法人税の支払いを抑えるために知っておくべき「法人実効税率」のからくり

書いてあること

  • 主な読者:自社の法人税等の負担を正確に把握し、支払いを抑えたい経営者や税務担当者
  • 課題:黒字で同じ課税所得があっても、資本金や地域によって法人税等の負担額が違う
  • 解決策:法人税の仕組みと法人税実効税率の計算式やその計算要素を理解する

1 法人税の支払いを抑えたいですよね?

法人税は、「課税所得」という財務会計でいうところの利益に課されるものですが、財務と税務では考え方が違います。財務会計では費用になっても、税務では損金として認められない部分があります。いずれにしても、経営者にとって、法人税は安いに越したことはありませんから、接待交際費や会議費、役員報酬などについて顧問税理士などに相談しながら、少しでも法人税を安くしようと工夫をします。

ところで、いわゆる法人税にはいくつかの種類があって、それぞれ計算方法が違うことをご存じですか? 足元の2024年度では、

法人実効税率(中小法人、かつ標準税率の場合)は33.58%

ですが、なぜこうなるのか、法人税の仕組みを理解すれば、法人税の支払いを少なくするための考え方も分かってきます。この記事で分かりやすく解説していきます。

2 法人税等の正体

1)法人税等の正体

一般的にいわれる法人税には、文字通りの法人税の他に地方法人税・住民税・事業税・特別法人事業税が含まれます。企業が負担する「法人税等」は、これらの項目の合計になるわけですが、その計算に使用される税率は2つあります。

1つは「表面税率」です。表面税率とは、

それぞれの税項目の税率を単純に足し合わせたもの

であり、申告や納税の際に用いられます。ただし、事業税は翌期に損金算入が認められているなどの理由から、表面税率は企業の実質的な法人税等の負担率よりも高くなります。

もう1つは、この記事のテーマである「法人実効税率」です。法人実効税率とは、

先ほどの事業税の損金算入なども加味したもの

であり、企業の実質的な法人税等の負担率となる他、税効果会計などでも利用されます。

法人実効税率の計算式は次の通り複雑です。そのため、一口に法人実効税率の引き下げといっても、どの部分に変更があるのかを知っておく必要があります。

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2)実際に負担する税額に差が生じる?

黒字と赤字とでは法人税等に大きな差が出ます。さらに言うと、

黒字企業で同じ課税所得がある企業であっても、資本金の額や地域によって法人税等の負担額が変わってくる

ことをご存じでしょうか?

法人税等の仕組みは複雑で、単純に課税所得をベースに計算されるものばかりではありません。法人税等の計算過程を正しく理解することで、新たに法人を設立する場合や、減資・増資を考える場合の税負担軽減についての勘所をつかむことができます。

3 法人税と地方法人税の概要

1)法人税の概要

法人税は次の算式で計算されます。

  • 法人税額=所得金額×税率

法人税の税率は資本金の額などによって異なり、その分かれ目は1億円です。普通法人の法人税の税率は次の通りです。

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2)地方法人税の概要

地方法人税は次の算式で計算されます。課税標準法人税額とは、法人税確定申告書上の一定の金額を合計したものになります。

  • 地方法人税額=課税標準法人税額×10.30%

4 法人住民税の概要

法人住民税は、法人都道府県民税と法人市町村民税に分かれ、それぞれ均等割と法人税割によって計算されます(東京23区内の法人都民税は、法人市町村民税分を分けず、合わせて計算されます)。

均等割は、資本金等の額や従業者数といった「会社の規模」に応じて決まります。「資本金等の額」とは、「資本金の額または出資金の額」と「資本準備金または加入金」の合計額(一定の要件を満たす場合には、一定の調整あり)です。

  • 法人道府県民税(均等割)の標準税率は、資本金等の額に応じて年額2万円から80万円までの5段階に区分されています(東京23区内の場合は別途設定あり)。
  • 法人市町村民税(均等割)の標準税率は、資本金等の額と従業者数に応じて年額5万円から300万円までの9段階に区分されています。

また、法人市町村民税は制限税率が定められており、標準税率の1.2倍の範囲内で、市町村ごとに定めた税率(超過税率)が適用されます。

法人住民税(法人税割)は次の算式で計算されます。

  • 法人税割額=法人税額×税率

法人住民税(法人税割)の標準税率および制限税率は次の通りです。なお、法人住民税は制限税率が定められており、その範囲内(図表3を参照)で、都道府県・市町村ごとに定めた税率(超過税率)が適用されます。

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5 法人事業税の概要

法人事業税の算出方法については、電気供給業・ガス供給業・保険業を営む法人と、それ以外の業種を営む法人で適用される課税計算方法が異なりますが、この記事では電気供給業・ガス供給業・保険業ではない法人(以下「普通法人等」)に注目します。普通法人等の法人事業税は、資本金の額または出資金の額(以下「資本金の額」)に応じて、所得割、外形標準課税(付加価値割、資本割、所得割)のいずれかにより計算されます。

1)普通法人等で、資本金の額が1億円以下の法人

普通法人等で、資本金の額が1億円以下の法人の法人事業税は所得割によって算定されます。法人事業税(所得割)は次の算式で計算されます。

  • 所得割額=所得金額×税率

また、具体的な税率は所得に応じて決まります。普通法人等で、資本金の額が1億円以下の法人の法人事業税(所得割)の標準税率および制限税率は次の通りです。なお、法人事業税(所得割)については制限税率が定められており、標準税率の1.2倍の範囲内で、都道府県ごとに定めた税率(超過税率)が適用されます。

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2)普通法人等で、資本金の額が1億円超の法人

普通法人等で、資本金の額が1億円超の法人(以下「外形標準課税法人」)の法人事業税は、外形標準課税制度が適用され、付加価値割、資本割、所得割によって計算されます。

外形標準課税法人の法人事業税の標準税率および制限税率は次の通りです。なお、いずれについても制限税率が定められており、標準税率の1.2倍の範囲内で、都道府県ごとに定めた税率(超過税率)が適用されます。

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外形標準課税法人の法人事業税(付加価値割額)は次の算式で計算されます。付加価値とは、「付加価値額=収益配分額(報酬給与額+純支払利子+純支払賃借料)±単年度損益」によって計算されます。

  • 付加価値割額=付加価値額×1.2%

外形標準課税法人の法人事業税(資本割額)は次の算式で計算されます。

  • 資本割額=資本金等の額×0.5%

外形標準課税法人の法人事業税(所得割)は、普通法人等で資本金の額が1億円以下の法人の法人事業税(所得割)と同様の算式で計算されます。

6 特別法人事業税の概要

特別法人事業税は次の算式で計算されます。

  • 標準税率により計算した法人事業税の所得割額×税率

特別法人事業税の税率は次の通りです。

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7 資本金の額や地域によって異なる?

1)条件を変えて比較しよう

法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税(以下「法人税等の額」)は、資本金の額や地域によって異なります。例えば、資本金の額が1億円を超えるか超えないかで、法人税の軽減税率や、法人事業税の外形標準課税の適用の有無が判断されたりします。

また、地域によっても、法人事業税(所得割)や法人住民税(法人税割)などの税率が異なります。

ここで、資本金の額が1億円と2億円の法人がそれぞれ超過税率の影響が小さい市町村にある場合と、超過税率の影響が大きい市町村にある場合の法人税等の額を比較してみましょう。なお、本事例は納税額の計算であるため、表面税率についての比較となります。

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2)資本金の額によって異なる法人税等の額

A社の資本金の額が1億円と2億円の場合では、法人税等の額の差額は956万円(1億8408万6000円-1億7452万6000円)となります。B社の資本金の額が1億円と2億円の場合では、法人税等の額の差額は992万4000円(1億8952万6000円-1億7960万2000円)となります。

差額の主な要因は、法人税と法人事業税にあります。

法人税について、資本金の額が1億円以下の場合は、所得のうち800万円までは通常23.2%のところ、15%の軽減税率の適用を受けることができます。

一方、外形標準課税(所得割)の税率は、外形標準課税の適用を受けない場合の法人事業税(所得割)の税率に比べて低く設定されています。そのため、外形標準課税の適用を受ける資本金の額が2億円のケースの方が、納税額が少なくなります。本ケースでは全て利益が出ているケースのため、上記のような納税額の比較となりました。外形標準課税では、利益が出ていない年にも、付加価値割や資本割が課税されますが、外形標準課税の適用を受けない場合には法人事業税の納税額は0となります。将来の損益予測も合わせて検討することが大切です。

3)地域によって異なる法人税等の額

超過税率の影響が小さい市町村にあるA社と、超過税率の影響が大きい市町村にあるB社では、資本金の額が1億円である場合の差額は544万0000円(1億8952万6000円-1億8408万6000円)となります。

資本金の額が2億円である場合の差額は507万6000円(1億7960万2000円-1億7452万6000円)となります。

差額の主な要因は、前述した通り、超過税率の影響の度合いです。法人事業税(所得割・外形標準課税)、法人道府県民税(法人税割・均等割)、法人市町村民税(法人税割・均等割)については、制限税率が定められており、各自治体によって制限税率の範囲内で税率を定めることができるのです。

例えば、法人事業税(所得割)で超過税率を適用している都道府県は、宮城県、東京都、神奈川県、静岡県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県があります。それ以外の39道県については標準税率を適用しています。また、全国の各市町村の法人市町村民税率(法人税割・均等割)については、総務省「法人住民税・法人事業税 税率一覧表」を参考にするとよいでしょう。

■総務省「法人住民税・法人事業税 税率一覧表」■

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/czei_shiryo_ichiran.html

8 税金に詳しい経営者になろう

「税金は顧問税理士に任せておけばいい」と考えている経営者がいるかもしれません。しかし、税金を詳しく理解することは、経営戦略を考える上でも大切な視点です。

新しく会社の立ち上げを検討するときに、資本金をいくらに設定するか、どこに本社を置くかで法人税等の額は変わってきます。これらのことを検討する際、それぞれのケースの税負担を考慮することで、その負担を抑えられるかもしれません。

また、新たな投資を検討する際には、税法上の特別償却・特別控除を適用できるかどうかの検討も忘れてはいけません。もし知らずに、それらの制度を適用しなかった場合、本来は支払う必要がなかった税金を支払うことにもなりかねません。

顧問税理士に任せるだけではなく、自分自身である程度税金の知識を持つことも、経営戦略を考える上で大切なことなのです。

以上(2024年9月更新)
(監修 税理士 石田和也)

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画像:pixabay

【特別企画】Z世代の起業家がZ世代の学生に向けて「起業の実態」を語る講座「実践ベンチャー論 創業経営者対談」2024年版/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回ご紹介するのは、特別企画、埼玉大学で行われた講座「実践ベンチャー論 創業経営者対談」(2024/7/5開催)です。

埼玉大学で行われたこの特別講座は、20代の起業家・起業経験者の方たちが学生に向けて起業の実態を語るというものです。真面目に一生懸命ビジネスに取り組み続けている20代の3人の登壇者と、食いつくように聞き入る学生たち。

とにかくものすごく濃い内容、圧倒的な突き抜け感! レベルが一段も二段も違う感じです。ご登壇のお一人はなんとアブダビからオンラインでつなぐという。おもしろいを通り越して、おそらく、「こういう話、経験は初めて」の学生も多かったと思います。個性豊かすぎる3人の登壇者、カルチャーショックと熱気と未来への選択肢が満載の時間でした。大学の講座では珍しく(?)学生からの質問が相次ぎ、質疑応答の時間が足りない事態に。後日、学生からのインターンシップ希望の連絡もいろいろあったようです。

テキストだけではこの濃すぎる内容をお伝えしきれないので、3人の方が語ってくださった印象的な一部を本記事でご紹介します。経営層の方は、この記事をご自身で読むのも、社員の方に読んでもらうのもいいかと思います。さっそく今日から何かしたくなるでしょう!

「自分から行動すると、何かが起きる。人生は自分で面白くできるのだ」

3人のお話を聞いていたら、そういう気持ちになりました。

●ご登壇

安田 光希(やすだ こうき)氏:連続起業家。現在の拠点の中心はアブダビ

田山 凌汰(たやま りょうた)氏:株式会社One StepS 代表取締役CEO

石原 里奈(いしはら りな)氏:株式会社FinT広報マネージャー

●モデレート

杉浦 佳浩氏:代表世話人株式会社 代表取締役

1 起業のきっかけはさまざま。「流れで起業」や「学生のうちに起業」も。

3人の登壇者はまず、どのような事業を行っているか、なぜ起業の道を選択したかを話してくれました。そこからして話が個性的、「こういう人生の拓き方もあるのか」と思います。

それぞれのプロフィールがまた面白いので、下記ご参照ください。

登壇者プロフィール

3人の起業のきっかけなどを聞いていると、とにかく「動いてみる」「やってみる」「そしてやりきる」ことが大事だと感じます。それぞれに印象的なお話もありました。話してくださった順番にご紹介していきます。

 

●安田さんの起業きっかけの話

「(お客さまからの)需要があったので起業した」

こういきなり自然体でぶっこむ感じ、伝わるでしょうか(しかもこの安田さんはアブダビからオンライン)。いきなりレベルが違う感じ。誤解を恐れずに言うと、「これがやりたい!という強い思いがあって」とかではないのです。大学時代、AIを勉強するサークルの友人たちと、後輩のためにと英語版のAI教材を日本語版にわかりやすくつくりなおしたところ、誰もが知る大手通信会社が安田さんたちに注目。「会社を作ってくれたら仕事を発注したい」と要望されたので起業したそうです。

このように安田さんは、学生時代からかなり高度なことをやっておられたのですが、とにかく力みがなく自然体で、「求められたから起業した」という話。その後、いくつか会社を立ち上げたりして、特にすごいのは、ある会社が4年で上場、時価総額500億円までになったというから驚きです。たった4年で。

「おもしろいからやってみよう」「おもしろいことをやってみよう」が原動力になっている安田さん。この「おもしろいことって何なの?」という話もとても納得感ありましたので、後ほどご紹介します。

アブダビからオンライン参加の安田さん

安田さん

 

●田山さんの起業きっかけの話

「チャレンジしている人への憧れ、起業している人への憧れがあった」

少し話しただけで頭の回転の速さが伝わってくる現役のミスター慶応・田山さん。田山さんが口を開くと物事が整理され、そして場が和やかにもなるというすごさ。今回の講座では、登壇者が突き抜けた方々なので、話の内容がすごすぎて学生がポカンとする場面もありました(すごいということ自体は学生にも伝わっている)。そんなときに登壇者と学生との間をとりもって瞬時に通訳してくれていたのが、この田山さんです。田山さんのおかげで、聞いている学生の理解度がかなり上がったのではないかと思います。こうした通訳、なかなか普通にできることではないでしょう。

起業している先輩がいたこともあって、高専時代からもともと起業、スタートアップに興味があった田山さん。慶應大学に入学する前にシードベンチャーキャピタルにインターンとして参画、数多くの起業家と会い、話をしてきています。

現在はAIを活用したシステム開発などを行う会社を創業し、金融機関などAIで効率化できる余地が多い業界に寄与したいと、お客さまに寄り添って泥臭くビジネスに取り組んでおられます。好奇心旺盛、スタートアップやAIなどについて調べたり勉強したりするのが好きだという田山さん。興味があるから続けられるというお話はとてもよく分かります。

AIスタートアップの田山さん

田山さん

 

●石原さんの起業きっかけの話

「学歴コンプレックスが起業につながった」

何事にも自分なりの意見、考えを持ち、しかもそれを自然体で発言する石原さん。石原さんの話には、何かしら石原さんならではの視点があり、「なるほど」と思わせられます。

学生時代に起業を経験、その後サイバーエージェントに入社、今はSNSマーケティングのFinTで広報マネージャーというこれまたすごい経歴ですが、もともとの出発点が「大学受験に失敗して志望校に行けなかったことから始まっている」そうです。

「学歴に変わる強みを4年間で創ればいい」とお母さまに言われたことをきっかけに学歴コンプレックスが消えたという石原さん。その後、大学の起業家育成講座で、大手メーカーの現実の課題解決に取り組んでいくのがとても面白かったそうです。早くから実業に触れていたのがすごい。そして、大学1年生の最後の日に、犬のトリマーと飼い主をつなぐマッチングサービスで起業。石原さんからは、やりがいのあること、やってみたいことにどんどんチャレンジして切り開いていく力強さ、行動力をとても感じます。

広報マネージャーの石原さん

石原さん

 

起業のきっかけからして三者三様の面白さ。

おもしろいと思うことをやってみる、行動してみる。自分から動く。

といったあたりは共通しているように感じます。

「では、何がおもしろことなのか? 学生のうちはおもしろいことが何なのか分からないかもしれないので、こう考えるといいかも」と安田さんが言っていた次のことも印象的でした。

「自分がやってうまくいくと、おもしろくなってくる。なので、最初は面白さを考えずに自分が得意で人から求められることをやってみる、というのもオススメ。圧倒的な能力があると、それを欲してくれる人が出てきて、経験値が増しさらにできるようになり、もっと楽しくなってくる。そうしていくと『ほぼ負けない』『これで貢献できる』と思えるようになる」

「『自分が得意なことで嫌いなこと』ってないはず。自分の好き嫌いはあまり信用していない。(自分が好き嫌いと思っているのは)勘違いかもしれない。それより、得意なことをやるのがいいと思う」

自分が興味があること、好きなことを探してみようとかではなく(それが悪いというわけではない)、「自分ができることをとことんやる=おもしろくなる=ほぼ負けないことになる」。とことんやる、圧倒的な能力、というあたりに言外の凄みを感じます。青い鳥を探してないものねだりを繰り返すのではなくて、自分ができることをとことん、そこから。確かにこういう進め方、突き詰め方もあるなぁと感じました。

一方で、大学1年のときにご自身の好きなことで起業した経験のある石原さんが、

「好きなことがあるのなら、20代半ばまでは好きなことをとことんやってみて、『好きから見つけていく』というのもいいと思う」

と話していたのも、早いうちに起業経験を積んだからこその発言で、納得感ありました。

2 未来に向けてやっていること、課題

3人それぞれ、未来に向けてやっていることや課題もさまざまでした。

 

●安田さんの未来に向けてやっていること

安田さんは、日本では主に大企業向けにAI・デジタル技術を用いた企業改革・改善を行ってきて累計のお客さまは600社以上。現在は拠点の中心はアブダビで、世界で勝てる技術力などを持った日本企業とそれらを購入したい中東企業をつなぐという、他であまり聞かないようなことをやっています。

安田さんが課題に感じていて未来に向けて今やっているのは、「日本のプレゼンス、地位をもっと上げていくこと」だそうです。中東に出ていくと、中国や韓国の会社の勢いがすごく日本の地位が塗り替えられつつあることを痛感するという安田さん。さまざまなコネクションなどでいろいろと仕掛けており、とにかく話が世界的、スケールが大きい。こういう人が日本の未来をつくっていくのだと感じます。日ごろから人種を問わずたくさんの人と会う、そのためにとにかくスピードが速い。やるやらないの判断が速く、徹底して時間を無駄にしない安田さんです。

 

●田山さんの未来に向けてやっていること

田山さんはAIの会社を創業して1年くらいです。メンバーはエンジニアが中心ということで、そのこと自体がまず大きな強みだと思います。今後、未来に向けてはマーケティングや営業分野の採用にも力を入れていきたいそうです。AIタレント、AIアバターの開発などPR効果のあるAIも手掛けていたり、さまざまな分野・業界の人とつながることに投資していきたいということで、プロモーション活動、クライアント開拓も積極的に進めている田山さん。

今回、会場には高専出身の学生の方もいて、特に田山さんの話に聞き入っていました。経歴に共通点、似たところがあると共感し、自分の未来の姿、進む道が想像しやすいのだと思います。それに加えて田山さんの話はとにかく分かりやすい! 相手が理解しやすい言語、理解しやすい順番で話すことができつつ、全体を動かしてビジネスを実現していける田山さんのような人は、ビジネスプロジェクトには必要不可欠。そして多くの人に慕われそうで、お客さまにも好かれているのだろうなと思います。

 

●石原さんの未来に向けてやっていること

石原さんは、未来に向けてやっていることを話すにあたり、サイバーエージェント時代に出会った言葉を教えてくれました。それは、「明日事業がなくなっても、ラーメン屋をやろうと言ったらみんなついてきてくれる」という言葉です。組織にいるメンバーが強烈にその組織を誇りに思っていて好きである、という組織文化が伝わってくると感じた石原さん。

石原さんはもともと、事業でゼロイチの価値をつくることに興味がありましたが、今はそれが変わってきていて、組織の中のカルチャーづくりに興味があり、今はそれを実践し、今後も深掘っていこうとしています。石原さんは日ごろから、「好きな人、なりたい人のそばにいるようにしている」そうで、こうした考え方も、組織の成長の原動力となるカルチャーづくりに活きている、そして、カルチャーづくりにやりがいを持っている源なのだろうと感じます。

 

起業している方々や起業経験者の間では当たり前なのかもしれませんが、3人がそれぞれ、自分の中に「未来のあるべき姿」を描いていて、それに向かって毎日一生懸命ビジネスに取り組んでいることがものすごく実感できました。これは学生にも伝わったと思います。

3 結局のところ、学生起業っていいのか?

3人の話はどれも、学生に向けたメッセージにあふれていたと思います。学生からの質問も、

  • 学生起業はしたほうがいいのか? 学生起業のメリットはどのようなものか?
  • 日ごろ、習慣化していることはどのようなことか?
  • お客さまからの要望をどのように引き出しているか?

などいろいろ。このほか、安田さんのSNS(https://x.com/sushi_koki)をフォローしている田山さんから安田さんに対して質問するという一幕もありました。

学生へのメッセージも含め、学生起業はしたほうがいいのか、そしてメリットは何かについて、3人からは次のような回答発言がありました。面白いです!

 

●安田さん

「学生起業は別にやらなくてもいい。デメリットも多い。メリットがあるとすると早く経験値を積めるということくらい。ほとんどの学生起業家は大企業出身の起業家に実績で抜かされる。」(のっけからのこの発言に、良い意味でざわつく会場)

「スポーツや芸術もすべての人ができるわけでないのと同じように、起業は適性もあるし、どちらかというと、『起業しよう』というより『起業しちゃった』という、やりたいことがあって動いちゃって(行動が先で)どうしようもない人がやるもの」

「大企業に就職するのもすばらしいと思う。そのへんの起業家では扱えない大きな仕事に携わることができるし、外貨を稼いでいるのもほぼ大企業。学生起業をしないで大企業に就職して、そこで培ったネットワークや仕事の進め方、調整の仕方などを携えてから起業するほうが、大きくインパクトを与える最短ルートだと思う」

「早いうちに海外に出る、海外と接点を持つのはいいと思う。どこに行っても20代のうちだとかわいがられる。大きな仕事をやりたい場合は特に語学を早くからやっておいたほうがレバレッジを効かせられる」

 

●田山さん

「学生だからとかに限らず、やりたいことがあれば起業するのはいいと思う。メリットとしては、起業すればそういう界隈の人、業界の人とかとの接点を持ちやすい。起業やスタートアップにかかわる言語で話すこともできるようになる。世界が変わる」

 

●石原さん

「学生の今だからこそ、起業にチャレンジできるチャンス。今後の長い人生の中で、おそらく、学生のときほど無謀に、リスクを考えずにチャレンジできるときは無いはず。これが学生起業の大きなメリット」

 

最後に、「今後、やること(事業など)は環境に応じて変えていくか? 変えていくとしたらどういうタイミングか?」という未来に向けた質問への回答が、これまた三者三様だったので、ご紹介してしめくくろうと思います。

安田さん「そのときそのときで、心が動くことをやろうかな、と」

田山さん「成功度合い、成長度合いを見て。自分が成長したと思ったら次のことをやる」

石原さん「世の中が変わっていく予兆をつかんで、それに応じて点をずらしていくイメージ」

3人とも、ビジネスもさることながら人としてもとても魅力的、かつ、大変なこと面倒なことも大いに経験しているのが伺えました。とにかく相手のこと、かかわる人のことを考え、大事にする。陳腐な言い方ですが、本当にすごい人というのは、人に優しいのだなと思います。

すべては自ら行動することで拓ける。今回、本当に、

「人生は、もっと自分で選択できる」

という力強いメッセージを感じました! そして、3人が

人とのつながり、出会いをとても大事にしている

という点も印象的でした。

すばらしい特別授業でした。学生の方々にも、大きな何かが伝わったと思います。有り難うございます!

以上(2024年9月作成)

【中堅社員のスピーチ例】「ありがとう」でストレスが減る

おはようございます。今日は、私の最近の勤務態度について反省を述べさせていただきたいと思います。最近、私は仕事をため込んで夜遅くまでの残業が続き、イライラする日々を送っていました。おそらく皆さんにも、私のイライラが伝わって、不快な思いをさせてしまったと思います。本当に申し訳ありません。

一方、今はどうなのかと言うと、とても気持ちが落ち着いています。仕事が山場を超えたからというわけではありません。上司から「ストレスを感じたときこそ、これを心がけなさい」という極意を教わったからです。

それは、「ありがとう」をたくさん人に伝えるというものです。例えば、先輩が仕事を教えてくれた。後輩が仕事を手伝ってくれた。外部の清掃員さんが手すりやトイレを掃除してくれた。こうした1つ1つのコトについて、「ありがとう」と言葉に出して、感謝を伝えるのです。

「なんだかうさんくさい」「親や学校の説教みたい」と思うかもしれませんが、実は「感謝」を意識すると、自身のストレスが軽減されるというのは、科学的にも証明されていることです。海外の心理学者ロバート・エモンズ氏が「ちょっとしたことでよいので、感謝できることを5つ書き、それを続けてもらう」という実験を行ったところ、感謝できることを毎日考えたグループは、何もしなかったグループに比べて幸福感が高くなり、身体的な不調も減少したといいます。

正直に言うと、私も最初、上司から「ありがとう」をたくさん人に伝えなさいと言われたときは、不満でした。今思い起こすと恥ずかしいですが、「私は毎日、夜遅くまで仕事をしているのに、何を人に感謝しろというのか。私こそ、もっと感謝されるべきだ」と、思っていたのです。誰かに、何かを「してやっている」という意識が強いから、こういう思考になってしまうわけですが、嫌な気持ちで仕事に向かうから、当然ストレスはたまる一方です。

ですが、あえて「してやっている」という意識から離れて、「していただいている」ことに目を向けてみると、実は自分は意外と恵まれているのだということに気付きました。先輩も後輩も支えてくれるし、清掃員さんのおかげでオフィスも清潔に使える。こう考えると、何だか肩の荷が下りた気分になり、それまでよりも穏やかな気持ちで仕事に向かうことができたのです。仕事量そのものが減るわけではありませんが、気持ちが落ち着いてくると、「まぁ、頑張ってみるか」と仕事に対する向き合い方も変わってきます。

もし、皆さんの中に仕事でストレスを抱えている人がいたら、まずは自分に何かをしてくれた人のことを思い起こしてください。そして、その人に「ありがとう」を伝えてみてください。最初は少し恥ずかしいかもしれませんが、続けていくと、次第に感謝を伝えている自分のほうが、心地よい気分になっていきます。

以上(2024年9月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【中小企業の予算(3)】実用的な予算管理にするための「予算」と「予測」の使い分け

書いてあること

  • 主な読者:予算管理を自社に取り入れたい、あるいはしっかり取り組みたい経営者
  • 課題:予算と予測の違いがあやふやで、現場の担当者でも明確にその違いを答えられない人も多い
  • 解決策:予算は「こうなりたい」という目標、予測は「こうなるだろう」という見込みである

1 予算と予測の違いを正確に答えられますか?

管理会計における「予測」という言葉を聞いたことはありますか。また、何のための数値なのか正確に答えられますか。

実は、予測を作っている担当者でも、十分に答えられる方はそう多くありません。なぜなら、実務の中では予測は漠然としていて、位置づけが難しいものだからです。この点を理解した上で、予測について、予算との違いも含めて考えていきましょう。

予算が「こうなりたい」という目標(理想や期待を含めた数値)

であるのに対し、

予測は「こうなるだろう」という見込み(現実的な数値)

です。そのため、予算と予測は一致するとは限りません。

期が進むと実績が出てきますが、一般的に実績は予算とずれてきます。このため予算(目標)を達成するためには、予測(見込み)を明らかにしなければなりません。予算(目標)と予測(見込み)の数値にズレがあれば、目標達成に向けて先の行動計画を変更することとなります。

具体的に3月決算の会社を例に、半期予測について考えてみましょう。

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まずは、4月から9月までの月次決算の実績を出します。さらに、この時点の最新情報をもとに、10月から翌3月までの売上や利益を予測します。

これらの実績と予測を足し合わせると年度の予測の数値を出すことができます。この予測と年度初めに立てた予算を比較して、年度の予算と半期の予測との間にどれくらいの差があるのかを計算することができます。これをもとに、予算が達成できるように残り半年の行動を修正していきます。

ちなみに、4月から6月までの実績が出た時点で行う予測を第1四半期時点予測(1Q時点予測)、12月までの実績が出た時点で行う予測を第3四半期時点予測(3Q時点予測)といい、より頻度を増やして予測と予算のズレを把握する会社もあります。

2 予算(目標)と予測(見込み)の使い分け

予測は日々刻々と変化していきます。年度が始まり時間が経過するにつれて不確定要素は減り、

より現実的な年度の着地見込みが見えてくる

のです。ここに予測を作成する意味があります。

決算直前になって予算(目標)と予測(見込み)に差がある場合だと、挽回が難しいかもしれませんが、半年たったあたりであれば、残り半年の行動を変えていけば予算達成が望めるということもあります。やはり、早めに「予算(目標)」と「予測(見込み)」のズレを把握することが大事になります。

これを、わかりやすくダイエットを例にして考えてみましょう。「現在体重は60キロ。6カ月後の年末までに55キロ(5キロ減量)にする」という目標を立てたとします。

目標を達成するためには、具体的な計画(運動やジムに通うことで3キロ、食事制限で2キロ減量するなど)や、進捗管理(1カ月ごとの体重把握など)も重要です。

ダイエットスタートから1カ月後で、0.7キロ減量の実績が出たとします。このペースを維持した場合の年末の見込みは0.7キロ×6カ月で、最終的に4.2キロ減量なので、55.8キロとなり、目標が達成できないことが明らかになります。

そこで、翌月以降からは0.9キロ減量できるように行動計画(ダイエット内容)を変更し、目標達成を目指します。例えば、運動の量を増やします。そうすると年末の見込みは、0.9キロ×残り5か月(=4.5キロ)で、最終的に5.2キロ(最初の月の0.7キロ+4.5キロ)減量なので、54.8キロとなり、目標が達成できます。

予算管理でいえば、最初に立てた目標が予算に当たり、1カ月ごとの実績を加味した上での見込みが予測に当たります。ダイエットの例と同様、1カ月置きに予測(見込み)を見直した上で、定期的に予算(目標)と予測(見込み)のズレを把握し、予算(目標)を達成できるよう行動を修正していきます。

3 修正予算はあくまで予算、予測とは別物です

予測の説明をすると、「予測は修正した予算のことでしょうか」という質問を受けることがあります。結論から言うと、

予測と修正予算は全くの別物

です。

予算は達成したい目標なので、期の初めに立てた予算は一度決めたら変えないことが原則です。しかし、会社が置かれている状況に大きな変化があった場合には、予算を変えざるを得ません。例えば、急激な円安の進行や会社の方向性が変わったというような場合には、もとの予算を目標とし続けることは、むしろ無意味になってしまいます。

このような場合には、なるべく早く予算を修正して、それを新しい目標とします。その上で、従業員に対して新たな予算について、変更点やその背景などを含めて伝える必要があります。この新たな予算が「修正予算」と呼ばれるものです。

このため、修正予算は期の初めに立てた予算と同類であり、予算は目標という位置づけですので、修正予算も目標に当たります。

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やはり、理想や期待を込めたものであり、現実的な数値である予測(見込み」とは異なります。修正予算と予測が混同されがちなのは、年度の途中で作成される共通点があるためですが、その性質は大きく異なる点は意識するようにしましょう。

以上(2024年9月作成)

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災害時に使える“税の特例”。損金算入できるのは?

書いてあること

  • 主な読者:地震や台風などの自然災害の被害を受けた企業の経営者、税務担当者
  • 課題:自然災害により生じた損失や費用の取り扱いなどの税金に関する特例措置を知りたい
  • 解決策:被災により滅失・損失した資産や、撤去などに要した費用などは損金に算入できる

1 災害が起きる前に、できることをざっくり把握

地震や台風などの災害によって社屋が損傷・倒壊などの被害を受けると、想定外の修繕費や、被災者に対する見舞金など、災害時特有の費用が発生します。これらの費用には、通常時とは違って損金(税務上の費用)の額に算入できるケースがあります。ただし、災害直後の優先順位として、税務周りの対応はそれほど高くはなく、後回しになってしまいます。もし、

特例を知らずにいつも通りの処理をしていたり、申告をしなかったりすると、受けられる特例措置などを受けずじまいになることも

あります。

受けられる特例の取りこぼしがないよう、事前に税務上の取り扱い(損金にできる費用や申告・納期限の延長など)をざっくり把握しておきましょう。

2 「法人と個人で共通」する災害時における税務上の取り扱い

1)災害により滅失・損壊した資産など

法人の有する商品、店舗、事務所などの資産が災害により被害を受けたことに伴い、次のような損失または費用が生じたときは、その損失または費用の額は損金に算入されます。

  1. 商品や原材料などの棚卸資産、店舗や事務所等の固定資産などの資産が災害により滅失又は損壊した場合の損失の額
  2. 損壊した資産の取壊し又は除去のための費用の額
  3. 土砂その他の障害物の除去のための費用の額

2)復旧のために支出する費用

法人が、災害により被害を受けた固定資産(以下「被災資産」)について、支出する費用に係る資本的支出と修繕費との区分については、次の通りとなります。資本的支出とは、原状回復を超えて資産価値を高めるための支出などをいいます。資本的支出に該当する支出は、資産として計上し、減価償却を通じて損金に算入します。一方、修繕費はその支出の額が損金に算入できます。

  1. 被災資産について、その原状を回復するための費用は修繕費となります。
  2. 被災資産の被災前の効用を維持するために行う補強工事、排水または土砂崩れの防止などのために支出する費用について、修繕費とする経理をしているときは、この処理が認められます。
  3. 被災資産について支出する費用(1または2に該当するものを除きます。)の額のうち、資本的支出か修繕費か明らかでないものがある場合、その金額の30%相当額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしているときは、この処理が認められます。

3)従業員などに支給する災害見舞金品

法人が災害により被害を受けた従業員や親族などに対して、一定の基準に従って支給する災害見舞金品は、福利厚生費として損金に算入されます。また、法人が自己の従業員などと同等の事情にある専属下請先の従業員などまたはその親族などに対して、一定の基準に従って支給する災害見舞金品についても、同様に損金に算入されます。事業を営む個人においても同様に取り扱われます。

4)災害見舞金に充てるために同業団体などへ拠出する分担金など

法人が、所属する同業団体などの構成員の有する事業用資産について災害により損失が生じた場合に、その損失の補填を目的とする構成員相互の扶助などに係る規約などに基づき、合理的な基準に従って同業団体などから賦課され、拠出する分担金などは、その支出する事業年度の損金に算入されます。

5)申告・納付期限について

1.個別指定による期限延長

納税地を管轄する税務署長に対し、災害等のやんだ日から相当の期間内に「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を提出した場合には、その承認を受けることにより、税務署長等が指定した日(災害等のやんだ日から2カ月以内)まで申告・納付などの期限が延長されます。

災害等のやんだ日とは、申請者に特別な事情がある場合を除いて、客観的に見て、申告・納付などの期限延長の申請をした人が、申告・納付などの行為をするのに差し支えないと認められる程度の状態に復した日となります。例えば、交通の途絶があった場合には、交通機関が運行を始めた日などが災害等のやんだ日になります。

2.地域指定による期限延長

2011年3月11日に発生した東日本大震災のときには、地域を定めて申告・納付期限を延長する対応が取られました。例えば、福島県の一部の地域については、申告・納付期限が2011年3月11日以降に到来するものが、2015年3月31日まで延長されました。

2024年1月1日に発生した能登半島地震についても、富山県、石川県の申告・納付期限を延長する対応が取られ、例えば、富山県、石川県のうち、石川県七尾市、輪島市、珠洲市、羽咋群志賀町、鳳珠群穴水町・能登町を除いた地域については、申告・納付期限が2024年1月1日から同年7月30日までに到来するものが、2024年7月31日まで延長されました。

なお、地域指定された地域に納税地がある個人または法人については、特段の手続きを経ることなく、自動的に申告・納付の期限が延長されます。

また、申告・納付期限延長措置の終了に関しては、各地域の復興などの状況を踏まえ、順次、国税庁のウェブサイトなどで告示されます。そのため、地域指定に関する情報は定期的に確認するようにしましょう。

3.顧問税理士が被災した場合

顧問税理士が被災した場合には、税理士自身が事務所に入れないことや、避難所に避難していることがあります。このような場合には期限までに申告ができないことが想定されますので、上記1の「災害による申告、納付等の期限延長申請書」に必要事項を記載し、納税地を管轄する税務署長に提出し、その承認を受けることにより、税務署長等が指定した日(災害等のやんだ日から2カ月以内)まで期限が延長されます。

6)延滞税・利子税・加算税

災害等により国税の納期限が延長された場合には、その延長された期間については、その国税に係る延滞税および利子税は課されません。

また、申告・納付などが適正に行われない場合に課される加算税については、認められた延長期限内に申告を行えば課されません。なお、加算税とは、申告・納付が遅れた場合に、通常の納付額に加算して課される罰金的な性格を有する税のことをいいます。例えば、期限後に申告が行われた場合に課される無申告加算税や、源泉徴収税額が期限後に納付された場合に課される不納付加算税などがあります。

2 「法人」に対する災害時の主な税務上の取り扱いについて

1)取引先に対する災害見舞金など

法人が、その得意先などの慶弔、禍福に際して支出する費用は、慰安、贈答その他これらに類する行為として、交際費として取り扱われ、一定の金額以上については損金に算入することができません。ただし、被災前の取引関係の維持・回復を目的として、取引先の復旧過程においてその取引先に対して行った災害見舞金の支出、事業用資産の供与などのために要した費用は、交際費などに該当しないものとして全額損金に算入されます。

2)取引先に対する売掛金などの免除など

法人が、その得意先などの債権を合理的な理由がなく免除した場合には、原則として得意先などに対して寄付金を支出したものとして取り扱うことになり、一定の金額以上については損金に算入することができません。ただし、災害を受けた取引先の復旧過程において、復旧支援を目的として売掛金、貸付金などの債権を免除する場合には、その免除することによる損失は、寄付金または交際費等以外の費用として、全額損金に算入されます。また、既契約のリース料、貸付利息、割賦代金の減免を行う場合および災害発生後の取引につき従前の取引条件を変更する場合も、同様に取り扱われます。

3)取引先に対する低利または無利息による融資

法人が、災害を受けた取引先の復旧過程において、復旧支援を目的として低利または無利息による融資を行った場合における、通常収受すべき利息と実際に収受している利息との差額は、寄付金に該当しないものとされます。

取引先の復旧過程における復旧支援を目的として行われる融資は、取引先の復旧支援をすることにより、自らが被る損失を回避するためのものとして一定の経済合理性を有すると考えられるため、寄付金に該当しないものとされます。

4)自社製品などの被災者に対する提供

法人が、不特定または多数の被災者を救援するために緊急に行う自社製品などの提供に要する費用は、寄付金または交際費などに該当しないもの(広告宣伝費に準ずるもの)として損金に算入されます。災害という緊急性のある中において、倫理的・社会的要請により自社製品の提供が行われることが考えられますが、これは、国が被災者を支援することと同様の側面があり、また、広告宣伝費に準ずる性質を有するとも考えられるため、寄付金に該当しないものとされます。

5)災害による損失金の繰越し

法人の各事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額のうち、棚卸資産、固定資産などについて、災害により生じた損失に係るもの(以下「災害損失欠損金額」)がある場合には、その事業年度が青色申告書を提出しなかった事業年度であっても、その災害損失欠損金額に相当する金額は、その各事業年度において損金に算入されます。

なお、2018年4月1日前に開始する事業年度において生じた災害損失欠損金額の繰越期間は9年となります。

6)災害損失の繰戻しによる法人税額及び地方法人税額の還付

災害のあった日から同日以後1年を経過する日までの間に終了する各事業年度又は当該災害のあった日から同日以後6月を経過する日までの間に終了する中間期間(以下「災害欠損事業年度」)において生じた欠損金額のうち、災害損失金額に達するまでの金額(以下「災害損失欠損金額」)がある場合には、その災害欠損事業年度開始の日前1年(青色申告書である場合には前2年)以内に開始した事業年度(「還付所得事業年度」)の法人税額のうち災害損失欠損金額に対応する部分の金額について、還付請求することができます。

また、災害損失の繰戻しによる法人税額の還付が行われる場合には、地方法人税の還付金の額に相当する金額として、法人税の還付金の額の10.3%に相当する金額が合わせて還付されます。

7)義援金を支払った場合

1.県の災害対策本部や義援金配分委員会に対して支払った義援金

「国等に対する寄附金」に該当し、その全額が損金に算入されます。

2.日本赤十字社に対して支払った義援金

法人が、日本赤十字社の「令和6年能登半島地震災害義援金」口座に対して支払った義援金は、「国等に対する寄附金」に該当し、その全額が損金に算入されます。

ただし、日本赤十字社に対して支払った義援金であっても、例えば、日本赤十字社の事業資金としてのものなど、最終的に地方公共団体に拠出されるものでないもの(財務大臣が指定する寄付金に該当しないものに限ります)については、「特定公益増進法人に対する寄附金」に該当し、特別損金算入限度額の範囲内で損金に算入されます。

3 「個人」に対する災害時の主な税務上の取り扱いについて

1)個人が支払いを受ける災害見舞金

個人が支払いを受ける災害見舞金で、その金額がその受贈者の社会的地位や贈与者との関係などに照らし、社会通念上相当と認められるものについては、課税しないものとされています。

2)低利または無利息により生活資金の貸付けを受けた場合の経済的利益

災害により臨時的に多額の生活資金を要することとなった役員または従業員などが、使用者からその資金に充てるために低利または無利息で貸付けを受けた場合に、その返済に要する期間として合理的と認められる期間内に受ける利息相当額の経済的利益は、課税しないとされています。これは、災害を受けた人の担税力を考慮した措置といえます。

3)被災事業用資産の損失の繰越し

事業を営む個人のその年の前年以前3年以内の各年において生じた純損失の金額のうち、棚卸資産、固定資産などについて災害により生じた損失に係るもの(以下「被災事業用資産の損失の金額」)がある場合には、その損失の生じた年に青色申告書を提出していなかった場合であっても、その被災事業用資産の損失の金額に相当する金額は、その年分の総所得金額等の計算上控除することとされています。

4)義援金を支払った場合

1.県の災害対策本部や義援金配分委員会に対して支払った義援金

「特定寄附金」に該当し、寄附金控除の対象となります。

2.日本赤十字社に対して支払った義援金

「特定寄附金」に該当し、寄附金控除の対象となります。

以上(2024年9月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:Potstock-Shutterstock

さまざまな法人税対策の考え方をとことん分かりやすく整理する

書いてあること

  • 主な読者:適法で自社に合った法人税対策をしたい経営者
  • 課題:法人税対策といっても、どのような方法があるのか分からない
  • 解決策:法人税対策として「所得の平準化」と「税制上の優遇・制限」を知る

1 2つの性質に分けられる法人税対策

利益が増えると、法人税対策への関心度は高まります。ただ

目先の納税額を少なくすることを考えても、長期的にはあまり意味がないものであったり、無駄に資金の支出を増やしているものであったりする

ことがあります。法人税対策は、

  1. 所得の平準化によるもの
  2. 税制上の優遇・制限によるもの

ごとに大別されます。それぞれ会社の資金に与える影響や効果や性質を考えた上で、自社に合った対策を講じることが大切です。

この記事では、法人税対策の考え方を紹介します。なお、より具体的に法人税対策を検討したい方は、以下のコンテンツをご参照ください。

2 ひと目で分かる多様な法人税対策

法人税対策の概略をまとめると次のようになります。

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1)所得の平準化によるもの

「今年度の税金を少なくする(所得の平準化によるもの)」ということであれば、

  • 費用の前倒し計上(さらに資金の支出を伴うものと、伴わないものに細分化)
  • 収益の繰延処理
  • 資産の評価損の計上

が有効です。これらは今年度の税金を少なくしますが、翌年度以降に反動が出てきます。また、法人税は毎年平均的に所得を計上したほうが、総額の税額は低くなる(詳細は後述)ので、こうした点も考えながら節税対策を検討します。

1.費用の前倒し計上

費用の前倒し計上は資金の支出を伴うものと、伴わないものとに区分されます。

資金の支出を伴うものは、

  • 決算賞与の支給、あるいは未払い計上
  • 消耗品や固定資産を利用した費用の創出

に区分されます。

また、資金の支出を伴わないものは、

  • 優遇税制の利用
  • 未払い計上が可能な費用などの確認

に区分されます。

2.収益の繰延べと資産の評価損

収益の繰延べは今年度に入金があったものの、翌年度以降の収益として計上する繰延処理を行うもので、前受収益の計上と、一定の要件を満たす場合の圧縮記帳(一定の方法により得た収益と同じ金額を取得金額から控除するなどして、課税を繰り延べる制度)とがあります。

また、その他に資産の評価損があります。これは年度末時点で保有している資産の評価損(帳簿価額と時価の差額)を認識するものです。

2)税制上の優遇・制限によるもの

「税金の額を永久に少なくする(税制上の優遇・制限によるもの)」ということであれば、

  1. 税額控除を利用する
  2. 損金性を否認される費用を減らす
  3. 特別課税の適用を受けないようにする
  4. 欠損金繰越控除の期間を有効に活用する

という4つに区分することができます。これらの節税対策は会社に資金の負担を掛けません。一方、前述した資金の支出を伴う法人税対策は、一時的にその期の節税額以上に資金繰りを悪化させるので要注意です。

3 所得の平準化がなぜ法人税対策として効果があるのか

個人の所得税は累進課税(所得が増えるほど税率が大きくなる課税制度)であるため、所得を平準化したほうが税金の総額が少なくなります。一方、法人は一定税率であるため、所得の平準化による節税効果はないと思われがちです。

しかし、法人も資本金が1億円以下であれば、中小法人(資本金の額が5億円以上の大法人の100%子会社を除く)の軽減税率により、2段階の累進課税となっているので、複数年度の所得を累進させる手前の段階でとどめておくことができれば、節税効果が生じます。また、特定同族会社(資本金1億円以下を除く)では、留保金課税が追加発生するので、留保金課税が発生する手前で平準化できれば節税効果が生じます。

4 法人税対策の基本的な進め方

上記で説明した分類に基づいて「法人税対策」を考えた場合、まず行うべきは「税制上の優遇・制限によるもの」です。それらは、適用を受ける、または適用を受けないようにすることで、必ず効果が出ます。

それらを検討して改善の余地がなければ、「所得の平準化によるもの」について考えます。これは、現在手を着けなくても後日にその分の効果が出るものです。後日の節税効果より、現在手を着けたことによる節税効果のほうが大きい場合に検討します。

本稿で紹介したことは当たり前のことともいえますが、これができていないために、払わないで済む余分な税金を払っている場合が多いのです。まず、当たり前のことがきちんとできているかどうかを確かめることから始めましょう。

以上(2024年9月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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