【朝礼】教学相長(きょうがくあいちょう)ず

皆さんが担当している仕事は順調に進んでいますか。中には、仕事が順調に進んでいない人もいるでしょう。そうした人は、単に効率的な方法を知らないだけかもしれません。上司や先輩、あるいは同僚から「こうした方がいいよ」とヒントをもらい、これを実践することで、飛躍的に良い仕事ができるようになることがあるものです。

今日は皆さんに、「教学相長(きょうがくあいちょう)ず」という言葉についてお話しします。これは中国の四書五経の一つである「礼記(らいき)」にある言葉で、「お互いに教えあい、学びあって共に成長してゆく」という意味です。

教学相長ずの一節は「学びて然(しか)る後に足らざるを知り、教えて然(しか)る後に困(くる)しむを知る。足らざるを知りて、然(しか)る後によく自ら反(かえ)りみるなり。困(くる)しむを知りて、然(しか)る後によく自ら強むる也。故にいわく、教学相長ずるなり」とあります。

この言葉をもう少し分かりやすく解説すると、「学ぶことにより自分の知識の少なさに気づき、人に教えることにより物事の難しさに気づかされる。自分の知識の少なさを知ることにより、自分自身を省みることができる。人に教えることの難しさを知ることにより、自ら勉強することができる。であるから、教えることと学ぶことは互いに作用しあう」ということです。

人に教えるためには、まず自分が学ばなければなりません。自分の知っていることを分かりやすく人に教えるためには、教えること以上に多くのことを知っておかなければなりません。

また、人から物事を教えてもらうことによって、さらに学ばなければならないという意識を持つでしょう。人から教えてもらったことを学ぶ過程において、新たなことを発見するかもしれません。そして、その新たな発見は、もしかしたら教えてくれた人が知らないことかもしれません。学んだ側が今度は教える側となり、新たに発見したことを教えるのです。お互いに教えあうことによって、相手も自分も学習を重ね、結果として双方が新たな知識や思考を身につけることができるのです。

「教(きょう)」つまり教えることと、「学(がく)」つまり学ぶことには相乗効果があります。お互いに教えあい、学びあうことによってさらなる成長を図りたいものです。

この考えは、ビジネスだけでなく、人生においても役立ちます。上司、同僚、部下、友人・知人、親兄弟に聞きたいことがあれば、臆することなく聞いてみましょう。思いがけず良いことを学ぶことができるかもしれません。また、同様に、皆さんが周りの人に良いことを教えることができるでしょう。このように「教学相長ず」は、人間関係をより深めることにもつながるのです。

以上(2023年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

伝え方をバージョンアップしよう

書いてあること

  • 主な読者:オンラインでのコミュニケーションに苦戦しているビジネスパーソン
  • 課題:対面より意思疎通がしにくいし、時間も手間もかかる。相手に伝わっているか不安
  • 解決策:「準備」「丁寧」「配慮」という当たり前を徹底し、改めてオフラインも大切にする。「準備」のアジェンダ作りにはChatGPTのようなツールを使うのも一策

1 オンラインの工夫がオフラインにもつながる

ビジネスでは、日常的にオンライン・オフライン(対面)の両方を使うのが当たり前になっています。また、リモートワークを出社に戻した職場もあるでしょう。そうなると、オンライン・オフラインの切り替えがうまくできない人、オフラインが通常で「時々使うオンラインのコミュニケーションが何かぎこちない」人がいるかもしれません。

オンラインでもオフラインでも、物事を伝えるときには相手のことをよく考えるのが鉄則ですが、加えてオンラインでは、「相手との接点がパソコンやスマホ上に限られている」ことを考慮した工夫が必要です。

そこでこの記事では、改めて実践したいオンライン時の工夫として「準備」「丁寧」「配慮」の3つをご提案します。オンラインミーティング(ウェブ会議ツールを使ったミーティングや商談)編と、テキストコミュニケーション(チャットツールを使ったテキストベースのやり取り)編に分け、それぞれの工夫をご紹介しますので、今日から実践してみてください。

オンラインで気持ち良くコミュニケーションが取れると、オフラインでも会いたくなります。なんとなく、オフラインは「本当に会いたい人と会う」「大切な話で会う」イメージがあります。大切なオフラインにつなげていくためにも、オンラインでの工夫を心掛けてみましょう。

2 オンラインミーティング編

1)内容の強弱まで伝えておく「準備」

オンラインミーティングでは、事前の資料展開がより重要です。相手に一方的に話を聞かせるだけだったり、参加者がその場で初めて考え始めて沈黙が多くなったりするようでは時間の無駄です。アジェンダ(議題)は、遅くとも、開催1日前には展開しましょう。

さらにオンラインミーティングの密度を高めるには、「特に話し合いたいのはこの点です。賛成・反対と、その理由を考えておいてください」「今回、必ず決めたいのはこの2点です」「問題となるのはこの点です」など、内容の強弱もあらかじめ伝えておくのが理想的です。

また、最も重要な点やデリケートなことについては、事前に音声を録音・送信できるボイスメールなどでポイントを頭出ししておくのもよいでしょう。音声だとテキストよりニュアンスが伝わりやすくなります。このように、「準備」には、ある程度手間を掛けることが必要です。

なお、アジェンダについて一つ参考になるものを、この記事の最後に参考情報として掲載します。ChatGPTに、オンラインMTGのテーマと目的をざっくり指定して、どういうアジェンダが理想的か聞いてみた結果です。アジェンダ準備のご参考になれば幸いです。

2)理論的かつ認識合わせを挟む「丁寧」

オンライン上では、理論的に話すことを心掛けなければなりません。「結論(言いたいこと)と理由」を意識して「丁寧」に、筋道を立てて話すと、相手に伝わりやすくなります。例えば、「今回のご提案は◯◯です。まず、ご提案する理由からご説明します」「メリットと考えられるのは△△です。なぜなら?」という具合です。

また、誤解や勘違いは対面していても起こりがちですが、相手の表情が分かりにくいオンラインミーティングでは、もっと多くなります。そこで、「ここまでをまとめると私の認識はこうですが、何か違う点はありますか?」「ご認識の内容を念のためご説明いただけますか?」と、途中で認識合わせを挟むなどして「丁寧」に進めましょう。

手書きでも箇条書きでもいいので、その場で図やキーワードを書いて画面共有し、視覚的に情報共有するのも「伝える」ための一策です。後は「誤解は生じるのが普通」と捉え、大事なことほど、オンラインミーティング後に個別にフォローするという「丁寧さ」も必要です。

3)資料の作り方、名前の表示、顔の出し方まで「配慮」

まず、資料の作り方から、オンラインならではの「配慮」が求められます。オンライン上では、「資料の“ここ”」と言っても相手には分かりません。「画面共有している資料の右上にあるオレンジ色の番号」などと具体的に伝える必要があります。ページ数やポイントとなる図・キーワードは、口頭で伝えやすい色や大きさにしましょう。

また、複数社・複数人が参加していると、名前が覚えられない、話す人がかぶるなどの事態が発生します。そこで、画面上で表示される自分の名前を「平仮名の名前/会社名」に変える、名刺を背景にするなどの工夫が必要です。発言も、「□□(会社名)の◇◇(自分の名前)が発言します」といったように、誰が話すかを、明確にしてから始めるのがよいでしょう。

オンラインミーティングの際、顔出し(カメラをオンにすること)は必須ではありませんが、初対面のときやお礼・おわびをするとき、年末年始・年度初めなどの節目のときには、顔出しして表情を伝えるのがよいでしょう。相手の状況にもよりますが、自分が顔出ししない場合は、「接続を安定させるためカメラをオフにします」と最初に一言お断りを入れる、途中で相づちや質問をして「話を聞いていますよ」という姿勢を伝えることなども大切です。音と画面だけで物事を伝えるオンラインミーティングでは、こうした細かい「配慮」が欠かせません。

3 テキストコミュニケーション編

1)自ら積極的に情報収集するのが「準備」

リモートワークの導入度合いにもよりますが、テキストコミュニケーションについては、社内メンバーやプロジェクトメンバーとやり取りするケースが多いでしょう。まず「準備」すべきことを考えてみます。

テキストコミュニケーションにおける「準備」として必要なのは、メンバーと「丁寧」にやり取りし、「配慮」して物事を伝えるために、日ごろ、自ら積極的に周りと関わり、情報収集しておくことです。例えば、よく使う資料はどこにあり、誰が関係しているか。今、誰がどの案件を担当しているか。困っていそうな人は誰か。全体としてどのような動きがあるか(新規営業に力を入れているか、採用活動はどうなっているかなど)などが挙げられます。

2)強度も伝えるのが「丁寧」

テキストで物事を伝えるときのポイントは、「相手の手数を少なくする」ことです。「それは何のためですか?」「いつまでですか?」など相手に何度も質問を打ち返させないよう、物事は「丁寧」に伝えましょう。ここでは分かりやすいように、悪い例と良い例を出してみます。

【悪い例】

次回のMTG(ミーティング)で話し合いたいので、提案書の作成をお願いします。内容については、前回MTGの資料を参考にしてください。よろしくお願いします。

【良い例】

提案書の作成をお願いします。概要は下記の通りです。

  • 目的:6/16(金)10:00のMTG時にメンバーで提案内容を話し合うため。
  • 内容:前回(6/1(木)10:00)のMTGで使った資料を参考にしてください。

→該当資料の在りか:https://××××

  • 期限:6/14(水)17:00
  • 格納:出来上がったら下記フォルダに入れてください。私が内容を確認します。

→フォルダの場所:◯△□

  • 備考:他に◇◇の案件で忙しいと思いますので、時間をかけず所要2時間のイメージ。それ以上時間がかかりそうだったら相談してください。他のメンバーに振ります。

上記は極端なので、悪い例と良い例の違いが分かりやすいでしょう。良い例では、「強度=力の入れ具合、時間のかけ具合」を明確に伝えていることがポイントです。お互いに見えない状態で進めるテキストコミュニケーションでは、強度まで明確に伝える「丁寧さ」が必要です。

3)読んだ相手が本当にすぐ行動できるかイメージする「配慮」

テキストコミュニケーションにおける「配慮」とは、相手が次の行動を起こしやすいようにすることです。物事を「丁寧」に伝えつつ、より一歩踏み込んで、テキストを読んだ相手の行動を具体的に想像しましょう。これも、悪い例と良い例を出してみます。

【悪い例】

顧客XYZ社からメールが来ました。本件の進め方について、AとBが書いてあります。Aが良さそうな気がします。ここにそのメールを貼り付けます。 ※以下メール文面

【良い例】

顧客XYZ社からメールが来ました。本件の進め方について、AとBが書いてあります。AとBのどちらが現実的に可能か、コストも考慮して、ご意見教えてください。私は◯△という理由でAと思いますが、最終的に、◇□さん(テキストの宛先)のご意見を聞いた上で、明日、判断したいです。ここにそのメールを貼り付けます。 ※以下メール文面

悪い例では、単に情報共有なのか、感想を言っているだけなのか、それとも何かを求められているのか分かりません。一方、良い例を読めば、相手は「意見を言う(書く)」のを求められているということが明確に分かります。とても基本的なことですが、顔の見えない状態では、「相手はこのテキストを読んで、求められていることがすぐに分かるか」という「配慮」が欠かせないのです。

参考 ChatGPTでアジェンダを作ってみると

ChatGPTにテーマと目的をざっくり指定して、理想的なアジェンダを作ってみてもらいました。下記の通りです。そのままコピペしてアジェンダにできるわけではありませんが、むしろ、オンラインMTGの進め方の参考になりそうなところもあります。

また、かなり議題がもりだくさん、かつ俯瞰(ふかん)的なアジェンダになっているので、当日のオンラインMTGで全部を話し合うのは難しそうです。そこで、このChatGPTアジェンダから「事前の宿題」にできそうなものをピックアップし、事前に参加メンバーに考えておいてもらうといいかもしれません(「どの業務が不適切であるなど、業務における問題点」など)。オンラインMTGの準備としては、こうしたChatGPTなどのツールを使う方法も考えられるでしょう。

【設定(ChatGPTへの質問)】

業務効率化についてのオンラインMTGについて。初回MTGで役割を決めるときの理想的なアジェンダを作ってください

【ChatGPTの作ったアジェンダ例】

1. 紹介とアイスブレイク

参加者の自己紹介と、職務や役割についての簡単な説明

参加者同士が知り合い、雰囲気を和やかにする

2.MTGの目的

なぜ業務効率化についてオンラインMTGを行う必要があるのかを明確にする

3.討論する課題、問題点の明確化

どの業務が不適切であるかなど、業務における問題点を共有する

何が改善必要であるかを話し合って問題を明確化する

4.役割の割り当て

役割ごとに何を解決しなければならないか意見を共有する

各自が得意な部分や強みを考慮した上で、最終的な役割分担を決定する

5.アクションプランの策定

役割と責任を確認し、問題解決のためのアクションプランをディスカッションする

各アクションプランについて、担当者と期限を確認する

6.MTGのまとめ

今後の連絡方法を確認する

今回のMTGで得た知見や、今後の改善フィードバックについて話し合う

お礼の挨拶をする

以上(2023年6月)

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画像:Artistdesign29-shutterstock

【海外展開の手引(1)】 構想段階での目的の明確化が 成否を左右する

書いてあること

  • 主な読者:販路拡大や生産コスト削減などのために、海外展開を検討している経営者
  • 課題:海外展開までの手順や具体的な手段や、検討に際しての相談先を知りたい
  • 解決策:構想段階では、海外展開の目的を明確化することが最も重要。何のために、どんな商品・サービスを、どこに、どうやって展開するのかなどを決める

1 海外展開の検討は正しい手順と入念な計画が不可欠

人口減少などによって、日本国内の市場は長期的に縮小することが見込まれています。日本企業にとって、海外展開によって新興国などの市場や労働力を取り込むことは、企業の将来を左右する重要な戦略となります。

とはいえ、海外展開にはリスクがつきものです。正しい手順を踏んで十分な検討と入念な事前計画を立てなければ、「すぐに撤退、多大な損失」という結果になりかねません。

そこでこのシリーズでは、中小企業が海外展開を検討するための手順とポイント、検討する際の有益な参考情報を紹介します。

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2 海外展開のための構想は「目的の明確化」から

海外展開を構想する際は、まず比較的低コストで相談できる「日本貿易振興機構(以下「ジェトロ」)」「中小企業基盤整備機構」などの公的機関を活用してみましょう。

その際、「海外進出を検討したいが有望な進出先や商品はないか」といったような漠然とした相談を持ち込んでも有効なアドバイスを得ることは難しいのです。最低でも「何のために」「何を(商品・サービスなど)」「どこに(海外展開先国)」は決めておく必要があります。

1)何のために海外展開するのか

企業として、自社の海外展開をどのように位置付けるのかを決めます。例えば、海外市場の開拓を目的とするならば、

  • 海外市場への開拓は本当に必要か
  • 国内市場にもう可能性を見いだせないのか
  • 商品・サービスを見直すなど、市場を拡大する以外の戦略はないのか

など、別の視点から考えてみるのもよいでしょう。

また、生産コスト削減を目的として人件費が安価な国に海外展開するのであれば、現地の現在の賃金のみを考慮するのではなく、賃金の上昇率を調べ、事業が軌道に乗り始めたころには賃金が大幅に上昇している可能性がないかも含めて検討しましょう。

2)何を(商品・サービスなど)展開するのか

海外展開で、どんな取引をするのか決めます。例えば自社の商品・サービスを海外で販売する場合、国内では高い競争力を持つ商品・サービスであっても、海外市場では強力なライバルが存在したり、需要がなかったりすることがあります。反対に、国内では苦戦を強いられている商品・サービスが、海外市場では競争力を維持できたり、新たな需要を発掘できたりすることもあります。

また、海外から商品やサービスを調達する場合、価格面だけでなく、品質面やアフターサービス、安定的に仕入れることが可能かなどの面も含めて、国内調達との比較検討をする必要があります。

3)どこに(海外展開先国)展開するのか

世界のどこで事業展開したいのかを決めます。そのためには、何よりも情報収集が必要です。まずは国内にいながら収集可能な情報を分析することから始めましょう。収集する現地の情報は多岐にわたります。詳細は後述します。

4)いくら稼いで(収支)いつ黒字転換させるのか

大まかでよいので、収支に関する構想も練っておきましょう。海外展開によって、どれほどの売り上げをつくりたいのか、どれだけコストを削減したいのか、という収支見通しを立案します。海外展開では想定外のことが起こる可能性も少なくありませんので、収支見通しは厳しめに見ておくとよいでしょう。

初期投資額なども勘案して、いつまでに黒字転換させるのかを決めておくことも大切です。

5)撤退要件もあらかじめ決めておくべき

「始める前から失敗することは想定したくない」という気持ちも分かりますが、あらゆるリスクを考慮しておくことは、経営者としての責務です。

海外展開が構想通りにいかないことも想定して、「当初3年間の売り上げが計画の7割未満なら撤退する」「5年以内に黒字転換しなかったら撤退する」など、あらかじめ撤退要件を決めておくべきでしょう。損失をいたずらに拡大させることや社内のリソースの無駄遣いを防ぐだけでなく、海外展開に携わる社員などに対して必達条件を共有しておくといった意味もあります。

3 海外展開のさまざまな手段を検討する

1)主な海外展開手段

一口に「海外展開」といっても、その手段はさまざまです。企業の主な海外展開手段の概要は次の通りです。

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最も一般的な海外展開手段は「貿易」であり、「国産製品の輸出」「原材料・部品の輸入」などが挙げられます。最近では越境ECを通じた取引が多く活用されています。

「直接投資」は、投資先国に新たに法人を設立する、投資先国の既存の企業と株式取得・交換を通じて提携などパートナーシップを結ぶ、投資先国の既存の企業を買収するなどがあります。

「技術・業務提携」は、企業同士が資本の移動を伴わずに技術または業務において提携し、共同で事業を行います。技術の場合はライセンシング(産業財産権や著作権の有償使用許諾)、飲食業などの場合はフランチャイズ展開などがあります。

2)越境ECという選択肢

コロナ禍で注目が高まったのが、越境ECです。海外支店の開設などに比べ、越境ECは初期費用が少額で済むため中小企業でも始めやすく、仮に失敗したとしても撤退が比較的容易です。

1.ジェトロ主催の「JAPAN MALL事業」と「JAPAN STREET」

ジェトロが主催する「JAPAN MALL事業」および「JAPAN STREET」は、海外主要ECサイトとの取引を実現させるためのプラットフォームで、無料で商品を登録できます。

JAPAN MALL事業は、海外ECサイトのバイヤーに商品を紹介する事業です。原則として商品はECサイトのバイヤーが日本国内で円建て決済をして買い取るため、返品リスクがなく、複雑な輸出手続きが不要です。対象となる商品は食品・飲料、化粧品、日用品、生活雑貨などです。

2023年度からは有料サービスとして、商品ごとのプロモーションと、プロモーションデータのフィードバックを行う「プレミアムプラン」も提供しています。

JAPAN STREETは、ジェトロが招待した、限られた海外の有力バイヤーだけが閲覧できるオンラインカタログサイトです。取引は海外ECサイトが指定する方法や商社を通じて行うことになります。対象となる商品は食品や化粧品からファッション、玩具などの消費者向けから、精密機器、産業機械・部品、原料・素材、映像・音楽・ゲームなどのコンテンツなど、多岐にわたっています。

■ジェトロ「海外におけるEC販売プロジェクト」■

https://www.jetro.go.jp/services/japan_mall/

2.中小企業基盤整備機構「EC活用支援アドバイス」

中小企業基盤整備機構では、ECを通じて海外などの販路が拡大できるよう、アドバイスをしています。無料で何度でも相談でき、東京本部での対面での面談の他、オンラインでの面談も実施しています。

■中小企業基盤整備機構 ebiz「EC活用支援アドバイス」■

https://ec.smrj.go.jp/advice/

4 構想段階から相談ができる専門機関

最後に、海外展開を検討する際に、構想段階から相談や情報収集ができる代表的な専門機関を紹介します。

1)ジェトロ

ジェトロは国内外の拠点において、対日直接投資の促進、日本企業の海外展開支援、農林水産物・食品の輸出支援などを行っています。海外展開を検討している企業に対しては、貿易投資相談や海外ミニ調査サービス(有料)、国内外における展示会・商談会の開催および出展支援などのサービスを提供しています。

ウェブサイト「初めての海外進出」では、海外展開の目的別のチェックポイントを設定しています。検討時の参考にするとよいでしょう。

■ジェトロ「初めての海外進出」■

https://www.jetro.go.jp/theme/fdi/basic/

2)新輸出大国コンソーシアム

政府系機関、地域の金融機関や商工会議所など1123の支援機関(2023年4月7日時点)が幅広く参加し、海外展開を図る中堅・中小企業などに対して、海外展開の計画立案から実行・実現までを、専門家が支援します。

対象となる企業へワンストップの支援サービスを提供するため、全国に配置された「新輸出大国コンシェルジュ」が最適なサービスを紹介します。具体的な支援はジェトロが事務局機能を担っており、海外展開フェーズに応じて専門家がアドバイスを行います。また、個別課題に対するスポット支援として、海外展開戦略策定支援や、貿易実務・商談支援、基準・認証の取得に関する支援、法務や税務・会計、物流など、個別課題に対応する専門家による支援も行っています。

■ジェトロ「新輸出大国コンソーシアム」■

https://www.jetro.go.jp/consortium/

3)中小企業基盤整備機構

中小企業基盤整備機構では、海外展開を目指す中小企業を、初期の計画段階から進出後のフォローアップまで、幅広い支援メニューでサポートしています。これから海外展開を考え始める企業も含めて、海外展開に関する相談を受け付けており、専門家による「海外展開ハンズオン支援」を行っています。

また、国内の「展示会での出張アドバイス」「海外展開セミナー」なども開催しています。

■中小企業基盤整備機構「海外展開」■

https://www.smrj.go.jp/sme/overseas/

4)地方自治体や各地の中小企業支援機関

地方自治体や各地の中小企業支援センター、中小企業振興公社、商工会議所などでは、中小企業の海外展開を支援するために、「国際化支援室」「国際経済推進室」などの名称で専門部署を設置しています。

東京商工会議所では、初めて海外ビジネスに取り組む企業への相談を受け付けています。専門的なサポートが必要な場合は、登録している専門家が対応します。

■東京商工会議所「海外ビジネス相談」■

https://www.tokyo-cci.or.jp/soudan/globalsupport/

5)貿易アドバイザー協会(AIBA)

貿易アドバイザー協会(AIBA)は、貿易に関するコンサルティングなどを行う貿易アドバイザーによって運営されている団体です。

AIBAでは中小企業の海外展開支援や輸出・輸入事業などのコンサルティング、国内外法規制調査、市場調査などのサービスを提供しています。この他、無料相談として、AIBA会員(認定貿易アドバイザー)がコンシェルジュとして、海外ビジネスにおける課題をヒアリングし、解決に向けてアシストするサービスも行っています。相談内容の例の中には、海外進出に向けた事業の可能性の調査や、越境ECを始める際の指導に関するものもあります。

■貿易アドバイザー協会(AIBA)「無料相談トレード・コンシェルジュ」■

https://trade-advisers.com/service/trade-concierge

以上(2023年6月)

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画像:pixabay

中小企業が知っておきたい割増賃金の引き上げ 月60時間超の時間外労働に関する企業実務

1 改正の概要

労働者が健康を保持しながら、労働以外の生活のための時間を確保して働くことができるよう、1か月60時間を超える法定外時間外労働について、法定割増賃金率が50%に引き上げられました。

中小企業においては、猶予期間が設けられていましたが、令和5年4月1日からは、月60時間を超える時間外労働については、割増賃金率が大企業同様50%に引き上げられたところです。

時間外労働が深夜労働に及んだ場合は75%もの割増賃金を支払う義務が生じるため、長時間労働を余儀なくされている中小企業の場合は、何らかの対策を講じる必要があります。

2 改正後の具体的な内容

(1)月60時間の算出方法

1か月60時間を超える法定時間外労働を算出するには、法定休日労働は含めません。法定休日以外の総労働時間のみで算出します。例えば、法定休日を日曜日と定めた場合、日曜日以外の労働時間のみで算出します。

(2)代替休暇の運用と労使協定

1か月60時間を超える法定時間外労働について、労働者の健康を確保するため、引き上げ分の割増賃金の代わりに有給の代替休暇を与えることができます。

割増賃金の支払を要しないのは、法定割増賃金率の引き上げ分のみですので、これまでと同様、25%までの割増賃金は支払う必要があります。

代替休暇制度導入にあたっては、過半数組合(ない場合は労働者の過半数代表者)との間で労使協定を結ぶ必要がありますが、労働基準監督署に届出する必要はありません。

労使協定を結んでも、代替休暇を取得するかしないかは労働者の自由ですので強制はできません。

労使協定で定める事項は以下の通りです。

① 代替休暇の時間数の具体的な算出方法
② 代替休暇の単位(1日または半日)
③ 代替休暇を与えることができる期間(2か月以内)
④ 代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日

① 代替休暇の時間数の具体的な算出方法

代替休暇の時間数の具体的な算出方法は以下の通りです。

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sj09078
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中小企業が知っておきたい割増賃金の引き上げ 月60時間超の時間外労働に関する企業実務

労働者が健康を保持しながら、労働以外の生活のための時間を確保して働くことができるよう、1か月60時間を超える法定外時間外労働について、法定割増賃金率が50%に引き上げられました。
中小企業においては、猶予期間が設けられていましたが、令和5年4月1日からは、月60時間を超える時間外労働については、割増賃金率が大企業同様50%に引き上げられたところです。
時間外労働が深夜労働に及んだ場合は75%もの割増賃金を支払う義務が生じるため、長時間労働を余儀なくされている中小企業の場合は、何らかの対策を講じる必要があります。

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【オーナー企業の事業承継(9)】 MBO・ファンド・M&Aを活用した 事業承継対策

書いてあること

  • 主な読者:事業承継を検討している中小企業の経営者
  • 課題:親族内に後継者がいないケースが多い
  • 解決策:親族外の後継者に事業承継を行う手法として、MBO、ファンド、M&Aの活用方法を活用する

1 親族内に後継者がいない場合はどうするのか

オーナーの事業承継を検討するに当たって、親族内に後継者として適当な人材がいない、あるいは、いても当人の承諾が得られないケースも見受けられます。また、親族内での承継にこだわり過ぎて強引に事業承継を行い、かえって後継者にも会社にも悪影響を与えてしまうこともあります。

親族内に適当な後継者がいない場合に考える選択肢として、MBO、ファンド、M&Aの手法を用いた対策があります。それぞれの効果や留意点を認識し、自社に合った対策案として検討してみてください。

2 MBOを活用した事業承継対策

1)MBOとは

MBOとは、

Management Buyoutの略称で、経営陣(役員)が事業の継続性を前提に自社株式を買い取り、オーナー経営者などとして独立する行為

をいいます。また、従業員が自社株式を買い取る場合はEBO(Employee Buyout)といいます。なお、この記事では一般的に用いられているMBOについて説明します。MBOは、親族内に適当な後継者はいないけれど、社内に有能な役員がいる場合などの事業承継対策として活用することができます。

MBOを活用した事業承継の流れ(一般的なスキーム例)は次の通りです。

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2)対策のポイント

通常は自社株式購入のための自己資金が不足するため、金融機関などから不足資金を調達する必要があります。しかし、後継役員などの個人では借り入れの返済原資が乏しいことから、新たに設立する受け皿会社が金融機関などから借り入れを受けて、株式を取得するケースが多く見られます。

MBOでは、後継役員自身が株式購入資金の準備手続きを行わなければなりません。特に金融機関などからの借り入れで資金を賄う場合は、事業の継続や成長の源泉となる商品、技術、販売力、人材などに関して十二分に説明し、借り入れ条件などを綿密に調整・確認することが重要となります。

また、子会社化される事業会社と受け皿会社との資本関係を100%とするなど一定の要件を満たすことで、受け皿会社が事業会社から受け取る配当金には課税されません。そのため、配当を生み出す事業会社の事業収益を借入金の返済原資として有効に利用することができます。

3)対策のメリット

MBOを活用した事業承継対策のメリットは次の通りです。

  • 親族内に後継者がいない場合でも、第三者によるM&A(詳細は後述)の手法を用いることなく、事業を承継することができる。
  • 事業の承継者が会社の事業実態を熟知している現経営陣(役員など)であることから、円滑に事業を承継することができる
  • 現経営陣(役員など)がオーナー経営者となることで、一層の責任感を持って会社の経営に取り組むこととなり、また、従業員の雇用も確保され、経営陣と従業員の一体感や企業風土といった会社の独自性も維持していくことができる
  • 現オーナーにとっては換金性の乏しい非上場株式を換金することができ、オーナーの親族は、その現金を将来の相続における相続税の納税資金に充当することができる

4)対策のデメリットと留意点

MBOを活用した事業承継対策のデメリットと留意点は次の通りです。

  • 受け皿会社が金融機関などからの借り入れで資金調達をする場合、事業性の評価次第では、後継役員などが個人の連帯保証や担保提供を要求されることある
  • 承継する事業会社は多くの場合、既に金融機関からの借り入れがあり、通常はオーナーがその債務を連帯保証しているため、後継役員などはその債務についても承継しなければならないことがある。そのため、後継役員などの理解を得たり、金融機関との調整で、多くの時間を費やしたりすることともある
  • 後継者候補が複数いる場合に誰を後継者に選択するかによって、その後の経営幹部内での争いのもととなる恐れがある

3 事業承継を目的としたファンドを活用した対策

1)ファンドとは

ファンドとは、

投資家から資金を集めて株式などに投資して運用を行う仕組み

をいいます。

ファンドにはさまざまなタイプがありますが、その投資スタンスの決め手となるのが資金の出し手となる投資家です。

一般に地域の金融機関や国内の年金基金などから資金を集めているような場合は、中長期的に経営者と二人三脚で企業の成長を支援するというスタンスのファンドが多いようです。ファンドを活用した株式承継の流れ(一般的なスキーム例)は次の通りです。

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なお、「普通株」とは一般的に通常売買、保有されるような株式で議決権があり、また、配当がもらえる権利があるような株式をいいます。これに対して

「優先株」は普通株よりも配当を優先的に受けることができたり、倒産などの際に残余財産を優先的に受け取ることができたりする一方で、議決権がないような株式

をいいます。現在、株式の内容は配当、議決権、償還、普通株への転換、残余財産分配に関して自由に設計することができるため、名称は同じ「優先株」であっても全く内容が異なっている場合もあるので、活用においては株式の内容をよく確認する必要があります。

なお、種類株式の詳細については、下記のリポートをご参照ください。

2)対策のポイント

株式を譲渡する際の株価は、後継者が中心となって策定する事業計画を根拠としてDCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法などにより算定されます。DCF法とは、会社が将来生み出すフリー・キャッシュフロー(純現金収支)を、一定の割引率で割り引いた現在価値に基づき株式の価値を評価する方法です。従って、調達した資金について、一定期間で無理なく返済ができるような事業計画を策定することが重要です。

また、一口に「ファンド」といっても、事業承継をサポートするファンドは世の中に多く存在します。これらのファンドの性格はファンドマネジャーやその出資者の属性によって大きく異なっており、どのようなファンドと付き合うのかは対策を行う上での重要なポイントです。

そのため、入り口の段階において、高い価格で株式を買い取ってもらえたとしても、その後、後継者には不本意な形で経営権を取られてしまったということがないように、次のポイントなどを確認し、ファンドの性格を理解する必要があります。

  • 投資に対する方針
  • ファンドマネジャーの信頼性
  • 出資者の属性

3)対策のメリット

事業承継を目的としたファンドの活用による対策のメリットは次の通りです。

  • 換金性の乏しい非上場株式を換金することで、オーナーの自由に使える資金が増え、将来の相続税などの納税資金としての活用も可能となる
  • 買収目的会社を設立する際の普通株への出資は少額でも可能なため、会社の将来を担う人材を中心に、新しい世代へと株式保有者を再構成することができる

4)対策のデメリットと留意点

事業承継を目的としたファンドの活用による対策のデメリットと留意点は次の通りです。

  • 通常は、事業計画の達成状況についてファンド運営者によるモニタリング(定期的な事業計画の実行状況の確認)が行われる。実際のモニタリングの内容は会社の状況によって異なるが、モニタリングを通して、経営管理面の強化と成長企業への脱皮を求められる
  • 事業計画を下回るような状況が継続するような場合には、後継者による経営に一定の制限が加えられることがある。そのため、事前に作成する事業計画は、後継者が確実に遂行できる内容にする必要がある

4 M&Aを活用した事業承継対策

1)M&Aとは

M&Aとは、

Mergers and Acquisitionsの略称で、企業の合併・買収を総称し、事業承継においては、外部資本(第三者)がおおむねの株式を買い取り、事業を継続する行為

をいいます。M&Aを活用した事業承継対策の流れ(一般的なスキーム例)は次の通りです。

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2)対策のポイント

M&Aにより会社を売却する場合、次のような状況にある会社が売却しやすい(売却しにくい)とされています。売却しやすい会社と売却しにくい会社は次の通りです。

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なお、業績が好調な時期に譲渡する経営者が意外に多いようです。事業で成功している経営者は決断力があるといえるのかもしれません。

中には、いざとなって最後の決断ができず自ら交渉を破談にしながら、後々になって業績が悪化し、再度、売却を検討したが当初の条件からは大きく後退してしまい、悔やむオーナーもいます。そのため、M&Aの決断には経営者の資質が問われるのです。

3)対策のメリット

M&Aを活用した事業承継対策のメリットは次の通りです。

  • 廃業や会社清算と比べると税金の面で有利で(後述)、従業員の雇用、顧客を守ることができる
  • オーナーは会社の借り入れに対する連帯保証や担保提供が必要なくなる
  • 一般的には株式の売却や退職金の受領、会社に対する貸付金の回収といった形で、株主や役員は大きな現金収入を得ることができる

4)対策のデメリットと留意点

M&Aを活用した事業承継対策のデメリットと留意点は次の通りです。

  • 情報の漏洩など、不適切な形でM&Aに関する情報が開示されると、従業員の不安感の増大と、退社のリスクや経営不安などの噂の流布による営業面でのリスクなどに直面する可能性がある
  • M&Aの前後において、売却先との企業文化の相違により、社内のモチベーションが低下してしまうリスクがある

5)M&Aと清算の比較

M&Aは、会社を清算した場合と比べて税金面などで有利になります。M&Aの場合と清算の場合の株主の手取り額の比較は次の通りです。

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M&Aの場合は清算の場合と比べると、株式の譲渡益に対する20.315%の課税だけで済むため、税金面では有利といえます。清算の場合は法人の含み益に対して法人税が課税され、さらに個人の手取り金に対して配当所得として他の所得と合算して総合課税されるため、金額が大きい場合は49%程度の高税率で課税されることが多くなります。

また、清算の場合には、実際の資産処分価額はM&Aの場合の評価額を大きく下回ります。清算手続きに入り、資産を実際に処分する際には機械装置などの移設ができないものはスクラップ価格となってしまいます。

逆に業績の良い非上場企業のM&Aの場合は営業権が資産額に加算されるため、通常は、

時価純資産評価額+営業権

で株価が評価され、清算の場合よりも圧倒的に有利となります。時価純資産評価額と営業権は次のように計算します。

  • 時価純資産評価額=会社の資産(時価評価)-負債(時価評価)
  • 営業権=税引き後利益(過去3~5年の平均)×年数(目安:3~5年)

以上(2023年6月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:soo hee kim-shutterstock

【オーナー企業の事業承継(4)】自社株式の承継方法「譲渡」と「贈与」

書いてあること

  • 主な読者:事業承継を検討している中小企業の経営者
  • 課題:自社株式を後継者などに移転する際にかかる税金が分からない
  • 解決策:法人税、所得税、贈与税、相続税といった複数の税金の視点から、最適な承継方法を選択しなければならない

1 自社株式の承継方法

事業承継では、自社株式の後継者への承継(移転)が大きなポイントとなります。

相続以外で自社株式を後継者に承継する方法は、大きく「譲渡」と「贈与」に分かれます。なお、相続による承継はオーナーの死亡が伴うため、「時期を選べない」「他の相続人との調整が必要となる」などの問題があります。よって、適宜の時期に円滑に自社株式を移転するためには、後継者に対して株式を有償で承継するか(譲渡)、無償で承継するか(贈与)を検討する必要があります。

この記事では、自社株式の「譲渡」および「贈与」による承継方法に関する検討ポイントを紹介します。

2 譲渡による承継と贈与による承継

1)譲渡による承継

譲渡による承継とは、後継者がオーナーから有償で自社株式を買い取ることをいいます。譲渡による承継(イメージ)は次の通りです。

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オーナーは通常、換金しにくい自社株式を現金化することができるため、その資金を老後資金や相続税の納税資金の備えとすることができます。しかし、通常オーナーの保有する自社株式の取得価額は低いため、売却価額との差額(売却益)に譲渡所得として税金が課されます。

一方、後継者としては、取得資金の調達が問題となります。通常、業歴が長く内部留保の多い会社は株価も高く購入資金が多額となります。そのため、銀行借り入れなどを活用することとなりますが、担保、返済資金の確保などを検討する必要があります。また、本稿では詳細の説明は省略しますが、後継者個人で自社株式を購入するのではなく、後継者を株主とする持株会社を設立して取得する方法もあります。

2)贈与による承継

贈与による承継とは、贈与者(オーナー)と受贈者(後継者)がお互いに合意の上、株式を無償で与えることをいいます。贈与による承継(イメージ)は次の通りです。

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譲渡による承継と比較すると、オーナーは資金を一切受け取ることはできませんが、オーナーが所有する資産が減少し、後の相続時の相続財産の圧縮につなげることができます。また、後継者は取得資金ほど多額の資金を調達する必要はありませんが、納税資金の確保を検討する必要があります。

このため保険や金庫株(自己株式)を活用した納税資金の確保や納税猶予制度の活用に加えて、次の贈与税の実効税率表を参考にして、暦年贈与により基礎控除をフル活用しながら時間をかけて贈与することで、贈与税額の負担を軽減させることも一法です。

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例えば、5000万円を一括して子(成人)に贈与した場合と、500万円ずつ10年間かけて子(成人)に贈与した場合の贈与税の負担は次のような差が生じます。

  • 5000万円を一括して子に贈与した場合の贈与税額:2049.5万円
  • 500万円ずつ10年間かけて子に贈与した場合の贈与税の合計額:48.5万円×10年=485万円
  • 差額:2049.5万円-485万円=1564.5万円

3)「譲渡」と「贈与」による承継の検討ポイント

1.譲渡か? 贈与か?

上記の通り自社株式の承継については、その方法ごとに承継側(後継者)、被承継側(オーナー)それぞれにメリット・デメリットがあることから、双方の財産保有状況、資金力と税負担額などのコストを比較して検討することとなります。

自社株式移転方法の比較(相続を含む)は次の通りです。なお、これらの判断には専門的な知識などが必要になるため、税理士や公認会計士などの専門家の意見を参考に検討するようにしましょう。

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2.株価対策

譲渡した場合の譲渡所得や贈与した場合の贈与税は、株式の評価額(株価)に応じて算出されるため、株価が下がれば課税負担が軽減されます。また、本稿では詳細の説明は省略しますが、役員退職金の支払いや中小企業投資育成株式会社引き受けによる増資などの株価対策も参考にして、承継の時期などを検討してください。

3.経営権の移転対応

自社株式の承継が行われると財産権とともに会社の経営権も移転します。自社株式の承継時点では、後継者に全ての経営判断を任せることが難しい場合などには、種類株式や信託などを活用して、経営権の移転を一定期間留保することで、経営の安定化を図ることも重要です。

3 譲渡における株価について

1)株価算定上の留意点

自社株式の譲渡においては、利益が相反する純然たる第三者間の取引では、お互いに合意した価格が「時価」とみなされるため、価格の算定に関する課税上の問題が生じる可能性は低いといえます。

一方、第三者間の取引に該当しない場合(同族関係者間の取引の場合)は、お互いに合意した価格には客観性が乏しく、適正な価格で取引されないこともあり得ます。そのため、後述する低額譲渡や高額譲渡と認定されると、売り主・買い主の双方、あるいは当事者のいずれかが法人の場合には、その法人の個人株主に対しても「みなし贈与」などの課税が生じる可能性があります。

2)自社株式(非上場株式)の適正価格

一般的に非上場株式の同族関係者間の取引の場合は、次の方法により計算した価格をもって取引を行うこととされています。実際の取引に当たっては、それぞれの取引と適正価格を整理して低額譲渡や高額譲渡の問題も考慮した上で、具体的な取引価格を決定します。

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1.財産評価基本通達に基づく適正価格の算定

同族株主は原則的評価方式により評価します。原則的評価方式では会社規模に応じて類似業種比準方式または純資産価額方式を基礎として計算します。

また、同族株主以外の株主は、例外的評価方式により評価します。例外的評価方式は配当還元方式により計算します。

なお、自社株式の評価方式に関する詳細については、以下のコンテンツをご参照ください。

30046 【オーナー企業の事業承継(3)】自社株式の評価と相続税額の把握

2.法人税基本通達に基づく適正価格の算定

課税上の弊害がない限り、上記の財産評価基本通達による計算に次の制限を加えて計算します。

  • 当事者が中心的な同族株主(注)に該当するときは「小会社」として計算する。
  • 純資産価額方式の計算上、土地または上場有価証券については時価による。
  • 純資産価額方式の計算上、37%控除はしない。

(注)中心的な同族株主とは、同族株主のうち1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹および1親等の姻族(特殊関係会社を含む)の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の25%以上である場合の当該株主をいいます。

3.所得税基本通達に基づく適正価格の算定

課税上の弊害がない限り、上記の財産評価基本通達による計算に次の制限を加えて計算します。

  • 同族株主の判定は当該譲渡または贈与直前の議決権の数による。
  • 当事者が中心的な同族株主に該当するときは「小会社」として計算する。
  • 純資産価額方式の計算上、土地または上場有価証券については時価による。
  • 純資産価額方式の計算上、37%控除はしない。

3)低額で譲渡した場合の課税関係

適正時価に比べて低額で譲渡した場合の売り主・買い主双方の課税関係は、当事者が個人か法人かに応じて次の通りとなります。

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4)高額で譲渡した場合の課税関係

適正時価に比べて高額で譲渡した場合の売り主・買い主双方の課税関係は、当事者が個人か法人かに応じて次の通りとなります。

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4 名義株について

1)名義株の問題点

名義株とは、名義が本来の所有者とは異なっている株式で、将来、本来の所有者が株主であるとみなされる株式のことをいいます。

名義株の問題点としては、名義株の処理がされないまま名義人が死亡し、その法定相続人によって株式が相続された場合、会社経営に全く関係のない第三者に議決権が渡ることになります。もし、その第三者の議決権比率が高い場合には経営上重大なリスクとなることがあります。

2)名義株を集約するための2つの対処法

1.資金負担を伴わない処理

名義株主と本来の所有者が「名義株式である旨の確認書」を作成し、株式の名義を本来の所有者名義に変更します。

2.資金負担を伴う処理

名義株主を本来の所有者と考えて次のような対応を取ります。

  • 「株式贈与契約書」または「株式売買契約書」を作成し、株式の名義を本来の所有者名義に変更する。
  • 金庫株(自己株式)として株式を買い取る。
  • 後継者あるいは後継者の出資する持株会社で株式を買い取る。

3)対応のポイント

名義株の対応は各株主の収入や保有財産の状況が異なることから、買い取りの時期や金額などの具体的な交渉には注意が必要です。

また、各株主とのコミュニケーションを考えると、問題を先送りせず、現オーナーが健在なうちに早期に対処することが必要です。

以上(2023年6月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:soo hee kim-shutterstock

【オーナー企業の事業承継(1)】 事業承継の検討手順と経営の承継

書いてあること

  • 主な読者:事業承継を検討しているオーナー企業の経営者
  • 課題:事業承継対策として、何から手を付けなければいけないのか分からない
  • 解決策:まずは、後継者の候補の選定が事業承継を検討するスタートラインとなる

1 すぐにでも手を付くべき事業承継対策

多くの中小企業では、オーナーの高齢化と後継者不在から事業承継が進んでいません。しかし、だからといって何も事業承継対策を講じずにいると、人生を懸けて築き上げた自分の会社の存続が危うくなってしまいます。そうならないためにも、なるべく早く事業承継について考え、対策を実行していかなければなりません。まずは、

中小企業のオーナーが事業承継について検討する際の手順と、後継者の選定など「経営の承継」

について注意すべきポイントを押さえておきましょう。

2 事業承継の検討手順

1)事業承継のスタートラインに立つ

事業承継ニーズの発生要因はさまざまですが、昨今の経営環境を考えると、まず事業自体の継続ができるかを判断しなければなりません。現オーナーが事業を継続できると考えても、後継者の目から見るとその考えに疑問を感じる場合もあるでしょう。

つまり、事業自体の継続性が安定していること、それに同意する後継者が存在することが事業承継を検討するスタートラインです。

2)現状分析と問題点の把握

事業承継の悩みを抱えるオーナーは非常に多いのですが、そのような人でも自分の会社の価値を知らない人がたくさんいます。検討に着手する場合の第一手として、自社そしてオーナー自身の現状を把握することから始めましょう。具体的なチェックポイントは

  • 自社の現状:「自社株式」の評価、「株主構成」の問題点、金融機関との取引状況など
  • オーナーの資産状況:「概算相続税額」の把握、「法定相続人」の把握など
  • 後継者:「後継者候補」のリストアップ、「後継者の有無」の確認など

です。

3)後継者の選定と対策の検討開始時期

事業承継で大切なのは、「時間を味方につける」ことです。検討の着手は早ければ早いほど対策の選択肢を広げられますし、時間をかけて対策を実行することで、事業承継に関わる人的、金銭的コストを節約できるケースが少なくありません。「着眼大局、着手小局」の心構えで、まずできることから、なるべく早く取り組みましょう。

3 誰に事業を引き継がせるか

次世代のオーナーとなる後継者を決めるためには、会社の内部・外部を問わず、「誰が最もふさわしいか」という最高レベルの経営判断が必要です。その判断に関わる人は社内でもごく限られた範囲にならざるを得ないでしょう。

事業承継のパターンとしては次の3つのケースが考えられます。

1)オーナー自身の子供などへの親族内承継

オーナーが後継者の候補として真っ先に考え、また、比較的周囲の納得も得られやすいのは親族、中でも子供です。この場合にポイントとなるのは、

本人が「本気で経営を引き継ぐ気持ちがあるか」と「オーナーに向いているか」

です。そのため、近くて遠い親子関係の中で、後継者として適任かどうかの冷静な判断が求められます。

2)従業員などへの親族外承継(MBO、LBOなど)

親族内に候補がいない場合は、従業員の中から、例えば番頭格のような人に事業を承継させるのも1つの方法です。今まで共に会社の運営をしてきた実績があり、会社の事情に明るくスムーズに業務を進められるため安心感があります。この場合にポイントとなるのは、

  • 本人の意向に加えて「他の役員・従業員、取引先など利害関係者の同意が得られるか」
  • MBO、LBOなどの方法で会社の所有権を譲るため、「経営権の確保のために自社株を引き受けるだけの資力をつくれるか」

です。

なお、MBOとは経営陣が自ら会社の株式・事業などをその所有者から買収することをいい、LBOとは借入金を活用した企業・事業買収のことをいいます。

3)第三者への承継

上記のような適任者がいないからといって、従業員の雇用維持や取引先関係を考えると、簡単に事業を停止するわけにはいきません。このような場合はM&A(合併、買収など)の方法によって会社を第三者に売却して経営を任せることも選択肢の1つです。その際にポイントとなるのは、

「良い買い手が見つかるか」と「売却価格に折り合いがつくか」、さらには「従業員の雇用が継続されるか」

です。

4 後継者を育てる

1)後継者をどこで育てるか

1.社内で育てる

一般的に、社内で後継者を育てるのは難しいようです。例えば、身内であるが故に甘やかしてしまったり、逆に厳しくしてしまったりします。また、将来オーナーになる予定の人に対して厳しく指導できる従業員は少ないでしょう。こうしたこともあり、社内で後継者を育てることは、社内が混乱する原因にもなりかねません。

ただし、社外で人に使われる立場では習得できない知識、経験を積むことができるという利点もあります。自社内でオーナーの背中を見ながらマネジメントを覚える時間も必要です。この場合、オーナーは経営者としてのつらい側面ばかりではなく、やりがいや楽しみといった側面を見せることが、後継者教育の第一歩かもしれません。

2.社外で育てる

大企業と中小企業では、組織における個人がもたらす影響のウエートが大きく異なります。社外で育てるのであれば、自社と同規模の会社、それもなるべく厳しいとの定評がある会社が望ましいでしょう。例えば、社歴があり、統制(ガバナンス)が取れていると考えられる会社などです。ただ、このような条件の会社でも、関連会社や取引先などでは、ちやほやされて十分な教育を受けられない可能性もあるため、慎重に検討する必要があります。

2)オーナーの役割

1.時間をかけて育てる

オーナーは仕入・製造・販売といった業務以外にも、人事労務、税務会計などの管理業務まで幅広く、それが正しいかどうかを判断する力が要求されます。また、会社の全体像を把握するためには、会社のいろいろな部署を経験することも必要かもしれません。この時間を確保するためにも、後継者をできるだけ早く決めて、時間をかけて後継者教育を行うことが重要です。

2.教育係(メンター)を付ける

後継者の教育には、従業員が遠慮して十分な経験が積めないといった事態を避けるため、教育係を明確に指名し、早い時期から経営者としての仕事の考え方を学ばせることが重要です。よく事業承継後では、後継者と先代からの幹部社員との人間関係を良好に保つことが難しいといわれます。そのため、幹部社員を後継者の教育係にすることで、人間関係がうまくいくこともあるようです。

3)後継者の心構え

1.総合的な「人間力」を磨く

経営には高校、大学などで身に付ける一般教養に加えて、何よりも経営者としての「人間力」が要求されます。この「人間力」には、思いやり、包容力、行動力、統率力、忍耐力、決断力、バイタリティーなどさまざまな要素が含まれ、人間的魅力と言い換えることもできるでしょう。

2.先代オーナーの苦労を知る

先代オーナーの存在、また、苦労があったからこそ、現在の自分があるという謙虚さを持ち、先代オーナーと苦労を共にしてきた従業員を尊敬する気持ちを忘れないようにしましょう。

3.オーナー仲間をつくる

オーナーは責任も重く、社内では孤独になりがちです。できれば同じ立場の(2代目)オーナー仲間をつくり、悩みを相談したり、社長としての心得などについてのアドバイスをもらえたりするような環境をつくりましょう。たとえ問題が解決されなくても、同じように経営に悩む仲間の存在自体が孤独感を和らげてくれます。そのためには、オーナー仲間の勉強会や懇親会などの集まりに積極的に参加するとよいでしょう。

5 後継者への引き継ぎ

1)「代表の座(仕事)の移転」

「代表の座(仕事)の移転」とは、代表取締役としての地位を譲ることです。とかく後継者は独自色を出そうと、先代とは違う新しい施策を実施したがる傾向があります。これが社内外に混乱を生む要因となってしまいます。こうした混乱を避けるためには先代オーナーと後継者が経営者として並走できる期間を設けることが必要です。後継者を先代オーナーがフォローすることにより、従業員も安心して働けて、取引先との付き合いもうまく引き継ぐことができます。

このためには、やはりなるべく早く事業承継に着手することが必要です。先代オーナーが高齢になり機動的に動けなくなってからでは、しっかりしたフォローができません。ましてや事業承継に着手する前にオーナーが突然の事故で亡くなってしまったり、認知症を発症してしまったりすると、社内の重要な意思決定が行われなくなり、最悪の場合は事業を継続することができなくなる可能性もあります。

2)経営権(自社株など)の移転

安定した経営のためには後継者が単独で会社の重要事項を決定できるよう2分の1以上、できれば3分の2以上の議決権(自社株)を集約しておくことが大切です。また、オーナーの土地、建物などの個人資産を会社の事業で利用している場合は、こういった事業用資産も後継者に承継しておきたいところです。加えて、子供が複数いる場合には、いわゆる「争続」対策のために、自社株や事業用資産以外の財産を相続することとなる「後継者以外の子供」と「後継者」との間で、相続時の分割バランスを取る配慮も必要になります。

後継者への資産の移転には主に次の3つの方法があり、それぞれのケースで課される税金の種類も異なります。

  • 生前贈与→贈与税
  • 売買→譲渡所得税・住民税
  • 相続→相続税

そのため、事業承継を検討する際には、そのコストともいえる税金のことも知っておかなくてはいけません。相続税の最高税率は55%であり、優良な中小企業の株式の評価額は思っている以上に高額となっていることも多いため、何の対策も取らずに相続すると相続税の負担が重くなってしまいます。

「相続が3代続くと財産がなくなる」とまでいわれていますが、早めの対策を行うことで、より多くの財産を次世代に残すことも可能になります。相続税が会社や後継者の活動の制約にならないように、専門家と相談しながら早めの対策を行いましょう。

自社株などの移転の検討に当たっての留意点は次の通りです。

1.自社株の評価が低いときに経営権を移転する

自社株の評価額は、その時々の会社の業績や過去からの利益の蓄積により大きく左右されます。そのため、

評価額がなるべく低い時期に経営権を移転すること

がポイントとなります。

例えば、オーナーの引退に伴い退職金を支給する場合には退職金相当額の利益が圧縮されるため、通常、株価は低くなり、自社株を後継者に移す良い機会といえます。

2.相続で経営権を移転する場合には納税資金を確保する

もう1つの留意点は、将来オーナーに相続が発生した場合の納税資金の問題です。相続税は原則として現金で一括納付する必要がありますが、中小企業の自社株については原則として換金性がないことから、

相続税の納税資金をどのように確保するか

がポイントです。納税資金が不足する場合、会社が自社株を買い取ることや、物納、延納なども検討する必要があります。

6 事業承継がうまく進まないときのためのアドバイス

1)立場の違いからくるギャップ「オーナーの思い」と「後継者の考え」

実際に、事業承継に着手しても、ささいなことでオーナーと後継者との意見がぶつかってしまい、承継がうまく進まないケースもあるようです。

  • 自分が築き上げた会社の経営を、経営者としては未熟な後継者に任せるのはまだまだ不安!
  • 自分と同じような苦労を経験していないのに、口だけ達者で生意気!

といったものが、一方、後継者の考えには、

  • 今までの環境で安定した仕事をしており、あえてオーナーのような苦労をしたくない!
  • 初めての経験であり、オーナーとして会社を経営していく自信がない!
  • 経営を任すとは言っても、いろいろな場面で先代オーナーが口出ししそうで面倒!

といったものがギャップの原因になるようです。両者のさまざまなギャップを解消するためには、それぞれの役割の違いを認識して、お互いに尊重し合うことが重要です。

2)ギャップを解消するためには?

オーナーに求められることは、

  • 後継者がひとまず経営に専念できるよう社内外の環境を整備する。
  • すでに認識している会社の未解決問題をそのままにして引き継がない。
  • 特にオーナーと同世代の兄弟姉妹との親族争いの火種を消し切る。
  • うるさく口は出さないが、目は離さず必要なときは助言する。

ことです。一方、後継者に求められることには、

  • 独自色を出すことに固執せず、先代・先々代オーナーの苦労を知り、これまでつくり上げてきたものに敬意を表する。
  • 1人で突っ走らず、重要な問題、迷った問題は先代オーナー・幹部社員に相談する。

ことが必要になってきます。

以上(2023年6月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:soo hee kim-shutterstock

10年後の御社は安泰ですか? 今と将来の事業を整理するのに役立つ「経営デザインシート」

書いてあること

  • 主な読者:ビジネス環境が変化する中、自社の強みや向かうべき方向を明確にしたい経営者
  • 課題:自社の置かれている状況や外部環境など整理しないといけない情報が多く、なかなか考えがまとまらない
  • 解決策:「経営デザインシート」で自社の現状を俯瞰(ふかん)した上で、「こうありたい」理想の姿を描き、そこから「今何をすべきか」を明確にしてビジネスモデルの転換を図る

1 社長、御社の今後に自信はありますか?

今、「うちの会社は10年後も安泰!」と自信のある経営者がどれほどいるでしょうか。コロナ禍を経て、それほどまでに経営環境が劇変しています。過去の成功体験も失敗体験も通用しにくくなってきた今、改めて事業環境を整理することが不可欠です。

やり方はいろいろありますが、この記事でお勧めするのは「経営デザインシート」です。これは、2018年5月に内閣府が公表したもので、

5年後、10年後に、自社や事業がどのようなストーリーで価値をつくっていきたいかを考えるためのフレームワーク

です。

■首相官邸 知的財産戦略本部「経営をデザインする」■
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/

経営デザインシートの使い方を、企業の活用事例も交えながら紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

なお、活用事例で紹介している企業は、先の首相官邸のウェブサイト「企業における活用例」で取り上げられています。この記事で紹介している取り組み内容は、独自の取材などを基づくものです。

2 経営デザインシートで自社の価値を「見える化」

経営デザインシートは、2019年12月にシートの利便性向上のために「経営デザインシートリデザインコンペティション」が開催され、下記のような「描きたくなる」経営デザインシートが新デザインとして採用されました。

画像1

図表の(A)~(D)は下の(A)~(D)に対応しています。下のように思いを巡らしながら空欄を埋めてみてください。

(A)存在意義を意識した上で、
(B)「これまで」どのように価値を生み出してきたかを把握し、
(C)「これから」どうやって価値を生み出していきたいかを構想する。
(D)「これまで」から「これから」への移行のための戦略を策定する。

特に重要なのは(B)と(C)であり、ここでは自社や事業の「価値創造ストーリー」を考えます。価値創造ストーリーとは、どのような「資源」を、どのような「ビジネスモデル」(収益の仕組み)にインプットすると、どのような「価値」を世の中に提供できるのかという一連の仕組みです。

「資源」の欄には、人、設備、知的財産(以下「知財」)など自社の強みである資源、「ビジネスモデル」の欄には、事業の一覧や役割などの事業ポートフォリオ、「価値」の欄には、商品、サービス、それらが社会にもたらす効果など提供する価値を記入します。

(B)の「これまで」の価値創造ストーリーは、自社の現状を分析することで比較的容易に埋めることができますが、重要なのは(C)の「これから」の価値創造ストーリーです。

ポイントは【(B)これまで+(D)移行戦略→(C)これから】という、これまでの延長線で考えるのではなく、

(C)これから-(B)これまで→(D)移行戦略

という、こうありたい姿(未来)から逆算して考えるということです。

資源を基に将来を構想すると、どうしても既存のビジネスの改善・改良にとどまってしまいがちです。そうならないために、提供したい価値を、顧客のニーズや新しい発想を織り交ぜながら考え、それを実現するのに現状では足りないビジネスモデルや資源を逆算して考えていきます。

「これまで」と「これから」の価値創造ストーリーを考えることで、両者のビジネスモデルや資源のギャップが明確になります。そのギャップを埋めるための移行戦略を(D)で考えていきます。

その上で(C)を考える際のポイントは、

「資源」から考えるのではなく、5年後、10年後に提供したい「価値」から先に考え、それを実現するための「ビジネスモデル」、ビジネスモデルに必要な「資源」の順に埋めていくこと

です。

実際の価値創造ストーリーの記入例、経営デザインシートのフォーマット、企業の活用事例などは、前述した首相官邸のウェブサイトに掲載されているので参考にしてみるとよいでしょう。

■首相官邸 知的財産戦略本部「経営をデザインする」■
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/

3 非財務情報の「見える化」

経営デザインシートの「ビジネスモデル」の欄には、知財の果たす役割も記入します。知財とは、特許や商標などの他、技術、データ、組織文化・風土、教育システムなども含めて考えます。技術、データなどは財務諸表には記載されませんが、こうした点も定性的に評価します。

内閣府知的財産戦略推進事務局へのヒアリングによると、

「将来構想を練る際には、財務情報ばかりに目がいき、非財務情報を忘れがちになる。しかし、自社の強みを掘り進めていくと、知財にたどり着くことが多いため、知財を『見える化』することに重点を置いた」

とのことです。

経営デザインシートはシンプルですので、経営者なら1人で簡単に作成できてしまうでしょう。しかし、それでは視点が偏り、抜け漏れも生じるため、信頼する幹部や外部のステークホルダーと議論しながら作成するとよいでしょう。

作成のために第三者と議論や対話を深めることで、経営者の頭の中でただのアイデアとして終わっていたことが具体化されたり、自社や事業に込める思いをキーワードとして抽出したりすることができます。

4 議論・対話を促進し、企業価値を共有した事例

機械設備事業やエレベーターメンテナンスを主な業務とするエレドック沖縄は、ベテラン技術者の高齢化に伴い、これまでの高所作業から地上作業にも事業領域を広げるべく、新たにフィットネス機器分野への進出を検討。沖縄県知財総合支援窓口の支援を受け、経営デザインシートを作成しました。

同社は、「企業等の『健康経営』推進を支える」などを、これから提供する価値に据え、それを実現するビジネスモデルとして「フィットネス機器分野の強化」、必要な資源として、「相談対応力や提案力を備えたベテラン社員」や「エレベーターに限らない機械設備メンテナンス業者としての沖縄県内での知名度」などを設定しました。

その後、事業領域の拡大とそのための移行戦略を効果的に進めるに当たり、作成した経営デザインシートについて、従業員向けの説明会やヒアリングを開催しました。その結果、従業員からは次のような反響を得ることができました。

経営者の長期的なビジョンや方針がストーリーとして理解でき、社長の下で頑張りたいという気持ちを強くすることができた

自社で行っている事業や自分の業務が、何のためのものか理解しやすくなった

事業領域が広がってきても、「仕事が増える」と考えるのではなく、新しい仕事に対する心構えができる

5 事業承継に向けた擦り合わせに活用した事例

事業承継に当たり、現経営者と後継者とのコミュニケーションツールとして活用した事例もあります。

メーカー型総合建設業を営むコプロスは、作業スタッフの高齢化や後継スタッフの不足といった課題を抱えており、そうした課題意識を従業員と共有したり解決策を検討したりするために、経営デザインシートを作成しました。

作成は次期経営者と社内の作業担当者が進め、「安全で効率の良い働き方を実践して、間接的に業界イメージの改善にも寄与する」ことなどを、これから提供する価値に据え、それを実現するビジネスモデルとして、「機器の遠隔・自動操作を実現するためのソフトウエア開発部門」、必要な資源として、「AI/ICT開発技術」などを設定しました。

その上で、移行戦略として、「AI開発企業/研究大学との協力体制の構築」や「新技術の施工を担う人材の教育」などを定めました。こうして明確になった自社が今後目指すべき方向性を、現経営者である実父へ経営デザインシートを用いて説明しました。

これまでは、次期経営者と現経営者が2人で話す際は、良くも悪くも「親子」が出てしまい、意図せず議論が脱線してしまうことがありました。しかし、経営デザインシートを目の前に議論したことで、焦点を絞り込むことができ、自社の現状としては突飛な「機械の自動化」というアイデアも、現経営者に比較的スムーズに受け入れられたといいます。

6 金融機関との相互理解に寄与

金融機関が、取引先企業の事業性を理解し、評価するためのツールとして活用する事例もあります。金融機関がアドバイスをしながら企業が経営デザインシートを作成したり、一緒に作成したり、金融機関が作成したりします。

いずれの場合も、金融機関が取引先企業の事業性の理解・評価を行いながら、パートナーとしてコミュニケーションの質を高め、共に課題解決の方策を探っていくことに役立っているようです。内閣府知的財産戦略推進事務局へのヒアリングによると、実際に経営デザインシートを活用した金融機関からは、次のようなメリットが挙がっているといいます。

企業が描く将来像を具現化するために必要な課題解決策を共に考え、具体化していくことができる

自社の強みを考える上で、競合他社との違いを知ることが重要であることを説明するために使える

企業にとっても、自社の強みや将来の構想に重要な非財務情報について、金融機関に分かりやすく説明し、理解を深めてもらうツールとして有用なものだといえるでしょう。

以上(2023年5月)

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画像:pexels

【オーナー企業の事業承継(3)】 自社株式の評価と相続税額の把握

書いてあること

  • 主な読者:事業承継を検討している中小企業の経営者
  • 課題:自社株式の評価や、相続税の計算の全体像を知りたい
  • 解決策:それぞれの計算フローに沿って、どのように算定されるのか基本事項を押さえる

1 事業承継や相続における現状分析と問題点の把握

事業承継や相続に関する検討の第一歩は、現状分析と問題点の把握です。ここでいう現状分析とは事業自体が継続できるかどうか、また後継者の有無に加えて、株主構成、経営権の承継に関する問題点、自社株式の評価額、オーナーに万一のことがあった場合の相続税額の把握などが含まれます。

2 自社株式の評価方法

1)評価方法

相続税や贈与税の計算上、自社株式の評価は財産評価基本通達に基づき、次のいずれかの方法で行います。

  • 「同族株主」間の相続や贈与の場合:原則的評価方式
  • 上記以外の少数株主の場合:例外的評価方式

2)同族株主の判定

原則的評価方式が適用される「同族株主」とは、

株主の1人とその同族関係者(詳細は後述)の保有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の30%以上である場合の、その株主とその同族関係者

をいいます。

ただし、株主の1人とその同族関係者の保有する議決権の合計数の最も多いグループが、その会社の議決権の50%超を保有している場合には、その50%超の議決権を保有する同族関係者グループだけが「同族株主」となり、その他の株主グループが30%以上の議決権を保有していたとしても「同族株主」とはなりません。

3)同族関係者とは

「同族関係者」とは株主の1人と特殊な関係のある個人または法人(判定しようとする会社の株主の1人が他の会社を支配している場合における当該他の会社)をいいます。

なお、特殊な関係のある個人とは次に掲げる者などをいいます。

  • 株主などの親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)
  • 株主などの使用人
  • 株主などと婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者

なお、「原則的評価方式」が適用となる株主は、上記の「同族株主」がいる場合の他、他の「同族関係者」グループの議決権割合に応じて、さまざまな場合に該当する可能性があります(末尾に参考資料を添付)。

実際の評価方法の判定に当たっては税理士、公認会計士などの専門家に助言を求めるようにしてください。

3 原則的評価方式による評価

1)原則的評価方式のフロー原則的評価方式は会社規模などにより、

  • 類似業種比準方式
  • 類似業種比準方式と純資産価額方式の折衷方式
  • 純資産価額方式

で評価する方法をいいます。なお、原則的評価方式による評価は、

  • 会社規模の判定
  • 特定会社の判定
  • 株式の評価方式の決定

の順に行います。原則的評価方式のフローは次の通りです。

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2)会社規模の判定

会社規模は、評価する株式を発行した会社(以下「評価会社」)の「従業員数」「総資産価額」「取引金額(売上高)」により判定し、「大会社」「中会社の大・中・小」「小会社」に区分します。

  • 従業員数が70人以上の評価会社は、「大会社」に該当します。
  • 従業員数が70人未満の評価会社は、次の(図表2)に基づき、「取引金額基準」「従業員数を加味した総資産基準」で、それぞれ会社規模の判定を行い、いずれか大きいほうの会社規模を採用します。

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例えば卸売業で「取引金額」6.5億円、「従業員数」51人、「総資産価額」5億円の会社は「取引金額基準」では「中会社の中」となり、「従業員数を加味した総資産基準」では「中会社の大」となり、会社規模の判定は大きいほうの「中会社の大」に該当します。

3)特定会社の判定

評価会社が次の特定会社に該当する場合は、一般の評価会社とは資産の保有状況や営業の状況が異なるため、後述の評価方式の決定にかかわらず、原則として「純資産価額方式」により株価を計算することとなります。

通常は「純資産価額方式」によって計算すると株価が高くなるケースが多いため、十分な注意が必要です。

1.株式保有特定会社

株式保有特定会社とは、評価会社の相続税評価額による総資産のうち、保有する株式および出資(以下「株式等」)の価額の合計額の占める割合が50%以上の会社をいいます。

2.土地保有特定会社

土地保有特定会社とは、評価会社の相続税評価額による総資産のうち、保有する土地などの価額の合計額の占める割合が次に該当する会社をいいます。

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3.比準要素数1の会社

比準要素数1の会社とは、類似業種比準方式の計算の基となる「配当」「利益」「純資産」の3つの要素の直前期における金額のうち、いずれか2つの要素の金額がゼロまたはマイナスであり、かつ直前々期における2つ以上の要素の金額がゼロまたはマイナスである会社をいいます。

4.開業後3年未満の会社

課税時期において開業後3年未満の会社をいいます。

5.比準要素数0の会社比

準要素数0の会社とは、類似業種比準方式の計算の基となる「配当」「利益」「純資産」の3つの要素の直前期における金額が、いずれもゼロまたはマイナスである会社をいいます。

6.清算中の会社

7.開業前または休業中の会社

4)株式の評価方式の決定

上記の特定会社に該当しない場合は、会社規模に応じて評価方式を決定します。評価方式の決定は次の通りです。

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5)類似業種比準方式

1.類似業種比準方式の計算

類似業種比準方式とは、評価会社の「配当」「利益」「純資産」の3要素を基準にして、類似する業種の上場会社の株価に比準して株価を計算する評価方式です。類似業種比準方式の計算方法は次の通りです。業種および比準する株価等の数値は国税庁が公表する「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」から選定します。

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2.類似業種比準方式の計算上の留意点

類似業種比準方式の計算上の留意点は次の通りです。

  • 3つの要素の金額は原則として直前期、直前々期の平均数値を使用します。従って評価額には株式相場の水準に加えて、評価会社の決算での業績が影響を与えます。
  • 比準する類似業種の数値に対して自社の3つの要素が高い場合は、自社株の評価額も高くなります。
  • 業種目は評価会社の主たる業種目により判定します。複数の業種目を兼業している場合は、単独の取引金額が50%を超える業種目により判定します。
  • 計算に用いる「配当」「利益」は経常的なものに限ります。そのため、「配当」については特別配当や記念配当などの将来毎期継続することが予想できない金額は除いて計算します。

また、「利益」については固定資産売却益や保険差益といった非経常的な利益は除いて計算します。この場合、非経常的な利益より非経常的な損失が大きいときは、非経常的な利益はゼロとして計算します。

6)純資産価額方式

1.純資産価額方式の計算

純資産価額方式は、会社の資産の額から負債の額を控除した純資産価額を自社株式の価値とする方式です。これは会社の清算価値に着目した評価方式ともいえます。

純資産価額方式のイメージ図と計算方法は次の通りです。

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2.純資産価額方式の計算上の留意点

純資産価額方式の計算上の留意点は次の通りです。

  • 長期に滞留している不良資産や含み損を抱えた遊休資産について、税法上認められる範囲で除却することにより、評価を引き下げることができます。
  • 相続税評価上、資産内容を時価よりも評価を引き下げられるような不動産などの資産に組み替えることも、評価の引き下げに効果があります。ただし、評価時点から3年以内に取得した不動産については取引価額での評価となるため、組み替え後3年を経過しないと、引き下げの効果は得られないため注意が必要です。

4 例外的評価方式による評価

同族株主以外の株主や同族株主のうち少数の株式を有している株主が取得した株式については、会社の規模にかかわらず、例外的評価方式である配当還元方式により株式評価を行います。

配当還元方式の計算方法と計算例は次の通りです。

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5 相続税の計算

1)相続税の計算フロー

相続による自社株式の承継に係る相続税は、承継のためのコストと捉えることができます。また、相続税の納付は原則金銭による一括納付が原則ですが、これを納付期限である相続発生後10カ月以内に納付することが必要となりますので、相続税の納付資金をあらかじめ用意しておくことは、スムーズな事業承継を進めるための第一歩ともいえます。それには、オーナーに万一のことが発生した場合に必要となる相続税額を、大まかにでも把握しておくことが大切です。

相続が発生した場合の相続税の計算フローは次の通りです。

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1.課税遺産総額の計算

土地、建物、現預金といったプラスの財産の評価額の合計額から、借入金や未払金などのマイナスの財産および葬式費用の合計額を差し引いた正味の遺産額から基礎控除額(3000万円+(600万円×法定相続人の数))を引いた額が課税遺産総額となります。

課税遺産総額の計算(イメージ)は次の通りです。

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法定相続人は、民法で範囲が決められていて、次のような相続人の順番になっています。

第1順位:配偶者と子
第2順位:配偶者と直系尊属(被相続人の父母)
第3順位:配偶者と兄弟姉妹

また、遺言などにより相続分の指定がない場合の共同相続人の順位と相続分は次の通りです。なお、配偶者は常に相続人となります。

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2.相続税総額の計算

算出した課税遺産総額を、いったん法定相続分で分割したものと仮定して、各相続人の相続分を算出し、これに相続税率を乗じて計算した税額の総額が相続税総額となります。なお、相続税総額を計算する際は、次の速算表を参考にするとよいでしょう。

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3.各人の相続税額の計算

上記で算出した相続税総額に実際の各人の取得割合を乗じて相続税額を算出します。

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2)相続財産について

次の財産については、相続が発生した時点で被相続人が保有していた財産に加算されて相続財産となりますので、注意が必要です。

1.一定の贈与財産

次の一定の贈与財産は、相続財産とみなして相続税が課されます。

  • 相続開始前3年以内(2024年1月1日以降に発生した相続については、7年以内)の暦年課税贈与財産
  • 相続時精算課税制度により贈与された財産(2024年1月1日以降に発生した相続については、相続時精算課税制度を選択した上で行った贈与のうち、毎年110万円までの贈与は相続財産に含まれません)
  • 贈与税の納税猶予制度により贈与された非上場株式

2.みなし相続財産

次の財産は民法上では受取人固有の財産ですが、相続税法上では相続財産とみなして相続税が課されます。

なお、生命保険金と退職手当金については、それぞれ「500万円×法定相続人の数」を非課税財産として控除することができます。

  • 死亡保険金(生命保険・損害保険)
  • 死亡後3年以内に支給が確定した退職手当金
  • 生命保険契約に関する権利

6 (参考資料)同族株主のいない場合の自社株式の評価方法の選定フロー

同族株主のいない場合の評価方法の選定フローは次の通りです。

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7 (参考資料)同族株主のいる場合の自社株式の評価方法の選定フロー

1)筆頭株主グループの議決権割合が30%以上50%以下の場合

同族株主のいる場合の評価方法の選定フロー(筆頭株主グループの議決権割合が30%以上50%以下の場合)は次の通りです。

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2)筆頭株主グループの議決権割合が50%超の場合

同族株主のいる場合の評価方法の選定フロー(筆頭株主グループの議決権割合が50%超の場合)は次の通りです。

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以上(2023年6月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:soo hee kim-shutterstock