【朝礼】厳しい校則と増えるルーチン業務の共通点

おはようございます。突然ですが、皆さんが通っていた中学校や高校は、校則が厳しかったでしょうか? いきなり変な質問をしてすみません。この質問にはちゃんと理由がありますので、しばらく私の話にお付き合いください。

先日、学生時代の友人と会った際、私たちが通っていた中学校の校則の厳しさが話題になりました。当時の生徒手帳には、髪形、ズボンの太さ、スカート丈から始まる数多くの校則が細かく記載されていたのです。ただ、どうも世の中には、さらに変な校則や厳しい校則がある、もしくは、あったようです。友人と一緒にインターネットで調べてみたら、あまりの内容に驚きました。

例えば、プールではふんどし禁止、学校に出前を取ることは禁止、タトゥー禁止などがそうです。私や友人の感覚からすると、「そんなの当たり前でしょ」と思ってしまうような内容でした。逆に、髪を切るときは教師の許可を得ること、○○駅で待ち合わせをするのは禁止など、「そこまでする必要があるの?」と、疑問に感じる内容もありました。

ですが、今にして思うと、こうした校則を作った学校側も、私や友人と同じ気持ちだったのかもしれません。実際に、ふんどしで泳ぐ生徒や学校に出前を取る生徒、タトゥーをした生徒が出てきて、PTAを含めて問題になった結果、学校側はやむなく校則で禁止したという背景が想像できます。

また、あまりに奇抜な髪形をした生徒や、駅前で生徒が駅の利用者に迷惑を掛ける行為に対して、学校側は何度も指導したのに効果がなかったのでしょう。その結果、学校側としては、髪を切るのは許可制、駅での待ち合わせは禁止に踏み切るしかなかったのだろうと思います。

私が通っていた高校は、中学校と違って校則がほとんどありませんでしたが、奇抜な髪形や服装をする生徒は皆無でした。だから髪形や服装に関する校則が不要だったのだと思います。

これは、今の私たちにも当てはまる話ではないでしょうか。業務上、本来はあり得ないミスや、原因不明の納期遅れが続けば、当然ながら再発防止のための対策として、チェック体制を二重三重に増やし、業務の進捗を逐一、上司に報告しないといけなくなります。それは、変な校則や厳しい校則と同じように、「そんなの当たり前でしょ」「そこまでする必要があるの?」と思ってしまうようなルーチン業務です。こうした業務が増えると、本当に重要な業務を行う時間が減ってしまいます。つまり、自分たちの落ち度や怠慢によって、自分たち自身の首を絞めることになるわけです。

今、会社では業務効率化が求められていますが、その第一歩は、「そんなの当たり前でしょ」「そこまでする必要があるの?」というルーチン業務を減らしていくことだと思います。そのために私は、自分がやるべきこと、守るべきことを怠らないように努めたいと思います。

以上(2023年3月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】丁寧さが好感を生みます。皆さんは丁寧さの基準を知っていますか

先日、取引先企業を訪問した際、言葉遣いや所作がとても丁寧な受付の方(女性)がいました。本当に丁寧に応対してくれたので、なんとなく気持ちがよくなりました。そのときは、その後の商談がうまく運ぶような気さえしました。また昨日、急ぎの要件で電話をかけたとき、相手の女性の受け答えが、とても丁寧でした。そのせいか、私の気のあせりは少し和らぎました。丁寧に応対されると、とても心が落ち着くだけでなく、嬉しくなるものです。

高級ホテルや高級レストランでは、皆さんはとても丁寧な接客を受けると思います。もちろん、彼らは接客のプロフェッショナルですので、言葉遣いや所作が丁寧なのは当然のことといえます。こうしたことが分かっていても、丁寧に応対してもらうと、悪い気はしません。

ここで逆のことを考えてみましょう。仮に、高級ホテルで、雑な応対をされたらどうでしょう。嫌な気持ちになるに違いありません。程度によっては、そのホテルを利用するのをやめようとさえ思うでしょう。

日常のビジネスシーンでも、同じようなことが起きているかもしれません。ここで、皆さんと取引先様との電話応対を思い出してください、常日ごろ、すべての取引先様に丁寧に応対していますか。

ポイントは「すべての取引先様」です。一口に取引先様といっても、大口のお客様、小口のお客様、これからお客様になってくれるかもしれない見込み客、仕入先様などさまざまです。皆さんの中に、大口のお客様にはとても丁寧に接している一方で、小口のお客様には丁寧さに欠ける応対をしている人はいませんか。仕入先様に対しては、「うちが商品を買ってやっている」という態度や物言いになっていませんか。

ビジネスシーンにおける応対の基本は、お客様の大小や、お客様か仕入先様かで、変わっていては混乱します。なぜなら、小口のお客様は大口のお客様になるかもしれないからです。それに、仕入先様がお客様になるかもしれません。もう少し分かりやすく説明しましょう。小口のお客様が大口のお客様になった場合、相手に有利に契約条件などを変更するのは、ビジネスとしてよくあることです。逆に、大口のお客様が小口になることも少なくありません。取引の大きさに応じて、取引条件が変更するのはビジネス上、問題はありません。しかし、相手の立場や取引額によって、応対を変えるようでは、皆さんだけでなく、会社の信用にもかかわります。

今後、皆さんはどのような立場の相手の方でも、社外はもちろん社内でも、上司と部下の関係であっても、丁寧に接してください。丁寧過ぎるぐらいでかまいません。丁寧な応対は間違いなく、好感を生みます。仮に、厳しい交渉でも、丁寧な言葉遣いで行うと、相手は感情的になりません。部下を厳しい言葉で叱責する際も、丁寧な口調でいうと、部下は納得します。

丁寧さは言葉遣いと口調、そして所作に表れます。皆さんの敬語が多少間違っていても、ゆっくりと優しい口調であれば、丁寧さは伝わります。

そして、肝心なことですが、丁寧さにも基準があります。分かりますか。よく、「相手に不快感を与えないようにすればいい」という方がいますが、これはマナーの問題であって、丁寧さの基準ではありません。

私が考える丁寧さの基準を皆さんに教えましょう。その基準は「相手よりも」です。相手を上回る丁寧さで応対すれば、相手は好感を抱いてくれるでしょう。今日から、相手よりも丁寧に応対してください。

以上(2023年3月)

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画像:Mariko Mitsuda

日本の歴史人物(徳川家康)

1 徳川時代を築いた「徳川家康」

天文11年(1542年)、徳川家康は、三河岡崎城主松平広忠の嫡男として生まれました。幼少のときに今川家の人質として駿府へ向かう途中、織田軍に拉致されてしまいます。

今川家から独立した後の家康は、織田信長と清洲城で同盟を結びます。以後、信長と共に転戦し、長篠の合戦では、織田家と共同で武田の騎馬隊を破っています。

本能寺の変後は、信長亡き後の主導権を巡り、豊臣の大軍相手に善戦しました。その後は秀吉に降(くだ)り、豊臣政権の有力大名として五大老の一人に任じられています。

秀吉の死後は、天下の覇権を得るべく東軍の総大将として関ヶ原で石田三成と決戦、勝利します。慶長8年(1603年)、朝廷に征夷大将軍に任命され、江戸に幕府を開きます。慶長20年(1615年)、大坂夏の陣において豊臣秀頼を滅ぼし、戦国の乱世に終止符を打ったのです。

徳川家康の生涯

2 家康の有名エピソード

1)不遇な生活を余儀なくされた幼少時代

家康が生まれた当時、三河の松平氏は東の今川義元、西の織田信秀に攻め込まれ、滅亡の危機にありました。そこで、家康の父、三河岡崎城主松平広忠は、この危機を乗り越えるために、今川氏の支援を受けて織田氏と対決しようと決意します。今川氏の支援を受けるために、家康は駿府に人質として差し出されることになります。まだ幼く、竹千代と呼ばれていた頃でした。

しかし、家康は、今川氏のもとへ護送される途中で、織田軍に拉致されてしまいます。尾張の織田信秀の人質として数年を過ごした後は、再度人質として、駿府の今川義元のもとへ移ります。

こうして、家康は長期間に及ぶ不遇な生活を余儀なくされることとなります。

2)忍耐の人、家康

家康は、幼い頃から人質として過ごしたせいか、非常に慎重で、忍耐強い人でした。「悪賢い」などというイメージが付きまといますが、長い間の人質生活は、人を慎重にさせるには十分な試練だったのでしょう。

家康は、戦国の乱世に終止符を打ち、明治維新まで約300年もの間続く江戸幕府の創始者となりました。

しかし、その覇業の道のりは、決して楽なものではありませんでした。死を覚悟したことも幾度となくあったようで、むしろ、苦難の連続だったといえます。

3)家康の危機

長い家康の人生のなかで、生命の危険にさらされたことは一度や二度ではありません。例えば、次のような出来事があります。

  • 桶狭間の合戦で、今川義元が織田信長に討たれて、岡崎まで引き揚げるとき。
  • 三方ケ原の戦いで、武田信玄に手痛い敗戦を喫し、城まで追って来た信玄の兵に迫られたとき。
  • 本能寺で、織田信長が明智光秀に討たれて、あわてて伊賀越えを敢行し、地侍や土民の一揆や敵の兵士に出会ったとき。
  • 小牧山で、豊臣秀吉と対戦したとき、裏から三河に兵を出されて、追いかけて討ち取ったとき。
  • 関ヶ原の合戦で、小早川秀秋との駆け引きで、鉄砲を撃って脅したとき。
  • 大坂夏の陣で、真田信繁(幸村)に本陣を突かれて後退したとき。

4)家康をささえた武将

家康が生き長らえたのは、冷静な判断力と並外れた運だけではありません。団結力の強い三河武士の家臣の存在が非常に大きかったといわれています。

具体的には、徳川四天王といわれた、井伊直政 、酒井忠次 、榊原康政 、本多忠勝などの存在です。これほどいい家臣に恵まれた諸大名も少なく、あの織田信長でさえ褒めたたえたといわれています。

家康は、重要なポストはすべて譜代の大名で固め、仕官してきた人を、あまり雇わなかったことでも有名です。逆に、織田信長や豊臣秀吉は平素から仕官してくれば雇っていました。

家康は家臣を自分で育てるタイプだったのです。軍評を開くときでも家臣に意見を言わせて、最後は自分で結論を出す方式をとっていたようです。

このような家康の人材育成の手腕は、現在でも立派に通用するでしょう。

徳川家康

5)家臣は至極の宝

家康には家臣を非常に大切にしていたことを表す、さまざまなエピソードが残っています。

あるとき豊臣秀吉が、家康をはじめ諸大名を集めて、自分の宝物などを自慢して、「さて、家康殿はどのようなお宝をお持ちですかな」と尋ねたことがありました。

このとき家康は、「ご存じのように、それがしは三河の片田舎の生まれですので、何も珍しいものは持っておりません。しかしそれがしのためには、水の中、火の中へも飛び入り、命を惜しまない士を500騎ほど配下にしております。これこそ、この家康にとって、第一の宝物と思っております」と答えたといいます。これに対し秀吉は、赤面して「そのような宝は自分も欲しいものだ」と言った逸話が残っています。

家康は自慢をしたというより皮肉を言ったという感じですが、家臣を大切に思っていることがよく伝わります。

実際、豊臣秀吉はさまざまな方法で家康の家臣を引き抜こうとしたようです。家康が家臣を宝のように思っていたことは、家臣にもよく伝わり、家臣もまた家康のために命をなげうったのでしょう。

6)家康の“ウラ話”

家康の人生のなかで、面白いエピソードが残っています。それは、次のような話です。

三方ケ原の戦いでは、負けて逃げる途中、追っ手の姿も見えなくなった家康はおなかがすいてきました。そこで一軒の茶屋で小豆餅を食べることにします。そこへ追っ手が迫り、驚いた家康は金を払わずに一目散に逃げ出してしまうのです。今でいう“食い逃げ”です。

それを茶屋の女主人が追いかけてきて、家康を捕まえ、餅代を受け取ったという逸話が残っています。

この話が本当かどうかは定かではありませんが、静岡県浜松市内には、茶屋があったところは「小豆餅」、家康を捕まえたところは「銭取」と、それぞれ地名になっています。

以上(2023年4月)

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【値上げに成功する交渉術(6)】相手を手玉に取る禁断の交渉テクニック

書いてあること

  • 主な読者:物価高騰で苦戦し、自社も値上げをしようと決意している経営者
  • 課題:交渉を有利に進めるためのテクニックがあれば知りたい
  • 解決策:「“間(沈黙)”をうまく使う」など6つのテクニックを押さえる。交渉相手にテクニックを使っていると指摘されても物怖じしないハートを持つ

1 「策士策に溺れる」にならないように

前回の「交渉前の最終確認と交渉中のバイアス排除」では、交渉に臨む前の具体的な準備事項を紹介しながら、大切なポイントとして、

  • 交渉の環境(参加者、場所、時間など)にも配慮すること
  • 交渉中はバイアスの排除を心がけること

を確認しました。これが分かっていれば、集中して交渉に臨むことができるでしょう。

シリーズ最終回となる今回は、より実践的な内容として交渉の場ですぐに使えるテクニックを紹介します。テクニックを駆使すると、驚くほど相手が動揺して交渉を有利に進められることがあります。一方、交渉慣れした相手はこちらのテクニックを逆手に取って、

そういうテクニックを使っても無駄ですよ。正々堂々とやりましょう

などと指摘しながら、局面をひっくり返しています。

テクニックは諸刃の剣であることを認識し、最も効果的と思われる局面で使ってください。では、交渉で使える6つのテクニックを紹介します。

2 “間(沈黙)”をうまく使う

沈黙に耐えられず、ついついくだらない話をしてしまうことはありませんか。

人は“間”に弱いものであり、この“間”を交渉でうまく使うことができます。基本は、

相手から厳しい要求をされたときに、こちらが“間”を取る

のです。そうすると、沈黙に耐えられなくなった相手が「今の要求は厳しすぎたでしょうか?」などと譲歩の姿勢を示してくることがあります。

ポイントは、こちらが“間”を取る際、相手に「聞き取りにくかったのかな?」であるとか、「こちらが有利で相当、追い込んでいるな」などと思われないことです。前者は大きな声ではっきりと同じことを繰り返されるだけですし、後者であれば一気に攻めてきます。そのため、

“間”を取るときは、メモを取る(実際は取っていなくてもいい)、遠くを見る

などのしぐさをしましょう。余裕があるなら、相手が厳しい要求を出してきたときに「そらきた。そこは予想していたよ」というこちら感情が伝わるしぐさをするのも悪くありません。

なお、相手が“間”を取ってくるようなら、こちらも黙って付き合えばよいのです。それでも状況が変わらなさそうなら、「本日はこれ以上の進展がなさそうですので、日時を改めましょう」といって交渉を打ち切ってしまえばよいのです。

3 良い警官と悪い警官

良い警官と悪い警官は、最もポピュラーな交渉のテクニックです。昔の刑事ドラマの取調室のシーンを思い出してください。

  • 刑事A:「おまえがやったんだろ!」と容疑者を激しく責め立てる
  • 刑事B:刑事Aを「まぁまぁ」と制し、容疑者に「かつ丼食うか?」と優しく接する

これが良い警官と悪い警官の基本です。一人が「これは150万円です」と相手に厳しい要求をしますが、もう一人は「それは難しいでしょう。せめて100万円まで当社も努力しないと」などと相手の味方のように振る舞います。この場合、こちらの主張は100万円でも十分な水準であり、150万円はいわゆる「アンカー」です。

なお、その場にいない上司を悪い警官にすることもできます。「私はいいのですが、上司が頑固で説得できるかどうか……」などといって、その場にいない人をうまく使います。

4 ドア・イン・ザ・フェイス(高い→低い)

最初に示した条件から譲歩を重ねます。相手にお値打ち感を与え、こちらの柔軟な姿勢を示すテクニックです。やり方は単純で、最初に150万円で提示し、そこから120万円、110万円と下げていくイメージです。

難しいのは最初の提示です。この例の場合、150万円という水準が相手にとって全く検討に値しないレベルだと意味がありません。ましてや、焦って値下げをすると「もともと上乗せして提示しているのだろう」と足元を見られ、その後の交渉がやりにくくなります。要求を引き下げていくドア・イン・ザ・フェイスは、こちらとしても心理的に楽なものですが、実施する際は相手の状況をしっかりと調べてからにしましょう。

なお、金額などの条件を引き下げる際は、

最初に大きく、その後は小さく

が基本です。こうして、「最初に誠意を見せてできるだけ頑張った。もう、これ以上は難しい」といった状況を演出するためです。ただ、相手がいわゆる「ハード型」の交渉をする場合、お構いなしでどんどん値下げ要求をしてくるので注意が必要です。

5 フット・イン・ザ・ドア(低い→高い)

先ほどのドア・イン・ザ・フェイス(高い→低い)とは逆のパターンです。つまり、少しずつ要求を引き上げながら、“合意感”を演出するテクニックです。

例えば、

「最初の2週間はお試し期間です」などといって商品を置いてもらい、そこから本契約にもっていく

というテクニックです。あまりやりすぎると、相手に「またか」と不誠実な印象を与えてしまうので、注意が必要です。

このフット・イン・ザ・ドアを値上げに使う場合は、

  • 初年度は10%の値上げ、次年度以降は15%の値上げ
  • 1000個までは10%の値上げ、それ以降は15%の値上げ

といったように交渉することになるでしょう。

6 その場で結論を出さない

その場で重要な判断を下し、それを相手に伝える人は多いです。交渉の場はプレッシャーがかかるので早く解放されたいですし、その場で決めたことが覆らないように相手との合意として明示しておきたいからです。

しかし、冷静になって振り返ってみると、その場で下した判断は、

  • 交渉から逃げたいので譲歩をした
  • 自分をよく見せようと譲歩をした
  • とにかく合意しなければならないという雰囲気になり譲歩をした

といった内容になっていることがあります。

ですから、それが重要な局面の判断であればあるほど、たとえ全権委任されていても、一度、持ち帰って検討するようにしましょう。ただ、毎回持ち帰って検討していると、相手から「優柔不断な人だ」とか、「この人は自分で決められないのか?」などと思われるので、持ち帰る口実は用意しておきましょう。例えば、

  • この件は当社の社長の関心も高いので、一度、報告しなければならない
  • 次の予定があるので、本日はこれで失礼します

などといった具合です。

7 相手を怒らせる

最後は禁断のテクニックです。通常、交渉の相手を怒らせることはありません。しかし、

相手がかたくなで、こちらが示したデータに反応しないような場合、わざと相手を怒らせて事態を打開する

こともあります。これが通用するのは、

  • 相手は頑固だが、真摯に交渉に向き合っている
  • 相手の交渉依存度が高い

という条件が満たされた場合です。

相手が真摯に交渉に向き合っているなら、一度怒らせて、交渉を打ち切ってみます。時間がたって冷静になった相手が「もしかすると、自分の主張は無茶なのか? あるいは前提が間違えているのか?」と考えてくれたらしめたものです。相手が真摯なら、双方にとって良い結果を目指しているはずですから、改めて交渉を開始することができます。

また、相手がこの交渉を成立させたいと強く思っていなければなりません。こうした状態を、交渉依存度が高いといいます。逆に、相手の交渉依存度が低いと、「自分を怒らせるなんて失礼だ。この交渉は決裂でいい」となり、交渉は終わってしまいます。

この相手を怒らせるというのは、それ以外に打開策が見当たらないようなケースでの最終手段なので、こちらも交渉決裂の覚悟を決めておかなければなりません。

以上(2023年3月)

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画像:Mariko Mitsuda

日本の歴史人物(豊臣秀吉)

1 出世に次ぐ出世で天下統一を成し遂げた「秀吉」

木下藤吉郎(後の豊臣秀吉)は、百姓の生まれですが、織田信長の小姓として取り立てられてより、自身の才能一つで次々と出世を重ね、織田家の武将、信長の後継者となり、そして天下統一を成し遂げました。

信長に取り立てられ、天下統一を成し遂げるまでの秀吉の生い立ちには、秀吉がいかに知略に優れていたかを示すさまざまなエピソードがあります。

豊臣秀吉の生涯

2 秀吉の有名エピソード

1)草履を温める気配り上手

秀吉がまだ木下藤吉郎と名乗っていた信長の草履取りの時代には、次のようなエピソードがあります。

ある雪の夜、信長が草履を履くと、温かくなっていた。「おまえは腰掛けていたな、不届き者め」と怒ると、秀吉は「凍るような日でございますゆえ、草履を胸に抱いて、温めておりました」といい、服の懐を開けて、草履の土がまだ付いているところを見せました。これに感心した信長は、すぐさま秀吉を草履取りの頭にしたといいます。

信長が秀吉に一目置くようになったきっかけは、この草履取りのエピソードにあるように信長に「気が利く」と思わせた点にあるのかもしれません。

2)プロジェクトリーダーとしての才能は抜群

藤吉郎が草履取りとして信長に仕えた清洲城(愛知県)では、ある時、地震で石垣が100間(約180メートル)ほど崩壊しました。藤吉郎は清洲城の修築工事の指揮を買って出ます。この工事は前任者がずいぶん時間を掛けても、なかなか進捗が思わしくなかったものです。

藤吉郎は職人たちを集めると、10組に分けました。そして100間ある城壁を10間ずつに分け、それぞれの担当として「これから競争で修復作業をするように。一番に仕上げた組には殿様からたくさんご褒美が出るぞ」と言い渡します。

職人たちも、100間は長い距離に見えますが、10間(約18メートル)なら、頑張れば何とか1週間でできそうな気がします。職人たちは昼夜を徹して働き続け、やがてどの組も1週間後、ほぼ修復を完了させました。

この仕事ぶりに信長は驚き、藤吉郎は出世の糸口をつかんだとされています。秀吉は現代でいうプロジェクトリーダーとして抜群の才能を持っていたのです。

豊臣秀吉

3)知略にたけた戦術家

秀吉がいかに知略にたけた戦術家であったかのエピソードはたくさんあります。その一つが天正9年(1581年)の鳥取城攻めです。

秀吉は、敵の兵糧の蓄えが多く戦が長期化しそうだと読むと、周到な作戦を練りました。まずは、城の兵糧を減らすために、商人を動員して鳥取城近辺の米を相場より高値で買いあさらせました。また、付近の村々を襲い、村人を鳥取城へと逃げ込ませたのです。城内の人口を増やし、早く食糧をなくす作戦です。

秀吉に完全に包囲された鳥取城の城内では、食糧が底を突き、木やねずみを食べたり、食糧を巡っての殺し合いも起きたりしました。そしてついに、城内の人間の助命と引き換えに城は秀吉に明け渡されたのです。

4)転機にとった素早い行動力

明智光秀が中国地方の毛利氏攻めの命を受けて大軍を率いて出発したものの、京都の本能寺で織田信長を襲撃した「本能寺の変」は秀吉の人生を大きく変える出来事でした。

そのとき、高松城で毛利方の勇将・清水宗治と対峙していた秀吉は、「本能寺の変」により信長死すの報を受け取るやいなや大急ぎで和睦に持ち込み、弔い合戦として後にいわれる「中国大返し」を敢行します。

光秀はまさか秀吉がそんなに早く引き返してくるとは思っておらず、「山崎の戦い」に敗れて退却中に命を落としました。わずか10日あまりの「天下」でした。この後、秀吉は光秀を倒したという実績もあり、信長の実質的な後継者となり、天下統一へ向かうことになります。

このように、転機にとった素早い行動力が、秀吉を天下人にしたのです。

5)秀吉のライバル家康

信長の実質的な後継者となった秀吉ですが、徳川家康という最大のライバルが存在することになります。

天正12年(1584年)3月、豊臣秀吉軍と徳川家康・織田信雄連合軍は互いに兵をあげることになります。この戦が「小牧・長久手の戦い」です。小牧でにらみ合いを続けた両者のうち、先に動いたのは秀吉軍でした。家康の本拠地岡崎を攻めるために三好秀次を総大将とした別動隊を送りましたが、その動きを察知した家康も行動を開始し、4月9日に長久手で激しい戦闘が起こりました。

結局、この戦いは、家康軍の勝利に終わりましたが、後に秀吉は信雄と和睦し、信長の後継者としての地位を確立しました。天下統一を果たした秀吉ですが、唯一戦で勝つことができなかった相手が家康なのです。

6)豪華絢爛(けんらん)な金を好んだ秀吉

天下統一を成し遂げた秀吉は、大坂(近代以降は「大阪」と表記)を本拠地と定め、日本の政治・経済の中心地としました。その象徴となったのが大坂城です。

大坂城は石山本願寺の跡地に、天正11年(1583年)より築城が開始された巨大で豪華絢爛な城です。初代の天守閣は金箔押しの屋根瓦で飾られ、天下人・秀吉の栄華の象徴でした。

秀吉の趣味は、茶の湯、能、鷹(たか)狩りであったといわれますが、なかでも、壁がすべて金でつくられた「黄金の茶室」は有名です。そのほかに、身の回りの品にもふんだんに黄金を使用するなど、秀吉は統治者としての威厳を誇示するために金を好みました。一代で大出世を果たした秀吉らしい好みといえるでしょう。

以上(2023年4月)

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インボイス制度開始間近! 事前準備と制度導入による影響とは?

書いてあること

  • 主な読者:インボイス制度について、詳しく知りたい経営者・税務担当者
  • 課題:インボイス制度の導入によって自社にどのような影響があるのか分からない
  • 解決策:自社が免税事業者だと取引継続のリスク、取引先が免税事業者だと納税額増加のリスクがある

1 最新の税制改正にも要注意! 開始間近のインボイス制度

2023年10月1日から「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」が始まります。インボイス制度とは、

消費税額から控除できる金額(仕入税額控除額)を正しく計算するための制度

です。また、インボイスは、

仕入先が消費税を納めたことを証明するものとして、売上先が仕入税額控除を受けるためになくてはならない書類

になります。そして、

インボイスを発行できる事業者(以下「適格請求書発行事業者」)になるには、登録申請が必要

です。インボイス制度が始まる2023年10月1日から適格請求書発行事業者となるためには、原則として2023年3月31日までに登録申請書を提出しなければなりませんでした。ただし、令和5年度の税制改正により、

2023年9月30日までに申請を行えば、実質的に2023年10月1日からインボイス発行事業者としての登録が可能

になる予定です(2023年2月時点)。とはいえ、申請書を提出してから登録番号の通知が来るまでに通常3週間程度の時間がかかります。申請をする場合は、余裕を持って手続きをしましょう。

■国税庁「適格請求書発行事業者の登録申請手続」■
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shohi/annai/0020009-098.htm

2 インボイス制度が始まるまでにすべきこと

インボイス制度が導入されると、自社が売り手となる取引では発行する請求書が、買い手となる取引では相手から受け取る請求書がそれぞれインボイスであるか否かで消費税の納税額などに影響します。

まずは、インボイス制度が始まるまでにすべきことを整理していきましょう。

1)適格請求書発行事業者の登録

適格請求書発行事業者になるには、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を所轄の税務署に提出し、承認を受けなければなりません。ただし、適格請求書発行事業者の登録は任意です。また、原則として、免税事業者は適格請求書発行事業者の登録申請ができません。免税事業者とは、消費税の申告・納税の必要がない小規模な会社や個人事業主などです。

免税事業者が適格請求書発行事業者に登録するには、「課税事業者選択届出書」を提出して、課税事業者となった上で、適格請求書発行事業者の登録申請をする必要があります。ただし、経過措置として、2023年10月1日を含む課税期間中に登録を受けた場合は、登録を受けた日から課税事業者になれます。

税務署による審査を経て登録されると、登録番号が通知・公表されます。

2)請求書フォーマットをインボイス仕様に

インボイスには次の事項を記載しなければならないため、現在使っている請求書のフォーマットをインボイス仕様に変える必要があります。下記6.と7.がインボイス制度の導入により追加される項目です。

  • 適格請求書発行事業者の氏名又は名称
  • 取引年月日
  • 取引内容(軽減税率対象品目である場合にはその旨)
  • 請求書等受領者の氏名又は名称
  • 税抜(税込)取引金額を税率ごとに区分した合計額
  • 上記5.に対する消費税額等及び適用税率
  • 登録番号

下記の請求書フォーマットを参考にしてください。あくまで、上記7つの項目の記載があればよく、記載箇所などの決まりはありません。多くの会社では、請求書をシステム上で作成しているので、確認が必要です。

請求書フォーマット例

3 売上先・仕入先のそれぞれの影響と対応

1)売上先(得意先)への影響

適格請求書発行事業者は、売上先からインボイスの交付を要求されたときはインボイスを交付することが義務付けられています。そのため、

自社が適格請求書発行事業者でない場合、インボイスを交付することができず、売上先で行われる消費税の計算において、仕入税額控除の適用を受けられない

ことになります。その分、売上先の消費税の納税額が増えるので、値引きの要請や他社への乗り換えの恐れがあります。

ただし、インボイスを発行する必要のない課税事業者、例えば売上相手が消費者であるB to Cの事業者などは、あえて登録する必要はありません。なぜなら、

消費者には消費税の申告・納税義務がなく、仕入税額控除を受けられるかどうかは関係ない

からです。

2)仕入先への影響

インボイスの保存が仕入税額控除の適用を受けるための要件なので、インボイスを仕入先から受け取らなければなりません。

そのため、免税事業者や消費者等、適格請求書発行事業者以外から商品を仕入れたり、サービスを受けたりした場合は、原則として、仕入税額控除の適用を受けられません。

仕入税額控除の適用の有無

ただし、インボイス制度開始後6年間は、免税事業者や消費者からの課税仕入れについても、一定の割合を仕入税額控除できる経過措置が設けられています。

4 免税事業者に関する影響と対応

1)自社が免税事業者で、売上先が課税事業者の場合

自社が免税事業者で、売上先が課税事業者の場合は、

  • 取引の継続
  • 利益とキャッシュへの影響

の2点を考えます。

取引の継続については、売上先が仕入税額控除の適用を受けられません。それを理由に取引を拒まれたり、消費税分の値引きを要求されたりする恐れがあります。この点に対応するためには、自社は適格請求書発行事業者として登録する必要があります。

そして、自社が適格請求書発行事業者になる場合、利益とキャッシュへの影響が出てきます。自社が適格請求書発行事業者になるために課税事業者になると、消費税の申告・納税義務が新たに発生します。そのため、売上先への請求額が変わらないとすると、消費税(費用)が増加した分だけ利益が減少し、さらに消費税の納税資金が必要になります。

なお、令和5年度の税制改正により、

税事業者が、インボイス制度の導入に伴って課税事業者を選択した場合には、「消費税の納税額は、売上に係る消費税(仮受消費税)の2割にする」制度(2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する課税期間の限定措置)

が導入される予定です(2023年2月時点)。

2)自社が課税事業者で、仕入先が免税事業者の場合

自社が課税事業者で、仕入先が免税事業者の場合でも、上記同様「取引の継続」「利益とキャッシュへの影響」を考える必要があります。

取引の継続については、先ほどとは反対に、自社が仕入税額控除の適用を受けられません。そのため、仕入税額控除の適用を受けるには、仕入先に適格請求書発行事業者の登録をしてもらう、あるいは、現在の仕入先との取引を中止して、新たに適格請求書発行事業者との取引を開始するなどの対応が必要となります。

利益とキャッシュへの影響については、仕入税額控除の適用を受けられない分、消費税の納税額が増えます。仕入先からの支払額が変わらないとすると、消費税(費用)が増加した分だけ利益が減少し、また、消費税の納税資金が増加します。

5 取引先別の影響一覧と、免税事業者の対応比較

取引先別の影響

免税事業者の対応比較(メリット・デメリット)

以上(2023年3月)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

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【値上げに成功する交渉術(5)】交渉前の最終確認と交渉中のバイアス排除

書いてあること

  • 主な読者:物価高騰で苦戦し、自社も値上げをしようと決意している経営者
  • 課題:いよいよ交渉に臨むが、最終的に何を確認しておけばよいか分からない
  • 解決策:交渉前に交渉の目的などを再確認する。相手の業界動向の分析内容も復習する。交渉中はバイアスの排除を意識する

1 準備に勝るものはない

前回の「強引な交渉相手と当たってしまったらどうする?」では、交渉のスタイルにはハード型とソフト型があることに触れながら、大切なポイントとして、

  • ハード型の相手に、譲歩が前提のソフト型で交渉してはいけないこと
  • 相手の交渉依存度が低く、しかもハード型なら、交渉は避けたほうがよいこと
  • とはいえハード型は相手に嫌われてしまい、以後のビジネスに悪影響があること
  • ソフト型で交渉を進めるには、日ごろのコミュニケーションも大事なこと

を確認しました。これが分かっていれば、交渉で理不尽と思えるほど強引な相手と遭遇しても、それは相手のスタイルだと見抜けるのですが、それでも交渉中に冷静であり続けることは難しく、腹を立てたり、恐れたりしてしまいます。この問題は自身の性格(カッとなりやすい性格、ビビりな性格など)とも関係するため、完全に解決できません。できることは、

入念な準備

をして、交渉中の自身の客観性を増すことです。準備をすれば交渉に対する自信も出てくるので、その場を俯瞰(ふかん)しやすくもなります。

では、どのような準備をすればよいのでしょうか。具体的な項目を確認していきましょう。

2 自社に関する交渉前のチェック項目

交渉に対する自社の方針、姿勢として、以下が明確になっているかをチェックしてみましょう。不明確なものがあれば、改めて検討します。

  • 交渉の目的は明確か
  • 交渉の方針は経営戦略に合致しているか
  • 交渉関係者は整理されているか
  • 交渉の論点は整理されているか
  • 自社の交渉依存度は高いか、低いか
  • BATNA(代替案)と留保価値は設定されているか
  • BATNAと留保価値は、交渉依存度とバランスが取れているか
  • 交渉する自分(たち)の権限はどこまでか
  • 相手と合意に至るための複数の選択肢を、交渉シーンに応じて柔軟に考えているか
  • 自社の案で合意できた場合、それを実行する際の難所は何か

3 相手に関する交渉前のチェック項目

同様に交渉に対する相手の方針、姿勢の「想定」をチェックしてください。これらの中で想定していないものがあれば、改めて分析してみてください。

  • 相手の業界動向などを分析しているか
  • 相手が重視している行動規範はどのようなものか。それは自社と相性が良いか
  • 交渉する相手の属性を調べたか(職種、出身校、実績など)
  • 相手の交渉関係者は整理されているか
  • 相手の交渉依存度は高そうか、低そうか
  • 相手のBATNAと留保価値は想定しているか
  • 相手の姿勢は強気か、弱気か
  • 相手の感情はどのような状態か(高揚、怒り、恐れなど)
  • 交渉する相手の権限はどこまでか
  • 相手の案で合意することになった場合、それを実行する際の難所は何か

4 業界動向の分析で使えるフレームワーク

1)フレームワークの関係性

相手の業界動向を分析する際は、フレームワークを使うと便利です。相手の業界動向の分析は値上げ交渉に行うものですが、交渉の直前に復習することをお勧めします。

いろいろなパターンがありますが、フレームワークの関係性をまとめたイメージは次の通りです。

フレームワークの関係性(イメージ)

この他、相手先の経営者や交渉の担当者のSNSをチェックしておくと、相手が大事にしている行動規範が想像できたり、共通の知り合いが見つかったりすることがあります。共通の知り合いがいたら、相手の状況をやんわり探ってみることもできます。

2)フレームワークの解説

上の図にあるフレームワークの解説は次の通りです。

・PEST
「Politics(政治)」「Economics(経済)」「Society(社会)」「Technology(技術)」の視点から、事業環境を分析するフレームワークです。ここでご紹介する中では最も視野が広いフレームワークです。政策や景気動向も分析するため、足元だけではなく、将来についても想定することになります。

・5Forces(5つの力)
「売り手の交渉力」「買い手の交渉力」「新規参入の脅威」「代替サービスの脅威」「業界内の競争状態」の視点から、その業界の競争状態の激しさを分析するフレームワークです。結果は「大・中・小」で示したりします。売り手の交渉力が強いときは「大」といった感じです。

なお、ここでは「外注先」を含めて6つの力としています。相手と自社のBATNAを考える際、他の外注先を常に意識することは大切です。

・3C
「Customer(顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」の視点から、経営資源や戦略、ニーズなどを分析するフレームワークです。分析は「顧客→競合→自社」の順番で行うことで、自分本位な結果を導かないようにします。相手の立場で検討する場合、自社を、相手にとっての顧客などとして想定します。

・Value Chain(バリューチェーン)
事業活動を「主活動(購買や製造、販売、アフターサービスなど)」と「支援活動(人事や労務など)」に分けて、生み出されている付加価値を分析するフレームワークです。相手の付加価値に大きな影響を及ぼす提案は受け入れてもらいにくいので、この辺りも意識しながら交渉の内容を検討しましょう。

・PPM
「花形(スター)」「金のなる木」「問題児」「負け犬」の視点から、市場の成長性や占有率を分析するフレームワークです。金のなる木で得た収益を問題児に投資して、花形に導くというのが1つの考え方です。

・SWOT
「Opportunities(機会)」「Threats(脅威)」「Strengths(強み)」「Weaknesses(弱み)」の視点から、外部、内部の環境を分析するフレームワークです。これまでの分析を、

  • 外部(Opportunities、Threats):PEST、5Forces、3C
  • 内部(Strengths、Weaknesses):Value Chain、3C、PPM

といったように組み込むこともできます。

5 交渉環境を整える

「いつ、どこで交渉するのか」という、交渉環境を整えることも重要です。サッカーでホームとアウェーがあるように、値上げ交渉も相手のオフィスより自社のほうがリラックスできます。今どきは、オンラインで交渉することもあるでしょうが、オンラインだと「相手の圧力」を感じずに済むので、交渉に慣れていない人は、オンラインを申し入れるのも悪くありません。

また、一般的ではありませんが、

相手が嫌がらせをしてきたり、高圧的な態度(ハード型というよりも脅し)を取ってきたりすること

もあるので注意しましょう。

この他、相手が難しい専門用語を使ってまくしたててくることが想定されるなら、専門的な知識を持った第三者に同席してもらうのもよいです。

交渉環境を整える

6 バイアスを排除する

交渉中はバイアスの排除を心掛けましょう。バイアスとは先入観や偏りのことで、私たちは無意識のうちにたくさんのバイアスの影響を受けています。例えば、

  • 相手が高学歴だったら、「論理的に違いない」と感じる
  • 相手が体の大きなこわもてだったら、「交渉も強そう」と感じる

といったことです。そして、相手がたまたま理路整然と話をしてきたら、「やはり、この人は頭が良い!」などと思ってしまいます。

「グロービスMBAで教えている交渉術の基本」(*)などを参考にすると、交渉中に気を付けたいバイアスには次のようなものがあります。

  • 確証バイアス:自分の考えと同じ意見やデータだけを熱心に支持する
  • 反射的な拒絶:客観的な検証などはなく、とにかく反射的に相手の提案を低くみる
  • 役職への固執:その場で一番偉いのは自分なので、自分の意見が正しい
  • 立場固定:交渉の局面が変化して合理性を失った主張でも、それを変えない
  • 勝利への固執:勝つことに固執して相手を否定し、ゼロサムゲームを展開する
  • 嫉妬・妬み・憧れ:自分より優れた人を避ける、あるいは無条件に近い状態で従う
  • 印象管理:意見や態度の一貫性を取り繕うために、非合理的な判断をする
  • サンクコスト:既に発生したコストを、将来の判断をする際に考慮する
  • グループシンク:集団浅慮。「合意しなければ」と強迫観念に支配される

値上げ交渉の目的は「値上げ」ですが、バイアスにとらわれると、

  • 相手を恐れてしまい、主張できない
  • 相手を「すごい」と思い、相手の主張を必要以上に受け入れてしまう
  • 相手を「嫌い」と思い、相手の主張が合理的でも一切受け入れたくなくなる

といった状況に陥りかねません。そこで、次のことを心得てバイアスを排除しましょう。

  • 相手と自分とでは行動規範が異なる。そもそも重要視する価値観や使う言葉さえ違うのだから、こちらの言葉が届きにくいのは当然
  • 人と問題を切り離す。値上げを受け入れないのは目の前の相手ではなく、相手の企業の方針である
  • 交渉の目的を再確認。必ず合意しなければならない交渉なのか、決裂してもよいのか

自分が「冷静さを失ってきたかも」と感じたら、トイレ休憩などを申し出て、席を立つとよいでしょう。ただし、相手の目の前でため息などはつかないようにします。「こちらが冷静になろうとしている」ことを見透かされ、逆手に取られてしまうことがあるからです。

7 交渉を有利に進めるためのテクニック

いかがでしょうか。今回の記事で交渉前にチェックしておくべき項目と、交渉中に、バイアスにとらわれないようにするための心構えがお分かりいただけたと思います。

最終回となる次回は、交渉を有利に進めるために知っておきたいテクニックをご紹介します。昔の刑事ドラマでは、犯人を怒鳴り散らす刑事と、カツ丼を出してくれる刑事がコンビで取り調べをするシーンをよく見かけましたが、実は、これも交渉のテクニックの1つです。詳しくは、次回の記事でご確認ください。

以上(2023年2月)

(*)「グロービスMBAで教えている交渉術の基本」(グロービス(著)、ダイヤモンド社、2016年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

日本の歴史人物(織田信長)

1 日本人離れした先見性と合理性を併せ持った「織田信長」

尾張地方の一城主の長男に生まれた信長は、小さい頃は粗野でうつけ者と評判でしたが、成長してひとたび戦場で指揮を執ると天才的なひらめきを見せ、天下取りを目指して武将たちがしのぎを削る下克上の世の中でめきめき頭角を現していきました。

信長が大勢の戦国武将たちの中から抜きんでたのは、時代の一歩も二歩も先をゆく先見性と日本人離れした合理性によるものでした。

織田信長の生涯

2 信長の有名エピソード

信長にまつわるエピソードは多くありますが、この記事では代表的なものを紹介します。

1)能力ある家臣を積極的に登用

信長は家臣の登用も型破りでした。能力があり、自分の天下統一に役に立つと思えば、貧農出身の豊臣秀吉や新参者の明智光秀をも重臣に抜てきしました。人材は器量に応じて登用し、一族・肉親といえどもそれだけでは重用しませんでした。

半面、「能力がない」と判断した家臣に対しては、それまでの功績や身分に関係なく厳しい処罰をすることもありました。例えば、佐久間信盛は信長の父・信秀に仕え、後に信長に従った重鎮でしたが、戦果がはかばかしくない責任を取らせ、追放しました。ただし、このような厳しい処罰はメリットだけではなく、明智光秀の離反を招く一因になったと考えられています。

織田信長

2)誰でも商売ができるようにした「楽市楽座」

「天下布武」を目指した信長は、安土の地を自らの王国の建設地に選びました。その理由は諸説ありますが、琵琶湖が近く、水陸交通の要衝であったこと、生まれ故郷の尾張と旧勢力の中心地である京都とのちょうど中間にあったことなどが大きいとされています。信長は安土に戦国時代の覇者にふさわしい壮麗な安土城を建設し、城内に秀吉や前田利家などの重臣の邸宅を建てて住まわせました。

城下には楽市楽座を設けたため、全国から商人や職人たちが集まってきました。それまでは「座」という商人の組合に入らなければ、商売をすることが許されませんでした。信長は独占的な組織の「座」を廃止し、誰でも商売ができる世の中に変えたのです。また、貨幣の交換レートを定め、商品流通を促しました。こうした経済自由化の結果、国内産業は近代化への一歩を大きく踏み出したのです。

3)宗教と政治を切り離すことに力を傾ける

信長は宗教と政治を切り離すことにも力を傾けました。信長の天下統一の前には戦国大名だけでなく何人もの強大な戦国大名が立ち塞がり、そのたびに信長は合戦で勝利を収めてきましたが、そんな信長でも苦戦を強いられたのは一向宗や比叡山といった宗教集団でした。当時、彼らは僧侶でありながらも、巨大な政治力と軍隊を持っていました。信長は僧侶たちが政治の世界に介入することを許さず、徹底的に彼らを打ちのめしました。

だからといって信長は宗教そのものを否定したわけではありません。それはその頃、日本に入ってきたキリスト教に対する信長の態度を見れば明らかです。新し物好きでもあった信長は、イエズス会の宣教師たちを手厚くもてなし、彼らの布教を保護すると同時に、西洋文化を彼らから吸収したのです。

4)信長最後の言葉「是非に及ばず」

明智光秀が本能寺にいた織田信長を襲撃した「本能寺の変」は戦国時代、あるいは日本の歴史を大きく変える大事件でした。

わずかな供回りを連れて本能寺に滞在していた信長は、夜半、人々の争う声で目を覚まします。襲撃者が光秀と知った信長の口から出たのは「是非に及ばず」という言葉だったといわれています。

この「是非に及ばず」とは普通、「仕方がない」と訳すことができます。光秀ほどの戦上手が囲んだからにはもう逃げ場はない、諦めよう、という意味にとることもできます。

しかし、別の解釈も成り立ちます。「是非」は本来「善しあし」という意味ですから、「善い悪いは関係ない、自分と同じことを今度は光秀がやろうとしているだけだ」と捉えることもできるでしょう。であるならば、善悪を超越した乱世の雄、信長らしい言葉といえるでしょう。

【参考】

  • 小学館「Jr.日本の歴史 4」(平川南、五味文彦、大石学、大門正克編 山田邦明著)
  • 山川出版社「戦国大名 歴史文化遺産」(五味文彦監修)
  • ポプラ社「織田信長(徹底大研究日本の歴史人物シリーズ5)」(谷口克広監修)

以上(2023年4月)

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【コスト削減の教科書(10)】交際費

書いてあること

  • 主な読者:資金繰りに不安があり、もう一段のコスト削減を図りたい経営者や財務担当者
  • 課題:コスト削減の中でも、手始めに経費削減を行う際のポイントを確認したい
  • 解決策:まずは基本的な考え方や進め方に立ち返り、交際費の削減を検討する。交際費の支出を事前承認制にすることから始め、予算設定の方法を見直し、めりはりをつけた支出を行うようにしていく。公私混同をさせないための従業員への教育も重要

1 難易度別・コスト削減のヒント

難易度C(ルールの変更や制度の導入をすれば実行が可能)

  • 交際費の支出を事前承認制にする

難易度B(実行するための作業や準備が必要)

  • 税法上の扱いを確認する

難易度A(事業全体への影響の考慮、従業員の自発的な協力が必要)

  • 交際費の支出に、めりはりをつける
  • 交際費の予算設定の方法を見直す
  • 公私混同がないよう従業員教育を徹底する

2 交際費を削減する際の考え方

交際費は、企業が得意先や仕入先を接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(以下「接待」といいます。)のために支出するものをいいます。

得意先や仕入先(見込み客も含む)の接待のための飲食費、送迎費、贈答費など

が該当します。よく会議費と混同されがちになりますが、会議費は社内での会議や、取引先との打ち合わせに関して使用した費用になります。

交際費は、「取引先への接待が、信頼関係の維持にどれだけ効果があったのか。もし、接待をしなかったら、信頼関係がどれだけ悪くなってしまうのか」など、目に見える費用対効果が分かりにくい場合があり、不要な支出の温床になりかねません。

そのため、交際費を削減するためには、予算の見直しや、事前承認制を導入するなどして、無駄な支出を防ぐ仕組みをつくることがポイントになります。

3 交際費を削減する際の具体的な方法

1)難易度C:交際費の支出を事前承認制にする

交際費の支出を事前承認制にする方法があります。接待交際の目的、場所、出席人数、予算などを記載した申請書をあらかじめ提出し、各部門長の決裁を得るようにすることで、無駄な交際費の支出を抑えることができます。

その際、部門長に一定の支出権限を認めると同時に、それに対する責任も負わせるようにすべきです。また、支出目的に応じた交際費の限度額をあらかじめ設定しておくとよいでしょう。

2)難易度B:税法上の扱いを確認する

交際費は、一定の支出については損金算入できるなどの特例措置があるものの、税法上、原則として損金に算入できません。そのため、損金に算入できる類似した費用と混同することがないように注意する必要があります。

例えば、事前承認制における決裁者に対して、ある程度税法上の定めについて教育するなどして、決裁時に判断できるようにしましょう。

ただし、税法上の取り扱いは判断に迷うケースも多いため、財務・会計の担当者や、顧問税理士などの専門家に相談するようにしましょう。

3)難易度A:交際費の支出に、めりはりをつける

交際費の支出には、得意先、仕入先などとの関係性に応じ、めりはりをつけるのが大切です。

例えば、「取引金額」「取引年数」「将来見込み」などで序列を付け、重要性の高い得意先、仕入先には、一定程度手厚い支出を認める一方、さほど重要でない得意先、仕入先には費用を掛けない方法で接待を行う、または接待交際を行わないという判断もあるでしょう。

4)難易度A:交際費の予算設定の方法を見直す

交際費の予算を売上高や粗利益に対する比率で決めると、売上高や粗利益の伸びに比例して、予算が余計に膨らんでしまう可能性があります。その場合、比率ではなく絶対額で予算を決めるというのも1つの方法でしょう。

また、適正な交際費の水準を探る上では、同業種・同規模の企業と自社の交際費の支出額を比較してみることも大切です。

例えば、国税庁「会社標本調査」では、業種別・資本金階級別で見た「交際費等」の平均金額を把握することができます。ただし、交際費は、営業上必要不可欠であると判断した金額を支出するものであり、国税庁の統計データはあくまで1つの目安です。

5)難易度A:公私混同がないよう従業員教育を徹底する

前述したように、交際費は目に見える費用対効果が分かりにくいだけに、「誰に、どれだけ、どのような形で支出するか」の判断が、従業員の裁量に委ねられる部分が多くなります。そのため、費用対効果に対する意識が薄れがちで、場合によっては公私混同した使い方ができる余地も生まれかねません。

従業員には、交際費は「会社の代表として、会社に利益を誘導するために使う、会社の貴重なお金」という意識を持たせるように、教育を徹底する必要があるでしょう。

参考:交際費等の課税の特例の概要

「交際費等の課税の特例」として、2014年4月1日~2024年3月31日までの間に開始した事業年度において、法人が支出する交際費等の額のうち、接待飲食費の50%相当額までは所得の計算上、損金に算入することができます。

また、中小法人は、定額控除限度額800万円までの損金算入と、接待飲食費の50%相当額の損金算入のいずれかを選択適用できます。

中小法人とは、事業年度終了日における資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人をいい、普通法人のうち、事業年度終了日における資本金の額または出資金の額が5億円以上の大法人による完全支配関係がある子法人等を除きます。

以上(2023年2月)

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“行き過ぎた配慮”を卒業し、「三方よし」を実現しよう

来月から新年度ですね。今日はビジネスの鉄則「三方よし」をテーマに話をします。三方よしは、「売り手」と「買い手」がともに満足し、「世間」にも良い影響を与えられるのが本当の商売であるという、江戸時代から伝わる有名な経営哲学です。ただ、私は最近、買い手や世間への“行き過ぎた配慮”が、「三方よし」の妨げになっているのではないかと思うことがあります。

例えば、テレビ業界で使われる「コンプライアンス」という言葉です。本来は「法令遵守」という意味ですが、テレビ業界では「道徳的に守らなければならないルール」といった意味でも使われており、最近のバラエティー番組では、痛みを伴う罰ゲームが減り、人の容姿をいじることがNGになるなどの影響があるようです。

コンプライアンス自体は尊重すべきで、差別につながり得る表現などは是正されて当然です。ただ、最近はハリセンで人をたたくことさえ目にしなくなり、売り手であるテレビ局が、一部の視聴者からのクレームを避けたいだけのように思えることもあります。買い手である視聴者への配慮が“行き過ぎ”て、無難な番組しか作れなくなれば、視聴者が楽しめる番組がなくなります。表現の規制が本来必要なレベルを超えてしまうのは、世間にとっても良くありません。うがった見方をすれば、クレームを避けたいテレビ局のエゴともいえます。「三方よし」の考え方に照らすと、「売り手だけよし」の状態といったところでしょうか。

私たちのビジネスでも、同じようなことがあるでしょう。分かりやすいのは、お客さまから、提供している商品やサービスに対して「価格を下げてほしい」と言われた場合です。もちろん、お客さまの要望にある程度歩み寄ることは必要ですが、そこにとらわれすぎると、何かを犠牲にしなければならなくなってしまいます。この場合、売り手である私たちの事業継続に支障が出るほど利益を損なうことになるか、お客さまの利便性を悪化させかねないほどにまで品質を落とすしか、対応方法がないでしょう。2つの対応のいずれかを取った場合、「三方よし」の考え方に照らすと、「買い手だけよし」、もしくは「三方わるし」の状態になってしまいます。

そうではなく、本当の意味での「三方よし」を実現するためには、私は買い手や世間への“行き過ぎた配慮”を卒業する必要があると思います。それはつまり、私たちが売り手としての存在意義を自覚し、お客さまに対しても譲れない部分を明確にすることです。お客さまの不利益になったり、道徳に反したりすることは許されませんが、そうでないのなら、「私たちは、商品やサービスを通じてこんな価値を提供できる」という自分たちの強みを、自信を持ってプッシュしていくのです。お客さまや世間からそこへの共感を得てこそ、「売り手、買い手、世間よし」ではないでしょうか。まずは「自分を出す」ことから始め、エネルギッシュな新年度にしていきましょう。

以上(2023年3月)

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