2023年版「中小企業白書」から見えてくる中小企業の成長機会

書いてあること

  • 主な読者:アフターコロナを踏まえて、自社の今後を考える経営者
  • 課題:他社との差異化を図るために何をすべきなのか、検討のヒントが欲しい
  • 解決策:人手不足を解決するための生産性向上や、新しい担い手づくりなどが求められる

1 中小企業が足元で抱える課題は?

業種による違いは大きいものの、コロナ禍からの脱却が急速に進み、中小企業全体で見れば、売上高や経常利益なども回復してきています。しかし、業績が回復して企業が採用を進めると、今後は人手不足が問題になってきます。

そこでこの記事では、2023年版「中小企業白書」(以下「白書」)から、業種を問わず課題となりうる「人手不足への対応策」や「新たな担い手づくり」に焦点を当て、競合他社との差異化を図るためのヒントを紹介します。なお、この記事で紹介する図表の出所は全て白書であることや、分かりやすさを重視したことから、出所の記載や注釈は省略しています。詳細な内容を確認したい場合は、白書の本編をご覧ください。

2 人手不足対応のカギは「生産性向上」

1)採用に注力しつつ、生産性向上を図る

人手不足への対応は、正社員やパートタイマーなどの人材採用に限りません。業務プロセスの見直しによる業務効率化や、社員の能力開発、ITなどの設備投資によって生産性向上等に取り組む動きが見られます。

画像1

2)職場環境の改善で魅力の向上を実現する

人材確保のために中小企業が取り組んでいることとして、「給与水準の引き上げ」や「長時間労働の是正」があります。また、「育児・介護などと両立できる制度の整備」、「福利厚生の拡充」を通じた職場環境の改善などによって、職場の魅力向上に取り組む動きがあります。

画像2

3 他社との差異化は、担い手づくりが肝心

1)経営者仲間との積極的な交流を通じて、企業の成長意欲を喚起する

経営者が成長意欲を高めるきっかけには、同業種・異業種の経営者との交流が大きな比率を占めています。

画像3

2)リスキリングに取り組むことが、自社の成長にもつながる

経営者が学習時間を意図的に確保している企業のほうが、売上高増加率の水準が高い傾向にあるようです。経営者自身が学ぶ姿勢を見せることで、組織全体のリスキリングを推し進めるきっかけにもなります。

経営者が取り組んでいるリスキリングの内容としては、「書籍・セミナー受講等による知識の収集」、「社外での勉強会への参加」が上位に上がっています。

画像4

一方、役員・社員に提供しているリスキリングの内容は、「書籍・セミナー受講等による知識の収集」、「社外での勉強会への参加」、「新しいスキルに関する資格取得」が多いようです。

画像5

4 事業承継によって新たな担い手の創出を図る

1)事業承継後の事業再構築で成果を出す

事業承継は経営資源の散逸を防ぐとともに、経営者の世代交代により、企業を変革するチャンスになります。また、事業承継時の経営者年齢が若い企業ほど、企業の成長に寄与する事業再構築に取り組む傾向があります。

ここでいう事業再構築とは、新たな製品の製造または、新たな商品もしくはサービスを提供することや、製品または商品、もしくはサービスの製造方法、または、提供方法を相当程度変更することを指します。

画像6

2)後継者に意思決定を任せてみる

後継者の新しい挑戦を促す上で、事業再構築の取り組みといった課題を与えるなどして、先代経営者は後継者に経営を任せることが重要です。また、従業員からの信認を確保することも大切で、従業員から信認を得て、事業再構築を行う企業ほど、売上高年平均成長率が高い傾向にあります。

画像7

5 終わりに

白書からは、多様な働き方や意思決定の柔軟さなどといった中小企業ならではの特性を活かして、他社との差異化を図ることの大切さが明らかにされています。

白書の中では、人手不足をきっかけに、デジタル化による業務効率化を実現した企業や、副業人材を活用することで売上の向上につなげた企業など、個別具体的な企業の事例も紹介しているので、自社の戦略を立てる際の参考にするとよいでしょう。

以上(2023年7月作成)

pj80164
画像:master1305-Adobe Stock

日常点検を行いましょう!(2023/7号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

自動車の故障は1年の中で7月頃から増える傾向があります。

皆さんは日常点検を適切に実施していますか?

自動車は精密機械です。走行距離や時間の経過に伴って部品の摩耗や劣化が進みます。日常点検を怠っていると、運転中に故障やトラブルが生じ、交通渋滞や交通事故を誘因するおそれがあります。

今月は、自動車の日常点検について再確認してみましょう。

日常点検を行いましょう!

1.故障の発生状況

自動車の故障の発生件数は、6~7月から増え始め、12~1月にピークを迎えます。※

特に、ゴールデンウィークやお盆、年末年始などの連休にはロードサービスの救援要請が増加します。

ロードサービス救援件数

出典:一般社団法人日本自動車連盟(JAF)「ロードサービス救援 データ」から当社作成

※夏季は路面温度が上昇しタイヤに負荷が掛かったり、夏季にバッテリーを酷使して冬季にトラブルが生じたりすることが要因と考えられます。

故障の発生状況

国土交通省「令和4年度路上故障の実態調査結果」から当社作成

国土交通省の統計データで路上故障(一般道路)の故障部位をみると、「タイヤ」と「バッテリー」の割合が高く、この2つで全体の約6割を占めています。

タイヤの故障原因としては、空気圧不足やパンク、バーストなどがあげられ、バッテリーの故障原因としては、ライト類の長時間使用などによる過放電や破損、劣化などがあげられます。

運転中に発生するこれらのトラブルの多くは、日常点検をしっかりと行っていれば回避することが可能です。

故障経験

当社調べ「あなたは過去にお車が故障し自走不能となった経験がありますか?
(事故による故障の場合を除きます)」への回答結果
(2022年5月実績 回答者数:2,421名)

実は、3人に1人が故障を経験しています!

エンジン故障など修理費が高額になることもあります。

自走不能の場合はレッカー費用もかさみます。

2.日常点検のキホン

日常点検整備の実施は、ユーザーの義務として法令(道路運送車両法47条の2)に定められています。自家用乗用自動車の場合は、日頃、自動車を使用している中で、走行距離や運行時の状態などから判断した適切な時期に点検を行う必要があります。

【「日常点検項目チェックシート」の紹介】

自動車に安全に乗るためには欠かせない日常点検ですが、自家用乗用自動車の場合、エンジンルーム5項目、クルマの周り4項目、運転席6項目(全部で15項目)をチェックする必要があります。

「日常点検項目チェックシート」を活用して効率的に日常点検を実施しましょう。

日常点検項目チェックシート

日常点検項目チェックシート(上図参照)

出典:国土交通省「自動車の点検整備」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha/tenkenseibi/tenken/t1/t1-2/

※日常点検で、もし少しでも「変だな」と感じたら、整備工場などで点検整備を受けてください。

<タイヤのトラブル回避>

高速で走行中にパンクやバーストが発生すると非常に危険です。また高速道路などの路肩でのタイヤ交換は追突されるなどの危険が伴います。

運転の前には、タイヤの空気圧、亀裂・損傷の有無、溝の深さ(スリップサイン)をしっかりチェックしましょう。

タイヤのトラブル回避

<バッテリーのトラブル回避>

バッテリーがあがる前にはランプ類が暗くなったり、エンジン始動の際のモーターの回転がスムーズでなくなったりします。

バッテリーの寿命を意識して日頃のバッテリー液の点検をしっかり行いましょう。

バッテリーのトラブル回避

3.日常点検の励行

日常点検を励行すれば、不具合を早期に発見・修理することができ、次のメリットが期待できます。

  • 交通事故防止(予期せぬトラブルや不測の事故の発生を未然に防げます)
  • 出費の抑制(長期的にはメンテナンス費用が少なくなり、自動車の寿命も延伸できます)
  • 環境保全(燃費の改善により地球温暖化の原因であるCO2の削減につながります)

※「エコドライブ10のすすめ」の項目(8.タイヤの空気圧から始める点検・整備)になっています。

日常点検をしっかりと行い、安心・安全かつ快適な運転を心がけましょう!

以上(2023年7月)

sj09080
画像:amanaimages

【海外展開の手引(6)】お手本にしたい他社の成功事例集

書いてあること

  • 主な読者:販路拡大や生産コスト削減などのために、海外展開を検討している経営者
  • 課題:海外展開を成功させるための秘訣を知りたい
  • 解決策:海外展開に成功した他の中小企業の事例を参考にする

1 他社の成功事例を知ることも大事な情報収集

海外展開を検討する際、現地のリスクの把握や市場調査の他に、収集すべき情報として、

先行した他社の成功事例

があります。理論や数字などから海外展開の成功ポイントを知るだけでなく、実際の成功事例を参考にすることで、検討すべき課題がより明確になるはずです。

この記事では、日本貿易振興機構(以下「ジェトロ」)「ジェトロ活用事例」、新輸出大国コンソーシアム「海外展開成功事例集」、中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」)「中小企業の海外展開入門」などの資料や、各社ウェブサイトなどを基に、中小企業の海外展開事例を紹介します。なお、各機関の資料で紹介されている事例については、各資料作成時点のものです。

2 中小企業の海外展開における成功事例

1)オンライン商談を活用して販路開拓した事例:翠華園 谷村弥三郎商店(奈良県)

翠華園 谷村弥三郎商店は、茶せんなどの茶道具を製造販売しています。

同社は2020年に海外への輸出に取り組み始めました。まずは茶道具の海外ユーザーを増やすために、SNSのInstagram(インスタグラム)を活用し、茶道具の魅力や工房の様子などを発信したところ、ダイレクトメッセージで引き合いがくるようになったといいます。

そして、ジェトロが主催するオンラインカタログサイト「JAPAN STREET」に登録したことで、米国のバイヤーとの取引が成約し、ニューヨークのセレクトショップで販売されるようになりました。

取引が成約に至った決め手は、オンライン商談でした。バイヤーが顧客にも茶せんの価値や魅力を伝えられるよう、スマートフォンを使って実物を見てもらいながら、商品の背景にあるストーリーを説明したことが奏功したといいます。

具体的には、原料となる竹を見てもらいながら素材へのこだわりを説明。さらに、実際に工房で職人が手作業で茶せんを作る様子を映しながら製造工程を紹介することで、商品の価値と魅力を伝えることができたそうです。

2)越境ECサイト内のSNSを活用してリピーターを増やした例:Earthink(兵庫県)

Earthinkは、食品や雑貨の企画製造・販売などを行っており、食品の国内外への通販事業にも携わっています。2015年からは、米国のECモールAmazon.comに「Japan Village」を出店し、うなぎのかば焼きなど日本のこだわり食品を販売しています。

ECモール内で自社の販売する商品を見つけてもらうために試行錯誤する中、同社は2021年にジェトロとAmazonが日本の事業者の商品を特集するストア「JAPAN STORE」に参加しました。事業で提供されるウェビナーや講座からSEO対策や広告運用などのノウハウを得て、売り上げの増加につながったといいます。

また、ウェビナーをきっかけに、Amazon内のSNS「POST」への投稿に力を入れるようになりました。POSTではセールス色を抑え、販売している食品の用途やレシピ、商品の魅力や背景にあるストーリーの他、日本の文化など、より日本を身近に感じてもらう投稿を行いました。その結果、フォロワーや購入リピーターが増えたといいます。また、Amazonのイベント前や販促を強化したい商品があるときに集中的に投稿を行うことで、露出がさらに増えたそうです。

3)技能実習生を活用して現地進出を果たした事例:アーキテック(高知県)

アーキテックは建造物の防水加工や内装工事を行っています。同社はミャンマーで建築資材の防水加工を専門に行う企業がないことを知り、ミャンマーへの進出を考えるようになったといいます。

2017年に現地法人を設立後、新輸出大国コンソーシアムの支援を受けて、本格展開の準備を進めました。コンソーシアムの専門家からは、現地の法律や、ASEANでの商習慣などの助言を受けました。コンソーシアムの専門家の助言を受けて日系ゼネコンなどへのPR活動を行った結果、2018年11月から工業団地の工場の外壁工事や、ヤンゴン市内の学校およびホテルの工事の一部を受注できるようになったといいます。

人員体制の整備については、技能実習生として2015年から日本の本社で受け入れていたミャンマー人を活用しました。技能実習生としての勤務経験があるスタッフを雇用し、現地採用の人材の指導に当たってもらうことで、20人規模の運営体制を構築したといいます。元技能実習生を現地で雇用したことは、日本にやって来る技能実習生にとっても、やる気を引き出す効果があったようです。

4)特許戦略で海外展開の足掛かりを築いた例:アイマックエンジニアリング(東京都)

アイマックエンジニアリングは、プラント用機械の設計・製作を行っており、工場内で製作したユニットを現地で据え付けるだけで建設可能な新工法のノウハウを持っていることが強みです。

同社は2019年度に、新工法のノウハウを武器に、国内メーカーだけでなく海外メーカーとの取引も行うことを目指して、知的財産を活用した中小企業の海外展開をサポートする経済産業省の「戦略的知財活用型中小企業海外展開支援事業」に応募し、採択されました。

当初はライセンス供与による海外メーカーとの取引を計画しましたが、中小機構のアドバイザーと検討した結果、周辺特許を多数権利化する必要があることなどが判明し、PCT出願(国際特許出願)を行うことにしました。PCT出願は、特許協力条約(PCT)への加盟国の1カ国に、統一された出願書で特許を出願すると、全ての加盟国に特許出願したことになるものです。

2020年12月に日本での特許の権利化を達成し、2021年度までにアジアや欧米の9カ国で権利化の手続きを開始しました。同社は特許の権利化を足掛かりに、今後は海外展開を進めていく方針といいます。

3 海外展開の成功事例に関する情報源

1)ジェトロ「ジェトロ活用事例」

ジェトロでは、目的、分野、海外展開先などから、海外ビジネスの成功事例を検索できるようにしています。

■ジェトロ「ジェトロ活用事例」■

https://www.jetro.go.jp/case_study/

2)新輸出大国コンソーシアム「海外展開成功事例集」

ジェトロのウェブサイトでは、ジェトロが事務局を務める新輸出大国コンソーシアムによる支援を活用した、58社の事例を紹介しています。

■ジェトロ「新輸出大国コンソーシアム『海外展開支援活用事例集』をウェブサイトで公開」■

https://www.jetro.go.jp/news/releases/2022/0f885ee3faef4a45.html

また、同じく新輸出大国コンソーシアムを活用して海外展開に成功した、100社の事例も紹介しています。

■ジェトロ「新輸出大国コンソーシアム『海外展開成功事例集』をウェブサイトで公開」■

https://www.jetro.go.jp/news/releases/2019/48c3ea6f0bbe6a95.html

3)中小企業基盤整備機構「中小企業の海外展開入門」

中小企業基盤整備機構では、中小企業による「海外進出の取り組み事例一覧」をウェブサイト上で掲載しています。また、「事例集(中小企業庁編)」では、全国の中小企業支援機関による支援を受けて、海外展開を果たした事例を紹介しています。

■中小企業基盤整備機構「中小企業の海外展開入門」■

https://j-net21.smrj.go.jp/special/overseas/

4)国際協力機構「採択事業検索」

国際協力機構(JICA)では、中小企業への海外展開支援事業に関して、対象国、スキーム、公示年度などから過去の案件事例を検索できるようにしています。

■国際協力機構「採択事業検索」■

https://www2.jica.go.jp/ja/priv_sme_partner/index.php

5)日本商工会議所/東京商工会議所「ヒラケ、セカイ2」

日本商工会議所および東京商工会議所では、2018年1月に中小企業の海外展開事例集「ヒラケ、セカイ2」を発行しました。2016年10月に発行した第1弾に続く電子冊子で、16社の事例を紹介しています。

■日本商工会議所/東京商工会議所「ヒラケ、セカイ2」■

http://www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=112735

6)工業所有権情報・研修館 知財総合支援窓口「支援事例」

工業所有権情報・研修館では、ウェブサイト「知財総合支援窓口」において、知財面における「支援事例」を紹介したページの中で、代表的な海外展開支援事例を紹介しています。

■工業所有権情報・研修館 知財総合支援窓口「支援事例」■

https://chizai-portal.inpit.go.jp/supportcase/02.html#supportcase04

以上(2023年6月更新)

pj80101
画像:unsplash

「ディベート研修」で論理的に考え、しっかり主張できる社員を育てる

書いてあること

  • 主な読者:社員の論理的思考力や議論・討論スキルを向上させ、会議でも活発な意見が交わされるようにしたい経営者
  • 課題:ディベートによって、社員の論理的思考力や、積極的に意見を交わす力を養いたいが、どのように進めたらよいのか分からない
  • 解決策:ディベートの基本的な進め方や、議論の構築方法を押さえる

1 「ディベート」を取り入れて人を動かす力を身に付ける

皆さんは本格的なディベートをしたことがありますか?

ディベートで社員の議論・討論技術、論理的思考力などを鍛えることができるので、これを社員教育に取り入れる企業があります。ビジネスでは自身の意見を主張し、「意見を戦わせる」ことも必要ですから、それができる社員を育てましょう!

この記事では、ディベートの進め方や留意点を解説します。ディベートを繰り返すことで得られる論理的思考力や、物事を客観的に把握する能力は、社内外での打ち合わせや商談などでも、良い結果をもたらしてくれるはずです。

2 ディベートの進め方

ディベートでは、肯定派・否定派といった異なる立場に分かれて、対立構造の下で議論をします。ディベートには、大きく分けて2つの形式があります。

  • アカデミックディベート:論題が、数週間から数カ月、1年など、時間的な余裕を持って与えられ、入念に準備する期間がある
  • パーラメンタリーディベート:論題が、数十分前に与えられ、事前に準備する期間があまりない。即興性を重視したディベート

それぞれについて、一般的な進め方は次の通りです。

画像1

ディベートの構成員は、討論者(以下「ディベーター」)・司会・タイムキーパー・点数集計係・ジャッジです。一般的には次の人数構成で行われます。

  • ディベーター(肯定側グループ):2~5人程度
  • ディベーター(否定側グループ):2~5人程度
  • 司会:1人
  • タイムキーパー:1人
  • 点数集計係:1~2人
  • ジャッジ:奇数人数もしくは会場にいる残り全員

3 進行上の留意点

1)論題のタイプ

論題を設定します。ディベートにおける論題には次のようなものがあります。

  • 政策論題:国会で行われているような政策に関する論題。「国防費をGDP比でもっと高めるべき」など。ビジネスでは「わが社は朝礼を導入すべき」など
  • 推定論題:是非や真偽を問う議論。「子どもにスマートフォンは必要か」など。ビジネスでは「わが社は、中途採用よりも新卒採用に注力すべきか」など
  • 価値論題:価値観に関する論題。「地方暮らしのほうが都会暮らしよりも良い」など。ビジネスでは「リモートワークと出社、どちらが良いか」など

アカデミックディベートは、参加者が事前に資料の収集・分析を行う時間があるため、政策論題や推定論題に向いています。一方、パーラメンタリーディベートは即興性が求められるため、個人的な価値観を議論する価値論題が取り上げられる傾向にあります。

2)論題の要件

論題は、肯定側と否定側に議論が分かれるテーマでなければなりません。また、既に決まっていることや、自明のことはテーマとして不適切です。

3)資料の収集・分析

ディベートでは肯定側・否定側がランダムに決められるため、論題の内容などを理解した上で、肯定側・否定側、双方の視点から議論を構築できるよう資料の収集・分析をします。

また、アカデミックディベートとパーラメンタリーディベートでは、資料の収集・分析に必要なアプローチが異なります。アカデミックディベートでは事前に論題が発表されるため、資料の収集・分析の対象を絞ることができます。一方、パーラメンタリーディベートでは論題が直前に発表されるため、さまざまな論題に対応できるように、幅広い分野での資料の収集・分析が必要です。

4)議論の構築

議論の構築の方向性は、政策論題と推定論題、価値論題で異なります。政策論題では「その政策を導入すべきか」という観点であるのに対し、推定論題は「その考えが妥当であるか」という是非や真偽、価値論題では、それぞれの異なる観点から、ジャッジを説得しなければなりません。よって、推定論題、価値論題のほうが、政策論題よりも難易度が高くなります。

1.政策論題における議論の構築方法

政策論題における肯定側・否定側の議論の構築方法は次の通りです。

  • 肯定側:問題を明確にし、論題の政策を採択することで解決されることを立証
  • 否定側:論題の政策を採択しても問題は解決されず、むしろ新たな問題が発生することを立証

2.推定論題における議論の構築方法

「これが正解である」という論拠を示すのが難しいものの、論理的に考えてあり得るのではないか、あり得ないのではないかという仮説を立てて、それを裏付けるものを立証します。

3.価値論題における議論の構築方法

価値論題では、肯定側と否定側の立場を比較しながら、それぞれ自分の立場から見たメリットを示すことが重要です。

5)ディベーターの肯定側・否定側の振り分け

ディベーターの肯定側・否定側の振り分けは、ディベート直前にじゃんけんやくじ引きなどでランダムに決めます。そのため、ディベーターは資料の収集・分析など準備の段階から、肯定側・否定側双方の立場で考えなければなりません。

6)ディベートの進行ルール

ディベートには、発言時間・順序などのルールがあります。一般的には「立論」や「反論」などのステージがあり、それぞれ順序や時間が定められています。発言時間は任意に決定できますが、

  • 「立論」や「反論」の時間は3~6分程度
  • 「質疑」は2~3分程度
  • それぞれの発言の前に設けられる「準備時間」は1~2分程度

というケースが多いようです。

最後にジャッジが、より説得力のある議論を展開した側に「勝利」の判定の投票をします。ジャッジは、それぞれの側の時間配分・チームワーク・発表態度・議論内容の水準などを採点基準にして勝敗を判断します。ジャッジからその判定をするに至った理由や建設的なアドバイスなどを受けることにより、ディベート能力の向上を図ることができます。

参考として、アカデミックディベートの発言順序の一例を紹介します。ただし、パーラメンタリーディベートでは、立論・質疑・反論が1つのスピーチ内で、各ディベーターによって行われるのが一般的です。なお、図表にある「立論」「反論」の意味は次の通りです。

  • 立論:論点となる議論を新たに示すこと
  • 反論:相手の立論に反論することで、この段階で新たな立論はできない

画像2

4 ディベートで鍛えられる能力

1)論理的思考力

ディベートの目的は、自らの主張をジャッジに納得してもらうことです。そのためには、論理的に主張する必要があるので、自分の意見が成立する理由を論拠や事実に基づいて立証する訓練の中で、論理的思考力が養われます。

また、ディベートでは相手の議論や質疑に対して、限られた時間の中で考えて対応するため、矛盾を見つける力や、素早く考える力も鍛えられます。

2)多角的・客観的視点

ディベーターの肯定側・否定側の振り分けはランダムに決定されるため、肯定側・否定側双方の立場から考える訓練になります。これにより物事を固定観念や個人的な感情に流されずに、多角的・客観的な視点から見ることができるようになります。ビジネスシーンでの意思決定においても、メリット・デメリットの両面を考える習慣を身に付けることができます。

3)コミュニケーション能力

自らの主張をジャッジに理解してもらい、納得させるには、アイコンタクトやジェスチャー、声のトーンなども重要です。また、ディベートでは質疑や反論を効果的に行うために、相手側の主張を真剣に聞く力も求められます。

4)情報収集力・整理力

ディベートをするには新聞・書籍・インターネットなどから情報を収集し、整理して主張を組み立てる必要があります。このプロセスの中で、情報の収集力と整理力が身に付きます。また、短い時間で効率的かつ的確に意見を主張しなければならないので、思考・表現の整理力も養われるでしょう。

以上(2023年6月更新)

pj00326
画像:unsplash

社会保険・労働保険に加入すべき社員とは? 初めて社員を雇うときに備えて

起業した会社が初めて「社員」を雇う場合、それまで無縁だった「労働者特有のルール」に戸惑ってしまうかもしれません。例えば、「社会保険・労働保険」がそうです。「保険の適用を受ける会社・社員」は、法令により決まっています。手続きに抜け漏れがないようにしないと罰則もあるので、注意が必要です。
そこで本記事では、初めて人を雇うときに押さえておくべき社会保険・労働保険のルールを紹介します。「これまで経営者1人あるいは役員だけで仕事をしていて、社員の労務に不慣れ」という経営者の助けになれば幸いです。

1 そもそも社会保険・労働保険とは?

社会保険は3種類(健康保険、厚生年金保険、介護保険)、労働保険は2種類(雇用保険、労災保険)に分けられます。社員が各保険の適用される「適用事業所」に勤め、「被保険者」の要件を満たせば、さまざまな給付を受けられます。唯一、労災保険については、被保険者という概念がないので、保険の適用を受ける会社に勤めるだけで給付を受けられます。
なお、各保険の運用に当たって、会社と社員(労災保険は会社のみ)は、一定の保険料を負担する必要があります。

1)社会保険

1.健康保険
社員がプライベートで病気やけがをしたり、出産したりしたときのための保険です。治療などを原則3割負担で受けられたり、病気やけが、産休(産前・産後休業)などで働けない場合に給付金が支給されたりします。保険料は、会社と社員が半分ずつ負担します。

2.厚生年金保険
社員が年を取ったり、障害を負ったり、死亡したりしたときのための保険です。原則65歳になったら年金が支給されたり、障害を負った場合や死亡した場合に給付金が支給されたりします。保険料は、会社と社員が半分ずつ負担します。

3.介護保険
社員に介護が必要になったときのための保険です。原則65歳になったら、介護サービス(訪問介護や通所介護など)を利用した際の費用が補填されます。保険料は、会社と社員が半分ずつ負担しますが、保険料が発生するのは社員が40歳になってからです。

2)労働保険

1.雇用保険
社員が仕事を辞めたり、雇用継続が困難になったりしたときのための保険です。失業したり育休(育児休業)中だったりして働けない場合や、スキルアップのための特定の講習を受講・修了した場合などに給付金が支給されたりします。保険料は、事業の種類ごとの保険料率に応じて、会社と社員がそれぞれ負担します。

2.労災保険
社員が通勤中や業務上の事情で病気やけがをしたとき(労働災害に遭ったとき)のための保険です。治療などを原則無料で受けられたり、病気やけがで働けない場合や障害が残った場合、死亡した場合などに給付金が支給されたりします。保険料は、全額会社が負担します。

2 社会保険・労働保険の適用を受ける会社

図表1の要件を満たす会社は、必ず社会保険・労働保険の適用を受けます。強制適用なので、要件を満たすようになった場合は所定の手続きを行い、保険に加入しなければなりません。なお、加入は事業所単位なので、支店や営業所がある場合はそれぞれで手続きをします。

社会保険・労働保険の適用を受ける会社の画像です

1)社会保険の適用を受ける会社

法人の事業所(株式会社など。経営者のみの場合を含む)、常時5人以上の社員を使用する個人の事業所(農林漁業、一部のサービス業などを除く)は、社会保険に加入しなければなりません。
適用事業所となる要件を満たすようになった場合、その日から5日以内に、「新規適用届」を所轄の日本年金機構年金事務所(または事務センター)に提出します。
ちなみに、本来社会保険の適用を受けない事業所でも、社員の半数以上が適用を受けることに同意すれば、社会保険に加入できます。この場合は、上記の同意を得てから速やかに「任意適用申請書」を年金事務所(または事務センター)に提出します。

2)労働保険の適用を受ける会社

1人でも社員を使用する場合は、事業主が法人か個人かを問わず労働保険に加入しなければなりません。ただし、農林水産業、畜産業、養蚕業については一部適用が任意とされている場合があります。なお、労災保険の加入手続きを怠っていた場合でも社員は労災保険の給付を受けることができますが、その場合は、労災保険の給付にかかる費用の一部または全部を会社が負担しなければなりません。
適用事業所の要件を満たすようになった場合、その日から10日以内に「保険関係成立届(特殊用紙のため、労働基準監督署から直接用紙をもらう)」を所轄の労働基準監督署に、「雇用保険適用事業所設置届」を所轄のハローワークに提出します。なお、多くの事業の場合、雇用保険と労災保険を1つの労働保険として取り扱いますが(一元適用事業)、農林水産業、建設業などは両者を別々に取り扱う関係で(二元適用事業)、保険関係成立届を労働基準監督署とハローワークの両方に提出する必要があります。
ちなみに、本来労働保険の適用を受けない事業所でも、任意加入の手続きをすることで適用を受けることができます(ただし、雇用保険は社員の半数以上の同意が必要です)。また、社員の半数以上(労災保険については過半数以上)が加入を希望した場合は、事業主は加入手続きをしなければなりません。手続きは、社員の希望があったときもしくは同意が得られてから速やかに行います。提出する書類と提出先は通常の場合と同じです。

3 社会保険・労働保険の適用を受ける社員

図表2の要件を満たす社員には、必ず社会保険・労働保険が適用されます(第2章の会社側の加入手続きが完了していることが前提)。強制適用なので、要件を満たすようになった場合は所定の手続きを行い、保険に加入しなければなりません。

社会保険・労働保険の適用を受ける社員の画像です

1)社会保険の適用を受ける社員

正社員、週の所定労働時間と月の所定労働日数が、正社員の4分の3以上のパート等は必ず社会保険に加入しなければなりません。これらに該当しないパート等も

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 月の賃金が8万8000円以上
  • 雇用見込みが2カ月超
  • 学生でない
  • 会社の厚生年金保険の被保険者数が100人超(2024年10月からは50人超)

という要件を全て満たす場合、社会保険への加入が義務付けられます(なお、正社員もパート等も、介護保険の適用を受けるのは40歳からです)。未加入の場合、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられることがあります。また、過去に遡って保険料を納付する必要がある他、延滞金を徴収されることがあります。
被保険者となる要件を満たすようになった場合、その日から5日以内に、「被保険者資格取得届」を所轄の日本年金機構年金事務所(または事務センター)に提出します。社員に被扶養者(社員によって生計を維持されている、配偶者や子などの家族)がいる場合、「被扶養者(異動)届」も併せて提出します。
ちなみに、経営者や役員も、法人に使用されて報酬を受ける場合は、原則として社会保険に加入しなければなりません。手続きは社員の場合と同じです。ただし、経営に参画する頻度が少ない非常勤の役員などは加入の対象とならないケースもあるので、このあたりは所轄の年金事務所に事前に相談することをお奨めします。

2)労働保険の適用を受ける社員

週の所定労働時間が20時間以上で雇用見込みが31日以上ある社員は、雇用保険に加入しなければなりません。未加入の場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられることがあります。また、過去に遡って保険料を納付する必要がある他、追徴金・延滞金を徴収されることがあります。労災保険については、第2章の会社側の加入手続きが完了していれば、全社員(経営者などを除く)が自動的に保険の適用を受けられるようになります。
雇用保険の被保険者となる要件を満たすようになった場合、その日の翌月10日までに「被保険者資格取得届」を所轄のハローワークに提出します。労災保険については、被保険者という概念がないため、特に手続きはありません。
経営者や役員は、原則として雇用保険に加入できません。ただし、経営業務以外の業務にも携わり賃金が支払われる「兼務役員」については、「兼務役員雇用実態証明書(リンクは東京ハローワークのもの)」を所轄のハローワークに提出して認定を受ければ加入できます。また、労災保険についても中小事業主等に該当する経営者などは、所轄の都道府県労働局長の承認を受ければ「特別加入」が可能ですし、兼務役員も経営業務以外の業務中に発生した労働災害について、労災保険が適用されます。

4 補足:保険料に関する1年間の実務の例

前述した通り、社会保険・労働保険に加入すると、会社と社員(労災保険は会社のみ)は、一定の保険料を負担する必要があります。最後に保険料に関する1年間の実務の例を簡単にまとめましたので、確認してみてください。

保険料に関する1年間の実務の例の画像です

1)社会保険料について

社会保険料は、毎月、会社と社員が半分ずつ負担します。社員負担分については会社が賃金から天引きし、日本年金機構から毎月20日頃に届く「保険料納入告知書」に基づき、会社負担分と併せて発生月の翌月末に納付します。
社会保険料は、社員が社会保険に加入した(被保険者資格取得届を提出した)際、その時点の賃金額に基づく「標準報酬月額」に保険料率をかけて算出します。これを「資格取得時決定」といいます。
しかし、賃金は通常、勤続とともに上がっていくので、以降は一定の周期ごとに標準報酬月額と社会保険料の見直しが行われます。具体的には、会社が毎年7月10日までに、その年の4月から6月に支払った賃金額などを記載した「算定基礎届」を所轄の日本年金機構年金事務所(または事務センター)に提出します。届出内容をもとに、その年の9月から翌年8月までの社会保険料が決定されます。これを「定時決定」といいます。
また、会社によっては毎月の賃金とは別に、賞与を支給することがあります。賞与が社員の労働の対償として支払われる性質のもので、支給回数が年3回以下の場合、支給額に基づく「標準賞与額」に保険料率をかけた賞与保険料を納付する必要があります。具体的には、賞与の支給日から5日以内に賞与額などを記載した「被保険者賞与支払届」を所轄の日本年金機構年金事務所(または事務センター)に提出します。

2)労働保険料について

労働保険料は、雇用保険料については会社と社員が、労災保険料については会社が負担します(雇用保険料の社員負担分は、毎月の賃金から天引き)。一般的な事業の場合、毎年4月1日から翌年3月31日までに対象となる被保険者に支払った賃金総額に保険料率を乗じて労働保険料を算出します。
労働保険料は、毎年6月1日から7月10日までの間に、賃金総額の見込み額に基づく「概算保険料」を算出して申告・納付し、翌年の同じ時期に実際の支給額に基づく「確定保険料」を申告して、概算保険料との差額分を精算します。これを「年度更新」といいます。
労働保険料は、7月10日までに一括で納付するのが基本ですが、次の場合は3回までの分割納付が認められます。

  • 概算保険料が40万円(雇用保険か労災保険のどちらか一方の保険関係のみ成立している場合は20万円)以上の場合
  • 労働保険事務組合に労働保険事務を委託している場合

以上
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2023年6月30日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ペットランドリーのニーズはどのくらい? 市場動向や収支モデルを紹介

ペットランドリー(ペットケアランドリーとも)とは、ペット用品(ペットの洋服やタオルなど)を洗濯できるコインランドリーのことです。
コインランドリーは、主に単身世帯や「共働きで帰りが遅く、洗濯の時間が取れない」「家事の時短を図りたい」ファミリー層や共働きの世帯が多く利用しますが、一般的なコインランドリーではペット用品を洗うことが禁止されています。そのため、単身世帯などでペットを飼っている人たちは、「ペット用品を洗濯できるコインランドリーを利用したい」と考えています。
そのニーズに応えるのがペットランドリーです。近年は、ペット関連市場が拡大傾向にあることに加え、ペットの通院、手術、葬儀、ホテルなど多様なサービスも展開されており、ペットと暮らす上で便利な関連サービスの需要が増えています。
この記事では、ペットランドリー事業の展望を見据えるに当たって、市場動向、必要な設備と収支モデル、開業の留意点・ポイントを紹介します。

1 市場動向

1)ペット関連市場は拡大傾向

ペット・ペット用品の販売額は、2018年(2507億8900万円)から2022年(2789億9200万円)にかけて11.2%増加しています(経済産業省「商業動態統計」)。

ペット・ペット用品販売額の推移の画像です

家計におけるペット用品への支出(2人以上の世帯)も、2018年(4697円)から2022年(6362円)にかけて35.4%増加しています(総務省「家計調査」)。

ペット・ペット用品への支出推移の画像です

経済産業省「ペット産業の動向-コロナ禍でも堅調なペット関連産業-」によると、コロナ禍においても市場が拡大した理由として、

  • テレワークにより在宅時間が増えたことでペットと接する時間が増えた
  • 生活や仕事の環境が激しく変化する中で、癒しを求めペットを飼い始める人が増えた

などが考えられます。

2)ペットランドリーの見込み顧客率

次に、ペット用品専用コインランドリー(以下「ペットランドリー」)の見込み顧客率を見てみます。日本情報マートが全国15歳以上の男女2204人に対して行ったインターネットアンケートの結果、専用の衣類やタオル、ベッド、マットなどが必要になる犬、ネコ、うさぎのいずれかを飼っているという回答は28.1%(有効回答2556件(複数回答)のうち717件)となりました。
全世帯のうち28.1%が犬、ネコ、うさぎを飼っていると仮定します。

家でどんなペットを飼っていますか?の画像です

さらに犬、ネコ、うさぎを飼っていると回答した人に対し、ペットランドリーの利用について尋ねたところ、「利用したい」が53.9%、「すでに利用している」が4.5%となりました(有効回答514件)。つまり、

利用したい人に対して、ペットランドリーの数が足りない、またはペットランドリーを認知している人が少ない可能性

があります。

アンケートの画像です

以上の結果をふまえて見込み顧客率を考えると、

ペット(犬・ネコ・うさぎ)飼育率28.1%×ペットランドリー需要率(53.9%+4.5%)=16.4%

となります。あくまで概算ですが、全世帯のうち16.4%、6世帯中1世帯を見込み顧客率として仮定することができます。

3)ペットランドリーの利用頻度

ペットランドリーを「利用したい」「すでに利用している」と回答した人に対し、希望する利用頻度(すでに利用している人は実際の利用頻度)を尋ねたところ、「週に1回程度」が27.0%で最も多く、次いで「2週に1回程度」20.3%、「月に1回程度」18.3%、「週に2回以上」17.3%となりました(有効回答300件)。
82.9%の人が、少なくとも月に1回以上利用したいと考えているようです。

利用頻度の画像です

2 必要な設備と収支モデル

1)必要な設備

ペットランドリーの開業に当たっては、ペットの毛や固形物(皮脂汚れなどの固まり)をスムーズに排水し、抜け毛や毛詰まりをキャッチするペット用品専用の洗濯機や乾燥機を設置するのが一般的です。
ランドリー機器大手のエレクトロラックスでは、ペット用品専用洗濯機(1回の処理量が5.5キログラムの小型タイプ、11キログラムの大型タイプ)や、ペット用品専用乾燥機(1回の処理量が6キログラムの小型タイプ、16キログラムの大型タイプ)を販売しています。なお、設置費用は機器によって異なります。
また、ペットが舐めても安全な無添加仕様のペット用品専用洗剤や、ペットが舐めても安全なダニよけ成分を配合したペット用品専用抗菌・防虫加工剤が必要になります。

2)収支モデル

設置台数や集客数によって収支は大幅に変わりますが、コインランドリーの企画などを行っているウイングル(福岡県福岡市)のウェブサイトでは、次の通り、ペットランドリーの収支モデルを紹介しています(金額は税込み)。なお、「1.ペットランドリー機器」の内容は、同社へのヒアリングに基づき記載しています。

1.ペットランドリー機器

  • エレクトロラックス製の専用洗濯機(小型タイプ)2台
  • 専用乾燥機(小型タイプ)2台

2.コスト(一次工事、給排水、電気に係る費用を除く)

  • 導入コスト:総額550万円、1カ月当たり6万9255円(7年リース、金利1.6%)
  • ランニングコスト:1カ月当たりの売上の30%

3.客単価(なお、ペットランドリー機器は24時間稼働とする)

  • 洗濯1回500円+乾燥1回300円(100円20分)=800円

1日当たり7人の集客を想定する場合、1カ月当たりの売上・コスト・利益は次の通りです。

  • 1カ月当たりの売上:800円×7人×30日=16万8000円
  • 1カ月当たりのコスト:6万9255円+5万400円(16万8000円×30%)=11万9655円
  • 1カ月当たりの利益:16万8000円-11万9655円=4万8345円

また、1日当たり12人の集客を想定する場合は次の通りです。

  • 1カ月当たりの売上:800円×12人×30日=28万8000円
  • 1カ月当たりのコスト:6万9255円+8万6400円(28万8000円×30%)=15万5655円
  • 1カ月当たりの利益:28万8000円-15万5655円=13万2345円

なお、ランドリー機器の仕様などについては、ウイングルのウェブサイトをご確認ください。

■ウイングル■
https://www.wingle-coinlaundry-mine.com/

3 開業の留意点・ポイント

1)ニオイや汚れ対策

開業するに当たって重要なのが、ペット用品を洗う際に発生するニオイ対策です。屋内ではニオイがこもりやすく、

  • 大型の換気扇を設置する
  • 洗濯機・乾燥機を屋外に設置する

などの配慮が必要です。特に、一般的なコインランドリーの中にペット専用機器を備え付ける店舗の場合、ニオイの問題から他の利用客からクレームが出る恐れがあります。
また、ペットランドリーでは、ペット専用のシャワーやバスタブ、スタンドドライヤーなどが用意されたセルフトリミング設備を設置するケースがあります。利用客にとっては便利ですが、毛が散らばるなどして汚れることがあるため、無人のペットランドリーなどは注意が必要です。こちらも他の利用客からのクレームにつながる可能性を考えると、セルフトリミング設備を設置する際、数時間おきに見回るなどこまめな有人管理が必要になりそうです。

2)付近のペット関連施設との協力

ペットランドリーも通常のコインランドリーと同様、「郊外であれば主要な幹線道路沿いで駐車場がある場所がよい」「半径500メートル以内の世帯数が多い都市部であれば、駐車場がなくても郊外より集客性が高い」といった特徴があるようです。
一方、通常のコインランドリーとの大きな違いは、

近所のトリマーや獣医、ペットホテルなどのペット関連施設と連携することができる

という点です。例えば、次のような取り組みが挙げられます。

  • 近所のトリマーなどにペットランドリーのチラシを置いてもらう
  • 粗品を渡して、利用客にペットランドリーをおすすめしてもらう
  • 100円玉を大量にトリマーに持っていき、初回のペットランドリー利用客には100円玉を渡してもらう

ペットランドリーは認知度が低いため、オープン前後の広告宣伝が重要になります。そのため、上記のようなことができれば、広告宣伝費を抑えつつ、見込み顧客へピンポイントに周知することが可能です。実際、こうした効果を見込んで、トリマーの隣や階下、トリマーの施設内にペットランドリーが併設されるケースがあります。

3)空中店舗の揺れ・騒音(ビルの2階以上に出店する場合)

コインランドリーは路面店が一般的ですが、ビルの2階以上に出店する空中店舗の場合、最も留意すべき点は、建屋の揺れ・騒音の問題です。ペット専用洗濯機の脱水の力は大きく、木造建築などの場合は建屋が揺れる可能性があります。
実際、全国的にも空中店舗のペットランドリー、もしくはコインランドリーの事例はほとんどないようです。前述したウイングルによると、1件だけ空中店舗型のコインランドリーを取り扱ったことがあるものの、最初から2階に設置することを想定した鉄筋コンクリート造の建物だったそうです。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2023年6月30日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

「室温は18度以上28度以下」など、御社のオフィス環境が法定基準を満たしているかを確認!

書いてあること

  • 主な読者:リモートワークをやめ、オフィス勤務を復活させている経営者など
  • 課題:法改正の関係で、オフィス環境が法定基準を満たさなくなっている恐れがある
  • 解決策:特に2022年に法改正のあった「照明」「トイレ」「洗面設備等」「休養室・休養所」「休憩設備」「救急用具」「室温」「作業環境測定」のルールを確認する

1 リモートワークをやめた会社は2022年の法改正に注意!

コロナ禍で広まったリモートワークですが、最近はオフィス回帰の動きが広まっています。その場合に注意が必要なのは、労働安全衛生法とその関係法令で定められている「オフィス環境の衛生基準(以下「法定基準」)」です。

会社は「照明の明るさ」「トイレの数」などについて、法定基準を守らなければならないのですが、図表1の通り、2022年(4月と12月)にルール変更があった関係で、知らないうちに法令に違反している可能性があるのです(違反は努力義務の場合を除き、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金)。

画像1

以降で、図表1のそれぞれの項目について法令上のルールを紹介するので、今のオフィス環境に不安がある場合は確認してみてください。

2 照明

照明は、社員の作業内容に応じた「照度(照明の明るさ)」が法定基準を満たすようにしなければなりません(義務)。照度は、光の量を表す「ルクス」という単位で表され、照度計で測定できます。作業場所はルクスが高いほど明るく、低いほど暗くなります。

2022年12月1日からは、社員の作業内容と、作業内容ごとに満たすべき照度の基準が次のように変更されています。

画像2

パソコン操作・計算などの「精密な作業」と電話応対などの「普通の作業」が「一般的な事務作業」に統合され、資料の袋詰めなど文字を読む必要のない「粗な作業」が「付随的な作業」に名称変更されました。作業に必要な照度も引き上げられているので注意が必要です。

オフィスの照明・採光は、図表2の基準の照度を満たした上で、「明暗の対照が著しくなく、かつ、まぶしさを感じさせない方法」とされています。

  • まぶしいと感じる場合は、照明を明るさの調節ができるものに変える、カバーのついた照明に変える、
  • 暗すぎる場合は、テーブルライトを設置する

などの対策が必要です。また、オフィス全体の照度は基準通りでも、パーテーションで作業スペースが暗くなるといったケースでは、基準を満たさなくなる恐れがあるので注意しましょう。

3 トイレ

トイレは、社員の性別や人数に応じて、次のように設置しなければなりません(義務)。

  • 男性用トイレ(大):男性社員60人までにつき1個以上
  • 男性用トイレ(小):男性社員30人までにつき1個以上
  • 女性用トイレ:女性社員20人までにつき1個以上

また、2022年4月1日からは、「独立設置型のトイレ」に関するルールが新設されました。

独立設置型のトイレとは、プライバシーが保護され、社員が性別などに関係なく利用できる、完全個室のトイレのこと

で、具体的には次の基準を満たすものをいいます。

画像3

独立設置型のトイレを設置すると、そのトイレ1個につき、会社の男性社員と女性社員を、実際の人数よりも10人ずつ減らしてカウントすることができます。例えば、男性社員が70人いる場合、独立設置型のトイレを1個設置することで、男性社員は60人(70人−10人)としてカウントされ、会社が設置しなければならない男性用トイレの数が次のように変わります。

  • 通常:男性用トイレ(大)2個以上、男性用トイレ(小)3個以上
  • 独立設置型のトイレを設置:男性用トイレ(大)1個以上、男性用トイレ(小)2個以上

ただ、このルールは、会社が建物の都合上、トイレを男女別に設置できないケースなどに対応するためのものなので、法定基準を満たすからといって、今ある男性用・女性用トイレの数を減らしてスペースを節約するといったことはできません。

また、独立設置型のトイレを設置する場合、トイレは男女共用になり、重い持病や障害がある社員も使うことが想定されますから、次のような事項についても検討する必要があります。

  • 手洗い設備(トイレ内に設けるのが基本)
  • 消臭や清潔を保つマナー
  • サニタリーボックスの管理方法
  • 盗撮や侵入などの犯罪を防ぐ方法(非常用ブザーの設置など)
  • 体調が悪くなったときの措置(マスターキーを使って外部からの解錠を可能にするなど)

4 洗面設備等

会社は社員数に関係なく、社員が顔を洗える洗面設備を設置しなければなりません。加えて、業務上、社員の服が汚れたり、濡れたりすることがある場合は、更衣室やシャワー設備、乾燥機などを設置しなければなりません(義務)。

また、2022年4月1日からは、社員が更衣室やシャワー設備を、性別に関係なく安全に使えるよう、プライバシーに配慮することが会社に求められるようになりました。プライバシー保護の基本的な考え方は、前述した独立設置型のトイレと同じです。

5 休養室・休養所

休養室・休養所とは、体調が悪い社員や生理中の女性社員が横になって休むことのできる場所のことです。部屋の場合は「休養室」、施設の場合は「休養所」といいます。会社は、

社員が50人以上または女性社員が30人以上いる場合、休養室・休養所を「男女別」に設置

しなければなりません(義務)。

また、2022年4月1日からは、オフィスの空いているスペースを臨時の休養室として使う場合などに、社員がすぐに利用できる体制を整えることが求められるようになりました。例えば、

社員が体調不良を訴えたら、すぐに折りたたみ式のベッドを出せるようにする

といった具合です。また、社員が安心して休めるよう、プライバシーと安全に配慮することが求められるようになりました。例えば、

  • 入口や通路から直視されないように目隠しを設ける
  • 関係者以外の出入りを制限する
  • 緊急時に安全に対応できるよう、救急用具を揃えておく

といった具合です。

6 休憩設備

休憩設備とは、社員が食事をしたり、休憩したりするための場所です(設置は努力義務)。設置に関する具体的な基準は特にありません。

ただし、2022年4月1日から「休憩スペースの広さや設備内容については、衛生委員会などで調査審議・検討するのが望ましい」旨が示されたので、衛生委員会がある社員数50人以上の会社などは認識しておいたほうがよいでしょう。例えば、「同じタイミングで休憩する社員が多い場合、今の休憩設備は窮屈でないか」などについて確認してみましょう。

7 救急用具

会社は、負傷した社員の応急手当に必要な救急用具を備えて、清潔に保たなければなりません(義務)。救急用具の品目については、以前は最低でも

  1. 包帯・ピンセット・消毒薬
  2. 火傷薬(業務上、火傷の恐れがある場合)
  3. 止血帯、副木、担架等(業務上、重傷者が出る恐れがある場合)

の3つを用意することが義務付けられていたのですが、2022年4月1日からは具体的な品目が削除され、各社が想定される事故などに応じて必要な品目を準備することになりました。

ホワイトカラーの会社でも、はさみやカッターによるけが、階段での転倒などが起こり得るので、救急用具は必需品です。一概には言えませんが、包帯・ピンセット・消毒薬などの他、感染予防のためのマスク・ビニール手袋・手指洗浄薬などを用意しておく必要があるでしょう。

また、救急用具の保管場所や使用方法、応急手当後の対応ルール(医療機関への搬送など)については、あらかじめ社内で共有しておきましょう。

8 室温

会社には、空調設備(エアコンや加湿器など)がある部屋の室温を、法令で定める基準に設定することが求められています(努力義務)。

2022年4月1日からは、室温に関する努力目標値が次のように変更されています。

  • 法改正前:17度以上28度以下
  • 法改正後:18度以上28度以下

9 作業環境測定

オフィスに中央管理方式の空調設備がある会社は、原則2カ月以内に1回、次の項目に関する作業環境測定をし、その記録を3年間保存しなければなりません(義務)。

  • 一酸化炭素・二酸化炭素の含有率(原則、検知管方式の測定器で測定)
  • 室温・外気温(0.5度目盛の温度計で測定)
  • 相対湿度(0.5度目盛の乾湿球の湿度計で測定)

このうち、一酸化炭素・二酸化炭素の含有率の測定については、検知管方式と同等以上の性能がある場合、他の測定器の使用も認められています。2022年4月1日からは、具体的な測定器の例として次の2つが示されています。

  • 一酸化炭素の場合:定電位電解法を用いる測定器
  • 二酸化炭素の場合:非分散型赤外線吸収法(NDIR)を用いる測定器

なお、作業環境測定に必要な機器は、各都道府県の産業保健総合支援センターなどで貸し出している場合があります。また、自社で行うのが難しい場合は、「作業環境測定士」に依頼することもできます。

以上(2023年6月更新)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

pj00228
画像:pexels

【オーナー企業の事業承継(8)】資産管理会社を活用した事業承継対策

書いてあること

  • 主な読者:事業承継を検討している中小企業の経営者
  • 課題:後継者の負担を減らす手法を知りたい
  • 解決策:持株会社または不動産管理会社といった資産管理会社を活用した自社株式の移転方法

1 事業承継に伴う間接的な資産の移転

事業承継に伴う自社株式や不動産などの資産の移転は、相続や贈与により後継者に直接移転する方法の他に、いわゆる「資産管理会社(持株会社または不動産管理会社)」を活用して、間接的に後継者に移転する方法もよく使われます。

「資産管理会社(持株会社または不動産管理会社)」を活用して資産の移転をする場合の効果や留意点を認識し、自社に合った対策案として検討してみてください。

2 持株会社を活用した事業承継対策

1)持株会社とは

持株会社とは、

他の株式会社を支配する目的を持って、その被支配会社の株式を保有する会社

をいいます。なお、支配を本業とする持株会社を「純粋持株会社」といい、別途、本業を持ちながら他の会社を支配する持株会社を「事業持株会社」といいます。

2)持株会社活用の流れ

持株会社活用の流れは次の通りです。

  1. 後継者の出資により持株会社を設立する
  2. 持株会社が金融機関などから資金調達する
  3. 株式を持株会社に譲渡する

画像1

なお、持株会社移行後の全体像は次の通りです。

画像2

3)持株会社へ移行する際のポイント

1.自社株式の買取価額

持株会社が自社株式を買い取る価額は「時価」となります。利益が相反する純然たる第三者との間の取引では、お互いの合意価額が「時価」になりますが、同族関係者間の取引の場合には、自分たちに都合の良い取引価額を決められる可能性があるため、原則として純資産価額を基に「時価」を算出します。なお、純資産価額の計算式は次の通りです。

純資産価額=会社の資産(時価評価額)-負債(時価評価額)

2.オーナーは確定申告が必要

非上場会社の株式を譲渡したオーナーは、「株式譲渡益」に対して譲渡所得税等(20.315%)を負担する必要があるため、譲渡した年の翌年3月15日までに確定申告をする必要があります。なお、株式譲渡益の計算式は次の通りです。

株式譲渡益=譲渡代金-取得費用(出資金額など)

4)持株会社活用のメリット

1.非上場株式が現金化できる

オーナーにとっては売却が難しく、換金性の乏しい自社株式を現金化することができます。併せて換金した現金を活用して、将来の相続税の納税資金に充てることで、納税問題も解決することもできるため、自社株式の時価評価額が高い場合や、社長の保有する財産の中での自社株式の占める比率が高い場合には効果があります。

2.いわゆる「争続」問題を回避できる

後継者がオーナーの子どもなどの相続人である場合、相続を待つことなく、事前にオーナーの意向に沿ったかたちで、後継者に法的な経営権を譲ることができます。

後継者にとっては、将来的な自社株式に関わる相続税の負担や遺産分割問題の心配がなくなり、経営に専念することができます。もし、後継者が自社株式を相続で引き継ぐことを前提に経営を引き継いだ場合には、「相続税負担を抑えたい」という思いと、「業績の向上による自社株の時価評価額の上昇(相続税負担の増加)」という矛盾を抱えて経営することになりかねませんが、こうした問題も解決できます。

また、オーナーの相続財産から自社株式を分離することで、結果的に相続人間の争い(争続)を回避することもできるため、収益力が高く、今後も自社株式の評価額が上昇していく見込みのある法人や、オーナーの相続人が複数存在する法人には効果的です。

3.後継者の保有株式の評価額の上昇を抑制できる

持株会社の純資産価額は計算上、保有資産の時価が取得時の価額(帳簿価額)を上回る場合、いわゆる「含み益」のある保有資産の評価は、法人税相当額37%を控除することが認められています。

含み益のある保有資産の計算式およびイメージは次の通りです。

画像3

従って、社長と後継者間で直接自社株式を売買して後継者が直接保有する場合に比べて、資産管理会社を通じて自社株を保有するほうが、その純資産価額の評価は低くなり、後継者が将来的に直面する自身の相続財産の評価額の上昇を抑制することができます。そのため、収益力が高く、今後も自社株式の時価評価額が上昇していく見込みの法人には効果があります。

ここで、事例を使って自社株式を個人保有した場合と持株会社を活用した場合の自社株式の評価額を比較してみます。個人保有した場合と持株会社を活用した場合の比較例および比較表は次の通りです。

画像4

画像5

5)持株会社へ移行する際の留意点

1.持株会社設立、運営のコスト

持株会社を新会社として設立する場合は、登録免許税などの登記費用が必要となります。また、毎期、法人税等の確定申告が必要となるなどの管理コストに加えて、所得が発生する場合は、法人税等の納税に係る負担が発生します。仮に所得が発生しない場合でも、資本金等の額に応じた法人住民税均等割額の負担が発生します。

2.資金調達、返済の検討

持株会社は、自社株式を購入するための資金を準備する必要があります。また、銀行などの金融機関から資金を調達する場合は、その返済方法(返済資源)を検討しなければなりません。

事業会社の配当金を返済資源にする場合は、「受取配当等の益金不算入」規定などの適用を受け持株会社の法人税負担を抑制したり、あるいは持株会社に収益不動産を保有させたりして収益力を確保する必要があります。

3.自社株式の譲渡に関わる税負担

前述のように、自社株式を譲渡したオーナーは、譲渡代金から取得費用を差し引いて譲渡益が生じた場合は、その譲渡益に対して譲渡所得税等(20.315%)を申告、納税する必要があります。

また、時価以外での譲渡が行われた場合は、譲渡価額と時価との差額について、追加的な税負担が発生するケースもあるので注意が必要です。

3 不動産管理会社を活用した事業承継対策

1)不動産管理会社とは

不動産管理会社とは、

オーナーが所有している賃貸不動産などを購入し、その賃貸不動産などの管理や保有を主な事業とする会社

をいいます。

オーナー自身で経営する事業会社に事業用の不動産を貸し付けている場合は、承継後の経営をスムーズに行えるようにするため、原則、その事業会社が使用している資産を自社株式と同様に、後継者に承継する必要があります。

2)不動産管理会社活用の流れ

不動産管理会社活用の流れは次の通りです。

  1. 後継者の出資により不動産管理会社を設立する
  2. 不動産管理会社が金融機関などから資金調達する
  3. 賃貸用不動産を不動産管理会社に売却する

画像6

なお、不動産管理会社への売却後の全体像は次の通りです。

画像7

3)不動産管理会社へ売却する際のポイント

1.不動産の売買価額

オーナーが賃貸用不動産を売却する価額は「時価」となります。この場合の時価には実務上、市場の実勢を反映した専門家による評価額として、「不動産鑑定士による鑑定評価額」を利用するケースが多くあります。

2.オーナーは確定申告が必要

賃貸用不動産を譲渡したオーナーは、「譲渡益」に対して譲渡所得税等を負担する必要がありますので、譲渡した年の翌年3月15日までに確定申告をする必要があります。

3.含み損のある不動産の売却

不動産の取得時の価額よりも時価の低い(含み損のある)不動産を売却した場合は、不動産売却損が計上されます。そのため不動産売却損が計上された年に、別の不動産の売却による不動産売却益がある場合は、売却損を売却益から控除することができます。

4)不動産管理会社活用のメリット

1.不動産を現金化することができる

オーナーは換金の難しい不動産を現金化することができます。また、相続人が相続するのは換金された現金(預金)となるため、遺産分割も容易で、相続人は相続した現金(預金)の一部を相続税の納税資金に充当することができます。

2.いわゆる「争続」問題を回避できる

相続資産の中で比較的ウエートの高い不動産を、オーナーの生前に、その意向に沿うかたちで承継させることができるため、複数の賃貸不動産を保有している場合は、物件ごとに承継者を決めるなどの対策で「争続」問題を回避することが可能です。

また、賃貸不動産売却後の賃貸料収入は不動産管理会社の収入となるため、収益の分散効果で、特に収益性の高い物件の売却によりオーナーの相続財産の抑制を図ることができます。

3.将来の相続登記の必要がなくなる

個人所有の不動産については、相続のたびに名義変更の登記が必要となりますが、法人所有にすることにより、登記に係る負担が不要になります。

5)不動産管理会社へ売却する際の留意点

1.不動産管理会社設立、運営のコスト

不動産管理会社を新会社として設立する場合は、持株会社のときと同様、登記費用の負担や、毎期の確定申告などの管理コスト、法人税等の負担が発生します。

2.資金調達、返済の検討

不動産管理会社で賃貸用不動産を購入するための資金を準備する必要があります。検討に当たっては、賃料収入から固定資産税などのランニングコストや大規模修繕のための積立金などを差し引いたフリーキャッシュフローについて、事前にシミュレーションを実施し、無理のない返済計画を策定することがポイントになります。また、空室の多い物件については、併せて空室率の改善計画なども立てる必要があります。

3.譲渡に伴う税負担の発生

不動産を購入した不動産管理会社は不動産の所有権移転に伴い、登録免許税(固定資産課税台帳の価格×原則2%)・不動産取得税(同×原則4%:特例による軽減あり)を負担する必要があります。

また、不動産を譲渡したオーナーは土地・建物の譲渡に係る譲渡所得税等を負担する必要があります。特に一族で代々所有してきた不動産については、取得費の不明なものもあり、長期譲渡所得といえども相当の負担となる場合がありますので、注意が必要です。

4.相続予定財産の一時的増大

時価による不動産譲渡の取引価格は、一般的にその不動産の相続税評価額より高額となるケースが多いため、譲渡代金を得たオーナーの相続予定財産は一時的に増大します。

画像8

ただし、前述の通り、賃貸不動産の家賃収入は譲渡によりオーナーから不動産管理会社に移転するため、個人所得が減少し、中長期的には不動産管理会社を活用しない場合に比べて、相続予定財産の抑制につながります。

例えば、賃貸による家賃収入が年間1000万円あった場合には、10年後の相続予定財産はおおよそ家賃収入分(1億円)増加します。しかし、不動産管理会社を活用し、家賃収入を不動産管理会社に移転した場合には、その家賃収入分、オーナーの相続予定財産を抑制することができます。

5.建物のみを譲渡した場合の借地権相当額の取り扱い

コスト圧縮のため建物のみを不動産管理会社に譲渡するケースもありますが、この場合、通常では当該土地に借地権設定がなされるため、借地権相当額の収受がオーナーと不動産管理会社間で行われないときは、不動産管理会社に対して借地権相当分の受贈益が発生し、法人税等が課税されるケースがあります。

このため、実務上は不動産管理会社からオーナーに対して相当の地代を支払うか、税務署に無償返還の届け出をすることによって、受贈益課税を回避することが一般的です。

4 (参考)土地・建物の譲渡に係る譲渡所得税

土地や建物の譲渡所得に対する税金(譲渡所得税)は、他の所得と区分して計算し、適用される税率は、譲渡した土地や建物の所有期間が、譲渡した年の1月1日現在で5年を超えるかどうかによって異なります。

譲渡所得税額の計算式は、次のようになります。

画像9

以上(2023年6月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

pj30049
画像:soo hee kim-shutterstock

“経営的視点”を身に付けて、会社も人も成長しよう/武田斉紀の『誰もが身に付けておきたい“経営的視点”(12)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:経営幹部や管理職の方はもちろん、若手社員の方でも「経営的視点で見るように」と社長や上司から求められた経験がないでしょうか。その場でうなずきはするものの、「経営的視点とは何か?」「それは社長以外の社員に必要なのか?」「会社員として働く上で、人生において価値があるのか?」「そもそもどのように身に付けていけばいいのか?」といった疑問をお持ちではないでしょうか
  • 解決策:課題で挙げたさまざまな質問に対して、『“経営的視点”の身に付け方』というテーマで、全国で多くの講演を行っている筆者が明快に回答します。“経営的視点”はこれからの時代において新入社員から求められる視点であって、より早く身に付けられれば、その分、仕事においても人生においてもプラスであると分かるはずです

1 [おさらい]全社員が持てる“経営的視点”の3つの観点

シリーズ『武田斉紀の「誰もが身に付けておきたい“経営的視点”」』も最終回となりました。

これまで“経営的視点”をより早く身に付けられれば、誰にとってもその分、仕事においても人生においてもプラスになるということを前提に、「どうすれば身に付けられるのか」についてお話ししてきました。おさらいしてみましょう。

以下の穴あき部分を思い出してみてください(答えはすぐ後に書いてあります)。

全社員が“経営的視点”を持てるようになるために3つの観点のご提案をしました。
1)会社の【□□】
2)会社の【□□□】
3)会社の【□□□□】 の観点を全員が持つこと。

ポイントをまとめておきます。

1)会社の【成長】

組織はベテランが引退し、新人が入ってきて1年で1歳年を取る。一人ひとりの成長がないと1年後の組織の力はむしろ落ちていて、給料など上げられない。

毎年給料を上げたいのであれば、全員が、自分が1年後にいるべきピラミッドの高い位置から常に物事を見て仕事に取り組み、1年でそれ以上に成長していかなければならない。

2)会社の【組織力】

会社は組織でできている(多くの場合ピラミッド型)がそれには意味がある。1人の人間の力には限界があるが、役割を分けて組織を形成し一体となれれば、人数以上の力を発揮できる。

ピラミッドのタテの関係では上下との連携が重要。役員・部長は社長や課長と、課長は役員・部長や一般社員と、一般社員も課長や自分のメンバーと連携してこそ組織力が発揮できる。そのためにも自分が経験した下の立場と共に、上の立場の視点にも立たなければいけない。

ヨコの関係も自分の部署さえうまく回っていればよしではなく、事業の「目的」に沿って1つ上の視点で俯瞰(ふかん)して、組織の壁にとらわれず役割を「流れ」で捉えることで、タテヨコともに全体最適を目指せる。

3)会社の【存在意義】…社内に共有浸透させる。

(1)社員一人ひとりが実行した存在意義に共感するお客様は利用し続けてくださり、社会にも認められて、会社は永続し、発展していく。

(2)逆に社員の一人でも存在意義を見失った行動を取ってしまうと、お客様や社会から必要とされなくなる。

3)については、第10回ではいかにして企業の【存在意義】を定めて社内で共有浸透していけばいいかについてご紹介しました。第11回では、さらに「継続し、習慣化していく」をテーマに取り上げました。

2 全社員が“経営的視点”を持つことの会社および本人のメリット

これまで「全社員が持てる“経営的視点”の3つの観点」を説明する中で、今より高い“経営的視点”を持つことのA.会社側およびB.働く(本人)側のメリットについても随時触れてきましたが、それぞれをまとめてみましょう。

[A.会社側のメリット]

ア)社員の当事者意識や責任感が高まり、自律的に判断・行動するようになる
イ)その結果、環境や顧客ニーズへの変化対応力や経営のスピード・精度が上がる
ウ)会社の成長なくして給料も上げられない、新たな投資もできないと分かり、全員が数字に敏感になり業績が上がる

[B.働く(本人)側のメリット]

ア)いずれ必要とされるものは早く身に付けたほうがトク
イ)上から怒られなくなる、むしろ褒められる
ウ)自分も会社も成長し、よりよい生活ができるようになる

働く側については、少し補足説明をしておきます。

ア)会社組織で決して上を目指さない人はさておき、多くの人は現状より高いポジションのよい待遇を望むでしょう。それはより経営に近いポジションということです。否が応でも“経営的視点”が求められます。いずれ必要とされるなら、資格などと同様、早く身に付けたほうがおトクです。視点があれば、あとは実力や経験が伴い次第高いポジションに移れます。

イ)今より高い“経営的視点”を持てるということは、上司と同じ視点でものを見られるということです。上司からすればいちいち説明しなくても話が速いし、課題を共有し共に解決できる仲間が増えるというもの。部下に同じ視点を持たれたら地位を脅かされそうで不安だという偏狭な上司以外は、頼もしく思ってくれるはずです。

ウ)上記ア)イ)で触れたように個人が成長できるのはもちろん、会社側のメリットのウ)にあるように社員が“経営的視点”を持つと、結果として業績が上がるため、社員の待遇向上にもつながります。

働く側にとっては、最優先は目の前の役割を全うすることで、それだけでも大変なのに今より高い“経営的視点”を持つことを考える余裕なんてないという声もあるでしょう。

けれどもご紹介してきた3つの観点=会社の【成長】【組織力】【存在意義】を一部でも理解できたなら、1つ上のポジションまで行ってみるまでもなく、少し想像力を働かせるだけでイメージできるようになります。

一般社員の人であれば、「今起こっていることは課長の立場ならどう見えるだろう。新人の立場ならどう見えるだろう」と想像してみる。慣れてくれば「部長の立場なら」「社長の立場なら」と想像力が柔軟に働くようになってきます。

3 あなたの部下が“経営的視点”を持てるようになる“3つの環境づくり”

あなたが管理職で部下を育てる立場にある、あるいは今後そうなった場合に向けて、部下が“経営的視点”を持てるようになる“3つの環境づくり”についてご紹介しましょう。

[部下が“経営的視点”を持てるようになる“3つの環境づくり”]
1)情報公開
2)権限委譲
3)新たなコミュニケーション習慣

1)情報公開

部署の情報をできる限り全て公開することです。年間目標・月間目標と部署全体、チーム単位、個人の現状と達成率など、全ての数字をリアルタイムで見える化します。

費消率(全行程に対してどれくらい時間を消化している状況か)も必要でしょう。

それらの数字を部署で常に共有することで、部署の全員が、何が今の課題で何をしなければいけないかを知ることができます。課題を共有した以上、他人事にはできません。経験の浅い新人であっても自分にできることは何だろうと考えられます。

部署の予算がいくらあるかも分かれば、それで何ができるか。足りないなら他部署や外部から調達するなり、工夫をしなければいけないと分かります。そして全員でアイデアを出して計画を立て、次の行動に移していくのです。

部署内だけでなく、1つ上、課であれば部の情報も必要でしょう。できれば会社全体の情報も全員で共有したいところです。

私が新卒で入った会社では、新入社員はもちろん、アルバイトの人にさえも会社の売上と現状が週次や月次で報告されていました。P/L(損益計算書)の見方も併せて教わり、毎週繰り返すうちに当たり前に使えるようになりました。

これらを毎週、毎月繰り返すことで、課や部や会社の現状を常に数字でつかむことが当たり前の習慣になりました。同時に自分の果たすべき役割が明確にわかり、強い当事者意識も生まれたのです。

2)権限委譲

情報公開によって部下が“経営的視点”で思いついたアイデアを、そのままにしたなら二度と考えなくなるでしょう。せっかく芽生え始めた“経営的視点”が潰れてしまいます。

上司はぜひ「じゃあそれでやってみて」と一度任せてみてください。絶対に失敗できない仕事などごくごく一部ですから。

任せてやらせてみて、プロセスや結果を報告させる。失敗してもまた考えさせてやり直せばいいのです。同じ失敗さえしなければいずれ成功します。そのプロセスで部下は成長し、“経営的視点”もさらに磨かれます。

3)新たなコミュニケーション習慣

ある調査によればここ10年で若い世代が職場や上司に求める要素は、大きく変化しているそうです。

一言でいえば「管理・指導型」から「自律・支援型」へ。ビジネス環境も「競争」から「共創」へ、「経験・改善」から「イノベーション」へと潮流が変わっています。

それらに伴って職場で求められるコミュニケーションのあり方も変える必要がありそうです。キーワードは【傾聴】【褒める】【前向き】なコミュニケーションです。

詳しくは別の機会に譲りますが、メンバーの自律や支援を進めるには相手がどう考えどうしたいかをじっくり聞く必要があります【傾聴】。その上で任せて(権限委譲)、プロセスや結果を共有しながら【褒める】ことでやる気を引き出す。失敗も付き物ですから、最後は【前向き】な言葉で次への背中を押してあげることが上司にとって肝要です。

4 全社員が“経営的視点”を持てれば、AIの時代にも会社と人は成長できる

後で振り返れば2023年という年は、本格的なAI元年と位置付けられることでしょう。生成AIの精度はまだ十分でないという声もありますが、彼らはわれわれが眠ったり遊んだりしている間も24時間365日、超高速で学び続けて進化していきます。

突然一般社会に現れた生成AIとその進化スピードにおののきつつも、片やAIにも限界があることも分かってきています。

1つにはAIは過去や大量の情報から学んで整理し、たくさんの選択肢を提示できますが、その中から何が正しくて何を選択すべきか最終判断できないという点です。最後は人間が決めるしかありません。

先程上司に求められる要素が「管理・指導型」から「自律・支援型」へ変わってきたといいましたが、AIの進化がそれを一気に後押ししそうです。

管理・指導型で一方的に指示命令できる仕事なら、上司は部下ではなく、自らAIに投げたほうが生産性は上がるでしょう。部下も上司も、人間に求められる仕事は、AIが導き出したベースを元に考えたり判断したりする仕事“だけ”に変わるからです。

全社員が“経営的視点”を持って、一人ひとりが会社を代表するつもりで考え、行動できるようになれれば、AIの時代にも会社と人は成長できるといえるのではないでしょうか。

今シリーズに最後までお付き合いいただきありがとうございました。

<ご質問を承ります>
最後まで読んでいただきありがとうございます。ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

以上(2023年6月)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

pj90241
画像:NicoElNino-shutterstock

「社員に伝わるメッセージ」を実現するために経営者が知っておくべき 4原則

書いてあること

  • 主な読者:組織の一体感を高めるために、どのようにメッセージを伝えるべきか悩んでいる経営者
  • 課題:経営者と社員の距離が近くても、経営者の考えが以心伝心であるわけではない
  • 解決策:「直接性の原則」「公開性の原則」「定期性の原則「複合性の原則」の4原則を踏まえつつ、複数のツールでメッセージを伝える

1 変化の時代だからこそ経営者はメッセージを出す!

仕事に対する価値観、働き方の変化はコロナ禍で加速し、組織をまとめることは以前にも増して難しくなりました。経営環境が変われば社員も不安になります。そのようなときに必要なのは経営者のメッセージです。

経営者は「うちは人数が少ないし、特別なことをしなくても、私(経営者)の考えは社員に伝わっている」と思っているかもしれません。しかし、これは勘違いです。他人同士が互いの考えを共有するまでには長い時間と、伝える努力と聞く努力が必要です。

全員が目指すべきゴールを共有した一体感のある組織。これを実現するために、経営者自身が、今何を考え、どのような方向に企業を導こうとしているのかを社員に伝えるのです。そして、このメッセージをより効果的に伝えるためにぜひ知っておきたいのが、次の4原則です。

  • 直接性の原則:社員に直接語りかける
  • 公開性の原則:伝えるべきかどうか迷ったら、原則伝える
  • 定期性の原則:定期的にメッセージを伝える機会を設ける
  • 複合性の原則:多様なツールを組み合わせて伝える

2 効果的にメッセージを伝えるための4原則

1)直接性の原則

メッセージは、経営者が自分の言葉で、直接社員に語りかけます。ここでいう直接には、対面のコミュニケーションだけではなく、チャットや社内報などのツールも含みます。

直接伝えることの重要性は、メッセージが省略されたり、経営者以外の人の独自の解釈が加わったりするのを防ぐためです。「経営者→経営幹部→一般社員」といった伝言ゲームでは、正しくメッセージが伝わらない場合があるので、直接経営者の言葉で語りかけましょう。

2)公開性の原則

メッセージの内容によっては、全ての社員に伝えるべきかどうか迷います。そのような場合は、基本的な内容を伝え、さらに詳しい情報を求めてくる社員には必要に応じて追加情報を伝えるようにしましょう。例えば、経営者と経営幹部が新規事業について話しているのを聞いた社員は、もっと詳しく聞きたいと感じるでしょう。

この点で見れば、中小企業の社員は情報ニーズが高いといえるので、公開できる情報はできるだけ迅速に伝えるのがよいでしょう。

3)定期性の原則

上司が部下に出す日々の細かな指示とは違い、経営者のメッセージは社員の目の前の仕事とは直接関係しないと思われています。そのせいか、重要性は認識されながらも、放っておくと関心が向けられなくなります。

これを防ぐためには、「毎週金曜日の朝礼は全員参加・経営者からメッセージを伝える日」などのように、メッセージを伝える機会を定期的に設けて、メッセージに対する関心を高めます。

4)複合性の原則

メッセージを対面で伝えられたらよいのですが、リモートワークをしている場合、そうした機会は限られています。そこで、さまざまなツールを補完的に活用しながら、適切なタイミングでメッセージを伝えていきましょう。

例えば、経営者のメッセージをチャットやオンラインの常設ルームで、全社員に伝えるといったような方法も有効です。ただ、できれば、「生の音声」(オンラインでもよい)のほうが社員に経営者の思いが伝わりやすいでしょう。

以上(2023年6月更新)

pj10001
画像:pixabay