従業員エンゲージメントの向上のために

昨今、多くの企業が人材流出、人材不足に苦慮しており、少子高齢化と人口減少が顕著になった社会において、採用を含めた人材確保が難しい状況になっています。こうしたことから、「人材マネジメント」に特化した課題を克服するために、エンゲージメントへの関心が高まっています。

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従業員エンゲージメントの向上のために

昨今、多くの企業が人材流出、人材不足に苦慮しており、少子高齢化と人口減少が顕著になった社会において、採用を含めた人材確保が難しい状況になっています。こうしたことから、「人材マネジメント」に特化した課題を克服するために、エンゲージメントへの関心が高まっています。

ここでの「エンゲージメント(engagement)」は、従業員の会社に対する愛着や思い入れの意味合いになります。従業員が仕事に没頭し、モチベーションを感じている「エンゲージメントが高い状態」は、企業の業績向上や従業員の定着に大きな効果があります。

本稿では、企業におけるエンゲージメントの実態を把握し、エンゲージメントを向上させるための主な施策をご紹介いたします。

1 エンゲージメントの現状

2022年度(2021年12月~2022年11月)に(株)ヒューマネージが実施したエンゲージメント・サーベイ(68,659名のデータ)の分析結果によると、若年層(20代)の社員のエンゲージメントが最も低く、年代が上がるほどエンゲージメントが高くなっています。

さらに、エンゲージメントの3つの状態(楽しみ/興味・関心/意義)について、年代別に見ると、特に20代、30代の若手従業員は、仕事に対して、「興味・関心」と「意義」は感じられているが、「楽しみ」は感じられていないという状態が読み取れます。

エンゲージメント・サーベイの分析結果

エンゲージメント・サーベイ

((株)ヒューマネージ「エンゲージメント・サーベイの分析結果」)

2 エンゲージメント向上の施策

企業が今以上に従業員のエンゲージメントを向上させるには、下記のような施策を講じることが、有効となります。

エンゲージメントの現状把握

従業員が仕事に対してどのような意識を持ち、会社にどのような印象を持っているのか、社内アンケートなどで現状把握する。

経営層からのメッセージ発信

社長や経営者から、企業理念や今後の展望についてメッセージを伝え、会社全体で統一されたビジョンを共有する。

相応しい人事評価制度の構築

従業員に不公平感を感じさせない納得感のある評価基準を設け、客観的で明確な人事評価制度を構築する。

コミュニケーションの活性化

従業員がオープンに意見を言い合える風通しの良い企業風土を形成し、心理的安全性を高め、会社への帰属意識の向上を図る。

快適に働ける職場環境の構築

従業員が各々に適した業務に就けるよう適材適所の配置を行い、全ての従業員が健全に働けるように労働環境を整備する。

ワークライフバランスの向上

家事や育児・介護との両立ができる働き方の改革や福利厚生の充実を図り、プライベートも大事にしながら働ける会社にする。

3 さいごに

2023年3月期決算以降、上場企業などを中心に人的資本情報の開示が義務化され、「エンゲージメント」は、開示が望ましい19項目のひとつにも挙げられました。このように「エンゲージメント」は、人材マネジメントにおける重要な概念としてその立ち位置を強めています。

人材の流動化や労働力人口の減少で人材の確保が難しくなっている現代において、企業と従業員の関係性を深め、生産性や定着率の向上を目指す取り組みは、企業が成長するための最優先課題の一つと言えるかも知れません。まずは自社で取り入れられる施策から着手してみてはいかがでしょうか。

※本内容は2023年4月13日時点での内容です
(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

経営者・役員の退職金制度の税務・財務のポイント

基本的に役員退職金は法人の損金として計上が可能であるため、所有と経営が一致しているオーナー会社等では、恣意的なお手盛り計算が行われる可能性があります。そのため、法人税法においては「不相当に高額」な部分については損金不算入とされています。役員退職金の税法上の基本的な考え方や適切な計算方法、対策について解説していきます。

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【朝礼】そっくりそのまま真似てみろ

皆さんは、マニュアルをそっくりそのまま真似したことがありますか。皆さんの中に「マニュアルなんて大して役に立たない」と考えている人がいるなら、その考えは改めて欲しいと思います。

私は、マニュアルやお手本といったものはとても重要だと思っています。もし、皆さんが何かを習得しようとしているならば、マニュアルやお手本をすべて暗記し、そっくりそのまま真似できるようになってください。マニュアルやお手本は物事の基本を押さえ、そして解説しているものです。だから、これらを覚え、真似できれば、基本を身に付けることができます。

「学ぶ」という言葉の語源は「まねる」だといわれています。例えば、書道を習得するには、誰でも、お手本を忠実に書き写すことから始めます。噺家は師匠の噺を聞いて、それを見て聞いて覚え、自分のものとします。将棋は最善とされる手順や駒組みである定跡を覚え、その定跡通り指し進めることを繰り返します。剣道・柔道などの武道をはじめ、野球・サッカーなどのスポーツは、基本の動きができるようになるまで繰り返し練習します。このように早く上達するコツは、上級者の形や考え、動きを真似ることです。

この段階では、「なぜ、そうするのか」を分からなくてもよいのです。形を真似る、話し方・身振り・手振りを真似る、指し手を真似る、動きを真似ることができれば、その理由を分からなくても、上達できるからです。サッカーが上手になりたい子供が、有名サッカー選手の真似をするのは、実は理にかなっているのです。

この「真似る」という行為は、本当に奥が深いのです。先にマニュアルの話をしましたが、マニュアルはできる人の行為を、文書化したものと考えてください。マニュアルを正確に真似るだけで、皆さんのビジネススキルが上達するのです。

皆さんが、仕事ができるビジネスパーソンになりたいのであれば、モデルとなる人物を見つけて、真似をしてください。身近にモデルとなる人物がいなければ、尊敬する人物の書籍を読み、その人物の考え方や物事への取り組み姿勢を真似てください。

身近なところ、例えば、上司や先輩にモデルとなる人物がいたら、とても幸せなことです。「仕事ができるようになりたいのです。挨拶の仕方から、仕事に対する姿勢、コミュニケーションの方法などすべてを教えていただけますか。教えはすべて受け入れます」とお願いしてみましょう。間違いなく、その上司や先輩はあなたのことを可愛がってくれます。はじめのうちは、何のためにそうするか、どうしてそのように考えるのかは分からなくてよいのです。上司や先輩を真似ているうちに、上司や先輩の言うことをすべて聞いているうちに、いずれその意味が分かってきます。

こうして仕事に対する考え方や時間の使い方などすべてをそっくりそのまま真似てみると、1年後、自分自身がビジネスパーソンとして成長していることに気付くでしょう。そして、1年前には分からなかった「なぜ、そうするのか」が分かるようになり、謎が解けるのです。

以上(2023年5月)

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画像:Mariko Mitsuda

リフレクションを学びにつなげよう

1 リフレクションとは?

近年、人材育成の場面でリフレクション(reflection)が注目されています。リフレクションは直訳すると“反射”という意味ですが、人材育成におけるリフレクションは、経験や自分の内面を客観的・批判的に振り返る“内省”という意味で使われます。経済産業省が提唱する「人生100年時代の社会人基礎力」においても、あらゆるスキル習得の前提となる力と位置付けられており、リフレクションを鍛えることで、経験から自ら学び、自分をアップデートする力を身に付けることができると考えられています。

2 自分で気づけば主体的に学習できる

リフレクションによって自分で考え、自分で学べるようになることは、人に言われて学ぶよりもモチベーションが保ちやすいといわれています。

子どものころ周囲の大人から「宿題しなさい」と言われ、やる気がなくなった記憶がある人は多いでしょう。他人から指摘されたり強制されたりすると、自分で始めた場合よりもモチベーションが下がりがちです。他人から言われる前に自分で改善点を見つけ主体的に行動できれば、成長しやすくなるでしょう。

3 無意識に行っているリフレクション

リフレクション=内省(振り返り)というと、何となく哲学の用語のようで、難しそうな印象を受けるかもしれません。しかし、実は誰もが意識せずに自然にリフレクションをしています。

例えば、仕事で頼まれていた資料を提出期限までに作成できなかったら、誰に言われなくても遅れてしまった理由を考えるでしょう。できごとの原因と結果を推測するのも、リフレクションの1つです。

本稿では、こうしたわたしたちが自然に行っているリフレクションの内容を改めて整理し、経験から多くを学ぶための考え方を紹介します。

4 リフレクションと“経験学習モデル”

リフレクションの具体的な内容を説明する前に、リフレクションが注目された背景を理解するため、デイヴィッド・コルブが提唱した“経験学習モデル”を紹介します。経験学習モデルは、人が経験したことを振り返って学んでいくプロセスを示した理論です。

経験学習モデルとは、4つのプロセスを繰り返すことで、ただ経験を重ねるだけよりも大きな学習効果を得られると考えています。

1.でまず経験をしたら、2.では俯瞰(ふかん)的な視点でその経験からいったん離れ、自分の行為や感情、できごとの意味を整理します。3.では2.で得られた教訓や法則を整理し、4.で実際の業務や次のアクションに落とし込みます。

リフレクションは、この4つのプロセスのうち、2.のプロセスに当たります(3.や4.のプロセスを含めることもあります)。リフレクションの力を鍛えることで、一見しただけでは分からない問題の本質に気づき、経験したことがない問題を解くヒントを得られるようになります。

5 リフレクションの4つのレベル

リフレクションは、過去の経験を未来に活かすことが目的です。リフレクションの日本語訳である“内省”と似た言葉に、“反省”がありますが、反省は過去の失敗や過ちに対して行うのに対し、リフレクションはポジティブなできごと(成功体験)に対しても行います。失敗したか成功したかにかかわらず、経験を知恵に変えることが大切だからです。

1つの経験から複数の教訓を得るには、できごとの原因と結果を整理するだけでは不十分です。また、問題の原因を他者や環境に求めるだけでは、有効な対策をとることはできません。そこで、リフレクションは学びの質を向上させるため、次の4つのレベルに分けて行います(注)。

(注)ディスカヴァー・トゥエンティワン「リフレクション = REFLECTION : 自分とチームの成長を加速させる内省の技術」(熊平美香、2021年3月)を参考にしています。

レベル1:結果のリフレクション

できごとや結果についてのリフレクションです。事実を正しくとらえることは大事ですが、このレベルのリフレクションに終始していると、経験を学びに変えることはできません。

レベル2:他責のリフレクション

他者や環境についてのリフレクションです。一見正しい有意義な学びですが、他者や環境に原因を求めていては、未来を変えるヒントを得ることはできません。

しかし、実際には多くの人がこのレベル2にとどまってしまいます。なぜなら「指導に時間を費やしているのに部下が育たない」というような課題があった場合、部下の課題ばかりに目が行って、自分の関わり方や指導方法に目を向けるのは難しいからです。

他責

レベル3:行動のリフレクション

自分の行動についてのリフレクションです。自らの行動を振り返り、結果と結びつけることで、次にとるべき行動が見えてきます。

とはいえ、「自身の行動を振り返っても、状況を変えることができない」と悩んだ経験がある人も多いでしょう。経験を振り返っても、次の打ち手を試してみても課題を解決できないときは、経験の前提にある内面に意識を向ける必要があります。

レベル4:内面のリフレクション

自分の内面・持論についてのリフレクションです。私たちの行動の前提には、「こうすれば、うまくいくはずだ」という考えがあります。意識せずとも、過去の経験で培った知恵を活かし、日々行動しているのです。そうした行動の前提にある持論を振り返ることで、行動の前提にある自分の価値観を俯瞰します。

自分の行動が他者や結果にどんな影響を与えたか、もし適切な行動がとれなかったとしたらそれはなぜなのか、ということまでリフレクションを深めることで、望ましい結果を導く適切な行動をとれるようになります。

変化の激しい時代には、前例を踏襲するだけではうまくいく保証はありません。そのため、現代は自己の内面を振り返るレベル4のリフレクションの重要性が高まっているといわれます。

6 なぜ感情や価値観と向き合うことが大切なのか

自覚するのは簡単ではありませんが、わたしたちの行動や考え方には、感情や価値観が深く関わっています。例えば、仕事ができる人がマネジャーになると、部下に仕事を任せるべきだと分かっているのに「自分でやったほうが早い」と、なかなか仕事を周囲に振れないことがあります。頭では、部下に仕事を任せる方法を学ばなければならないと分かっていても、できないのです。

そうした人の話を詳しく聞いてみると、実は「人に指示を出す口先だけの人より、自分で率先して動いて解決する人のほうがかっこいい」といった価値観を持っていることがあります。いまの状況に合った行動ではなく、自分の価値観に合った行動を無意識に選んでいるのです。

できごとの原因と結果を正しく認識するだけでは、自分の行動や考え方を変えられないのはこのためです。しかも、この価値観の根っこにその人のご両親が忙しく働いていた姿などがある場合、本人にはなかなか自覚できないのです。

リフレクションによって自分でも忘れてしまった価値観に自覚的になると、変化を受け入れやすくなります。

【参考文献】
ディスカヴァー・トゥエンティワン「リフレクション = REFLECTION : 自分とチームの成長を加速させる内省の技術」(熊平美香、2021年3月)

以上(2023年5月更新)

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一人でリフレクションをしてみよう

1 リフレクションで学びを加速する

1)思い込みが学習を邪魔する

朝、上司の顔を見た瞬間に「機嫌がよさそう/悪そうだ」と判断することはありませんか? それはこれまでの上司との付き合いから無意識にしているからです。このように、これまでの経験や知識・ものの見方などを基にした判断は無意識に行えるので早く思考できますが、信ぴょう性が薄い知識を基にすると、現状に合っていないものの見方で判断してしまうことも少なくありません。

実際、過去の常識にとらわれて、本当は見えているはずの徴候が見えなくなることがあります。「現代は技術の進歩が速い」と何度も聞いていたのに、新型コロナウイルス感染症が拡大するまで、多くの企業においてリモートワークが実現できるとは思っていなかった人がほとんどでしょう。リフレクションは、わたしたちが無自覚に行っているこうした認知・判断のプロセスを客観的・批判的に振り返ることで、新しい知識・考え方を取り入れやすくするといわれています。

2)自分の思い込みをつくる認知の4点セット

思い込みはどうやってできるのかを理解するため、意見ができる過程を考えてみましょう。わたしたちは同じものを見ても、背後にある価値観が違えば全く別の意見を持つことがあります。その際の価値観は、過去の経験やそのときの感情などに基づいています。

例えば、犬が好きな人と嫌いな人の認知の違いを見ましょう。同じ犬について考えているのに、過去の経験やそのときの感情によって、全く異なる意見になっています。

犬が好きな人と嫌いな人の例

こうして4つの視点で俯瞰(ふかん)してみると、自分の意見がどうやってできたか、また他の人の意見がなぜ違うかを理解しやすくなります。

この4つの視点は、次のように言い換えることもできます。

  • 意見:考え・学び・思ったこと
  • 経験:意見の背景にある経験(意見の根拠)、情報
  • 感情:その経験や知識に対してどのような感情を抱いているか
  • 価値観:判断に用いた基準や尺度、ものの見方

この4つの視点を意識して多角的な見方ができれば、1つの意見に固執することが少なくなるので、1つの経験から複数の教訓が得られ、学習のスピードも速くなるでしょう。

犬好き猫好き

2 一人でリフレクションするときのポイント

人材育成の場面では、会社の上司や同僚とリフレクションすることが多いかもしれません。確かに一人でリフレクションをすると、自分以外の意見や経験には触れられないというデメリットはありますが、自分自身と落ち着いて向き合えるというメリットもあります。

リフレクションにあまり慣れていない人が、一人で始める場合のポイントを紹介します。

1)記録をとる

リフレクションは、経験や自分の内面を客観的に見ることと、変化が分かるようにすることが大切です。ノートに書いたり、スマホに打ち込んだりしてみましょう。また、リフレクションを行う頻度・期間(毎日、毎週、2週間ごと、1カ月ごとなど)を決め、その間に起きたできごとを上述した4つの視点に分けて分析します。文字にすることで客観視でき、後から見返すことで自分の変化に気づいたり、逆に未解決のまま放置されている課題が見つかったりします。

2)昔の経験から学ぶ

リフレクションの基本は、自分が感じていることを当たり前と思わず、「なぜこんなふうに感じたのだろう。他の感じ方はないだろうか」と自分に問いかけてみることです。振り返る対象を、最近経験したできごとだけではなく、もっと前のできごとやこれまでの人生に広げてみると、思わぬ発見があるでしょう。

例えば、昔は失敗だと思っていたことが今の自分には大きな糧になっていたり、逆に成功体験だと思っていたことから、間違った学習をしていたりします。当時は正しかった価値観が現状に合わなくなっていると気づくこともあるでしょう。

また、自分の感情に注目してリフレクションしてみると、役立つ法則が見つかるかもしれません。頑張れた経験や夢中になれた経験には、自分で自分のモチベーションを上げるヒントが隠れています。

3)問いかけでリフレクション力をアップする

リフレクションに慣れてきたら、自分が結果、他責(他者・環境)、行動、価値観のどこについてリフレクションすることが多いのかをチェックしてみましょう。リフレクションのレベルを上げることで、自分で自分の価値観をアップデートし、変化に対応できる力が身に付いていきます。

リフレクションのレベルを上げるための問いかけの例

【参考文献】
ディスカヴァー・トゥエンティワン「リフレクション = REFLECTION : 自分とチームの成長を加速させる内省の技術」(熊平美香、2021年3月)

以上(2023年5月更新)

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チームでリフレクションをしてみよう

1 リフレクションで学びを加速する

1)思い込みが学習を邪魔する

朝、上司の顔を見た瞬間に「機嫌がよさそう/悪そうだ」と判断することはありませんか? それはこれまでの上司との付き合いから無意識にしているからです。このように、これまでの経験や知識・ものの見方などを基にした判断は無意識に行えるので早く思考できますが、信ぴょう性が薄い知識を基にすると、現状に合っていないものの見方で判断してしまうことも少なくありません。

実際、過去の常識にとらわれて、本当は見えているはずの徴候が見えなくなることがあります。「現代は技術の進歩が速い」と何度も聞いていたのに、新型コロナウイルス感染症が拡大するまで、多くの企業においてリモートワークが実現できるとは思っていなかった人がほとんどでしょう。リフレクションは、わたしたちが無自覚に行っているこうした認知・判断のプロセスを客観的・批判的に振り返ることで、新しい知識・考え方を取り入れやすくするといわれています。

2)自分の思い込みをつくる認知の4点セット

思い込みはどうやってできるのかを理解するため、意見ができる過程を考えてみましょう。わたしたちは同じものを見ても、背後にある価値観が違えば全く別の意見を持つことがあります。その際の価値観は、過去の経験やそのときの感情などに基づいています。

例えば、犬が好きな人と嫌いな人の認知の違いを見ましょう。同じ犬について考えているのに、過去の経験やそのときの感情によって、全く異なる意見になっています。

犬が好きな人と嫌いな人の例

こうして4つの視点で俯瞰(ふかん)してみると、自分の意見がどうやってできたか、また他の人の意見がなぜ違うかを理解しやすくなります。

この4つの視点は、次のように言い換えることもできます。

  • 意見:考え・学び・思ったこと
  • 経験:意見の背景にある経験(意見の根拠)、情報
  • 感情:その経験や知識に対してどのような感情を抱いているか
  • 価値観:判断に用いた基準や尺度、ものの見方

この4つの視点を意識して多角的な見方ができれば、1つの意見に固執することが少なくなるので、1つの経験から複数の教訓が得られ、学習のスピードも速くなるでしょう。

2 チームでリフレクションする前の留意事項

リフレクションは、人材育成の場面で使われることの多い言葉です。会社で聞いて知ったという人も多いでしょう。リフレクションをチームで行うと、他人の意見を知ることで自分の意見を相対化し、事実関係を俯瞰して見やすいといったメリットがあります。

ただし、チームでリフレクションをするなら、次の点を理解しておく必要があります。特に、会社で業務として行う場合は、せっかくの時間を無駄にしないよう事前準備も必要です。

1)会社が何を求めているのか

会社やチームの状態などによって、リフレクションの目的は違います。一般的にはメンバーの考える力や自律性を高めるために行いますが、リフレクションの日本語訳である“内省”には似た意味の言葉に、“振り返り”があります。

振り返りは、“過去のできごとなどを客観的に振り返る”という意味ではリフレクションと同じですが、リフレクションより現実に取り組んでいる業務や活動の改善にフォーカスして使われることが多いようです。会社によっては振り返りとリフレクションを区別せずに使っている場合がありますが、実際に会社・チームでリフレクションをする場合は、メンバーに何を期待するかを整理し、きちんとメンバーに説明するようにしましょう。

2)リフレクションは他のメンバーと信頼関係を築く力や対話力が求められる

チームでリフレクションをする場合、メンバー同士が本音で話し合える信頼関係が必要です。

仕事をするときは通常、感情をコントロールし、相手に自分の感情を見せないようにしています。しかし、リフレクションでは自分の意見をはっきり伝えたり、感情を表現したりしなければなりません。さらに、メンバー同士の意見が食い違った場合、感情をコントロールしながら自分と違う意見を持った人の話を聞き、話し合う対話力も求められます。

チームリフレクション

こうした能力は誰にでもはじめから備わっているわけでなく、身に付けるのは決して簡単ではありません。さらに、メンバーに役職の違いや利害の対立があることもあります。なかなか本音で話せないのを前提にし、いくつかの段階を踏むのがよいかもしれません。

例えば、メンバーが本音で話せる関係を築くことを目標にし、次のような点に配慮して始めてみてもよいでしょう。

  • 参加者を希望者だけにし、3~4人など少人数で始める
  • 定期的に、時間を決めて行う
  • 4つの視点(意見・経験・感情・価値観)を共有するだけにする
  • リフレクションの4つのレベル(結果・他責・行動・内面)のうち、結果に集中する
  • 結果に至るまでの過程で起きたできごとをチームで話し合い、時系列で並べる。起きたできごととともに、自分がどのような気持ちだったかを共有する
  • リフレクションは成果が見えにくく、時間がかかることを理解する
  • 意見が対立して感情的になることがあっても、対話の練習になったとプラスに捉える

このような点を押さえて会話をするだけでも、相手が感情的になるポイントや大切にしている価値観を知ることができ、お互いの理解が進み、だんだんと本音を言いやすくなるはずです。

また、リフレクションの手法はいくつか種類があるので、複数の方法を試してみてもよいかもしれません。

3 チームでリフレクションするときのポイント

リフレクションにあまり慣れていない人たちが、チームとして行う場合のポイントを紹介します。

また、チームでリフレクションする場合でも、一人でリフレクションする時間をとってみるとよいでしょう。チームのリフレクションでは対話が中心となり、自分自身についてのリフレクションがおろそかになることがあります。

1)メンバーの意見を取り入れる

チームでリフレクションをする大きなメリットは、他人の意見を聞けることです。一人では見逃していたできごとや自分にはないものの見方はそれだけで刺激になります。

ただし、自分と意見が異なる人の話を聞くと自分が否定されたと感じ、感情的になることがあります。冷静に話し合えず、気まずくなることもあるかもしれません。しかし、それはリフレクションをしていれば起こり得ることです。“正解は1つである”という考えから抜け出て、違う意見があることを受け入れましょう。

その上で、冷静に相手の話を聞き対話をする努力をします。対話によって自分の意見が変わったら、柔軟に思考できるようになったとポジティブに考えましょう。普段わたしたちはたくさんの会議をしますが、それは集合知によって一人で考えるよりも優れた答えを導くためです。自分の意見に固執する必要はありません。

意見にまったく共感できないと思っても、最初から決めつけず相手の話の4つの視点に分けてしっかり聞き、共感するよう努力をします。最終的に受け入れないと決めたとしても、そうした意見を踏まえて結論を出したほうが、自分が最初に持っていた意見が洗練されるはずです。

2)自分と会社の関係を見直す

リフレクションのレベルが上がってきたら、メンバー個人の価値観と、会社の理念や価値観を結びつけて考えてみましょう。わたしたちのモチベーションの源泉は、大事にしている価値観や強い感情です。なぜこの会社で働くのか、何を実現したいのかをはっきり自覚することは、困難に直面したときでも自分の理想に向かって努力する助けになるでしょう。

ただしそのためには、メンバーだけではなく会社自体のビジョン・目的がはっきりしていなければなりません。もし会社が何を目指し、どのように実現したいのかが曖昧なのであれば、まずはそれについて議論してみてもよいでしょう。

【参考文献】
ディスカヴァー・トゥエンティワン「リフレクション = REFLECTION : 自分とチームの成長を加速させる内省の技術」(熊平美香、2021年3月)
翔泳社「アジャイルなチームをつくるふりかえりガイドブック: 始め方・ふりかえりの型・手法・マインドセット」(森一樹、2021年2月)

以上(2023年5月更新)

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【朝礼】そうだ、人は見た目だ

相手に好印象を持ってもらうためには、見た目がとても大切です。

皆さんが一緒に仕事をしたいと思う人はどのような人なのかを考えてください。やはり、だらしない服装であったり、清潔さが感じられなかったりする人よりは、身なりが清潔で、明るくハキハキしている人と一緒に仕事をしてみたいと思うでしょう。

また、話を聞くにしても、いいかげんな身なりの人の話は、なんとなく信用できない気持ちになります。これほどまでに、外見が人に与える印象は大きいのです。

「足下を見る」という言葉もありますが、初対面でもその人の服装を見れば、大体の経済力や職業など、いろいろなことを推測できます。

随分昔のことですが、中高生といった思春期のころには、外見を気にするようになります。その当時、自分では精一杯おしゃれをしたつもりなのですが、大人から見れば、だらしない髪形や服装ということがしばしばあります。当時、高校の生活指導の先生は、ある生徒に「先生は人を見た目で判断するのですか」と問われ、「そうだ。人は見た目だ」と断言しました。高校生の私は「そんなことはないだろう。言いすぎだ」と思いました。

しかし、今では、生活指導の先生が言っていたことが理解できます。世の中では、見た目で判断される(する)ことがあまりに多いためです。

人を判断する際には、第一印象が強く影響します。実際、皆さんも初対面の人と会ったときに抱いた印象は、後々まで残っているでしょう。

そして、その第一印象を決定付けるのが外見なのです。

初対面の際、名刺交換しただけでほとんど会話ができない場合、その人の印象は外見だけしか残りません。例えば、初対面がさわやかな人で好印象であれば、その印象に大きな変化はありません。そう考えると、出会った瞬間に相手に対して与える印象を良くすることは、ビジネスを良い方向に結びつけるためにとても大切であることが分かります。

では、相手に好印象を持ってもらうためにはどうしたらよいでしょうか。よく、内面が外見ににじみ出る、という表現がされますが、内面を磨き上げるのには時間がかかります。

一方、外見を変える、例えば、「制服に着替える」「スーツや礼服を身に着ける」と気持ちが引き締まる効果があります。この変化は、外見を整えることで内面にも変化をもたらしているという良い例です。

まずは、外見に気を配りましょう。具体的には「身なりを整える」「姿勢を正しくする」「礼儀正しく振る舞う」「人と会う前には鏡で服装をチェックする」などです。そうすることによって他人に与える印象だけでなく、自らの心構えも変わっていきます。

内面は外見についてきますから、いずれは、モノの考え方や日常的な態度に変化が表れてきます。外見に気を配ることで、人として成長もできるのです。

以上(2023年5月)

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全社員が持てる“経営的視点”(6)~【存在意義】の共有は採用から~/武田斉紀の『誰もが身に付けておきたい“経営的視点”』(10)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:経営幹部や管理職の方はもちろん、若手社員の方でも「経営的視点で見るように」と社長や上司から求められた経験がないでしょうか。その場でうなずきはするものの、「経営的視点とは何か?」「それは社長以外の社員に必要なのか?」「会社員として働く上で、人生において価値があるのか?」「そもそもどのように身に付けていけばいいのか?」といった疑問をお持ちではないでしょうか
  • 解決策:課題で挙げたさまざまな質問に対して、『“経営的視点”の身に付け方』というテーマで、全国で多くの講演を行っている筆者が明快に回答します。“経営的視点”はこれからの時代において新入社員から求められる視点であって、より早く身に付けられれば、その分、仕事においても人生においてもプラスであると分かるはずです

1 【存在意義】の共有浸透=“経営的視点”の共有浸透

シリーズ『武田斉紀の「誰もが身に付けておきたい“経営的視点”」』の第10回です。

“経営的視点”をより早く身に付けられれば、誰にとってもその分、仕事においても人生においてもプラスになります。では「どうすれば身に付けられるのか」について、今回もさらに掘り下げてお話ししていきましょう。

全社員が持てる“経営的視点”の観点として、ご提示している3点
1)会社の【成長】
2)会社の【組織力】
3)会社の【存在意義】

前々回の第8回からは、「3)会社の【存在意義】」についてお話ししています。

会社の【存在意義】を社内に共有浸透させていければ、全社員が“経営的視点”を持てるようになるのです。その結果は、次の2つのように表れます。
(1)社員一人ひとりが実行した存在意義に共感するお客様は利用し続けてくださり、社会にも認められて、会社は永続し、発展していく。
(2)逆に社員の一人でも存在意義を見失った行動を取ってしまうと、お客様や社会から必要とされなくなる。

前回第9回では、世界的に見て創業100年、200年を超える「老舗企業」が日本になぜ多いのかについて触れました。それは永続させることを目的としてきたというより、会社の【存在意義】を定めて社内で共有浸透させ、全社員が(1)を信じて実現してきた企業が多かった“結果”でした。

そうした日本企業の姿勢が間違っていなかったことは、昨今の世界的な「持続的成長」を意図したESGやSDGsの流れ、米国資本主義を体現してきた企業家たちの修正宣言からも見てとれます。

会社の【存在意義】についての3回目となる今回は、いかにして企業の【存在意義】を定めて社内で共有浸透していけばいいかについてご紹介していきます。

2 【存在意義】が似ていれば、「採用するべき人材」も同じか

前回も触れましたが、会社の【存在意義】は各社で異なります。

例えば「社会に貢献する」と定めている会社はあまたありますが、社会といっても対象はどこまでか、顧客は誰か。その対象に対して「何をどのようにすることで貢献する」のかは各社さまざまです。

業種が違えば取扱商品やサービスも違うでしょうし、仮に同じでも特に重視している、こだわっている部分は違っています。またなぜそこにこだわるようになったかの背景まで遡れば、実に1社、1社、抱えている思いが違うと分かります。

同じエンターテインメントの世界で、A社はジェットコースターのようなアトラクションも抱えたテーマパークを運営しています。【存在意義】としてのこだわりは、「お客様に安心してその場の全てを楽しんで笑顔で帰っていただく」こと。最も重んじているのは「安心安全」です。

特別な1日にしたいと全国から多くのお客様が訪れるのに、たとえ小さな怪我であっても施設側の問題で起きてしまったら、楽しい思い出にはならないだろうと考えているのです。「安心安全」が徹底されているがゆえに、訪れたお客様のほとんどはそれに気付きません。それでもA社は「安心安全」の上で、「お客様全員に笑顔になって帰っていただく」ことにこだわっています。

一方B社は自社運営の劇場やテレビなどのメディアを通して、【存在意義】として「お客様全員に笑顔になって帰っていただく」ことを目指し、「笑い」にこだわっています。

B社も自社の劇場で火事を起こしてはいけないので、専門のスタッフが常に安全確認をしています。しかしながら、舞台の演者や彼らを支えるマネジャーに求められるのは一にも二にも笑いであり、お客様を笑顔にすることに人生をかけて日々切磋琢磨しているのです。

A社とB社は同じエンターテインメント業界にあって、「お客様に笑顔になって帰っていただく」ことにこだわっている点も同じです。ならば、採用するべき人材も同じでしょうか。

3 【存在意義】の共有浸透、その全ての始まりは「採用」から

A社は掲げる【存在意義】を実現するための行動規準として、優先順位の1番に「安全」を明記し、接客における「礼儀正しさ」などを示した後に「楽しませる」を置いています。「楽しませる」は【存在意義】の一部ですから重要なのは間違いないのですが、敢えてそうしているのです。

A社の採用面接にXさんがやってきました。Xさんはお客様を「楽しませる」にかけて天賦の才能があり、そのことで日本一、世界一を目指したいとの揺るぎない情熱も併せ持っているようです。

A社の採用担当者は質問します。「当社では『楽しませる』の前に、『安心安全』を最も重視するべき価値観に置いていますがどう思いますか?」

Xさんは答えます。「『安心安全』も大切だとは思いますが、私は多くの人を前に『楽しませる』のが大好きで、そこに集中したいです。この会社なら人を『楽しませる』ことで日本一、世界一を目指せると思って選びました」

そこで質問です。あなたがA社の採用担当者なら、Xさんを採用しますか。

仮に採用したとしましょう。A社がお客様を「楽しませる」現場の主役はテーマパーク内のアトラクションです。それを支える従業員のほとんどは高校生や大学生を中心としたアルバイトの人たち。Xさんには正社員として入社後早いうちに彼らを数十人単位で束ねながら、自らも接客を行うことが期待されています。

入社直後の研修でも、A社が掲げる【存在意義】を実現するための優先すべき行動の1番目は「安全」であるとしつこく教えられます。Xさんとしては自分が発想した、もっとお客様を「楽しませる」ための仕掛けや提案を聞いてもらえるのではと期待していたのですが。

「『安全』が大事なのはわかるけれど、『安全』でない、危険なんてそうそう起こらないでしょう。自分はそれよりお客様をもっと『楽しませる』ためにここにいるのだ」と心の中でつぶやいていました。

現場に出て間もなく、恐れていたことが起きました。ライド(乗り物)に乗ってコース内を回るアトラクションの乗り場を任された日。Xさんは乗車するお客様にオリジナルの冗談を言って笑わせながら誘導していました。若いお客様などは大喜びで、一緒の写真を求められてXさんもご機嫌です。

そこに少し足の不自由なお客様が来られたのですが、乗車に時間がかかって転んでしまったのです。離れて見ていたXさんは陽気に声をかけ、強く手を引っ張って次の車両に乗せようとしましたが、お客様はよろけてしまい、動いているライドに接触しそうになりました。

一連の行動を近くで見ていたベテランアルバイトのYさんが駆け寄ってきました。最初に取った行動はライドを一旦停止させることでした。次に転んだお客様を近くの椅子に連れて行って座らせ、並んでいるお客様に「安全のために、運転を一時停止しました。確認中ですのでしばらくお待ちください」と説明して頭を下げると、他のスタッフにライドの安全確認を指示し、自らは先ほどのお客様のもとに戻って怪我の状態を確認したのです。

Xさんは上司に呼ばれました。最初にA社の行動規準の1番目が何で、なぜそうなのかを説明するように求められ、研修で聞いた通りを答えました。「だとすれば、Xさんはどう判断してどう行動するべきだったと思いますか?」

「お客様が転んだのは確かですが、本人は大丈夫ですって言っていましたよ。何より行列がすごく長くなってきていましたから、ライドを停めてこれ以上後ろのお客様を待たせるなんてよくないですよね」

上司は改めて、A社が掲げる【存在意義】と、その実現のために優先すべき行動について分かりやすく例をあげて説明しました。

パーク内の他の従業員も、その日のXさんの行動を知りました。正社員として現場をリードしていく存在として、Yさん以外のアルバイトからも不安の声が上がりました。Xさんと働き始めた新人は、接客のたびに「もっと面白いことを言ってお客様を楽しませて」と要望されて辛いとこぼしています。

4 採用で【存在意義】を共有できるかは、「実績」よりも大事?

採用するべき人材の優先順位

さて、図のように、人材の採用において重視するべきポイントを「【存在意義】の共有度」と「実績」でクロスした場合、あなたは採用するべき人材の優先順位はA~Dのどの順だと考えますか。

AやBの「実績が高い」人材に対しては、厚待遇を用意できる大手企業や人気企業、他の競合も含めて熾烈な争いとなるでしょう。

特にAの人材は一番採用したいものの、かなりハードルが高そうです。

反対に最も採用したくない人材がDであることにも異論はないでしょう。となると残るはBとCです。

あなたが採用担当者なら、「【存在意義】の共有度」と「実績」のどちらが高いことを優先して採用しますか?

私は講演や研修で受講者の皆さんに同じ質問をするのですが、多くの方は悩みながらもCの人材を優先するとおっしゃいます。でも毎回数人はBを優先すると手をあげます。

「実績」はこれまでの会社や業界では通用しても自社では発揮できないかもしれません。採用されたいがために本人が多少盛っている場合もあります。また今の時代、イノベーションが常に求められる業界では、過去の「実績」がかえって足かせとなる場合もあるでしょう。

とはいえ「実績」が事実であるなら、採用する側としては安心感がありますし、採用決定に当たっては上司も説得しやすそうです。とりわけすぐにでも結果を出して業績を回復させたいといった短期的ニーズがあれば、CよりBを優先したい気持ちは分かります。

けれど長期的な視点で見ればどうでしょう。先ほど登場したXさんは、お客様を「楽しませる」にかけて天賦の才能と「実績」、さらには熱い情熱も持っていたのでしょうが、A社の【存在意義】実現のための価値観への共有度は高いとは言えません。本人だけでなく、他の従業員のモチベーションさえも下げかねない状態でした。

長期的な視点で人材を採用するのであれば、BよりCの人材を優先するべきだと私は思います。

「実績」はもちろん「スキル」も備わっていなければ、Cの人材が結果に結びつくまでには時間がかかるかもしれません。それでもCの人材には【存在意義】を共有している強さがあります。【存在意義】を実現していくことに日々努力を惜しまないでしょう。早晩、「実績」や「スキル」を超える結果を導き出してくれる可能性が高いのです。

すでに皆さんもお気付きでしょう。お客様を「楽しませる」のが得意なXさんは、B社を選んだほうが、会社にとっても本人にとっても幸せになれるはずです。

A社の採用担当者は、あえてXさんを採用しないことが全社で【存在意義】を共有浸透させていくことに繋がります。【存在意義】を共有できる人材を採用することは、入社時点ですでにA社における“経営的視点”を持っていると言えるのですから。

第10回も最後までお読みいただきありがとうございました。シリーズも残すところあと2回です。さらに“経営的視点”について実践的に掘り下げてまいります。

<ご質問を承ります>
最後まで読んでいただきありがとうございます。ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

以上(2023年4月)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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画像:NicoElNino-shutterstock

PR活動を始めませんか? コストも手間も人員も最小限で大きな宣伝効果を得る方法

書いてあること

  • 主な読者:「PR活動は大企業のやるもの。中小企業には関係ない」と考え、PR活動をしたことのない中小企業
  • 課題:PR=大掛かりで素人には難しいという先入観がありハードルが高いと誤解している
  • 解決策:コスト、手間、人員を最小限に抑えて始められる。適切な記者と掲載媒体に、適切な情報を適切な方法で伝えれば、大きな宣伝効果が得られ、営業もしやすくなる

1 PR活動は営業が「売りやすく」なる後押しをしてくれる!

皆さんの会社では、PR活動をしていますか? PR活動をしたことのない中小企業の方々は、「PR活動は大企業のやること」などと考えていないでしょうか。中小企業がPR活動に抱きがちな、下記の先入観。実は、これらは全て誤解です。

  • PR活動は大企業のやること。中小企業には関係ない
     →中小企業もPRに成功すれば大きな効果を得て、営業がしやすくなる
  • 良い商品・サービスを作っているから、PRなんて必要ない
     →良い商品・サービスでも、情報発信をしないと伝わらない。だからこそ、PRすべき
  • 自分で「すごい」と吹聴するなんて恥ずかしい
     →「すごい」と評価するのは記者や顧客であって、会社は情報を伝えるだけ
  • 芸能人を呼んで、大きな会場で発表会? うちにはムリ
     →PRは規模の大きさではなく、情報の届け方を工夫することによって成果につながる

中小企業に適したPR活動のやり方がありますし、良い商品・サービスだからこそ、効果的なPR活動によって話題になれば、より高い効果が見込めるのです。

「せっかくの良い商品・サービスを提供する会社が消えていき、情報発信の巧みな会社が生き残るのを見てきました」と語るのは、企業のPR・マーケティング支援をするビーコミの代表取締役の加藤恭子さん。『話題にしてもらう技術』(技術評論社)の著書もある加藤さんは、中小企業の経営者の皆さんに、

「まずは小さく始めてみませんか?」

と提言します。小さく始めても、

話題になれば、「あの商品ですね」で話が通じ、営業もしやすくなる

と言います。

この記事では、中小企業が成果を得られるPR活動について、記者と企業広報の双方の経験を持つ加藤さんにお話しいただきます。皆さんの会社がPR活動を始めるきっかけになれば幸いです。

2 小さく始めるPR活動とは?

1)まずは他社の情報発信を参考にする

PRというと、大企業が行い、テレビなどでも放送される、ゲストに芸能人が登場するようなイベントをイメージするかもしれません。しかし、商品・サービスの取材を目的に訪れた記者たちの本音はというと、「芸能人に食いつくのは芸能記者だけ」「商品やサービスの情報が欲しいのに」という声が聞かれます。商品・サービスについて書きたい記者にとって、欲しい情報でなければ、いくら旬の芸能人を呼んだところで記事などに取り上げられにくいでしょう。それならばエンジニアが、商品の裏側やスペックについて、詳しく技術説明をするほうが望ましいのです。大切なのは、

「発信する内容が、自社の商品・サービスを届けたいユーザーにマッチしているのか?」という視点

です。

自社の商品・サービスでハッピーになるのはどんな人たちなのか。そして、まずは、

顧客(や販売代理店)となり得る人たちが、どこで情報を得ているのかを見ること

から始めましょう。業界紙かもしれませんし、特定のウェブ媒体かもしれません。

また、うまく情報発信をしている他社が、いつ、どこで、どのように情報発信しているのかを見るのも第一歩です。Twitterのアカウントを作って、つぶやかずに、まずは他社のアカウントの発信を見るだけでもよいでしょう。

2)きらびやかな記者発表会ではなく、地道な勉強会・説明会を積み重ねる

1.新商品がなくても開催できるメディア向け勉強会

発表会という形式にこだわる必要はありません。また発表できる新商品が頻繁にあるとも限らないでしょう。そこで、新商品を主役として押し出すのではなく、業界動向や周辺知識など、記事を書くのに役立つ情報を学べる勉強会や説明会という形式を取るのです。ポイントは、

前提となる知識がなくても参加できることを記者に伝え、参加のハードルを下げること

です。例えば、IT関連のサービスを提供する会社であれば、セキュリティーの勉強会としてランサムウェアをテーマに、近年の被害状況や対策などを学んでもらいます。少人数の技術説明会という形式を取ることもあります。こうした勉強会に参加する記者は、情報感度が高く熱心な人が多いものです。その分、良い記事につながりやすいでしょう。

参加した記者たちからは、「発表会だと、主催した会社からも、また社内からも、記事執筆を期待されてしまうプレッシャーがある。勉強会ならば、聞いてみて、内容が良ければ記事にしようという気軽さで参加できるからよかった」という声もあるそうです。

発表会・説明会・勉強会の比較

2.副業ライター・フリーライターの力を借りる

開催時間や曜日も工夫しましょう。昨今は副業やフリーランスのライターも増えているので、平日の夜間や週末に行うことで参加しやすくなります。メディア単位でPR対象者を考えることも大切ですが、

「人」単位を対象に考えると、意外にPR先が広がる

ものです。なぜなら、副業やフリーランスのライターは、複数のメディアに寄稿していることが多く、1人へのアプローチが多くのメディア掲載につながり得るからです。

このような勉強会を地道に積み重ねることで、「もっと掘り下げたい」と大きなインタビュー記事につながった事例もあれば、1回の勉強会ですぐに記事になった事例もあります。後者は、業界では当たり前のこととして言及してこなかった商品の機能について説明したところ、記者は「目新しい情報」と判断して記事になりました。このように、業界の常識として「言うまでもないことだ」と思い込んでいる事柄でも、受け手が変われば、全く新しい情報となり得るのです。例えば、このメディア向け勉強会・説明会も、PR活動をしている人には当たり前で、今更説明する必要はないのかもしれません。しかし、初めて聞く人にとっては、新鮮でニュース性のある情報ではないでしょうか。

3)「出したい」情報と「欲しい」情報の距離を縮める

会社の「出したい」情報と、ユーザーの「欲しい」情報が乖離(かいり)していることが、かなりの頻度で見られます。記者は読者の欲しい情報を提供したいのですから、もちろんユーザーの目線で情報の価値を判断します。会社と記者(ユーザー)の「情報に対する価値」のギャップを縮めることが必要です。

会社の「出したい」情報・ユーザーが「欲しい」情報

また、昨今は過剰なターゲティング広告やステルスマーケティングに対して厳しい目が向けられています。それは「欲しい」情報が適切に届いていないからともいえるのではないでしょうか。届け方を間違うと「しつこい」情報として嫌われてしまいますが、欲しい情報が、欲しいときに、欲しい形で提示されれば、途端に「うれしい」情報に変わるものです。

そもそもPRとはpublic relationsの略で、メディアなどを介して情報を適切な相手に届けることで、公衆との関係を構築することを指します。PR活動を始めると、自社の商品・サービスをより欲しているユーザーへ情報が届きやすくなります。

4)タイミングよく情報を届けるコツ

情報を届けるタイミングは、

  • ユーザーが欲しいとき
  • 会社が出したいとき

の両方を考慮する必要があります。両者が合致するタイミングがあれば、なおよいでしょう。また、1回出して終わりではなく、継続的な情報発信をこまめに続けていくことが大切です。ニュース記事には、よほど季節外れといったもの以外は、特に時期を問わないことが多いです。なお、お盆やお正月の少し前など、他社の情報提供が減る時期にあえて情報提供を行うと、ライバルが少なく取り上げてもらいやすくなります。

また、タイムリーにメディアへ情報を届けるコツとして、

例年繰り返されている特集に着目する

方法があります。雑誌や業界紙では、例年同じ時期に似たテーマの特集が組まれる傾向があります。バックナンバーを見て、例えば「3カ月後に半導体特集が組まれそうだな」というものがあれば、それに合致した情報をメディアへ提供してみるとよいでしょう。

3 会社や経営者のメッセージ・ストーリーを伝えてみよう

ユーザーや記者が知りたい情報はさまざまで、会社側が思うよりも幅広いものです。例えば、次のような情報は、会社が思っている以上に、ユーザーや記者にとって価値があるものです。

  • 商品・サービスの誕生秘話
  • 工場の従業員がどんな思いで作っているか
  • 商品の仕組み
  • ユーザーの声
  • 経営者の方針や理念

会社や経営者のメッセージやストーリーを伝えていきましょう。「うちの会社にストーリーなんてないよ」と思う経営者がいるかもしれませんが、

どんな会社や経営者、商品・サービスにもストーリーはあります。

また、

商品・サービスには必ずある、誰かの困り事を解決したり、豊かさにつながったりしている部分を伝えていく

のも、PRの大きな役割です。

ストーリーを「棚卸し」するには、社内でも社外でも構いませんので、客観的に聞き手になってくれる人との対話を通していくと、思わぬ気付きを得られたり、言語化されていったりするでしょう。メッセージやストーリーに引かれて、商品・サービス、ひいては会社を好きになってもらえれば、ユーザーは「少し値が張るとしても買おう」という気になるものです。

4 ユーザーとの架け橋に 中小企業に無理のない体制

1)PRの業務は兼務からでもOK。ただし「評価される仕組み」は必要

商品・サービスについて、問い合わせ窓口として、総務担当者を配置している会社は少なくありません。しかし、その場合、2つの問題があります。

  • 「問い合わせがあったときの対応」という受け身になっていること
  • 業務外の役割を兼務する形になっていること

2つ目については、隙間時間に片手間にやる雑務としてではなく、きちんとその人の業務として与え、評価にもつながる仕組みにすべきです。またその分、他の業務量を減らす工夫も必要です。そうでなければ、「本来の業務ではないのに」と不満が募りかねません。

最初は兼務でよいですが、PRの効果が出てきて、取材依頼など業務量が増えたところで、専任者を考えましょう。ただ、昨今のスタートアップやベンチャー企業では、早い段階で専任のPR担当者を置く流れになってきています。それだけPRの重要性を感じているのだといえます。

2)秘書がPR担当を兼務すると失敗するワケ

秘書がPR担当を兼務して失敗するケースも見受けられます。その原因は、

秘書兼PRが、会社・経営者のほうばかりを向いてしまい、客観的な視点を持てないから

です。会社・経営者のことを大好きな秘書がPR担当になること自体は問題ありません。ただし、経営者に対して、「今、会社・経営者は、世間からこう見えていますよ」と客観的に言える人でなくてはなりません。そうでないと、例えば時代にそぐわない発言をしてしまうといった経営者の行動を事前に止めることができなかったり、お詫び文書をタイムリーに出すことができなかったりと、リスクにつながりかねないからです。

加藤恭子(かとう きょうこ)
株式会社ビーコミ 代表取締役加藤恭子
IT系月刊誌、ウェブメディアでの記者・編集者を経て、外資系テクノロジー企業の日本法人立ち上げに参画。マーケティングマネージャーを経て、現職。記者として取材する側、企業の広報として取材される側、両方の経験を活かし、スタートアップから多国籍企業まで企業のPR/マーケティングを支援。テクノロジー企業の広報の実務支援やアドバイス、コミュニケーション活動のサポートを多く手掛ける。著書に『話題にしてもらう技術』(技術評論社)がある。
ホームページ:https://www.b-comi.jp/

以上(2023年2月)

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画像:Tierney-Adobe Stock