モヤっとした経営理念を数値化すれば、自社の魅力を採用でもアピールできる!

書いてあること

  • 主な読者:経営理念を活用して企業をイメージアップし、採用などにつなげたい経営者
  • 課題:経営理念の理想は高いけれど、抽象的なので自社の魅力や特徴を伝えにくい
  • 解決策:経営理念に合致したデータを選んで数値で示す。経年の変化や今後の目標も示せると説得力が増す。対外的には分かりやすいなどの“見せ方”の工夫も重要

1 抽象的な経営理念を数値化して武器にする

「経営理念」のない企業はほとんどないですが、経営理念を社内外にきちんとPRできている企業は少ないです。それは、

経営理念は素晴らしい理想を掲げる一方、抽象的で伝えにくい面があるから

です。そこで、この記事でご提案するのが、

モヤっとした経営理念を数値化して、自社の魅力や特徴の具体的なイメージをつかみやすくする

ことです。そうすれば、

  • 経営理念の対外的なPRに説得力が増し、採用活動などで成果につながる可能性がある
  • 従業員に対して、経営理念に基づいた具体的な行動を促すことができる

ことが期待できるでしょう。

今回は、次の4つのテーマに関する経営理念の数値化の方法と、その数値の“見せ方”の工夫の一例を紹介します。

  1. 地域・社会貢献
  2. 環境保全への貢献
  3. 従業員の幸福
  4. 三方よし

2 地域・社会貢献に関する経営理念の数値化

1)社会貢献活動費

ボランティア活動やNPO法人への寄付など、社会貢献に関する支出額を示すことができます。

1.数値化の方法

経済団体連合会(経団連)は1990年に、経常利益や可処分所得の1%相当額以上を目安に社会貢献活動に支出することを目指した任意団体「1%(ワンパーセント)クラブ」を設立し、2017年度まで調査結果を公表していました(2019年からは「経団連1%クラブ」として経団連の下部組織の位置付け)。調査では、社会貢献活動支出額を、次の2つの合計額としていました。社会貢献活動費を数値化する際の参考にしてくだい。

  1. 各種寄付(金銭寄付(政治寄付を含む)、現物寄付、施設開放や従業員派遣などを金額換算したものの合計)
  2. 自主プログラム(各社が独自またはNPOなどとの協働などにより実施した社会貢献プログラム)に関する支出

2.“見せ方”の工夫

主な活動費はどのような使途で、どのように貢献したかを併せて公表すると、体外的なPR効果が高まるでしょう。くどくならない程度に、支援先の人の感想なども添えると、よりPR効果を発揮するかもしれません。

2)地域内の雇用貢献度

自社の企業活動によって、雇用面で地域にどの程度貢献しているかを示すことができます。

1.数値化の方法

計算式は、

自社の従業員数 / 地域内の総従業員数 × 100

で求められますが、業種を絞って

自社の従業員数 / 地域内の該当業種の従業員数 × 100

で求めることもできます。

地域内の従業員数は、5年ごとに行われる経済センサス-活動調査から引用できます。調査では、市町村別、業種別の従業員数も公表しています。直近の調査は2021年に行われており、2023年3月までに都道府県別、業種別(一部)の従業員数が公表されています。

■経済産業省「経済センサス-活動調査」■

https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/census/index.html

2.“見せ方”の工夫

単純に地域内に占める比率を「%」だけで数値化すると、1%にも満たず、数値に迫力が出ないことも想定されます。例えば、対外的なPRの場合は、「市内の0.67%に当たる労働者を雇用」とするよりも、「市内の労働者の150人に1人が当社の従業員」のほうが印象に残りやすいかもしれません。

3)地域内での購買・調達比率

自社の購買額や調達額のうち、地域内の取引先から購買・調達した割合を数値化することで、地域への貢献度を示すことができます。近年は「地産地消」が注目され、地域経済の活性化が重視されているため、PR効果も高いとみられます。

1.数値化の方法

計算式は、

自社の地域内の取引先からの購買額・調達額 / 自社の購買額・調達額の総額 × 100

で求められます。

2.“見せ方”の工夫

自社の地域の定義を同一市町村に限定すると、どうしても比率が低くなってしまいます。同一都道府県にまで地域を広げて数値化するとよいでしょう。

4)地域に対する納税額

都道府県や市町村への納税額を公表することで、地域の住民サービスの向上への貢献を示すことができます。

1.数値化の方法

企業は、資本金や従業員数、法人税額や所得額などに応じて、都道府県や市町村に法人住民税や法人事業税を納税しています。納税額そのものの公表が難しければ、納税額の伸び率を示してもよいでしょう。

2.“見せ方”の工夫

納税額を、地元の市町村での特定の支出額と比較してみるのも一策です。例えば、子育て支援に力を入れている企業であれば、自社の納税額が、地元の市町村の小学校の「就学援助制度の○人分に相当する額」といった表現を加えると、地域への貢献度を実感してもらいやすくなるかもしれません。

3 環境保全への貢献に関する経営理念の数値化

1)二酸化炭素(CO2)・温室効果ガス排出削減量

地球温暖化や気候変動問題の要因とされているCO2・温室効果ガス排出の経年の削減量を数値化することで、環境保全への貢献度を示すことができます。

1.数値化の方法

CO2や温室効果ガスの排出量の算出方法は環境省が公表していますが、やや複雑ですので、まずは電力使用量からCO2排出量を算出して、経年の変化を数値化することをお勧めします。計算式は、

(電気使用量 - 比較年の電気使用量) × 契約している電力事業者の排出係数

で求められます。電力事業者ごとの排出係数は以下のウェブサイトに掲載されていますので、ご参照ください。

■環境省「温室効果ガス排出量 確定・報告・公表制度 電気事業者別排出係数一覧」■

https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/calc

なお、企業活動による全てのCO2・温室効果ガス排出削減量を数値化したい場合は、環境省の以下のウェブサイトをご参照ください。

■環境省「温室効果ガス排出量 算定・報告マニュアル」■

https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/manual

■環境省「温室効果ガス排出量 確定・報告・公表制度 算定方法・排出係数一覧」■

https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/calc

2.“見せ方”の工夫

林野庁のウェブサイトによると、36~40年生のスギ1本あたり(1ヘクタールの森林に1000本のスギがあると想定)、年間約8.8キログラムのCO2を吸収すると推定されています。CO2削減量を「スギ○本分に相当」などと表現すれば、削減効果をイメージしやすくなるでしょう。

2)再生可能エネルギー利用比率

太陽光・風力・地熱・中小水力・バイオマスといった再生可能エネルギー(以下「再エネ」)をどの程度使用しているのかを数値化することで、環境保全への貢献度を示すことができます。

1.数値化の方法

再エネを利用するには、自社で再エネの発電施設を設置する方法もありますが、小売り電力事業者との契約について、再エネを電源としたプランに切り替える方法もあります。電力事業者によっては、プランの選択によって再エネの割合を決めることも可能です。無理のない範囲で、どれだけ再エネに切り替えるかを決めましょう。

再エネを提供している事業者(再エネを導入している自治体や事業者も含む)は、環境省の次のウェブサイトで紹介しています。

■環境省「再エネスタート 自治体・事業者等の取組み一覧」■

https://ondankataisaku.env.go.jp/re-start/list/?utm_source=re-start&utm_medium=howto05&utm_campaign=2022cc&utm_term=re-start&utm_content=howto05

2.“見せ方”の工夫

前述のCO2削減量と同様に、再生エネの利用に伴うCO2の削減効果を、スギの本数などで示すことができます。

3)環境保全のための投資額

環境保全のための投資額を数値化することで、環境保全への貢献度を示すことができます。

1.数値化の方法

環境省の「環境会計ガイドライン2005年版」では、「環境保全コスト」について、「環境負荷の発生の防止、抑制又は回避、影響の除去、発生した被害の回復又はこれらに資する取組のための投資額及び費用額」と定義しています。

具体的には、自社の事業領域では、

  • 地球温暖化防止や省エネ
  • 資源循環(産業廃棄物処分も含む)
  • 環境保全につながる製品などの研究開発コスト
  • 通常の財やサービスの購買・調達額と、環境保全機能を付加した財・サービスの差額

などが該当します。また、自社の事業領域の他にも、

  • 社外での環境美化や環境保全に取り組む団体や地域住民などへの寄付・支援

なども含まれます。

■環境省「環境会計ガイドライン2005年版」■

https://www.env.go.jp/policy/kaikei/guide2005/guide2005.pdf

2.“見せ方”の工夫

前述の社会貢献活動費と同様に、主な投資額はどのような使途で、どのように貢献したかを併せて公表すると、対外的なPR効果が高まるでしょう。

4 従業員の幸福に関する経営理念の数値化

ここで示す数値化の例は、いずれも経理や労務などの担当者が把握できる数値ですので、項目だけを紹介します。

1)従業員への待遇

福利厚生費、平均給与水準(業界平均との比較など)、年間休日数

2)従業員の働きがい

従業員1人当たり生産性、離職率、平均勤続年数

3)従業員の成長への貢献

従業員の教育費(従業員の自己啓発活動への補助も含む)

4)従業員の多様性

男女比率、各年代の比率、最年少から最高齢の従業員の年齢差

5 三方よしに関する経営理念の数値化

社会への貢献と自社(従業員)への貢献はすでに紹介しましたので、ここでは顧客や取引先への貢献に絞って紹介します。

1)顧客満足度、再購入意向度

消費者向けの商品・サービスの広告でもよく示されている数値です。顧客や取引先からの、企業や商品・サービスに対する依存度、信頼度の高さから、自社の存在価値を示すことができます。

1.数値化の方法

一般的に、顧客や取引先にアンケートをする方法が使われています。

2.“見せ方”の工夫

前述したように、消費者向けの広告でも使用されている手法ですので、一般にもなじみのある数値といえます。それだけに、数値を「見る目」も養われていますので、数値だけでなく、調査方法などにまで留意すべきでしょう。調査を行うのは自社ではなく、多少コストがかかっても外部機関に依頼し、数値の信用力を高めるべきかもしれません。

2)平均取引継続年数

付き合いの長い取引先が数多くいるということは、自社が、取引先にとってなくてはならない存在であり続けているということを意味しますので、自社の存在価値を示すことができます。

1.数値化の方法

計算式は、

各取引先との取引継続年数 / 取引先の社数

で求められます。

2.“見せ方”の工夫

商品・サービスによって寿命が異なりますので、自社で最もロングセラーとなっている商品・サービスに限って、取引継続年数を数値化するのも一策です。この場合は、数値を示す際に、商品・サービスを限定していることの断り書きが必要になります。

以上(2023年7月作成)

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画像:78art-Adobe Stock

超高齢社会の今、親が認知症になる前に押さえておきたい「成年後見制度」の実際のところ

書いてあること

  • 主な読者:高齢の親が認知症になった場合の、親の財産管理が心配な人
  • 課題:成年後見制度を利用したいけれど、内容がよく分からない
  • 解決策:「任意後見」「成年後見」の違いを押さえる。後見人になるための手続きや、与えられる権限の違いに注意

1 高齢者5人に1人が認知症に!? 親がなったらどうなる?

65歳以上の高齢者の数は、2022年9月時点で3627万人(全人口の29.1%)になっています(総務省統計局)。そんな超高齢社会の日本と切り離すことのできないテーマの1つが認知症です。高齢化の進行とともに65歳以上の認知症患者は年々増えており、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)になるといわれています(厚生労働省「成年後見制度の現状(2023年5月)」)。

もし、仮に自分の親が認知症になるとどうなってしまうのでしょうか? 認知症になる前に何の対策もしていないと、特に困るのが親の財産の管理です。認知症で記憶力や判断能力が低下してしまった場合、財産面では次のようなリスクが生じます。

  • どのような財産があるのか誰も分からなくなってしまう
  • 預貯金が引き出せず、生活や医療・介護の費用を親族が立て替えざるを得なくなる
  • 所有する不動産の売却や活用ができない状態になる
  • 遺言などによる相続対策が困難になる
  • 詐欺や悪徳商法に引っかかりやすくなり、財産を失う恐れがある

こうしたリスクに備える上で知っておきたいのが「成年後見制度」です。成年後見制度とは、

大人(成年者)が、認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が低下してしまい、自分のことをちゃんと管理できなくなった場合、「後見人」と呼ばれる人が本人に代わって財産の管理などを行う制度

です。これにより、仮に親の認知症が進んで自分で物事を決められなくなっても、前述したようなリスクを回避することができます。ただ、成年後見制度には複数の種類があり、それぞれ後見人になるための手続きや、与えられる権限などが異なるので、基本的な内容を押さえておかないと「親の万が一」に対応できません。以降で確認していきましょう。

2 「成年後見制度」は2種類ある

1)成年後見制度には「任意後見」と「法定後見」がある

1.任意後見

任意後見とは、

本人(親)の判断能力が不十分になったときに備え、本人が所有する財産の管理などを、あらかじめ契約によって定めた将来の後見人(任意後見人)に委託する

というものです。

本人に判断能力があるうちに、信頼できる人(任意後見人になる人)に「自分が認知症になったらこうしてほしい」という希望を伝え、任意後見契約を結びます(公正証書で締結する必要があります)。

その後、本人の判断能力が低下したら、任意後見人になる人や親族などが家庭裁判所に任意後見人監督人選任の申立てを行い、家庭裁判所が任意後見監督人を選任します。任意後見監督人が選任されると、任意後見契約の効力が生じ、任意後見人が本人から委託されたことを行えるようになります。また、任意後見監督人は、任意後見人が委託されたことを適正に行っているかを監督します。

2.法定後見

法定後見とは、

本人(親)の判断能力が低下してしまった後に、本人が所有する財産の管理などをサポートする後見人(法定後見人)を、家庭裁判所の審判によって選任する

というものです。

法定後見開始審判の申し立てができるのは、本人や4親等内の親族、市区町村長などで、家庭裁判所が申立てを審理した後、法定後見人を選任します。なお、家庭裁判所は、本人の判断能力の低下の程度に応じて次のいずれかの人を選任します(以下「成年後見人等」)。

  • 成年後見人:本人の判断能力がいつも欠けている場合
  • 保佐人:本人の判断能力が著しく不十分な場合
  • 補助人:本人の判断能力が不十分な場合

2)「任意後見」と「法定後見」の違いを整理

任意後見と法定後見の主な違いをまとめてみました。

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任意後見の場合、本人が完全に判断能力がある状態で、信頼できる人を任意後見人として自由に選ぶことができます。

任意後見人の権限内容は、任意後見契約を締結する際、本人の意思に従って自由に決められます。例えば、財産管理や介護に必要な身上保護などの具体的な依頼内容を、本人と任意後見人との協議で自由に決めることが可能です。また、任意後見人の報酬も、事前に協議で決めることができます。

一方、法定後見の場合、申立人の推薦を踏まえて、家庭裁判所が成年後見人等を選任します。実際には、申立ての時点で本人の判断能力は低下してしまっているので、本人の意思で誰かを推薦することは困難です。また、推薦した人が必ずしも選任されるとは限りません。

成年後見人の権限内容は民法で定められています。保佐人や補助人の権限内容については、本人の状態に応じて一部個別に設定できますが、家庭裁判所の審判による必要があります。成年後見人等の報酬は、報酬付与の申し立てを受けて家庭裁判所が報酬額を決定する審判をします。

このように違いはさまざまありますが、留意しておきたいのは後見人等の権限です。後見人等の権限は、

  • 代理権:財産に関する法律行為を本人に代わって行う権利
  • 取消権:本人が行った法律行為が本人に不利益を与える場合に、これを取消す権利
  • 同意権:本人が行う法律行為について同意を与え、法律上の効果を生じさせる権利

に大別できます。

任意後見の場合、任意後見契約によって代理権の範囲が決まるので、任意後見人は契約次第で幅広い法律行為を行うことができますが、一方で取消権が認められていないため、認知症の本人が任意後見人の見ていないところで契約などをしてしまったときなどには対応できない場合があります。

一方、法定後見の場合、取消権(保佐と補助の場合は同意権も)が認められているので、本人が成年後見人等の見ていないところで法律行為をした場合にもある程度対応できます。ただし、代理権などの範囲は法律で細かく決められています。 

親族(子)の立場からすると、高齢の親が認知症になって判断能力が低下してしまう前に、親が蓄えてきた財産の管理についてしっかり話し合う機会をつくり、必要に応じて「遺言書を書いておいてもらう」「任意後見契約を結ぶ」などの対策をしておきたいところです。

認知症になって判断能力が低下してしまうことも念頭に、いかにトラブルなく生活していくかがポイントです。成年後見制度の趣旨を理解し、本人(高齢の親)の意志を尊重しつつ、大切な権利や財産をどのように守っていくかを考えてみましょう。

3 知っておきたい「成年後見制度」の実際のところ

1)制度の利用は「法定後見」が圧倒的。成年後見人がつくケースが特に多い

成年後見制度の利用者数は増加傾向にあり、2022年12月末時点で24万5087人となっています(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況」2023年3月)。

利用者数の内訳を見ると、任意後見が2739人、法定後見が24万2348人(成年後見:17万8316人、保佐:4万9134人、補助:1万4898人)と、法定後見が圧倒的に多いです。本人が認知症を発症し十分な判断能力がなくなってしまい、預貯金等の管理・解約などのため、法定後見(成年後見人等)に頼らざるを得なくなるケースが多いようです。

2)親族以外の専門職(司法書士や弁護士)が成年後見人等になっている

2022年に後見開始、保佐開始、補助開始の審判が申し立てられ、成年後見人等が選任された3万9564件を見ると、成年後見人等として「親族(配偶者、親、子、兄弟姉妹およびその他親族)」が選任されたものが7560件(19.1%)、「親族以外」が選任されたものが3万2004件(80.9%)となっています。

また、親族以外での内訳を見ると、司法書士が1万1764件(36.8%)、弁護士が8682件(27.1%)、社会福祉士が5849件(18.3%)などとなっています。親族が関与しない本人による申立てや市区町村長による申立てによって、司法書士や弁護士などの専門職が成年後見人等として選任されるケースが増えているようです。

なお、2022年3月に閣議決定された「第二期成年後見制度利用促進基本計画」では、家庭裁判所による適切な後見人等の選任・交代の推進が掲げられ、次のような内容が示されています。

市民後見人・親族後見人等の候補者がいる場合は、その選任の適否を検討し、本人のニーズ・課題に対応できると考えられるときは、その候補者を選任する。親族後見人から相談を受けるしくみが地域で十分に整備されていない場合は、専門職監督人による支援を検討する

3)専門職は報酬目当て? トラブルになる例も

成年後見人等の報酬については、法令上特段の定めはありませんが、例えば、東京家庭裁判所/東京家庭裁判所立川支部は「成年後見人等の報酬額のめやす」(2013年1月)として、

通常の後見事務を行った場合の基本報酬は月額2万円、ただし管理財産額が1000万円超~5000万円の場合は月額3万~4万円、管理財産額が5000万円超の場合は5万~6万円

などと示しています。例えば、所有する財産が1000万円超~5000万円の認知症の高齢者が、市区町村長による申し立てにより、司法書士や弁護士などの専門職の成年後見人等をつけられたとすると、年間36万~48万円を基本報酬として支払うことになります。

司法書士や弁護士などの専門職が成年後見人等に選任された場合、中には、

  • 後見事務に差し障ることを理由に認知症の高齢者を介護施設に入居させて、身近な親族と連絡や面会をさせないようにする
  • 権限があるとはいえ、法定相続人である親族にも黙って、危篤状態となった認知症の高齢者の所有する不動産を売却する

などしてトラブルになるケースもあるようです。最高裁判所の調査によると、2022年には専門職による不正事案として20件、約2億1000万円の被害額が報告されています。

4 もっと詳しく知りたい方へ(参考URL)

1)成年後見制度について

■厚生労働省「成年後見はやわかり」■

https://guardianship.mhlw.go.jp/

■法務省「成年後見制度・成年後見登記制度 Q&A」■

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html

■東京家庭裁判所後見センター「後見サイト」■

https://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/kokensite/

■日本司法支援センター 法テラス「成年後見」■

https://www.houterasu.or.jp/service/kouken/

2)主な相談窓口

■東京家庭裁判所後見センター「成年後見制度についての相談窓口」■

https://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/kokensite/madoguchi/

■日本弁護士連合会「高齢者・障害者に関する法律相談窓口」■

https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice/search/other/guardian.html

■成年後見センター・リーガルサポート■

https://legal-support.or.jp/

以上(2023年9月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

pj60181
画像:photo-ac

【朝礼】大いに悩み、考えろ、そして集中を忘れるな

私の悪い癖の一つですが、仕事で気になることができると、会社を出てからも仕事が頭から離れないことがあります。食事をしながら、シャワーを浴びながら、ベッドで横になりながらも仕事のことが頭から離れず、人の話も右耳から左耳へ抜けていくという状態です。「ちゃんと話を聞いているの?」と言われて我に返ることもよくあるので、家族や友人たちにはよく呆れられています。

仕事を離れたところでも、仕事のことを考えているなんて、とても仕事熱心だと思うかもしれません。しかし、仕事は仕事、プライベートはプライベートです。当たり前のことですが、仕事をするのは自分や家族の生活のためであり、仕事に没頭しすぎてプライベートをないがしろにするべきではありません。

それに、仕事を離れたところで仕事について悩み、考えなければいけない状況とは、裏を返せば仕事がうまく進んでいないということでしょう。私の場合も、明日の業務の予定が気になるといった類の悩みではなく、大抵は、時間が迫っているのに、よい対応が思い当たらないなど、本来ならば事前に余裕を持って対処しておくべきだった仕事がうまく処理できず壁にぶつかり、家でも仕事のことを考えざるを得ないというのが実情です。

本来、仕事は会社で済ませるというのが正しいあり方でしょうが、みなさんが日々対応しなければならない仕事は少なくありません。しかし、「多少予定に遅れが出るのは仕方がない」などと思って仕事を進めないようにしてください。仕事はできるだけ余裕をもって段取りし、それでも時間が足りないようならば、代わってもらえる仕事は人に頼み、一番頭を悩ませている難題に対してじっくり向き合って考えるべきです。そうすれば、家で仕事に頭を悩ませることもなくなるはずです。

仕事を離れているときに仕事のことを考えるのはよいことではありません。しかし「考えるな」と言っても、仕事が頭から離れないときがあるのも事実です。

そんなときは、思い切って悩み、考えることに集中するというのも一つの方法です。ただし、食事をしながら、ベッドで横になりながらなど、何かをしながらでは集中できずよい考えは浮かびません。考えるなら、起き上がっていすなどに座り、考えることだけに集中するほうが、それまでに気付かなかった点が明らかになり、なかなかまとまらなかった考えを整理することができるでしょう。

どうしても仕事が頭から離れないときには、自分が納得できるまで集中して悩み、考えてください。そして、その後はおいしい食事をとるなり、スポーツを楽しむなり、十分な睡眠をとるなり、積極的に休んでください。このメリハリがよい仕事生活を送るための秘訣だと思います。私もこれから、それを強く心がけたいと思います。

以上(2023年7月)

pj16569
画像:Mariko Mitsuda

【経理人材の育成(3)】ChatGPTなどの新しい「道具」との接し方と、業務改善の優先付け

書いてあること

  • 主な読者:経理人材の育成や、経理部全体の効率化に悩む中小企業のマネジメント職
  • 課題:テクノロジーを活用した新しい道具が次から次にでてくるので、どのように対応すればよいのか悩んでしまう
  • 解決策:新しいものには一先ず手触りだけ知るようにする。ただ、道具はあくまで解決策の一つであり、課題を解決するための手段でしかない。大切なのは、優先順位を間違えないこと。

1 話題のChatGPT、経理管理職としてどう捉える?

皆さんは、ChatGPTは使ってみましたか。新聞などでChatGPTをはじめとした生成AIに関する記事を目にしない日はないほどに、急速に話題になっています。この生成AI、経理の「新しい道具」に近い将来なるのではないかと私は考えています。

実際に、経理で使ってみた方の意見を聞くと特に評価が高いのが、

エクセルVBA(エクセルの機能を拡張するプログラム言語)などプログラミングへの利用

です。従来、マクロなどの機能を使いたくても、プログラムが書けないという悩みがよくありました。しかし、ChatGPTを使ってうまく指示できれば、プログラムを自動で書いてもらえ、望む機能をすぐに実現できるといいます。つまり、ChatGPAの「プログラム翻訳」機能は、高く評価できるようです。

それ以外にも、メンバーと1対1で行う面談(1 on 1)において、

論点の抜け漏れがないよう、項目出しをしてもらうという使い方

をしているという話を聞きました。例えば、ChatGPTに「あなたは小売業の経理部門担当者です。小売業の事業をより理解した上で経理業務を行うためには、どのような項目の学習をしたらいいでしょうか?」といった質問をします(よければ、実際にこの質問をChatGPTで試してみてください。実際にわたしも試して、重要な論点が網羅的にカバーされている結果だという印象を受けました)。

このように、実際に業務への導入をすぐにと考えずに、気軽に「手触り」だけでも知ることが大事です。どんな風に使うのか、その使い勝手や癖も含めていったん体験しておくと、今後、他社で活用事例が増えていった際に、自分のアンテナに役立つ情報が引っ掛かりやすくなります。

また、メンバーと一緒に試してみるのもいいと思います。ひょっとしたら、デジタルネイティブと呼ばれる若手メンバーは、乗り気で試し、今後の活用も色々考えてくれるかもしれません。メンバーの強みを伸ばし、同時に経理業務の改善にもつながれば、まさに一石二鳥といえます。

2 新しい「道具」とどのように接するか

ChatGPTに限らず、この10年の間に、テクノロジーを活用した新しい「道具」が経理の世界には多数登場してきました。例えば、OCR、RPA、BIツールなどです。これだけたくさんあると、それぞれの役割やメリットを自分自身の言葉で説明できないものや、実際に見たことがないものがあると思います。

現実問題として、「電卓と会計システムとエクセルだけが経理の道具」という時代は終わりを迎えようとしています。ただし、これは悲観すべきことではなく、劇的に便利な選択肢が増えるというだけの話です。「ドラえもん」に描かれた世界が暗いわけではないことを考えても想像いただけるのではないでしょうか。

次から次に登場する新たな道具も、先ほどのChatGPT同様に、まずは軽く「手触り」してみましょう。例えば、無料版が提供されているものであれば、それを試すのもいいでしょう。他には、「経理Expo」といった見本市に出かけてデモンストレーションを見たり、実際に触って担当者に質問したりするのもいいと思います。

ただ、闇雲に選択肢を増やせば良いというわけでもありません。このような状況下で、容易に優先順位を付けたいのであれば、

取引先など身近な会社がすでに導入したもの

から始めるのがいいでしょう。例えば、最近はインボイス制度対応により請求書管理の仕組みを変えるために、登録などの依頼が来ていると思います。身近な道具であれば、

  • 利用場面やメリットを想像しやすい
  • 自社に導入した場合の効果が見えやすい
  • 導入例が身近ゆえ、現場でも受け入れられやすい
  • 安全性が確保されやすい

などの利点があるからです。

3 道具の前に、必ず押さえるべき2つのこと

ここまでテクノロジーを使った「道具」の話をしてきましたが、これはあくまでも解決策の一つにすぎません。本当に大事なのは、

解決策をあれこれ探すことではなく、課題を解決すること

です。私たち経理にとって、解決すべき課題は正確さや効率の向上に関するものがほとんどです。だとすると、まずは、何が原因でこれらの課題が生じているのかを明らかにするのが最優先であるため、解決策としての道具の話は後から出てくるべきといえます。

とはいえ、どんな道具があるかを分かっていれば、問題解決も考えやすいという側面があるのも事実です。そこで、経理管理職にとっては、「課題」と「解決策」の両面を押さえておくと実務的には効率的です。

「課題」を解決するには、会社の業務自体や内容を把握し、何が問題かとおおよその解決の方向性までを考えなければなりません。「解決策」は、課題を解決するために出てくる多数の方法で、業務のやり方の場合もあれば、前述した道具の場合もあります。

「課題」が何かによって、その道具が解決策として合っているのかも変わる

ことをしっかり認識しましょう。

4 業務改善の優先順位の付け方

課題が多すぎて、どこから手をつけていいのか分からない場合もあるでしょう。このようなときは、優先順位付けをして、影響度合いが大きいものからやるべきです。多忙な中では、目がついた箇所から闇雲に改善に取り組むのは得策ではありません。つまり、最近よく言われる「タイパ」(タイムパフォーマンス)を考慮します。要点となるのが、

  • 頻度
  • 手作業
  • 2つの“ふく”(重複と反復)

の3点です。

経理における影響度合いには、まず頻度が大きな要素です。経理の業務には、日次、週次、月次、四半期次、年次と色々頻度のパターンがあります。年に1度の業務よりは、毎日行う業務を効率化した方がいいということは想像しやすいと思います。これは、業務改善の取り組み自体の効率の良し悪しにつながります。

別の観点でみると、システムをあまり活用せず、主に手作業で行っている業務も、優先的に業務改善をすべきです。手作業ではミスが生じやすく、また時間がかかることが多いからです。

つまり、頻度という観点は「効率的」な業務改善に結びつき、この手作業という観点は「効果的」な業務改善にひも付きます。

さらに、業務改善すべき箇所を見つけ出すコツは、「2つの“ふく”」に注目することです。2つの“ふく”とは、複数のメンバーが同じまたは似た業務を行う「重複」と、同じ人が何度も同じ業務を繰り返す「反復」のことです。

重複は担当者のあいだで問題が生じやすく、反復は本人から不満が生じやすい

という特徴があります。管理職にとってはいずれも頭の痛い問題です。しかし、裏を返せば、頻度が高く、作業の型が決まっていることが多いので、実は業務改善にはうってつけの対象です。

5 業務改善は、人材育成のチャンスの宝庫

おそらく、ここまで述べた業務改善に関するコツの話は、一定の経験ある管理職であれば、新しい学びは正直なところ多くないと思います。ここでむしろ押さえていただきたいのは、

業務改善の取り組みを活用することは人材育成にも大きくつながる点

です。業務改善のスキルというのは、皆さんも経験を通じて身につけたものであり、言語化されていないことが多く、だからこそ伝えていくことが大事なのです。どうやって問題点を見つけるのか、なぜその解決策を選ぶのかは、これからの時代の経理に求められるスキルになるはずです。業務改善というと、とかくやり方の変更や道具といった形式的なテクニックに目が行きがちですが、実は管理職の皆さんの思考過程こそに価値があります。

これまでの経理は、例えるなら、自分で作業する「大工」でしたが、これからは全体を設計する「建築士」になっていくことと思います。この非常に大きな変化のなかで、メンバーがより付加価値が高い業務を行えるようにすることが、そしてそのような人材を育てられることが管理職の皆さんにとって求められています。ChatGPTなどの新しい道具も解決策の一つにすぎません。すでにお持ちのご自身の業務改善スキルの枠組みの中で整理して、活用することは十分に可能です。人材育成の観点でも何重にも活用できる業務改善という機会を上手につかって、無理のないところから取り組みを始めてみましょう。

以上(2023年7月作成)

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画像:Shutter z-kittiphan-shutterstock

中小企業の経営者が知っておきたい 相続開始時のチェックポイントと生前対策

中小企業の経営者は、会社の株主でもあることが多く、その株は経営権であるため、会社を継ぐ立場の人が相続しなければ、経営に支障がでる恐れがあります。経営者と会社は非常に密接な関係にありますので、経営者の相続では、通常の相続手続きに加えて会社のことを考える必要があります。

本稿では、相続開始から相続税申告までの間に、どのようなことをチェックし、行えばいいのか、また、生前対策として何が必要であるのかを解説していきます。

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令和5年度お勧めの新設・拡充助成金4選

令和5年度はコロナウイルス禍による影響も段階的に縮小し、雇用調整助成金コロナ特例や緊急雇用安定助成金廃止等、多くの助成金が廃止・縮小されました。しかし、その中でも社会的な課題に対応する助成金として新設・拡充されたものもあります。今回はその中で

  • 産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)
  • 働き方改革推進支援助成金(適用猶予業種等対応コース)
  • 両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)
  • 高年齢労働者処遇改善促進助成金

を取り上げて解説します。

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アルコールチェックの義務化

2022年4月施行の道路交通法の改正により、安全運転管理者のアルコールチェック業務が、白ナンバー事業者においても義務化されました。また、同年10月から開始とされていたアルコール検知器によるドライバーの飲酒検査の義務化は「当面の間延期」とされていましたが、本年12月1日から義務化するとの方針を明らかにしました。

本稿では、本制度の概要から、従業員が社用車で業務中に飲酒運転をした場合の企業リスクをご紹介し、さらには、義務化を機に企業が取り組むべきことの一つである就業規則の整備や従業員への明確な周知など、労務管理上の対策について解説していきます。

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アルコールチェックの義務化

2022年4月施行の道路交通法の改正により、安全運転管理者のアルコールチェック業務が、白ナンバー事業者においても義務化されました。また、同年10月から開始とされていたアルコール検知器によるドライバーの飲酒検査の義務化は「当面の間延期」とされていましたが、本年12月1日から義務化するとの方針を明らかにしました。

本稿では、本制度の概要から、従業員が社用車で業務中に飲酒運転をした場合の企業リスクをご紹介し、さらには、義務化を機に企業が取り組むべきことの一つである就業規則の整備や従業員への明確な周知など、労務管理上の対策について解説していきます。

1 アルコールチェック義務化

これまでは運送業や旅客運送業などの、いわゆる「緑ナンバー」を対象として義務化されていたアルコール検知器でのチェックですが、「白ナンバー」の車を規定の台数以上使用する事業者も対象となりました。

アルコールチェック義務化の対象

社用車で従業員が飲酒運転を行った場合、道路交通法の「酒気帯び運転等の禁止違反」として、運転者だけでなく関係する対象者にも罰則が適用されることになります。また、アルコールチェックを行う安全運転管理者および副安全運転管理者の選任を怠ると50万円以下の罰金が科されることになります。

道路交通法の罰則

2 規程の整備と周知

企業と従業員を守るため、酒気帯びには厳格に対処すること、アルコールチェックを適切に実施していくことについては、社内規程に明確に記載しましょう。規程に盛り込むことで、従業員に対して、アルコールチェックの遂行を明確な業務指示として周知することができます。また、罰則を規定することで、飲酒運転の危険性についての意識を持ち、より確実に業務を遂行してもらうことができます。

【就業規則 規程例】

服務規律と懲戒事由

3 さいごに

まず、社内規程作成前に、①安全運転管理者の選定、②アルコールチェックの記録方法と管理体制の構築を行います。そして、前述のように就業規則へ規定するとともに、別途、アルコールチェックの実運用に関する社内規程を作成すると良いでしょう。

この法改正自体、実際の事故事案への対策としてのものとなります。まだ先のことと捉えるのではなく、更なる事故の悲劇を避け、企業や従業員を守るためと考えて、積極的に取り組みを進めていただければと思います。

※本内容は2023年6月15日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

「日本一裁判をしない弁護士」が創り出したのは、従業員がイキイキ働き生産性が上がる新しい福利厚生サービス。これこそがまさに人的資本経営の根幹だった/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、三谷 淳(みたに じゅん)さん(未来創造グループ 未来創造弁護士法人 代表弁護士・税理士、株式会社未来創造コンサルティング 代表取締役)です。

日本一裁判しない弁護士。

こう呼ばれる三谷さん。未来創造弁護士法人のホームページにも堂々と掲げられています。「裁判しない弁護士」とは、今の弁護士業界の中では、かなり異端児かもしれません。しかし、こういう姿勢こそ、経営者に本当に寄り添っているのではないでしょうか。実際、多くの経営者から支持されている三谷さんです。

三谷さんが、自身が代表を務める未来創造弁護士法人で「従業員を大切にする会社の新しい福利厚生」として始めた事業が、「Law Room(ロールーム)」です。これは、

会社が無料で導入でき、従業員やその家族も無料で弁護士相談できるサービス
で、現在は全国の会社に提供しています。

ロールームの背景には、三谷さんの「プライベートの悩みを弁護士がサポートすることによって、従業員の生産性を向上させたい。従業員を大切にする会社に導入してほしい」という熱い思いと、「次世代に少しでもよい社会を残したい」という切なる願い、そして、稲盛和夫氏の盛和塾での学びや出会いがありました。

「本当に従業員を大切にする会社」には、特におすすめの新しい福利厚生、ロールーム。ひいては、人的資本経営にもつながっていきます。その内容をご紹介します。

1 企業が伸びることは、日本を救うこと

「企業が経営を伸ばすということは、日本を救うということだ!」を掲げ、顧問弁護士として、多くの会社を応援してきた三谷さん。三谷さんの根底には、「このままでは日本はまずい」という危機感、そして「日本をなんとかしたい」という思いが強くあります。昭和50年生まれと最後のボリュームゾーンにあたる世代の三谷さん。これからの日本を考えたときに「自分たちがなんとかするしかない」という強い当事者意識を持っています。グループ名・法人名に冠した「未来創造」も同様で、「自分たちの未来は自分で作る」という当事者意識を表しているそうです。三谷さんはこう語ります。

「私にも子どもがいるので、この国を子どもたちに渡すときのことを考えます。私の父が昭和戦中生まれで、高度経済成長期を経験し、世界GDP2位の国を作り上げた世代。素晴らしい努力があったと思うのです。
ただし、その後、社会保障制度に手をつけずに、自分たちが恩恵を受けていたから、日本のピンチを生んだのも彼ら世代だと、私はそういう風に感じることもあります」

ご自身も、我が子から将来どんなふうに言われるかと考えた三谷さん。子どもから「お父さんの世代って悪いことしかしてないじゃん」とか「何もいいことしてないじゃん」って言われてしまうかもしれないと、本気で思ったそうです。それが2010年ごろのことで、それから三谷さんは、

少しでもマシな社会を次世代に残したい

と奮起します。日本の収支を鑑みて、具体的にやるべきことを考えたところ、社会保障費を削ること、消費税を上げること、あとは、法人税や所得税を増やして儲かる会社を増やす、これで均衡するくらいだなと。しかし、消費税を上げることや社会保障費を増やすことは、民間にはできません。

「民間の自分には稼ぐことしかできない。だとしたら自分は稼いで付加価値を出す、人の役に立って利益を出して、国に納める。これが、次の世代に渡すことだ。
ただし自分1人でやっても、たいしたことはきっとできない。(日本をよい社会にして次世代に渡すというような)そういう思いで会社を経営している経営者たちをとことん応援しよう」

「企業が経営を伸ばすということは、日本を救うということだ!」 未来創造グループ・三谷さんの次世代への思い、日本をなんとかしたいという「本気」がここに集約されています。

●三谷さんが代表弁護士を務める未来創造弁護士法人
https://www.mirai-law.jp

未来創造弁護士法人ホームページの画像です

未来創造弁護士法人ホームページ2の画像です

(出所:未来創造弁護士法人ホームページから抜粋)

2 従業員を大切にする会社の新しい福利厚生「ロールーム」

1)とことん従業員に寄り添う「ロールーム」

従業員が無料で弁護士に相談できる「ロールーム」は「従業員を大切にする会社の新しい福利厚生」として打ち出されています。

会社が導入するときに未来創造弁護士法人と交わす契約書にも、導入する前提として「従業員を大切にする会社である」ということが明記されており、三谷さんも「導入の条件は、従業員を大切にする会社かどうかに尽きます」と強調します。

ここで、ロールームの仕組みを見ていきたいと思います。聞けば聞くほど、本当に従業員ファーストで、かつ、それが会社の成長につながると実感できる内容です。

会社が導入する際の費用は無料。そして、従業員が弁護士に相談する費用も無料です(1回60分以内のご相談)。普通、弁護士に相談するとなると、高額な費用がかかるイメージがあります。一般的には、弁護士への相談料は通常30分で5000円、60分であれば1万円などかかるところ、ロールームは会社の福利厚生として60分無料で受けられるので、とても貴重です。しかも、会社側にもお金はかかりません。

ロールームに寄せられる相談のうち、90%くらいは、弁護士の法的な助言によって、「こうしてみます」「心配することはありませんでしたね」といったように、その場のご相談だけで解決するそうです。

残り10%ほどは、弁護士が窓口となって交渉したり、裁判所で手続きを取ったりした方がよいケースがあります。その場合は、「ご本人のご希望があれば、改めて委任契約を結び、費用をいただいてお手伝いをさせていただきます」ということです。

●従業員が無料で弁護士相談できる「ロールーム」
https://lawroom.mirai-law.jp/

未来創造弁護士法人ホームページ2の画像です

(出所:未来創造弁護士法人の資料から抜粋)

2)ロールームでは、どのような相談が寄せられるのか?

ロールームに、具体的に寄せられる相談内容は、主に次のものだそうです。

  • 離婚:夫婦間のトラブル。離婚したい。配偶者から「離婚したい」と言われた
  • 相続:争いになっているなどというよりは、そもそも入口の段階での躓き。なにをどうしたらよいのか、手続きがわからない
  • 交通事故:事故に遭ってしまった。事故を起こしてしまった
  • 借金:会社や人に言えない借金を抱えている
  • 不動産:賃貸契約をしている大家さんと話が合わないとか、購入した家の近隣の住民トラブルなど

確かに、どれも深刻であり、知り合いには相談しにくい内容かもしれません。従業員が100人いれば、年間1.5人ほどくらいの割合で相談が上がってくるそうです。大きな会社よりも小さい会社の方が周知されるのが早く、相談率が高い、と三谷さん。

「逆にいえば、100人に1人くらいは、弁護士に相談しなきゃいけない悩みを、どこかに抱えてらっしゃるものなのだなと思います。
それをどこにどういうルートで相談するかで、その後の解決も左右されますが、何も知らないと、やはりインターネット検索などで、マーケティング的な方法で広告宣伝をしている法律事務所へたどりついてしまいますよね」

その点、会社側が福利厚生として用意してくれていて、守秘義務を遵守してもらえる、さらに従業員の家族もサービスを利用できる。そういう信頼できる法律事務所の存在は心強いものです。

●ロールームのカード。従業員がいつも携行でき、困ったときにすぐ相談できる心強い味方

ロールームのカードの画像です

(出所:りそなCollaborare事務局にて撮影)

3)なぜロールームが生まれたか?

「日本一裁判しない弁護士」の三谷さんは、弁護士としては珍しく、係争に勝つことよりも争いを未然に防ぐトラブル防止を武器に、会社の経営を心底応援する弁護士であり続けようとしています。こうした三谷さんに対して、三谷さんのところの従業員があるとき、こう質問を投げかけます。

「企業を応援するなら、そこで働く従業員も応援すればいいのではないでしょうか。なんで従業員の応援をしないのですか?」

それまで「BtoBの応援をするのが、私の思いをより社会に還元できるのかな」と考えていたという三谷さん。しかし、従業員からの言葉をきっかけに考えてみると、次のように思えたといいます。

「たしかに家で、離婚問題に悩んでいるとか、夫婦仲が悪いとか、会社に言えない借金があるとか、そういう人が仕事に集中できるわけがないのですよね。それなら、私たちがその悩みを聞き解消して、仕事に集中してくれたら、従業員の生産性が上がり、企業の生産性も上がる。付加価値が上がる。利益が増える。この国を救うことになるのではないかと」

もちろん守秘義務を負っていますので、従業員から相談された内容は、会社に漏れることは一切ありません。従業員からすると、「会社に筒抜けになってしまうのでは」という不安があるかもしれませんが、そこも大丈夫、会社には漏れないので安心して相談できます。

ただし、会社の業務に関するご相談やパワハラなど会社と利害の対立するような相談は受けられないとしています。会社が従業員の福利厚生として導入する趣旨と合わなくなってしまうからです。

このあたりも、本当によく考えられており、従業員にとっても会社にとっても「超安心設計の福利厚生サービス」と言えそうです。

生い立ちなどを振り返ってお話ししていただくと、なんと、大学3年生のときに最年少で司法試験に合格した三谷さん。31歳のときに独立しますが、ご自身いわく「天狗になっていた」ところもあってなかなか顧客が増えない……。そうしたときに、三谷さんを変えてくれたのは稲盛和夫氏の盛和塾だったそうです。参加者が暖かく、「人間としてすごい人とは、こういう人をいうのか」と思えるお手本となる人たちと出会えて、稲盛氏がずっと言い続けていた「利他」にも触れていった三谷さん。

「そこで出会ったのは『経営者の身のまわりで起こる全てのことは、自分のせいである』という自責の考え方。それまでの私はまるで逆でした。全部他責、他人のせいにしていました。
悪いのはお客さん、従業員。俺はすごいのになぜって思っていたのですが、お客さんが増えないのは、自分がすごくなんかないからだ。自分に力がないからだ。そこに気付かせてもらえました。従業員が言うことを聞かないのは、尊敬されてないからだという、当たり前のことに気付かせていただいて、気持ちが楽になりました。
これまでは、他人が悪くて、変えられないから、常にイライラしていたのですが、『自分に原因がある、自分はコントロールできるから自分さえ変わればまだよくなれるのだ』とイライラがなくなりました」
「稲盛さんは『利他こそが人生を成功させるために一番大切な要素なのだ』と言っています。人がみな利他であれば、裁判など起きないのではないか。相手への思いやりを持って、つまり『利他』を実践して仕事をすれば、ビジネス上もうまくいくのではないか。心底、そう思うようになりました」

こうした気付きや思いが、「日本一裁判しない弁護士」そして「従業員を大切にする会社の新しい福利厚生=ロールーム」へとつながっていると感じます。大人になってから、自分の考え方を大きく変え、しかも行動に移すのは簡単なことではありません。思慮深く頭脳明晰かつ、とても温かい心。それらに裏打ちされた、成し遂げる行動力。そうしたものが三谷さんを形作っているように思います。

3 なんのためのサービスか? 原点に立ち返って考えた

ロールームのスタートや継続には、三谷さんたち未来創造弁護士法人の中でも大いに議論があったといいます。特に無料で相談を受ける点については、「お金になりやすい(個別案件につながりやすい)ものだけを無料で聞きましょう」「相談分野を絞って無料で受けましょう」といった議論が出てきたこともあるそうです。ビジネスとして、当然出てくる意見だと思います。
しかし、そこで三谷さんは立ち止まって考えよう、と呼びかけたそうです。

「ちょっと待って。このサービスは、何のために始めたのでしたか? 従業員の悩みを解決して、生産性を上げてもらうためですよね。
それなのに、『その悩みは聞くけども、この悩みは聞きません』って、そんなのないでしょうという議論を、社内でしました」

ほかの法律事務所では、マーケティング的にどこが儲かるか分析して、同様のサービスを実施しているところもあります。「それと同じことをやるのか。われわれがこのサービスを立ち上げようとした原点は、そんなものじゃありませんでしたよね」と、三谷さんは自社の従業員たちに投げかけます。

「マーケティング的なやりかたをしている法律事務所は、莫大なマーケティング費用をかけて、案件を集めています。
私たちのロールームは、基本的に広告費用をかけていません。会社の社長が、自分の会社の従業員に『これ良いから使ってみて』と推奨してくださることによって、マーケティング費用0なわけです。社長がそうやってくれるわけですよね。
であれば、それで来てくださる従業員の方のご相談は、全部聞こうよ、と。
『どちらが社会の役に立つか。役に立つほうが最後に成功する』というのが、稲盛さんの言葉でもありますから」

三谷さんは、こうも続けます。

「私たちのサービス、ロールームは、相談が来ないと何も始まりませんから、どんな悩みでも相談してください、となります。絶対に世の中のためになることをやっているという自信と実感がありますから、胸を張っておすすめできます。
私たちは、これ(ロールーム)で、名を上げるとか売り上げがどうだ、収入がどうだとは考えたことがなくて、絶対にこれはみなさんにお役立てていただけると確信しています。
従業員の育成の場にもなるし、弁護士の育成の場にもなるし、何をとってもいいことなのではないかと思っています」

ロールームを通じて実現されるであろう「従業員がイキイキ働く、仕事に集中する、生産性を上げる」、これは、まさに今、会社が実現しなければならない人的資本経営にとって欠かせない、というかむしろ根幹の部分ではないかと思います。

ロールームのような「本当に従業員を大切にする会社の新しい福利厚生」が、会社にとってデフォルトになる日は、それほど遠くはない気がします。新しい素晴らしい未来を感じさせていただきました、三谷さん、本当に有り難うございます!

●従業員が無料で弁護士相談できる「ロールーム」
https://lawroom.mirai-law.jp/

以上(2023年7月作成)

デジタル遺品で大混乱を起こさないために3分間でできること~デジタル終活のススメ~

書いてあること

  • 主な読者:パソコンやスマホに公私のデータを保存している経営者
  • 課題:デジタル遺品により発生するリスクと、対応する策が分からない
  • 解決策:「スマホのスペアキー」を作成する。そのうえでデジタル資産を整理する

1 デジタルが欠かせないなら、「デジタル終活」も欠かせない

デジタルはすでに世の中に欠かせない存在になっています。コンビニのレジにはQRコードを読み込むリーダーが設置されていますし、上場株を保有するならデジタルでの取引が必須条件となります。取引先への連絡でも、電話よりも電子メールやLINEが好まれるケースも増えています。

パソコンやスマートフォン(スマホ)、オンラインアカウントなどなど、好むと好まざるとにかかわらず、「デジタル資産」を全く持たない生活は不可能に近いでしょう。

であるならば、

万が一のときにデジタル資産で困らないようにする「デジタル終活」は誰にとっても欠かせないこと

だといえます。とりわけ、経営者の方はきちんと備えておかないと、社会的な信用問題に直結する恐れがあります。家族や社員、株主、取引先のためにも、日ごろからデジタル終活を実践しましょう。

2 必要最小限のデジタル終活は「スマホのスペアキー」

1)パスワードを書いた紙に修正テープを

最低限やっておくべきデジタル終活は何かと問われれば、誰に対しても「スマホのパスワードを紙に書いて残しておくことです」と答えます。スマホを持っていない方は、メインで使っているパソコンのパスワードと置き換えてください。

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方法を具体的に解説しましょう。必要なものは名刺サイズの厚紙とペン、それに修正テープです。特別な道具は要りません。まずは厚紙にスマホの型番や特徴とパスワードを書き込みます。そして、パスワード部分にだけ修正テープを走らせます。一度だけでは透けてしまうので、2~3回重ねるのがコツです。厚紙を照明にかざすと裏側から文字が透けることもあるので、裏側にも同様に修正テープを重ねておきましょう。

これで即席のスクラッチカードの出来上がりです。これを預金通帳や権利書などの重要な書類と一緒に保管しておけば、万が一の際もかなり高い確率で家族や社員に気付いてもらえるはずです。普段盗み見られる心配も、修正テープが抑えてくれます。誰かが削って盗み見たら厚紙に痕跡が残るので、気付いた時点で手元のスマホのパスワードを変更して作り直すだけです。

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私はこれを「スマホのスペアキー」と名付けました。お手持ちの名刺を使えば、3分以内に作れそうではないですか?

作例のような専用カードを作るなら、筆者のホームページ(https://www.ysk-furuta.com/)でひな型を公開しているので、ぜひご利用ください。

2)なぜスマホなのか?――理由1:「スマホの財布化」

デジタル遺品になり得るものはさまざまな種類があります。その中で、なぜスマホを第一優先にすべきなのでしょうか。理由は2つあります。

ひとつは、スマホがデジタル遺品の要になりやすいことが挙げられます。通話やLINEのやりとりといったコミュニケーションの履歴が残るだけでなく、最近はネットバンキングや有価証券の取引の道具としても、パソコン以上に積極的に活用されています。

とりわけ近年目立っているのは、QRコード決済サービスです。スマホで使うことを前提に設計されたサービスで、業界大手の「PayPay」はサービス内に最大100万円分をチャージしておけます。スマホを最大100万円の財布として使えるわけですが、残高を残したまま持ち主に何かがあっても、残された人が現実の財布のようには抜き出すことはできません。

総務省と地方自治体、金融機関はスマホで地方税を納税する仕組みの標準化に取り掛かっていますし、マイナンバーとスマホを連動させる取り組みも国を挙げて検討されています。全てが順調に進まなかったとしても、財産と個人情報の両面からみてスマホの存在感が高まっていくのは間違いなさそうです。

3)なぜスマホなのか?――理由2:「FBIでも開けない強固すぎる構造」

それでいて、スマホのロックはパソコン以上に強固です。それが2つ目の理由となります。

最新のスマホは指紋や瞳の虹彩、顔などの生体認証システムと、文字列などを使ったパスワードシステムを併用するロックが一般的です。どちらかの鍵さえあれば開けますが、どちらも手に入らないとお手上げになってしまいます。本人の身を不幸が襲って生体認証が使えなくなり、パスワードも本人の頭の中だけだったら……もうお手上げです。

別の方法でロックを解除する方法は、一切用意されていません。通信キャリアのショップやメーカーもマスターキーを提供していないので、相談しても無駄です。

この段階でも、パソコンなら地域にある優秀な修理サービスに相談すれば、機械を分解したり、特殊な手順を使って中身にアクセスしたりと、さまざまな方法を検討してくれるでしょう。しかし、スマホの解除を検討してくれるところは全国を見回しても片手で収まるほどしかありませんし、成功率はかなり低くなります。

象徴的なのが、2016年にFBIがアップル社を相手取って起こした連邦裁判です。前年に発生した銃乱射事件では、現場で射殺された犯人が同社のスマホ「iPhone」を所持していました。FBIはこのスマホの解析に乗り出しましたが、自力でのロック解除を断念。そこで製造元のアップル社に技術提供を要請したものの、その後の不正利用を不安視した同社が拒否したことで裁判に発展しました。

つまり、家電量販店や通信キャリアのショップに普通に並んでいるスマホは、一台一台が、FBIですら自力ではどうすることもできないほど強固なセキュリティー機能を有しているわけです。ポケットに収まる地下金庫のような、アンバランスな存在です。

そんなスマホですが、いざというときにパスワードさえ伝わる仕組みを自分で作っておけば、不測の事態が起きても何の憂いもありません。そのために「スマホのスペアキー」を用意しておく必要があるのです。

3 日ごろから「求められるもの」と「隠すもの」に分ける

さて、スマホのスペアキーが役目を果たすときは、家族や社員が自分のデジタル環境に足を踏み入れるときでもあります。当たり前のことですが、ことデジタル環境においては、それを想定している人は意外と少ないようです。

数年前に、ある女性から相談を受けました。法人成りした自営業の夫が急な不幸に見舞われたとのことで、仕事場に残された数台のパソコンを調べるためのアドバイスが欲しいといいます。法律面と技術面で基本的な情報を伝え、信頼できるデジタル遺品サポートを紹介したところ、連絡すべき相手や法人名義の預金口座など、あらかたの情報が拾い出せたそうです。しかし、仕事関連の隣にあったフォルダーからプライベートで収集していた画像が大量に見つかり、相当面食らったと後から教えてくれました。

プライベートなコレクションの中には、違法性が疑われるデータが出てきたという話も少なからず耳にします。その是非はさて置き、デジタル環境においても、日ごろから自分以外の誰かが足を踏み入れることを想定しながら使用する、という意識が必要なのは間違いないでしょう。

家族や社員がデジタル遺品を調べる動機は、金銭関連や進捗中の仕事の情報などの把握が第一に挙げられます。第二に家族写真などの思い出のデータを探したい欲求も強いことがよくあります。

そのように、残された側が求めるであろうデジタル遺品は、なるべく分かりやすいところに置いておくのが親切です。そして、隠しておきたいものがあるなら、その動線上に置かないように、日ごろから意識しておくのが鉄則です。

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パソコンには隠しファイル機能がありますし、パスワード付きの外付けハードディスクに保存するといった手もあります。スマホも特定の写真を隠しフォルダーに収納するなどの工夫の余地はいくらでもありますが、何よりこの鉄則を守ることが大切です。残された側が必死に探すモチベーションを持たない領域なら、いくらでも自由に隠したり壁を作ったりできるでしょう。

ただ、ひとつ注意したいのは、閲覧履歴や通信履歴などは普通に使っているとどうしても痕跡が残るということです。また、バックアップ機能も十分に把握しておかないと、隠したいものの完全な隠蔽は難しいでしょう。デジタル環境をきちんと整理整頓するには、それなりの知識と使いこなしが必要になります。残念ながら、魔法のようなアイテムは存在しません。

以上(2023年7月更新)

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