【朝礼】「配属ガチャ」は何回回せば当たるのか? 

最近、ニュースなどで「配属ガチャ」という言葉をよく耳にします。入社した際に自分の希望の勤務地や職種に配属されないことを、ソーシャルゲームの「ガチャ」の当たり外れになぞらえ、「配属ガチャ」と呼ぶのだそうです。希望のポジションに就けなかった新入社員が、入社してすぐに会社を辞め、転職してしまうという話、皆さんも聞いたことがあるでしょう。

私は、「転職」そのものについては、特にネガティブなイメージを持っていません。今どき、入社から定年まで1つの会社に勤め続ける人というのはまれですし、自分がやりたいことを追求し続けるポジティブな姿勢は、むしろ評価します。また、本来あってはならないことですが、入社前に説明したものと明らかに違う労働条件を強いるブラック企業などもありますから、そういった場合に自分を守る手段として、転職が必要なケースもあるでしょう。

一方で、自分の希望のポジションに就けないことを「ガチャ」と捉える風潮については、いささか疑問があります。ソーシャルゲームのガチャの景品には、当たりと外れがあり、当たりの景品が欲しい人は、それが出るまでガチャを回し続けます。これを「配属ガチャ」の場合に置き換えると、自分の希望のポジションに就けるまで転職活動を続けるという意味になります。私が疑問を感じるのはそこです。この配属ガチャ、はたして何回回せば当たりが出るのでしょうか?

ソーシャルゲームなら、スマホゲーム上のボタンをクリックするだけで数分のうちに何回でもチャレンジすることが可能です。しかし、転職活動はそうはいきません。会社を探したり、面接を受けたりするだけでも相当の時間がかかります。何度も会社を変え、入社と退職を繰り返していたら、あっという間に数カ月、場合によっては数年という時間を消費してしまうでしょう。そして、転職活動をしている間、その人は職場で仕事をしているわけではないので、ビジネスパーソンとしての成長は止まってしまいます。

だったら、仮に希望ではないポジションに配属されたとしても、まずはそこで踏ん張って、希望のポジションに就ける機会を待つというのも一つの手ではないでしょうか。自分の希望と違っても、職場で積んだ経験は無駄にはなりませんし、実績を重ねていけば、会社が自分の希望を聞き入れてくれる機会も出てくるはずです。

繰り返しになりますが、私は「転職」そのものを否定するつもりはありません。ただ、皆さんによく考えてほしいのは、

自分の夢や目標に向かって「近道」をしているつもりが、実は「遠回り」になってはいないか

ということです。転職に限った話ではありません。最近はネットで調べればすぐに自分の求める情報が見つかることもあり、近道をしたがる人が多いですが、時には「石の上にも三年」と思って辛抱してみるのも大事ではないでしょうか。

以上(2024年6月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【自社を強くする管理会計(4)】費用から利益を把握する

書いてあること

  • 主な読者:管理会計を取り入れたい中小企業の経営者、経理担当者
  • 課題:売上は伸びているのに、利益が出ないことがある
  • 解決策:費用と利益の関係を把握し、利益を効率的に上げる費用の考え方がある

1 利益を考えるときに便利な変動費と固定費

変動費と固定費という言葉を聞いたことはあるでしょうか。変動費というのは、売上に比例して金額が増減する費用のことで、例えば、小売業の商品原価が該当します。一方、固定費というのは、売上が変動しても金額が変わらない費用のことで、例えば、オフィス家賃や人件費などが該当します。

変動費と固定費は、管理会計を進める上で非常に重要です。費用を変動費と固定費のどちらとして認識するかによって、利益に大きく影響するからです。極端な例ですが、費用の全てが変動費だと、売上をいくら稼いでも手元に残る利益は少なくなります。なぜなら、売上が増えるほど変動費も同時に増えてしまうからです。反対に、変動費の代わりに費用の全てが固定費である場合には、売上が増えても費用の金額は一定です。

そのため、売上が固定費を超えた後は、売上が増えるほど手元の利益もどんどん増えていきます。そのため、事業が安定しているなど大きな売上が期待できる場合には、なるべく固定費を選んだほうが利益は多くなります。しかし、売上が上がるかが分からない場合、例えば、事業の立ち上げ当初などは、必ず発生する固定費よりも、変動費を選んだほうが安全なのです。

2 損益分岐点売上高

この考え方に関連して計算されるのが「損益分岐点売上高」です。損益分岐点売上高というのは、ざっくりいえば「利益がトントン(ゼロ)になる売上」のことです。会社にとっては、最低限これだけは上げないといけないハードルラインの売上金額といえます。

コロナ禍真っ只中の頃、多くの会社がまず気にしたのがこの損益分岐点売上高でした。自社の損益分岐点売上高に対して、今月の売上はどうなのか、そして翌月以降はどうなりそうなのか。損益分岐点売上高と比べることで、自社の業績への影響の大きさを正しく知ることができます。また、必要に応じて融資などの手を打つことができます。このような非常時に早期に行動を起こすためには、自社の損益分岐点売上高をあらかじめ知っておくことが大事です。

損益分岐点売上高は固定費/(1-変動費率)で求めることができます。変動費率というのは、売上に占める変動費の割合(変動費/売上高)のことをいいます。例えば、自社の固定費は月40万円、変動費率は20%ということでしたら、損益分岐点売上高は40万円/(1-20%)=50万円と計算できます。売上が50万円だと、固定費40万円と変動費10万円(=50万円×20%)で、確かに利益ゼロ(=50万円-40万円-10万円)になります。この計算式は覚える必要はありません。代わりに、計算の結果出た自社の損益分岐点売上高の金額を必ず覚えておいてください。非常時にさっと取り出して判断材料にできることが重要なのです。

3 経営者との会話に活用

この変動費率や固定費の金額を知っておくと、日常の経営者とのやりとりでも活用できます。経営者から、「売上が2000万円伸びたら利益はいくら残るか」と聞かれたとしましょう。皆さんの会社の変動費率が40%ということがあらかじめ分かっていたら、「1200万円」(=売上2000万円-変動費2000万円×40%)と暗算で答えることができるでしょう。先に述べたように、業績=利益であり、多くの経営者がこれを重要視しています。経営者がこのような質問をしてくる場合には何か心当たりの案件があってのことですので、ぜひテンポよく答えられるようにしましょう。経営者にとってはまずは精緻な数値よりも、概算値でも構わないことが多いものです。

4 営業部門の重点販売商品を決める

営業部門でも利益の考え方はとても重宝します。例えば、同じ販売単価の商品でも、仕入れ値が異なることがしばしばです。仕入れ値は変動費に当たるので、どちらを売るかで手元に残る利益が異なります。もし売るのにかかる手間が同じだとしたら、もちろん利益が高いほうの商品、つまり仕入れ値が安いほうの商品を売ったほうが会社にとって望ましいのです。

しかし、実際には、営業部門にはこのような商品ごとの利益率(売上に占める利益の割合のこと)や仕入れ値の情報が渡されていないことがよくあります。とすると、営業担当者は自分が売りやすい商品を売ってしまうので、利益の最大化にはつながりません。問題がないのであれば、ぜひ営業部門にも利益につながる情報を共有できるといいでしょう。

5 管理会計用語は分かりやすい言葉に置き換える

今回は幾つか管理会計用語をご紹介しましたが、実務で活用するためには、定義や計算式はそれほどこだわらなくて結構です。まずは、自分たちにとって分かりやすい言葉に置き換えて理解しましょう。例えば、売上から変動費を差し引いた「手元に残る利益」のことを、管理会計では「限界利益」と呼びます。しかし、これでは多くの方にとって分かりにくいので、手元に残る利益と覚えてもらっていいでしょう。

その上で、このような用語は何の役に立つのかという本質を押さえてください。そして、実際に使うためには、自社の数値を知っておくことが必要です。理論上は固定費で、実務でも固定費とされていても実際には金額が増えるということもしばしばです。そこで、より精度の高い試算をするためには、どのような事柄が影響するのかという影響要因も、大きなものを押さえておきましょう。

以上(2024年6月更新)
(執筆 管理会計ラボ株式会社 代表取締役 公認会計士 梅澤真由美)

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画像:IRStone-Adobe Stock

労働条件明示ルールの見直し

労働者に労働条件を明示するルールが、今年4月に見直されました。労働者が、労働条件についてこれまで以上に明確に把握し、安心して働けるようにするためです。本稿では、厚生労働省が行った省令等の改正を参考に、新しい労働条件の明示ルールについてお伝えします。

1 すべての労働者に明示すべき事項

新しいルールのポイントは、以下のようになっています。

労働条件明示のルール

※厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」より抜粋

上の表のうち、パートや有期雇用などを含むすべての労働者に明示しなければならないのが、「就業場所・業務の変更の範囲」です。労働条件通知書には、次のような記載が求められます。

<就業場所の記載例>

(雇入れ直後)
広島支店

(変更の範囲)
海外(イギリス・アメリカ・韓国の3か国)及び全国(東京、大阪、神戸、広島、高知、那覇)への配置転換あり

(雇入れ直後)
金沢駅西通り店

(変更の範囲)
変更なし

(雇入れ直後)
松江支店

(変更の範囲)
会社の定める支店(ただし会社の承認を受けた場合はAブロック内の支店。詳細は就業規則第〇条参照)

<従事すべき業務の記載例>

(雇入れ直後)
店舗における会計業務

(変更の範囲)
全ての業務への配置転換あり

(雇入れ直後)
ピッキング、商品補充

(変更の範囲)
雇入れ直後の従事すべき業務と同じ

(雇入れ直後)
企画立案

(変更の範囲)就業規則に規定する総合職の業務(ただし会社の承認を受けた場合は業務を限定する。詳細は就業規則第〇条参照)

2 有期契約労働者に明示すべき事項

有期契約の労働者には、更新の上限の有無とその内容、無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)と無期転換後の労働条件を明示します。労働条件通知書には、次のような記載が必要です。

<更新上限の記載例>

契約期間は通算4年を上限とする

契約の更新回数は3回まで

また、通算契約期間の上限を5年から3年に短縮する、更新回数の上限を3回から1回に短縮するなどの場合には、その理由を、あらかじめ文書や面談等で労働者に説明する必要があります。

<無期転換申込機会の記載例>

本契約期間中に無期労働契約締結の申込みをした時は、本契約期間満了の翌日から無期雇用に転換することができる

<無期転換後の労働条件の記載例>

無期転換後の労働条件は本契約と同じ

無期転換後は、労働時間を○○、賃金を○○に変更する

3 さいごに

労働条件の明示は、労働基準法に定められた基本的ルールです。しかし、労働条件通知書を労働者に渡さない企業も多く、雇用期間や賃金、労働時間などを巡って労使トラブルに発展するケースも珍しくありません。労働条件明示ルールの見直しを機に、新規採用や契約更新時には必ず労働条件通知書を交付するよう、心がけてみてください。

※本内容は2024年5月10日時点での内容です。
(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

【自社を強くする管理会計(3)】 売上の中身をじっくり見よう

書いてあること

  • 主な読者:管理会計を取り入れたい中小企業の経営者、経理担当者
  • 課題:コスト削減など守りも重要だが、収益向上の攻めの施策も講じたい
  • 解決策:顧客ごと、商品・サービスごとの売上に注目すると今後の戦略が見えてくる

1 まずは顧客別に目を向けよう

売上は部や課の単位で把握されるのが通常です。例えば、営業部門が一課から三課まである会社は各課の売上を把握しています。これは、予算作成時に各課に設定したノルマの進捗管理のためです。営業担当者1人当たりの売上を集計する場合も同じ考え方です。

売上アップのヒントを得たい場合は、このような会社「内」の区分だけではなく、会社「外」の区分にも目を向けてみましょう。代表的なものは、顧客に着目した区分です。

パレートの法則というものがあります。「上位2割の顧客で売上の8割を占める」というもので、2対8の法則とも呼ばれます。皆さんの会社の顧客数、平均売上、売上上位2割のシェアはどうなっているでしょうか。これだけ見ても、一部の顧客にどれだけ依存しているか、同業他社も同じ傾向なのかなど、有益な状況が得られます。また、単に顧客ごとの売上を計算するのではなく、全体の売上傾向を定量的に分析した上で、今後の戦略を検討していきましょう。

現場経験が長いと、自分の感覚が正しいと思い込みがちです。また、資料が共有されても、分析や検討が十分になされていない会社は多くあります。逆にいえば、集計された数字の分析を丁寧に行うことで、他の会社より頭一つ抜け出ることができるといえます。

顧客別に分けた売上を、もう少し大きな区分とするのも有効です。例えば、顧客の業種別、顧客の本社所在地エリア別などです。それ以外にも、顧客の新規獲得に力を入れる事業であれば、今月の新規顧客と既存顧客という分類もいいでしょう。

2 商品・サービスに注目するのも有効

顧客ではなく、自社の商品やサービスに注目する方法もあります。商品などに注目することで、顧客が自社に何を期待しているかを把握できます。商品アイテム数が多い場合、商品を種類ごとにまとめる「商品種類別」もよく使われています。

自社の将来の売上につながるという意味では、商品の性質に応じて、一時的売上と継続的売上に分けるのもいいでしょう。例えば、機械類は一時的売上であり、その保守費用や取換部品などは継続的売上となります。継続的売上はある意味固定売上(サブスクリプションにも通じます)なので、大きな手間もなく引き続き期待できます。一方、一時的売上も定期的に上げないと全体の売上が先細りするため、両者のバランスが重要になります。

3 過去の売上を見るのは、将来のため

売上の傾向を見ることで、今後の販売戦略の方針を考えるのに非常に役に立ちます。つまり、過去のデータは将来に有用なわけで、まさにこれは管理会計的な使い方といえます。

販売戦略を考える上では、ここまで紹介してきた区分以外に心当たり(一般に仮説と呼びます)があれば、それを試してみます。例えば、自社の課題が利益率の低さにあると感じているのであれば、利益率ごとに商品を区分して売上を集計してみましょう。そうすると、利益率が低い商品の売上シェアが高いことが分かるかもしれません。利益率の区分では目立った傾向がなかった場合は、営業部門ごとに見てみましょう。すると、一部の部門で値引きが多用されていることが見つかるなど、報告だけでは見えてこない実情が分かるかもしれません。

というように、既存の区分ありきというよりは、自社の状況や戦略ありきで分解の仕方を工夫したほうが効果的なのです。

4 年に2回程度は分析・検討を

このような分析や検討は毎月実施する必要はありません。状況に応じて、年2回程度行えばいいでしょう。月次のような頻度で見てしまうと、一時的な事象の影響に目が奪われ、戦略を考える上でかえって不都合になることがあるからです。直近6カ月や1年のデータを集計した上で、過去の同期間のものを3~5期分並べて分析や検討をしてみましょう。

ただ、勘違いのないように補足しますと、分析や検討は年2回程度でいいのですが、データ収集は常に行っておく必要があるということです。区分の仕方が途中で変わってしまうと、データが比較できなくなるので、仕組み化する(第5回で詳しくお話しします)などの点にも注意が必要です。

まずは、これまでやってきたことが数字として表れているか過去を確認し、これから将来にわたってはどのような戦略が良さそうか検討します。営業の勘でしか販売戦略は考えられないと思われがちですが、過去の数字の延長線上で見える情報もあります。宝の山である売上データをぜひ活用してみてください。

以上(2024年6月更新)
(執筆 管理会計ラボ株式会社 代表取締役・公認会計士 梅澤真由美)

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【自社を強くする管理会計(2)】まずは月次決算をフル活用

書いてあること

  • 主な読者:管理会計を取り入れたい中小企業の経営者、経理担当者
  • 課題:管理会計を自社にどのように取り入れればいいのか分からない、または一度は取り入れたものの継続できない
  • 解決策:月次決算を活用し、まずは損益計算書に占める割合の大きい費用トップ3の内訳を押さえる

1 月次決算で出てきた利益が、経営者の肌感覚と一致しないのは要注意

皆さんの会社でも、月次決算を行っていると思います。月次決算を通じて、経理が月次の業績を集計し経営者に報告しているでしょう。比較的規模の小さな会社の場合には、外部の顧問税理士にお願いして毎月集計してもらっているかもしれません。

この月次決算の結果出てきた利益の金額は、経営者の肌感覚と一致していますか。もし、経営者が数字を見て首をかしげたり、質問をしてきたりするのであれば、経営者の頭の中にある数字と整合しないのかもしれません。そうであれば、管理会計の第一歩として、月次決算の結果である利益が、経営者にとって理解できるように「翻訳」することから始めましょう。

「翻訳」というのは、なぜ利益がその数字になっているのかが腑に落ちるよう、内訳を用意することだとまずは捉えてみてください。例えば、売上が思ったよりも少ないのであれば、製品種類別の売上の内訳をつくってみます。そうすることで、どの製品種類がその原因になっているのかを知ることができます。

比較的規模の小さな会社であれば、経営者も内訳をみることで「ああ、あれか」とすぐに思い当たるでしょう。少し会社の規模が大きくなってくると、経営者がそもそも詳細を把握することが難しくなります。そのため、月次決算の際に、管理会計の観点から内訳を作成することで、全体像を知ってもらう情報提供を達成できます。

2 月次決算の「見える化」から管理会計を始めよう

つまり、月次決算に管理会計を取り入れることで、「見える化」するのです。

よく会社の「業績」という言葉を聞きますが、ざっくりいえば、利益のことを意味しています。経営者は業績を自分の頭で理解し、自分の言葉で関係者に説明できる必要があります。とすると、すべての情報が利益に結びつけられることが大事です。

つまり、利益にどう影響しているのかということは、経営者にとってとても重要なのです。しかし、利益を含む会計情報を苦手とする(もしくは苦手意識を持つ)経営者はたくさんいます。そこで、同じく会計の一種である管理会計を行う上でも、ぜひ利益とのつながりを大事にするといいのです。

もっといえば、利益をより良く説明できるように管理会計を組み立てるのもいいでしょう。利益は売上や費用から計算されるわけですから、例えば、自社の製品種類別売上や、原価の内訳など利益に与える影響が大きい項目について内訳がとりやすいようにしておきます。

3 月次決算で押さえるべき3つの費用

もう少し具体的に見てみましょう。会社によって、費用の内容はさまざまですが、まずは自社の損益計算書(PL)に占める割合の多い費用トップ3つについて内訳を押さえるようにしてください。例えば、交通費の金額が大きな会社であれば、公共交通機関、タクシー、宿泊費などに分類するのもいいでしょう。もし海外出張が多いのであれば、ぜひ海外交通費を区分しておきましょう。

この分け方には、すべての会社に共通する答えはありません。自分たちのビジネスや業務を踏まえた上で、決めることが重要です。考え方としては、常日ごろ自分の会社で実際に見ている見方で区分するといいのです。

なお、利益の源泉である売上についても、内訳を押さえることはもちろん大事です。それは次回(第3回)詳しくお話ししたいと思います。

4 続けられる方法で

まずは3つの費用だけ、内訳を押さえようと言いました。おそらく「3つだけでいいの?」と思われた方もいると思います。その理由は、「初めから手を広げてしまうと、続かないから」です。

管理会計では、損益計算書(PL)以上に、会社のビジネスに近い数字を多く扱います。しかし、そうした数字を集計するのに十分な仕組みを持っていない企業はたくさんあります。はじめから力を入れて対象範囲を広げてしまうと、続けられずに途中で力尽きてしまうかもしれません。管理会計のデータというのは、ある程度の期間ためて分析・比較することで初めて意味が分かるものです。そのため、まずは対象範囲を広げずに、続けられる範囲に絞って始めると無駄がありません。

この見方は、実は通常の月次決算でも言えます。例えば、損益計算書は、複数期間を並べることで、今月の数字が過去と比べてどうなのかということや、少しずつ変化している様子が分かります。どうしても、前年との比較や予算との比較ばかりがされがちですが、せっかくの数字データは複数期間並べてみる見方を身に付けましょう。ちなみに、このような複数期間が並んだ損益計算書のことは「月次推移」と一般に呼ばれています。

5 見せ方ひとつでも結構変わる

多くの会計システムは月次推移表を自動で出力できるものがほとんどです。しかし、数字があまりに多く記載されているため、少し分かりにくいと感じる経営者もいるかもしれません。そこで、お勧めなのは、グラフにすることです。例えば、過去3年分の月次売上の棒グラフを作成してみましょう。売上であれば、この月が少ないのは〇〇があったからなどと容易に思い付くと思います。グラフにするだけで、目で感覚的に理解しやすくなるため、ビジネス上、起きたことと紐付けしやすくなるのです。

さらに、費用を分析するときに有効なのは、売上高構成比を計算することです。売上高構成比とは、各費用の金額を売上で割ったものをいいます。例えば、広告宣伝費が400万円、売上が2500万円であれば、広告宣伝費の売上高構成比は、400万円÷2500万円=16%と計算されます。費用の中には、売上が増えるとそれに比例して増えるものがあります。そのような費用が増えた理由が、売上が増えたせいなのか、それともそれ以外の理由なのかを区別するのに役立つのがこの売上高構成比なのです。

以上(2024年6月更新)
(執筆 管理会計ラボ株式会社 代表取締役・公認会計士 梅澤真由美)

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雨天時の運転中の歩行者見落としを防ごう(2024/6号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

雨の降る中で運転する機会が増える梅雨の季節。車の窓やサイドミラーに雨粒が付着したり、窓が曇ったりすると周囲の状況が見えにくくなることがあります。そのような中、歩行者の存在を見落としてしまうと、重大な事故を招くリスクが高まります。

今月は、視界が悪くなる雨天時の運転において、歩行者の見落としを防ぐにはどうすればよいかを考えます。

雨天時の運転

1.雨天時の事故発生傾向とその要因

統計によると、晴天時と雨天時の死亡事故件数を類型別割合で比べた場合、雨天時のほうが「人対車両」の割合が大きくなっていることがわかります。

事故類型別死亡事故割合

出典:公益財団法人交通事故総合分析センター令和5年版統計データより当社作成

なぜ雨天時に「人対車両」の事故が発生しやすくなるのでしょうか。車両の走行環境と歩行者の行動特性に分けて考えると、それぞれ以下のような要因が挙げられます。

【車両の走行環境】

  • 路面が濡れてスリップする
  • 視界不良になる
  • 特に豪雨時などは雨音で周りの音が遮られる

【歩行者の行動特性】

  • 傘で視界が遮られ、車の接近に気づきにくくなる
  • 水たまりを避けたり、傘を広げた歩行者どうしがすれ違ったりするとき、車道にはみ出ることがある

雨天時の事故発生

歩行者の行動が不安全になるのであれば、車両の運転者は歩行者をより確実に認知しなければなりません。次項では雨天時の視界不良と歩行者の見落としについて掘り下げて考えます。

2.雨天時の視界不良と歩行者の見落としについて

雨天時の直接的な視界不良要因として、フロントガラスやサイドミラーなどに付着した雨粒が挙げられます。

また眼の特性により、雨天時は以下のような見え方にも影響します。

雨天時の視界不良

  • 暗い色の傘やレインコートが目立たなくなる(晴天時より暗いため、眼の色を感じる細胞の働きが低下し、色の違いを識別しづらくします)
  • 暗い環境ではピントが合わせにくくなる
  • 夜間時、ライトの光や濡れた路面による光の反射のまぶしさが視界不良につながる

これら悪条件が重なると歩行者を見落とすリスクが高まることになります。

3.雨天時の歩行者見落としを防ぐには

【良好な視界を確保する】

運行前にワイパーゴムの切れ・ひび割れを点検し、デフロスタやデフォッガ(曇り除去装置)の正常動作も確認しましょう。窓についた油膜やミラーの水垢も除去しておくとよいでしょう。

【眼の特性を理解する】

周囲が暗いときは歩行者が見えにくくなります。よく見えるようにライトを点灯しましょう。歩行者からみても、ライト点灯により車の接近に気付きやすくなります。

ライト点灯なし

ライト点灯あり

写真資料:Ⓒ企業開発センター 安全運転フォトニュース2018年6月号より

【雨の日の歩行者の行動に注意する】

雨天時に不安全になりがちな歩行者の行動に留意し、危険予測運転を心がけましょう。

以上(2024年6月)

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画像:amanaimages

【自社を強くする管理会計(1)】管理会計は気負わずに

書いてあること

  • 主な読者:管理会計を取り入れたい中小企業の経営者、経理担当者
  • 課題:自社にとって効果的な理論や手法が分からない
  • 解決策:管理会計で大事なのは、経営者が知りたいことを数字で表現すること

1 管理会計とは一体何か?

管理会計には、予算管理や部門別損益といったイメージがあります。管理会計の勉強をしたことがある方は、CVP分析(Cost-Volume-Profit Analysis)やABC(Activity Based Costing)についても知っているかもしれません。しかし、これらの理論はよく知られていますが、会社の中では実際に目にすることが少ないものです。

そこで、本連載では、実務で本当に「使われている」と同時に「使える」(=役に立つ)管理会計のやり方を、特に中小・中堅企業を想定しながら解説していきます。

管理会計の定義を正確に覚えたり、管理会計の全体像を網羅的に説明したりはしません。なぜなら、皆さんのゴールは、自社に管理会計を取り入れることですので、それに直接役に立つ方法を中心に紹介します。

2 経営者が欲しい数字を届けよう

管理会計で最も大事なことは、経営者が欲しい数字を届けることです。分かりやすくいえば、管理会計というのは「経営者のための数字の見える化」です。管理会計が成功しているかどうかは、数字の提供状況について、自社の経営者が満足しているかどうかで判断できます。

経営者は日々多くの意思決定を行います。その際、判断を誤らないために役に立つのが、状況を客観的に教えてくれる数字です。

どのような数字を出したらいいかは、経営者や現場のトップがその答えを持っています。例えば製造業においては、業績不振の典型的な原因に「稼働率が低いライン」があります。そして、多くの場合、経営者や製造部門のトップはそのことにすでに気付いているものです。このとき、稼働率をラインごとに集計してみたり、業績が良かった過去も含めて5年間の稼働率の推移をグラフにしてみたりするといいでしょう。そうすることで、肌感覚だけに頼らず、正しく状況を把握することが可能になります。

例えば、プロ経営者として有名な松本晃さんがカルビーの立て直しを行ったときに、稼働率に注目し、徹底して改善に取り組んだというのは有名な話です。何に取り組んだら最も効果が高いのかを数字を使って検討する。これも立派な管理会計の取り組みの1つです。

3 正しさ以上に、スピードが大事

経営者に数字を提供するときに、大事なのはスピードです。前述のように、経営者が数字を欲しがるのは、これからのことを考えるのに使いたいからです。とすると、必要な数字をタイムリーに届けることが重要です。

もしあなたが経理畑で、経験も長いとすると、スピード以上に、正しさが気になるかもしれません。通常の経理では伝票を一枚一枚円単位で切るため、正しさが大事というのは当然の感覚です。しかし、管理会計の情報の使い手は、経営者です。多くの場合、1円単位はもちろん、会社の規模にもよりますが、数万円であっても経営者の意思決定においては誤差の範囲ということもあり得ます。正しさにこだわって、経営者が必要とするタイミングに数字が出せないとすれば、その方が問題なのです。

ぜひ経営者にとって、どのくらいの桁までは許容できるのか、そしていつまでに数字が欲しいのかを明確に把握しておきましょう。

4 予算管理から始めてはいけない

冒頭にも挙げた予算管理は、管理会計の代表例です。予算管理は、中小企業の管理会計で最も普及しているものだと思います。しかし、皆さんの会社が現在予算管理を行っていないのであれば、予算管理から管理会計の取り組みを始める必要はありません。

予算管理とは、年度初めに目標となる予算を作り、その通りに実績が推移するかを月次決算の都度確認していく手法のことをいいます。2~3カ月をかけて予算を作るという会社も多くあり、問題点の1つ目はまさにそこです。予算を作るのにあまりに時間がかかりすぎるのです。また、予算を作るには、会社全体の協力は必須であり、必要とする情報も膨大です。予算作りは、あまりに大がかりな取り組みといえます。

その結果、多くの会社では、年度初めの予算作りに疲弊してしまい、その後の進捗管理がおざなりになっている光景を見ます。しかし、これでは本末転倒です。予算という目標を立てるからには、本来達成に向けて期間中に頑張らなくては意味がないのです。

このような現状を踏まえると、時間も労力も多大に必要とする予算管理は、必ずしも取り組むべき管理会計とは言えません。むしろ、予算管理は、管理会計にある程度習熟した会社にとってこそ、効果的な管理会計の最高峰なのです。

もし、自社が予算管理をやっていない、またはうまくいっていない場合には、予算管理にとらわれずに、数字のPDCAを小さく回すことから始めてみてください。その題材は何でも構いませんので、前述の通り経営者が見たい数字から始めるといいでしょう。

予算管理もそうですが、世の中で管理会計として紹介されている取り組み全てを自社に取り入れる必要はありません。それよりは、経営者や部門のトップの声に耳を傾け、ヒントを得てください。それこそが、自社に合ったものであり、効果が期待できるものといえます。

5 「天気予報」のイメージを忘れない

管理会計を、皆さんのなじみのあるものに例えるなら、天気予報といえます。天気予報を皆さんが見るのは、これからの天気を知ることで、必要な準備をし、より快適に過ごすためでしょう。管理会計も同様です。得られた情報をもとに、会社のこれからをより良くできるからこそ、価値があるのです。管理会計は難しそうと気負わずに、経営者の声に耳を傾け、取り組めるところから小さく始めていきましょう。

以上(2024年6月更新)
(執筆 管理会計ラボ株式会社 代表取締役・公認会計士 梅澤真由美)

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孤高の天才ドライバー、アイルトン・セナ。彼が言う「集中」の意味、そして勝利への覚悟が分かる一言とは?

結局、自分や他人の失敗から学んでいくしかないんだ。それが僕のいう、『コンセントレーション(集中)』の意味だ

アイルトン・セナは、F1世界選手権において、1988年、1990年、1991年と計3度のチャンピオンを獲得した、ブラジルのレーシングドライバーです。彼がレース中の事故でこの世を去ってからちょうど30年。今なお世界中のレーシングファンの憧れであるセナは、1988年からの約6年間、イギリスのレーシング・チームであるマクラーレンに所属していました。当時、マクラーレンとタッグを組んでいたのは日本企業のホンダです。

冒頭の言葉は、当時ホンダのF1総監督だった桜井淑敏(さくらい よしとし)氏が、セナに「F1のドライビングの難しさは?」と聞いた際の返答の一部です。セナが口にした「集中」という言葉を、私たちは「余計なことを考えず、一点だけを見据える」という意味で捉えがちですが、彼の場合はその逆でした。セナの考える集中とは、「自分を取り囲むあらゆる要素、つまりレースにおけるその時々の状況、サーキットやマシンのコンディション、天候などを完全に理解すること」でした。要するに、ゴールの一点だけを見据えて走るのではなく、視野を広く持って周囲を冷静に観察しながら走るというアプローチです。

デビューして間もない頃のセナは、速く走りたいと気が急くあまり、マシントラブルやアクシデントを起こすことが度々ありました。ただ速く走るだけではトップに立てないと気付いたセナは、「自分の感情をコントロールし、置かれているシチュエーションを完璧に読み解くこと」を信条とします。何度も失敗を繰り返しますが、その失敗の繰り返しこそが彼の集中力を研ぎ澄ましていったのです。その先に3度のチャンピオン獲得という栄光があったことは言うまでもありません。

社員の人生や会社の未来を一身に背負う経営者もまた、並大抵ではない集中力が求められますが、「成功したい」と気が急くあまり、周りが見えなくなっているときはないでしょうか。そんなときこそセナの言葉を思い出し、「自分や会社の置かれているシチュエーションを読み解くこと」に集中してみてください。

そして、もう1つ忘れてはならないのが、集中を支える「原点」です。誰しも集中力を維持することは簡単ではありません。なぜ、セナは維持できたのか。それは、一選手としての重圧だけでなく、故郷の未来も背負って戦っていたからです。

セナは生前、獲得した多額の賞金を匿名で、故郷・サンパウロ(ブラジル)の病院や施設に寄付していました。レースを終えるたびに貧富の差が激しい故郷へと戻り、その現状を見て「故郷のために負けられない」と気持ちを新たにし、次のレースに向かう。それが彼の原動力だったのです。

自分の原点は何か。自分は今どこに立っているのか。冷静に考えていけば、視界はクリアーになり、進むべき道が自然と明らかになります。その先にはきっと、「成功」という勝利のチェッカーフラッグが見えてくるはずです。

出典:『セナ(RiversidePress)』(桜井淑敏、谷口江里也(著)、早川書房、1996年12月)

以上(2024年6月作成)

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2024年6月から始まる「定額減税」の内容とやるべきことを整理

書いてあること

  • 主な読者:社員の給与計算を担当している給与計算担当者
  • 課題:イレギュラーな手続きであるため、減税の処理の漏れも心配だが、そもそも現場では何をすればよいのか把握できていない
  • 解決策:2024年6月以降に支払う給与等の源泉徴収税額から定額減税額を控除し、年末調整時も定額減税を反映させた精算が必要になる

1 2024年6月から始まる「定額減税」とは?

昨今の物価上昇を上回る賃上げを実現するために、令和6年度税制改正で決まった所得税と住民税の定額減税。定額減税とは、

2024年6月以降、会社から支給される従業員の給与、賞与から所得税と個人の住民税に一定額の減税(税額控除)が行われる制度

です。

定額減税の処理の一部は、社内の給与計算担当者が一定の調整を行わなければなりません。もし、その調整を忘れてしまうと、社員が受けられるはずの減税の恩恵を受けられず、損をしてしまいます。定額減税のようなイレギュラーな対応を漏れなく行うために、事前に何をすべきなのか、制度の概要とともに何をすべきかを把握しておきましょう。

1)定額減税の対象者

定額減税の対象者は、以下のすべての要件を満たす人です。

  • 2024年1月1日時点で日本国内に住所を有する個人、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人であること
  • 2024年分の所得金額が1805万円以下であること
  • 給与収入のみの場合は年収2000万円以下であること
  • 子ども、特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除の適用を受ける場合、2015万円以下であること

2)定額減税の減税額

実際の減税額は次の通りです。

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2 【所得税】定額減税で新たに生じる実務

所得税については、

  • 給与計算:2024年6月以降に支払う給与などの源泉徴収税額から定額減税額を控除(月次減税事務という)
  • 年末調整:2024年10月~12月の年末調整作業時に定額減税額に基づいた精算を行う(年調減税事務という)

の2つの実務が生じます。

1)給与計算

2024年6月1日以降に支払う給与について、月次減税額(2024年6月以降に支払う給与などの源泉徴収税額から控除する3万円の定額減税額)を源泉徴収額から、できる限り控除します。

賞与支給月は、同月に給与と賞与の支給が発生すると思います。まず先に支給される給与もしくは賞与から月次減税額を控除します。控除しきれない場合、その後に発生する給与もしくは賞与から残額を控除します。

もし、従業員の収入額や扶養家族の人数などにより、6月中の給与や賞与だけで月次減税額の上限に達せず、控除しきれない場合は7月以降の給与や賞与に繰り越して残額を控除していきます。

なお、これらの処理は、2024年6月1日時点で勤めている従業員(定額減税対象者で、扶養控除等申告書を提出している人に限る)に対して行います。6月2日以降に入社した従業員については月次減税事務ではなく、年末調整減税事務で対応します。

また、2024年6月時点では、合計所得金額が1805万円を超えると見込まれる役員や従業員に対しても月次減税処理を行う必要がある点には注意が必要です(年末調整時において精算)。

2)2024年末の年末調整ですべきこと

従業員本人およびその家族の12月31日時点の状況を確認し、

  • 所得税の定額減税対象者であること
  • 定額減税対象者の場合の減税額

を確認した上で年末調整により年間の所得税額の調整を行います。

また、6月2日以降に入社した従業員や役員(前職で定額減税の処理が終わっている人は除く)に対しては、ここで定額減税額を控除します。なお、年末調整時に合計所得金額が1805万円を超えると分かっている役員や従業員については、この制度の対象外であるため、定額減税額を控除しないで年末調整を行います。

3 【住民税】定額減税で新たに生じる実務

1)住民税の処理の基本

住民税の実務はシンプルです。具体的には、

各市区町村から、定額減税を反映した特別徴収税額決定通知書が送付されてくるので(各従業員分)、そこに記載されている金額を法定控除する

ことになります。

注意すべきは特別徴収です。従来、ほとんどの給与所得者は前年度の所得に基づいて当年6月から翌年5月にかけて給与から住民税を特別徴収します。しかし、定額減税の対象者については、

2024年6月の特別徴収額を0円

とします。その上で、以下の計算式で計算した金額を11で割った金額を年間の住民税として、2024年7月の給与から2025年5月の給与にかけて特別徴収します。

所得割―定額減税額+均等割+森林環境税

2)源泉徴収票への記載

定額減税の対象者については、源泉徴収票の摘要欄に以下の通り記載する必要があります。

「源泉徴収所得税減税控除済額〇〇円」

「控除外額〇〇円」

ちなみに、年末時点で控除外額がある場合の調整給付に関しては、各市区町村により実施されるため企業側の対応は不要です。

以上(2024年6月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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Z世代のトリセツ イマドキの若手社員を指導する際に知っておくべき3つのポイント

書いてあること

  • 主な読者:入社1~3年目のZ世代の若手社員を指導する上司
  • 課題:Z世代には、これまでの指導法が通用しない……
  • 解決策:「対面の指導を望む」など、Z世代の特徴を踏まえた指導をする

1 Z世代の若手社員向けに指導をアップデート

入社1~3年目の若手社員は、いわゆる“Z世代”(1990年代半ば~2010年代初頭生まれ)と呼ばれ、ようやく戦力になった“ミレニアル世代”(1980年代~1990年代半ば生まれ)とは違う価値観を持っています。

日本能率協会マネジメントセンター「イマドキ新入社員の仕事に対する意識調査2023」(以下「調査」)によると、Z世代の若手社員は、上司の指導に関して次のニーズを持っています。

  • デジタルネイティブだけど対面での指導を望んでいる(社内の人間関係が大切で、自分のことを認めてほしい)
  • 自分が納得のいく方法で指導してほしい(自分らしく、自分のペースで取り組みたい)
  • うまくいかなかった経験から学びたいが、失敗はしたくない(無理のない範囲で成長したい)
  • 時には厳しい指導も望むが、理由や目的を明確に伝えてほしい(きちんと納得した上で、指導を受け入れて成長したい)

この記事では、Z世代の若手社員(以下「Z世代 」)の特徴を捉えた指導法を紹介します。

2 指導で押さえておくべき3つのポイント

1)遠慮せずに対面でコミュニケーションを取る

Z世代は、対面での指導を望む傾向があります。調査でも「報告・連絡・相談をするのに、有効と感じるのは対面とチャットツールのどちらか」という質問に対し、74.4% が「対面」を望んでいます。この点を踏まえると、リモートワークをしている会社でも、上司は伝えるべきことは対面で伝えることが大切です。

また、「これくらいは分かっているだろう」と放置せず、「ここは理解している?」と細かく確認しながら、必要な指示を出すようにします。さらに、Z世代が理解した指示の内容を言葉で表現してもらうと、確認できるので確実です。

「任せた」「やっておいて」という言葉にも注意しましょう。上司からすれば期待を表現した言葉であり、Z世代にとってもやりがいがあるはずです。しかし、共有すべきことが共有されていないと、互いにイメージと違ったアウトプットになり、ストレスが高まります。もしもZ世代からアウトプットされた仕事が上司のイメージと違った場合は、きちんと認識に齟齬(そご)があったことを認め、丁寧に説明した上で修正を依頼することが必要です。

2)無理をさせず、じっくりと育てる

Z世代は、まずは自分の能力の範囲で仕事をしたいと考えています。調査でも「自分自身が成長することについて、どのように考えるか」という質問に対し、53.9%が「無理のない範囲で業務に取り組みたい」と回答しています。この点を踏まえると、上司は大きく構えてZ世代と接する必要があります。

例えば、Z世代から「ちょっと難しいです」「期限に間に合いそうにないです」と言われると、上司はむっとしてしまいますが、Z世代は「今の実力ではまだ難しい」ということを真剣に上司に訴えているだけです。部下の成長を望むのが上司ですが、そこは焦らず、少しずつ難しい仕事や、量の多い仕事を任せるようにしてみましょう。

また、調査では「新しい知識やスキルを身につけることは重要か」という質問に対し、「YES」と答えたZ世代が86.0%います。これは、ミレニアル世代(80.7%)よりも高い数値です。無理をしたくないだけで、「学びたい、成長したい」という意欲自体はZ世代は十分に持っているので、働きぶりを見ながらゆっくりと業務の幅を広げていくとよいでしょう。

3)いつの時代も? 褒めると伸びるタイプ

Z世代は、褒められながら成長したいという傾向があります。調査でも「自分はどのように指導されることで、成長していけると考えるか」という質問に対し、65.7% が「できている点に目を向け、褒めてもらう」ことを望んでいます。この点を踏まえると、上司は、ささいなことでも、きちんと褒める配慮が必要です。

Z世代は、まだ自分の仕事に自信が持てていません。Z世代が1つの仕事を終えても、上司から何も言われずにすぐに次の仕事を振られてしまうと、「本当にこれでよかったのか」という不安が生じます。この気持ちが続くと、Z世代は「自分はあまり期待されていない」と思うようになり、上司の言葉も次第に響かなくなってしまいます。そこで上司は、

Z世代の仕事や仕事ぶりに良い点を見つけたら、積極的に褒める

ようにします。その際、褒める基準を明確にします。特に、Z世代は失敗を恐れる傾向が強いので、成否を問わず挑戦に対して褒めるようにします。

一方、重大な過失に関しては、50.8%のZ世代が「二度と同じ失敗をしないためにも、本気で厳しく叱ってもらいたい」と回答しており、必要に応じて厳しい指導も望んでいます。しかしその際、Z世代が厳しく指導される理由を納得できるように説明する必要があります。例えば、「悪かった点とその理由を具体的に伝える」「不明な点は確認する(決め付けない)」「過去のミスや人格などに話を発展させない」「人前で叱らない」などを踏まえた上で指導すれば、Z世代は成長のために不可欠なものとして受け入れてくれることでしょう。

以上(2024年6月更新)

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画像:unsplash