【朝礼】管理職の皆さん、もっと闘ってください

おはようございます。今日は、特に管理職の皆さんに伝えたいメッセージがあります。それは、「もっと闘ってください」です。

今どきはすぐに「何とかハラスメント」と言われたり、SNSに投稿されたりするので、とにかく“空気”を読み、波風を立てないことが良しとされがちです。そうなると、物事に異を唱えたり、主張すべきことを主張しなかったり、指導を怖がったりして、「闘わない管理職」が出てきます。

これは由々しき事態です。私は管理職の皆さんに、声を大にして伝えます。おかしいと思うことには、堂々と異を唱えてください。主張すべきところは、相手がどこの誰であろうと、真正面からきちんと主張してください。部下やメンバーが間違っていて正す必要があるなら、しっかりと厳しく指導をしてください。管理職の皆さんには、その権利がありますし、もっと言えば、そうする義務があるのです。

昔、私は、社外の人と契約を結ぶとき、主張すべきことを主張せず、大失敗したことがあります。大企業との初取引で、売り上げが欲しいと焦った私は、相手にとって有利な条件の契約を、ほぼ相手の要求通りの内容で通してしまったのです。契約は締結できましたが、後になってから、金額的にも納期的にも、こちら側が一方的に無理をしなければならなくなり、部下にも大変な思いをさせ、結局、たった1年でこちらから契約解消を申し出ることになってしまいました。

この大失敗で、私は「相手がどこの誰であろうと、こちら側の主張すべきことは、しっかり主張して闘うことが、部下や会社、そして相手、顧客をも守ることなのだ」と実感しました。

闘うのは、社内でも同じです。管理職の皆さん、上長や、たとえ社長の私であろうとも、おかしいと思うなら、指摘して闘ってください。部下に対してもそうです。嫌われること、波風が立つことを恐れていたら、指導はできません。時には厳しい指導も必要です。それで部下や周りから何か言われるようなら、そのときは私が管理職の皆さんを守ります。

ただし、「闘うこと」と「争うこと」とは違います。相手を打ち負かそうと批判したり、傷つけたり、自分勝手に主張したりするのは闘いではなく争いです。闘いはより良い結果を導くためのものですが、争いは何も生み出しません。むしろ、相手を打ち負かそうという思いが強くなることで、本当にハラスメントになってしまうケースもあります。私は「闘うこと」は応援しますが、「争うこと」には厳しく対処します。何のために闘うのかを見失わないようにしてください。

異を唱えたり、主張したり、厳しく指導したりするのは、正直に言って、面倒で手間のかかることでもあります。「闘う」とは、「面倒で手間のかかることから逃げ出そうとする自分と闘う」ことに他なりません。管理職の皆さん。もう一度言います。逃げずに、しっかり闘ってください。

以上(2024年3月作成)

pj17175
画像:Mariko Mitsuda

【規程・文例集】「ストレスチェック制度実施規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:ストレスチェック制度を実施するための規程のひな型が欲しい経営者
  • 課題:具体的に何を定めればよいかが分からない。健康診断と似たような運用でいいの?
  • 解決策:実施者、受検結果などの扱いが健康診断と異なるので、明確にルールを定める

1 健康診断とのルールの違いに注意する

ストレスチェック制度とは、

社員が所定の質問に答えて自身のストレス状態を把握する「ストレスチェック」や、高ストレス者に対する「医師による面接指導」などの一連の施策のこと

です。社員数が常時50人以上の会社は、年1回以上、ストレスチェックを実施しなければなりません(社員数が常時50人未満の会社は努力義務)。

ストレスチェック制度を実施するには、制度の実施者や受検結果の取り扱いなどについて、就業規則(ストレスチェック制度実施規程など)で定める必要があります。問題は、

ストレスチェック制度と健康診断のルールを混同している会社が少なくないこと

です。どちらも社員の健康状態をチェックするための制度ですが、両者は似て非なるものです。

画像1

「健康診断と混同している部分があるかもしれない……」という人は、次章で専門家が監修したストレスチェック制度実施規程のひな型を紹介していますので、自社の就業規則と照らし合わせながら確認してみましょう。

2 ストレスチェック制度実施規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【ストレスチェック制度実施規程のひな型】

第1章 総則

第1条(目的)

本規程は、株式会社○○○○(以下「会社」)が、労働安全衛生法第66条の10の規定に基づく「心理的な負担の程度を把握するための検査等」(以下「ストレスチェック制度」)を実施するに当たり、その実施方法等を定めるものである。本規程に定めのない事項は、労働安全衛生法その他の関係法令によるものとする。

第2条(定義)

本規程において使用する語句の定義は次の各号に定める通りである。

  1. ストレスチェック:
    ストレスに関する質問票に従業員が記入し(またはITシステムに入力し)、それを集計・分析することで、従業員が自らのストレスの状態を調べる検査。
  2. ストレスチェック制度:
    ストレスチェックの結果を踏まえた医師による面接指導や集団分析等、一連の施策の総称。
  3. 衛生委員会:
    労働安全衛生法第18条に定められている組織で、従業員の健康障害を防止するための基本となるべき対策などを調査審議する。
  4. 衛生管理者:
    労働安全衛生法第12条に定められている者で、従業員の安全または衛生のための教育の実施など、衛生にかかわる技術的事項を管理する者。
  5. 産業医:
    労働安全衛生法第13条に定められている者で、従業員の健康管理および、健康診断や面接指導等、作業環境の維持管理、健康教育などの項目について医学に関する専門的知識を必要とする業務を行う医師。
  6. 集団分析:
    ストレスチェックの結果を、個人が特定されない一定の規模で分析すること。

第3条(適用範囲)

1)ストレスチェック制度の適用範囲は、次の各号のいずれにも該当する従業員である。

  1. 会社と期間の定めのない労働契約を交わしている従業員。次のいずれかに該当する期間の定めのある労働契約を交わしている従業員を含む。

    a.労働契約の契約期間が1年以上の従業員

    b.契約更新により1年以上使用される予定の従業員

    c.1年以上継続して使用されている従業員

  2. 1週間の労働時間が、当該事業場の同種の業務に従事する通常の従業員の所定労働時間の4分の3以上の従業員。

2)会社は、原則として人材派遣会社等から当社に派遣されている派遣労働者をストレスチェック制度の適用対象としない。

第4条(趣旨等の周知)

会社は、次の各号に定める内容を社内掲示板に掲示する他、本規程を配布する等の方法により、ストレスチェック制度の趣旨等を従業員に周知する。

  1. ストレスチェック制度は、従業員自身のストレスへの気付きおよびその対処の支援並びに職場環境の改善を通じて、メンタルヘルス不調となることを未然に防止する一次予防を目的とするものであり、メンタルヘルス不調者の発見を一義的な目的とはしないものである。
  2. 従業員にストレスチェックの受検義務はない。ただし、専門医療機関に通院中等の特別な事情がない限り、受検することが望ましい。
  3. ストレスチェックの結果は直接本人に通知され、本人の同意なく会社が結果を入手することはない。従って、ストレスチェックを受検するときは、正直に回答することが重要である。
  4. 本人がストレスチェックの結果を会社に提供することに同意した場合や、医師による面接指導を申し出た場合、会社はそれらによって得た情報を本人の健康管理のために限って使用する。
  5. 本規程第37条に定める事項。

第2章 ストレスチェック制度の実施体制

第5条(ストレスチェック制度担当者)

1)ストレスチェック制度担当者(以下「担当者」)は、ストレスチェック制度の実施計画の策定や計画に基づく実施の管理等の実務を行う。

2)担当者は人事労務課の従業員および衛生管理者とし、その氏名は社内掲示板に掲示する等の方法により従業員に周知する。

3)人事異動等により担当者の変更があった場合は、その都度、同様の方法により従業員に周知する。本規程第6条のストレスチェックの実施者、第7条のストレスチェックの実施事務従事者、第8条の面接指導の実施者についても同様の扱いとする。

第6条(ストレスチェックの実施者)

1)ストレスチェックの実施者(以下「実施者」)は、実際にストレスチェックを行う他、ストレスチェック制度の実施計画の策定などにも積極的に協力する。

2)実施者は会社の産業医および保健師の2名とし、産業医を実施代表者、保健師を共同実施者とする。

第7条(ストレスチェックの実施事務従事者)

1)ストレスチェックの実施事務従事者(以下「実施事務従事者」)は、実施者の指示のもとストレスチェックの日程調整、従業員等への連絡、調査票の配布と回収、結果のデータ入力等の各種事務処理を担当する。

2)実施事務従事者は人事労務課の従業員および衛生管理者とするが、人事に関する権限を有する者は実施事務従事者になることはできない。

第8条(面接指導の実施者)

ストレスチェックの結果に基づく面接指導の実施者は会社の産業医とする。

第3章 ストレスチェック制度の実施方法

第1節 ストレスチェック

第9条(ストレスチェックの実施時期)

ストレスチェックは1年以内ごとに1回実施するものとし、実施時期は業務の状況を勘案して部門ごとに設定する。

第10条(対象者)

1)適用対象となる従業員は、専門医療機関に通院中等の特別な事情がない限り、実施時期にストレスチェックを受検するように努めなければならない。

2)ストレスチェック受検の意思があるものの、出張等の業務上の都合により、ストレスチェックの実施期間にストレスチェックを受検することができなかった従業員は、会社が別途指定する実施時期にストレスチェックを受検するものとする。

3)ストレスチェックの実施時期の全期間に休職しており、休職期間が1カ月以上の従業員については、ストレスチェックの対象外とする。

第11条(受検の勧奨)

会社は、従業員の受検状況を把握し、未受検の従業員に対して、実施事務従事者または各職場の管理者を通じて受検の勧奨を行うことがある。

第12条(調査票および方法)

1)ストレスチェックは、厚生労働省「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」を用いて行う。

2)ストレスチェックは、社内LANを用いてオンラインで実施する。社内LANが利用できない従業員は、紙媒体で実施する。

第13条(ストレスの程度の評価方法・高ストレス者の選定方法)

1)ストレスチェックの個人結果の評価は、厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」(以下「マニュアル」)に示されている素点換算表を用いて換算し、その結果をレーダーチャートに示すことにより行う。

2)高ストレス者の選定は、マニュアルに示されている「評価基準の例(その1)」に準拠し、以下のいずれかに該当する者を高ストレス者とする。

  1. 「心身のストレス反応」(29項目)の合計点数が77点以上である者。
  2. 「仕事のストレス要因」(17項目)および「周囲のサポート」(9項目)を合算した合計点数が76点以上であって、かつ「心身のストレス反応」(29項目)の合計点数が63点以上の者。

第14条(ストレスチェックの結果の通知方法)

ストレスチェックの個人結果の通知は、「実施者または実施者の指示を受けた実施事務従事者」(以下「ストレスチェックの結果通知者」)が実施者名で行う。通知方法は、原則として各従業員に電子メールを送信することで行うが、電子メールが利用できない従業員および電子メールを希望しない従業員に対しては封筒に封入し、紙媒体で通知する。

第15条(セルフケア)

従業員は、ストレスチェックの結果および結果に記載された実施者の助言・指導に基づき、ストレスを軽減するためのセルフケアを適切に行うように努めなければならない。

第16条(会社への結果提供に関する同意の取得方法)

実施者は、ストレスチェックの結果を従業員に通知する際、その内容を会社に提供することについて同意するか否かの意思確認を行う。従業員が同意する場合は、従業員は結果通知の電子メールに添付または封筒に同封された「同意書」(省略。以下、同様)に入力または記入し、発信者宛てに送付するものとする。同意書の提出が確認された場合、ストレスチェックの結果通知者は、実施者の指示により、ストレスチェックの結果の写しおよび「同意書」の写しを人事労務課に提供する。

第17条(ストレスチェック受検時の賃金の取り扱い等)

1)ストレスチェックの受検に要する時間は業務時間として取り扱う。

2)従業員は、業務時間中にストレスチェックを受検するものとし、管理者は従業員がストレスチェックを受検する時間を確保できるように配慮しなければならない。

第2節 医師による面接指導

第18条(面接指導の申出の方法)

1)ストレスチェックの結果、医師による面接指導を受ける必要があると判定された従業員が医師の面接指導を希望する場合、結果通知の電子メールに添付または封筒に同封された「面接指導申出書」(省略。以下、同様)に入力または記入し、結果通知の電子メールあるいは封筒を受け取ってから30日以内に、発信者宛てに送付するものとする。

2)医師による面接指導を受ける必要があると判定された従業員から、結果通知後20日以内に「面接指導申出書」の提出がなされない場合は、ストレスチェックの結果通知者は、実施者の指示により、実施者名で電子メールまたは電話により申出の勧奨および最終的な意思確認を行う。この際、第三者にその従業員が面接指導の対象者であることが知られないよう配慮する。

3)医師による面接指導を受ける必要があると判定された従業員以外の従業員から、面接指導の申出を受けた場合、会社はこれを拒むことができる。

第19条(面接指導の実施方法)

1)面接指導の実施日時および場所は、面接指導の実施者または面接指導の実施者の指示を受けた実施事務従事者が、該当する従業員およびその管理者に電子メールまたは電話により通知する。この際、第三者にその従業員が面接指導の対象者であることが知られないよう配慮する。なお、面接指導の実施日時は、「面接指導申出書」が提出されてから、30日以内に設定する。

2)通知を受けた従業員は、指定された日時に面接指導を受けるものとし、管理者は従業員が指定された日時に面接指導を受けることができるよう配慮しなければならない。

第20条(面接指導結果に基づく医師の意見聴取方法)

会社は、面接指導が終了してから30日以内に、「面接指導結果報告書兼意見書」(省略。以下、同様)により、面接指導の実施者から結果の報告および意見の提出を受ける。

第21条(面接指導結果を踏まえた措置の実施方法)

1)面接指導の実施者から、面接指導の結果を踏まえた就業上の措置が必要であるとの意見書が提出され、これに基づいて会社が人事異動を含めた就業上の措置を実施する場合、人事労務課の担当者が該当する従業員に就業上の措置の内容およびその理由等を説明する。なお、前記説明を行う際は面接指導の実施者も同席するものとする。

2)従業員は、正当な理由がない限り、会社が指示する就業上の措置に従わなければならない。

第22条(面接指導を受けるのに要する時間の賃金の取り扱い)

面接指導を受けるのに要する時間は業務時間として取り扱う。

第3節 集団ごとの集計・分析

第23条(集計・分析の対象集団)

ストレスチェックの結果の「集団ごとの集計・分析」(以下「集団分析」)は、原則として、課ごとの単位で行う。ただし、10人未満の課については、他の課と合算する等して個人が特定されない規模で行う。

第24条(集計・分析の方法)

集団分析は、マニュアルに示されている仕事のストレス判定図を用いて行う。

第25条(集計・分析結果の利用方法)

1)ストレスチェックの結果通知者は、実施者の指示により、人事労務課に集団分析の結果(個人のストレスチェックの結果が特定されないもの)を提供する。

2)会社は、集団分析の結果に基づき、必要に応じて、職場環境の改善のための措置、管理者に対する研修を行う。従業員は、会社が行う職場環境の改善のための措置の実施に協力しなければならない。

第4章 記録の保存

第26条(ストレスチェックの結果の記録の保存担当者)

ストレスチェックの結果の記録の保存担当者は、実施事務従事者である衛生管理者とする。

第27条(ストレスチェックの結果の記録の保存期間・保存場所)

ストレスチェックの結果の記録は、会社のサーバーまたは金庫内に5年間保存する。

第28条(ストレスチェックの結果の記録の保存に関するセキュリティーの確保)

保存担当者は、会社のサーバーまたは金庫内に保管されているストレスチェックの結果が第三者に閲覧されることがないよう、パスワードの設定等、必要な管理を徹底しなければならない。

第29条(会社に提供されたストレスチェックの結果・面接指導結果の保存方法)

1)人事労務課は、従業員の同意を得て会社に提供されたストレスチェックの結果の写しおよび「同意書」の写し、ストレスチェックの結果通知者から提供された集団分析の結果、「面接指導結果報告書兼意見書」を、社内の金庫に5年間保存する。

2)人事労務課は、第三者に社内に保管されている前項の資料が閲覧されることがないよう、必要な管理を徹底しなければならない。

第5章 ストレスチェック制度に関する情報管理

第30条(ストレスチェックの結果の共有範囲)

従業員の同意を得て会社に提供されたストレスチェックの結果の写しは、人事労務課内のみで保有する。

第31条(面接指導結果の共有範囲)

「面接指導結果報告書兼意見書」は、人事労務課内のみで保有する。そのうち就業上の措置の内容等、職務遂行上必要な情報に限定して、該当する従業員の管理者に提供する。

第32条(集団分析結果の共有範囲)

1)実施者から提供された集団分析の結果は、人事労務課内で保有するとともに、課ごとの結果については当該課の管理者に提供する。

2)会社は、集団分析の結果とそれに基づいて実施した措置の内容を、衛生委員会に報告する。

第33条(健康情報の取り扱いの範囲)

ストレスチェック制度に関して取り扱われる従業員の健康情報のうち、診断名、検査値等の生データや詳細な医学的情報は実施者が取り扱うものとする。人事労務課に関連情報を提供する際は、適切に加工しなければならない。

第6章 情報開示、訂正、追加および削除と苦情処理

第34条(情報開示等の手続き)

従業員は、ストレスチェック制度に関して情報の開示等を求める際には、「ストレスチェック制度の情報開示請求」(省略)を人事労務課に提出するものとする。

第35条(苦情申し立ての手続き)

従業員は、ストレスチェック制度に関する情報の開示等について苦情の申し立てを行う際には、「ストレスチェック制度の苦情申立書」(省略)を人事労務課に提出するものとする。

第36条(守秘義務)

従業員からの情報開示や苦情申し立てに対応した人事労務課の従業員は、それらの職務を通じて知り得た従業員の秘密を第三者に漏らしてはならない。

第7章 不利益な取り扱いの防止

第37条(会社が行わない行為)

会社は、ストレスチェック制度に関して次の行為を行わない。

  1. 医師による面接指導の申出を行った従業員に対して、申出を行ったことを理由として、その従業員に不利益となる取り扱いを行うこと。
  2. 従業員の同意を得て会社に提供されたストレスチェックの結果を理由として、その従業員に不利益となる取り扱いを行うこと。
  3. ストレスチェックを受検しないことを理由として、その従業員に不利益となる取り扱いを行うこと。
  4. ストレスチェックの結果を会社に提供することに同意しないことを理由として、その従業員に不利益となる取り扱いを行うこと。
  5. 医師による面接指導が必要とされたにもかかわらず、その申出を行わないことを理由として、その従業員に不利益となる取り扱いを行うこと。
  6. 就業上の措置を行うに当たって、面接指導の実施者から意見を聴取する等、労働安全衛生法および労働安全衛生規則に定められた手順を踏まずに、その従業員に不利益となる取り扱いを行うこと。
  7. 面接指導の結果に基づく就業上の措置を行うに当たって、面接指導の実施者の意見と内容・程度が著しく異なるなど必要と認められる範囲内となっていないものや、従業員の実情が考慮されていないものなど、労働安全衛生法その他の法令に定められた要件を満たさない内容で、その従業員に不利益となる取り扱いを行うこと。
  8. 面接指導の結果に基づく就業上の措置として、次に掲げる措置を行うこと。

    a.解雇すること。

    b.期間を定めて雇用される従業員について契約の更新をしないこと。

    c.退職勧奨を行うこと。

    d.不当な動機・目的をもってなされたと判断されるような配置転換や職位(役職)の変更を命じること。

    e.その他の労働契約法等の労働関係法令に違反する措置を講じること。

第8章 雑則

第38条(改廃)

本規程の改廃は、衛生委員会において調査審議を行い、その結果に基づいて変更を行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2024年3月更新)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

pj00162
画像:ESB Professional-shutterstock

【規程・文例集】最新法令に対応した 「安全衛生管理規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:安全衛生に関する社内ルールを整備したい経営者
  • 課題:一口に安全衛生といっても幅広く、何を定めればよいか分からない
  • 解決策:まずは安全衛生に関する施策を組織的に実施できるよう体制を整えることが大切。会社の安全衛生管理体制に重点を置いて整備する

1 安全衛生管理体制と安全衛生管理規程

会社が社員を雇用し、両者の間で労働契約が結ばれると、

  • 会社は、社員が安全で衛生的に働けるよう配慮する「安全配慮義務」
  • 社員は、業務に支障がないよう自ら健康管理に取り組む「自己保健義務」

を負います。この2つの義務が確実に果たされるようにするには、会社と社員が協力して安全衛生に取り組むための社内ルールが必要になります。それが「安全衛生管理規程」です。

安全衛生管理規程の中心は「安全衛生管理体制」です。安全衛生管理体制とは、

会社が安全衛生に関する施策を実施するための担当者・委員会などの体制のこと

です。会社は、この安全衛生管理体制、各担当者の職務などを明文化することで、安全衛生に関する施策を組織的に実施します。担当者以外の社員も、この規程の内容を理解して会社の実施する措置に協力しなければなりません。なお、法律上の安全衛生管理体制には含まれませんが、

2024年4月1日から、リスクアセスメント対象物の製造、取り扱い、譲渡提供を行う事業場(社員数、業種を問わない)では、「化学物質管理者」「保護具着用管理責任者」の選任が義務付けられる

ようになります。対象となる会社が限られますが、該当する場合は押さえておきましょう。

以降で、安全衛生管理規程のひな型を紹介します。なお、実際に会社が定めるべき安全衛生管理体制の内容は、社員数や業種によって異なりますので注意が必要です。詳細については、次の記事をご確認ください。

2 安全衛生管理規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の会社によって定めるべき内容や選任が必要となる管理者等が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

なお、前述した2024年4月1日から選任が義務付けられる追加される「化学物質管理者」「保護具着用管理責任者」については、第10条と第11条に記載しています。

【安全衛生管理規程のひな型】

第1条(目的)

本規程は、会社における安全衛生管理を実施するために、会社と従業員が取り組む基本的な事項を定めるものである。

第2条(責務)

1)会社は、法令の規定および会社の業務推進体制、従業員の就業の実態に照らして必要な安全衛生管理の体制を確立し、労働災害防止、従業員の健康の保持増進を図るものとする。

2)従業員は法令および本規程その他社内諸規程を誠実に順守し、会社の実施する措置に協力して労働災害防止に努めるとともに、自己の健康の保持増進に努めなければならない。

第3条(安全衛生管理体制等)

会社は、安全衛生管理の推進・維持のため、法令に基づき次の管理者および会議体を置く。

  1. 総括安全衛生管理者。
  2. 安全管理者。
  3. 衛生管理者。
  4. 産業医。
  5. 作業主任者。
  6. 化学物質管理者。
  7. 保護具着用管理責任者。
  8. 安全衛生委員会。

第4条(年間安全衛生管理計画)

会社は、年度(4月1日より翌年3月31日までとする)ごとに安全衛生管理目標およびその目標を達成するために必要な実施計画を立案するものとする。

  1. 作業設備や作業環境の改善。
  2. 工程および作業方法の改善。
  3. 点検表および作業手順などの整備。
  4. 作業事項および管理重点事項などの整備。
  5. 安全衛生意識高揚のための施策の立案。
  6. 検査、健康診断、環境測定、防火訓練など定期的に実施する事項。
  7. 安全週間、衛生週間および一斉点検などの主要行事。
  8. その他の必要事項。

第5条(総括安全衛生管理者の職務)

法令に基づき会社が選任した総括安全衛生管理者は、安全管理者および衛生管理者を指揮するとともに、次の事項を統括管理する。

  1. 従業員の危険または健康障害を防止するための措置に関すること。
  2. 従業員の安全または衛生のための教育の実施に関すること。
  3. 健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること。
  4. 労働災害の原因の調査および再発防止対策に関すること。
  5. 安全衛生に関する方針の表明に関すること。
  6. 作業行動などに起因する危険性または有害性等の調査およびその結果に基づき講ずる措置に関すること。
  7. 安全衛生に関する計画の作成、実施、評価および改善に関すること。

第6条(安全管理者の職務)

1)法令に基づき会社が選任した安全管理者は、前条に定める統括安全衛生管理者の職務のうち安全に係る技術的事項を管理するものとし、次の事項を行う。

  1. 建設物、設備、作業場所または作業方法に危険がある場合における応急措置または適切な防止の措置。
  2. 安全装置、保護具その他危険防止のための設備・器具の定期的点検。
  3. 作業の安全についての教育および訓練。
  4. 発生した災害原因の調査および対策の検討。
  5. 消防および避難の訓練。
  6. 作業の責任者その他安全に関する補助者の監督。
  7. 安全に関する資料の作成、収集および重要事項の記録。

2)安全管理者は、作業場等を巡視し、設備、作業方法等に危険の恐れがあるときは、直ちにその危険を防止するための必要な措置を講じる。

第7条(衛生管理者の職務)

1)法令に基づき会社が選任した衛生管理者は、第5条に定める統括安全衛生管理者の職務のうち衛生に係る技術的事項を管理するものとし、次の事項を行う。

  1. 健康に異常のある者の発見および措置。
  2. 作業環境の衛生上の調査。
  3. 作業条件、施設などの衛生上の改善。
  4. 労働衛生保護具、救急用具などの点検および整備。
  5. 衛生教育、健康相談その他従業員の健康保持に必要な事項。
  6. 従業員の負傷、疾病、死亡、欠勤および異動に関する統計の作成。
  7. 衛生日誌の記載等職務上の記録の整備。

2)衛生管理者は、毎週1回作業場等を巡視し、設備、作業方法または衛生状態に有害の恐れがあるときは、直ちに健康障害を防止するための必要な措置を講じる。

第8条(産業医の職務)

1)法令に基づき会社が選任した産業医は、次の事項を医学的見地から管理する。

  1. 健康診断および面接指導などの実施、並びにこれらの結果に基づく従業員の健康を保持するための措置に関すること。
  2. 作業環境の維持管理に関すること。
  3. 作業の管理に関すること。
  4. 従業員の健康管理に関すること。
  5. 健康教育、健康相談その他従業員の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
  6. 衛生教育に関すること。
  7. 従業員の健康障害の原因の調査および再発防止のための措置に関すること。

2)産業医は、毎月1回、作業場等を巡視し、作業方法または衛生状態に有害の恐れがあるときは、直ちに必要な措置を講じる。

3)会社は、法令に基づき、産業医が前項の職務を遂行するために必要な情報を提供する。

4)産業医は、第1項に定める事項について会社に対する勧告、衛生管理者に対する指導または助言を行う。会社は、産業医が従業員の健康を保持するために必要な勧告をした場合、その内容を安全衛生委員会に報告する。

第9条(作業主任者の職務)

法令に基づき会社が選任した作業主任者は、高圧室内作業その他労働災害を防止するための管理を必要とする危険・有害な作業を行う事業場において、当該業務に従事する従業員の指揮・使用する機械等の点検・その他法令等で定められた職務を行う。

第10条(化学物質管理者の職務)

法令に基づき会社が選任した化学物質管理者は、リスクアセスメント対象物の製造、取り扱い、譲渡提供を行う事業場において、事業場の化学物質を管理するため、次の事項を行う。

  1. ラベル・SDS等の確認
  2. 化学物質に関わるリスクアセスメントの実施管理
  3. リスクアセスメント結果に基づくばく露防止措置の選択、実施の管理
  4. 化学物質の自律的な管理に関わる各種記録の作成・保存
  5. 化学物質の自律的な管理に関わる労働者への周知、教育
  6. ラベル・SDSの作成(リスクアセスメント対象物の製造を行う事業場の場合)
  7. リスクアセスメント対象物による労働災害が発生した場合の対応

第11条(保護具着用管理責任者の職務)

法令に基づき会社が選任した保護具着用管理責任者は、リスクアセスメント対象物の製造、取り扱い、譲渡提供を行う事業場において、従業員に保護具を使用させる場合、有効な保護具の選択、社員の使用状況の管理その他保護具の管理に関わる業務を行う。

第12条(安全衛生委員会)

1)会社は、法令に基づき、会社と従業員が協力して職場の安全衛生問題を調査・解決するなど、安全衛生管理を徹底するために安全衛生委員会(以下「委員会」)を設置する。

2)委員会の組織、運営の詳細は、別途定める「安全衛生委員会規程」(省略)による。

第13条(安全衛生教育の実施)

1)会社は、従業員を採用したとき、配置転換等により作業内容の変更を行ったときに、従業員が担当する業務に必要な安全衛生教育を実施する。

2)危険または有害な業務で、法令で定めるものに従事する従業員には、法令に基づく特別教育を実施する。会社は、特別教育の受講者や科目などの記録を作成し、法令の定める期間、これを保管する。

第14条(安全衛生教育の方法)

前条の安全衛生教育は、社内で実施する他、社外講習・社外研修も併せて行うものとする。

第15条(就業制限)

1)会社は、クレーンの運転など法令で定める特定の危険業務については、当該業務に関わる免許を有する従業員、もしくは技能修了証書を有する従業員でなければ従事させてはならない。

2)前項の就業制限業務に就くことのできる従業員以外は、当該業務を行ってはならない。

第16条(標識の掲示)

会社は、作業場所の見やすい場所に、安全衛生に関する標識を掲示する。

第17条(設備・環境の整備改善)

会社は、法令に基づいて作業設備や作業環境を整備するとともに、さらなる安全を実現するように努めなければならない。

第18条(作業方法の整備改善)

会社は、法令の作業方法を順守しつつ、より安全かつ衛生的な方法の確立に努めるものとする。

第19条(安全衛生点検)

会社は、災害の未然防止を図るため、次の区分による安全衛生点検を行う。会社は点検結果をまとめ、法令の定める期間、これを保管する。

  1. 日常点検
    各作業場所において、就業前後に日々行う安全点検。
  2. 定期点検
    各作業場所において、あらかじめ決められた方法で一定の期日に行う点検。
  3. 巡視点検
    各作業場所において、あらかじめ決められた方法で一定の期日に巡視する点検。

第20条(災害発生時の措置)

1)災害が発生した場合、発見者は関係者とともに直ちに被災者の救護措置を講じ、その生命、身体の保全に万全を期すものとする。

2)災害が発生した場合は、発見者は関係者とともに災害を最小限にとどめるため、非常停止などの応急措置を講じるとともに、その旨を総括安全衛生管理者および所属部署の責任者など関係者に通報しなければならない。

3)会社は、災害または事故の原因を調査し、同種災害の再発防止策を講じるものとする。

第21条(健康診断)

1)会社は、従業員を採用した際の雇入時健康診断、年1回の定期健康診断など、法令で定める健康診断を実施するものとする。

2)健康診断の検査項目は法令に定めるものとする。ただし、会社または産業医もしくは検査を実施した医師が必要と認める検査項目がある場合は、それについても行う。

3)従業員は、会社が行う健康診断を正当な理由なくして拒むことはできない。

4)健康診断の結果、有所見者について、産業医は適切な指導を行う。就業制限・配置転換は医師等の意見を聴取し、会社が決定・指示するものとする。

5)会社および健康診断実施の事務に従事した従業員は、その事務に従事したことによって知り得た従業員の身体の健康上の秘密を守らなくてはならない。

6)会社は、法令の定める期間、健康診断の結果を保管する。

第22条(心理的な負担の程度を把握するための検査)

1)会社は、年に1回、希望者を対象とした「心理的な負担の程度を把握するための検査」(以下「ストレスチェック」)を実施するものとする。

2)ストレスチェックの調査項目は「職業性ストレス簡易調査票」を基本とし、必要に応じて会社が追加したものとする。

3)従業員は、会社が行うストレスチェックを受検するよう努めるものとする。ただし、ストレスチェックの受検を強要するものではない。

4)ストレスチェックの結果、特に高ストレス者について、従業員から申し出があった場合は産業医等のストレスチェックの実施者は適切な指導を行う。就業制限・配置転換は医師等の意見を聴取し、会社が決定・指示するものとする。

5)会社は、当該従業員の同意なくして、ストレスチェックの結果を閲覧することはできない。

6)会社は、法令の定める期間、ストレスチェックの結果を保管する。

7)会社およびストレスチェック・高ストレス者への面接指導の実施の事務に従事した者は、その事務に従事したことによって知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない。

第23条(面接指導)

1)会社は、1カ月当たりの時間外労働(休日労働を含む)が80時間を超えた従業員から申し出があった場合、医師の面接指導を行うものとする。

2)会社および面接指導実施の事務に従事した従業員は、その事務に従事したことによって知り得た従業員の精神状態等に関する秘密を守らなくてはならない。

3)会社は、法令の定める期間、面接指導の結果を保管する。

第24条(従業員の遵守事項)

1)従業員は労働災害防止のために、次に定める事項を遵守しなければならない。

  1. 営業車両などを運行する場合は、交通安全に努めなければならない。
  2. 会社が定めた作業方法、作業手順を順守しなければならない。
  3. 会社が定めた日常点検、定期点検をしなければならない。
  4. 会社が認めた場所以外では、飲食または喫煙をしてはならない。
  5. 会社が定めた作業場では指定のヘルメットなど安全装備を着用しなければならない。
  6. 整理整頓・清潔を心掛けなければならない。
  7. その他、安全衛生管理の実施に関する事項については、総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医の指示に従わなければならない。

2)従業員は、業務遂行時に災害には至らなかったものの災害につながりかねない出来事(ヒヤリとしたり、ハッとしたりしたこと)があった場合は、直ちに総括安全衛生管理者または安全管理者もしくは所属部署の責任者に報告しなければならない。

第25条(罰則)

従業員が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第26条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2024年3月更新)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

pj00158
画像:ESB Professional-shutterstock

【規程・文例集】最新法令に対応した「安全衛生委員会規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:安全衛生委員会に関する社内ルールを整備したい経営者
  • 課題:具体的に何を定めるべきなのか分からない
  • 解決策:委員会の構成や調査審議事項などの基本的なルールは労働安全衛生法の定めに準拠しつつ、法令に定めのない委員の任期や決議の方法などについても定める

1 安全衛生委員会と安全衛生委員会規程

労働安全衛生法により、一定の要件を満たす会社は

  • 安全委員会:社員の危険防止などに関する事項を調査審議する委員会
  • 衛生委員会:社員の健康障害防止などに関する事項を調査審議する委員会

を設置しなければなりません。安全委員会と衛生委員会両方の設置義務がある場合、両者をまとめて「安全衛生委員会」とできますが、広範囲にわたる調査審議を円滑に進行するためには、明文化された社内ルールが必要になります。それが「安全衛生委員会規程」です。

安全衛生委員会規程には、

委員会の構成、委員の任期、調査審議事項、決議の方法など

を定めます。委員会の構成や調査審議事項については、労働安全衛生法の定めに準拠しますが、委員の任期や決議の方法など法令に定めがない事項については、会社が独自に定めます。

なお、対象となる会社が限られますが、2024年4月1日からは衛生委員会側の調査審議事項に

  • 「リスクアセスメント対象物」のうち「濃度基準値設定物質」に当たる物質について、社員がばく露される程度を濃度基準値以下とするために講ずる措置に関する事項
  • リスクアセスメント対象物に関する健康診断の結果と、結果に基づく措置に関する事項
  • 濃度基準値設定物質に関する健康診断の結果と、結果に基づき講ずる措置に関する事項

が追加されます。

リスクアセスメント対象物とは、「ラベル表示、SDS等による通知」「職場における危険性・有害性の特定・リスク低減等」が義務付けられている危険・有害物質のことで、2024年4月1日から、リスクアセスメント(有害性のリスク診断)の結果に基づき、必要に応じて健康診断を実施し、就業上必要な措置を講じることが義務付けられます。

濃度基準値設定物質とは、リスクアセスメント対象物のうち、ばく露量が濃度基準値(厚生労働省が定める濃度の基準値)以下なら健康障害を生じないとされている物質のことで、2024年4月1日から、濃度基準値設定物質が濃度基準値を超え、社員がばく露した恐れがある場合に健康診断を実施し、就業上必要な措置を講じることが義務付けられます。

以降で、安全衛生委員会規程のひな型を紹介します。なお、安全衛生委員会(安全委員会、衛生委員会)の基本的な知識については、次の記事をご確認ください。

2 安全衛生委員会規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

なお、前述した2024年4月1日から追加される調査審議事項(リスクアセスメント対象物、濃度基準値設定物質)については、第6条(調査審議事項)第17号(b.からd.)に記載しています。

【安全衛生委員会規程のひな型】

第1条(目的)

本規程は、別途定める「安全衛生管理規程」第○条に基づき、安全衛生委員会(以下「委員会」)の構成、役割などを定めるものである。

第2条(構成)

1)委員会の委員は、次の人員をもって構成する。

  1. 委員長(1名)。
    総括安全衛生管理者またはこれに準ずる者で会社が指名した者。
  2. 副委員長( 名)。
    委員のうちから互選した者。
  3. 安全管理者のうち会社が指名した者( 名)。
  4. 衛生管理者のうち会社が指名した者( 名)。
  5. 産業医のうち会社が指名した者( 名)。
  6. 安全および衛生に関する経験を有する者から会社が指名した者( 名)。

2)会社は当事業場に所属する作業環境測定士を委員として指名することがある。

3)第1項第1号の委員長以外の委員の半数は、当事業場の従業員の過半数を代表する者の推薦した従業員とする。

第3条(役割)

各委員の役割は、次の通りとする。

  1. 委員長
    委員長は、委員会を統括するとともに、会議の議長を務め、委員会の付議事項およびその他必要な事項を処理する。
  2. 副委員長
    副委員長は、委員長を補佐し、委員長の不在時などはこれに代わって委員会を代表する。
  3. 委員
    委員は、委員会に出席し調査審議事項を審議する。また、常に職場環境や安全衛生に関する事項に留意し、安全衛生管理活動に積極的に寄与するものとする。

第4条(任期)

1)委員長および委員の任期は1年とし、毎年4月1日より翌年3月31日までとする。ただし、再任は妨げない。

2)委員に欠員が生じたときは速やかに補充する。

3)補充により委員に指名された者の任期は、前任者の残存期間とする。

第5条(事務局の設置)

1)委員会の事務局は、総務部とし、主として次の事項を行う。

  1. 委員会の招集および付議に関する事項。
  2. 委員会に必要な資料の準備および配布に関する事項。
  3. 委員会の議事録の作成、配布および保管に関する事項。
  4. 委員との連絡およびその活動計画の調整。
  5. その他委員会に関連する事務。

2)委員会の議事録および重要項目の記録は、これを3年間保存するものとする。

3)委員会の開催の都度、遅滞なく、委員会における議事の概要を次に掲げるいずれかの方法により従業員に周知するものとする。

  1. 常時各従業員の見やすい場所に掲示し、または備え付けること。
  2. 書面を従業員に交付すること。
  3. 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずるものに記録し、かつ各作業場に従業員が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。

第6条(調査審議事項)

委員会は、安全衛生管理規程第○条の目的を達成するため、次の事項を調査審議するとともに、必要な場合はその意見を会社に提出するものとする。

  1. 従業員の危険防止および健康障害防止の基本となるべき対策に関する事項。
  2. 従業員の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関する事項。
  3. 労働災害の原因および再発防止対策に関する事項。
  4. 安全衛生に関する規程の作成に関する事項。
  5. 法が定める事業者が実施すべき危険性または有害性等の調査およびその結果に基づき講ずる措置で安全、衛生に関する事項。
  6. 安全衛生に関する計画の作成、実施、評価および改善に関する事項。
  7. 安全衛生教育の実施計画の作成に関する事項。
  8. 法が定める事業者が実施すべき危険性または有害性等の調査およびその結果に基づく対策の策定に関する事項。
  9. 新規に採用する機械、器具その他の設備または原材料に関わる危険および健康障害の防止に関する事項。
  10. 法が定める事業者が実施すべき作業環境測定の結果およびその結果の評価に基づく対策の策定に関する事項。
  11. 定期健康診断等の結果およびその結果に基づく対策の策定に関する事項。
  12. 従業員の健康の保持増進を図るため必要な措置の実施計画策定に関する事項。
  13. 長時間労働による従業員の健康障害防止を図るための対策の策定に関する事項。
  14. 従業員の精神的健康の保持増進を図るための対策の策定に関する事項。
  15. 「心理的な負担の程度を把握するための検査」(ストレスチェック)の周知方法、実施体制、実施方法、関連情報の取り扱い(保管、廃棄等)に関する事項(「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」における「5 衛生委員会等における調査審議の(2)衛生委員会等において調査審議すべき事項」に基づく)。
  16. 快適な職場環境の形成に向けての対策の策定に関する事項。
  17. リスクアセスメント対象物の製造、取り扱い、譲渡提供を行う事業場においては、次に定める事項。

    a.リスクアセスメント対象物のばく露の程度を低減するための措置に関する事項。

    b.リスクアセスメント対象物のうち濃度基準値設定物質について、従業員がばく露される程度を濃度基準値以下とするために講ずる措置に関する事項。

    c.リスクアセスメント対象物について、リスクアセスメントの結果に基づき実施する健康診断の結果と、結果に基づく就業上の措置に関する事項。

    d.リスクアセスメント対象物のうち濃度基準値設定物質について、濃度基準値設定物質が濃度基準値を超え、社員がばく露した恐れがある場合に実施する健康診断の結果と、結果に基づく就業上の措置に関する事項。

  18. 労働基準監督署長等から文書により命令、指示、勧告または指導を受けた事項のうち、従業員の危険の防止および健康障害の防止に関すること。
  19. その他安全衛生に必要と認められる重要な事項に関すること。

第7条(開催と招集)

1)委員会は、毎月1回定期的に開催する。ただし、委員長は、緊急性のある調査審議報告が発生したときなど必要と認めるときは、臨時に委員会を招集することができる。

2)委員会の開催場所は、開催の都度委員長が決定し、事務局から各委員に通知する。なお、委員長は各委員の業務状況その他の事情を考慮して必要と認める場合、書面、所定のテレビ会議システムその他対面によらない方法によって、委員会を開催することができる。

第8条(決議の方法)

委員会の決議は過半数の委員が出席し、その出席している委員の過半数の賛成をもって決定する。賛否同数の場合は委員長がこれを決定する。

第9条(委員以外の出席)

委員長が必要と認めたときは、委員以外の役員や従業員などを出席させることができる。

第10条(安全衛生小委員会)

委員会は、必要に応じ専門事項などを調査審議する安全衛生小委員会を設置することができる。

第11条(その他の事項)

法令および本規程に定める事項以外のことで、委員会の運営などに必要なその他の事項については委員会がこれを定める。

第12条(罰則)

役員および従業員が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第13条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2024年3月更新)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

pj00159
画像:ESB Professional-shutterstock

常勝将軍ナポレオンに学ぶ「戦うリーダー」の心構えを表す一言とは?

リーダーとは、希望を配る人のことである

ナポレオン・ボナパルトは、18~19世紀に活躍したフランスの軍人です。少年の頃から本来数年かけて卒業する士官学校を11カ月で卒業するなど非凡な才能を持っていたナポレオンは、軍人になった後、1793年にフランス革命に反対する反乱軍を24歳の若さで鎮圧し、英雄としてその名を轟(とどろ)かせます。そして、その後も数々の戦いに勝利し、「常勝将軍」と呼ばれるほど国民の人気を集め、やがてフランス第一帝政の皇帝に即位して強大な軍事政権をつくります。

冒頭の言葉は、そんなナポレオンのリーダー論を表す名言として有名です。ナポレオンは、軍事作戦を練る頭脳も、自分や軍にとっての好機を見極める観察眼も優れていましたが、ここぞというタイミングで味方を鼓舞する才能が特に抜きん出ていました。

例えば、1796年にフランス軍とオーストリア軍がアッダ川という川を挟んで対峙(たいじ)した際は、指揮官であるナポレオンが、自ら軍旗を掲げて敵軍に突撃し、味方の兵を勢い付かせてオーストリア軍を打ち破りました。

また、あの有名な「吾輩(わがはい)の辞書に、不可能の文字はない」という言葉も、1800年にイタリアに侵攻したオーストリア軍の虚を突くため、難所のアルプス越えを敢行したときに発したという説があります。

ナポレオンは、ただ配下に命令を下すのではなく、まず自分が率先して勇気を示すことで味方を動かすタイプの指揮官だったようです。

ナポレオンが皇帝になったのは、1804年のこと。もともと王政への不満からフランス革命を起こした国民が、彼を皇帝として受け入れたのは不思議な気もしますが、それもまた、自ら危険な前線に立って背中を見せ、味方を勝利に導くナポレオンの姿が国民の心を捉えた証しなのでしょう。

ここ一番で周りに勇気を示し、苦境を突破していく力。これは、今の経営者にも求められる資質です。会社が苦しいとき、ただ社員に「苦しいのはみんな同じだから我慢しよう」と言う経営者と、「私が引っ張るから共に苦境を乗り越えよう」と言う経営者、どちらが魅力的かは明らかです。

一方で、リーダーだからといって肩肘を張りすぎないこともまた大切です。何度もフランスを勝利に導いたナポレオンですが、1812年のロシア遠征で大敗を喫すると、とたんに力を失い、皇帝の座を追われます。「無敗の英雄」のイメージが彼の政権の支えになっていたために、それが崩れると支持を失ってしまったのです。

経営者は、常に英雄である必要はありません。いざというとき強いリーダーシップで会社を引っ張る心構えさえあれば、普段は信頼できる部下に任せてゆったり構えているぐらいがちょうどよいのかもしれません。

出典:「新約ナポレオンボナパルト。『吾輩の辞書に、不可能の文字はない』名言で知る皇帝の栄光と失脚。10分で読めるシリーズ」(shogo.p.sato、まんがびと、2014年12月)

以上(2024年2月作成)

pj17617
画像:ckybe-Adobe Stock

もう食べられなくなってしまう? ふるさとの味「お漬物」がピンチ

書いてあること

  • 主な読者:「漬物」の製造販売を行うためには、HACCPに沿った衛生管理を行い、営業許可を得ることが必要になったことを知らない人
  • 課題:ユネスコ無形文化遺産「和食;日本人の伝統的な食文化」を支えてきた「漬物」をいかに継承していくか
  • 解決策:伝統的な「漬物づくり」を巡る状況、現在に至る背景を押さえる。塩分に気をつけながら、野菜の摂取量を増やす一策として漬物を上手に取り入れる

1 あの「漬物」が二度と食べられなくなる!?

「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に選定されてから10年余り。世界的にも関心を集める和食の基本は「一汁三菜」と呼ばれ、「ご飯」と「汁」「香の物(漬物)」に、いくつかの「菜(おかず)」を添えたものです。そんな日本の食文化を支えてきた「漬物」が、いま危機を迎えているのをご存じでしょうか?

その大きな要因は2018年6月の食品衛生法改正です(施行は2021年6月)。それまで、多くの都道府県では、条例に従って届け出をすれば漬物を販売することができました。しかし、改正法施行後、漬物の製造販売を行うには、加工所などの施設を整備し、食品衛生管理の国際基準「HACCP(ハサップ)」に沿った衛生管理を行い、営業許可を得なければならなくなりました(経過措置が終わる2024年5月末までに、新たに許可申請が必要)。

野菜漬物製造業は2022年6月時点で全国に931事業所ありますが、うち607事業所(65.2%)が従業者規模20人未満の小規模・零細事業所です(総務省・経済産業省「2022年経済構造実態調査(製造業事業所調査)」)。また、この統計調査では、個人経営の事業所は対象外です。

収穫した野菜を自宅の台所や作業場で漬物にして、道の駅などの直売所で販売してきたような家族経営の農家も少なくありません。そうしたケースでも、新たにHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理が求められます。漬物づくりの担い手の高齢化、後継者不足もさることながら、加工所などの施設の整備や衛生管理に掛かる費用がネックとなり、世代を超えて受け継がれてきた伝統的な「漬物」が姿を消してしまうかもしれないのです。

2 漬物製造を巡る特徴的な動き

1)秋田名産「いぶりがっこ」の生産者の約3割が事業継続を諦める意向

食品衛生法の改正の影響が大きく報じられたのが、たくあん漬けの一種「いぶりがっこ」の発祥地、秋田県です。いぶりがっこは、大根を干して水分を抜きながら燻煙(くんえん)し、強力な殺菌・抗菌効果のある成分でコーティングした後に漬けるという伝統的な工程を経てつくられます。後述する浅漬とは製造工程からして根本的に異なる食品です。

いぶりがっこ

もともと秋田県内では漬物による食中毒の発生はなく、漬物製造業は許可や届出の対象ではありませんでした。しかし、食品衛生法が改正されたことに伴い、従前から漬物を製造販売している場合でも、経過措置期限である2024年5月末までに、

  • 製品の製造場所や保管場所を仕切りなどで物理的に区画する
  • 手洗い設備は手指が蛇口に触れないセンサー式などの構造にする
  • 原材料の洗浄設備(シンク)と器具等の洗浄設備をそれぞれ有する(計2槽)

などの基準を満たした施設を整備し、営業許可を得る必要が生じました。規模によって異なりますが、こうした施設を整備するには数百万円の費用が掛かります。

2021年7~8月、県内の直売所で漬物を販売する636人を対象に秋田県が行ったアンケートでは、回答者306人のうち175人が営業許可を取得する意向を示した一方で、108人が高齢化や資金不足などを理由に営業許可を取得しないと答えました。この結果を受け、秋田県は2022年度から漬物製造に必要な機械・施設の導入に要する経費を助成する事業を実施しています。

また、県内でも「いぶりがっこ」づくりが盛んな横手市では、県の助成事業に独自の追加補助を行うとともに、2023年度には、よこて農業創生大学校の農業技術研修に、原料となる大根の畑づくりから、いぶりがっこの製造までの過程を2年間で学ぶことができる「いぶりがっこコース」を新設し、就農者を募集しています。

2)クラウドファンディングで漬物加工所の整備資金を調達

クラウドファンディングを活用し、漬物の加工所を地域の生産農家が共同で整備するプロジェクトも見られます。

秋田県北秋田市の大阿仁地域の住民らでつくる「大阿仁ワーキング」が募集した「【消滅の危機?】里山秘伝の漬物を未来に残したい」では、2023年9月25日に募集を開始し、324人の支援により312万9750円の資金を集め、同年10月31日に募集を終了しました。

大阿仁ワーキングでは、食品衛生法の改正が成立した2018年から検討を始め、秋田内陸縦貫鉄道(秋田内陸線)比立内駅の空きスペースを、県や北秋田市の補助を得て加工・販売施設に全面改修。広さ約120平方メートルに食品加工や加工品保管、交流の各スペースを備えた「がっこステーション」として再生させました。改修費の自己負担分や設備費などに充てるため、クラウドファンディングで資金を募り、目標額の300万円を上回る資金調達に成功したといいます。

3)「冬は農業、夏はライフセイバー」で雇用を創出

後継者不足を、地域の特色を活かして解決しようとする動きもあります。

野崎漬物(宮崎県宮崎市)は、地元の「やぐら干し大根」を使った、たくあん漬け「千本漬」を中心に浅漬やキムチなどの製造販売を行っています。宮崎県田野・清武地域に見られる伝統的な「やぐら干し大根」は、「日本一の干し大根と大根やぐら」として2020年度のグッドデザイン賞を受賞、2021年度には日本農業遺産にも認定されました。一方、大根の生産者の高齢化、これを受け継ぐ後継者不足が課題となっています。

やぐら干し大根

同社は、冬場にピークを迎え、夏場には作業がほとんどない農業(干し大根の生産)の現状と、サーフィン愛好家(サーファー)が宮崎県に移住するケースが少なくないことに着目し、うまくマッチングさせることで雇用創出を図ることを構想。海の家やプールの運営会社と提携し、「ファーム&マリン」という働き方を提唱する農業法人野崎ファームを2021年に設立しました。

「ファーム&マリン」は、3年間の有期雇用契約で、9月から4月は農業、5月は漬物製造に従事し、6月から8月はライフセイバーやプールの監視員として勤務するというもので、契約期間終了後は、独立就農/正社員登用/再契約(2期目)が選択できます(独立就農の場合、祝い金60万円を支給)。

サーファーは、もともと土や砂、日焼けを苦にせず、そうした意味で農作業にもあまり抵抗感がないといいます。本社から車で20分ほどの距離にはワールドサーフィンゲームスの会場となった「木崎浜」があるなど、サーフィンができる環境が整っており、契約期間終了時にハワイ旅行がプレゼントされ、憧れのノースショアでサーフィンができる点も魅力となっています。

3 減塩志向が規制強化に影響?

1)保存食のはずの漬物に規制強化のわけ

そもそも、なぜ古くから保存食として受け継がれてきた漬物に対して、規制強化が図られることになったのでしょうか。

そのきっかけは、2012年8月に北海道札幌市などで発生した集団食中毒事件です。この事件は、岩井食品(同年10月廃業)が製造した浅漬(白菜きりづけ)により、高齢者施設の入所者などを中心に169人が腸管出血性大腸菌O157に感染、うち8人が死亡する痛ましいものでした。

厚生労働省は、同様の食中毒の再発防止に向け、同年12月、浅漬の衛生管理強化のために「漬物の衛生規範(通知)」を改正し、一度に大量の野菜を取り扱うような工場や大きな調理施設では、原材料を水で洗うだけでなく、殺菌することが決められました。

その後、食を取り巻く環境変化や国際化等に対応するために食品衛生法の改正が行われ、政府は、

製造工程が長期間になるほど、製造中の食品に含まれる細菌等が繁殖するおそれがあり、食中毒のリスクが高くなること等を踏まえ、許可営業に漬物製造業を追加し、漬物の製造に係る食品衛生の確保を図ることとした

のです。

主に浅漬の製造を念頭に置いた衛生管理のルールであった「漬物の衛生規範(通知)」は廃止され、浅漬も伝統的な漬物も一律に「HACCPに沿った衛生管理」が求められるようになりました。

2)実は漬物による食中毒の発生は「浅漬」か「キムチ」のみ

漬物は製造法の違いによって、「新漬(浅漬)」「調味漬」「発酵漬物」に分けられます。

  • 新漬(浅漬):塩分濃度1~3%で漬けたもの。白菜やキュウリの浅漬など
  • 調味漬:15%前後の食塩で原料野菜を漬け込み、必要なときに脱塩、圧搾し、調味液に漬けて製造するもの。福神漬など
  • 発酵漬物:塩分濃度3~10%で漬け込み、主に乳酸菌による発酵を促したもの。すぐき漬、しば漬、赤かぶ漬、高菜漬など

厚生労働省「食中毒統計資料」では、2000年以降に発生が報告された各都道府県の食中毒事件の発生場所や原因食品などが確認できます。植物性の自然毒による食中毒を除くと、野菜の漬物が原因食品となっているのは「浅漬」か「キムチ」に限られます。

調味漬や発酵漬物は、比較的濃い塩分や乳酸菌等による発酵の関係で腐敗が抑えられ、食中毒は起きにくいようです。一方、「浅漬」や「キムチ」は、非加熱殺菌で低塩であるため、原料野菜の洗浄や保存状態によって大きく影響を受け、短期間のうちに品質低下を招く恐れがあります。

塩分の過剰摂取は高血圧や脳疾患、腎臓疾患などの原因になるとされ、健康を意識した減塩志向により、漬物も、塩分の少ない浅漬が好まれるようになっています。一方、皮肉なことにそれがかえって食中毒の原因となり、ひいては規制強化につながったともいえます。

伝統的な漬物づくりに「HACCPに沿った衛生管理」を求めるのは酷だという意見もありますが、漬物製造の方法は漬物の種類により非常に多岐にわたるため、線引き・切り分けが難しいのが実状です。

4 参考:農林水産省が呼びかける「漬物で野菜を食べよう!」

成人1人1日当たりの野菜摂取量の目標は、カリウム、食物繊維、抗酸化ビタミン等の適量摂取が期待される量として350グラムとされています(厚生労働省「健康日本21(第二次)」の目標値)。しかし、現状は平均280グラム程度と約7割の人が目標量に達していません(厚生労働省「国民健康・栄養調査」)。

農林水産省は、1日当たりの野菜摂取量を350グラムに近づけるために「野菜を食べようプロジェクト」を推進しています。2023年には、その一環として、「漬物で野菜を食べよう!」という取り組みを進めました。

野菜の摂取量を増やすのに果たして漬物が良いのか、塩分摂取量の増加につながるのではないかという議論もありますが、現在の漬物製造では減塩化が進んでおり、上手に取り入れることが大切と考えられています。

日本高血圧学会の減塩・栄養委員会では、2013年以降「JSH減塩食品リスト」を公表し、食塩含有量の少ない食品の紹介を行っています。同リストには、さまざまな漬物も掲載されています。
なお、ここ数年、漬物の生産量は、コロナ禍の巣ごもり需要などもあり、増加しています。

漬物の生産量の推移

以上(2024年2月)

pj50536
画像:norikko-Adobe Stock

指揮者・小澤征爾氏。「世界のオザワ」が音楽で探求し続けたものが分かる一言とは?

でも僕はね、音楽っていうのはそういうものだけじゃないんじゃないかと、ずっとそう思ってやってきたんです

小澤征爾(おざわせいじ)氏は、長年にわたり世界中の主要なオーケストラを指揮した、日本を代表する指揮者です。幼い頃からピアノを、やがて指揮を学び、1959年にフランスのブザンソン指揮者コンクールで第1位を獲得。1973年からは米国のボストン交響楽団で29年という長期にわたって音楽監督を務めた他、国内でも新日本フィルハーモニー交響楽団の創立に携わるなど、まさに世界を股に掛けて活躍しました。残念ながら2024年2月6日に88年の生涯を終えられましたが、「世界のオザワ」とたたえられたその姿は、多くの人の目に焼き付いています。

冒頭の言葉は、小澤氏が2010年ごろに作家の村上春樹(むらかみはるき)氏と対談した際、音楽の指導者としての方針を問われ、口にしたものです。小澤氏はまず、自分が若い頃に師事していた指揮者の先生を引き合いに出し、「自分の先生は、いつもはっきりしたメソッドを持って、音楽の指導に当たっていた。言うことが決まっていたし、できあがっていた」と述べました。その上で「でも、それが全てではない」として、冒頭の言葉を言ったのです。

小澤氏は、指導者としても指揮者としても、「こうあるべき」という型を用意せず、演奏者を見て、その都度対応を変えていたそうです。すでに形があるものの通りに演奏させるのではなく、演奏者と一緒に、その場に適した音楽の形を探っていく。文字通り「音を楽しむ」という音楽を長年にわたり、ずっと続けてきたのです。

一方で、相手によって言うことが違う指導者だけだと演奏者が混乱すると考え、自分の他にも、はっきりしたメソッドを持つ指導者を置いていたそうです。「相手によって言うことが違ってくる人」と「ぴしっと揺らがない哲学を持つ人」がいて、そういうコンビネーションできっと物事がうまく運んでいくのだと、小澤氏は言っています。

指揮者は、楽団の演奏を統率するのが役割ですが、一方で演奏者一人一人に、音楽における強み・弱みや、本人が大事にするこだわりがあります。どうすれば、演奏者一人一人の持つ力を最大限に引き出しつつ、楽団としての統率が取れた音楽にできるのか、小澤氏はそれをずっと探求し続けてきたのでしょう。

経営者も、リーダーとして会社を統率しつつ、社員一人一人の持つ力を最大限に引き出して、会社を未来につなげていかなければなりません。リーダーシップを発揮して「自分に付いて来い」と組織を引っ張るのも、社員一人一人に目線を合わせて個性を伸ばすのも、どちらも大切ですが、両方を同時に行うのは、簡単なことではありません。そこで大事になってくるのが、自分以外で指導者になれる人、つまり幹部社員や管理職です。自分とは違う形で社員を引っ張れる存在がいてこそ、会社は回っていくのです。

出典:「小澤征爾さんと、音楽について話をする」(小澤征爾(著)、村上春樹(著)、新潮社、2011年11月)

以上(2024年3月作成)

pj17618
kpg_ivary-Adobe Stock

【朝礼】「量質転化」で毎日が変わります

皆さんは、「量質転化(りょうしつてんか)」という言葉を知っていますか。これは、「量を積み重ねていくと質的な変化が起こる」ということを表しています。質を上げたかったら、とにかく量を積み重ねる。これは、仕事や勉強などにおいて、よく言われることです。

例えば、営業で考えると分かりやすいでしょう。営業活動の中でお客さまと信頼関係を築き、成果を上げたかったら、ひたすら毎日、愚直にアプローチする量を積み重ねる。連絡し続ける。勉強も同じです。練習問題を何問も何問も解くと、理解が深まり、資格試験に合格するなど成果が上がる。

このように、「量質転化」は定義としては非常にシンプルで、誰もが「そりゃそうだ」と思うようなことです。しかし、実現するのは簡単ではありません。

まず、「量を積み重ねる」ということ自体が、なかなか難しいのです。「質」を変化させるくらいの「量」なので、生半可な量ではありません。以前、あるコピーライターの方に聞いたのですが、その方は若い頃、キャッチコピーの案を毎日100個考えた時期があるそうです。毎日です。100個。気が遠くなります。1カ月間だけだったとしても、キャッチコピーの案は3000個になります。

また、別のある方は、毎日10人の社長に会い話を聞く、ということを10年間続けています。ざっと1カ月で延べ200回、10年で延べ2万4000回以上、毎日社長に会い、話を聞き続けています。

質を変化させるくらいの量とは、こうした「圧倒的な量」を言うのだと思います。そして、この圧倒的な量を積み重ねることで、初めて気付くこと、見えてくるものがあり、それが「質的な変化」につながっていくのでしょう。

毎日100個のキャッチコピーの案を考えていたコピーライターの方は、「売れるコピーには法則がある」などの気付きを得て、トップレベルの世界で活躍されています。毎日10人の社長に10年間会い続けている方は、人と人をつなぎ新しいビジネスを創り出して非常に多くの社長から頼られ、日々東奔西走、大活躍されています。

先ほど、営業活動を例に挙げましたが、「量質転化」は営業だけの話ではありません。企画案を1日100本出してみる。商品のユーザーヒアリングを1000人にやってみる。チームメンバー全員との1on1を、1週間に一度、年間約50回やり続けるということでもいいでしょう。

量を積み重ねると、脳が、「それに特化した脳」になっていきます。私は、商品の企画案を1週間で100本考えることにしています。常に頭の片隅には「企画」のことがあり、何を見ても聞いても「これは企画にしたら面白いか?」と考えます。360度、「企画脳」になっているイメージです。おかげで、毎日が楽しく感じられるのです。

「量質転化」は、「量」のために行動することがまず大事です。皆さんも、「量質転化」を実践してみてください。きっと毎日が変わります。

以上(2024年2月作成)

pj17172
画像:Mariko Mitsuda

【回答付き】東京-新大阪間の新幹線でコーヒーはどれだけ売れる? フェルミ推定でざっくりつかむ

書いてあること

  • 主な読者:数字によって判断ができるようになりたい営業担当者、若手社員
  • 課題:数字による判断といっても、どのような方法があるのか分からない
  • 解決策:フェルミ推定と原価計算の方法を押さえることで、ビジネスプランの精度が高まる

1 見えない答えを探す前にイメージしてみよう

営利法人である以上、もうけなければ意味がありません。そのため、

もうかりそうなビジネスをいち早く見つけて試してみることが大切

です。やってみなければ分からないのはリスクですが、時間をかけすぎれば競合他社に先を越されてしまうかもしれません。そこで、

本当に初期の検討では、「ニーズはどれくらいありそうか?」をざっくりと検討し、いけそうなら解像度を高めていくアプローチ

が必要です。

そして、本当に初期の検討で役立つのが「フェルミ推定」です。フェルミ推定とは、

正確な値を導き難いことについて、実際に把握できている値を基に推計すること

です。フェルミ推定は有名なIT企業などが採用面接で使ったことなどで話題になり、知られるようになりました。フェルミ推定の例として挙げられる問題は色々ありますが、例えば、

東京-新大阪間の新幹線でワゴン販売のコーヒーは何杯売れるか?

というのもそうです。実は、2023年10月をもって東海道新幹線のワゴン販売は終了しているのですが、興味深い問題であることに変わりはありませんし、何より筆者がワゴン販売のパーサーに聞いた答えがあるので、この問題を紹介します。なお、答えは最後に紹介しているので、皆さんの推定との違いを確認してみてください。

さて、話を戻します。こうした「答えようがない」と感じる問題について、関連するデータを使って論理的に答えを考えるフェルミ推定の癖がつけば、ビジネスの意思決定がスピードアップしますし、把握しなければならない大切なパーツも分かってきます。そして、ある程度情報が固まってきたところで、原価計算などをして精緻化していけばよいのです。

この記事では、御社の意思決定のスピードアップと精度向上を図るために、フェルミ推定と原価計算の考え方を紹介します。

2 東京-新大阪間でコーヒーは何杯売れる?

ここではコロナ禍の影響を考慮せずに、「東京-新大阪間の新幹線でワゴン販売のコーヒーは何杯売れるか?」を考えてみましょう。この質問に対して、

  • JRの社員でないと分からない
  • 気温などの条件によるから一概に答えられない
  • 何となく100杯!

などと答えているようでは失格です。実際に把握できている値から答えを考えるのがフェルミ推定だからです。

早速、入手できる情報などを組み立てて、それなりに根拠のある数字を導いてみましょう。この問題で、座席数、乗車数、購入率は重要そうな値です。この中ではっきり分かるのは座席数で、残りは予想するイメージです。例えば、ざっくりと次のような感じでしょうか。

  • 座席数:1360席(85席(縦17列×横5席)×16号車)
  • 乗車数:1088人(1360席×80%)※乗車率を80%とした場合
  • 購入率:15%

となると、東京-新大阪間の新幹線で販売されるワゴン販売のコーヒーは、

163.2杯(1088人×15%)

となります。コーヒー1杯を300円とすると、東京-新大阪間でワゴン販売のコーヒーは、

4万8960円(163.2杯×300円)

売れることになります。ここに新幹線の運行本数を掛けたり、他の商品もフェルミ推定したりすることで、「新幹線におけるワゴン販売市場」のイメージが湧いてきます。もちろん、本格的に市場調査をする場合は、天候(暑ければホットコーヒーは売れない?)や運行時間(平日の朝はコーヒーが売れる可能性が高い?)などの条件を考慮していきます。

なお、この事例のように小さな数字を積み重ねていくアプローチだと、実際の数字との乖離(かいり)が生じやすいので、乗車率や購入率などの重要なポイントは、ヒアリングやアンケートによって妥当性を確認するようにしましょう。

3 原価計算の考え方で原価を推定する

1)原価計算の考え方

フェルミ推定によって、ざっくりとビジネスの規模をつかむことができます。こうして理解が進んできたら、次はより細かい部分に突っ込んでいきます。フェルミ推定の結果、東京-新大阪間におけるコーヒーのワゴン販売の収益は4万8960円でしたが、原価はどれくらいかかっているのでしょうか?

ワゴンではコーヒー以外にもさまざまな商品を販売しているため、コーヒーの販売に関連する原価だけを抽出するのは簡単ではありません。また、原価の種類もさまざまです。そこで登場するのが原価計算です。原価計算には難しいイメージがありますが、ここでは基本的な考え方を紹介します。

原価計算では、原価を材料費、労務費、経費に大きく区分します。これを商品(製品)・サービスの製作や提供に対し直接的に発生しているか否かにより直接費と間接費に区分します。最後に、区分した原価群を直接費は直課し、間接費は一定の基準に従って按分(あんぶん)します。原価の種類のイメージは次の通りです。こうすると、ビジネスで発生している原価を俯瞰(ふかん)することができます。

画像1

なお、費用別(材料費、労務費、経費)の原価は厳密にはさらに細かく分けられます。具体的には、

  • 材料費:原料費、買い入れ部品費など
  • 労務費:賃金、賞与、福利厚生費など
  • 経費:光熱費、減価償却費、保険料など

といった具合です。また、間接費の按分基準については、間接費の発生の要因に応じて色々と考えられます。コーヒーのワゴン販売の事例では、

販売員のコーヒーの販売にかかる時間や販売回数

などが考えられます。

2)コーヒーのワゴン販売における原価の考え方

では、東京-新大阪間におけるコーヒーのワゴン販売の原価を考えていきましょう。まず、コーヒー豆、カップ、ポットが直接材料費となります。販売員の労務費はコーヒーの販売だけで発生するわけではないので、直課できない間接労務費となります。この他、販売員の制服代やワゴン代が間接経費となります。これらの間接費は、何らかの基準に従っての按分が必要です。

ここでは、原価の大部分は直接材料費と間接労務費で構成されると考えます。

コーヒーの原価は販売価格の10~20%程度といわれます。ここでは15%と仮定して、

7344円(4万8960円×15%)

とします。また、間接労務費は時給1000円のパートが4時間稼働して4000円、その50%を配賦すると、

2000円(1000円×4時間×50%)

となります。

販売員の4時間稼働は、東京-新大阪間の運行時間である2時間30分に、ワゴンへの商品の積み込みなどの準備時間を見込んだからです。また、50%を配賦したのはワゴン販売回数全体に占めるコーヒー販売の回数を50%の比率と予想したからです。計算された原価は9344円(7344円+2000円)となり、東京-新大阪間におけるコーヒーのワゴン販売は3万9616円(4万8960円-9344円)の利益を生むことになります。

4 回数を重ねて精度を高める

限られた情報の中でも、一定の根拠をもってもうかるか否かを素早く判断する。この力を養うために、フェルミ推定と原価計算を紹介してきました。これを実践することで、難しそうな原価計算も少し身近になるでしょう。

とはいえ、根拠のない思い込みでフェルミ推定をしても意味がありません。世界と日本の人口やGDPの比較、主要産業の規模や話題の数字などはその都度確認し、フェルミ推定で使えるようにする必要があります。また、新聞やニュースで気になったことを題材にフェルミ推定を行い、答え合わせをすることでスキルが向上します。

いかがでしょうか。事業計画を練るには、最終的に細かな原価計算が必要です。しかし、いきなり細かくて骨の折れる原価計算をするより、フェルミ推定で当たりをつけて、その答え合わせをするように原価計算を行うほうが楽しいのではないでしょうか。

5 答えは何杯?

筆者が2023年5月に、実際に東海道新幹線のワゴン販売のパーサーに聞いたところ、

乗車率100%の場合、東京から新大阪までの間で60~70杯のコーヒーが売れる

ということでした。もちろん、天候や時間帯などの要素もあるでしょうが、そうしたことを無視すれば、購入率は約5%(座席数を1360席の場合)となり、この記事の推定の3分の1だったということになります。

なお、ワゴン販売の終了はパーサーの人手不足の問題も大きいようでした。パーサーが足りなければ、新幹線内を往復できる回数が減り、結果として販売機会を失ってしまいます。この辺りまで考慮してフェルミ推定をした方がいたら、すごいです!

以上(2024年2月更新)

pj00145
画像:pixabay

【中堅社員のスピーチ例】自動車が進化しても人力車は残り続ける

今どきはさまざまな分野のテクノロジーが、めまぐるしい勢いで進化しています。例えば、自動車の分野では、二酸化炭素を出さない電気自動車の開発や、交通事故を防ぐための自動運転技術の研究が進んでいます。

こうしたテクノロジーの進化は、社会に必要不可欠で歓迎すべきものですが、一方でこうした話につきものなのが「新しいものが出てきたら、古いものの価値はなくなってしまうのか」という問題です。最近、これについて考えさせられた出来事があったのでお話しします。

先週の休日、私は人生で初めて人力車に乗りました。客が乗るための台座に2つの大きな車輪がついていて、台座とつながれた柄を俥夫(しゃふ)というドライバーが引いて進む、あの人力車です。

ちょうど観光地にいたため、試しに乗ってみたのですが、これがとても乗り心地がいい! 台座の座席はフカフカですし、人が引いて走るがゆえに、ちょうど心地よい速さの風を浴びることができます。台座から観光地の景色を眺めながら、俥夫の人が観光名所のガイドをしてくれますし、名所に着いたら人力車に乗った状態で写真まで撮ってくれました。

俥夫の人が言うには、最近は新型コロナに対する規制が解除されてインバウンドも増えた影響で、人力車の客足が大きく伸びていて、海外から来た人にも慣れない英語を使いながら、観光を楽しんでもらっているそうです。

人力車が発明されたのは、明治時代。江戸時代に用いられた籠(かご)よりも速く、一方で馬車よりもコストを抑えられる乗り物として注目を集めました。鉄道や自動車が普及するにつれて、その活躍の場は狭まっていきましたが、明治時代に登場してから150年以上が経過しているのに、今なお人力車は世に残り続けています。なぜでしょうか。それは、人力車の提供する価値が「速さ」から「楽しさ」に変わったからだと思います。

さっきもお伝えした通り、人力車ではドライバーさんが客である自分だけのために車を引き、観光名所のガイドや写真撮影をしてくれます。今回、私は利用しませんでしたが、最近ではアイドルを特別な俥夫として招き、そのアイドルのファンを客として乗せるサービスもあるそうです。人力車に乗るのは数十分から長くて数時間程度ですが、その短い時間の中で味わえる「特別感」により、人力車は今も愛され続けているのです。

私たちは、新しいものを吸収する傍ら、古いものを「悪いこと」のように見る傾向があります。もちろん、古いものに固執するのは良くありませんが、1つの価値尺度だけで古いものを断罪してしまうのも、それはそれで視野が狭すぎます。私たちの提供する商品・サービス、あるいは仕事を進めるためのツールなどの中にも、今はあまり使われていなくても、戦うフィールドを変えれば新たな価値を見いだせるものが、まだまだたくさん眠っているはずです。

以上(2024年2月作成)

pj17171
画像:Mariko Mitsuda