業績と連動し、社員にも分かりやすい「業績連動式」賞与のポイント

書いてあること

  • 主な読者:社員のモチベーションが上がる賞与制度を実施したい経営者
  • 課題:業績と連動し、社員にも分かりやすい制度にしたい
  • 解決策:「業績連動型」賞与を導入し、賞与原資の決定基準を社員に示す

1 なぜ、賞与のありがたみが社員に伝わらないのか?

業績連動型とは、

会社の業績や社員の勤務成績に応じて賞与を決定する仕組み

です。日本の会社の65.4%が「業績連動型」賞与を導入しています(厚生労働省「令和4年賃金引上げ等の実態に関する調査」)。一方、「支給額=基本給×○カ月分」といった単純な仕組みに比べると計算過程が不透明で、社員が「こんなに頑張っているのに賞与が下がった……」と不満を覚えることがあります。

賞与を支給するか否かは会社の自由です。それでも多くの経営者は「頑張った社員に報いて、今後もモチベーション高く仕事をしてほしい」と思うからこそ、賞与を支給します。社員が不満を覚えるようでは、「そもそも賞与を支給する意味があるのか」ということになってしまいます。賞与も含め、報酬に対する会社と社員のギャップを埋めることは難しいのですが、

できるだけ社員に分かりやすい制度にして不透明感をなくす

ことで、ある程度不満は和らぎます。この記事では、業績連動型に着目して、社員にとって分かりやすい賞与制度にするためのポイントを紹介します。

2 何を業績指標とするか?

業績連動型の手順をおおまかに言うと、

  • 業績指標を基準に「営業利益×○%」などで賞与原資を決める
  • 賞与原資の範囲内で各社員の勤務成績を基準に支給額を決める

という形になります。

業績指標には次のようなものがあります。

  • 「売上高」基準(売上高、生産高など)
  • 「利益」基準(営業利益、経常利益、当期純利益など)
  • 「付加価値」基準(付加価値)
  • 「キャッシュ・フロー」基準(営業CFなど)
  • 「株主価値」基準(ROA、ROE、ROIなど)

ちなみに、日本経済団体連合会・東京経営者協会の調査によると、業績連動型を採用している社員数500人未満の会社では、

「営業利益」を基準とする会社(60.0%)が最も多く、次に多いのは「経常利益」を基準とする会社(38.2%)

となっています(日本経済団体連合会・東京経営者協会「2021年夏季・冬季賞与・一時金調査結果」、複数回答)。

こうして業績指標が決まったら、それを基準に賞与原資の額を計算します。どの程度を賞与原資にするかは会社次第ですが、

「営業利益×○%」だけだと、業績の好不調によって賞与原資が大きく変動し社員に不安を与えるので、最低保障額を設ける

ことも検討しましょう。

3 支給対象者をどうするか?

賞与原資が決まったら、次は支給対象者を明らかにします。一般的には、

考課の対象期間内に勤務実績があって、支給日に在籍している社員

を対象とします。また、賞与を支給してから一定期間内に退職することが決まっている社員などは、対象から除外します。なお、非正規社員(パート等)に賞与を支給しない会社も多いですが、こうした対応は同一労働同一賃金に違反する恐れがあります。業務内容や労働時間などについて、正社員と働き方が同じ非正規社員がいないかを確認した上で、慎重に判断しましょう。

支給対象者が決定したら、支給対象者ごとの配分を決めます。一般的には、次のような要素を複数組み合わせて配分率を計算します。

  • 部門業績(所属部門の経常利益が○万円以上なら配分率○%など)
  • 人事考課(A評価なら配分率○%など)
  • 資格等級(○級なら配分率○%など)
  • 出勤率(週○時間勤務なら配分率○%など)

参考までに、日本経済団体連合会・東京経営者協会の調査によると、賞与・一時金の1人当たり平均支給額を100とした場合、非管理職・管理職ともに「考課査定分(人事考課)」「定額分(最低保証額など)」の配分割合が高いようです(日本経済団体連合会・東京経営者協会「2021年夏季・冬季賞与・一時金調査結果」)。

  • 非管理職:考課査定分39.4、定額分30.2、定率分27.7、その他2.7
  • 管理職:考課査定分51.1、定額分28.2、定率分17.5、その他3.2

以上(2023年6月)

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画像:Eisenhans-Adobe Stock

【朝礼】この件は、君と何度でも話し合うよ

上司の皆さん、毎日、部下の方と話をしていますか。特に部下と毎日顔を合わせているマネジャークラス(課長クラス)の方は、昨日、部下全員と話をしましたか。

上司と部下のコミュニケーションは、ビジネスの指示や報告が基本です。上司の皆さんのコミュニケーションは部下への一方的な指示になっていませんか。あるいは、部下からの報告を受けるだけになっていませんか。

上司と部下がコミュニケーションを図るためには、その「内容」が大切です。ビジネスの現場では、ビジネス上の指示や報告がメーンとなりますが、その際に上司からの一方的な指示や部下からの報告だけでは、コミュニケーションは不十分です。

上司が指示する際には、抽象的な指示でなく、個別具体的な指示をしてください。こう言うと、部下が自分で考えることをせず指示待ちになるので、部下の指導には適していないと言う人がいます。しかし、これはビジネスの最前線を知らない評論家の考えのように思えてなりません。ビジネス経験の乏しい部下に、すべてを任せる方が無責任というものです。

上司は個別具体的な指示をいくつか出し、部下に選択させるのです。上司の個別具体的な指示により、部下はすべきことが明確になります。選択肢があればそれぞれのメリットやデメリットまで考えるでしょう。こうしたことを、部下に熟慮させて、実行する案を選択させるのです。人は具体的な課題があれば、その解決に前向きになります。また、ゴールに近づくと「もう少しでゴールだ。頑張ろう」とやる気が出るものです。

部下への選択制の個別具体的な指示は、目の前に課題を示すと同時に、その解決がゴールに結びつくということを教えてあげることなのです。

次に、部下の報告です。仮に、上司が示した個別具体的な指示から、部下が一つを選択することとしましょう。自分が選択した理由を、詳細に説明できなければなりません。上司からはさまざまな質問が出るでしょう。例えば、「なぜ、この案を採用するのか」「成功の定義をどこに設定するのか」「誰かに相談したのか」「実行性はどちらが高いのか」「過去に同様のことを実施した経験があるのか」「失敗したら代替はどうするのか」などです。まだまだ質問は出るでしょう。上司が質問し部下が答え、分からないところは一緒に考えることになるでしょう。こうすることで、単なる部下の報告ではなく、上司と部下の意見交換になります。

上司と部下は、この件について、真剣に、時間をかけて、互いが納得するまで意見交換することになるでしょう。上司は「部下が選択するに至ったプロセスが大事」であることを知っているからです。

部下の方は安心してください。上司は「時間がないから」とは決して言いません。上司は「この件は、君と何度でも話し合うよ」と言ってくれます。それは、上司は部下が成長する姿を見ることが何よりうれしいからです。

以上(2023年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

豪雨時の水没リスク(2023/6号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

近年は、梅雨の時期に大雨による災害が発生することも珍しくありません。集中豪雨やゲリラ豪雨など局地的大雨により、日頃走行している道路が冠水し、自動車が水没するといったリスクが以前より高まっています。

今回は、豪雨により冠水した道路を走行する場合の自動車の水没リスクについて考えます。

豪雨時の水没リスク

1.冠水道路の走行に伴うリスク

都市部などでは舗装面積が多いため、集中豪雨やゲリラ豪雨が発生すると、周囲より低い場所では雨水の排水処理能力が限界を超えてしまい、道路が冠水することがあります。道路が冠水すると、運転者は路面状況が分からず深みにはまったり、側溝へ脱輪したりするおそれがあります。特に周囲に比べて道路の高さが低くなっているアンダーパスでは水没リスクが高く、注意が必要です。

冠水した道路を走行する場合、一般的な自動車はある程度の浸水に耐えられるように設計されていますが、エンジン内部やマフラーに水が入ってしまうと故障するおそれがあります。冠水した道路では水深により自動車に以下のような不具合が生じます。

冠水道路の走行に伴うリスク

出典:国土交通省Webサイト「水深が床面を超えたら、もう危険!-自動車が冠水した道路を走行する場合に発生する不具合について-」より当社作成
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha08_hh_003565.html

2.水没リスクを回避するために

アンダーパスは全国に3,700箇所ほどあり、 それ以外にも周囲より低く水はけが悪いといった豪雨時に冠水しやすい場所は思った以上に多いものです。 日頃通勤や業務で走行している道路に冠水しやすい場所がないか一度確認しておくのがよいでしょう。

また、気象情報を確認することを習慣にして、集中豪雨やゲリラ豪雨などに関する情報を早期に把握し、予め危険を回避できるようにしておくことが大切です。

・道路冠水想定箇所の確認
 国土交通省「重ねるハザードマップ」
https://disaportal.gsi.go.jp/maps/?ll=36.097938,139.87793&z=7&base=pale&vs=c1j0l0u0t0h0z0

・大雨・洪水の危険度の確認
気象庁「浸水キキクル(危険度分布)」、「洪水キキクル(危険度分布)」
https://www.jma.go.jp/bosai/#pattern=rain_level&area_type=japan&area_code=010000

浸水キキクル

万一の場合に備え、脱出用ハンマーやシートベルトカッターなどの避難用具を車内に常備しておくようにしましょう。避難用具はいざというときに手の届く範囲にあることが重要です。

国土交通省webサイト「いざというときのために、緊急脱出用ハンマーを備え付けましょう!」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/carsafety_sub/carsafety023.html

3.冠水道路を走行する場合の注意点

道路が冠水するような豪雨時の運転では、無理をしないことが大切です。

やむを得ず冠水した道路を走行する場合は、以下の点に注意しましょう。

  • アンダーパスには入らない。
  • 前車の水しぶきや急停車を想定し、車間距離を十分に取る。
  • 水を巻き上げないように速度を十分落とし、ゆっくりと進む。

アンダーパス

豪雨により短時間で道路が冠水するような場合、水深も急速に増していくおそれがあります。

「これくらいの冠水なら進めるのでは」といった油断は禁物です。

<走行後は>

  • ブレーキの効きが悪くなったと感じたらブレーキを数回踏んでブレーキパッド等を乾かしましょう。
  • エンジンや電気装置が浸水した場合は、故障や車両火災のおそれがあるので、エンジンをかけてはいけません 。ロードサービスや自動車販売店、整備工場等に連絡しましょう。

以上(2023年6月)

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画像:amanaimages

【事業承継】 自社株の評価を引き下げて有利に事業承継を有利に進める

書いてあること

  • 主な読者:事業承継を検討しており、自社株式の評価を引き下げたい経営者
  • 課題:自社株の評価を引き下げる方法が分からない
  • 解決策:役員退職金の支給、不動産の購入などを行う。オーナー経営者と会社との借入金、貸付金がある場合はその処理にも注意

1 自社株式の評価額の問題

事業承継は、後継者に自社株式を引き継ぐことで行われますが、業績が良いと自社株式の評価額は高くなり、贈与時または相続時の納税額も高額になります。親族内承継の場合、後継者の税負担を減らすために自社株式の評価額を引き下げることが基本となります。

気になるのは自社株式がどのように評価されるかですが、その方法は次の4つです。

  • 原則的評価方式:類似業種比準価額方式、純資産価額方式、両者の併用方式
  • 特例的評価方式:配当還元方式

詳細は省略しますが、類似業種比準価額方式と純資産価額方式のどちらの場合も、純資産価額を引き下げれば自社株式の評価額が下がりますので、純資産価額を引き下げる方法を確認しましょう。

2 純資産価額を引き下げる方法

1)役員退職金の支払い

役員退職金を支払えば純資産価額を引き下げることができます。ちなみに、事業承継税制を適用する場合は、贈与時または相続時にオーナー経営者が代表権を持っていないことが要件の1つなので、オーナー経営者を退職させて役員退職金を支給すると、「純資産価額の引き下げ」と「事業承継税制の要件の1つを満たす」ことが同時に実現します。

役員退職金の金額には注意しましょう。役員退職金の適正な金額は、

最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率

といった功績倍率法で計算するのが通常です。数式にある「功績倍率」は、経営者であれば3倍前後となることが多いですが、あらかじめ功績倍率を定めた役員退職金規程を整備し、役員退職金を支払うときには議事録を作成しておかなければ、税務上否認される恐れがあります。

2)不動産の購入

賃貸物件となるアパートやマンションなどを会社で購入することにより、購入金額とその評価額との差額分だけ会社の純資産価額を引き下げることができます。購入したアパートやマンションなどは「時価」により評価されますが、この場合の「時価」は相続税評価額を用いることができるため、一般的に購入金額よりも低く評価されます。

ただし、事業承継以前3年以内にアパートやマンションなどを会社で購入した場合は、相続税評価額を用いて低い評価額とすることができず、通常の取引価額に相当する金額によって評価することとされるので、計画的に実施する必要があります。

3 自社株式の取り扱いと事業承継税制の問題

自社株式の問題は、事業承継後の経営権にも影響を及ぼします。経営者が持つ自社株式を、事業承継税制を使って後継者に引き継ぐ場合、

贈与や相続により引き継ぎを受けた後継者がその会社の筆頭株主となるなどの要件を満たさなければ、事業承継税制の特典である納税猶予を受けられない

のです。また、納税猶予を受けた後、引き継ぎを受けた自社株式の譲渡を行うなど、納税猶予が認められない事由が生じた場合、納税猶予を受けた贈与税や相続税の一部または全部を納付する必要があります。

4 オーナー経営者と会社との借入金・貸付金の問題

1)オーナー経営者が会社に貸し付けている場合

オーナー経営者が会社に貸し付けているケース、つまり会社の借入金の問題です。オーナー経営者が「返さなくていいですよ」と債権を放棄した場合、会社は債務免除益を計上しなければなりません。借金が減るのはいいことですが、半面、

負債(借入金)が減少して利益が増加し、純資産価額が引き上げられ、自社株式の評価額も上昇する

という問題が生じるので注意しましょう。

また、オーナー経営者が死亡した場合、会社の借入金はオーナー経営者の相続財産となり、オーナー経営者の相続人に引き継がれます。

2)会社がオーナー経営者に貸し付けている場合

先ほどとは逆に、会社がオーナー経営者に貸し付けているケース、つまり会社の貸付金の問題です。病気などオーナー経営者に特別な事情がある場合を除き、適正な利率による受取利息(認定利息)を計上しなければなりません。もし、「相手がオーナー経営者だから利息はいらない」とこの処理をしていない場合、利息相当額との差額がオーナー経営者への役員報酬となって課税されます。

適正な利率とは、その貸付金が他からの借り入れによるものであればその借入金の利率、それ以外の場合には、貸し付けを行った日の属する年ごとに租税特別措置法に定められた利率です。

また、会社が計上しているオーナー経営者に対する貸付金について債務免除した場合、返済能力がないなどの特別な事情がある場合を除き、その免除した金額の全額が給与として課税されます。

以上(2023年6月)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

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画像:Mariko Mitsuda

【SDGs】どうする? アクリル板の「大量破棄」問題

書いてあること

  • 主な読者:飛沫感染の防止のためにアクリル板を設置していた飲食店など
  • 課題:アクリル板が不要になったので処分したい
  • 解決策:アクリル板は産業廃棄物として処理する。SDGsを意識するならリサイクルも可能

1 不要になったアクリル板。つくる責任、つかう責任

新型コロナウイルス感染症は、感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザなどと同じ「5類感染症」に変更されました(2023年5月8日)。これに伴い、コロナ禍で実施してきた感染対策の見直しが進み、アクリル製のパーティション(以下「アクリル板」)の撤去が進んでいます。ここで問題となるのが、不要となったアクリル板の処理ですが、保管するには場所をとるので、結局、廃棄せざるを得ないでしょう。

この記事では、要らなくなったアクリル板を処分する際のポイントと、リサイクルの可能性を探っていきます。この取り組みは、SDGsの12番目のゴールである「つくる責任、つかう責任」にも関係してきます。

2 アクリル板は産業廃棄物

飲食店などが使ったアクリル板は、

産業廃棄物(廃プラスチック類)になるので、一般ごみとして捨てることはできない

ことになっています。そのため、適切な産業廃棄物処理業者(以下「処理業者」)に収集運搬や処分を委託しなければなりません。通常、処理業者はアクリル板のサイズと枚数、引き取り場所(建物の階数やエレベーターの利用可否、駐車スペースの有無)などを基に、収集運搬や処分の費用を算出します。東京都内のある処理業者にヒアリングしてみたところ、

縦60センチメートル×横1メートルほどのサイズのアクリル板が数枚程度の場合、付近に駐車しているトラックまで持参してもらう条件で、1枚2000~3000円の費用感になる(4月21日現在)

ようです。

なお、環境省は5類感染症への変更に合わせ、4月28日に処分についての情報提供を開始しました。

■環境省「不要になった新型コロナウイルス感染症対策の備品等(パーティション等)について」■
https://www.env.go.jp/recycle/waste/infect_contr.html

3 アクリル板はリサイクルできる?

処理業者の中には、主に廃プラスチック類の収集運搬を行うプラスチック回収業者や、主に廃プラスチック類の中間処分を行うリサイクル業者があります。廃プラスチック類は、次の3つの方法でリサイクルされています。

1.サーマルリサイクル(エネルギー回収)

廃プラスチック類を焼却し、発生した熱を発電や熱源に利用します。

2.マテリアルリサイクル(再生利用)

廃プラスチック類を洗浄、粉砕し、粒状化したものを溶融して再製品化します。

3.ケミカルリサイクル

廃プラスチック類を化学反応によって分解し、高炉・コークス炉原料として利用したり、ガス化、油化したりします。

2020年の国内の廃プラスチック類の有効利用率は次の通りです。

廃プラスチックの有効利用率

環境省リサイクル推進室へのヒアリングによると、アクリル板を含むアクリル製の廃プラスチック類について次のようなコメントが得られています。

これまでは海外輸出や焼却(サーマルリサイクル含む)、埋め立て処分が大半でした。マテリアルリサイクルをしている事業者は少なく、ケミカルリサイクルには多額の設備投資が必要なので、なかなか進みませんでした。

4 マテリアルリサイクルの好事例

緑川化成工業(東京都台東区)は、アクリル製品のマテリアルリサイクルをしています。プラスチック関連製品の加工・成形をしている同社は、国内で初めてエコマークを取得した再生アクリル板「リアライトRE」を約20年以上にわたって市場で展開しています。

「リアライトRE」の再生原料含有率は約80%。原料を再利用するため、本来のアクリル製品の製造よりも工数が少なく、初期製品とくらべてCO2排出量を71%削減できるそうです。

アクリル製品のマテリアルリサイクルは、

アクリル素材の回収→粉砕→溶解→再原料(ペレット)化→再生アクリル板などに成形

というフローで、再度市場に展開されます(図表2参照)。

アクリル樹脂のリサイクルフロー

アクリル板は、製造方法によって

  • マテリアルリサイクルができる押出板
  • マテリアルリサイクルができないキャスト板

に分かれます。ただ、製品になった状態で両者を見極めるのは難しく、この点がアクリル板の再原料化の難関です。そのため、これまでの同社の再原料化は、事前に選別された工場内端材(プレコンシューマー材)を主原料としていました。今後はアクリル板の大量廃棄を想定し、

2023年10月から独自技術による識別ラインの稼働を予定

しているそうです。

■緑川化成工業■
https://www.midorikawa.co.jp/

5 ケミカルリサイクルの可能性

ケミカルリサイクルは、2021年に三菱ケミカルと住友化学が参入し、実証設備を新設し終えたところです。三菱ケミカルは、2023年3月にアクリルグッズ等再生利用促進協議会に発起人として参画しました。同協議会はアクリル製品の再生利用を促す啓蒙活動と回収活動を行っており、活動の中で回収したアクリル製品は、三菱ケミカルがリサイクルをします。

また、住友化学は、2023年春からケミカルリサイクル品のサンプル提供を開始し、事業化に向けた取り組みを進めています。

■アクリルグッズ等再生利用促進協議会■
https://lucca-tokyo.co.jp/acrylic-recycling-pc/

6 (参考)アクリル板を保管しておく際の注意点

新型コロナウイルス対策を助言する厚生労働省の専門家組織「アドバイザリーボード」は、感染再拡大に備え、アクリル板について当面の保管を提唱しています。保管は次のようにして、ダンボールなどにまとめておくとよいでしょう。

  • 表面が傷つきやすいので、積み上げた状態で埃が付かないように覆いをする
  • たわみやすい性質があるので、斜めに並べず平積みする
  • 保管場所は温度が50度以下の場所で、なるべく紫外線が当たらず、湿度の低い場所にする(50度を超えると変形するおそれがある)

以上(2023年6月)

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画像:maroke-Adobe Stock

小さな会社が大企業をぶっ飛ばすために知っておくべき「ランチェスター戦略」

書いてあること

  • 主な読者:「ランチェスター戦略」の基本が知りたい経営者
  • 課題:経営資源が限られる中小企業が取るべき戦略が知りたい
  • 解決策:地域・顧客・商品などの戦う領域を絞って市場シェア1位になる

1 中小企業は「ランチェスター戦略」で勝つ

ランチェスター戦略とは、

弱者が強者に勝つための戦略であり、言い換えるなら「中小企業が限られた経営資源で勝ち残るための戦略」

でです。もともとは、第1次世界大戦のときに英国人のフレドリック・W・ランチェスターが導き出した戦い方で、それを第2次世界大戦の際に進化させました。そして、戦後にマーケティングコンサルタントの田岡信夫氏がマーケティング活用などで使えるように体系化したといわれます。

ランチェスター戦略は「勝つための戦略」であり、兵力、つまり経営資源の乏しい中小企業が、いかにして勝ち残っていくかのヒントが多くあります。この記事では、ポイントをまとめています。

2 ランチェスター戦略とは

1)弱者向けの「ランチェスター第一法則」

ランチェスター第一法則とは、刀を持って戦うような接近戦や局地戦で、基本的には1人が1人としか戦うことができない状況を想定した場合、

武器の性能が双方同じであれば、兵力数の勝るほうが勝利する

というものです。

画像1

兵力が小さいB軍が勝つためには、武器効率を上げる必要があります。例えば、B軍が武器効率を1から2に上げることができれば、

2×3(B軍)-1×5(A軍)=B軍は1人が生存

することになり、B軍が勝利します。範囲が限定された戦場で武器効率が同じなら、兵士の数が多いほうが勝つという意味で、ランチェスター第一法則は弱者向きだといえます。

2)強者向けの「ランチェスター第二法則」

ランチェスター第二法則とは、マシンガンや戦闘機を投入して戦うような広域戦や遠隔戦、確率戦で、基本的には1人が複数の敵を狙える状況を想定した場合、

戦闘開始時の兵力数の2乗対2乗の力関係で戦う

というものです。

画像2

ランチェスター第二法則でも、兵力が大きいA軍が勝ちます。しかも、兵力が小さいB軍の損害は圧倒的に大きくなります。ここから分かるのは、

弱者は、ランチェスター第二法則で戦ってはならない

ということです。

以上のランチェスター戦略の第一法則、第二法則から、

  • 武器効率(質)が同じなら、兵力(数)の多いほうが有利
  • 弱者はランチェスター第一法則、強者はランチェスター第二法則で戦うべき

ということになります。

3 弱者とは誰か?

ランチェスター戦略から、中小企業が勝ち残っていくためには、

全国展開よりも地域限定、フルラインアップよりも一点突破で戦うことが望ましい

ということが分かります。

ちなみに、戦闘ではなくビジネスを想定しているランチェスター戦略では、強者=市場シェア1位の企業、弱者=市場シェア2位以下の企業のことを指します。強者=大企業、弱者=中小企業と考えがちですが、例えば、

ある地域に限れば、中小企業が大企業を抑えて、市場シェア1位=強者になる

ことができます。このため、ランチェスター戦略は、弱者が強者になるための戦略を示しているとされます。

ランチェスター戦略では、強者になるためには、

  • ナンバーワン主義
  • 「足下(そっか)の敵」攻撃の原則
  • 一点集中主義

という3つのポイントが重要だとされています。次章で確認しましょう。

4 ランチェスター戦略から導く中小企業の戦い方

1)ナンバーワン主義

ナンバーワン主義とは、

2位以下を圧倒的に引き離して「ナンバーワン」になることを重視した考え方

です。ナンバーワンの目安とは、市場シェアに占める割合が41.7%(安定目標値)以上を指します。ただし、当初から41.7%の市場シェアを占めている必要はなく、まずは強者と弱者の境目とされる市場シェア26.1%(下限目標値)を目指します。そして、ほぼ独り勝ちの状態とされる41.7%を経た後、73.9%(上限目標値)に達することができれば理想的です。73.9%が理想的とされるのは、2位以下に逆転されることがなくなると考えられているためです。

また、ナンバーワンを目指す際は、

  • 地域
  • 顧客
  • 商品

の順で、自社がシェアを確保する余地があるかを検討します。例えば、世界初の画期的な商品をゼロから生み出して市場シェアナンバーワンを目指すよりも、自社製品を限られた地域で販売して市場シェアナンバーワンを目指すほうが容易です。そのため、1.~3.の順でナンバーワンとなる方法を検討するのです。

2)「足下の敵」攻撃の原則

「足下の敵」攻撃の原則とは、

自社がナンバーワンとなるために、まずは自社の1つ下にいる企業から攻撃する

という考え方です。足下の企業は、自社より弱者であり、勝ちやすい相手です。勝ちやすい相手からシェアを奪い、自社の市場シェアが上位の企業と拮抗した時点で対決に挑みます。

この「足下の敵」攻撃の原則で重視されているのが、競争目標と攻撃目標を分けるという考え方です。具体的には、自社よりも市場シェア上位の企業を目標(競争目標)として定めながら、攻撃を仕掛ける相手は自社よりも市場シェアが下位の企業(攻撃目標)とします。

 競争目標と攻撃目標に対する戦い方は異なります。競争目標に対する戦い方は、差別化戦略です。数に劣る自社は、質を高める必要があり、競合先と同じことをしていては勝てません。足下の競合先をたたいた後は、差別化戦略によって質を高め、上位の競合先と戦う必要があります。

一方、攻撃目標に対する戦い方は、ミート戦略(競合先と同じことをする、合わせる)です。同質であれば、数に勝るほうが勝利するため、強者である自社は競合先と同じことをすればよいのです。

3)一点集中主義

一点集中主義とは、

ナンバーワンになるために、一点を決めて集中的に投資する

という考え方です。「1.地域」「2.顧客」「3.商品」の視点から市場を細分化し、自社が強者となることができる、集中的に経営資源を投入していく重点化市場を定めます。

これによって、「兵力的な優位を築き→差別化によって質を高め→収益性が増す余力を生み→その余力で次なる重点化市場を攻略する」というサイクルを生むことができます。ランチェスター戦略では、このサイクルを繰り返しながら、ナンバーワンを目指すのが基本です。

4)重要なのは差別化

以上で紹介した3つの戦い方で重要なのは差別化です。弱者が強者に勝つためには、差別化によって競合先(強者)とは異なる、自社独自の取り組みを実施することが必要です。自社を競合先と差別化する際、市場を細分化し、次の6つの視点から検討します。

  • 製品(Product):例)商品に機能を加えるなど
  • 価格(Price):例)3つ買うと1つ無料とするなど
  • 流通(Place):例)インターネットで販売するなど
  • プロモーション(Promotion):例)手書きのDMを送付するなど
  • サービス:例)アフターサービスを無料で提供するなど
  • 地域:例)自社から片道30分以内の地域だけに配達するなど

差別化を検討する際には、「競合相手よりも、価格を低く抑え、アフターサービスを無料で提供し、地域限定で販売する」など、上記6つの中から3つ以上を組み合わせることが効果的だとされています。

【参考文献】
「世界一やさしいイラスト図解版! ランチェスターNo.1理論—小さな会社が勝つための3つの結論」(坂上仁志、ダイヤモンド社、2013年3月))
「小さな会社の稼ぐ技術」(栢野克己(著)、竹田陽一(監修)、豊倉義晴(取材・執筆協力)、日経BP社、2016年12月)

以上(2023年5月)

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画像:pexels

新型コロナ5類移行にともなう実務上の注意点

令和5年5月8日より、新型コロナウイルス感染症が、感染症法による2類相当から季節性インフルエンザと同様の「5類感染症」に引き下がりました。

厚生労働省が示した「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付け変更後の療養期間の考え方等について」によると、新型コロナウイルスに感染した場合は、感染症法に基づき、行政が患者に対し、外出自粛を要請することはなくなり、外出を控えるかどうかは、季節性インフルエンザと同様に、個人の判断に委ねられることになりました。

本稿では、新型コロナウイルス感染症の5類引き下げ以降に労働者が感染した場合の就業措置(労働安全衛生法)と感染または濃厚接触者となった場合の傷病手当金(健康保険法)の請求について、実務上の注意点を解説していきます。

1 労働者の就業に当たっての措置

感染症法によると、1類感染症から3類感染症に罹患した場合は、就業制限の措置をとる必要があるとされています。また、労働安全衛生法では、「伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものに罹った労働者については、その就業を禁止しなければならない。」とあります。

つまり、2類相当に分類されていた新型コロナウイルスは、労働者が感染した場合、就業制限の措置をとる必要がありました。

感染症法上の類型

(「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」「労働安全衛生法」)

新型コロナウイルスの5類引き下げは、就業制限も撤廃されることになります。労働者が新型コロナウイルスに感染した場合でも、会社として、就業を制限する(就業を禁止する)ことはできなくなるため、今後は、コロナ感染を含む体調不良時には、無理に出社をせず、有給休暇を取得するなど、自主的に休暇が取得できるような労働環境を構築する必要があります。

2 傷病手当金について

5類移行後も、業務外の事由で、新型コロナウイルス感染症に罹患し、労務不能となったときには、健康保険の傷病手当金が請求できます。

傷病手当金支給申請書

(「全国健康保険協会」)

新型コロナに係る傷病手当金の注意点として、令和5年5月7日までの支給申請については、臨時的な取扱いとして、療養担当者意見欄(申請書4ページ目)の証明が不要でしたが、5類に移行したことにより、令和5年5月8日以降の支給申請については、他の傷病による支給申請と同様に、傷病手当金支給申請書の療養担当者意見欄に医師の証明が必要となります。

3 さいごに

法律による就業禁止は、いわゆる「使用者の責に帰すべき理由による休業」には該当しないため、会社は休業補償の支払いをする必要はありません。しかし、今後、新型コロナに感染した労働者に、従来の就業制限を継続していると、法律上「休業手当」の支払いが必要となります。

また、傷病手当金は、労働者本人に自覚症状がなく、家族等が感染し濃厚接触者になった場合、労働者自身が労務不能と認められない限り、給付の対象とはなりません。

こうした状況下においても、労働者を無理に出社させることは得策ではなく、今後は、職場での感染拡大を阻止するために、新たなルール作りが求められるでしょう。

※本内容は2023年5月15日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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新型コロナ5類移行にともなう実務上の注意点

令和5年5月8日より、新型コロナウイルス感染症が、感染症法による2類相当から季節性インフルエンザと同様の「5類感染症」に引き下がりました。

厚生労働省が示した「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付け変更後の療養期間の考え方等について」によると、新型コロナウイルスに感染した場合は、感染症法に基づき、行政が患者に対し、外出自粛を要請することはなくなり、外出を控えるかどうかは、季節性インフルエンザと同様に、個人の判断に委ねられることになりました。

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「人は欲しいが先行きは心配」今、知っておきたい業務委託、在籍出向を使った働き手の確保

書いてあること

  • 主な読者:働き手を確保したいが、新たに社員を雇用するのは不安な経営者
  • 課題:先行きが不透明で、今社員を雇用しても後々人が余ってしまう可能性がある
  • 解決策:「業務委託」や「在籍出向」など、雇用によらない方法で働き手を確保しつつ、「副業の解禁」など、働き方の自由度を上げて今いる働き手を会社に定着させる

1 「人は欲しいが先行きは心配」な社長へのご提案

人手不足と働き方改革が同時に進む日本では、働き手の確保がますます難しくなりました。一方、先行きが不透明な中で新たに社員を雇用すると、後々の負担になってしまうという心配もあります。「人は欲しいが先行きは心配」、そんな社長にご提案したいことが2つあります。

1つは、

「業務委託」や「在籍出向」など、雇用によらない方法で働き手を確保すること

です。業務委託については、仲介業者が数多く存在しており、必要なときだけ随時仕事を依頼したいという会社に向いています。直接雇用ではないので、負担も軽いです。在籍出向は、親会社と子会社などのグループ間で社員を行き来させる制度ですが、こちらも出向期間を決めることで、必要なときだけ働き手を確保できます。

もう1つは、

「副業の解禁」など、働き方の自由度を上げて今いる働き手を会社に定着させること

です。人手不足なのに副業を解禁するというのは矛盾しているように思えますが、働き方改革の視点では、現在雇用している社員が会社から離れていかないための工夫が大切です。それに、御社が副業人材を受け入れることもあるでしょうから、副業について最低限の知識を得ておくことは重要なのです。

いかがでしょうか。ご興味を持っていただけたでしょうか。この記事の内容は、次の図表で紹介しているような業務委託、在籍出向、副業の労務管理についてですので、御社の人事労務担当者とこの記事を共有していただくのもよいと思います。

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2 業務委託

1)概要

業務委託とは、

外部の法人や個人に自社の業務を委託する契約(請負契約や準委任契約)の総称

です。業務委託契約の形態はさまざまですが、ここではその一例として「クラウドソーシング」を紹介します。

クラウドソーシングでは、仕事を受けるフリーランス(個人)と仕事を依頼する会社が、それぞれ仲介業者の運営する人材プラットフォームに登録し、オンライン上で両者がマッチングすることなどにより、業務委託契約が締結されます。契約締結後、フリーランスは会社から依頼された仕事をこなし、会社は仕事に対する報酬をフリーランスに支払います。

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2)業務上の指示

業務委託契約では、会社はフリーランスに対し、稼働する場所や時間、業務の進め方などについて具体的な指示を出すことができません。不用意に指示を出すと、フリーランスが労働基準法上の「労働者」とみなされる恐れがあり、その場合、

  • 稼働時間に応じて、時間外労働や休日労働の割増賃金を支払わなければならなくなる
  • 業務委託契約を解消した場合、フリーランスから不当解雇を主張される

などのリスクが生じます。

会社は、業務の進め方について注文があれば、必ずフリーランスと協議し合意を得るようにします。ただし、会社の注文を受けるか否かはフリーランスに決める権利があるので、会社が一方的に命令することはできません。トラブルを防ぎたいのであれば、業務委託契約を結ぶ時点で、業務の内容をできるだけ明確にしておく必要があります。

3)報酬の支払い

会社は、仕事の完成などを確認したら、業務委託契約に基づいてフリーランスに報酬を支払います。クラウドソーシングのように仲介業者を挟む場合、例えば

  1. 会社が仲介業者に対し、フリーランスに支払う分の報酬を預ける
  2. 仕事の完成などの後、会社から預かった報酬を、仲介業者がフリーランスに支払う

といった流れで支払いが行われます。なお、仲介業者は、会社から預かった報酬から、人材プラットフォームの利用料などを差し引いてフリーランスに支払う場合があります。

4)労働時間管理

フリーランスは労働者ではないため、労働時間管理という概念はありません。

そのため、会社はフリーランスに「何時から何時まで働くように」と指示することはできません。万が一こうした指示を出すと、前述したようにフリーランスが労働者に該当する恐れがあり、「稼働時間に応じて割増賃金を支払わなければならなくなる」などのリスクが出てきます。

5)社会労働保険の適用

社会保険(健康保険・厚生年金保険)と労働保険(雇用保険・労災保険)は、労働者でないフリーランスには原則として適用されません。ただし、フリーランスが個人で国民健康保険に加入したり、エンジニアなど特定の職種に該当する場合に、労災保険に特別加入(会社ではなく特別加入団体の労災保険に加入)したりすることは可能です。

そのため、会社では社会労働保険の実務は基本的に発生しません。ただし、労働災害に関しては、自社の労災保険には加入しなくても、フリーランスの安全や健康が損なわれないよう業務委託契約の内容に配慮したり、自社の社内で作業をする場合に事故などが起きないよう配慮したりする必要があります。

3 在籍出向

1)概要

在籍出向とは、

社員が出向元(社員を送る側の会社)との労働契約を維持したまま、出向先(社員を受け入れる側の会社)とも労働契約を締結して働くこと

です。基本的には、親会社と子会社などのグループ間で活用される制度です。

在籍出向では、出向元から出向を命じられた社員は、出向先の指揮命令を受けて働きます。出向社員への賃金を出向元が支払う場合、出向先は出向元に出向負担金を支払うのが一般的です。

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2)業務上の指示

社員に業務上の指示を出せるのは、原則として出向先です。

自社が出向元の場合、社員の業務については、原則として口を出さないようにします。ただし、出向先が出向契約にない業務を命じている場合などは必要に応じて改善を求めます。

自社が出向先の場合、出向契約にない業務を社員に命じる必要があれば、その都度出向元と相談します。

3)賃金の支払い

出向契約により異なりますが、賃金は、出向元が支払うことが多いです。

自社が出向元の場合、出向元が賃金を全額負担するのであれば、賃金支払いの実務は基本的に従前通りです。なお、通常は出向負担金を賃金に補填します。

自社が出向先の場合、出向元が賃金を全額負担するのであれば、特に注意点はありません。

4)労働時間管理

出向契約により異なりますが、労働時間は出向先が管理します。時間外労働や休日労働については、出向先の36協定(労働基準法第36条に基づく労使協定)が適用されます。なお、出向元が賃金を全額負担するのであれば、出向元も社員の始業・終業時刻や時間外労働や休日労働の時間を把握する必要があります。

自社が出向元の場合、出向先または社員から、毎月末日など給与計算の締日に勤怠実績(勤怠管理表など)を提出してもらい、それに基づいて賃金を支払います。

自社が出向先の場合、出向中の始業・終業時刻を管理し、社員が自社の36協定に違反しないよう注意します。

5)社会労働保険の適用

社会保険と雇用保険は、出向元が賃金を全額負担するのであれば、出向元で加入します。労災保険は、出向先の労災保険が適用されるのが一般的です。

自社が出向元の場合、社会労働保険の実務は基本的に従前通りです。

自社が出向先の場合、社員が自社で負傷などをしたときは、労災保険関連の手続きを速やかに行います。また、出向元が賃金を支払っている場合でも、労災保険に係る保険料は出向先が納付します。

4 副業

1)概要

副業とは、

社員が本業先(先に社員と労働契約を締結した会社)と副業先(後から社員と労働契約を締結した会社)の両方で仕事をすること

です。副業中は、社員は副業先の指揮命令を受けて働きます。なお、本業先と副業先の間に金銭のやり取りは発生しません。

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2)業務上の指示

社員の業務の内容は、副業先と社員の労働契約で定めます。副業中における業務上の指示も、副業先が出します。

自社が本業先の場合、副業中の社員の業務については、口を出さないようにします。本業先の経営者が副業先の経営者に対し、「ウチの社員の成長のために、〇〇の方法で業務をやらせてみてくれないか?」といった相談をするような場合も、決定権限はあくまで副業先にあることを忘れてはいけません。

自社が副業先の場合、自社の労働契約や就業規則に基づいて、通常の社員と同じように業務を行わせればいいので、特に注意点はありません。

3)賃金の支払い

賃金は、副業先での労働については副業先が支払います。

自社が本業先の場合、副業先での労働について賃金を支払うことはありません。ただし、社員が本業先と副業先の両方で働く場合、後述の時間外労働のルールを理解して割増賃金を支払う必要があります。

自社が副業先の場合、同じく割増賃金の問題を除けば、特に注意点はありません。

4)労働時間管理

労働時間は、本業先と副業先がそれぞれの就業先での労働時間を管理します。

時間外労働については、社員が1日の間に本業先と副業先の両方で働く場合、両社の労働時間を通算し、法定労働時間(原則として1日8時間、1週40時間)と照らし合わせて判断します。例えば、1日の中で本業先で5時間、副業先で4時間働いた場合

  • 1日の労働時間は通算9時間
  • 時間外労働は1時間(9時間-8時間)

となります。なお、この場合、時間外労働は原則として労働契約の締結時期が遅い会社で発生したものとされます(例外あり)。一般的には、副業先で1時間の時間外労働が発生することになるでしょう。

社員が1日ごとに就業場所を変えている場合は、通常の労働時間管理と同じです。例えば、月曜日に本業先で10時間、火曜日に副業先で9時間働いた場合、

  • 月曜日については本業先で2時間(10時間-8時間)の時間外労働
  • 火曜日については副業先で1時間(9時間-8時間)の時間外労働

が発生します。

自社が本業先の場合も副業先の場合も、こうした時間外労働のルールに注意して労働時間管理を行いましょう。なお、自社は自社以外の就業場所での労働時間を、社員からの自己申告などによって把握する必要があります。ただ、この点については、労働基準法の遵守などに支障がなければ、「一定の日数分の労働時間をまとめて申告させる」などの対応でも問題ないとされています(厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」)。

5)社会労働保険の適用

社会保険の適用要件は、本業先と副業先それぞれにおいて判断されます。社員が本業先と副業先の両方で被保険者要件を満たす場合、いずれかを「主たる事業所」として選択し、報酬月額を合算して社会保険料を算定します。そして、社会保険料は、本業先と副業先の報酬月額に応じて案分されます。

雇用保険は、それぞれの会社において被保険者要件を満たす場合、賃金額が多いほうの会社で加入します。ただし、65歳以上で一定の条件を満たす社員に限り、本業先と副業先それぞれで被保険者要件を満たさない場合であっても、本業先と副業先の労働時間を合算して、雇用保険に加入することがあります。労災保険は、副業中は副業先の労災保険が適用されますが、労災保険給付の支給額については、本業先と副業先の賃金額の合計を基に算定されます。

自社が本業先の場合も副業先の場合も、社員が社会保険の被保険者要件を満たすか、自社以外で雇用保険に加入していないかを確認しましょう。

また、自社が本業先の場合も副業先の場合も、社員が自社で負傷などをしたときは、労災保険関連の手続きを速やかに行います。自社で起きた労働災害でない場合も、社員から事業主の証明を求められる場合がありますので、その際は適切に対応します。

以上(2023年5月更新)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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画像:UfaBizPhoto-shutterstock

【2023年6月施行】改正電気通信事業法で新設される「クッキー規制」を押さえよう

書いてあること

  • 主な読者:ウェブサイトの運営やアプリの提供をしている会社の経営者、法務担当者
  • 課題:2023年6月施行の電気通信事業法改正で新設される「外部送信規律」について、自社が適用対象かどうか分からない。どう対応すればよいのか知りたい
  • 解決策:法令やガイドラインなどを確認し対応を進める。適用対象外だとしても、自社のウェブサイトを見ていると、どこに情報が飛ぶのか、何のために使われているのか、利用者が見ようと思ったら見える場所に載せておくことを検討する

1 電気通信事業法改正で「クッキー規制」が本格化

2023年6月16日に改正電気通信事業法が施行され、いわゆる「クッキー規制」が始まります。クッキー規制は、正確には「外部送信規律」と定義されるもので、

オンラインサービスの利用者に関する情報が外部の第三者に送信される場合、利用者がそのことを確認できるようにしなければならないというルール

を指します。対象となるのはウェブサイトの運営やアプリの提供をしている事業者で、「利用者に関する情報の内容」「送信先の名称」「利用目的」などの通知や公表が義務付けられます。

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電気通信事業法の対象は大手通信会社というイメージがありますが、外部送信規律については幅広い事業者が対象となります。「ウチには関係ない」と、何も対応をしないでいると法令違反になってしまい、思わぬトラブルを招く恐れがあります。第2章で、

外部送信規律の対象となる事業者、事業者がやらなければならないこと

を紹介しているので、自社の事業などと照らし合わせながら確認しておきましょう。

なお、外部送信規律のことを、日本版の「クッキー規制」と呼ぶことがありますが、これは俗称です。実際にはクッキーを使っていなくても外部送信規律に引っかかることがあるので、注意してください。「そもそもクッキーって何?」という人は、第3章をご確認ください。

2 外部送信規律のポイントを整理

1)対象となる事業者は?

外部送信規律の対象となるのは、電気通信事業または第三号事業を営み、「利用者の利益に及ぼす影響が少なくない電気通信役務」を提供している事業者です。

簡単に言うと、

  • 電気通信事業:他人の通信を媒介する事業(特定の利用者同士が使う電話、SNSなど)
  • 第三号事業:他人の通信を媒介しない事業(不特定多数の利用者が使う掲示板など)
  • 電気通信役務:電気通信によって映像や音声、文字等を伝えるサービス

という意味です。

なお、「利用者の利益に及ぼす影響が少なくない電気通信役務」か否かは、サービスの性質で判断されるので、利用者が多いか少ないかは関係ありません。

具体的には次のようなサービスを提供している事業者が外部送信規律の対象です。

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会社概要や自社の商品・サービスについて周知・宣伝するためだけにウェブサイトを運営している場合は、「電気通信事業」に該当せず、外部送信規律も適用されません。

自社運営で自社商品を扱うECサイトも対象外です。例えば、小売業者がウェブサイトを開設して商品販売を行う場合は、本来業務である小売業の遂行の手段として電気通信を用いているにすぎないからです。実店舗における商品販売を行っていない場合であっても、本来業務である小売業の遂行の手段として電気通信を用いているにすぎないことには変わりはないため、外部送信規律は適用されません。

一方、本来業務の遂行手段としての範囲を超えて、独立した事業としてオンラインサービスを提供している場合、外部送信規律の対象となり得るため留意が必要です。

自社が外部送信規律の対象事業者かどうか判断がつかない場合、弁護士などの専門家に相談しましょう。

2)対象事業者がやらなければいけないこと

外部送信規律の対象事業者は、原則として、次の1~3の事項を通知または公表(容易に知り得る状態に置く)しなければなりません。

  • 送信されることとなる当該利用者に関する情報の内容(どのような情報を)
  • 当該利用者の情報を取り扱うこととなる者の氏名または名称(誰に対して)
  • 当該利用者の情報の利用目的(何の目的で送信し、送信先で何に使われるか)

通知する場合、

  • 1~3の事項を容易に確認できるようにする
  • 1~3の事項または1~3の事項を記載した画面のリンクをポップアップなどにより表示する

必要があります。

容易に知り得る状態に置く場合、

  • 外部送信のプログラムを送るページまたはそのページから容易に到達できるページなどにおいて1の事項を表示する(ウェブサイトの場合)
  • 最初に表示される画面、そこから容易に到達できる画面などにおいて1の事項を表示する(アプリの場合)

必要があります。

1~3の事項を通知または公表する際は、次のルールを守らなければなりません。

  • 日本語で記載する
  • 専門用語は使わない
  • 平易な表現を使う
  • 拡大/縮小の操作をしなくても文字が適切な大きさで表示されるようにする

なお、「利用者が同意をしている情報」「事業者がオプトアウト措置(利用者が求めた場合に利用を停止する)を講じている場合で、利用者が措置の適用を求めていない情報」は、例外的に通知または公表の必要はありません。とはいえ、この「同意」や「オプトアウト」を行う場合も、1~3の事項を分かるようにしておく必要はあることに留意が必要です。

3 そもそも「クッキーって何?」という方へ

クッキー(cookie)とは、

ウェブサイトを開いたときにブラウザに保存される小さなファイル

のことです。あるウェブサイトを開くと、そのサイトのウェブサーバーがクッキーを発行し、利用者のブラウザに一定期間、クッキーが保存されます。次回以降、同じウェブサイトを開くと、ブラウザからウェブサーバーにクッキーが送信され、保存されていた情報が表示されます。

こうした仕組みは、普段、利用者にはほとんど意識されることはありませんが、例えば、ネットショッピングで商品を買い物かごに入れたままブラウザを閉じ、しばらくしてから再びそのサイトを開いたとき、買い物かごに商品が入ったままなのはクッキーが残っていたからです。

クッキーは、利用者の行動を追跡しデータを収集するためにも利用されています。ウェブサイトを開くと、自分の好みに合いそうな商品を勧められたり、検索したことと関連する広告が表示されたりするのもクッキーのせいです。

こうしたクッキーを利用した「ターゲティング広告」などについては、便利な半面、得体の知れない気持ち悪さを感じる人が多いのも事実です。クッキーによるデータ収集が個人のプライバシーの侵害につながる懸念が高まり、無秩序なクッキーの利用を規制する動きが広がりつつあります。

日本では、2022年4月に個人情報保護法が改正され、クッキーで得た個人関連情報を第三者に提供し、個人を識別する情報とひもづける際は利用者本人の同意が必要になりました。
そして、2023年6月に電気通信事業法が改正され、「外部送信規律」が設けられました。

4 もっと詳しく知りたい方へ

1)参考URL

■総務省「外部送信規律」■
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/gaibusoushin_kiritsu.html
■総務省「外部送信規律FAQ」■
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/gaibusoushin_kiritsu_00002.html
■総務省「電気通信事業参入マニュアル(追補版)」■
https://www.soumu.go.jp/main_content/000477428.pdf
■総務省「電気通信事業参入マニュアル(追補版)ガイドブック」■
https://www.soumu.go.jp/main_content/000799137.pdf
■総務省「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」■
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/telecom_perinfo_guideline_intro.html

2)同意管理プラットフォーム(例)同意管理プラットフォーム(Consent Management Platform:CMP)とは、ウェブサイトの運営者が、利用者のクッキーを取得する際に同意を得るためのツールです。拒否された場合はクッキー取得を制御します。次のようなツールが挙げられます。

■onetrust■
https://www.onetrust.com/
■Sourcepoint■
https://sourcepoint.com/
■Priv Tech「Trust360」■
https://privtech.co.jp/service/trust360/
■DataSign「webtru」■
https://webtru.io/
■クラウドサーカス「Cloud CIRCUS CMP」■
https://cloudcircus.jp/products/cmp/

以上(2023年6月)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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