【朝礼】柳のようにしなやかな心であれ

仕事や私生活を送る上で、私たちは日々多くの壁にぶつかります。思い通りに行かないこと、想像もしなかった結果に終わることが多々あるでしょう。皆さんは、そんな状況を乗り越えていくために、どのような心構えが必要だと思いますか。

「困難な状況を乗り越えるには、鉄のように強く硬い意志が必要だ、意志が弱ければ鍛えて強くすればよい」とよく言われます。ここでいう、強い意志とは何事も弾き返す、鉄のような硬さを持った意志を指します。確かに、あらゆるストレスを弾き返すことができる硬い意志はどんな状況にも耐えられそうです。しかし、本当に硬い意志を持つだけで、困難な状況を乗り越えることができるのでしょうか。私はそうは思いません。私は、困難な状況には柔軟さこそが必要だと思います。

皆さんは刃物などを製造する時に「焼き入れ」「焼き戻し」などの作業を行うことは知っていますか。「焼き入れ」とは熱した金属を一気に冷やすこと、「焼き戻し」とは熱した金属をゆっくり冷やすことです。

焼き入れを行うと刃は硬くなりますが同時に脆くなり割れやすくなります。焼き戻しを行うと、刃の硬さは落ちるものの、柔軟になります。焼き入れと焼き戻しの作業を繰り返して作られる優れた刃物は、硬さと同時に柔軟さも兼ね備えています。

刃物だけではありません。例えば、「柳に雪折れなし」ということわざがあります。これは、柳の枝はちょっとした風雨や雪でも揺れますが、猛烈な風雨や雪の影響を受けても折れずに軟らかい枝で力を受け流すことから、柔軟なものは堅剛なものよりもよく事に耐えるという意味を表しています。そうした柔軟さを持ちながらも、柳は倒れることなくしっかりと地面に根を張って立ち続けているのです。

刃物であれ、柳であれ、柔軟さを持たずにただ硬いだけでは、自分より強いものとぶつかった時に折れてしまいます。人間も、大きな壁に直面した時、それをはじき返そうと心を固めているだけでは、大きな力に負けて折れてしまうかもしれません。しかし、柔軟でしなやかな心を持てば、一旦は状況を受け止め、そして困難を脱するためのアイデアも湧いてくることでしょう。

ここで、心にしなやかさを持つために、心がけていただきたいことを一つ挙げておきましょう。それは、何事につけても先入観にとらわれてしまわないことです。例えば、過去の経験や習慣はとても重要なことですし、その経験を生かすことは何か問題が起きた時の解決にはとても役立つでしょう。けれども、それだけでは型通りで硬直的な対応になってしまい、新しい問題に対応できないかもしれません。

困難に突き当たっても折れてしまうことなく、臨機応変に対応できる柳のようにしなやかな心を持つことが、皆さんが本当に実力のあるビジネスパーソンとなるための秘訣だと思います。

以上(2023年7月)

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画像:Mariko Mitsuda

2023年版「中小企業白書」から見えてくる中小企業の成長機会

書いてあること

  • 主な読者:アフターコロナを踏まえて、自社の今後を考える経営者
  • 課題:他社との差異化を図るために何をすべきなのか、検討のヒントが欲しい
  • 解決策:人手不足を解決するための生産性向上や、新しい担い手づくりなどが求められる

1 中小企業が足元で抱える課題は?

業種による違いは大きいものの、コロナ禍からの脱却が急速に進み、中小企業全体で見れば、売上高や経常利益なども回復してきています。しかし、業績が回復して企業が採用を進めると、今後は人手不足が問題になってきます。

そこでこの記事では、2023年版「中小企業白書」(以下「白書」)から、業種を問わず課題となりうる「人手不足への対応策」や「新たな担い手づくり」に焦点を当て、競合他社との差異化を図るためのヒントを紹介します。なお、この記事で紹介する図表の出所は全て白書であることや、分かりやすさを重視したことから、出所の記載や注釈は省略しています。詳細な内容を確認したい場合は、白書の本編をご覧ください。

2 人手不足対応のカギは「生産性向上」

1)採用に注力しつつ、生産性向上を図る

人手不足への対応は、正社員やパートタイマーなどの人材採用に限りません。業務プロセスの見直しによる業務効率化や、社員の能力開発、ITなどの設備投資によって生産性向上等に取り組む動きが見られます。

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2)職場環境の改善で魅力の向上を実現する

人材確保のために中小企業が取り組んでいることとして、「給与水準の引き上げ」や「長時間労働の是正」があります。また、「育児・介護などと両立できる制度の整備」、「福利厚生の拡充」を通じた職場環境の改善などによって、職場の魅力向上に取り組む動きがあります。

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3 他社との差異化は、担い手づくりが肝心

1)経営者仲間との積極的な交流を通じて、企業の成長意欲を喚起する

経営者が成長意欲を高めるきっかけには、同業種・異業種の経営者との交流が大きな比率を占めています。

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2)リスキリングに取り組むことが、自社の成長にもつながる

経営者が学習時間を意図的に確保している企業のほうが、売上高増加率の水準が高い傾向にあるようです。経営者自身が学ぶ姿勢を見せることで、組織全体のリスキリングを推し進めるきっかけにもなります。

経営者が取り組んでいるリスキリングの内容としては、「書籍・セミナー受講等による知識の収集」、「社外での勉強会への参加」が上位に上がっています。

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一方、役員・社員に提供しているリスキリングの内容は、「書籍・セミナー受講等による知識の収集」、「社外での勉強会への参加」、「新しいスキルに関する資格取得」が多いようです。

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4 事業承継によって新たな担い手の創出を図る

1)事業承継後の事業再構築で成果を出す

事業承継は経営資源の散逸を防ぐとともに、経営者の世代交代により、企業を変革するチャンスになります。また、事業承継時の経営者年齢が若い企業ほど、企業の成長に寄与する事業再構築に取り組む傾向があります。

ここでいう事業再構築とは、新たな製品の製造または、新たな商品もしくはサービスを提供することや、製品または商品、もしくはサービスの製造方法、または、提供方法を相当程度変更することを指します。

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2)後継者に意思決定を任せてみる

後継者の新しい挑戦を促す上で、事業再構築の取り組みといった課題を与えるなどして、先代経営者は後継者に経営を任せることが重要です。また、従業員からの信認を確保することも大切で、従業員から信認を得て、事業再構築を行う企業ほど、売上高年平均成長率が高い傾向にあります。

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5 終わりに

白書からは、多様な働き方や意思決定の柔軟さなどといった中小企業ならではの特性を活かして、他社との差異化を図ることの大切さが明らかにされています。

白書の中では、人手不足をきっかけに、デジタル化による業務効率化を実現した企業や、副業人材を活用することで売上の向上につなげた企業など、個別具体的な企業の事例も紹介しているので、自社の戦略を立てる際の参考にするとよいでしょう。

以上(2023年7月作成)

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画像:master1305-Adobe Stock

日常点検を行いましょう!(2023/7号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

自動車の故障は1年の中で7月頃から増える傾向があります。

皆さんは日常点検を適切に実施していますか?

自動車は精密機械です。走行距離や時間の経過に伴って部品の摩耗や劣化が進みます。日常点検を怠っていると、運転中に故障やトラブルが生じ、交通渋滞や交通事故を誘因するおそれがあります。

今月は、自動車の日常点検について再確認してみましょう。

日常点検を行いましょう!

1.故障の発生状況

自動車の故障の発生件数は、6~7月から増え始め、12~1月にピークを迎えます。※

特に、ゴールデンウィークやお盆、年末年始などの連休にはロードサービスの救援要請が増加します。

ロードサービス救援件数

出典:一般社団法人日本自動車連盟(JAF)「ロードサービス救援 データ」から当社作成

※夏季は路面温度が上昇しタイヤに負荷が掛かったり、夏季にバッテリーを酷使して冬季にトラブルが生じたりすることが要因と考えられます。

故障の発生状況

国土交通省「令和4年度路上故障の実態調査結果」から当社作成

国土交通省の統計データで路上故障(一般道路)の故障部位をみると、「タイヤ」と「バッテリー」の割合が高く、この2つで全体の約6割を占めています。

タイヤの故障原因としては、空気圧不足やパンク、バーストなどがあげられ、バッテリーの故障原因としては、ライト類の長時間使用などによる過放電や破損、劣化などがあげられます。

運転中に発生するこれらのトラブルの多くは、日常点検をしっかりと行っていれば回避することが可能です。

故障経験

当社調べ「あなたは過去にお車が故障し自走不能となった経験がありますか?
(事故による故障の場合を除きます)」への回答結果
(2022年5月実績 回答者数:2,421名)

実は、3人に1人が故障を経験しています!

エンジン故障など修理費が高額になることもあります。

自走不能の場合はレッカー費用もかさみます。

2.日常点検のキホン

日常点検整備の実施は、ユーザーの義務として法令(道路運送車両法47条の2)に定められています。自家用乗用自動車の場合は、日頃、自動車を使用している中で、走行距離や運行時の状態などから判断した適切な時期に点検を行う必要があります。

【「日常点検項目チェックシート」の紹介】

自動車に安全に乗るためには欠かせない日常点検ですが、自家用乗用自動車の場合、エンジンルーム5項目、クルマの周り4項目、運転席6項目(全部で15項目)をチェックする必要があります。

「日常点検項目チェックシート」を活用して効率的に日常点検を実施しましょう。

日常点検項目チェックシート

日常点検項目チェックシート(上図参照)

出典:国土交通省「自動車の点検整備」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha/tenkenseibi/tenken/t1/t1-2/

※日常点検で、もし少しでも「変だな」と感じたら、整備工場などで点検整備を受けてください。

<タイヤのトラブル回避>

高速で走行中にパンクやバーストが発生すると非常に危険です。また高速道路などの路肩でのタイヤ交換は追突されるなどの危険が伴います。

運転の前には、タイヤの空気圧、亀裂・損傷の有無、溝の深さ(スリップサイン)をしっかりチェックしましょう。

タイヤのトラブル回避

<バッテリーのトラブル回避>

バッテリーがあがる前にはランプ類が暗くなったり、エンジン始動の際のモーターの回転がスムーズでなくなったりします。

バッテリーの寿命を意識して日頃のバッテリー液の点検をしっかり行いましょう。

バッテリーのトラブル回避

3.日常点検の励行

日常点検を励行すれば、不具合を早期に発見・修理することができ、次のメリットが期待できます。

  • 交通事故防止(予期せぬトラブルや不測の事故の発生を未然に防げます)
  • 出費の抑制(長期的にはメンテナンス費用が少なくなり、自動車の寿命も延伸できます)
  • 環境保全(燃費の改善により地球温暖化の原因であるCO2の削減につながります)

※「エコドライブ10のすすめ」の項目(8.タイヤの空気圧から始める点検・整備)になっています。

日常点検をしっかりと行い、安心・安全かつ快適な運転を心がけましょう!

以上(2023年7月)

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【海外展開の手引(6)】お手本にしたい他社の成功事例集

書いてあること

  • 主な読者:販路拡大や生産コスト削減などのために、海外展開を検討している経営者
  • 課題:海外展開を成功させるための秘訣を知りたい
  • 解決策:海外展開に成功した他の中小企業の事例を参考にする

1 他社の成功事例を知ることも大事な情報収集

海外展開を検討する際、現地のリスクの把握や市場調査の他に、収集すべき情報として、

先行した他社の成功事例

があります。理論や数字などから海外展開の成功ポイントを知るだけでなく、実際の成功事例を参考にすることで、検討すべき課題がより明確になるはずです。

この記事では、日本貿易振興機構(以下「ジェトロ」)「ジェトロ活用事例」、新輸出大国コンソーシアム「海外展開成功事例集」、中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」)「中小企業の海外展開入門」などの資料や、各社ウェブサイトなどを基に、中小企業の海外展開事例を紹介します。なお、各機関の資料で紹介されている事例については、各資料作成時点のものです。

2 中小企業の海外展開における成功事例

1)オンライン商談を活用して販路開拓した事例:翠華園 谷村弥三郎商店(奈良県)

翠華園 谷村弥三郎商店は、茶せんなどの茶道具を製造販売しています。

同社は2020年に海外への輸出に取り組み始めました。まずは茶道具の海外ユーザーを増やすために、SNSのInstagram(インスタグラム)を活用し、茶道具の魅力や工房の様子などを発信したところ、ダイレクトメッセージで引き合いがくるようになったといいます。

そして、ジェトロが主催するオンラインカタログサイト「JAPAN STREET」に登録したことで、米国のバイヤーとの取引が成約し、ニューヨークのセレクトショップで販売されるようになりました。

取引が成約に至った決め手は、オンライン商談でした。バイヤーが顧客にも茶せんの価値や魅力を伝えられるよう、スマートフォンを使って実物を見てもらいながら、商品の背景にあるストーリーを説明したことが奏功したといいます。

具体的には、原料となる竹を見てもらいながら素材へのこだわりを説明。さらに、実際に工房で職人が手作業で茶せんを作る様子を映しながら製造工程を紹介することで、商品の価値と魅力を伝えることができたそうです。

2)越境ECサイト内のSNSを活用してリピーターを増やした例:Earthink(兵庫県)

Earthinkは、食品や雑貨の企画製造・販売などを行っており、食品の国内外への通販事業にも携わっています。2015年からは、米国のECモールAmazon.comに「Japan Village」を出店し、うなぎのかば焼きなど日本のこだわり食品を販売しています。

ECモール内で自社の販売する商品を見つけてもらうために試行錯誤する中、同社は2021年にジェトロとAmazonが日本の事業者の商品を特集するストア「JAPAN STORE」に参加しました。事業で提供されるウェビナーや講座からSEO対策や広告運用などのノウハウを得て、売り上げの増加につながったといいます。

また、ウェビナーをきっかけに、Amazon内のSNS「POST」への投稿に力を入れるようになりました。POSTではセールス色を抑え、販売している食品の用途やレシピ、商品の魅力や背景にあるストーリーの他、日本の文化など、より日本を身近に感じてもらう投稿を行いました。その結果、フォロワーや購入リピーターが増えたといいます。また、Amazonのイベント前や販促を強化したい商品があるときに集中的に投稿を行うことで、露出がさらに増えたそうです。

3)技能実習生を活用して現地進出を果たした事例:アーキテック(高知県)

アーキテックは建造物の防水加工や内装工事を行っています。同社はミャンマーで建築資材の防水加工を専門に行う企業がないことを知り、ミャンマーへの進出を考えるようになったといいます。

2017年に現地法人を設立後、新輸出大国コンソーシアムの支援を受けて、本格展開の準備を進めました。コンソーシアムの専門家からは、現地の法律や、ASEANでの商習慣などの助言を受けました。コンソーシアムの専門家の助言を受けて日系ゼネコンなどへのPR活動を行った結果、2018年11月から工業団地の工場の外壁工事や、ヤンゴン市内の学校およびホテルの工事の一部を受注できるようになったといいます。

人員体制の整備については、技能実習生として2015年から日本の本社で受け入れていたミャンマー人を活用しました。技能実習生としての勤務経験があるスタッフを雇用し、現地採用の人材の指導に当たってもらうことで、20人規模の運営体制を構築したといいます。元技能実習生を現地で雇用したことは、日本にやって来る技能実習生にとっても、やる気を引き出す効果があったようです。

4)特許戦略で海外展開の足掛かりを築いた例:アイマックエンジニアリング(東京都)

アイマックエンジニアリングは、プラント用機械の設計・製作を行っており、工場内で製作したユニットを現地で据え付けるだけで建設可能な新工法のノウハウを持っていることが強みです。

同社は2019年度に、新工法のノウハウを武器に、国内メーカーだけでなく海外メーカーとの取引も行うことを目指して、知的財産を活用した中小企業の海外展開をサポートする経済産業省の「戦略的知財活用型中小企業海外展開支援事業」に応募し、採択されました。

当初はライセンス供与による海外メーカーとの取引を計画しましたが、中小機構のアドバイザーと検討した結果、周辺特許を多数権利化する必要があることなどが判明し、PCT出願(国際特許出願)を行うことにしました。PCT出願は、特許協力条約(PCT)への加盟国の1カ国に、統一された出願書で特許を出願すると、全ての加盟国に特許出願したことになるものです。

2020年12月に日本での特許の権利化を達成し、2021年度までにアジアや欧米の9カ国で権利化の手続きを開始しました。同社は特許の権利化を足掛かりに、今後は海外展開を進めていく方針といいます。

3 海外展開の成功事例に関する情報源

1)ジェトロ「ジェトロ活用事例」

ジェトロでは、目的、分野、海外展開先などから、海外ビジネスの成功事例を検索できるようにしています。

■ジェトロ「ジェトロ活用事例」■

https://www.jetro.go.jp/case_study/

2)新輸出大国コンソーシアム「海外展開成功事例集」

ジェトロのウェブサイトでは、ジェトロが事務局を務める新輸出大国コンソーシアムによる支援を活用した、58社の事例を紹介しています。

■ジェトロ「新輸出大国コンソーシアム『海外展開支援活用事例集』をウェブサイトで公開」■

https://www.jetro.go.jp/news/releases/2022/0f885ee3faef4a45.html

また、同じく新輸出大国コンソーシアムを活用して海外展開に成功した、100社の事例も紹介しています。

■ジェトロ「新輸出大国コンソーシアム『海外展開成功事例集』をウェブサイトで公開」■

https://www.jetro.go.jp/news/releases/2019/48c3ea6f0bbe6a95.html

3)中小企業基盤整備機構「中小企業の海外展開入門」

中小企業基盤整備機構では、中小企業による「海外進出の取り組み事例一覧」をウェブサイト上で掲載しています。また、「事例集(中小企業庁編)」では、全国の中小企業支援機関による支援を受けて、海外展開を果たした事例を紹介しています。

■中小企業基盤整備機構「中小企業の海外展開入門」■

https://j-net21.smrj.go.jp/special/overseas/

4)国際協力機構「採択事業検索」

国際協力機構(JICA)では、中小企業への海外展開支援事業に関して、対象国、スキーム、公示年度などから過去の案件事例を検索できるようにしています。

■国際協力機構「採択事業検索」■

https://www2.jica.go.jp/ja/priv_sme_partner/index.php

5)日本商工会議所/東京商工会議所「ヒラケ、セカイ2」

日本商工会議所および東京商工会議所では、2018年1月に中小企業の海外展開事例集「ヒラケ、セカイ2」を発行しました。2016年10月に発行した第1弾に続く電子冊子で、16社の事例を紹介しています。

■日本商工会議所/東京商工会議所「ヒラケ、セカイ2」■

http://www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=112735

6)工業所有権情報・研修館 知財総合支援窓口「支援事例」

工業所有権情報・研修館では、ウェブサイト「知財総合支援窓口」において、知財面における「支援事例」を紹介したページの中で、代表的な海外展開支援事例を紹介しています。

■工業所有権情報・研修館 知財総合支援窓口「支援事例」■

https://chizai-portal.inpit.go.jp/supportcase/02.html#supportcase04

以上(2023年6月更新)

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「ディベート研修」で論理的に考え、しっかり主張できる社員を育てる

書いてあること

  • 主な読者:社員の論理的思考力や議論・討論スキルを向上させ、会議でも活発な意見が交わされるようにしたい経営者
  • 課題:ディベートによって、社員の論理的思考力や、積極的に意見を交わす力を養いたいが、どのように進めたらよいのか分からない
  • 解決策:ディベートの基本的な進め方や、議論の構築方法を押さえる

1 「ディベート」を取り入れて人を動かす力を身に付ける

皆さんは本格的なディベートをしたことがありますか?

ディベートで社員の議論・討論技術、論理的思考力などを鍛えることができるので、これを社員教育に取り入れる企業があります。ビジネスでは自身の意見を主張し、「意見を戦わせる」ことも必要ですから、それができる社員を育てましょう!

この記事では、ディベートの進め方や留意点を解説します。ディベートを繰り返すことで得られる論理的思考力や、物事を客観的に把握する能力は、社内外での打ち合わせや商談などでも、良い結果をもたらしてくれるはずです。

2 ディベートの進め方

ディベートでは、肯定派・否定派といった異なる立場に分かれて、対立構造の下で議論をします。ディベートには、大きく分けて2つの形式があります。

  • アカデミックディベート:論題が、数週間から数カ月、1年など、時間的な余裕を持って与えられ、入念に準備する期間がある
  • パーラメンタリーディベート:論題が、数十分前に与えられ、事前に準備する期間があまりない。即興性を重視したディベート

それぞれについて、一般的な進め方は次の通りです。

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ディベートの構成員は、討論者(以下「ディベーター」)・司会・タイムキーパー・点数集計係・ジャッジです。一般的には次の人数構成で行われます。

  • ディベーター(肯定側グループ):2~5人程度
  • ディベーター(否定側グループ):2~5人程度
  • 司会:1人
  • タイムキーパー:1人
  • 点数集計係:1~2人
  • ジャッジ:奇数人数もしくは会場にいる残り全員

3 進行上の留意点

1)論題のタイプ

論題を設定します。ディベートにおける論題には次のようなものがあります。

  • 政策論題:国会で行われているような政策に関する論題。「国防費をGDP比でもっと高めるべき」など。ビジネスでは「わが社は朝礼を導入すべき」など
  • 推定論題:是非や真偽を問う議論。「子どもにスマートフォンは必要か」など。ビジネスでは「わが社は、中途採用よりも新卒採用に注力すべきか」など
  • 価値論題:価値観に関する論題。「地方暮らしのほうが都会暮らしよりも良い」など。ビジネスでは「リモートワークと出社、どちらが良いか」など

アカデミックディベートは、参加者が事前に資料の収集・分析を行う時間があるため、政策論題や推定論題に向いています。一方、パーラメンタリーディベートは即興性が求められるため、個人的な価値観を議論する価値論題が取り上げられる傾向にあります。

2)論題の要件

論題は、肯定側と否定側に議論が分かれるテーマでなければなりません。また、既に決まっていることや、自明のことはテーマとして不適切です。

3)資料の収集・分析

ディベートでは肯定側・否定側がランダムに決められるため、論題の内容などを理解した上で、肯定側・否定側、双方の視点から議論を構築できるよう資料の収集・分析をします。

また、アカデミックディベートとパーラメンタリーディベートでは、資料の収集・分析に必要なアプローチが異なります。アカデミックディベートでは事前に論題が発表されるため、資料の収集・分析の対象を絞ることができます。一方、パーラメンタリーディベートでは論題が直前に発表されるため、さまざまな論題に対応できるように、幅広い分野での資料の収集・分析が必要です。

4)議論の構築

議論の構築の方向性は、政策論題と推定論題、価値論題で異なります。政策論題では「その政策を導入すべきか」という観点であるのに対し、推定論題は「その考えが妥当であるか」という是非や真偽、価値論題では、それぞれの異なる観点から、ジャッジを説得しなければなりません。よって、推定論題、価値論題のほうが、政策論題よりも難易度が高くなります。

1.政策論題における議論の構築方法

政策論題における肯定側・否定側の議論の構築方法は次の通りです。

  • 肯定側:問題を明確にし、論題の政策を採択することで解決されることを立証
  • 否定側:論題の政策を採択しても問題は解決されず、むしろ新たな問題が発生することを立証

2.推定論題における議論の構築方法

「これが正解である」という論拠を示すのが難しいものの、論理的に考えてあり得るのではないか、あり得ないのではないかという仮説を立てて、それを裏付けるものを立証します。

3.価値論題における議論の構築方法

価値論題では、肯定側と否定側の立場を比較しながら、それぞれ自分の立場から見たメリットを示すことが重要です。

5)ディベーターの肯定側・否定側の振り分け

ディベーターの肯定側・否定側の振り分けは、ディベート直前にじゃんけんやくじ引きなどでランダムに決めます。そのため、ディベーターは資料の収集・分析など準備の段階から、肯定側・否定側双方の立場で考えなければなりません。

6)ディベートの進行ルール

ディベートには、発言時間・順序などのルールがあります。一般的には「立論」や「反論」などのステージがあり、それぞれ順序や時間が定められています。発言時間は任意に決定できますが、

  • 「立論」や「反論」の時間は3~6分程度
  • 「質疑」は2~3分程度
  • それぞれの発言の前に設けられる「準備時間」は1~2分程度

というケースが多いようです。

最後にジャッジが、より説得力のある議論を展開した側に「勝利」の判定の投票をします。ジャッジは、それぞれの側の時間配分・チームワーク・発表態度・議論内容の水準などを採点基準にして勝敗を判断します。ジャッジからその判定をするに至った理由や建設的なアドバイスなどを受けることにより、ディベート能力の向上を図ることができます。

参考として、アカデミックディベートの発言順序の一例を紹介します。ただし、パーラメンタリーディベートでは、立論・質疑・反論が1つのスピーチ内で、各ディベーターによって行われるのが一般的です。なお、図表にある「立論」「反論」の意味は次の通りです。

  • 立論:論点となる議論を新たに示すこと
  • 反論:相手の立論に反論することで、この段階で新たな立論はできない

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4 ディベートで鍛えられる能力

1)論理的思考力

ディベートの目的は、自らの主張をジャッジに納得してもらうことです。そのためには、論理的に主張する必要があるので、自分の意見が成立する理由を論拠や事実に基づいて立証する訓練の中で、論理的思考力が養われます。

また、ディベートでは相手の議論や質疑に対して、限られた時間の中で考えて対応するため、矛盾を見つける力や、素早く考える力も鍛えられます。

2)多角的・客観的視点

ディベーターの肯定側・否定側の振り分けはランダムに決定されるため、肯定側・否定側双方の立場から考える訓練になります。これにより物事を固定観念や個人的な感情に流されずに、多角的・客観的な視点から見ることができるようになります。ビジネスシーンでの意思決定においても、メリット・デメリットの両面を考える習慣を身に付けることができます。

3)コミュニケーション能力

自らの主張をジャッジに理解してもらい、納得させるには、アイコンタクトやジェスチャー、声のトーンなども重要です。また、ディベートでは質疑や反論を効果的に行うために、相手側の主張を真剣に聞く力も求められます。

4)情報収集力・整理力

ディベートをするには新聞・書籍・インターネットなどから情報を収集し、整理して主張を組み立てる必要があります。このプロセスの中で、情報の収集力と整理力が身に付きます。また、短い時間で効率的かつ的確に意見を主張しなければならないので、思考・表現の整理力も養われるでしょう。

以上(2023年6月更新)

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「室温は18度以上28度以下」など、御社のオフィス環境が法定基準を満たしているかを確認!

書いてあること

  • 主な読者:リモートワークをやめ、オフィス勤務を復活させている経営者など
  • 課題:法改正の関係で、オフィス環境が法定基準を満たさなくなっている恐れがある
  • 解決策:特に2022年に法改正のあった「照明」「トイレ」「洗面設備等」「休養室・休養所」「休憩設備」「救急用具」「室温」「作業環境測定」のルールを確認する

1 リモートワークをやめた会社は2022年の法改正に注意!

コロナ禍で広まったリモートワークですが、最近はオフィス回帰の動きが広まっています。その場合に注意が必要なのは、労働安全衛生法とその関係法令で定められている「オフィス環境の衛生基準(以下「法定基準」)」です。

会社は「照明の明るさ」「トイレの数」などについて、法定基準を守らなければならないのですが、図表1の通り、2022年(4月と12月)にルール変更があった関係で、知らないうちに法令に違反している可能性があるのです(違反は努力義務の場合を除き、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金)。

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以降で、図表1のそれぞれの項目について法令上のルールを紹介するので、今のオフィス環境に不安がある場合は確認してみてください。

2 照明

照明は、社員の作業内容に応じた「照度(照明の明るさ)」が法定基準を満たすようにしなければなりません(義務)。照度は、光の量を表す「ルクス」という単位で表され、照度計で測定できます。作業場所はルクスが高いほど明るく、低いほど暗くなります。

2022年12月1日からは、社員の作業内容と、作業内容ごとに満たすべき照度の基準が次のように変更されています。

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パソコン操作・計算などの「精密な作業」と電話応対などの「普通の作業」が「一般的な事務作業」に統合され、資料の袋詰めなど文字を読む必要のない「粗な作業」が「付随的な作業」に名称変更されました。作業に必要な照度も引き上げられているので注意が必要です。

オフィスの照明・採光は、図表2の基準の照度を満たした上で、「明暗の対照が著しくなく、かつ、まぶしさを感じさせない方法」とされています。

  • まぶしいと感じる場合は、照明を明るさの調節ができるものに変える、カバーのついた照明に変える、
  • 暗すぎる場合は、テーブルライトを設置する

などの対策が必要です。また、オフィス全体の照度は基準通りでも、パーテーションで作業スペースが暗くなるといったケースでは、基準を満たさなくなる恐れがあるので注意しましょう。

3 トイレ

トイレは、社員の性別や人数に応じて、次のように設置しなければなりません(義務)。

  • 男性用トイレ(大):男性社員60人までにつき1個以上
  • 男性用トイレ(小):男性社員30人までにつき1個以上
  • 女性用トイレ:女性社員20人までにつき1個以上

また、2022年4月1日からは、「独立設置型のトイレ」に関するルールが新設されました。

独立設置型のトイレとは、プライバシーが保護され、社員が性別などに関係なく利用できる、完全個室のトイレのこと

で、具体的には次の基準を満たすものをいいます。

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独立設置型のトイレを設置すると、そのトイレ1個につき、会社の男性社員と女性社員を、実際の人数よりも10人ずつ減らしてカウントすることができます。例えば、男性社員が70人いる場合、独立設置型のトイレを1個設置することで、男性社員は60人(70人−10人)としてカウントされ、会社が設置しなければならない男性用トイレの数が次のように変わります。

  • 通常:男性用トイレ(大)2個以上、男性用トイレ(小)3個以上
  • 独立設置型のトイレを設置:男性用トイレ(大)1個以上、男性用トイレ(小)2個以上

ただ、このルールは、会社が建物の都合上、トイレを男女別に設置できないケースなどに対応するためのものなので、法定基準を満たすからといって、今ある男性用・女性用トイレの数を減らしてスペースを節約するといったことはできません。

また、独立設置型のトイレを設置する場合、トイレは男女共用になり、重い持病や障害がある社員も使うことが想定されますから、次のような事項についても検討する必要があります。

  • 手洗い設備(トイレ内に設けるのが基本)
  • 消臭や清潔を保つマナー
  • サニタリーボックスの管理方法
  • 盗撮や侵入などの犯罪を防ぐ方法(非常用ブザーの設置など)
  • 体調が悪くなったときの措置(マスターキーを使って外部からの解錠を可能にするなど)

4 洗面設備等

会社は社員数に関係なく、社員が顔を洗える洗面設備を設置しなければなりません。加えて、業務上、社員の服が汚れたり、濡れたりすることがある場合は、更衣室やシャワー設備、乾燥機などを設置しなければなりません(義務)。

また、2022年4月1日からは、社員が更衣室やシャワー設備を、性別に関係なく安全に使えるよう、プライバシーに配慮することが会社に求められるようになりました。プライバシー保護の基本的な考え方は、前述した独立設置型のトイレと同じです。

5 休養室・休養所

休養室・休養所とは、体調が悪い社員や生理中の女性社員が横になって休むことのできる場所のことです。部屋の場合は「休養室」、施設の場合は「休養所」といいます。会社は、

社員が50人以上または女性社員が30人以上いる場合、休養室・休養所を「男女別」に設置

しなければなりません(義務)。

また、2022年4月1日からは、オフィスの空いているスペースを臨時の休養室として使う場合などに、社員がすぐに利用できる体制を整えることが求められるようになりました。例えば、

社員が体調不良を訴えたら、すぐに折りたたみ式のベッドを出せるようにする

といった具合です。また、社員が安心して休めるよう、プライバシーと安全に配慮することが求められるようになりました。例えば、

  • 入口や通路から直視されないように目隠しを設ける
  • 関係者以外の出入りを制限する
  • 緊急時に安全に対応できるよう、救急用具を揃えておく

といった具合です。

6 休憩設備

休憩設備とは、社員が食事をしたり、休憩したりするための場所です(設置は努力義務)。設置に関する具体的な基準は特にありません。

ただし、2022年4月1日から「休憩スペースの広さや設備内容については、衛生委員会などで調査審議・検討するのが望ましい」旨が示されたので、衛生委員会がある社員数50人以上の会社などは認識しておいたほうがよいでしょう。例えば、「同じタイミングで休憩する社員が多い場合、今の休憩設備は窮屈でないか」などについて確認してみましょう。

7 救急用具

会社は、負傷した社員の応急手当に必要な救急用具を備えて、清潔に保たなければなりません(義務)。救急用具の品目については、以前は最低でも

  1. 包帯・ピンセット・消毒薬
  2. 火傷薬(業務上、火傷の恐れがある場合)
  3. 止血帯、副木、担架等(業務上、重傷者が出る恐れがある場合)

の3つを用意することが義務付けられていたのですが、2022年4月1日からは具体的な品目が削除され、各社が想定される事故などに応じて必要な品目を準備することになりました。

ホワイトカラーの会社でも、はさみやカッターによるけが、階段での転倒などが起こり得るので、救急用具は必需品です。一概には言えませんが、包帯・ピンセット・消毒薬などの他、感染予防のためのマスク・ビニール手袋・手指洗浄薬などを用意しておく必要があるでしょう。

また、救急用具の保管場所や使用方法、応急手当後の対応ルール(医療機関への搬送など)については、あらかじめ社内で共有しておきましょう。

8 室温

会社には、空調設備(エアコンや加湿器など)がある部屋の室温を、法令で定める基準に設定することが求められています(努力義務)。

2022年4月1日からは、室温に関する努力目標値が次のように変更されています。

  • 法改正前:17度以上28度以下
  • 法改正後:18度以上28度以下

9 作業環境測定

オフィスに中央管理方式の空調設備がある会社は、原則2カ月以内に1回、次の項目に関する作業環境測定をし、その記録を3年間保存しなければなりません(義務)。

  • 一酸化炭素・二酸化炭素の含有率(原則、検知管方式の測定器で測定)
  • 室温・外気温(0.5度目盛の温度計で測定)
  • 相対湿度(0.5度目盛の乾湿球の湿度計で測定)

このうち、一酸化炭素・二酸化炭素の含有率の測定については、検知管方式と同等以上の性能がある場合、他の測定器の使用も認められています。2022年4月1日からは、具体的な測定器の例として次の2つが示されています。

  • 一酸化炭素の場合:定電位電解法を用いる測定器
  • 二酸化炭素の場合:非分散型赤外線吸収法(NDIR)を用いる測定器

なお、作業環境測定に必要な機器は、各都道府県の産業保健総合支援センターなどで貸し出している場合があります。また、自社で行うのが難しい場合は、「作業環境測定士」に依頼することもできます。

以上(2023年6月更新)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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【オーナー企業の事業承継(8)】資産管理会社を活用した事業承継対策

書いてあること

  • 主な読者:事業承継を検討している中小企業の経営者
  • 課題:後継者の負担を減らす手法を知りたい
  • 解決策:持株会社または不動産管理会社といった資産管理会社を活用した自社株式の移転方法

1 事業承継に伴う間接的な資産の移転

事業承継に伴う自社株式や不動産などの資産の移転は、相続や贈与により後継者に直接移転する方法の他に、いわゆる「資産管理会社(持株会社または不動産管理会社)」を活用して、間接的に後継者に移転する方法もよく使われます。

「資産管理会社(持株会社または不動産管理会社)」を活用して資産の移転をする場合の効果や留意点を認識し、自社に合った対策案として検討してみてください。

2 持株会社を活用した事業承継対策

1)持株会社とは

持株会社とは、

他の株式会社を支配する目的を持って、その被支配会社の株式を保有する会社

をいいます。なお、支配を本業とする持株会社を「純粋持株会社」といい、別途、本業を持ちながら他の会社を支配する持株会社を「事業持株会社」といいます。

2)持株会社活用の流れ

持株会社活用の流れは次の通りです。

  1. 後継者の出資により持株会社を設立する
  2. 持株会社が金融機関などから資金調達する
  3. 株式を持株会社に譲渡する

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なお、持株会社移行後の全体像は次の通りです。

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3)持株会社へ移行する際のポイント

1.自社株式の買取価額

持株会社が自社株式を買い取る価額は「時価」となります。利益が相反する純然たる第三者との間の取引では、お互いの合意価額が「時価」になりますが、同族関係者間の取引の場合には、自分たちに都合の良い取引価額を決められる可能性があるため、原則として純資産価額を基に「時価」を算出します。なお、純資産価額の計算式は次の通りです。

純資産価額=会社の資産(時価評価額)-負債(時価評価額)

2.オーナーは確定申告が必要

非上場会社の株式を譲渡したオーナーは、「株式譲渡益」に対して譲渡所得税等(20.315%)を負担する必要があるため、譲渡した年の翌年3月15日までに確定申告をする必要があります。なお、株式譲渡益の計算式は次の通りです。

株式譲渡益=譲渡代金-取得費用(出資金額など)

4)持株会社活用のメリット

1.非上場株式が現金化できる

オーナーにとっては売却が難しく、換金性の乏しい自社株式を現金化することができます。併せて換金した現金を活用して、将来の相続税の納税資金に充てることで、納税問題も解決することもできるため、自社株式の時価評価額が高い場合や、社長の保有する財産の中での自社株式の占める比率が高い場合には効果があります。

2.いわゆる「争続」問題を回避できる

後継者がオーナーの子どもなどの相続人である場合、相続を待つことなく、事前にオーナーの意向に沿ったかたちで、後継者に法的な経営権を譲ることができます。

後継者にとっては、将来的な自社株式に関わる相続税の負担や遺産分割問題の心配がなくなり、経営に専念することができます。もし、後継者が自社株式を相続で引き継ぐことを前提に経営を引き継いだ場合には、「相続税負担を抑えたい」という思いと、「業績の向上による自社株の時価評価額の上昇(相続税負担の増加)」という矛盾を抱えて経営することになりかねませんが、こうした問題も解決できます。

また、オーナーの相続財産から自社株式を分離することで、結果的に相続人間の争い(争続)を回避することもできるため、収益力が高く、今後も自社株式の評価額が上昇していく見込みのある法人や、オーナーの相続人が複数存在する法人には効果的です。

3.後継者の保有株式の評価額の上昇を抑制できる

持株会社の純資産価額は計算上、保有資産の時価が取得時の価額(帳簿価額)を上回る場合、いわゆる「含み益」のある保有資産の評価は、法人税相当額37%を控除することが認められています。

含み益のある保有資産の計算式およびイメージは次の通りです。

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従って、社長と後継者間で直接自社株式を売買して後継者が直接保有する場合に比べて、資産管理会社を通じて自社株を保有するほうが、その純資産価額の評価は低くなり、後継者が将来的に直面する自身の相続財産の評価額の上昇を抑制することができます。そのため、収益力が高く、今後も自社株式の時価評価額が上昇していく見込みの法人には効果があります。

ここで、事例を使って自社株式を個人保有した場合と持株会社を活用した場合の自社株式の評価額を比較してみます。個人保有した場合と持株会社を活用した場合の比較例および比較表は次の通りです。

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5)持株会社へ移行する際の留意点

1.持株会社設立、運営のコスト

持株会社を新会社として設立する場合は、登録免許税などの登記費用が必要となります。また、毎期、法人税等の確定申告が必要となるなどの管理コストに加えて、所得が発生する場合は、法人税等の納税に係る負担が発生します。仮に所得が発生しない場合でも、資本金等の額に応じた法人住民税均等割額の負担が発生します。

2.資金調達、返済の検討

持株会社は、自社株式を購入するための資金を準備する必要があります。また、銀行などの金融機関から資金を調達する場合は、その返済方法(返済資源)を検討しなければなりません。

事業会社の配当金を返済資源にする場合は、「受取配当等の益金不算入」規定などの適用を受け持株会社の法人税負担を抑制したり、あるいは持株会社に収益不動産を保有させたりして収益力を確保する必要があります。

3.自社株式の譲渡に関わる税負担

前述のように、自社株式を譲渡したオーナーは、譲渡代金から取得費用を差し引いて譲渡益が生じた場合は、その譲渡益に対して譲渡所得税等(20.315%)を申告、納税する必要があります。

また、時価以外での譲渡が行われた場合は、譲渡価額と時価との差額について、追加的な税負担が発生するケースもあるので注意が必要です。

3 不動産管理会社を活用した事業承継対策

1)不動産管理会社とは

不動産管理会社とは、

オーナーが所有している賃貸不動産などを購入し、その賃貸不動産などの管理や保有を主な事業とする会社

をいいます。

オーナー自身で経営する事業会社に事業用の不動産を貸し付けている場合は、承継後の経営をスムーズに行えるようにするため、原則、その事業会社が使用している資産を自社株式と同様に、後継者に承継する必要があります。

2)不動産管理会社活用の流れ

不動産管理会社活用の流れは次の通りです。

  1. 後継者の出資により不動産管理会社を設立する
  2. 不動産管理会社が金融機関などから資金調達する
  3. 賃貸用不動産を不動産管理会社に売却する

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なお、不動産管理会社への売却後の全体像は次の通りです。

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3)不動産管理会社へ売却する際のポイント

1.不動産の売買価額

オーナーが賃貸用不動産を売却する価額は「時価」となります。この場合の時価には実務上、市場の実勢を反映した専門家による評価額として、「不動産鑑定士による鑑定評価額」を利用するケースが多くあります。

2.オーナーは確定申告が必要

賃貸用不動産を譲渡したオーナーは、「譲渡益」に対して譲渡所得税等を負担する必要がありますので、譲渡した年の翌年3月15日までに確定申告をする必要があります。

3.含み損のある不動産の売却

不動産の取得時の価額よりも時価の低い(含み損のある)不動産を売却した場合は、不動産売却損が計上されます。そのため不動産売却損が計上された年に、別の不動産の売却による不動産売却益がある場合は、売却損を売却益から控除することができます。

4)不動産管理会社活用のメリット

1.不動産を現金化することができる

オーナーは換金の難しい不動産を現金化することができます。また、相続人が相続するのは換金された現金(預金)となるため、遺産分割も容易で、相続人は相続した現金(預金)の一部を相続税の納税資金に充当することができます。

2.いわゆる「争続」問題を回避できる

相続資産の中で比較的ウエートの高い不動産を、オーナーの生前に、その意向に沿うかたちで承継させることができるため、複数の賃貸不動産を保有している場合は、物件ごとに承継者を決めるなどの対策で「争続」問題を回避することが可能です。

また、賃貸不動産売却後の賃貸料収入は不動産管理会社の収入となるため、収益の分散効果で、特に収益性の高い物件の売却によりオーナーの相続財産の抑制を図ることができます。

3.将来の相続登記の必要がなくなる

個人所有の不動産については、相続のたびに名義変更の登記が必要となりますが、法人所有にすることにより、登記に係る負担が不要になります。

5)不動産管理会社へ売却する際の留意点

1.不動産管理会社設立、運営のコスト

不動産管理会社を新会社として設立する場合は、持株会社のときと同様、登記費用の負担や、毎期の確定申告などの管理コスト、法人税等の負担が発生します。

2.資金調達、返済の検討

不動産管理会社で賃貸用不動産を購入するための資金を準備する必要があります。検討に当たっては、賃料収入から固定資産税などのランニングコストや大規模修繕のための積立金などを差し引いたフリーキャッシュフローについて、事前にシミュレーションを実施し、無理のない返済計画を策定することがポイントになります。また、空室の多い物件については、併せて空室率の改善計画なども立てる必要があります。

3.譲渡に伴う税負担の発生

不動産を購入した不動産管理会社は不動産の所有権移転に伴い、登録免許税(固定資産課税台帳の価格×原則2%)・不動産取得税(同×原則4%:特例による軽減あり)を負担する必要があります。

また、不動産を譲渡したオーナーは土地・建物の譲渡に係る譲渡所得税等を負担する必要があります。特に一族で代々所有してきた不動産については、取得費の不明なものもあり、長期譲渡所得といえども相当の負担となる場合がありますので、注意が必要です。

4.相続予定財産の一時的増大

時価による不動産譲渡の取引価格は、一般的にその不動産の相続税評価額より高額となるケースが多いため、譲渡代金を得たオーナーの相続予定財産は一時的に増大します。

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ただし、前述の通り、賃貸不動産の家賃収入は譲渡によりオーナーから不動産管理会社に移転するため、個人所得が減少し、中長期的には不動産管理会社を活用しない場合に比べて、相続予定財産の抑制につながります。

例えば、賃貸による家賃収入が年間1000万円あった場合には、10年後の相続予定財産はおおよそ家賃収入分(1億円)増加します。しかし、不動産管理会社を活用し、家賃収入を不動産管理会社に移転した場合には、その家賃収入分、オーナーの相続予定財産を抑制することができます。

5.建物のみを譲渡した場合の借地権相当額の取り扱い

コスト圧縮のため建物のみを不動産管理会社に譲渡するケースもありますが、この場合、通常では当該土地に借地権設定がなされるため、借地権相当額の収受がオーナーと不動産管理会社間で行われないときは、不動産管理会社に対して借地権相当分の受贈益が発生し、法人税等が課税されるケースがあります。

このため、実務上は不動産管理会社からオーナーに対して相当の地代を支払うか、税務署に無償返還の届け出をすることによって、受贈益課税を回避することが一般的です。

4 (参考)土地・建物の譲渡に係る譲渡所得税

土地や建物の譲渡所得に対する税金(譲渡所得税)は、他の所得と区分して計算し、適用される税率は、譲渡した土地や建物の所有期間が、譲渡した年の1月1日現在で5年を超えるかどうかによって異なります。

譲渡所得税額の計算式は、次のようになります。

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以上(2023年6月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:soo hee kim-shutterstock

“経営的視点”を身に付けて、会社も人も成長しよう/武田斉紀の『誰もが身に付けておきたい“経営的視点”(12)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:経営幹部や管理職の方はもちろん、若手社員の方でも「経営的視点で見るように」と社長や上司から求められた経験がないでしょうか。その場でうなずきはするものの、「経営的視点とは何か?」「それは社長以外の社員に必要なのか?」「会社員として働く上で、人生において価値があるのか?」「そもそもどのように身に付けていけばいいのか?」といった疑問をお持ちではないでしょうか
  • 解決策:課題で挙げたさまざまな質問に対して、『“経営的視点”の身に付け方』というテーマで、全国で多くの講演を行っている筆者が明快に回答します。“経営的視点”はこれからの時代において新入社員から求められる視点であって、より早く身に付けられれば、その分、仕事においても人生においてもプラスであると分かるはずです

1 [おさらい]全社員が持てる“経営的視点”の3つの観点

シリーズ『武田斉紀の「誰もが身に付けておきたい“経営的視点”」』も最終回となりました。

これまで“経営的視点”をより早く身に付けられれば、誰にとってもその分、仕事においても人生においてもプラスになるということを前提に、「どうすれば身に付けられるのか」についてお話ししてきました。おさらいしてみましょう。

以下の穴あき部分を思い出してみてください(答えはすぐ後に書いてあります)。

全社員が“経営的視点”を持てるようになるために3つの観点のご提案をしました。
1)会社の【□□】
2)会社の【□□□】
3)会社の【□□□□】 の観点を全員が持つこと。

ポイントをまとめておきます。

1)会社の【成長】

組織はベテランが引退し、新人が入ってきて1年で1歳年を取る。一人ひとりの成長がないと1年後の組織の力はむしろ落ちていて、給料など上げられない。

毎年給料を上げたいのであれば、全員が、自分が1年後にいるべきピラミッドの高い位置から常に物事を見て仕事に取り組み、1年でそれ以上に成長していかなければならない。

2)会社の【組織力】

会社は組織でできている(多くの場合ピラミッド型)がそれには意味がある。1人の人間の力には限界があるが、役割を分けて組織を形成し一体となれれば、人数以上の力を発揮できる。

ピラミッドのタテの関係では上下との連携が重要。役員・部長は社長や課長と、課長は役員・部長や一般社員と、一般社員も課長や自分のメンバーと連携してこそ組織力が発揮できる。そのためにも自分が経験した下の立場と共に、上の立場の視点にも立たなければいけない。

ヨコの関係も自分の部署さえうまく回っていればよしではなく、事業の「目的」に沿って1つ上の視点で俯瞰(ふかん)して、組織の壁にとらわれず役割を「流れ」で捉えることで、タテヨコともに全体最適を目指せる。

3)会社の【存在意義】…社内に共有浸透させる。

(1)社員一人ひとりが実行した存在意義に共感するお客様は利用し続けてくださり、社会にも認められて、会社は永続し、発展していく。

(2)逆に社員の一人でも存在意義を見失った行動を取ってしまうと、お客様や社会から必要とされなくなる。

3)については、第10回ではいかにして企業の【存在意義】を定めて社内で共有浸透していけばいいかについてご紹介しました。第11回では、さらに「継続し、習慣化していく」をテーマに取り上げました。

2 全社員が“経営的視点”を持つことの会社および本人のメリット

これまで「全社員が持てる“経営的視点”の3つの観点」を説明する中で、今より高い“経営的視点”を持つことのA.会社側およびB.働く(本人)側のメリットについても随時触れてきましたが、それぞれをまとめてみましょう。

[A.会社側のメリット]

ア)社員の当事者意識や責任感が高まり、自律的に判断・行動するようになる
イ)その結果、環境や顧客ニーズへの変化対応力や経営のスピード・精度が上がる
ウ)会社の成長なくして給料も上げられない、新たな投資もできないと分かり、全員が数字に敏感になり業績が上がる

[B.働く(本人)側のメリット]

ア)いずれ必要とされるものは早く身に付けたほうがトク
イ)上から怒られなくなる、むしろ褒められる
ウ)自分も会社も成長し、よりよい生活ができるようになる

働く側については、少し補足説明をしておきます。

ア)会社組織で決して上を目指さない人はさておき、多くの人は現状より高いポジションのよい待遇を望むでしょう。それはより経営に近いポジションということです。否が応でも“経営的視点”が求められます。いずれ必要とされるなら、資格などと同様、早く身に付けたほうがおトクです。視点があれば、あとは実力や経験が伴い次第高いポジションに移れます。

イ)今より高い“経営的視点”を持てるということは、上司と同じ視点でものを見られるということです。上司からすればいちいち説明しなくても話が速いし、課題を共有し共に解決できる仲間が増えるというもの。部下に同じ視点を持たれたら地位を脅かされそうで不安だという偏狭な上司以外は、頼もしく思ってくれるはずです。

ウ)上記ア)イ)で触れたように個人が成長できるのはもちろん、会社側のメリットのウ)にあるように社員が“経営的視点”を持つと、結果として業績が上がるため、社員の待遇向上にもつながります。

働く側にとっては、最優先は目の前の役割を全うすることで、それだけでも大変なのに今より高い“経営的視点”を持つことを考える余裕なんてないという声もあるでしょう。

けれどもご紹介してきた3つの観点=会社の【成長】【組織力】【存在意義】を一部でも理解できたなら、1つ上のポジションまで行ってみるまでもなく、少し想像力を働かせるだけでイメージできるようになります。

一般社員の人であれば、「今起こっていることは課長の立場ならどう見えるだろう。新人の立場ならどう見えるだろう」と想像してみる。慣れてくれば「部長の立場なら」「社長の立場なら」と想像力が柔軟に働くようになってきます。

3 あなたの部下が“経営的視点”を持てるようになる“3つの環境づくり”

あなたが管理職で部下を育てる立場にある、あるいは今後そうなった場合に向けて、部下が“経営的視点”を持てるようになる“3つの環境づくり”についてご紹介しましょう。

[部下が“経営的視点”を持てるようになる“3つの環境づくり”]
1)情報公開
2)権限委譲
3)新たなコミュニケーション習慣

1)情報公開

部署の情報をできる限り全て公開することです。年間目標・月間目標と部署全体、チーム単位、個人の現状と達成率など、全ての数字をリアルタイムで見える化します。

費消率(全行程に対してどれくらい時間を消化している状況か)も必要でしょう。

それらの数字を部署で常に共有することで、部署の全員が、何が今の課題で何をしなければいけないかを知ることができます。課題を共有した以上、他人事にはできません。経験の浅い新人であっても自分にできることは何だろうと考えられます。

部署の予算がいくらあるかも分かれば、それで何ができるか。足りないなら他部署や外部から調達するなり、工夫をしなければいけないと分かります。そして全員でアイデアを出して計画を立て、次の行動に移していくのです。

部署内だけでなく、1つ上、課であれば部の情報も必要でしょう。できれば会社全体の情報も全員で共有したいところです。

私が新卒で入った会社では、新入社員はもちろん、アルバイトの人にさえも会社の売上と現状が週次や月次で報告されていました。P/L(損益計算書)の見方も併せて教わり、毎週繰り返すうちに当たり前に使えるようになりました。

これらを毎週、毎月繰り返すことで、課や部や会社の現状を常に数字でつかむことが当たり前の習慣になりました。同時に自分の果たすべき役割が明確にわかり、強い当事者意識も生まれたのです。

2)権限委譲

情報公開によって部下が“経営的視点”で思いついたアイデアを、そのままにしたなら二度と考えなくなるでしょう。せっかく芽生え始めた“経営的視点”が潰れてしまいます。

上司はぜひ「じゃあそれでやってみて」と一度任せてみてください。絶対に失敗できない仕事などごくごく一部ですから。

任せてやらせてみて、プロセスや結果を報告させる。失敗してもまた考えさせてやり直せばいいのです。同じ失敗さえしなければいずれ成功します。そのプロセスで部下は成長し、“経営的視点”もさらに磨かれます。

3)新たなコミュニケーション習慣

ある調査によればここ10年で若い世代が職場や上司に求める要素は、大きく変化しているそうです。

一言でいえば「管理・指導型」から「自律・支援型」へ。ビジネス環境も「競争」から「共創」へ、「経験・改善」から「イノベーション」へと潮流が変わっています。

それらに伴って職場で求められるコミュニケーションのあり方も変える必要がありそうです。キーワードは【傾聴】【褒める】【前向き】なコミュニケーションです。

詳しくは別の機会に譲りますが、メンバーの自律や支援を進めるには相手がどう考えどうしたいかをじっくり聞く必要があります【傾聴】。その上で任せて(権限委譲)、プロセスや結果を共有しながら【褒める】ことでやる気を引き出す。失敗も付き物ですから、最後は【前向き】な言葉で次への背中を押してあげることが上司にとって肝要です。

4 全社員が“経営的視点”を持てれば、AIの時代にも会社と人は成長できる

後で振り返れば2023年という年は、本格的なAI元年と位置付けられることでしょう。生成AIの精度はまだ十分でないという声もありますが、彼らはわれわれが眠ったり遊んだりしている間も24時間365日、超高速で学び続けて進化していきます。

突然一般社会に現れた生成AIとその進化スピードにおののきつつも、片やAIにも限界があることも分かってきています。

1つにはAIは過去や大量の情報から学んで整理し、たくさんの選択肢を提示できますが、その中から何が正しくて何を選択すべきか最終判断できないという点です。最後は人間が決めるしかありません。

先程上司に求められる要素が「管理・指導型」から「自律・支援型」へ変わってきたといいましたが、AIの進化がそれを一気に後押ししそうです。

管理・指導型で一方的に指示命令できる仕事なら、上司は部下ではなく、自らAIに投げたほうが生産性は上がるでしょう。部下も上司も、人間に求められる仕事は、AIが導き出したベースを元に考えたり判断したりする仕事“だけ”に変わるからです。

全社員が“経営的視点”を持って、一人ひとりが会社を代表するつもりで考え、行動できるようになれれば、AIの時代にも会社と人は成長できるといえるのではないでしょうか。

今シリーズに最後までお付き合いいただきありがとうございました。

<ご質問を承ります>
最後まで読んでいただきありがとうございます。ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

以上(2023年6月)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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画像:NicoElNino-shutterstock

「社員に伝わるメッセージ」を実現するために経営者が知っておくべき4原則

書いてあること

  • 主な読者:組織の一体感を高めるために、どのようにメッセージを伝えるべきか悩んでいる経営者
  • 課題:経営者と社員の距離が近くても、経営者の考えが以心伝心であるわけではない
  • 解決策:「直接性の原則」「公開性の原則」「定期性の原則「複合性の原則」の4原則を踏まえつつ、複数のツールでメッセージを伝える

1 変化の時代だからこそ経営者はメッセージを出す!

仕事に対する価値観、働き方の変化はコロナ禍で加速し、組織をまとめることは以前にも増して難しくなりました。経営環境が変われば社員も不安になります。そのようなときに必要なのは経営者のメッセージです。

経営者は「うちは人数が少ないし、特別なことをしなくても、私(経営者)の考えは社員に伝わっている」と思っているかもしれません。しかし、これは勘違いです。他人同士が互いの考えを共有するまでには長い時間と、伝える努力と聞く努力が必要です。

全員が目指すべきゴールを共有した一体感のある組織。これを実現するために、経営者自身が、今何を考え、どのような方向に企業を導こうとしているのかを社員に伝えるのです。そして、このメッセージをより効果的に伝えるためにぜひ知っておきたいのが、次の4原則です。

  • 直接性の原則:社員に直接語りかける
  • 公開性の原則:伝えるべきかどうか迷ったら、原則伝える
  • 定期性の原則:定期的にメッセージを伝える機会を設ける
  • 複合性の原則:多様なツールを組み合わせて伝える

2 効果的にメッセージを伝えるための4原則

1)直接性の原則

メッセージは、経営者が自分の言葉で、直接社員に語りかけます。ここでいう直接には、対面のコミュニケーションだけではなく、チャットや社内報などのツールも含みます。

直接伝えることの重要性は、メッセージが省略されたり、経営者以外の人の独自の解釈が加わったりするのを防ぐためです。「経営者→経営幹部→一般社員」といった伝言ゲームでは、正しくメッセージが伝わらない場合があるので、直接経営者の言葉で語りかけましょう。

2)公開性の原則

メッセージの内容によっては、全ての社員に伝えるべきかどうか迷います。そのような場合は、基本的な内容を伝え、さらに詳しい情報を求めてくる社員には必要に応じて追加情報を伝えるようにしましょう。例えば、経営者と経営幹部が新規事業について話しているのを聞いた社員は、もっと詳しく聞きたいと感じるでしょう。

この点で見れば、中小企業の社員は情報ニーズが高いといえるので、公開できる情報はできるだけ迅速に伝えるのがよいでしょう。

3)定期性の原則

上司が部下に出す日々の細かな指示とは違い、経営者のメッセージは社員の目の前の仕事とは直接関係しないと思われています。そのせいか、重要性は認識されながらも、放っておくと関心が向けられなくなります。

これを防ぐためには、「毎週金曜日の朝礼は全員参加・経営者からメッセージを伝える日」などのように、メッセージを伝える機会を定期的に設けて、メッセージに対する関心を高めます。

4)複合性の原則

メッセージを対面で伝えられたらよいのですが、リモートワークをしている場合、そうした機会は限られています。そこで、さまざまなツールを補完的に活用しながら、適切なタイミングでメッセージを伝えていきましょう。

例えば、経営者のメッセージをチャットやオンラインの常設ルームで、全社員に伝えるといったような方法も有効です。ただ、できれば、「生の音声」(オンラインでもよい)のほうが社員に経営者の思いが伝わりやすいでしょう。

以上(2023年6月更新)

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画像:pixabay

【オーナー企業の事業承継(7)】財産権と経営権の移転に関する対応策

書いてあること

  • 主な読者:事業承継を検討している経営者
  • 課題:経営権と財産権の移転のため、最適な自社株式の承継方法を知りたい
  • 解決策:株主の権利を制限したり、強化したりすることができる種類株式を活用する

1 自社株式の承継に含まれる2つの側面

オーナーにとって、自社株式の承継は会社を経営する権利(経営権)と自身の築き上げてきた財産(財産権)という2つの側面があります。このため、事業承継を検討する上では、経営権の承継に加えて、オーナーの財産の相続についても考慮しなくてはなりません。

また、自社株式の移転に伴う税負担を移転コストと考えれば、自社株式の評価が低いタイミングで株式の移転(承継)を行うのが基本です。しかし、そのタイミングで後継者が経営を引き継げる力量を備えているかどうかという問題が生じる可能性もあります。

そこで活用したいのが種類株式や信託です。それぞれの効果や留意点を認識し、自社に合った対策案として検討してみてください。

2 種類株式の活用した事業承継対策

1)種類株式とは

株主には剰余金の配当や残余財産の分配など、会社から直接に経済的利益を受ける権利や、株主総会の議決権など経営に参加する権利などが与えられています。

現行の会社法ではこういった

株主の権利を制限したり強化したりする、内容の異なる2種類以上の株式を発行すること

が認められています。こうした内容の異なる株式を発行した場合における株式を、種類株式といいます。

現在、発行が認められている種類株式の概要は次の通りです。

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2)種類株式の活用例

1.配当優先無議決権株式の発行

配当優先無議決権株式とは、普通株に対して剰余金の配当について優先権を持つ一方、株主総会の決議については全く議決権を持たない種類株式です。

配当優先無議決権株式の活用の流れは次の通りです。

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配当優先無議決権株式を活用することにより、財産権としての株式(配当を得る権利など)は兄弟間での調整が可能となる一方、議決権は後継者である長男に集中させることができるので、経営権を安定させられます。

なお、配当優先無議決権株式の保有株主に対する支払い配当の負担が増加する可能性がある点には注意が必要です。

2.黄金株の発行

拒否権付株式(以下「黄金株」)とは、株主総会や取締役会での決議事項について、普通株式保有株主による決議とは別に、黄金株保有株主による決議が必要となる株式、つまり拒否権を持った種類株式です。

黄金株の活用の流れは次の通りです。

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黄金株を活用することで、自社株式の評価が下がった時点などに大半の自社株式を後継者に承継しつつ、現オーナーの経営への影響力を残せるので、後継者の独断的な経営を阻止することができます。なお、次の点には注意が必要です。

  • 過度に拒否権を行使すると、後継者の経営意欲が低下したり、逆に前オーナーへの依存心が生じたりしてしまう可能性がある
  • 黄金株はその効力が強大であるがために、万一、後継者以外の第三者に譲渡されたり相続されたりすると、会社経営に重大な支障を来す恐れがあるため、後継者以外の者に承継されないような対応が必要となる

そのため、次のような対策を取る必要があります。

  • 黄金株を譲渡制限株式として発行する
  • 黄金株を相続の発生を条件とする取得条項付株式として発行する
  • 黄金株の発行と同時に公正証書遺言を作成しておく

3 信託を活用した事業承継対策

1)信託とは

信託とは、「委託者」が自ら所有する財産を、信頼できる「受託者」に託し、その財産から生じる成果を「受益者」に給付するものです。ここでは自己信託(委託者と受託者が同一人物)の活用例を解説します。なお、自己信託は公証人役場に自ら出向くか、行政書士や弁護士に依頼して公正証書を作成し設定を行います。

2)自己信託の活用例

自己信託の活用例は次の通りです。

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自己信託の仕組みを活用し、オーナーが委託者として自社株式を信託して自らがその受託者となり議決権を行使します。自社株式の名義人はオーナーのまま、後継者を受益者とすることにより、実質的な財産の帰属を後継者とすることができます。ただし、この段階で後継者には贈与税が課されます。

なお、自己信託の設定時において、信託契約はオーナー死亡時に終了させ、後継者が自社株式の名義人となるよう取り決めておきます。これによりオーナーが死亡した段階で後継者が自社株式の名義人となりますが、自己信託を設定したときに贈与税は課税済みであるため、上記の信託設定が相続開始前3年以内の贈与または相続時精算課税に該当しない限り、相続税は生じないこととなります。自己信託の活用のメリットには以下があります。

  • 財産の経済的な所有者は受益者である後継者となるため、税金面では生前贈与と同様の効果がある
  • 通常の信託では、財産の名義は委託者から受託者に移転し、財産の管理は財産の名義人である受託者が行うことになるが、自己信託の活用により委託者と受託者は同一人物となるため、オーナー自らが引き続き財産の管理(議決権の行使)を行うことができる
  • 贈与においては受贈者(贈与を受ける者)の受諾が必要だが、信託では必ずしも受益者への通知は必要とされていない

なお、信託の設定により財産の名義は「受託者(オーナー)」となりますが、税務上は実質課税の原則(実際にその資産を有しているとみなされる人に対する課税)により、委託者から受益者に贈与があったものとして、受益者に対して贈与税が課されるため、自社株式の評価額などに十分注意して信託を設定する必要があります。

4 少数株主への対応について

1)少数株主の存在

事業承継の検討に当たり、オーナーとしてスムーズな会社経営を行うためには株式(議決権)の過半数(できれば3分の2以上)を確保すべきであるといわれます。確かに会社としての意思決定をするにはそれでよいのですが、一方で「少数株主」の存在にも気を付けなければなりません。

2)「少数株主」の権利と潜在リスクへの対応

会社を経営していく上で、少数株主の意見を反映せざるを得ないというケースはまれですが、会社法では次の「少数株主」に対して、経営者としては無視できないそれぞれの権利を認めています。

  • 1単元以上の株式を有する株主
    株主代表訴訟(株主が会社に代わって取締役や役員などの責任を追及し、損害賠償を求める訴訟)を提起する権利
  • 総株主の議決権の3%以上、または発行済株式数の3%以上の株式を有する株主
    会計帳簿などの閲覧・謄写を請求する権利

また、株主に相続が生じた場合に、その相続人から「株式を(高値で)買い取ってほしい」と要求されることもよくあります。その背景には「少数株主」が存在する経緯と、少数株主の代替わりなどがあります。「少数株主」が存在する経緯としては、次のようなケースが多く見られます。

  • 1990年の商法改正前までは会社設立時には7名の発起人が必要だったため、会社設立時に発起人として名義を借りた
  • 相続税対策として、オーナーの持株比率を抑えるために、従業員・取引先などに自社株式を保有してもらい、将来、何か問題が生じたときは払込金額で買い取る口約束をしていた

しかし、時間の経過とともにオーナーや株主が代替わりしていくと、当初の経緯がうまく引き継がれず、株式保有の目的が分からなくなってしまうことがあります。また、株主が生前に何らかの恩恵をオーナーや会社から受けていたとしても、その株主の相続人までが会社に対して好意的とは限りません。そのため、上記の「少数株主」に認められている権利が敵対的に行使されるリスクが生じます。

従って、特に創業オーナーら、過去の経緯を熟知している世代から次の世代への事業承継に当たっては、問題を先送りすることなく当代のオーナーが責任を持って「少数株主」と交渉し、何らかの対応をしておくことが望まれます。

具体的な対応方法としては次のようなものが考えられます。ただし、会社ごとにその対策の有効性が異なるため、詳しくは税理士や公認会計士などの専門家に相談するようにしましょう。

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3)個人の「少数株主」からの買取価額について

オーナーが個人の「少数株主」から自社株式を買い取る場合、原則的評価方式による評価額よりも安い価格で買い取りをすると、個人の「少数株主」から贈与を受けたとして、買取価額と原則的評価方式による評価額の差額に対してオーナー側に贈与税が課されます。

この点について、オーナーの皆さんの中には「もともと旧商法下での額面株式のように安い金額で払い込まれたものであるにもかかわらず、贈与税を回避するために原則的評価方式による評価額で買い取らなければならない」と誤解している人が多くいます。

しかし、贈与税を課されたとしても、例えば、例外的評価方式である「配当還元方式」による評価額で買い取り、あえて贈与税を支払ったほうがキャッシュアウトの総額は少なくなる場合もあります。次の事例で見てみましょう。

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原則的評価方式による評価額(1000万円)で買い取れば、キャッシュアウトの総額は1000万円となりますが、例外的評価方式(配当還元方式)による評価額(100万円)で買い取って贈与税を支払う場合のキャッシュアウトの総額は291万円で済みます。

さらに、12月と1月のように年をまたいで2年に分けて買い取りを行うと、贈与税の基礎控除(110万円)が2回使える上、課税価格が下がるのに伴い贈与税率が低くなります。そのため、キャッシュアウトの総額は186万円にとどめることができます。

なお、例外的評価方式(配当還元方式)による評価額は、自社の配当額により異なるため、具体的に比較する場合には、税理士や公認会計士などの専門家に相談するようにしましょう。

以上(2023年6月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:soo hee kim-shutterstock