数の増加」を基準に語られることが多いですが、実は「従業員の多様化」という視点でも使える考え方です。規模はそれほど大きくない中小企業でも、働き方や価値観が多様化することで、ライフサイクルと同じような課題が出てくることがあります。特に注意したいのが、

「起業段階」から「共同化段階」への移行

です。中小企業の中には、企業経営の大部分を経営者の個人的な資質や魅力に依存したまま、起業段階にとどまってしまっているケースが少なくありません。しかし、起業段階の未成熟な組織が成り立つのは、次のような条件が揃っているからです。

  • 従業員の多くが創業当時からのメンバーである
  • 経営者の理念や夢を深く共有できている
  • お互いのことをよく知っていて、親密なコミュニケーションが取れている
  • 「自分の仕事じゃなくても、困ってたら助ける」という相互補完が自然にできている

要するに、「あうんの呼吸」で動ける関係性があるから、仕組みが未熟でも回るわけです。しかし、規模が大きくならなくても、働き方が多様化すれば状況は変わります。

テレワーク中心の社員、週3日勤務の社員、フリーランスとして参画するメンバー、そんな多様な働き方が混在すると、創業時の理念や夢を自然に共有することが難しくなります。「あうんの呼吸」も通用しにくくなります。そうなると、今までのやり方では組織がスムーズに動かなくなってしまうのです。

3)組織をスムーズに動かすためには?

「あうんの呼吸」も通用しにくくなってきたときの対策は、2つの方向性が考えられます

1.理念の共有を強化する

「創業時の理念や夢を、もう一度しっかり伝え直す」という方法です。多様な働き方をしている社員に対して、オンラインでも対面でも、熱意を持って語り続けます。「なぜこの会社は存在するのか」「何を大切にしているのか」その核心を共有できれば、働き方が違っても、同じ方向を向いて進めるはずです。

2.次のステージの組織づくりに挑戦する

もう一つは、組織のライフサイクルを参考に、「共同化段階」や「公式化段階」の組織づくりに取り組むことです。具体的には:

  • 役割と責任を明確にする
  • 業務プロセスを文書化・マニュアル化する
  • オンラインでのコミュニケーションルールを整備する
  • 評価制度を成果ベースに見直す
  • リモートでも機能するマネジメント手法を導入する

といった具合です。「仕組み化」を進めることで、「誰が」「どこで」働いていても、組織が機能するようになります。

以上(2026年2月更新)

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画像:NicoElNino-Adobe Stock

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