これからどうなる?「機能性表示食品制度」

書いてあること

  • 主な読者:機能性表示食品制度の動向について知りたい食品関連事業の経営者
  • 課題:機能性表示食品制度の見直しで、今後どのような対応が必要になるのか分からない
  • 解決策:国(消費者庁)の関与する度合いが高まる。政策動向をウォッチする

1 機能性表示食品制度とは?

機能性表示食品制度は、国が定めるルールに基づき、

事業者が、販売しようとする食品の安全性と機能性に関する科学的根拠などを消費者庁長官に届け出れば、国の審査なしで、健康効果(例えば「脂肪の吸収を抑える」「睡眠の質を高める」などといった機能)を表示できる

というものです。機能性表示食品制度が導入されたのは2015年4月。当時の規制緩和による経済成長戦略の一環で、「特定保健用食品(トクホ)」や「栄養機能食品」とは異なる、食品の新しい表示制度として期待され、大手メーカーを中心に普及してきました。

民間調査会社・富士経済によると、機能性表示食品の国内市場は、2024年予測で7350億円(対2022年比27.7%増)と拡大しています。

ところが2024年3月、制度の根幹を揺るがす事案が発覚しました。小林製薬(大阪市)が製造販売していた「紅麹(べにこうじ)」の成分を含むサプリメントを摂取した人の多くから、腎疾患などの健康被害が発生し、関連性は明らかではないものの複数の死亡事例も報告されたのです。

この事案を受け、消費者庁は、すべての機能性表示食品の緊急点検を実施し、また有識者らによる「機能性表示食品を巡る検討会報告書」を公表しました。さらに政府は、「紅麹関連製品への対応に関する関係閣僚会合」を立ち上げ、次のようなポイントを柱とする機能性表示食品制度の見直しの方向性を示しました。

  • 機能性表示食品による健康被害が発生した場合、事業者から行政への速やかな情報提供を義務化
  • 機能性表示を行うサプリメントについて適正製造規範(Good Manufacturing Practice : GMP)に基づく製品管理を要件化

この記事では、食品関連事業の経営者の方に、現行の機能性表示食品制度の問題点と、同制度がこれからどうなるのか、見直しの方向性を整理して紹介します。また、そもそも機能性表示食品が何なのか、特定保健用食品、栄養機能食品と比較してどのような違いがあるのか解説します。

2 機能性表示食品制度の見直しの方向性

1)現行の機能性表示食品制度の問題点

機能性表示食品制度の導入当初から、消費者団体などによって指摘されてきたのが、

消費者庁に届け出がされた機能性表示食品の中には安全性や機能性の科学的根拠が十分でないものがある

ことです。届け出をしようとする事業者が遵守するべき「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」を見てみると、「事業者の責任」に委ねる部分が大きいことが分かります。

例えば、安全性については、届け出ようとする製品または類似するものの食経験、医薬品と機能性関与成分との相互作用という、主に2つの観点からの評価が必要とされますが、評価自体は、届け出を行う事業者の責任です。

事業者には生産・製造における衛生管理、品質管理に関する情報を届け出ることが求められていますが、生産・製造や品質管理の体制構築については義務付けられていません。

事業者は健康被害の情報を収集し行政機関への報告を行う体制を整備することが適当であるとされ、入手した情報が不十分であったとしても速やかに消費者庁および都道府県等(保健所)に報告することとされています。しかし、報告時期は明確でなく事業者側に判断が委ねられています。

機能性の根拠は、最終製品を用いた臨床試験(ヒト試験)の実施、もしくは最終製品または機能性関与成分に関する研究レビューのいずれかによって実証することとされています。このうち研究レビューについては、データベース上の学術論文等の関連研究を網羅的に収集し、肯定的なデータだけではなく否定的なデータも含めて総合的に判断するという条件はあるものの、事業者が自己責任で総合的に機能性の評価を行うこととなっています。

2)「紅麹関連製品への対応に関する関係閣僚会合」が示した見直しの方向性

規制緩和に重きが置かれて「事業者の責任」に依拠した機能性表示食品制度の負の側面が顕著に表れてしまったのが、今般の「紅麹関連製品」による健康被害の事案なのかもしれません。

以降では、政府の「紅麹関連製品への対応に関する関係閣僚会合」が示した、制度見直しの主な方向性を紹介します。

1.健康被害に関する情報提供の義務化

健康維持・増進に役立つ効果を表示し、反復・継続して摂取することが見込まれる機能性表示食品について、

  • 健康被害と疑われる情報(医師が診断したものに限る)を把握した場合、当該食品との因果関係が不明であっても速やかに消費者庁長官および都道府県知事(保健所を設置する市の市長または特別区の区長)に情報提供することを、食品表示法に基づく内閣府令である「食品表示基準」における届出者の遵守事項とする
  • 提供期限については、重篤度等に対応した明確なルールを設ける

とされています。

これらを遵守しない場合、事業者(届出者)は食品表示法に基づく指示・命令を受け、機能性表示を行うことができなくなります。また、情報提供の義務化に違反した場合は、食品衛生法に基づき営業の禁止・停止の行政処分を受けることになります。

2.サプリメントについて適正製造規範(GMP)に基づく製品管理の要件化

機能性表示を行うサプリメントについて、

  • GMPに基づく製造管理を、食品表示法に基づく内閣府令である「食品表示基準」における遵守事項とする
  • 届出者が自主点検をするとともに、必要な体制を整備した上で消費者庁が食品表示法に基づく立入検査等を行う

とされています。

GMPとは、Good Manufacturing Practiceの略で、原料の受け入れから最終製品の出荷に至るまでの全工程において「適正な製造管理と品質管理」を求めるものです。従前も「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」で、「サプリメント形状の加工食品については、GMPに基づく製造工程管理が強く望まれる」とされていたものが義務化されるかたちです。

なお、健康食品については、日本健康・栄養食品協会がGMP適合認定を行っています。同協会は、機能性表示食品の届け出の支援も行っており、相談・問い合わせを受け付けています。

■日本健康・栄養食品協会「適正製造規範 GMP」■

https://www.jhnfa.org/gmp-0.html

3.その他

「紅麹関連製品への対応に関する関係閣僚会合」では、これら以外にも、信頼性の確保のための措置、情報提供のDX化、消費者教育の強化、国と地方の役割分担などの見直しの方向性や、更なる検討課題を示しています。もっと知りたい方は、次のURLから資料をご参照ください。

■内閣官房「紅麹関連製品への対応に関する関係閣僚会合」■

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/benikouji/

3 機能性表示食品、特定保健用食品、栄養機能食品の比較

ここであらためて、機能性表示食品、特定保健用食品、栄養機能食品について整理してみましょう。

1)機能性表示食品、特定保健用食品、栄養機能食品の位置付け

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ヒトが口から摂取するもののうち医薬品・医薬部外品以外のものは食品に該当します。食品のうち、機能性の表示ができないものを一般食品といいます。一方、食品のうち、機能性の表示ができるものを保健機能食品といいます。保健機能食品は、2015年4月より前は「特定保健用食品(トクホ)」と「栄養機能食品」に限られていましたが、規制緩和によって導入されたのが「機能性表示食品」です。

なお、栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品といった表示で販売されている食品は、紛らわしいですが一般食品です。

2)機能性表示食品、特定保健用食品、栄養機能食品で何が違うのか?

機能性表示食品、特定保健用食品、栄養機能食品について、それぞれの概要を押さえておきましょう。

1.機能性表示食品

安全性および機能性に関する一定の科学的根拠に基づき、食品関連事業者の責任において特定の保健の目的が期待できる旨の表示を行うものとして、消費者庁長官に届け出が行われた食品です。販売予定日の60日前までに届け出が必要であるものの、国の審査はなく、あくまでも事業者の責任において機能性を表示します。

消費者庁「機能性表示食品の届出情報検索」によると、販売中の機能性表示食品は3340件となっています(2024年7月17日更新時点)。

2.特定保健用食品

身体の生理学的機能や生物学的活動に影響を与える保健機能成分を含み、特定の保健の目的のために摂取をする者に対し、その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をする食品です。

個別に生理的機能や特定の保健機能を示す有効性や安全性等に関する国の審査を受け、国から個別に許可/承認を受ける必要があります(許可は健康増進法第43条第1項に基づく国内での表示、承認は同法第63条第1項に基づく外国での表示に関するものです)。

消費者庁「特定保健用食品許可(承認)品目一覧」によると、許可を受けた特定保健用食品は1038件、承認を受けた特定保健用食品は1件となっています(2024年7月8日更新時点)。

3.栄養機能食品

身体の健全な成長、発達、健康の維持に必要な栄養成分(ミネラル、ビタミン等)の補給を目的として、栄養成分の機能の表示をする食品です。

国(厚生労働省)が定めた規格基準に適合すれば許可申請や届け出の必要はなく、製造販売することができます。公的な統計情報はありません。

機能性表示食品、特定保健用食品、栄養機能食品の主な相違点をまとめると、次のようになります。

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4 参考

■消費者庁「機能性表示食品について」■

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims

■消費者庁「特定保健用食品について」■

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_for_specified_health_uses

■消費者庁「栄養機能食品について」■

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_nutrient_function_claims

■消費者庁「機能性表示食品を巡る検討会」■

https://www.caa.go.jp/notice/other/caution_001/review_meeting_001

以上(2024年8月作成)

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『ぼくらの七日間戦争』の生みの親、宗田理。好奇心に生きた彼の言葉から分かる、「ワクワク」する未来の創り方とは?

30、40年先の未来を考えることはとても面白い。僕は存在しないけれど、いまの中学生が大人になった世界はどうなっているんだろう

宗田理(そうだおさむ)氏は、『ぼくらの七日間戦争』をはじめ、子供向けの作品を数多く残した小説家です。記者や編集者を経て小説家としてデビューしたのは51歳と遅咲きでしたが、2024年4月に95歳でこの世を去るまで絶え間なく小説を発表し続け、「ぼくら」シリーズだけでも52作品と、最後まで創作意欲を発揮し続けました。

冒頭の言葉は、2017年に行われた取材で、宗田氏が「ぼくら」シリーズ次作の構想について語ったときのものです。宗田氏は当時88歳。米寿を迎えてもなお、未来への憧れを持ち続けていたことが如実に感じられます。この「ワクワク」こそが彼の創作の原動力でした。

宗田氏は、1928年生まれ。戦争の影が近づき、次第に自由が制限されていく子供時代を過ごしました。その反動ゆえか、宗田氏の作品は常に子供が主役。「何十年たっても子供は変わらない。自分が子供だったら楽しいだろうな、と思うことを書いているし、書いていて楽しいから書き続けられる」と、宗田氏は語っています。

一方、子供の本質は変わらないとしつつも、作品の内容はもちろん時代に合わせてアップデート。例えば、2023年に書き下ろされた「ぼくらのオンライン戦争」では、序盤では、どの時代も子供たちが憧れる「秘密基地作り」をテーマにしつつ、中盤からはオンラインゲームでのトラブルに巻き込まれた友人を救うため、SNSなどを駆使して事件解決に奔走する主人公たちの活躍が描かれます。

宗田氏は、前述した2017年の取材の際も「今一番関心があるのは、AIとVRだ」と語っています。新しい情報を次々に吸収して、自分の中の世界をブラッシュアップする。そして、さらに未来へと思いをはせる。それが宗田氏にとってのワクワクなのでしょう。

経営者は常に、会社や社会の未来を思って行動しています。ただ、何かを「しなければならない」という使命感が強すぎるあまり、「やってみたい」「もっと知りたい」といった、純粋な気持ちを忘れてはいないでしょうか。童心がとてつもなく大きなエネルギーを持っていることは、宗田氏の書いた作品の数を見るだけでも明らかです。

一方、自分だけがワクワクしていても意味はありません。ビジネスは1人でやるものではなく、顧客、社員など経営者を取り巻くさまざまな人たちがいて成り立っています。宗田氏は、読者である子供から手紙が届けば会いに行って話を聞き、彼らの不安や不満を作品に落とし込むなど、常にその時代その時代の子供の視点に立つことを忘れませんでした。どうすれば子供を巻き込んで、「一緒にワクワクできる作品を創れるか」を常に考えていたわけです。

ワクワクを忘れず、そして共有していく。宗田氏の創作に対する姿勢は、未来を創り出す上で大切なことを私たちに教えてくれています。

出典:「時代のしるし 悪い大人をやっつけたい」(朝日新聞、2017年6月28日)

以上(2024年8月作成)

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画像:New Africa-Adobe Stock

【かんたん会社法(12)】 企業再編の1つである「合併」

書いてあること

  • 主な読者:企業再編の1つとして「合併」の基本を知りたい人
  • 課題:合併の手続きはとても複雑そうで、とっつき難い
  • 解決策:合併のほとんどは吸収合併。手っ取り早い規模の拡大などに有効

1 さまざまな組織再編

「M&A(Mergers and Acquisitions)」は、企業が成長や競争力を高めるための戦略であり、具体的には、新市場の開拓、競争相手の排除、コスト削減、経済規模の拡大などさまざまな目的で実施されます。M&Aには、合併と買収という2つの意味がありますが、両方の意味を含むものとして、「企業再編」という言葉が使われることがあります。主な企業再編には次の7つの手法があります。

  • 株式譲渡:会社の株式の全部または一部を他の会社に譲渡する
  • 事業譲渡:事業の全部または一部を他の会社に譲渡する
  • 合併:複数の会社を1つにする。吸収合併と新設合併とがある
  • 会社分割:事業の全部または一部を他の会社に分割して承継する。吸収分割と新設分割とがある
  • 株式交換:既にある会社を100%子会社にするために、子会社となる会社の株主の株式と親会社となる会社の株式を交換する
  • 株式移転:既にある複数の会社が新規に100%親会社を設立するために、それぞれが保有する株式を100%親会社に移転し、対価として100%親会社の株式の交付を受ける
  • 株式交付:既にある会社を子会社(100%子会社とは限らない)にするために当該子会社の株式を譲り受け、対価として自社株式を交付する

ここで紹介するのは上記のうち、合併です。吸収合併の手続きを中心とし、新設合併についてはポイントを絞って紹介します。

2 合併とは

合併とは、複数の会社が1つになることであり、

  • 吸収合併:1社が存続会社となり、残りは消滅会社となり存続会社に吸収される
  • 新設合併:会社が全てなくなり、新たに設立された会社に権利義務を承継させる

があります。新設合併は後の権利義務の整理が面倒であるなどデメリットがあることから、実務上、あまり使われないスキームで、合併の多くは吸収合併で行われます。

事業譲渡とは異なり、合併では当事者の全ての事業が一つになります。手っ取り早く規模の拡大を目指したり、特定市場に参入したりする場合に有効です。なお、事業譲渡の対価は金銭となるのが通常です。対して吸収合併において、消滅会社の株主に交付するのは金銭や存続会社の株式、社債、新株予約権等となります。同様に新設合併の場合は、新たに設立される会社(以下「設立会社」)の株式、社債、新株予約権のどれかを交付します。

3 合併の手続き

1)合併契約とは

合併する際は「合併契約」を締結します。合併契約の内容は会社法で決まっていますが、吸収合併契約と新設合併契約とで内容が違います。吸収合併における合併契約で定める事項は次の通りです。

  • 存続会社と消滅会社の商号、住所
  • 消滅会社の株主に交付する存続会社の金銭等、株主への割当に関する事項。存続会社の株式を交付する場合は、その数や算定方法など
  • 消滅会社の新株予約権者に存続会社の新株予約権を交付する場合、その新株予約権の内容や数、新株予約権者への割当に関する事項
  • 吸収合併の効力発生日

新設合併における合併契約で定める内容の大部分は、吸収合併と同じです。加えて、設立会社の商号、本店の所在地、発行可能株式総数、設立時の取締役の氏名なども定めます。

2)合併契約の事前開示

合併契約を締結する当事者は、合併契約の内容や対価の相当性などを記載した書面または電磁的記録を、本店に備え置き、開示します。開示の期間は、一定の日(株主総会の日の2週間前等)から効力発生日後6カ月を経過する日までです(吸収合併の消滅会社については効力発生日まで、新設合併の消滅会社については設立会社の成立の日まで)。

3)株主総会の承認

合併しようとする会社は、株主総会の特別決議によって合併契約の承認を得なければなりません。

ただし、吸収合併契約の場合、株主総会の承認決議を省略できるケースがあります。まず、簡易合併の場合です。簡易合併とは、存続会社が合併対価として消滅会社の株主に交付する株式等の額が、存続会社の純資産の20%以下の場合です。この場合、存続会社の株主に与える影響が小さいと考えられ、株主総会の承認決議は不要となるのです。

また、略式合併の場合も株主総会の承認決議が不要になります。略式合併とは、特別支配関係にある会社の合併です。特別支配関係とは、相手の会社の議決権の90%以上を有しているケースです。吸収合併において、

  • 存続会社が特別支配会社である場合は、消滅会社における株主総会の承認決議が不要
  • 消滅会社が特別支配会社である場合は、存続会社における株主総会の承認決議が不要

となります。

4)株主通知

吸収合併における存続会社と消滅会社は、原則として、効力発生日の20日前までに、株主に次のことを通知します(一定の場合には公告で代用することができます)。

  • 存続会社:吸収合併をする旨並びに消滅会社の商号および住所
  • 消滅会社:吸収合併をする旨並びに存続会社の商号および住所

また、新設合併の消滅会社は、原則として、株主総会の承認決議の日から2週間以内に、株主に「新設合併をする旨並びに他の新設合併消滅会社および設立会社の商号および住所」を通知します(この通知は、公告で代用できます)。

5)反対株主の買取請求

上記の株主通知を受けた株主のうち、一定の要件を満たす反対株主は、自身の有する株式を公正な価格で買い取るよう会社に請求できます。ただし、簡易合併の場合は、原則として、株式買取請求権は認められません。同様に略式合併の場合、特別支配会社は株式買取請求権を有しません。

株式買取請求権は、吸収合併の場合は効力発生日の20日前から効力発生日の前日までの間、新設合併の場合は会社の通知または公告の日から20日以内に、それぞれ株式の数を明らかにして行使します。

6)新株予約権者の買取請求

吸収合併および新設合併の消滅会社の新株予約権者は、その新株予約権と同条件の新株予約権が交付される場合を除き、新株予約権の公正な価格での買取請求ができます。

なお、新株予約権者が新株予約権付社債に付された新株予約権の買取請求をする場合、別段の定めがない限り、新株予約権付社債の買取請求も一緒に行使しなければなりません。

7)債権者の保護

消滅会社と存続会社は、次に掲げる事項を官報に公告しなければなりません。

  • 合併をする旨
  • 存続会社、消滅会社の商号および住所
  • 存続会社、消滅会社の計算書類に関する事項
  • 合併に異議のある債権者が、一定の期間内(1カ月以上の期間)に異議を述べられる旨

同時に、知れたる債権者には個別に通知しなければなりません。知れたる債権者の範囲に明確な定義はありませんが、小さな株主は除いてよいと考えられます。また、定款で日刊新聞紙または電子公告による公告方法を定めている場合、官報への公告に加えてこれらの方法による公告を行った場合、債権者に対する個別の催告は必要ありません。

一定の期間内に債権者が異議を述べなかった場合、合併を承認したものとみなされます。一方、異議を述べた債権者に対しては、合併をしてもその債権者を害する恐れがない場合を除き、弁済、相当の担保提供、弁済のための相当の財産の信託をしなければなりません。

8)登記

吸収合併の場合、合併契約に定めた効力発生日に効力が生じ、存続会社は消滅会社の権利義務を包括的に承継します。このとき、効力発生日から2週間以内に、その本店の所在地において、消滅会社は解散の登記をし、存続会社は変更登記をします。消滅会社の解散は、登記の後でなければ第三者に対抗できません。

新設合併の場合、新設会社が設立された日に合併の効力が生じ、消滅会社の権利義務を包括的に承継します。つまり、登記が効力発生の要件となります。この登記は、株主総会の承認決議など会社法で定められている所定の日から2週間以内に、本店の所在地で行わなければなりません。

9)書面などの備え置き

吸収合併の存続会社は、合併効力が発生した後遅滞なく(新設合併の設立会社は、新設会社の設立登記の日から遅滞なく)、合併により承継した消滅会社の権利義務その他の合併に関する事項を記載した書面または電磁的記録を作成しなければなりません。

これらの書面または電磁的記録は、吸収合併では効力発生日から6カ月間、新設合併では設立会社の成立の日から6カ月間、本店に備え置かなければなりません。

以上(2024年8月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:Mariko Mitsuda

【管理会計】部門や支店が増えた場合に役立つ「貢献利益」による業績評価

書いてあること

  • 主な読者:感覚だけではなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
  • 課題:事業規模が拡大する過程で、部門や支店ごとの業績が見えにくくなる
  • 解決策:部門別の貢献利益によって、部門や支店ごとの業績を把握する

1 質問:部門ごとの利益を把握していますか?

店舗販売部門、外商部門、卸売部門の3つの部門を持つA社。会社全体の利益はすぐに出てくるものの、部門ごとの利益は売上総利益(売上-売上原価)までしか把握できていません。

創業当初はシンプルだった組織も、事業規模が拡大していくにつれ、さまざまな部門が設置され、営業所なども増えてきます。ここで問題となるのが、部門や営業所ごとの業績が見えにくくなることです。こうした状況に直面した場合における判断の基準をご紹介します。

2 部門などごとに「貢献利益」を算出する

貢献利益とは、限界利益(売上高から変動費を引いた値)から管理可能固定費を引いた値です。管理可能固定費とは、各部門でコントロールできる固定費をいいます。

貢献利益は次のように計算します。

  • 限界利益=売上高-変動費
  • 貢献利益=限界利益-管理可能固定費

なお、限界利益については、下記の記事をご参照ください。

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管理会計では、費用は売上高の増減に合わせて変動する「変動費」と、売上高の増減に関係なく発生する「固定費」とに分けられます。売上高が伸びると変動費は増えますが、固定費は一定です。

例えば小売業の場合、売上原価などは売上高に合わせて増減する変動費になります。一方、人件費や減価償却費、賃借料などが固定費となり、その中には各部門で管理可能(コントロール可能)なものと管理不能(コントロール不能)なものがあります。

各部門で決裁権のある費用は管理可能固定費となります。例えば、消耗品費、会議費、交際費などについて、各部門や支店での判断が可能ならばコントロール可能な固定費となります。

部門や支店の要請で人員補充が行われる場合、人件費も管理可能固定費とします。一方、支店、営業所、工場などの開設に伴う賃借料や減価償却費、支払利息のように経営者の経営判断によるものは、各部門にとっては管理不能固定費とします。

3 事例を用いた「貢献利益」の計算例

1)事例前提条件

A社には、店販部門、外商部門、卸売部門の3つの販売部門があります。また、自社ビルを保有し、その中にこの3部門が設置されています。

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店舗販売部門は、自社ビル内の店舗で小売販売をしています。店販部門の売上高は10億円です。商品の値入率は55%(原価率45%)です。管理可能固定費は、人件費1億4400万円(480万円×30人)とします。

外商部門は、会員顧客(年間に一定金額以上を購入する優良顧客)向けに訪問販売と通信販売を行っています。掛率(小売価格に対する販売価格の割合)は90%です。管理可能固定費は、人件費7200万円(480万円×15人)、車両費・物流費4200万円(営業車7台分の減価償却費・管理費・燃料費700万円+代金引換を含む小口配送費用3500万円)とします(便宜上、配送費用は管理可能固定費に含めています)。

卸売部門は、百貨店等の大規模小売店や専門店に対して商品を卸売りしています。掛率は65%です。管理可能固定費は、人件費7200万円(480万円×15人)と交通費・物流費2700万円(営業交通費200万円+商品配送費用2500万円)とします。商品配送費用は、売上高に応じて変動する性質の費用ですが、ここでは管理可能固定費としています。

2)店販部門の貢献利益

店販部門の売上高は10億円、商品の値入率が55%なので、売上原価と限界利益は次のように算出することができます。

  • 売上原価=売上高10億円×売上原価率45%=4億5000万円
  • 限界利益=売上高10億円-売上原価4億5000万円=5億5000万円

店販部門の管理可能固定費は、人件費1億4400万円なので、貢献利益は次のように算出することができます。

  • 貢献利益=限界利益5億5000万円-管理可能固定費1億4400万円=4億600万円
  • 従業員1人当たり貢献利益=貢献利益4億600万円/従業員数30人≒1353万3300円

3)外商部門の貢献利益

外商部門の売上高は6億円、店販部門の販売価格に対して掛率90%で販売しているので、売上原価と限界利益は次のように算出することができます。

  • 売上原価=売上高6億円/90%×売上原価率45%≒3億円
  • 限界利益=売上高6億円-売上原価3億円=3億円

外商部門の管理可能固定費は、人件費7200万円と車両費・物流費4200万円なので、貢献利益は次のように算出することができます。

  • 貢献利益=限界利益3億円-管理可能固定費1億1400万円=1億8600万円
  • 従業員1人当たり貢献利益=貢献利益1億8600万円/従業員数15人≒1240万円

4)卸売部門の貢献利益

卸売部門の売上高は10億円、店販部門の販売価格に対して掛率65%で販売しているので、売上原価と限界利益は次のように算出することができます。

  • 売上原価=売上高10億円/65%×売上原価率45%≒6億9200万円
  • 限界利益=売上高10億円-売上原価6億9200万円=3億800万円

卸売部門の管理可能固定費は、人件費7200万円と交通費・物流費2700万円なので、貢献利益は次のように算出することができます。

  • 貢献利益=限界利益3億800万円-管理可能固定費9900万円=2億900万円
  • 従業員1人当たり貢献利益=貢献利益2億900万円/従業員数15人≒1393万3300円

5)各部門の比較

A社の部門別貢献利益を一覧で示すと次の通りです。

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3部門で貢献利益が最も大きいのが店販部門で、他2部門を大きく上回っています。次いで卸売部門、外商部門となっています。

店販部門は、売上高が大きく限界利益率が高いことが特徴で。卸売部門は、限界利益率は低いものの、それを売上高でカバーしている状況です。

従業員1人当たり貢献利益では、卸売部門が最も大きく、次いで店販部門、外商部門という結果になっています。

実際には、部門別に時系列で比較し、各事業部門の貢献利益の増減を比較評価するのが効果的です。

4 貢献利益を運用する際の注意点

1)目に見えないもう1つの貢献利益

部門別の貢献利益によって、部門や支店ごとの業績が把握できます。活用方法はさまざまで、例えば賞与の査定に差をつけることもできます。

ただし、慎重に運用しなければなりません。なぜなら、各部門は独立した組織であるようでいて他部門から少なからず影響を受けているものであり、各部門からのアシストについても考慮する必要があります。

各部門の貢献利益を比較する場合、他部門からの好影響(創業からの貢献度合いやブランド価値など)も考えなければなりません。これを考えずに、部門別貢献利益を他部門との比較のために用いると、部門間にあつれきが生じる危険があります。

2)適正な売上管理や労務管理が大前提

管理可能固定費というのは、各部門でコントロールが可能な費用です。部門別業績評価をする場合、各部門の売上管理や労務管理等が適正に行われていることが不可欠です。

例えば、各部門に未払いの残業代があるなどの場合が問題です。もし、部門内でサービス残業が常習化しているような場合、それを管理可能固定費に加味すると貢献利益は異なってきます。また、評価基準を利益に重きを置きすぎたときに生じる売上の粉飾もあります。不正へのきっかけとならないためにも、社員教育の徹底や管理体制の整備も同時に行っていきましょう。

5 練習問題

(問題1)

A事業部の売上高は5000万円(変動費率55%)、管理可能固定費は1500万円です。A事業部の貢献利益はいくらですか?

(問題1の回答)

A事業部の限界利益は、売上高の5000万円から変動費の2750万円を引いた2250万円となります。貢献利益は限界利益から、管理可能固定費を引いた利益なので750万円(2250万円-1500万円)となります。

問題1の答え:750万円

(問題2)

A事業部に係る費用項目は次の通りです。A事業部の管理可能固定費はいくらですか?

接待交際費180万円、福利厚生費30万円、器具備品の減価償却費80万円、

オフィス賃借料850万円、光熱費100万円、広告宣伝費130万円、旅費交通費200万円、

A事業部の役員給与1000万円、A事業部の従業員給与8640万円

(問題2の回答)

管理可能固定費とは、A事業部がコントロールできる費用です。上記の中では、接待交際費、福利厚生費、光熱費、広告宣伝費、旅費交通費、A事業部の従業員給与となります。なお、役員給与は株主総会(役員個人の給与額については取締役会または代表取締役)の決議事項であるため、管理不能固定費に該当します。

問題2の答え:9280万円

以上(2024年7月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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2024年版「中小企業白書」の要点 中小企業が取り組むべき課題は人手不足と生産性向上

書いてあること

  • 主な読者:2024年版「中小企業白書」から、現在の中小企業の課題を知りたい経営者
  • 課題:現状、中小企業が抱えている課題と解決策の事例を知り、他社との競争に勝ちたい
  • 解決策:主な課題は「人手不足」「生産性向上」。取り組みは賃上げや省力化投資など

1 2024年を中小企業の飛躍の年に!

新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)が5類に移行してから1年余り。このタイミングで発刊された2024年版「中小企業白書」(以下「白書」)をひもとくと、

中小企業の業況は、業種によるばらつきはあるものの、コロナ禍の落ち込みから回復してきている

とあります。

しかし、順風満帆ではありません。多くの中小企業は人材不足に直面していますし、過去最高水準となった賃上げにも対応しなければなりません。足りない人材を補うためにも、人件費を捻出するためにも、省力化投資などを通して生産性向上を目指す必要性がありそうです。

この記事では、「人手不足」と「生産性向上」の2つの課題を取り上げ、その解決のヒントを紹介します。また、この2つ以外にも、白書の中で紹介されている中小企業の課題(事業承継やBCP(事業継続計画)など)についても簡単に解説します。

なお、以降で紹介する図表の出所は全て白書であることや、分かりやすさを重視したことから、出所の記載や注釈は省略しています。詳細な内容を確認したい場合は、白書の本編をご覧ください。

■中小企業庁「中小企業白書」■
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/

2 人手不足:外国人雇用にも注目しつつ、職場環境を整備

コロナが5類に移行し、中小企業の事業活動が再び活発化しています。一方、時間外労働の上限規制などにより、少ない社員に頼る働き方は難しくなり、人手が必要になります。しかし、そんな中小企業の思いとは裏腹に、人手不足はますます深刻化しています。中小企業は、女性・高齢者の他、外国人労働者などの活用にも目を向ける時期にきています。また、自社の職場環境・制度を見直し、整備することなども必要でしょう。

1)外国人労働者の活用

日本人だけを対象とした採用活動では、人手不足の解消が難しくなってきた中、外国人労働者の活用が期待されています。実際、図表1の通り、外国人労働者の数・就業者全体に占める割合は共に上昇傾向にあります。

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また、白書の別のデータでは、2070年には日本の生産年齢人口(15~64歳の人口)のうち、14.9%が外国人になるという推計もあります。将来的な人材確保を見据えて、今のうちから外国人雇用に目を向け、検討してみる価値はあるでしょう。

厚生労働省では、各ハローワークに外国人雇用に関する相談を受け付ける「外国人雇用管理アドバイザー」を置いたり、外国人が働きやすい環境づくりに取り組んだ企業に、最大57万円を助成する「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」を設けたりしています。詳細は厚生労働省ウェブサイトをご確認ください。

■厚生労働省「外国人を雇用する事業主への支援策」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page11_00027.html

2)職場環境・制度の整備

自社の職場環境・制度を整備することも、人手不足を解消する上では不可欠です。既存社員の離職防止だけでなく、自社の取り組みを積極的にPRすることで、新規採用にもつながるでしょう。

実際、白書によると、人材を十分に確保できている企業では、働きやすい職場環境・制度の整備が進んでいます。図表2は、人材を十分に確保できている企業の取り組みをまとめたもので、特に、賃金や賞与の引き上げ(賃上げ)に取り組んでいる企業の割合が高いことが分かります。

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厚生労働省では、下記ページにて、人材確保につながる職場環境・制度のポイントや事例、相談窓口などを紹介しています。看護・介護・保育・建設については、その分野特有の人材確保対策を紹介しているのでご確認ください。

■厚生労働省「人材確保対策」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000053276.html

3)賃上げ

図表3の通り、最低賃金の改定率・春闘の賃上げ率は、2023年度時点で過去最高水準となっています。一方、物価上昇などの影響を受けて、防衛的賃上げ(業績の改善が見られない中で、離職防止などのために行う賃上げ)を実施する企業も多く、いかに収益を上げて、賃金の原資を確保するかが重要になってきます。

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賃金の原資確保のために行った施策には、人件費以外のコスト削減、価格転嫁、労働時間の削減などが挙げられます。

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厚生労働省では、賃上げを実施した企業の取り組み事例や、各地域における平均的な賃金額など、賃上げのために参考となる情報を掲載する「賃金引き上げ特設ページ」を開設しています。詳細については、こちらをご確認ください。

■厚生労働省「賃金引き上げ特設ページ」■
https://saiteichingin.mhlw.go.jp/chingin/

3 生産性向上:コスト削減と単価引き上げ

日本は就業者数が減少する中、OECD(経済協力開発機構)加盟国のうちで、労働生産性が平均より低くなっており、省力化投資などによる生産性向上が重要視されています。

1)省力化投資

生産性向上を図るための省力化(人間が行う作業を見直して効率化を図り、機械やシステムを導入することで作業負担を減らす取り組み)に向けた設備投資が注目されており、図表5のように、省力化投資を実施した企業は、売上高にプラスの変化が見られる傾向にあります。

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省力化投資の具体例として、

  • 製品製造時の全数検査を、人に代わって行う自動検査装置の導入
  • EDI(電子データ交換)を活用した販売管理システムの構築

に取り組む企業などがあります。

また、省力化投資を支援する取り組みもあります。例えば、経済産業省では、賃上げに向けて省力化等の大規模投資を行った場合、最大50億円を補助する「中堅・中小企業成長投資補助金」を実施しています。また、中小企業庁では、IoTやロボットなどを特定のカタログから選択・導入した場合、最大1500万円を補助する「中小企業省力化投資補助金」を実施しています。

■中堅・中小企業成長投資補助金■
https://seichotoushi-hojo.jp/
■中小企業省力化投資補助金■
https://shoryokuka.smrj.go.jp/

2)価格転嫁

生産性という言葉には様々な意味がありますが、1人当たりや1時間当たりで生み出す付加価値の額として捉えるのであれば、値上げの視点も重要です。

バブル期以降、日本企業は低コスト化・数量増加の取り組みを続けてきました。ですが、その結果、大企業の売上高や利益率は増加する一方、中小企業は発注側の売上原価低減の動きの中で低迷したままです。白書でも、「今後は低コスト化・数量増加以上に、単価の引き上げも重視されている」としています。

コスト増加分を十分に価格転嫁できていない企業は多いですが、その中でも取引先との価格協議を実施した企業は、自社の意向を価格に反映できている傾向があり、協議を実施できていない企業に比べて、価格転嫁に成功しやすいことが分かります。

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また、自社の商品やサービスについて、競合他社との差別化ができている企業ほど、価格転嫁も進んでいる傾向にあります。価格転嫁の協議を有利に運ぶために、いま一度、自社商品・サービスの強みを分析するのもよいでしょう。

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中小企業庁は、中小企業が取引先と適切に価格交渉・価格転嫁できる環境を整備するために、各都道府県のよろず支援拠点に「価格転嫁サポート窓口」を置いています。詳細については、こちらをご確認ください。

■中小企業庁「価格転嫁サポート窓口」■
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/tenka_support.html

4 その他の課題と解決のヒント

「人手不足」「生産性向上」以外にも、中小企業は以下のような課題を抱えています。それぞれの課題に対応する解決策の事例も簡潔に記載しますので、自社の問題を解決する際のヒントとしていただけましたら幸いです。

1)売上・受注の停滞、減少

コロナの5類移行の後も「宿泊」「交通」の消費が戻り切らないなど、コロナ禍の影響は続いており、現在も経営改善・再生支援のニーズは高いです。

各都道府県の「中小企業活性化協議会」では、企業の課題・問題点、ビジネスモデルに合わせ、収益力改善に向けた計画や、事業再生に必要な金融支援策の策定をサポートしています。2023年度には、中小企業の経営改善・再生支援を加速するための経済産業省「挑戦する中小企業応援パッケージ」の一環で、中小企業活性化協議会の専門家(弁護士)を倍増させるなどの体制強化も始まりました。詳細については、こちらをご確認ください。

■中小機構「中小企業活性化協議会」■
https://www.smrj.go.jp/sme/succession/revitalization/index.html
■経済産業省「挑戦する中小企業応援パッケージ」■
https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230830002/20230830002.html

2)事業承継・後継者不在への対応策

白書によると、2023年時点で54.5%の中小企業で後継者が不足しています。また、後継者が決まっている企業も、経営能力や相続税や贈与税などの問題を抱えていることがあります。

後継者不在の問題については第三者承継(M&A)を視野に入れることや、事業承継税制を利用するなどの取り組みが、解決策として挙げられます。また、各金融機関では、地域企業後継者の支援エコシステムの醸成・構築が進められていますので、問い合わせてみるのもよいでしょう。

なお、事業承継税制は、後継者が取得した一定の資産について、相続税や贈与税の納税を猶予する制度で、2025年度末まで、納税猶予の対象者などを大幅に拡充する特例措置が講じられています。詳細については、こちらをご確認ください。

■中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」■
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku.html

3)脱炭素化への対応

近年は、中小企業が自社の取引先から、省エネルギーやCO2排出量削減目標の策定など、脱炭素化への対応要請を受けることも多いです。ただ、75.0%の中小企業が脱炭素化に当たって、取引先からのサポートを受けられていないというデータもあり、公的機関の補助金などの支援を利用するなど、外部からの協力を仰ぐことも重要になってきます。

経済産業省では、脱炭素化に向けて、一定の取り組みをする中小企業に対する補助金の支給(例:IT導入補助金、省エネ補助金)などを行っています。また、中小機構は、脱炭素化の取り組みについて、専門家のアドバイスなどが受けられる「カーボンニュートラル相談窓口」を設置しています。詳細については、こちらをご確認ください。

■経済産業省「中小企業等のカーボンニュートラル支援策」(下記URL中段)■
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/SME/index.html
■中小機構「カーボンニュートラルに関する支援」■
https://www.smrj.go.jp/sme/sdgs/favgos000001to2v.html

4)BCPの見直し

2024年1月に「令和6年能登半島地震」が発生し、広い範囲にわたって建物や設備の損傷などの被害を受け、災害への備えとして、BCPの策定・見直しが更に重要視されています。

中小企業庁では、中小企業向けにBCP策定の手引きなどをまとめています。詳細については、こちらをご確認ください。

■事業継続力強化計画(中小企業庁)■
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.html

以上(2024年8月作成)

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画像:ChatGPT

モスクの経営戦略 寄付金や物販等の収入増加策や注意すべき税制を紹介

書いてあること

  • 主な読者:宗教法人、特にモスク(ムスリム向け)の経営者
  • 課題:動向をはじめ、寄付や物販などの収入確保策、注意すべき税制を知りたい
  • 解決策:イスラムに関する講座などを開催して参加費用を集めたり、ハラールショップを併設して物販で収入を確保したりする事例がある

1 日本国内のイスラム関係団体、モスクの動向

1)モスクの起源について

モスクとは、ムスリム(イスラム教徒)の礼拝施設を指します。日本国内では、礼拝施設としてだけでなく、在住ムスリムのコミュニティーの場所でもあり、冠婚葬祭や、ムスリム以外の人に対してイスラム文化を伝える役割も担っています。

日本で最初に建設されたモスクは,1935年に神戸在住のインド系ムスリムや在日タタール人によって建設された「神戸モスク」といわれます。1990年代後半から2000年代にかけて、モスクの建設ラッシュが進み、早稲田大学の店田廣文名誉教授が代表を務める研究調査「滞日ムスリム調査プロジェクト」によると、2022年2月時点で国内に113カ所のモスクがあるとされています。

モスクが増えた背景として、次のようなことが挙げられます。

  • 自営業者として成功を収めたムスリムや留学生が各地に増加したことで、居住地の近くにモスクを求める声が増えたこと
  • モスク建設資金を確保するための情報発信の方法が多様化したこと(例:既存モスクの訪問、口コミ、メール、ウェブサイトなど)

2)イスラム関係の法人化について

前述の「滞日ムスリム調査プロジェクト」によると、2022年5月の時点でイスラム関係団体の宗教法人は30社、2022年2月時点でイスラム関係団体の一般社団法人は28社となっています。

■滞日ムスリム調査プロジェクト■
https://www.imemgs.com/

2 寄付金や物販等の収入増加策

1)寄付金について

礼拝の参加者に振る舞われる食事や礼拝堂、施設の維持修繕などのモスクの運営に必要な費用は、寄付金によって賄われています。例えば、日本イスラーム文化センターでは14軒のモスクを管理しており、月間の管理費を50万円としています。

ウェブサイトを開設しているモスクでは、銀行口座への振り込みに限らず、オンライン上で寄附ができるシステムを用意して寄付を募っています。

また、モスクの建設の際には、国内の寄付だけでなく、SNSによって同胞のイスラム教徒や母国の著名人に協力を仰ぎ、資金を集めているケースもあります。

2)寄付以外の収入確保策について

寄付によって資金を募るだけでなく、イスラムに関する講座や書道教室を開催して参加費用を集めたり、モスクにハラールショップを併設したりしており、お土産やハラールフード、書籍などの物販によって資金を確保しているところもあります(詳細は事例で後述)。

3 運営に当たり注意するべき税制、法規制

1)宗教法人に関する税務について

宗教団体の中には、「宗教法人」として法人格を持つ(法人化)ところもあります。法人化することで財産の管理が容易になったり、宗教活動に係るものは法人税等が非課税になったりするといったメリットがあります。

なお、モスクの維持管理や運営費用が寄付のみで厳しい場合には、さまざまな活動を通して収入を得る必要がありますが、活動内容によっては収益事業として課税対象になるケースもあるので、注意が必要です。

宗教法人に関する税務の詳細については、下記をご参照ください。

■国税庁「令和6年版宗教法人の税務(源泉徴収全般の項目にリンクがあります)」■
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/01.htm

2)宗教法人法

宗教法人の設立、管理、規則、解散などについて定めた法律です。法律違反があった場合、内容によっては罰則や解散命令の対象になります。例えば、所轄庁への書類の提出義務(毎会計年度終了後4カ月以内に、役員名簿や財産目録などの書類の写しを、所轄庁に提出する)に違反した場合は「10万円の過料」が科せられます。また、法令や定款に著しく違反し、または公共の福祉を害する行為をした場合は解散命令が出されることがあります。

宗教法人法の詳細や、宗教法人法に基づく各手続きについては、下記をご参照ください。

■宗教法人法■
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC0000000126
■文化庁「宗教法人と宗務行政」■
https://www.bunka.go.jp/seisaku/shukyohojin/index.html

3)法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律

不当な宗教勧誘によって高額な寄付を迫られる問題を未然に防止するための法律です。宗教法人が寄付の勧誘を行う際に、寄付者の自由な意思を抑圧し、適切な判断が難しい状況に陥ることがないようにしたり、寄付者やその配偶者・親族の生活の維持を困難にしたりしないようにすることなどを求めています。

法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律の詳細については、下記をご参照ください。

■消費者庁「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」■
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/donation_solicitation/

4 日本国内の宗教法人、モスクの活動事例

1)東京ジャーミイ・ディヤーナト トルコ文化センター(東京都渋谷区)

日本国内では最大規模とされているモスクです。礼拝には多くの外国人が訪れますが、東南アジアのムスリムが増えていることから、礼拝の説教は信者のニーズに合わせて、トルコ語、日本語、英語などで執り行われています。

また、施設内には書店やハラールマーケットを併設しており、そこで物販を行っている他、イスラムに関する基礎講座やアラビア語書道教室などのイベントも開催されています。

■東京ジャーミイ・ディヤーナト トルコ文化センター■
https://tokyocamii.org/ja/

2)岐阜ファティフモスク(岐阜県各務原市)

カラオケ店を改装して設立されたモスクで、東海地域に在住のトルコ、パキスタン、インドネシア出身のイスラム教徒が礼拝に訪れているといいます。

施設の完成記念や、2024年で日本とトルコの外交樹立から100年が経過した節目のタイミングで、イスラム教やトルコの文化を知ってもらうためのイベントを開催しています。イベントでは、ケバブやトルコアイスなど

手作りの伝統料理や、雑貨の販売、モスク内の見学などを通して、イスラム教徒と地元住民との交流が実現できたとしています。

■岐阜ファティフモスク(Facebookページ)■
https://www.facebook.com/jpgufatih

3)マスジド大塚(東京都豊島区)

日本イスラーム文化センターが管理、運営する施設です。パキスタンやバングラデシュ、ウズベキスタンやインドネシアの学生など、さまざまな国籍のムスリムが訪れるといいます。

イスラムに関する勉強会などのイベントをはじめ、炊き出しホームレス支援や災害に見舞われた被災地の支援といった慈善活動に積極的に取り組んでいます。子どもがクルアーン(コーラン)を学べる「子供向けクルアーンクラス」も運営しています。

■日本イスラーム文化センター「マスジド大塚」■
https://www.islam.or.jp/

4)名古屋イスラミックセンター名古屋モスク(愛知県名古屋市)

名古屋モスクと岐阜モスクを運営する宗教法人です。モスクは礼拝の場だけではなく、アラビア語のレッスンなどの勉強会や、警察や税関の職員が犯罪予防について話をする講義場としても活用されています。

また、教育機関向けにイスラム文化などを解説する講演、出張講義を行っています。

■名古屋イスラミックセンター名古屋モスク■
https://nagoyamosque.com/

以上(2024年7月作成)

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画像:vladimirzhoga-Adobe Stock

【かんたん会社法(11)】 企業再編の1つである「事業譲渡」

書いてあること

  • 主な読者:企業再編の1つとして「事業譲渡」の基本を知りたい人
  • 課題:事業譲渡の手続きはとても複雑そうで、とっつき難い
  • 解決策:通常、事業譲渡では買い手が事業を選択し、対価は金銭となる

1 さまざまな企業再編

「M&A(Mergers and Acquisitions)」は、企業が成長や競争力を高めるための戦略であり、具体的には、新市場の開拓、競争相手の排除、コスト削減、経済規模の拡大などさまざまな目的で実施されます。M&Aには、合併と買収という2つの意味がありますが、両方の意味を含むものとして、「企業再編」という言葉が使われることがあります。主な企業再編には次の7つの手法があります。

  • 株式譲渡:会社の株式の全部または一部を他の会社に譲渡する
  • 事業譲渡:事業の全部または一部を他の会社に譲渡する
  • 合併:複数の会社を1つにする。吸収合併と新設合併とがある
  • 会社分割:事業の全部または一部を他の会社に分割して承継する。吸収分割と新設分割とがある
  • 株式交換:既にある会社を100%子会社にするために、子会社となる会社の株主の株式と親会社となる会社の株式を交換する
  • 株式移転:既にある複数の会社が新規に100%親会社を設立するために、それぞれが保有する株式を100%親会社に移転し、対価として100%親会社の株式の交付を受ける
  • 株式交付:既にある会社を子会社(100%子会社とは限らない)にするために当該子会社の株式を譲り受け、対価として自社株式を交付する

ここで紹介するのは上記のうち、事業譲渡であり、基本的に譲渡会社(売り手)の立場で紹介します。

2 事業譲渡とは

事業譲渡とは、自社の全部または一部の事業を別の企業に売り渡すことです。事業そのものは存続し、事業を運営する会社が変わるイメージです。大きな特徴は、

  • 譲渡する事業の内容、範囲を自由に選択できる
  • 通常、対価は株式などではなく金銭となる

ことです。

また、事業譲渡では当該事業に従事する従業員、取引関係なども対象にするのが通常なので、譲受側は新たに従業員教育や営業をせずに事業を開始できます。一方で、従業員との雇用関係や取引先との売買契約などをすべて巻き直す必要があるため、実務が煩雑になる点はデメリットです。

3 事業譲渡の手続き

1)株主総会の特別決議

事業譲渡において、「事業の全部を譲渡する場合」「事業の【重要】な一部を譲渡する場合」などは、譲渡会社において株主総会の特別決議を経ることが必要です。この株主総会の招集の際は、通常、「事業譲渡を行う理由」「契約の内容の概要」「対価の算定の相当性に関する事項の概要」を記載した参考書類を株主に交付します。

なお、ここでいう【重要】とは、例えば、その事業の帳簿価額が会社の総資産の20%(定款の定めで引き下げることが可能)を超える場合などですが、基本的には個別の解釈によって決まります。

2)反対株主の買取請求

さらに、譲渡会社は、事業譲渡に反対する株主のために、株式買取請求の機会を与えなければなりません。具体的には、原則として、効力発生日の20日前までに事業譲渡を行う旨を株主に通知します。これを受け、事業譲渡に反対する株主は、事業譲渡の効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、自己の有する株式を公正な価格で買い取るよう譲渡会社に請求できます。

譲渡会社は、反対株主との間で買取価格の協議が調った場合は、効力発生日から60日以内にその金額を支払います。一方、効力発生日から30日以内に協議が調わなかった場合、譲渡会社または株主はその期間の満了の日後30日以内であれば、裁判所に対して価格の決定の申し立てをすることができます。

3)上記以外の場合の手続き

事業譲渡に関して、上記と異なる場合として、

  • 簡易事業譲渡:「事業の重要な一部」の譲渡をしない事業譲渡
  • 略式事業譲渡:譲渡会社が譲受会社の特別支配会社である事業譲渡

があります。

簡易事業譲渡は、具体的には、譲渡資産について、その帳簿価額が、当該会社の総資産額の5分の1を超えないような事業譲渡を指します。このような場合は、「事業の重要な一部」の譲渡には該当しないため、株主総会決議は不要になります。

また、譲渡会社が譲受会社の特別支配会社である場合、略式事業譲渡に該当するため、株主総会決議は不要になります。なお、特別支配会社とは、単独である会社の議決権の90%以上を有する会社、または完全子会社などの保有分と合わせてある会社の議決権の90%以上を有する会社を指します。

4 事業譲渡における注意事項

1)競業禁止義務

事業譲渡の効力が生じたときは、譲渡契約の内容に従って財産の引き渡しなどを行います。合併などと違い、債権・債務や契約上の地位の移転については個別に相手方の同意を得なければなりません。

また、事業譲渡には会社法上、競業禁止義務が定められています。すなわち、譲渡会社は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一および隣接する市区町村の区域内で、事業譲渡を行った日から20年間、同一の事業を行うことはできません。もっとも、特約によってかかる義務を排除することができるため、実務上、事業譲渡契約においてこれよりも短い期間の競業避止義務の定めを置くことが多いでしょう。

なお、この競業禁止規定に関係なく、そもそも譲渡会社は不正競争の目的をもって同一の事業を行うことはできません。

2)商号の利用

譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合、譲受会社も譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負います。この弁済責任を負わないようにするためには、事業譲渡の後、遅滞なく、

譲受会社は、本店の所在地で譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記するか、譲受会社および譲渡会社から第三者に対してその旨を通知する

必要があります。

また、譲受会社が商号を使用しない場合でも、譲受会社が譲渡会社の債務を引き受ける旨の広告(債務を引き受ける旨の明確な記載がなくても、社会通念上、債権者において、譲受人が譲渡人の事業によって生じた債務を引き受けたものと信じるものと認められる広告であればこれに該当します)を行ったときは、譲渡会社の債権者は、譲受会社に対して弁済の請求をすることができます。

以上(2024年8月更新)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】モノレールには200年の歴史がある

おはようございます。今日は乗り物の「モノレール」について話をします。皆さんは、モノレールというと、その空中を走る姿から、2本のレールを走る普通の電車に比べ「新しい」「未来的」といったイメージを抱くかもしれません。ですが、その歴史は意外と古いのです。

辞書でモノレールの定義を調べると、「1本のレールで列車を走らせる鉄道」とあります。そんなモノレールが世界で最初に作られたのは、今から200年前、1824年の英国。ヘンリー・パルマという人物がロンドン埠頭(ふとう)内に敷設したのが最初です。ちなみに世界で初めて蒸気機関車が製作されたのが1825年、実はモノレールは汽車よりも歴史が古いのです。といっても、当時のモノレールは、今のような形ではなく、貨物を運搬するために、木材のレールに車両をまたがらせ、馬で牽引するというものでした。

次にモノレールが歴史の表舞台に出てくるのは、そこから60年以上後、1888年のアイルランド。蒸気機関車で貨物を牽引輸送するモノレールが整備され、約40年運送されたそうです。

モノレールが都市交通機関として使われるようになったのは、1901年のドイツ。ここに来てようやく、人を乗せるモノレールが登場します。

ちなみに、日本でモノレールが本格始動するのは1964年。東京五輪が開催された年で、主に選手の輸送を目的として作られたそうです。その後、自動車の普及によって道路の渋滞問題が発生し、その問題解決の手段としてモノレールの需要が高まり、今の形へとつながっていくわけです。

以上、モノレールの歴史をざっくりお伝えしましたが、私が注目してほしいのは、1824年に初めてモノレールを作ったヘンリー・パルマです。皆さん、彼の気持ちになってみてください。当時のモノレールは、あくまで貨物運搬が目的。それも、建築現場という限られた場所で使われ、人が乗るような代物ではありませんでした。パルマ自身、まさか自分の考案したモノレールが、200年後に今のような形で使われるなんて、想像もしなかったでしょう。

モノレールが次に姿を現すのが、60年以上後というのも面白いです。水面下で実用化のための研究が進められていたのか、何十年もたってからパルマのモノレールに着目する人がいたのかは分かりませんが、いずれにせよ、昔のテクノロジーが時代を経て呼び起こされるのはロマンがありますよね。

私たちは、今自分たちの周りにあるものから、ビジネスの可能性を模索しようとしがちですが、新しいビジネスのアイデアは、意外と昔のテクノロジーの中に眠っているのかもしれません。たまには歴史をひもといて、昔に目を向けてみてはどうでしょうか。私たちが今当たり前に使っているテクノロジーも、何百年か後には全く違う形で使われているかもしれない、そんなことを想像するのも面白いですね。

以上(2024年8月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【かんたん会社法(10)】株式会社の計算(決算)

書いてあること

  • 主な読者:会社法で作成が義務付けられている計算書類について知りたい人
  • 課題:計算書類などを作成した後、どう扱えば良いのか分からない
  • 解決策:決算の結果は公告などをする必要がある。また、計算書類などは株主総会での説明資料になる

1 決算は株主への説明、計算書類はその資料

1)定量的に示す資料:4種類(計算書類と個別注記表)+1種類(附属明細書)

株式会社(以下「会社」)は、株主などから資金を集めて設立、運営されます。そのため、会社の活動について定期的に株主などに説明しなければなりません。この説明が「決算」であり、その際に示されるものの1つが、いわゆる「計算書類」です。計算書類という言葉は聞き慣れないかもしれませんが、要は決算書のことであり、会社法ではこれを計算書類と呼びます。会社に作成が義務付けられている計算書類は4種類です。

  1. 貸借対照表:どのように資金を調達し、何に使っているかを示す
  2. 損益計算書:どれだけ売って、どれだけ利益をだしたかを示す
  3. 株主資本等変動計算書:株主の出資の増減を示す
  4. 個別注記表:上記について必要な説明を加える

また、上記4つに説明を加えるものとして計算書類の「附属明細書」の作成も義務付けられています。具体的には、固定資産・引当金・販管費(販売費および一般管理費)の明細などです。

以上の書類は、作成時から10年間保存しなければなりません。なお、書面である必要はなく、電磁的記録であっても大丈夫です。

2)定性的に示す資料:1種類(事業報告)+1種類(附属明細書)

先ほど紹介した資料は定量的な会社の状態を示すものですが、定性的に会社の情報を示す資料として、「事業報告」と事業報告の「附属明細書」の作成も義務付けられています。詳細は割愛しますが、事業の内容やその状況などについて記載します。

以上の書類は、5年間保存しなければなりません(起算は株主総会の1週間前。取締役会設置会社は2週間前)。なお、書面である必要はなく、電磁的記録であっても大丈夫です。

2 計算書類が作成された後の流れ

1)計算書類の監査と承認

作成された計算書類は、監査を受けなければなりません。機関設計によってルールが変わるところがあるので、ここではポイントを紹介します。なお、監査を受けた計算書類は取締役会の承認を受けます(取締役会が設置されていない場合は、取締役の承認)。

1.監査役設置会社

計算書類と事業報告、その附属明細書について監査役の監査を受けなければなりません。

2.会計監査人設置会社

計算書類および附属明細書について、監査役および会計監査人の監査を受けます。また、事業報告および附属明細書について監査役の監査を受けなければなりません。

2)定時株主総会における手続き

取締役会設置会社の取締役は、定時株主総会の招集通知の際、株主に取締役会の承認を受けた計算書類および事業報告、さらに監査報告または会計監査報告(監査を受けた場合)を提供します。そして、定時株主総会において計算書類等について報告し、原則として株主の承認を得ます。

3)公告と備え置き

株主総会の後、遅滞なく株主総会で承認を受けた計算書類を公告しなければなりません。非大会社の場合、貸借対照表を計算書類として公告します(損益計算書は不要です)。大会社とは「資本金が5億円以上または負債総額が200億円以上の会社」のことなので、これ以外が非大会社となります。

公告の方法は、「官報」「日刊新聞紙」「電子公告」の中から選んで定款に定めることができます。定款に定めがない場合は官報で公告します。公告方法が官報または日刊新聞紙の場合、貸借対照表の要旨を公告すれば大丈夫です。

なお、公告方法を官報または日刊新聞紙としている場合でも、決算公告のみをインターネットのホームページに掲載して対応することができます。この場合、貸借対照表などが掲載されるウェブページのURLを登記する必要があります。

他方、電子公告による場合は、要旨による公告は認められません。また、公告方法を官報または日刊新聞紙と定めている会社であっても、これらの方法での公告に代えて、インターネット上のサイトに貸借対照表等の内容を5年間掲載する措置を取ることもできます。この場合は要旨による公告は認められません。

3 資本金・準備金の概要

1)資本金

資本金とは、設立または株式の発行に際して株主となる者が、当該会社に払い込んだ金銭または給付した現物の額です。ただし、会社法ではこれらの金額の2分の1を超えない額については資本金に計上しないことを認めており、それは資本準備金として計上されます。

2)準備金

準備金とは、何かの事態に備えて会社が準備しておくもので、資本準備金および利益準備金の総称です。前述した通り、資本準備金とは設立または発行の際に払い込んだ金銭または給付した現物のうち、資本金としなかったものです。

利益準備金とは、剰余金(利益)の中から配当時に積立てられる金額です。会社は剰余金の中から配当します。この際、剰余金を原資とする配当額の10%を利益準備金として計上すべきとされています。

3)資本金の減少・増加

1.資本金の減少

資本金の減少については、原則として、株主総会の特別決議が必要です。「減少する資本金の額」「減少する資本金の額の全部または一部を資本準備金とするときはその旨と準備金とする額」「資本金の額の減少がその効力を生じる日」を定めます。

資本金の減少は債権者の利害に影響を及ぼすため、債権者保護手続きが設けられています。具体的には、会社は資本金の減少の内容などを官報に公告し、かつ、把握している債権者には個別に催告しなければなりません。これに対して債権者が異議を述べた場合、会社は、原則として、当該債権者に弁済または相当の担保の提供などをします。

2.資本金の増加

資本金の増加については、株式発行の他、剰余金の額を資本金の額に組み込むことにより行われます。この場合、株主総会の普通決議によって、減少する剰余金の額と資本金の額の増加が効力を生じる日を決定します。この場合、債権者保護手続きは必要ありません。

4)準備金の減少・増加

1.準備金の減少

準備金の減少については、原則として、株主総会の普通決議が必要です。「減少する準備金の額」「準備金の全部または一部を資本金に組み入れるときはその旨と資本金とする額」「準備金の額の減少が効力を生じる日」を定めます。また、資本金額の減少の場合と同様、債権者保護手続きが必要となります。ただし、減少する準備金の全部を資本金に組み入れる場合、債権者の利益を害すことはないので、債権者保護手続きは必要ありません。

2.準備金の増加

準備金の増加については、剰余金を減少させて準備金に組み込むことにより行われます。この場合、株主総会の普通決議によって、減少する剰余金の額と準備金の額の増加が効力を生じる日を決定します。この場合は、債権者保護手続きは必要ありません。

4 剰余金の配当

1)剰余金配当の手続き

剰余金がある場合、つまり利益が上がっている場合、会社は株主に配当することができます。剰余金を配当する際は、原則として、株主総会の普通決議が必要です。株主総会では、「配当財産の種類および帳簿価額の総額」、「株主に対する配当財産の割当に関する事項」「当該剰余金配当がその効力を生じる日」を定めます。なお、配当は金銭に限らず現物配当もできます。

株主総会の決議が必要ない場合もあります。会計監査人設置会社であることなど一定の要件を満たせば、定款の定めにより剰余金の配当を取締役会の決議事項とすることができます。また、取締役会設置会社の場合、定款の定めにより、事業年度で1回だけ取締役会の決議で剰余金配当を行うことができます。

2)分配可能額の制限

配当するといっても、会社法で定められている分配可能額を超える配当はできません。分配可能額は、剰余金の額を基礎に、自己株式の帳簿価額、のれん等調整額など複雑な加減計算をして求めます。違法配当(分配可能額の制限に違反して配当)をした場合、

  • 配当を受けた株主は、配当を会社に返還する責任を負う
  • 配当について、株主総会に提案した取締役、取締役会で決議した取締役等は、注意を怠らなかったことを証明できなければ、株主と連帯して責任を負う

ことになります。

また、法令または定款の規定に違反する違法配当をした取締役らは、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処し、またはこれを併科するものと定められています。

以上(2024年7月更新)
(監修 弁護士 八幡優里)

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画像:Mariko Mitsuda

採用における「人材要件」~戦わない人材採用のススメ~

1 人材採用手法の見直しの必要性

人手不足、採用難が叫ばれて久しい今日では、人材採用は企業経営における最重要課題となっています。これまでは従来通りのやり方で何とかなってきた企業においても、自社の希望通りの人材を採用することはすでに厳しい状況となっており、今後は「人手不足倒産」の大幅な増加が見込まれています。

信用調査会社「帝国データバンク」の調べによると、2023年に日本国内で倒産した企業8,497件のうち、「人手不足」を倒産原因としているものは260件あり、前年の140件から約1.9倍に増え過去最多を更新しました。

このように、人材採用に対する対策は待ったなしの状況となっており、人口減少、少子高齢化が加速度的に進んでいる現状では、自社の人材採用手法について根本的な見直しが必要なタイミングに来ていると言えます。

2 採用における「人材要件」

人材採用はいくつかのフェーズに分けられますが、まずはそのスタートラインとなる「人材要件」について考えたいと思います。人材採用における「人材要件」とは、企業が採用したい理想的な人物像を具体的に定義したもので、採用ターゲットとなる人材の属性やスキルを言語化したものです。

経営者に「どんな人を採用したいですか?」と聞けばほとんどの方が「若くて優秀な人材」と答えると思います。では「優秀」とは何を持って優秀というのかという点や、当然「若くて優秀な人材」は他の企業も欲しいと思っていますので、他社との差別化を図る意味でも「自社独自の優秀さとは何か」という点を深く掘り下げていくことが必要になります。

「人材要件の作り方」のような記事がネットや書籍などで公開されていて、MUST・WANT表(下記参照)の作成など一般的なメソッドはありますので、基本的にはそれに沿って作り上げていけば良いわけですが、気を付けなくていけないのは深く考えずに作ると、ごくごくありふれたものになってしまって他社との差別化がまったく図れなくなることです。

「人材要件の作り方」の例

出所:インスワーク社会保険労務士法人監修

3 戦わない人材採用とは

この記事の題名を「戦わない人材採用」とした理由は、就職したい企業人気ランキングの上位にくるような企業なら別かも知れませんが、そこまで著名な企業でない場合、他社と同じレベルで戦っていては、「若くて優秀な人材」は規模が大きく知名度が高い企業に獲られてしまいますので、いかに他社と戦わずに自社の独自路線を打ち出せるかが人材採用に成功する一つのカギになっているからです。

一般的に考えられる採用時に必要な能力としては、「コミュニケーション力」「主体性」「チャレンジ精神」「熱意」「柔軟性、適応力」「ストレス耐性」などが上げられますが、このような能力を持ち合わせた人材はどこの企業でも欲しい人材であり、他社よりも優位性を持った企業でないと採用できません。

そこで、「人材要件」について、一般的に考えられることだけでなく自社のオリジナリティを前面に出すことで、自社独自の「戦わない人材採用」が可能になるのです。

4 マネーボール理論

ここで話が飛びますが「マネーボール理論」はご存知でしょうか?もしかしたら、映画「マネーボール」をご覧になった方もいらっしゃるのではないかと思いますが、映画は2011年にアメリカで制作され、ブラッド・ピットが主演のメジャーリーグ(野球)を題材にしたものです。MLBの中でも資金力に乏しい弱小球団が、選手の評価基準を大きく変える戦略を取ることによって強豪チームに成長して行くというものです。

採用の人材要件と野球が何か関係あるの?とお考えかと思いますが、「選手の評価基準を変えた」というところが採用の人材要件につながる「マネーボール理論」になります。

具体的にはこんな感じです。例えば打者の評価については、一般的には打率、ホームラン数、打点(3冠王の要素)などが評価対象となると思いますが、マネーボール理論では、野手は打率ではなく「出塁率」を評価基準とする。つまりヒットもフォアボールも同じ扱い、ということです。私は野球に特に詳しいわけではありませんが、ヒットやホームランが打てる打てないの前に選球眼の良さがポイントということでしょうか。ちなみに、昨年38年ぶりにプロ野球日本一となった阪神の岡田監督も、「堅実な野球」を掲げ、開幕前から選手の年俸につながる基準のフォアボールのポイントを上げるように球団に掛け合っていたそうです。

このように選手の評価基準を大きく変えたことで、他球団が見向きもしない選手や、短所には目をつぶり自分たち独自の分析により作りあげた評価基準(人材要件)において強みを持つ選手を仕入れ(他球団が目を付けないからこそ安く仕入れることができる)、優勝を争うようなチームに成長させていきました。

5 自社オリジナルの「人材要件」

「マネーボール理論」から学ぶべきは、自社の「人材要件」を考えるにあたっては自社で活躍している社員を徹底的に分析するなどして、「採用時に本当に必要な能力は何なのか?」を深掘りする必要があるということです。

ただし、「深掘りして自社なりの人材要件を作成する」とお伝えしましたが、独自性を高めることと基準(ハードル)を上げることは別です。深掘りしていく中であれもこれもとなってしまうと、そもそもそのようなスーパーマンのような人材がこの世の中に存在するのか?ということになりかねません。決定していくプロセスの中で必要な能力を沢山出すのは良いとして、最終的な「人材要件」を決定する際には、採用後に育成することで身に着けることが可能な能力(テクニカルスキル)かどうかという観点も非常に重要です。

メンタル力や成長意欲のようなベーシックな部分(ポータルブルスキルや価値観)については、遅くとも就業可能な年齢になればおおよそ出来上がっており、採用後に何とかしようと思っても難しいという側面があります。一方で、経験や技術的な要素であれば、全くの未経験者であったとしても採用後にOJTをしっかりとやることでカバーが可能と考えられます。

社員に求められる能力

出所:インスワーク社会保険労務士法人監修

人材要件については、ハードルを上げすぎることなく門戸は広く構え、自社が考える絶対に外せない能力については厳しく見つつも、採用時点で足らない能力(テクニカルスキル)については採用後の育成の中でしっかりとカバーして成長を支えていくという視点が最も重要になります。

以上(2024年7月作成)

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画像:sinseeho-Adobe Stock