中小企業等を支援する国や自治体の補助金・助成金事業では、雇用・人材開発・IT補助・コロナ支援など幅広いジャンルの支援があります。本レポートでは、おすすめの補助金・助成金について支援の内容や対象条件、申請方法等についてわかりやすく紹介します。
Just another WordPress site
中小企業等を支援する国や自治体の補助金・助成金事業では、雇用・人材開発・IT補助・コロナ支援など幅広いジャンルの支援があります。本レポートでは、おすすめの補助金・助成金について支援の内容や対象条件、申請方法等についてわかりやすく紹介します。
相続税対策を行うには、まず相続税がどれぐらいかかるかを把握しておくことが必要です。また、相続税対策をするには、その計算をどのようにするかも知っておかなくてはなりません。そこで、経営者にありがちな具体的な問題点をもとに、基本的な相続税計算と、相続税対策のポイントをご紹介させていただきます。
今朝は「余白」というテーマで話をします。余白といってもページの余り部分ではありません。仕事の「余白」です。これだけ言われてもピンとこないと思いますから、まずは聞いてください。
今、世の中は「効率化の時代」を迎えています。働き方改革やコロナを背景に広がったリモートワーク、ChatGPTのような生成AIの登場によって、効率化を求める動きはこれまでとは全く違ったレベルで進んでいることを日々実感します。タイムパフォーマンスを略した「タイパ」という言葉が出てくるほどです。
皆さんも日ごろから「効率的に仕事をする」ということを意識しているはずです。効率化とは「無駄」をそぎ落とすことですから、できるだけ直線的に、なおかつ最短距離でゴールに向かうイメージです。ここで問題なのは、「何を『無駄』と定義するか」です。効率的に仕事をすることだけを考え、自分の感情を考慮せずにひたすら仕事をした場合、それは作業に近くなっていくでしょう。確かに早く仕事が終わるかもしれませんが、果たしてそれで皆さんは楽しいでしょうか? あるいは、そんな仕事をしている皆さんは、周囲の人から見て魅力的に映るでしょうか?
私の経営者仲間に、とても魅力的な人がいます。その人は頭が良く、それこそ効率的に仕事をするのですが、「効率化」や「タイパ」などと言っているのを聞いたことがありません。常に「余裕」を持って、本当に楽しそうに仕事をするのです。
この「余裕」が、いうなれば仕事の「余白」なのですが、もう少し掘り下げていきましょう。私の考える余白には、「内側の余白」「外側の余白」の2種類があります。
内側の余白とは、自由な時間や、おおらかな気持ちです。忙しい中でも、自分の趣味に没頭したり、考え事をしたりする時間を確保していれば、定期的に自分と向き合うことができます。そうすると、「私が進むべき道はこれでいいのか?」と考えては足元を固めていくので、めったなことではぐらつかないのです。
外側の余白とは、仕事や家族とは違う人とのコミュニケーションと、そこから得られる気づきです。人間関係にまで効率化を持ち込めば、それは損得感情での付き合いになってしまいます。気遣いをすることもなく、関係も深まりません。しかし、外側に余白があり、異業種の人や自分とは違う年代の人と積極的に交わっていけば、皆さんの、人としての厚みが増していくのです。
「余白は余裕」と言いましたが、余白には無駄なものもあります。しかし、無駄を経験したからこそ気づくこと、得られることがあるのも事実です。常に時間に追われ、ろくに会話もせずに仕事をする人を、誰も魅力的とは思いません。魅力的でなければ周りも本気で話しかけてはきませんから、皆さんの可能性を引き出してくれる人はいなくなります。効率化の時代だからこそ、余白を大切にすることで広がる世界もあるのです。
以上(2023年9月)
pj17153
画像:Mariko Mitsuda
円安の影響で原材料や燃料の価格が上がり、困っている。そんな経営者の方に知っておいていただきたいのが、現在の円安の最大の要因とされている金利についてです。
現在、政策金利を上げている米国に対して、日本銀行(以下「日銀」)は低金利政策を続けています。円安の最大の要因となっている日米の金利差を縮小させるため、市場の一部には日銀の低金利政策の修正を求める声もあります。このため、市場では、2023年4月に日銀総裁に就任した植田和男氏が、「低金利政策をいつ転換させるか」に関心が集まっています。
つまり、経営者の方が今後、注目すべきことは、
金利が上がると、どのような影響が出るか
だといえるでしょう。
そこでこの記事では、金利のメカニズムと、金利が上昇したときに想定される影響について、カンタンに解説します。
金利とは、
資金の借り手が貸し手に支払う利息の、元金に対する割合
を指します。資金の貸し借りの方法などによって、利率、利回り、割引率などの呼び方をしますが、どれも金利に含まれます。金利の本質を分かりやすくいうと、金利は、
資金需要を基準としたお金の価値
と置き換えることができます。つまり、金利が上がるということは、
資金需要が増し、お金を借りる(預ける)際に支払う(受け取る)金額が増えること
をいいます。好景気で企業の投資や個人の消費意欲が高く、資金需要が強いと、金利は上がります。しかし、金利がある程度まで上がると、お金を借りるよりも預けるインセンティブが強まるので、経済活動の停滞や、過熱した経済活動が引き締まることにつながります。
逆に、金利が下がると、お金を借りる(預ける)際に支払う(受け取る)金額は減ります。不景気で企業の投資や個人の消費意欲が低く、資金需要が弱いと、金利は下がります。しかし、金利がある程度まで下がると、お金を預けるよりも借りるインセンティブが強まるので、企業の投資や個人の消費を喚起することにつながります。
冒頭でも触れましたが、現在の円安の最大の要因は、日米の金利差といわれています。詳細は後述しますが、日本では経済成長やデフレ脱却を目的として始めた金融緩和策の一環として、低金利政策を継続しています。その一方、米国では物価上昇への対策として金融引き締めへとかじを切り、政策金利を引き上げています。このため、日米の金利差が拡大する事態となりました。
金利が高いということは、貸し手からすると、もうけが大きくなることを意味します。ですから、日本円をベースとした資産を保有している個人や企業は、保有する資産を米ドルベースで投融資するなどの運用を行うほうがもうかると考えて、資産のベースを日本円から米ドルに交換する動きが相次ぐようになります。つまり、米ドルの需要が高まり、ドル高円安に振れるわけです。さらに金利差が拡大すると、低い利率で日本円を借りて、米ドルに交換して運用する動き(円キャリー取引)が広がることで、一層の円安が進むことも考えられます。
こうした動きが広がると、通常は市場の作用によって、日本の金利が上がったり、日本円の買い戻しの動きが出たりといった「揺り戻し」が起きるものです。ですが、日米の金利差が金融政策という「意図的」な事象であり、今後も継続すると市場が判断すれば、さらに円安が進んでいく可能性があります。
一口に金利といっても、金融政策との関わりで見ると、次の2種類に分けることができます。
政策金利は文字通り、日銀の金融政策によってコントロールされます。一般的に、景気が過熱気味のときには政策金利を上げ、資金需要を抑制します。反対に、景気が低迷しているときには政策金利を下げ、資金需要を喚起します。
市中金利は政策金利をベースに決まりますので、政策金利をコントロールすることで、市中金利も含めた金利全体をコントロールする仕組みになっています。
通常、中央銀行(日本の場合は日銀)がコントロールするのは短期金利のみですが、現在の日本では金融緩和政策の拡大に伴い、短期と長期の金利をコントロールする「イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)」を行っています。金利のコントロールに「時間軸」の概念を加え、長期の金利まで低金利に抑えることで、将来的な低金利までコミットする方法です。
現時点での具体的なコントロールの対象は、短期金利については、日銀への当座預金のうち、法定準備預金を超えた「超過準備預金」に対する金利をマイナス0.1%としています。一方、長期金利については、10年物国債を0%程度としています。ただし、2022年12月には10年物国債の金利の変動幅を0%程度プラスマイナス0.25%程度の範囲から、プラスマイナス0.5%程度に拡大しました。
日銀は、政策委員会による「金融政策決定会合」を年に8回開催し、金融政策の方針を決めています。会合の内容だけでなく、会合後の定例記者会見を含め、さまざまな機会に行われる日銀総裁や政策委員の発言は、足元の経済状況を日銀がどう見ているかを示すとともに、今後の金融政策の方向性を見極める上でも、市場の関係者に注目されています。
企業が資金を借り入れる際の金利は、大きく分けて次の3つの要因で決定されます。
資金調達コストは全ての借り手に共通する要因であるのに対し、信用リスクや金利上昇リスクは、個別の借り入れの条件や借り手の信用力によって大きく変わってきます。
貸し手である金融機関が、貸し出しに充てる資金を調達する際のコストです。調達先は日銀、他の金融機関、預金者などですが、いずれも政策金利のコントロールによる影響を強く受けるものなので、基本的に政策金利に連動するといえます。
また、一般的に資金の借入期間が長期になるほど、調達コストが高くなります。今後の経済やインフレ率などの不確定要素が多いため、リスクを織り込む必要があるからです。その他、調達コストには金融機関の人件費や事務経費なども含まれます。
貸し手が借り手から資金を回収できなくなるリスクです。信用リスクには大きく分けて、借り手の現時点または近い将来における信用力と、完済に至るまでの信用力の2つがあります。
借り手の現時点または近い将来の信用力を見る数値としては、「既に借り入れている金額」「事業の状況(売上高、利益、業界動向など)」「返済状況」「差し入れる担保」などが挙げられます。いずれも「返済できる能力があるのか」を判断することができる数値といえます。ムーディーズやS&P(スタンダード&プアーズ)といった格付け機関による格付けは、こうした数値を基に、借り手の信用状況をランク付けしたものです。
また、貸し手が取るリスクによっても金利は変わってきます。例えば、消費者金融のように「短時間の審査ですぐに貸し出す」「担保は取らない」といったように、借り手が資金を借り入れる際のハードルが低く、さらに回収不能となるリスクが高い場合などは、金利が10%台後半になることもあります。一方で、住宅ローンのように「審査に時間がかかり、通らない場合も多い」「担保の資産価値が高い」といったように、借り手が資金を借り入れる際のハードルが高く、さらに回収不能となるリスクが低い場合などは、金利が低くなる傾向があり、1%未満で貸し出されるケースもあります。
完済に至るまでの信用力に関しては、借入期間が長期にわたる場合、現時点では返済する能力があっても、将来も引き続き同じように返済できるとは限らないリスクがあります。これは、経済環境の変化に伴う経営状況の悪化、地価下落や天変地異などによる担保価値の下落といった、返済能力を損なうであろう不確定要素があるためです。借入期間が長くなるほど、このようなリスクが高まるため、リスクを織り込んで金利も高くなります。
固定金利で貸し出しを行った場合、借入期間が長期になればなるほど、将来金利が上がった際に、貸し手がその金利上昇分の利益を獲得できないというリスクが高まります。貸し手はこのようなリスクに備えるため、固定金利で長期に貸し出す際は、変動金利や短期の貸し出しに比べて金利を上乗せするのが一般的です。
ここでは、一般的にいわれている、金利が上がった場合の影響について紹介します。ただし、現在の金利は金融政策によって影響を見ながらコントロールされており、金融政策以外の経済政策を併用することで影響を軽減させることも想定されます。また、例えば「想定していたよりも金利が上がるペースが遅い」など、市場の思惑によっては反対方向に影響する可能性もありますので、紹介することが必ず起きるとは限りません。
金利と景気は密接に関わっています。好景気で金利がある程度まで上がれば、過熱した景気を抑制する効果が働きます。逆に景気が悪く金利がある程度まで下がれば、企業の投資意欲や個人の消費意欲を喚起する効果が働きます。
従って、金利が上がった(中央銀行が政策金利を引き上げた)場合は、借り入れよりも預金のインセンティブが働きますので、いわゆる“金回り”が悪くなり、景気が停滞に向かう可能性があります。
金利が上がるということは、変動金利で融資を受けている場合、利率が上がりますので、利払い額が増えることになります。多額の借り入れを行っており、利払いが負担になるのであれば、一部を早期に返済することを検討してもよいでしょう。逆に余剰資金を預金や国債などで運用している場合は、利子所得が増えることになります。
固定金利で借り入れをしている場合、金利が上がると「得をする」ことになります。極端な例で説明すると、金利が上がったことで、預金をする際の利率が、低金利のときに借り入れた利率を上回るようになったと考えてみましょう。この場合、借り入れの返済は極力遅らせて、返済する分を預金することで、「利ざや」を得ることができます。
一方、これから借り入れを予定している場合は、金利が上がると、従来よりも多い利払いを求められることになります。たとえ固定金利であっても、今後金利が上がるとの懸念があれば、貸し手側は今後の金利上昇リスクを織り込んだ利率を求めます。
前述のように、金利が上がると、景気が減速すると同時に市中に出回るお金が減り、人々が「今はお金を使うよりも、預金しておいたほうが使えるお金が増えるので得だ」と考えるようになるため、物価が下落することになります。
金利と物価に関しては、逆に物価が金利に影響することもあります。例えば、インフレ(物価上昇)懸念が出てきた場合、金利は上がります。貸し手側は、「今後もインフレが進む見通しなので、返済までに通貨の価値が下がる分も利子で埋め合わせなければならない」と判断するからです。また、固定金利で借り入れをした後にインフレが進行した場合、借り手側は実質的な返済額の(価値の)減少になります。
金利をコントロールすることで、物価を操作する金融政策も行われています。米国が利上げを進めている理由は、物価の上昇を抑えることにあります。金利を上げることで景気は減速に向かいますが、インフレを抑制する効果を得ることができます。
一方、日銀の植田総裁は、物価上昇の見通しが大きく変われば、金融政策の変更につながってくるとの発言をしています。
金利が上がることで景気が減速し、企業の業績にマイナスに影響するとともに、投資家など資金保有者が投資先を株式から預金などへとシフトさせる動きが進みます。このため、金利が上がると、一般的に株価は下落する方向に向かいます。
これまで触れてきたように、現在の円安は、日本の金利が米国など海外に比べて低いことに起因しています。日本国内の金利が上がると、円安から円高に転じる可能性があります。輸入型産業や原材料および燃料などを輸入に多く依存している企業にとってはプラスですが、輸出型産業などにとってはマイナスになります。
以上(2023年9月更新)
pj10065
画像:Doubletree Studio-shutterstock
経営判断をする際に欠かせない要素の一つが景気です。「攻めどき」と「守りどき」を見誤らないために、景気の動向をしっかり把握したいものです。考え方は経営者次第ですが、例えば、
といった判断をするには、少なくとも景気の動向を客観的に読み解いておく必要があります。
この記事では、景気が循環するメカニズムを解説し、景気を判断する上で参考になるレポートと統計・調査を紹介します。
景気は「不景気→好景気→不景気→好景気……」を繰り返し、これを「景気循環」と呼びます。景気循環を分解すると、「谷→拡張→山→後退→谷」という経済のサイクルがあります。この「谷→山」の拡張期間が好景気、「山→谷」の後退期間が不景気に当たります。
景気が拡張しているときは、経済の状態が「需要≧供給」となるので、供給側は増加する需要に対応するために供給量を増やします。しかし、需要にはいつか限界(=景気の「山」)が到来し、需要増を見込んで増やした供給量が過剰になります。供給が過剰になることで物価が下落し、かつ経済も後退するようになります。そして、最終的には不景気の段階(=景気の「谷」)に至ります。
逆に言えば、供給調整が進み、かつ需要が創出されるような状態が生じることで、景気が回復・拡張に向かうのです。
戦後の日本経済における景気循環は次の通りです。
企業の生産活動・在庫状況・設備投資など、景気循環はさまざまな要因によって生じます。経済学ではその期間によって景気循環を次のように区分しています。
各景気循環の期間を見ると約40カ月(キチンの波)から約50~60年(コンドラチェフの波)までと幅広く、ひとくくりにできるものではありません。これは、景気循環の基準を何に置くかによって循環の期間に差があるためです。各循環の概要は次の通りです。
キチンの波は、企業の生産活動や在庫調整に注目した景気循環で、経済の短期的なサイクルとほぼ一致するため、一般的に景気を判断する際はキチンの波を参考にします。米国の経済学者であるジョセフ・A・キチンが提唱したので、この名が付いています。
ジュグラーの波は、企業の設備投資に注目した景気循環で、設備の設置から更新の期間に当たる約10年(中期)を基準としています。フランスの経済学者であるクレマン・ジュグラーが提唱したので、この名が付いています。
クズネッツの波は、住宅・商業施設・工場などの建造物の耐用年数や、人が生まれてから成人になるまでの人口動態の変化の期間(約20年)に注目した景気循環です。米国(ロシア生まれ)の経済学者であるサイモン・クズネッツが提唱したので、この名が付いています。
コンドラチェフの波は、約50~60年という産業革命クラスの大規模な技術革新が生じる期間(長期)に注目した景気循環です。この景気循環の節目を見ると、第一次世界大戦など比較的大規模な戦争が起きていることが多く、戦争が循環のサイクルに影響を与えていると考える経済学者もいます。旧ソビエト連邦(ロシア生まれ)の経済学者であるニコライ・ドミートリエヴィチ・コンドラチェフが提唱したので、この名が付いています。
景気の動向を判断するのは簡単ではありませんので、政府および日本銀行(日銀)の分析や、各種統計情報を参考にするとよいでしょう。
政府が毎月公表する、景気に関する公式見解をまとめた報告書です。景気の現状と先行きに関する見解などをまとめています。個人消費、民間設備投資、生産・出荷・在庫、企業収益・業況判断、雇用情勢など分野ごとの見解をまとめている他、海外経済に関する景気の動向についても見解をまとめています。
■内閣府「月例経済報告」■
https://www5.cao.go.jp/keizai3/getsurei/getsurei-index.html
日本銀行(以下「日銀」)は、政策委員会による「金融政策決定会合」で経済・物価見通しなどを点検するとともに、金融政策運営の考え方を整理したレポートを公表しています(年4回。原則1、4、7、10月)。景気動向を含めた経済や物価の現状およびリスク要因を踏まえ、経済の先行きなどに関する基本的見解を示しています。
■日本銀行 金融政策「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」■
https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/index.htm/
内閣府経済社会総合研究所が毎月公表(おおむね2カ月前の数値を公表)している指標です。生産、雇用などさまざまな経済活動で、景気に敏感に反応する重要な指標の動きを統合して作成しています。
景気の山の高さや谷の深さ、拡張や後退の勢いといった景気変動の大きさや量感を測るコンポジット・インデックス(CI)と、改善している指標の割合を算出することで景気の各経済部門への波及の度合い(波及度)を測るディフュージョン・インデックス(DI)があります。
いずれのインデックスも、先行指数(景気の動きに先行して動く指標)11、一致指数(景気の動きに一致して動く指標)10、遅行指数(景気の動きに遅れて動く指標)9の合計30の指数を基に算出しています。指数の基になっている個別の統計情報も参考になるでしょう。
■内閣府「景気動向指数」■
https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/menu_di.html
内閣府経済社会総合研究所が公表している国際基準に基づいた数値で、年に8回の「四半期別GDP(国内総生産)速報」と、年に1回の「国民経済計算年次推計」があります。GDP成長率や、民間・家計・公的機関の需要および輸出入の大まかな動向、国民資産・負債残高など、国内マクロ経済の基本的な数値を見ることができます。
■内閣府「国民経済計算(GDP統計)」■
https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html
日銀が四半期ごとに公表している数値で、大手・中小企業の業況・需給・価格・在庫水準・投資・人員・資金繰りなどに関する回答結果を数値に置き換えたものです。さまざまな経営者の景況感を見ることができ、特に大企業製造業者による業況判断は、景気に関する先行指数になるといわれています。
■日本銀行 統計「短観」■
https://www.boj.or.jp/statistics/tk/index.htm/
内閣府が毎月公表している数値で、タクシー運転手や小売店の店長など景気動向に敏感な立場の人が見た景況感を指数化したものです。他の指標には表れにくい、生活実感に基づいた皮膚感覚の景気動向を捉えるのに便利で、「街角景気」とも呼ばれています。
■内閣府「景気ウォッチャー調査」■
https://www5.cao.go.jp/keizai3/watcher/watcher_menu.html
総務省統計局が毎月公表している数値で、世帯の消費構造を基準に、家計に関わる財やサービスの小売価格を総合した物価の変動に関する指数です。中でも、「生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数」は、一時的な要因(国際情勢、天候など)の影響を受けにくいことから、経済の実態に即した物価動向を把握しやすいとされています。
■総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」■
https://www.stat.go.jp/data/cpi/
財務省財務総合政策研究所が四半期ごとに公表(調査は内閣府経済社会総合研究所と共同で実施)している数値で、企業から見た景況感、企業の現状などを総合的に調査したものです。企業活動の実態を捉えることができます。
■財務省財務総合政策研究所「法人企業景気予測調査」■
https://www.mof.go.jp/pri/reference/bos/
内閣府経済社会総合研究所が毎月公表している数値で、消費者の意識や動向を「消費者態度指数」として指標化しています。抽出した世帯への、暮らし向きや物価の見通し、主要耐久消費財の保有・買い替え状況などのアンケート調査に基づき作成されています。
■内閣府経済社会総合研究所「消費動向調査」■
https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/menu_shouhi.html
厚生労働省が四半期ごとに公表している数値で、労働時間・労働者の過不足・雇用調整・採用計画などの雇用環境を調査したものです。消費者心理に直結する雇用情勢の変化を見ることができます。
■厚生労働省「労働経済動向調査」■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/43-1.html
総務省統計局が毎月公表している数値で、家計の収入・出費の内訳、貯蓄・負債の状況などを調査したものです。世帯ごとの家計の状況を基に、消費者動向をつかむことができます。
■総務省統計局「家計調査」■
https://www.stat.go.jp/data/kakei/
経済産業省が毎月公表している数値で、製造業などの生産・出荷・在庫・生産能力・稼働率などを指数化したものです。製造業全体および個別の業種における大まかな動向を見ることができます。
■経済産業省「鉱工業指数(IIP)について」■
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/iip/
内閣府経済社会総合研究所が毎月の実績と四半期ごとの見通しを公表している数値で、設備用機械類の受注状況を調査したものです。設備投資の動向を見ることができます。
■内閣府経済社会総合研究所「機械受注統計調査報告」■
https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/juchu/menu_juchu.html
経済産業省が毎月と年に1回の年報を公表している数値で、個別製品ごとの生産・出荷・在庫状況を調査したものです。より特定の業種に絞った動向を見ることができます。
■経済産業省「経済産業省生産動態統計調査」■
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/seidou/
経済産業省が毎月公表している数値で、情報通信業・金融業・サービス業など第3次産業の経済活動の状況を指数化したものです。個別サービス業の業態における大まかな状況をつかむことができます。
■経済産業省「第3次産業(サービス産業)活動指数」■
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/sanzi/
経済産業省が毎月公表している数値で、商業を営む事業所・企業における販売活動の現状などを調査したものです。業態や取扱商品別に見た小売業・卸売業の動向をつかむことができます。
■経済産業省「商業動態統計」■
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syoudou/
総務省統計局が月次調査および年に1回の拡大調査を公表している数値で、サービス業を営む事業所・企業の売上高や従業員数といった現状などを調査したものです。業種別に見たサービス業の動向をつかむことができます。
■総務省統計局「サービス産業動向調査」■
https://www.stat.go.jp/data/mssi/
以上(2023年9月更新)
pj10018
画像:mageFlow-shutterstock
「ない者からは回収できない」というのが債権回収の基本です。「いざ、債権を回収しなければ!」という事態に陥ったとき、相手が債務を履行できるとは限りませんから、そうなる前の与信管理、契約書のチェック、債権管理がとても大切です。
ところで、皆さんは与信管理から債権回収に至るまでの流れを把握しているでしょうか? 債権回収は経験がないとイメージしにくいものですが、そのリスクが顕在化したときの影響は大きく、経営者なら基本を押さえておかなければなりません。
そこで、この記事では債権回収の基本的な流れを紹介します。それぞれの詳細は別の記事で解説していますのでご確認ください。ポイントは、
どのような相手と、どのような条件で契約し、どのような管理をしていたか
ということです。
多くのビジネスでは、売掛金などの売上債権が発生します。そこで、万一の場合に備えて取引金額の上限や決済サイトを決めますし、担保の設定をすることもあります。これらの条件は、債権回収ができないリスクと、それによって受ける被害を考慮して決定します。つまり、相手が「信用」できるのかという点に尽きるため、「信用リスク」と呼ばれます。そして、この条件なら“信用”して取引できると判断した場合、信用を相手に与えるのが「与信」です。
与信管理の基本、チェックリスト、リモート時に行う与信管理の基本については、次のコンテンツで紹介しています。
「信用できる相手だから」といって、契約書を交わさずに取引していないですか? これはビジネスを進める上でとても危険なことです。口約束しかしていない状態でお金のトラブルになったら、双方が「言った、言わない」を主張してもめてしまいます。裁判に発展した場合も、債権回収の根拠を立証するのが難しく、敗訴してしまうことさえあります。そのため、必ず契約書を交わすことが不可欠で、さらに、
の3つについて定めましょう。この3つを定める理由については、次のコンテンツで紹介しています。
公正証書とは、公証役場で公証人に作成してもらう証書(公文書)です。単なる公正証書では私的な契約書と法的効力は変わらず、訴訟になった場合、証明力が強い程度です。
公正証書に私的な契約書よりも強力な効力を持たせるためには、公正証書に「強制執行認諾文言」を定める必要があります。強制執行認諾文言とは、債務を履行しない場合は、「強制執行」を受けてもやむを得ないという条項です。強制執行とは、判決等によって債務の履行が決まっているのに相手がそれに応じない場合、裁判所に「強制執行の申立て」をして、国家の強制力によって判決等で命じられた内容を実現することです。つまり、強制執行認諾文言があれば、強制的に債権回収ができるのです。公正証書については、次のコンテンツで紹介しています。
契約を締結した後も安心せず、日ごろから「債権管理」を徹底しましょう。債権管理とは、滞りなく売掛金を回収するための業務全般のことで、具体的には「請求書の発行や入金チェック、未入金の場合は催促」などの一連の流れとなります。債権管理の一般的な内容については、次のコンテンツで紹介しています。
万一、取引先から売掛金が回収できないような場合に備えて「債権保全」を講じます。債権保全とは、債権を確実に回収するための施策であり、基本的な方法が「担保の設定」となります。担保には物的担保や人的担保があります。担保については、次のコンテンツで紹介しています。
取引先に担保を設定する適切な資産がないなどの場合、他の方法で債権保全を講じなければなりません。こうした場合に、具体的にどのような方法で債権保全を図っていくべきなのかを紹介します。いざという時になれば、「仮差押え」という、裁判所が関与して債務者の不動産などを仮に差し押さえるなどの方法もあります。しかし、そこまで状況が悪化していなければ、もう少し穏便に、債権回収のリスクを移転する、つまり取引信用保険を利用するなどの方法があります。担保が設定できない場合の対策については、次のコンテンツで紹介しています。
約束手形は2026年をめどに廃止されるといわれますが、足元ではまだまだ使われており、そうした中で不渡りなどの問題も生じています。「危ない手形」の典型は、
「1.借用書代わりの手形」「2.回り手形」「3.融通手形」「4.偽造手形」
であり、適切な債権保全を講じなければなりません。危ない手形の見分け方などについては、次のコンテンツで紹介しています。
期日が過ぎているのに売掛金を支払ってくれない取引先がある場合、状況にもよりますが、「内容証明郵便」を送り、法的手段を見据えつつプレッシャーをかけることが効果的です。内容証明郵便とは、郵便認証司によって郵便物の内容を証明された郵便物です。内容証明郵便そのものに法的な効力はありませんが、後に裁判になった場合に、いつ、誰に対して、どのような内容の郵便物を送ったか、相手はそれをいつ受け取ったのかなどが明確になり、また、自己が有する債権の内容(契約の名称、契約日、品名、残金、期限など)について具体的に記載をして請求をすれば、法律上、履行の「催告」となり、時効の完成を猶予する方法にもなります。それに、「万一、支払いに応じていただけない場合は、訴訟等の法的措置を検討せざるを得ません」と記載することで、「こちらは訴訟も辞さないですよ!」という強い意志を示すこともできます。内容証明郵便については、次のコンテンツで紹介しています。
取引先からの支払いが滞り、こちらの催促にも応じない場合、いよいよ経営が危ないかもしれません。債権保全と回収の方法は幾つかありますが、取引先が法的な破産手続きを取ると、認められなくなるものもあります。また、取引先に債権を持つのは自社だけではないはずですから、債権回収は「早い者勝ち」ともいえます。この段階になったら、「取引を継続するか、仮差押えをするかなどを速やかに判断し、行動に移すこと」が重要です。取引継続などの判断については、次のコンテンツで紹介しています。
債権回収の1つの分かれ目は法的手段を取るか否かですが、この判断をする際は、
スピード回収、コスト、回収可能性
の3つを考慮してください。訴訟には時間とコストがかかりますが、通常、時間がたつほど債権回収は難しくなります。また、取引先に資産がなければ、コストをかけたわりに多くを回収できません。このような場合は、訴訟によらない債権回収を検討することになります。具体的には、担保権の実行、仮差押えや仮処分のような民事保全などとなります。それぞれのメリットとデメリットなどについては、次のコンテンツで紹介しています。
取引先に債務不履行があったとき、会社が払えないなら、経営者から回収をしたいと考えてしまいます。特に相手が中小企業だと、経営者と会社が一体と感じられるので、なおさらです。
原則として、会社と経営者は別の法人格であり、会社の債務を経営者個人が負うことはありません。ただし、経営者が連帯保証人になっている、実質的に株式会社と経営者が一体とみなされるなど、4つのケースでは経営者から債権回収ができます。「経営者個人」から債権回収が可能となる4つのケースについては、次のコンテンツで紹介しています。
内容証明郵便などで催促をしても相手が債務を弁済してくれない場合、「支払督促制度」を利用するのも1つの方法です。支払督促制度とは、簡易裁判所の裁判所書記官から、債務者に金銭等の支払いを命じる督促状(支払督促)を送ってもらう制度です。内容証明郵便とは違って裁判所からの督促となるため、相手に相当のプレッシャーをかけることができます。支払督促制度については、次のコンテンツで紹介しています。
民事調停とは、簡易裁判所が間に入り、当事者間での話し合いを試みる手続です。相手との関係性を維持しながら、あくまでも話し合いで解決したい場合に有効です。通常、調停は裁判官と一般市民から選ばれた調停委員とともに進められます。調停が成立した場合、調停調書が作成されます。作成された調書は、判決等と同じく、債務名義となります。債務名義とは、「強制執行」をする根拠となる文書であり、「債権債務の存在を公に認めるもの」です。民事調停については、次のコンテンツで紹介しています。
また、債務者しか申立てることができないものに、特定調停があります。特定調停とは、債務の返済ができなくなる恐れのある債務者(以下「特定債務者」)の経済的再生を図るため、特定債務者が負っている金銭債務に係る利害関係の調整を行う手続です。債務者である相手が特定調停を申し立てた場合、それに応じるか否かを判断する知識は必要と思いますので、基本については、次のコンテンツで紹介しています。
即決和解とは、「裁判上の和解」の一種で、 当事者が民事上の争いについてある程度の合意がある場合に、裁判所へ申立てをして裁判上での和解を行う制度です。訴訟の提起前に行われるので「裁判前の和解」とも呼ばれます。ちなみに、示談など裁判所が関与しないものを「裁判外の和解」といいます。即決和解については、次のコンテンツで紹介しています。
少額の債権をスピーディーに回収したい場合、「少額訴訟手続」を利用するのも1つの方法です。少額訴訟手続とは、簡易裁判所において、60万円以下の金銭債権の支払いを求める訴えについて、原則として1回の審理で争い事を解決する特別な手続です。もともとは市民同士の小規模な争いを迅速に解決するために設けられた制度であり、基本的には、法廷ではなく、ラウンドテーブルで手続が行われることも特徴です。少額訴訟制度については、次のコンテンツで紹介しています。
相手から任意に支払いを受けることが難しい場合、裁判所の判決ではっきりした決着をつける(和解もある)のが訴訟です。訴訟であれば、裁判所が争点となった債権債務の存在や金額を判決によって判断します。
ただし、本格的に訴訟を提起する場合、弁護士に依頼して準備する必要があり、コストがかかります。また、個別の事案にもよりますが、訴訟提起から判決に至るまで1年以上かかることもあります。その間に相手の財産状況が悪化したり、財産を隠匿されたりすると、勝訴したとしても回収できなくなる恐れがあります。そうした事態に備え、訴訟を提起する場合は、仮差押えや仮処分なども利用しておくことが考えられます。訴訟のメリットやデメリット、基本的な流れについては、次のコンテンツで紹介しています。
裁判で勝訴をしても、相手が判決に従って弁済するとは限りません。そのような場合、「強制執行」手続きを経る必要があります。強制執行とは、判決によって債務の履行が決まっているのに相手がそれに応じない場合、改めて裁判所に「強制執行の申立て」をして、国家の強制力によって判決で命じられた内容を実現することです。強制執行は、民事執行法で定められた「民事執行」の1つで、
に分類され、対象となる財産や目的などによって細分化されます。強制執行については、次のコンテンツで紹介しています。
会社が債務超過に至った場合、その手続は、
に大別されます。法的整理はさらに、
に大別されます。私的整理は当事者の話し合いです。一方、法的整理はそれが清算型であれ、再建型であれ、取引先がこれを申立てれば、自社の債権は大きな影響を受けます。そのため、それぞれの倒産手続の基本を押さえておく必要があります。倒産手続については、次のコンテンツで紹介しています。
以上(2023年9月更新)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)
pj60254
画像:Mariko Mitsuda
ひところは急速な円安の進行で「悪い円安」と言われていましたが、足元では円安「悪玉論」のトーンが下がっているように感じませんか? でも、円安で原材料や燃料の価格が上がって困っている方にとって、状況は何も変わっていません。
本来、円相場は株価のように「高いほどよい」というものではありません。
円安は為替レートの動きの結果で、「良い」も「悪い」もない
のです。このことをご理解いただくために、この記事では、為替レートのメカニズムをカンタンに解説します。
円安は、日本円と外貨との外国為替レート(交換比率)の変化に伴う現象です。為替レートの本質を分かりやすくいうと、
外貨を基準にした、その国の通貨の価格
と置き換えることができます。つまり円安とは、
為替レートの変動に伴って日本円の価格が下がり、外貨と交換する際に、より多額の日本円が必要になること
をいいます。逆に、より少額の日本円で外貨と交換できるようになるのが「円高」です。
日本で最も重要な為替レートは、基軸通貨である米国ドル(以下「米ドル」)と日本円との為替レートです。例えば、「1米ドル=140円」であれば、1米ドルを140円と交換できる(100円当たりであれば約0.71米ドル)ことを意味します。1米ドル相当の商品を日本円で買うためには、140円が必要だということです。
為替レートが「1米ドル=140円50銭」へ「50銭分の円安が進んだ」場合、1米ドル相当の商品を買うには140円50銭が必要となります。逆に「1米ドル=139円50銭」へ「50銭分の円高が進んだ」場合、1米ドル相当の商品を買うのは139円50銭で済みます。つまり、
円安の進行は、相対的に日本円による購買力が弱い状態になる
ことを意味します。逆に円高の進行は、相対的に日本円による購買力が強い状態になることを意味します。
通貨の実力(購買力)を測る指標に、実質実効為替レートがあります。国際決済銀行(BIS)が発表した日本円の実質実効為替レートの指数(2020年の月平均を100とする)は、円安が進行した2022年10月に、73.70まで低下しました。つまり、2020年に1万円で100個購入できた海外の商品が、今では74個も購入できないということです。直近の2023年5月は76.20でした。
日本銀行の推計値によると、この指数が75を割り込んだのは1971年3月の74.65以来で、50年以上ぶりの低水準です。
為替レートは刻々と変化しますし、相対取引も多く行われていますので、正確なレートを算出することはできませんが、日本銀行や金融情報サービス機関(ロイター、ブルームバーグなど)が公表するレートが目安とされ、ニュースでも報じられています。
為替レートに関するニュースでは、「東京(ロンドン、ニューヨーク)市場の17時時点での為替レートは……」といったフレーズがよく使われます。この「市場」は、東京証券取引所のような取引所ではなく、銀行間市場(インターバンク市場)と呼ばれる市場です。「銀行間」といっても、実際には金融機関間で直接取引することは少なく、金融機関が外国為替ブローカーや外国為替の取引システムに対して取引の条件を提示し、条件に見合った取引相手を仲介してもらうのが一般的です。
為替レートも一般的な物品の価格と同様に、需要があるものは高く(日本円であれば円高)、需要がないものは安くなる(日本円であれば円安)のが基本です。また、価値がある(と多くの人が思う)ものが高く、価値がない(と多くの人が思う)ものは安くなります。
需要と価値という側面から見た、為替レートが変動する主な要因は、次の6つが挙げられます。
経常収支とは、輸出入、サービス、投資収益などによって「国外で稼ぐ力」を表した数値です。分かりやすくいうと、赤字であれば国外に自国の貨幣が流出しており、逆に黒字であれば外貨を稼いでいることになります。
一般的に、経常収支が赤字の国の通貨は安く、経常収支が黒字の国の通貨は高くなる傾向があります。まず、経常収支が赤字の国は、自国で賄えない物品やサービスを外国から買って賄う必要がある状態(貿易赤字)や、海外からの投融資を多く受けていて、その利払いや配当が多い状態(第一次所得収支の赤字)となっています。このため、自国の通貨を売って外貨を買うニーズが強く、外貨の需要が自国の通貨を上回る状態、つまり通貨安となります。
逆に、経常収支が黒字の国は、必要に応じて外国で稼いだ外貨を自国に持ち帰るため、外貨を売って自国の通貨を買うニーズが強く、自国の通貨が外貨の需要を上回る状態、つまり通貨高となります。日本の場合、経常収支は黒字基調にあります(貿易赤字の年はあっても、それ以上に第一次所得収支の黒字幅が大きい)ので、円高への圧力がかかっているといえます。
物価が上昇している状態(インフレーション)は通貨の価値が下がるため、通貨安の原因となります。逆に物価が下落している状態(デフレーション)は通貨の価値が上がるため、通貨高の原因となります。
日本では久しく「デフレ状態」にあったので、円高への圧力がかかっていたといえます。現在は物価高の状態にありますが、海外の物価上昇率と比べると相対的な上昇率は低いとみられますので、今でも円高への圧力がかかっているといえそうです。
また、自国内市場で出回る通貨の量(マネーストック)を増やす金融緩和政策が行われた場合、基本的にはその国の通貨が通貨安となります。これは、金融緩和によって市場に資金が供給されることで物価が押し上げられ、通貨の価値が下落するためです。日本でも2013年に日本銀行が「量的・質的金融緩和(異次元緩和)」政策を打ち出してマネーストックを増やす政策にかじを切ったことで、一気に円安に向かいました。
為替レートの変動は、通貨間の金利差によっても生じます。金利が安い国の通貨は、金利が高い他の国の通貨に乗り換えようと売却する投資家が多くなるため、通貨安になります。逆に、金利が高い国の通貨は多額の利子が見込めることから、購入する投資家が多くなるので通貨高となります。
現在の円安の最大の要因は、金融政策の違いによる、日米の金利差の拡大といわれています。日本が金融緩和を継続して低金利政策を維持する一方で、米国では物価上昇への対策として政策金利を引き上げているため、日米の金利差が拡大し続けています。
日米の金利差が広がることによって、日本円を低金利で借り、高金利の米ドルに交換して投資を行う「円キャリー取引」も活発になると言われています。円キャリー取引が活発になれば、さらなる円安を招くことになります。
なお、投資家が金利という視点で為替レートの高低を判断する場合に見る通貨間の金利差は、表面的な名目金利の差ではなく、物価の変動を加味した実質金利の差となります。そのため、金利で得られる収益以上に物価の上昇によって価値が下落する場合、「金利が高い=通貨の価値が上がり通貨高になる」という構図が成り立たなくなります。
通貨の価値は、国の保証に裏付けされた信用力によるものです。そのため、政情不安や経済の混乱によって国の信用力が低下した場合、通貨の価値も下落し、通貨安の原因となります。逆に、政情や経済が安定しているなど信用力が高い国は、通貨の価値が安定しているため、購入されやすい傾向があります。「有事の(米)ドル買い」「有事の円買い」といった言葉は、世界的な経済リスクが懸念されたときに、信用力の高い国の通貨を購入して資産を守ろうとする傾向があることを示しています。
為替レートは上記のように需要や価値を基に市場で決まるものですが、時として、急激な信用不安が起こるなどの理由で、投機的な動きを見せることがあります。また、政府や中央銀行(日本の場合は日本銀行)などの金融当局が好ましいと思う為替レートと、市場の想定レートにずれが生じている場合があります。
こうした事態が生じた場合、金融当局は、自国通貨の売買による為替市場への介入(為替介入)を行ったり、金利の誘導目標を上下させたりすることで、為替レートを好ましい水準に誘導することがあります。これにより、投機的な動きのけん制、輸出産業の価格競争力維持(通貨安に誘導)、インフレーションの抑制(通貨高に誘導)を図ることがあります。実際に為替介入をしなくても、為替介入の権限を持っている要人(日本の場合は財務大臣)の発言に市場が反応し、思惑によってレートが動くこともあります。
日本の場合、急激な変動を抑えることを目的とした為替介入に限って行っており、自国のみの利益を誘導することを目的とした為替介入は行わないようにしています。急激な円安を受けて、政府と日本銀行は2022年9月と10月に、1998年6月以来の約24年ぶりとなる円買い・ドル売り介入を行いました。ただ、日本だけの「単独介入」とみられ、円買いを行うためのドル資金にも限りがあることや、円安の原因となっている日米の金利差は変わっていないことから、為替介入の効果は限定的となりました。
為替介入に関しては、米国の財務省が半期に1回、貿易額の多い国の為替政策を評価した「為替政策報告書」を議会に提出しています。報告書では各国の為替政策を分析し、「為替操作国・地域」や「為替操作監視対象」を指定しています。日本は2016年に指定が始まって以降、「為替操作監視対象」に指定されていましたが、2023年6月に提出された報告書で初めて対象から外れました。「為替操作国・地域」に指定されている国はありませんが、米国議会が認定した場合、通貨の切り上げや制裁を科されることがあります。
近年の傾向として見落とせないのは、FX(外国為替証拠金取引)を行う個人投資家の存在です。為替レートの値動きに合わせて日本円と外貨の取引を行い、為替差益の獲得を狙うFX投資家の動きによって、為替レートが変動する場合もあります。
円安の動きがあり、FX投資家の多くが「これからも円安が続く」と考えた場合、円を売って米ドルなどの外貨を買う投資行動を取ります。円安が進行した時点で売却すれば、為替差益が得られるからです。このため、いったん円安のトレンドが生じると、円を売る動きが顕著になり、円安に一層の拍車が掛かることになります。
為替レートの変動は、その国の価格競争力や物価など、経済の幅広い分野に影響を与えます。ここでは、最近の傾向である円安のケースから影響を見ていきます。なお、円高となった場合は、円安の逆の事態が生じます。
円安が進行した場合に生じる影響として、急激な為替レートの変動は混乱を来す要因となりますが、影響を受ける立場によってマイナスとプラスの両方のものがあります。円安でマイナスの影響を受けているのであれば、プラスの影響を受けられるようにビジネスモデルの転換を考えることも検討に値するでしょう。
円安は悪いことばかりではありません。円安が進行した場合、その国で生産された製品や、提供されるサービスの価格は、他国から見て相対的に下がります。一般的に、輸出型産業や、海外に進出しているなどで、海外での売上高比率の高い企業、インバウンドを想定した観光産業にとってはプラスとなります。
例えば、1米ドル当たりの為替レートが140円から145円に下落(円安)となったケースを想定してみましょう。日本円換算にすると1万円で売ろうとしている商品を、その時々の為替レートで価格調整して米国で販売するケースでは、商品価格が約71米ドルから約69米ドルに下落し、価格競争力が上昇します。一方、別の商品を100米ドルで販売し続けた場合、円ベースで得られる収入は1万4000円から1万4500円に増加し、500円の為替差益が生じます。
また、海外からの集客を行う観光産業にとっても、円安によって他国に比べて割安感が生じて魅力が向上したり、外国人観光客の使えるお金が増えて経済効果が上がったりするといった影響があります。
この他にも、外貨対比で割安となった企業の株式や不動産などを購入するための外国資本が流入しやすくなる他、円高の際に海外に転出した生産拠点の国内回帰の動きが広がれば、国内経済の活性化に寄与する可能性があります。
円安が進行した場合、他の国の製品やサービスの価格は相対的に上昇することから、輸入価格は上がり、さらには物価の上昇圧力となることがあります。一般的に、輸入型産業や、原材料や燃料などの輸入依存度が高い企業にとってはマイナスとなります。
例えば、1米ドル当たりの為替レートが140円から145円に下落(円安)となったケースを想定してみましょう。米国から輸入する製品の仕入れ価格が100米ドルの場合、円建てで見た仕入れ価格は1万4000円から1万4500円に上昇し、仕入れた業者の利益は円安によって500円減少します。円安による仕入れ価格の上昇分を自社では吸収できなくなると、小売価格に反映するのであれば、例えば1万6000円のものを1万6500円にする値上げを余儀なくされます。
海外の企業や不動産などへの投資や、海外企業の買収などを検討している企業にとっては、円ベースでの支払額が増えることになります。ただし、投資先から外貨での利益を得るようになれば、円安は円ベースで換算した利益の増加につながります。
以上(2023年9月更新)
pj10009
画像:pixabay
日本では、地震や水害など、さまざまな自然災害が発生しています。企業は、社員の安全を守ると同時に、建物など事業用資産の被害にも対応しなければなりません。とはいえ、災害時の対応と言われても、具体的な対応方法が分からない人は多いでしょう。実際、自然災害等が生じた後に、法律事務所には、
といった数多くのご相談が寄せられています。
そこでこの記事では、災害後に問題となりやすい、
自社ビルなどの事業用資産の損害や第三者などへの賠償
に注目し、法律問題を中心に解説します。実際は、関係者の話し合いで最善策を検討することになるでしょうが、話し合いの出発点として民法などの法的ルールを知っておくことは大切です。また、重要なポイントですが、2020年4月1日に契約などに関する民法改正法が施行されたことにより、
となっています。不動産に関する契約は10年以上前に締結されたものが継続していることも少なくないなど、しばらくの間は、旧法が適用になる契約と、改正法が適用になる契約が存在するので要注意です。また、事業用資産の被害をテーマとしているため割愛しますが、改正前後で取引の類型ごとに契約書の規定を見直す必要もあります。
大規模地震で借地上の自社ビルが被害を受け、もはやオフィスとしての使用に耐えられないほどの状態になったとします。このとき、自社ビルが全壊してしまっても、借地権は存続するのでしょうか。また、自社ビルが一部損壊したという場合、どのような点に注意すべきでしょうか。
まず、
借地上の建物が全壊しても、土地が消えたわけではないので借地権は消滅しない
という点に注意が必要です。つまり、借地人は同じ土地の上にオフィスビルを再築することができます。なお、法律上は、原則として土地オーナーの承諾も必要ありませんが、紛争を予防するためには、再築する建物が借地契約に違反すると主張されることがないように、あらかじめ土地オーナーの理解を得ておくことが重要になるでしょう。
では、建物が一部損壊したにとどまり、修繕すれば使用できる、という場合はどうでしょうか。この場合でも、自社ビルであるため、土地オーナーの承諾なしに、建物を取り壊して再築できます。また、建物を取り壊さず、修繕して使用することもできます。ただし、借地契約で「一定の修繕には土地オーナーの承諾が必要である」と定めている場合もあるので、個別の契約を確認しましょう。
大型ショッピングモールに入居するスーパーマーケットが被災し、大規模な修繕をしなければ営業を再開できない状態になったとします。このような場合でもスーパーマーケットの運営会社は、ショッピングモールのオーナーにテナント料を支払い続けなければならないのでしょうか。
この例のように建物が損壊した場合は、
賃貸人(ショッピングモールのオーナー)が修繕義務を負うのが民法上のルール
です。また、修繕している間、スーパーマーケットとして物件を使うことができないのであれば、
賃借人(テナント)は、その間テナント料を支払う義務はない
ということになります。
賃貸人が修繕要請に応じない場合は、テナント側で修繕を行い、要した費用を賃貸人に請求することも可能です。改正法ではこの点が明確になりました。
テナントが賃貸人に修繕が必要であることを通知するか、賃貸人が気付いているにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないときや、急迫の事情があるときには、テナント側で修繕を行うことができる
という旨が明記されました。また、賃貸人が修繕を行わない場合には、賃貸人が義務を果たしていない(債務不履行)として契約を解除し、店舗を移転させるという判断もあり得ます。
注意が必要なのは、修繕義務の一部が契約の規定で賃借人の負担とされている場合があることです。このような契約上の定めも、基本的には有効とされているので、賃貸人と賃借人のどちらがどの範囲で修繕義務を負うのか、個別の契約書の規定を確認して対応していかなければなりません。契約締結時点で、修繕義務の範囲を明確化しておくことも重要です。
大型台風による豪雨でオフィスが浸水し、リースを受けているパソコンが故障してしまった場合、企業(ユーザー)は、リース会社に対して、代替機の提供やリース契約の解約を求めることができるのでしょうか。
民法上、リース物件が自然災害などの不可抗力で使用できなくなった場合、そのリスク(危険)は、リース会社が負うものとされていました。これを「危険負担」と呼びます。つまり、
リース会社がユーザーに対して、リース料の支払いを求めることができなくなる
ということです。この点については、改正法でも変更ありません。ところが、このルール通りにリース契約が結ばれていることは少なく、実際は、
自然災害などによってリース物件が壊れてしまった場合、ユーザーは契約を解約することができず、契約で決められた損害金(規定損害金)を支払う義務を負う
とされているのが一般的です。この場合、パソコンが故障しても、ユーザーは代替機の提供を受けることはできず、規定損害金を支払わなくてはなりません。リース会社が動産総合保険に加入していて、保険金の支払いを受けた場合は、その分が規定損害金から減額されます。
リース会社に有利とも思える規定が置かれるのは、リース契約が、ユーザーにファイナンス機能を提供しているという特性を有するからです。ファイナンスリースの場合、リース会社がユーザーの代わりにパソコンを買い上げ、ユーザーは分割して使用料を支払います。これにより、ユーザーは一括での高額支出を免れることができます。だからこそ、途中でリース物件が壊れてしまったとしても、代金相当額をユーザーが負担するという趣旨で、規定損害金の支払いには合理性があると考えられています。
リース契約には、このような特性があるため、個別の交渉で、自然災害などの場合に、リース会社に責任を負わせる契約にするのは容易ではありません。リース契約の特性を踏まえて、オフィス什器(じゅうき)をリースで賄うか、購入するかといった方針を、事前に検討しましょう。
地震で店舗の看板が落下し、近くを通った人(第三者)がけがをしてしまったという場合、店舗の運営会社が責任を負うのでしょうか。
建物などの設置または保存が適切でなかった場合、
店舗の運営会社が損害賠償義務を負う
ことがあります。これは「工作物責任」と呼ばれ、
建物が通常備えておくべき安全性を欠いていたから損害が生じた、という因果関係がある場合に発生
します。それほど強くない地震でも、老朽化で看板が外れそうな状態を放置して落下した場合は、運営会社に工作物責任が生じ、けがを負ってしまった第三者に損害賠償義務を負う可能性が高くなります。
逆にいうと、店舗の看板が適切に設置され亀裂や緩みなども生じておらず、店舗が通常備えているべき安全性を欠いていなかったにもかかわらず、その地域でこれまで発生したことのなかったような大地震で看板が落下した場合、運営会社の責任は否定されます。
大規模地震の発生はコントロールできませんが、店舗の安全性確保に努めることはできます。災害発生時の法的リスクを低減させるためにも、日ごろから施設を適切に維持管理しましょう。
倉庫会社が出荷前の製品を顧客から預かっていたところ、地震で製品が損傷してしまった場合、倉庫会社は損害を賠償しなければならないでしょうか。
民法上、倉庫会社は預かった製品を適切に管理する「善管注意義務」を負っているため、これに反したのであれば損害を賠償する必要があります。この点について改正法には、
顧客が、損害賠償を請求するには、物の返還を受けてから1年以内に行わなければならないという比較的短い期間制限があるので、迅速な対応が必要
となります。
しかし、そもそも、個別の契約書や約款では、地震などの自然災害による損害について、倉庫会社の責任を免除する規定が置かれていることも少なくありません。その場合、顧客の製品に被害が生じても、倉庫会社は損害を賠償する義務を負いません。
災害発生後に、責任の所在をめぐるトラブルが発生することのないよう、契約を結ぶ時点で、責任の範囲について相互に十分理解しておくことが肝要です。
以上(2023年9月)
(執筆 三浦法律事務所パートナー弁護士 緑川芳江)
pj60081
画像:eamesBot-shutterstock
10万人を超える死者が出た関東大震災から9月1日で100年になります。この震災は火災による焼死が犠牲者の9割を占めたことで知られますが、大きな余震の連続による建物の倒壊や津波、土砂災害による死者も多数に及んだ記録もあり、地震が様々な災害に波及したことが分かります。今後、高い確率で起こる可能性がある大地震としては、「南海トラフ地震」、「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震」、「首都直下地震」、「中部圏・近畿圏直下地震」の4つと言われていますが、首都直下地震は南関東で30年以内にM7クラスの地震が発生する確率が70パーセントと予想されており、地震が発生した場合、首都中枢機能の被災が懸念されます。2022年に都が公表した首都直下地震の被害想定では、都心南部を震源に起きると死者最大約6200人のうち、焼死が約2500人を占めると予測しており、延焼の原因になる木造住宅密集地の解消や、漏電火災を防ぐ「感震ブレーカー」の普及など、火災対策を減災の柱に掲げています。しかし、複数回の地震動を考慮していない現在の建物や構造物の耐震基準の問題や、地震時に崖崩れや地滑りの恐れがある多数の土砂災害警戒区域の問題、地盤の液状化が懸念される河川や沼を埋め立てた数多くの「大規模盛土造成地」の問題等への対応も求められます。
出典:内閣府ホームページ「関東大震災100年」 特設ページ
(https://www.bousai.go.jp/kantou100/)
日本は世界の0.25%の国土面積でありながら、世界で発生するマグニチュード6以上の地震の約20%が発生しており、全国どこでも地震発生の可能性があると言えます。地震がいつ・どこで起こるかを正確に予測することはできませんが、ある一定期間内に、強い揺れに見舞われる可能性を示した地図(確率論的地震動予測地図)により、地震の発生確率を確認することが可能です。なお、地震の発生確率と、自然災害や事故などの発生確率とを比較してみると、日本の太平洋側の地域は26%以上の確率となっていますが、これは交通事故で負傷する確率(24%)を上回っています。0.1%未満~3%といった確率の低い地域もありますが、それでも火災や大雨で被災する確率に近い値であるため、地震は避けられない自然災害であり、身近なリスクと捉える姿勢が必要です。
【確率論的地震動予測地図】
今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率の分布図
出典:内閣府「広報ぼうさい51号」
また、地震による影響も企業の規模特性に応じて様々であり、建物の倒壊や焼失、土砂災害や液状化等による財産損失や事業中断に加えて、大切なデータや従業員等を失う可能性も考えられます。また、従業員や第三者の死傷に伴って、施設賠償責任や安全配慮義務違反による使用者責任を問われる可能性もありますし、取引先の倒産や事業中断による貸倒れや取引中断の影響を受けることも想定されます。実際に、東京商工リサーチによる2023年のデータでも震災関連倒産2019件のうち、東京の企業が587件と約1/3を占め、2021年のデータでは直接的に被害を受けていない企業の倒産が90%を占める結果が出ており、サプライチェーンの分断による影響の大きさが伺えます。
出典:株式会社東京商工リサーチ「「東日本大震災」関連倒産」より
リスク対策は想定する地震発生の場所・時間・規模や、企業の規模特性によって異なりますが、平時においては、キャビネットやパソコンの固定、データのバックアップ等の対策を行うと共に、有事に備えてハザードマップを見て避難場所や避難経路を確認し、安否確認の連絡方法や緊急時の主要連絡先一覧、消化設備や防護安全設備、非常用物品の備蓄や持ち出し品リスト等を作成しておく事が重要です。また、防災訓練を普段から実施して消化設備の使用方法や応急処置方法等を自社内で共有すると共に、地震は広範囲に被害が広がる可能性があるため、日頃から地域の防災訓練にも参加するなど、自社だけではなく、周辺企業や地域住民と協力する共助の体制構築が重要です。それらの有事に備えた全社的な活動は危機管理規程やBCPに落とし込み、教育・訓練を通して現場に周知することが重要であり、中小企業の場合は事業継続力強化計画(ジギョケイ)の認定を受ける事で、リスク対策を目的とした設備投資に対する低利融資や税務面での優遇措置、保険の割引等が適用される可能性があるため、積極的な利用が求められます。
有事に損失を最小化するには、予め有事の対応方針を明確化し、必要な準備を行うと共に、BCPや危機管理規程等に基づいた適切かつ迅速な対応が求められます。基本的に最優先されるのは安全であり、業務中の場合は、自分の身の安全を確保した上で、自衛消防対応として初期消火・ケガ人の救助・被害の拡大防止や避難誘導を行う必要があります。自衛消防対応後は、役割を分担して初動対応を行います。初動対応は、安否確認、被災状況確認、事業所状況確認等の「状況把握」、職員等の支援、設備の復旧手配、地域周辺対応等の「安全確保」、お客様への報告、業務関連情報の収集、災害広報、復旧対応等の「特別対応」の3つに分けられます。初動対応後は日常業務への復旧が必要ですが、ヒト・モノ・システムなどの経営資源が満足に揃わない可能性があるため、業務に優先順位をつけて優先度の高い業務に経営資源を集中する対応が求められます。
※事業継続力強化計画×保険パンフレット https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/download/pamflet/hoken.pdf
(出典:中小企業庁ウェブサイトより https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.htm)
地震は多くの企業に致命的なダメージをもたらすリスクであり、財務対策としての保険の必要性は非常に高いと考えられます。しかし、地震に伴う財産損失や賠償責任、事業中断に関わるリスク等を全て保険に移転するのは難しい場合があります。理由としては、そもそも保険会社の引き受けの制限や、引き受けても保険料が非常に高額になることが想定されるからです。そのため、まずは積極的なリスクコントロールで損失を最小化し、出来る限り財務力を高めて保険の効率化を図ることが重要ですが、必要に応じて、保険以外の資金調達方法も検討することが求められます。具体的には、有事の際の融資予約や有事の際に返済が免除される金融商品の活用、実損額を支払う保険ではなく、一定の地域で一定の震度の地震が発生した場合に、予め設定した金額を支払うデリバティブ商品の活用等が考えられます。何れにしても、地震大国である日本では、企業は地震による巨額の損失に備えた何らかの財務対策が求められるでしょう。
【損保ジャパン BCP地震補償保険】
https://www.sompo-japan.co.jp/hinsurance/risk/benefit/speq/
出典:中小企業庁 2019年版「中小企業白書」
以上(2023年9月)
sj09088
画像:photo-ac
提供:ARICEホールディングスグループ( HP:https://www.ariceservice.co.jp/ )
ARICEホールディングス株式会社(グループ会社の管理・マーケティング・戦略立案等)
株式会社A.I.P(損保13社、生保15社、少額短期3社を扱う全国展開型乗合代理店)
株式会社日本リスク総研(リスクマネジメントコンサルティング、教育・研修等)
トラスト社会保険労務士法人(社会保険労務士業、人事労務リスクマネジメント等)
株式会社アリスヘルプライン(内部通報制度構築支援・ガバナンス態勢の構築支援等)
牧野富太郎氏は「日本の植物分類学の父」ともいわれる、世界的な植物学者です。自らを「草木の精かも知れん」と言うほど、子供の頃から植物が好きで、一生を植物の採集・分類・図鑑作成に費やしました。1862年から1957年までの94年の生涯で、牧野氏が命名した新種や新品種などの植物は、1500種以上とも、2500種以上ともいわれています。NHKの連続テレビ小説「らんまん」(2023年度前期放送)の主人公のモデルとしても有名です。
冒頭の言葉は、「樅ノ木は残った」や「赤ひげ診療譚」などの著作で知られる小説家の山本周五郎氏が雑誌の編集記者だった時代に、対談した牧野氏から言われたとされています。まだ20代の山本氏が対談中に「雑草」という言葉を口走ると、牧野氏はなじるように冒頭の言葉を述べ、「どんな草にだって、ちゃんと名前がついている」と指摘。さらに、「世の中の多くのひとびとが“雑草”だの“雑木林”だのと無神経な呼び方をする。もしきみが、“雑兵”と呼ばれたら、いい気がするか」ととがめられ、山本氏は「これにはおれも、一発ガクンとやられたような気がした」と振り返ったエピソードが残っています。
牧野氏が山本氏をとがめた理由は、自分が愛する植物に対する無神経さに憤っただけではないはずです。なぜなら、牧野氏は講演などで、しばしば「草木でさえ思いやるようにすれば、人間同士は必然的になおさら深く思いやり厚く同情する」と語り、人間愛、博愛心を養うために、草木に対して愛情を持つことを勧めていたからです。
そもそも、“雑草”という言葉は、「人為的ではなく自然に生えた草」「名前が分からない雑多な草」「目的の栽培植物以外に生える草」などを指しますが、どれも自分にとって有用かどうか、邪魔かどうかといった“人間都合の目線”を含んでいます。人間が大切に栽培している農作物と同様か、それ以上に必死に生きている草の立場は、全く考慮されていません。また、薬草などのように、“雑草”扱いしていたものが、後になって人間にとって有用だと分かることもあるものです。
人間にとって有用かどうか、という観点は、結果が求められるビジネスの世界においては、ごく当たり前の評価軸です。社員が会社に対する貢献度で評価されるのも当然のことです。ですが、現時点で社員としての評価が低いからといって、その人を“雑兵”のように見なし、態度や扱いにも露骨に表すことは、それとは全く別の次元の話です。むしろ、同じ組織の仲間である以上、上役は評価の低い社員ほど愛情を注いで、会社に貢献できるように導いていくべきではないでしょうか。
草木は水やりをすれば大きく育ちます。人が世話をしない“雑草”だって必死に伸びようとします。会社に貢献できない社員に対して、イライラするときこそ、社員の未来に思いをはせ、愛情をもって接してみてはいかがでしょうか。
出典:「周五郎に生き方を学ぶ」(木村久邇典、実業之日本社、1995年11月)、
「牧野富太郎自叙伝」(牧野富太郎、講談社、2004年4月)
以上(2023年8月作成)
pj17611
画像:Kuromiya_kate-Adobe Stock