【オーナー企業の事業承継(3)】 自社株式の評価と相続税額の把握

書いてあること

  • 主な読者:事業承継を検討している中小企業の経営者
  • 課題:自社株式の評価や、相続税の計算の全体像を知りたい
  • 解決策:それぞれの計算フローに沿って、どのように算定されるのか基本事項を押さえる

1 事業承継や相続における現状分析と問題点の把握

事業承継や相続に関する検討の第一歩は、現状分析と問題点の把握です。ここでいう現状分析とは事業自体が継続できるかどうか、また後継者の有無に加えて、株主構成、経営権の承継に関する問題点、自社株式の評価額、オーナーに万一のことがあった場合の相続税額の把握などが含まれます。

2 自社株式の評価方法

1)評価方法

相続税や贈与税の計算上、自社株式の評価は財産評価基本通達に基づき、次のいずれかの方法で行います。

  • 「同族株主」間の相続や贈与の場合:原則的評価方式
  • 上記以外の少数株主の場合:例外的評価方式

2)同族株主の判定

原則的評価方式が適用される「同族株主」とは、

株主の1人とその同族関係者(詳細は後述)の保有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の30%以上である場合の、その株主とその同族関係者

をいいます。

ただし、株主の1人とその同族関係者の保有する議決権の合計数の最も多いグループが、その会社の議決権の50%超を保有している場合には、その50%超の議決権を保有する同族関係者グループだけが「同族株主」となり、その他の株主グループが30%以上の議決権を保有していたとしても「同族株主」とはなりません。

3)同族関係者とは

「同族関係者」とは株主の1人と特殊な関係のある個人または法人(判定しようとする会社の株主の1人が他の会社を支配している場合における当該他の会社)をいいます。

なお、特殊な関係のある個人とは次に掲げる者などをいいます。

  • 株主などの親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)
  • 株主などの使用人
  • 株主などと婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者

なお、「原則的評価方式」が適用となる株主は、上記の「同族株主」がいる場合の他、他の「同族関係者」グループの議決権割合に応じて、さまざまな場合に該当する可能性があります(末尾に参考資料を添付)。

実際の評価方法の判定に当たっては税理士、公認会計士などの専門家に助言を求めるようにしてください。

3 原則的評価方式による評価

1)原則的評価方式のフロー原則的評価方式は会社規模などにより、

  • 類似業種比準方式
  • 類似業種比準方式と純資産価額方式の折衷方式
  • 純資産価額方式

で評価する方法をいいます。なお、原則的評価方式による評価は、

  • 会社規模の判定
  • 特定会社の判定
  • 株式の評価方式の決定

の順に行います。原則的評価方式のフローは次の通りです。

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2)会社規模の判定

会社規模は、評価する株式を発行した会社(以下「評価会社」)の「従業員数」「総資産価額」「取引金額(売上高)」により判定し、「大会社」「中会社の大・中・小」「小会社」に区分します。

  • 従業員数が70人以上の評価会社は、「大会社」に該当します。
  • 従業員数が70人未満の評価会社は、次の(図表2)に基づき、「取引金額基準」「従業員数を加味した総資産基準」で、それぞれ会社規模の判定を行い、いずれか大きいほうの会社規模を採用します。

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例えば卸売業で「取引金額」6.5億円、「従業員数」51人、「総資産価額」5億円の会社は「取引金額基準」では「中会社の中」となり、「従業員数を加味した総資産基準」では「中会社の大」となり、会社規模の判定は大きいほうの「中会社の大」に該当します。

3)特定会社の判定

評価会社が次の特定会社に該当する場合は、一般の評価会社とは資産の保有状況や営業の状況が異なるため、後述の評価方式の決定にかかわらず、原則として「純資産価額方式」により株価を計算することとなります。

通常は「純資産価額方式」によって計算すると株価が高くなるケースが多いため、十分な注意が必要です。

1.株式保有特定会社

株式保有特定会社とは、評価会社の相続税評価額による総資産のうち、保有する株式および出資(以下「株式等」)の価額の合計額の占める割合が50%以上の会社をいいます。

2.土地保有特定会社

土地保有特定会社とは、評価会社の相続税評価額による総資産のうち、保有する土地などの価額の合計額の占める割合が次に該当する会社をいいます。

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3.比準要素数1の会社

比準要素数1の会社とは、類似業種比準方式の計算の基となる「配当」「利益」「純資産」の3つの要素の直前期における金額のうち、いずれか2つの要素の金額がゼロまたはマイナスであり、かつ直前々期における2つ以上の要素の金額がゼロまたはマイナスである会社をいいます。

4.開業後3年未満の会社

課税時期において開業後3年未満の会社をいいます。

5.比準要素数0の会社比

準要素数0の会社とは、類似業種比準方式の計算の基となる「配当」「利益」「純資産」の3つの要素の直前期における金額が、いずれもゼロまたはマイナスである会社をいいます。

6.清算中の会社

7.開業前または休業中の会社

4)株式の評価方式の決定

上記の特定会社に該当しない場合は、会社規模に応じて評価方式を決定します。評価方式の決定は次の通りです。

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5)類似業種比準方式

1.類似業種比準方式の計算

類似業種比準方式とは、評価会社の「配当」「利益」「純資産」の3要素を基準にして、類似する業種の上場会社の株価に比準して株価を計算する評価方式です。類似業種比準方式の計算方法は次の通りです。業種および比準する株価等の数値は国税庁が公表する「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」から選定します。

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2.類似業種比準方式の計算上の留意点

類似業種比準方式の計算上の留意点は次の通りです。

  • 3つの要素の金額は原則として直前期、直前々期の平均数値を使用します。従って評価額には株式相場の水準に加えて、評価会社の決算での業績が影響を与えます。
  • 比準する類似業種の数値に対して自社の3つの要素が高い場合は、自社株の評価額も高くなります。
  • 業種目は評価会社の主たる業種目により判定します。複数の業種目を兼業している場合は、単独の取引金額が50%を超える業種目により判定します。
  • 計算に用いる「配当」「利益」は経常的なものに限ります。そのため、「配当」については特別配当や記念配当などの将来毎期継続することが予想できない金額は除いて計算します。

また、「利益」については固定資産売却益や保険差益といった非経常的な利益は除いて計算します。この場合、非経常的な利益より非経常的な損失が大きいときは、非経常的な利益はゼロとして計算します。

6)純資産価額方式

1.純資産価額方式の計算

純資産価額方式は、会社の資産の額から負債の額を控除した純資産価額を自社株式の価値とする方式です。これは会社の清算価値に着目した評価方式ともいえます。

純資産価額方式のイメージ図と計算方法は次の通りです。

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2.純資産価額方式の計算上の留意点

純資産価額方式の計算上の留意点は次の通りです。

  • 長期に滞留している不良資産や含み損を抱えた遊休資産について、税法上認められる範囲で除却することにより、評価を引き下げることができます。
  • 相続税評価上、資産内容を時価よりも評価を引き下げられるような不動産などの資産に組み替えることも、評価の引き下げに効果があります。ただし、評価時点から3年以内に取得した不動産については取引価額での評価となるため、組み替え後3年を経過しないと、引き下げの効果は得られないため注意が必要です。

4 例外的評価方式による評価

同族株主以外の株主や同族株主のうち少数の株式を有している株主が取得した株式については、会社の規模にかかわらず、例外的評価方式である配当還元方式により株式評価を行います。

配当還元方式の計算方法と計算例は次の通りです。

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5 相続税の計算

1)相続税の計算フロー

相続による自社株式の承継に係る相続税は、承継のためのコストと捉えることができます。また、相続税の納付は原則金銭による一括納付が原則ですが、これを納付期限である相続発生後10カ月以内に納付することが必要となりますので、相続税の納付資金をあらかじめ用意しておくことは、スムーズな事業承継を進めるための第一歩ともいえます。それには、オーナーに万一のことが発生した場合に必要となる相続税額を、大まかにでも把握しておくことが大切です。

相続が発生した場合の相続税の計算フローは次の通りです。

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1.課税遺産総額の計算

土地、建物、現預金といったプラスの財産の評価額の合計額から、借入金や未払金などのマイナスの財産および葬式費用の合計額を差し引いた正味の遺産額から基礎控除額(3000万円+(600万円×法定相続人の数))を引いた額が課税遺産総額となります。

課税遺産総額の計算(イメージ)は次の通りです。

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法定相続人は、民法で範囲が決められていて、次のような相続人の順番になっています。

第1順位:配偶者と子
第2順位:配偶者と直系尊属(被相続人の父母)
第3順位:配偶者と兄弟姉妹

また、遺言などにより相続分の指定がない場合の共同相続人の順位と相続分は次の通りです。なお、配偶者は常に相続人となります。

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2.相続税総額の計算

算出した課税遺産総額を、いったん法定相続分で分割したものと仮定して、各相続人の相続分を算出し、これに相続税率を乗じて計算した税額の総額が相続税総額となります。なお、相続税総額を計算する際は、次の速算表を参考にするとよいでしょう。

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3.各人の相続税額の計算

上記で算出した相続税総額に実際の各人の取得割合を乗じて相続税額を算出します。

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2)相続財産について

次の財産については、相続が発生した時点で被相続人が保有していた財産に加算されて相続財産となりますので、注意が必要です。

1.一定の贈与財産

次の一定の贈与財産は、相続財産とみなして相続税が課されます。

  • 相続開始前3年以内(2024年1月1日以降に発生した相続については、7年以内)の暦年課税贈与財産
  • 相続時精算課税制度により贈与された財産(2024年1月1日以降に発生した相続については、相続時精算課税制度を選択した上で行った贈与のうち、毎年110万円までの贈与は相続財産に含まれません)
  • 贈与税の納税猶予制度により贈与された非上場株式

2.みなし相続財産

次の財産は民法上では受取人固有の財産ですが、相続税法上では相続財産とみなして相続税が課されます。

なお、生命保険金と退職手当金については、それぞれ「500万円×法定相続人の数」を非課税財産として控除することができます。

  • 死亡保険金(生命保険・損害保険)
  • 死亡後3年以内に支給が確定した退職手当金
  • 生命保険契約に関する権利

6 (参考資料)同族株主のいない場合の自社株式の評価方法の選定フロー

同族株主のいない場合の評価方法の選定フローは次の通りです。

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7 (参考資料)同族株主のいる場合の自社株式の評価方法の選定フロー

1)筆頭株主グループの議決権割合が30%以上50%以下の場合

同族株主のいる場合の評価方法の選定フロー(筆頭株主グループの議決権割合が30%以上50%以下の場合)は次の通りです。

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2)筆頭株主グループの議決権割合が50%超の場合

同族株主のいる場合の評価方法の選定フロー(筆頭株主グループの議決権割合が50%超の場合)は次の通りです。

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以上(2023年6月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:soo hee kim-shutterstock

【事業承継】株式移転で持株会社を設立するスキーム~親族外承継に最適

書いてあること

  • 主な読者:親族内で後継者が見つからず、事業承継が進まない経営者
  • 課題:親族外承継のスキームはさまざまで、どの方法がよいか迷っている
  • 解決策:株式移転で持株会社を新設するスキームで、低コストで事業承継が実現する

1 親族外承継を実現するための「持株会社」の活用

この記事で紹介するのは、

「株式移転」によって持株会社を設立するスキーム

です。株式移転では現金の代わりに株式などを用いて行うため低コストで実施可能です。

株式移転を活用して持株会社を設立するイメージは次の通りです。

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オーナー経営者が所有する事業会社A社(以下「A社」)の株式を、新設する持株会社B社(以下「B社」)に現物出資します。その対価として、持株会社の新株(B社株式)を引き受けます。この一連の手続きが「株式移転」です。その結果、オーナー経営者、A社、B社の関係は次のようになります。

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株主(オーナー経営者)は、B社にA社株式を売却しているわけではないので課税されません。つまり、税金コストをかけることなく、B社にA社株式を保有させることができるのです。

2 持株会社を使った財務改善

設立したB社を有効活用しなければなりません。ここで重要となるのが不動産です。例えば、A社の本社や工場の土地建物をB社に売却すれば、A社の現預金が増加し、財務改善につながります。これを借入金の返済に充てれば、有利子負債も減ります。このように、

A社を財務的に強い会社とした上で、後継者に経営のバトンを渡す

ことができます。

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3 持株会社を使った所有と経営の分離

このような処理をした結果、B社は株式と不動産を所有します。株式と不動産を所有するだけなら、親族に経営を任せやすくなります。そして、事業を行うA社の経営は、従業員の中で一番優秀な者(親族外の者)に委ねることができるでしょう。つまり、

「A社の所有」はB社に、「A社の経営」は事業会社の経営者に分離する

ということです。

なお、A社はB社に対して事業で使用する不動産の賃料を常に支払わなければなりません。逆に言えば、B社には自然と売上(不動産収入)が計上されます。また、A社から配当を受けても、B社はA社株式を100%所有しているので課税されることはありません(配当収入)。詳細は割愛しますが、これは、

受取配当金の益金不算入

という法人税法上の取り扱いです。

4 持株会社を使った経営管理の仕組みづくり

持株会社を活用すると、事業会社の管理も効率化できます。A社株式はB社に100%所有されているので、A社の株主総会はB社が書面のみで決定できます。どういうことかというと、

通常ならば複雑な手続きが必要となるA社の経営者変更や役員報酬の決定なども、B社で書面決議すれば手続きが完了する

ということです。

もちろん、形式的な処理だけで会社の経営ができるわけではありませんが、法的に強い管理を及ぼすことができる組織を作ることは重要です。B社を活用すれば、それが比較的少ない負担で実現するわけです。

5 A社の従業員社長を管理する際の留意点

このように株式移転を活用して持株会社を設立する事業承継には、多くのメリットがあります。とはいえ、将来にわたって事業会社(ここではA社)の経営者となった従業員などを管理し続けるのは難しいでしょう。実際、数十年間も経営を任せていたら、子会社の社長(以下「従業員社長」)が言うことを聞かなくなったという相談を受けることもあります。

こうならないように重要となるのが従業員社長のコントロールであり、そのポイントは「報酬」と「任期」です。

1.報酬

事業会社の経営を任せるのですから、やりがいのある報酬の設定が必要です。毎月の固定報酬、決算時の賞与、そして退職慰労金について、経営者としての職務に見合った一定のルールを作ります。

2.任期

経営者の任期を決めることも重要です。あまりに長期間経営を委ねてしまうと、どうしても自分の会社だという意識が生まれてきます。そこで、実務的には5年程度のローテーションで経営を委任できるような運用が望ましいところです。

6 所有と経営の分離と出口戦略

所有と経営を分離した状態で一時的に親族外に承継しますが、次の世代で親族内から後継者を選べた場合は、親族への承継を実施することになります。あるいは、経営を任せていた従業員社長が独立を希望するならば、MBO(マネージングバイアウト)によって事業を従業員に譲渡することもできます。

持株会社が事業会社の株式を100%所有している場合、事業会社からの配当金には課税されません。現金だけでなく現物資産を配当することもできます。となると、事業に必要な資産だけを残し、それ以外を持株会社に移転すれば、事業会社の価値は押し下げられ、従業員社長が買い取りやすくなります。

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以上(2023年6月更新)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 福崎剛志)

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画像:Mariko Mitsuda

習慣形成のプロセス

 習慣とは、「学習によって後天的に獲得され、反復によって固定化された個人の行動様式」です。

習慣形成のプロセスには「きっかけ・欲求・反応・報酬」の4つがあります。

 この4つのプロセスは習慣全般に共通していますが、一度習慣化された行動を私たちはほとんど認識することができません。そのため、多くの人がこのプロセスをほとんど自覚せず、できてしまった習慣にやみくもに従っています。

 逆に言えば、この習慣のステップを理解すると、自分がその行動をやめられない理由や新しい習慣が身に付かない理由を分析しやすくなります。また、習慣を変えるには同じ行動を繰り返す必要がありますが、習慣形成のプロセスを知ることで、習慣改善のサイクルを今より効率的に回せるようになるでしょう。

1 きっかけ

 習慣のきっかけはわずかな情報です。私たちの脳は絶えず周囲の状況を観察・分析していますが、十分に練習を重ねると少ない情報から将来の結果を予測できるようになります。そうして、脳が結果を予測できるわずかな情報(きっかけ)に気付くと、私たち自身は自覚がないまま、それに適した行動を取るのです。

 また、脳は記憶している膨大な行動のパターンの中から、わずかな情報を頼りに今採用すべき習慣を決定します。習慣はほとんど自動化されており、ささいなきっかけで欲求を刺激され、自覚しないうちに反応するのです。そのため、自分が変えたい習慣のきっかけさえ自覚できれば、それだけでも自動化された習慣の抑止力になります。

お菓子を食べそうになる状況

 習慣のきっかけを見つけるには、まずは丁寧に自分の行動を振り返ります。例えば、仕事中にお菓子を食べ過ぎてしまうことに悩んでいるとして、自分の行動を一つ一つ振り返ってみましょう。お菓子を食べるのは、仕事が一段落ついたときでしょうか? すぐに解決できない問題が起きて、ストレスがたまったときでしょうか? また、食べるお菓子は休憩コーナーに置いてあるお菓子でしょうか? それとも自分で用意したお菓子でしょうか?

 自分の行動を丁寧に振り返れば、自分がお菓子を食べそうになる状況を少しずつ自覚できるようになります。すでに身に付いている習慣のきっかけは、新しい習慣のきっかけとして活用できるので、自分を責めることなく、冷静に自分を観察しましょう。

2 欲求

 欲求は、あらゆる習慣の原動力です。

 欲求の有無が習慣になるかどうかのカギとなります。たとえある行動の結果好ましい報酬が得られても、欲求がなければ習慣にはなりません。例えば、宝くじを買って1万円が1度当たったとしても、ほとんどの人は習慣的に宝くじを買うようにはならないでしょう。

 しかし、もし宝くじ売り場の前を通るだけで当選した興奮を“期待”するようになった人は、そうでない人よりも宝くじを買う可能性はずっと高くなります。

 期待するということは、報酬が実際に得られる前(例えばきっかけに気付いただけの段階)に、報酬を得られたときの喜びを予感し、待ちわびるようになっているからです。期待は欲求が芽生えている証拠なのです。

 期待が満たされないと人はイライラします。イライラにいつまでも耐えるのは難しいので、多くの人はまた前と同じ行動を取ってしまうのです。

 すでに欲求がうまれ、期待するようになっているなら、自分の意思だけで乗り切ろうとせず、周囲の力を借りるとよいかもしれません。禁煙外来のような専門家に相談するだけではなく、タバコを吸わない人と過ごす時間を長くしたり、家族や友人などに禁煙すると約束したりするなど、周囲の目を積極的に活用しましょう。

 また、欲求の優先順位を変えることも有効です。タバコを吸って得られる爽快感より、健康的な生活や節約できたお金の使い道などを大事だと考えてみてください。最初は無理やり思い込んでいる感じがしても、次第に本当にそう思えるようになるはずです。

3 反応

 反応とは、実際に行う習慣のことです。

 反応は、きっかけに対応した固定化された行動や思考として、無意識に起こります。脳は状況に対する反応を固定化することでたくさんの労力を節約し、より重要な問題に意識を集中しやすくしています。

 しかし、脳が取るべき行動をいちいち判断しなくなるのは、良いことばかりではありません。急ぎの仕事の最中に、メールの通知音が聞こえてついスマホを確認してしまったことはありませんか? 脳はメールを開けばつかの間の気晴らしを得られると学習し、通知音が聞こえたら状況に関係なく、反射的にスマホを確認するようになってしまったのです。

 一度固定化された反応を完全に消すことは、ほとんど不可能です。減量に成功して何年もたったのに、どうしようもないストレスを感じて一気に食べて太ってしまうのは、脳が過去のルーティンを記憶しているためです。

 ただし、アルコール依存症やギャンブル依存症のような中毒症状でもなければ、自分でもその反応が出てこないよう工夫できます。具体的には、今のルーティンを新しいルーティンに置き換えることです。きっかけと報酬はそのままにして、取る行動だけを変更します。ストレスで一気に食べてしまう人は、ストレスと歯磨き、ストレッチなど、リラックスできる別の行動を試してみるのです。

 このときのコツは、やめたい習慣は実行しづらいように、身に付けたい習慣は簡単にできるようにすることです。新しい習慣をつくるには何度も同じ行動を繰り返すと効果的なので、歯ブラシを何本か買って、磨きたくなったらすぐに歯を磨ける環境を整えます。反対にクッキーは棚の一番取りにくい場所に移動して、手を伸ばしにくくします。

4 報酬

 習慣の最終目標です。報酬は欲求を満たし、学習を完成させます。

 報酬の最初の目標は、とにかく欲求を満たすことです。ダイエットと筋トレで引き締まった健康的な身体をつくり、昇進して称賛や収入を得ることです。

 しかし、脳はどうやって満足できる報酬をもたらす行動と、もたらさない行動を区別するのでしょうか? これは、報酬が得られるタイミングが重要になります。なぜなら、実際の行動よりもずっと後から報酬がやってきても、脳はその行動は本当に学習する価値があると、なかなか判断しないからです。

 一方、食事のように行動した瞬間に直ちに心地よい報酬を得られるのであれば、脳は優先して記憶しようとします。つまり、脳にとっては食事を我慢してイライラするより、食べたいだけ食べて楽しい気持ちになるほうが合理的なのです。

 努力してから結果が出るまでに時間がかかるダイエットや貯蓄などの行動を定着させたいなら、すぐに得られる報酬(即時報酬)を準備しましょう。ダイエットなら毎日体重計に乗って記録を取ったり、目標となるモデルの写真を飾ったりすることです。自分の努力がどこに向かっているのかはっきりすると、そうではない場合よりも達成感が得られ、脳も報酬だと感じやすくなります。

 ただし、この即時報酬は自分が目指したい方向と矛盾しないように注意してください。例えば、「運動した後にはお菓子を食べる」という報酬は、進もうとしている方向と真逆になるのでふさわしくありません。

5 まとめ

 習慣形成の「きっかけ・欲求・反応・報酬」という4つのプロセスと、それに適した対応策を紹介しました。自分の習慣を自覚するのは簡単ではありませんが、習慣化に対する知識をもつことで、自分の習慣をより良い方向へ変えていく助けとなるでしょう。

<参考書籍>
「ジェームズ・クリアー式複利で伸びる1つの習慣」(ジェームズ・クリアー(著)、牛原眞弓(訳)、パンローリング、2019年11月)
「習慣の力 新版」(チャールズ・デュヒッグ(著)、渡会圭子(訳)、早川書房、 2019年7月)

以上(2023年6月更新)

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習慣とは何か?

1 変えたい習慣

 健康や美容、仕事のために今の生活を変えようとしたことはありませんか? 食べ過ぎや飲み過ぎ、スマートフォンの使い過ぎなど、何らかの習慣が過剰になると、生活全体に悪影響を与えることがあります。しかも、いざやめようとしても、最初何日かは我慢できるものの、数週間後にはたいてい元に戻ってしまうのです。

 習慣を変えるのが難しい理由はいくつもあります。よくある悩みは、気付かないうちにやってしまう、我慢しているのに効果がすぐに出ない、新しい習慣が定着したと思ったのに何かのきっかけで古い習慣が再開してしまったなどです。新しい習慣を身に付けるためには、こうした問題に対処するポイントを知り、長い目で取り組む必要があります。

 この記事では、習慣が身に付く仕組みと、習慣を変える方法を紹介します。習慣化のプロセスを知ることで今より結果を出しやすくなるはずです。

2 習慣とは何か

 習慣という言葉を辞書で見ると「同じ状況のもとで繰り返された行動が、状況に応じて安定化し、自動化されて遂行される」など、いくつかの意味が載っています。

 この記事では主に個人の習慣に焦点を当てるため、「学習によって後天的に獲得され、反復によって固定化された個人の行動様式」という意味で用います。朝目覚めるとほとんど無意識に顔を洗ったり、歯を磨いたりできるのは、習慣のたまものです。最初はいちいち注意してやっていた行動が、習慣化するとほとんど何も考えずに行えるようになります。

 習慣になる行動は、単純な動きだけではなくかなり複雑な行動も含まれます。日ごろから運転する人は、駐車のような神経を使う動作でも、今はほとんど何も考えずにできるでしょう。脳が日常的な行動の一部を自動化してくれるおかげで、私たちはもっと重要な問題に神経を使えるようになるのです。

3 欲求が習慣の原動力

 繰り返し行っているだけで全ての行動が習慣になるというわけではありません。習慣のプロセスについてはさまざまな研究が進み、習慣として繰り返されやすい行動には次のような特徴があることが分かってきました。

繰り返されやすい行動:「欲求が満たされる結果」を導く行動
(繰り返されにくい行動:「不快な結果」を生み出す行動)

 脳は欲求を満たしてくれる行動を優先的に記憶し、望ましい報酬を効率的に得ようとします。しかも、私たちが望んでいると思っているものと、脳が感じる欲求はいつも一致するわけではありません。頭では健康になりたいと思っていても、多くの人にとって、サプリメントよりポテトチップスやチョコレートのほうがずっと魅力的に見えるのです。

欲求が習慣の原動力

 現代は高カロリーな食品があふれており、あえて意識しなくても糖分や脂肪などの必要摂取量をとれます。そのため、本来なら食べ過ぎないよう注意しなければならないのですが、脳の本能的な部分は食料が乏しい時代のことを覚えていて、糖分や脂肪分を効率的にとれる食品を好みます。私たちは今の環境に合った食生活をしたいと考えているつもりでも自分でも気付かないところで、違うことを望んでいるのです。

 自覚している希望と脳が感じている欲求の違いは、古い習慣をやめ、新しい習慣を始める妨げになります。習慣を効率よく変えていくためには、こうした認識のズレを埋め、隠れた欲求をコントロールする方法を学ぶ必要があるのです。

<参考書籍>
「ジェームズ・クリアー式複利で伸びる1つの習慣」(ジェームズ・クリアー(著)、牛原眞弓(訳)、パンローリング、2019年11月)
「習慣の力 新版」(チャールズ・デュヒッグ(著)、渡会圭子(訳)、早川書房、 2019年7月)

以上(2023年6月更新)

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習慣と意思

1 意思が強くないと習慣は変えられない?

 世の中には、特定の行動を習慣化して望んだ結果を出せる人と、数カ月でサボりがちになってしまう人がいます。あるデータによると、フィットネスクラブの新規入会者は6カ月以内に40%以上が退会するようです。継続していても実際はフィットネスクラブに通っていない人を合わせれば、6カ月以内に半分以上が挫折してしまうといえるでしょう。

 何故そのような結果になるのでしょうか? 決めたことを実行できる意思力が先天的に強い人でなければ、良い習慣を身に付けることはできないのでしょうか?

 もちろん、そんなことはありません。確かに、新しい習慣を身に付けるには誘惑を拒み、前の習慣に戻りたくなる衝動にあらがわなくてはなりません。しかし、その衝動にあらがう力が先天的なもので生涯変わらないとすれば、何度もダイエットに失敗していた人があるとき成功する理由が説明できません。モチベーションなどの影響もゼロではないでしょうが、一定数の人は失敗するうちに要領を覚え、自分に合う方法を見つけられると考えたほうが自然です。

 「自分は意思が弱い」と習慣化を諦めてしまっている人のために、この記事では意思の強さに頼らないでも習慣を変えられるコツを紹介します。

2 意思の強さに自信がない人が習慣化を成功させるには

1)得意なことから始める

 習慣化のために大事なのは何度も繰り返し行うことですが、苦手なことを何度も繰り返し行うのは苦痛を感じやすいものです。習慣化に慣れていない場合は、まずは得意な分野で試して、成功体験をつくりましょう。

 例えば、掃除好きの人なら、どの部屋をどれくらいの頻度で、どのように掃除するか、計画を立てて実行してみてください。得意なことであれば慣れるのも早く、成果も出やすいはずです。もしもうまくいかなくても、試行錯誤しているうちにノウハウがたまってきます。ある程度自信がついたら、自分が本当に変えたい習慣にチャレンジしましょう。

2)事前に誘惑やストレスへの対処法を準備する

 いくら忍耐力や自制心に自信がない人であっても、いつも誘惑やストレスに負けてしまうわけではありません。いつもは我慢できていることができなくなるのは、イレギュラーな出来事や過度なストレスにさらされたときが多いようです。

 例えば、数週間毎日1日1万歩ウォーキングしていても、残業で疲れた日やパートナーとけんかしてイライラしている日に、習慣が中断してしまうことがあります。それで気が抜けて、せっかく身に付きかけたルーティンをやめてしまうのはもったいないことです。

 予想できる誘惑やストレスがある場合は、そういう状況のときにどんな対応をすればいいか、事前に対処法を考えておきましょう。ストレスが実際に起きた瞬間、どうやって耐えるかを詳しくシミュレーションし、誘惑やストレスがあっても平静で居られるよう、心構えをしておくのです。

3)誘惑の少ない環境をつくる

 意思の強い人でも、誘惑が近くにあればなかなか我慢することはできません。ダイエット中に自宅に高カロリーのお菓子が置いてあるとつい手を伸ばしたくなりますし、スマホを近くに置いていると仕事中でも開きたくなってしまいます。

 誘惑に弱い自覚があるならば、それらを意識的に避けるべきです。仕事をするときはスマホをかばんにしまい、休憩時間以外開かないようにします。それが難しければ、メッセージの通知音を消すなど、集中力を乱さない工夫をしましょう。

 誘惑を避ける工夫は、身に付けたい習慣を何度も繰り返すのと同じくらい重要です。環境をコントロールすることで、自分の精神力に頼る必要がなくなります。

4)忍耐力や自制心自体を高める

 意思の強さというと、先天的な性格によって決まっていると思うかもしれませんが、実際には筋肉のように後天的に鍛えられるものだといわれます。

意思の強さは筋肉のように鍛えられる

 ある実験では、筋トレや勉強、金銭管理など、一つの分野で集中的にトレーニングすることで、その分野とは異なる方面(食事や仕事、メンタルなど)でも誘惑や衝動に対するコントロールも上達するという結果が出ています。

 こうしたトレーニングでは、目標の難易度設定の仕方など、習慣化全般に必要な能力の向上が期待できます。本格的に習慣改善をしたい人は、一度筋トレなどに集中的に取り組んでみてもよいかもしれません。

<参考書籍>
「ジェームズ・クリアー式複利で伸びる1つの習慣」(ジェームズ・クリアー(著)、牛原眞弓(訳)、パンローリング、2019年11月)
「習慣の力 新版」(チャールズ・デュヒッグ(著)、渡会圭子(訳)、早川書房、 2019年7月)

以上(2023年6月更新)

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業績と連動し、社員にも分かりやすい「業績連動式」賞与のポイント

書いてあること

  • 主な読者:社員のモチベーションが上がる賞与制度を実施したい経営者
  • 課題:業績と連動し、社員にも分かりやすい制度にしたい
  • 解決策:「業績連動型」賞与を導入し、賞与原資の決定基準を社員に示す

1 なぜ、賞与のありがたみが社員に伝わらないのか?

業績連動型とは、

会社の業績や社員の勤務成績に応じて賞与を決定する仕組み

です。日本の会社の65.4%が「業績連動型」賞与を導入しています(厚生労働省「令和4年賃金引上げ等の実態に関する調査」)。一方、「支給額=基本給×○カ月分」といった単純な仕組みに比べると計算過程が不透明で、社員が「こんなに頑張っているのに賞与が下がった……」と不満を覚えることがあります。

賞与を支給するか否かは会社の自由です。それでも多くの経営者は「頑張った社員に報いて、今後もモチベーション高く仕事をしてほしい」と思うからこそ、賞与を支給します。社員が不満を覚えるようでは、「そもそも賞与を支給する意味があるのか」ということになってしまいます。賞与も含め、報酬に対する会社と社員のギャップを埋めることは難しいのですが、

できるだけ社員に分かりやすい制度にして不透明感をなくす

ことで、ある程度不満は和らぎます。この記事では、業績連動型に着目して、社員にとって分かりやすい賞与制度にするためのポイントを紹介します。

2 何を業績指標とするか?

業績連動型の手順をおおまかに言うと、

  • 業績指標を基準に「営業利益×○%」などで賞与原資を決める
  • 賞与原資の範囲内で各社員の勤務成績を基準に支給額を決める

という形になります。

業績指標には次のようなものがあります。

  • 「売上高」基準(売上高、生産高など)
  • 「利益」基準(営業利益、経常利益、当期純利益など)
  • 「付加価値」基準(付加価値)
  • 「キャッシュ・フロー」基準(営業CFなど)
  • 「株主価値」基準(ROA、ROE、ROIなど)

ちなみに、日本経済団体連合会・東京経営者協会の調査によると、業績連動型を採用している社員数500人未満の会社では、

「営業利益」を基準とする会社(60.0%)が最も多く、次に多いのは「経常利益」を基準とする会社(38.2%)

となっています(日本経済団体連合会・東京経営者協会「2021年夏季・冬季賞与・一時金調査結果」、複数回答)。

こうして業績指標が決まったら、それを基準に賞与原資の額を計算します。どの程度を賞与原資にするかは会社次第ですが、

「営業利益×○%」だけだと、業績の好不調によって賞与原資が大きく変動し社員に不安を与えるので、最低保障額を設ける

ことも検討しましょう。

3 支給対象者をどうするか?

賞与原資が決まったら、次は支給対象者を明らかにします。一般的には、

考課の対象期間内に勤務実績があって、支給日に在籍している社員

を対象とします。また、賞与を支給してから一定期間内に退職することが決まっている社員などは、対象から除外します。なお、非正規社員(パート等)に賞与を支給しない会社も多いですが、こうした対応は同一労働同一賃金に違反する恐れがあります。業務内容や労働時間などについて、正社員と働き方が同じ非正規社員がいないかを確認した上で、慎重に判断しましょう。

支給対象者が決定したら、支給対象者ごとの配分を決めます。一般的には、次のような要素を複数組み合わせて配分率を計算します。

  • 部門業績(所属部門の経常利益が○万円以上なら配分率○%など)
  • 人事考課(A評価なら配分率○%など)
  • 資格等級(○級なら配分率○%など)
  • 出勤率(週○時間勤務なら配分率○%など)

参考までに、日本経済団体連合会・東京経営者協会の調査によると、賞与・一時金の1人当たり平均支給額を100とした場合、非管理職・管理職ともに「考課査定分(人事考課)」「定額分(最低保証額など)」の配分割合が高いようです(日本経済団体連合会・東京経営者協会「2021年夏季・冬季賞与・一時金調査結果」)。

  • 非管理職:考課査定分39.4、定額分30.2、定率分27.7、その他2.7
  • 管理職:考課査定分51.1、定額分28.2、定率分17.5、その他3.2

以上(2023年6月)

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【朝礼】この件は、君と何度でも話し合うよ

上司の皆さん、毎日、部下の方と話をしていますか。特に部下と毎日顔を合わせているマネジャークラス(課長クラス)の方は、昨日、部下全員と話をしましたか。

上司と部下のコミュニケーションは、ビジネスの指示や報告が基本です。上司の皆さんのコミュニケーションは部下への一方的な指示になっていませんか。あるいは、部下からの報告を受けるだけになっていませんか。

上司と部下がコミュニケーションを図るためには、その「内容」が大切です。ビジネスの現場では、ビジネス上の指示や報告がメーンとなりますが、その際に上司からの一方的な指示や部下からの報告だけでは、コミュニケーションは不十分です。

上司が指示する際には、抽象的な指示でなく、個別具体的な指示をしてください。こう言うと、部下が自分で考えることをせず指示待ちになるので、部下の指導には適していないと言う人がいます。しかし、これはビジネスの最前線を知らない評論家の考えのように思えてなりません。ビジネス経験の乏しい部下に、すべてを任せる方が無責任というものです。

上司は個別具体的な指示をいくつか出し、部下に選択させるのです。上司の個別具体的な指示により、部下はすべきことが明確になります。選択肢があればそれぞれのメリットやデメリットまで考えるでしょう。こうしたことを、部下に熟慮させて、実行する案を選択させるのです。人は具体的な課題があれば、その解決に前向きになります。また、ゴールに近づくと「もう少しでゴールだ。頑張ろう」とやる気が出るものです。

部下への選択制の個別具体的な指示は、目の前に課題を示すと同時に、その解決がゴールに結びつくということを教えてあげることなのです。

次に、部下の報告です。仮に、上司が示した個別具体的な指示から、部下が一つを選択することとしましょう。自分が選択した理由を、詳細に説明できなければなりません。上司からはさまざまな質問が出るでしょう。例えば、「なぜ、この案を採用するのか」「成功の定義をどこに設定するのか」「誰かに相談したのか」「実行性はどちらが高いのか」「過去に同様のことを実施した経験があるのか」「失敗したら代替はどうするのか」などです。まだまだ質問は出るでしょう。上司が質問し部下が答え、分からないところは一緒に考えることになるでしょう。こうすることで、単なる部下の報告ではなく、上司と部下の意見交換になります。

上司と部下は、この件について、真剣に、時間をかけて、互いが納得するまで意見交換することになるでしょう。上司は「部下が選択するに至ったプロセスが大事」であることを知っているからです。

部下の方は安心してください。上司は「時間がないから」とは決して言いません。上司は「この件は、君と何度でも話し合うよ」と言ってくれます。それは、上司は部下が成長する姿を見ることが何よりうれしいからです。

以上(2023年6月)

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豪雨時の水没リスク(2023/6号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

近年は、梅雨の時期に大雨による災害が発生することも珍しくありません。集中豪雨やゲリラ豪雨など局地的大雨により、日頃走行している道路が冠水し、自動車が水没するといったリスクが以前より高まっています。

今回は、豪雨により冠水した道路を走行する場合の自動車の水没リスクについて考えます。

豪雨時の水没リスク

1.冠水道路の走行に伴うリスク

都市部などでは舗装面積が多いため、集中豪雨やゲリラ豪雨が発生すると、周囲より低い場所では雨水の排水処理能力が限界を超えてしまい、道路が冠水することがあります。道路が冠水すると、運転者は路面状況が分からず深みにはまったり、側溝へ脱輪したりするおそれがあります。特に周囲に比べて道路の高さが低くなっているアンダーパスでは水没リスクが高く、注意が必要です。

冠水した道路を走行する場合、一般的な自動車はある程度の浸水に耐えられるように設計されていますが、エンジン内部やマフラーに水が入ってしまうと故障するおそれがあります。冠水した道路では水深により自動車に以下のような不具合が生じます。

冠水道路の走行に伴うリスク

出典:国土交通省Webサイト「水深が床面を超えたら、もう危険!-自動車が冠水した道路を走行する場合に発生する不具合について-」より当社作成
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha08_hh_003565.html

2.水没リスクを回避するために

アンダーパスは全国に3,700箇所ほどあり、 それ以外にも周囲より低く水はけが悪いといった豪雨時に冠水しやすい場所は思った以上に多いものです。 日頃通勤や業務で走行している道路に冠水しやすい場所がないか一度確認しておくのがよいでしょう。

また、気象情報を確認することを習慣にして、集中豪雨やゲリラ豪雨などに関する情報を早期に把握し、予め危険を回避できるようにしておくことが大切です。

・道路冠水想定箇所の確認
 国土交通省「重ねるハザードマップ」
https://disaportal.gsi.go.jp/maps/?ll=36.097938,139.87793&z=7&base=pale&vs=c1j0l0u0t0h0z0

・大雨・洪水の危険度の確認
気象庁「浸水キキクル(危険度分布)」、「洪水キキクル(危険度分布)」
https://www.jma.go.jp/bosai/#pattern=rain_level&area_type=japan&area_code=010000

浸水キキクル

万一の場合に備え、脱出用ハンマーやシートベルトカッターなどの避難用具を車内に常備しておくようにしましょう。避難用具はいざというときに手の届く範囲にあることが重要です。

国土交通省webサイト「いざというときのために、緊急脱出用ハンマーを備え付けましょう!」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/carsafety_sub/carsafety023.html

3.冠水道路を走行する場合の注意点

道路が冠水するような豪雨時の運転では、無理をしないことが大切です。

やむを得ず冠水した道路を走行する場合は、以下の点に注意しましょう。

  • アンダーパスには入らない。
  • 前車の水しぶきや急停車を想定し、車間距離を十分に取る。
  • 水を巻き上げないように速度を十分落とし、ゆっくりと進む。

アンダーパス

豪雨により短時間で道路が冠水するような場合、水深も急速に増していくおそれがあります。

「これくらいの冠水なら進めるのでは」といった油断は禁物です。

<走行後は>

  • ブレーキの効きが悪くなったと感じたらブレーキを数回踏んでブレーキパッド等を乾かしましょう。
  • エンジンや電気装置が浸水した場合は、故障や車両火災のおそれがあるので、エンジンをかけてはいけません 。ロードサービスや自動車販売店、整備工場等に連絡しましょう。

以上(2023年6月)

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【事業承継】 自社株の評価を引き下げて有利に事業承継を有利に進める

書いてあること

  • 主な読者:事業承継を検討しており、自社株式の評価を引き下げたい経営者
  • 課題:自社株の評価を引き下げる方法が分からない
  • 解決策:役員退職金の支給、不動産の購入などを行う。オーナー経営者と会社との借入金、貸付金がある場合はその処理にも注意

1 自社株式の評価額の問題

事業承継は、後継者に自社株式を引き継ぐことで行われますが、業績が良いと自社株式の評価額は高くなり、贈与時または相続時の納税額も高額になります。親族内承継の場合、後継者の税負担を減らすために自社株式の評価額を引き下げることが基本となります。

気になるのは自社株式がどのように評価されるかですが、その方法は次の4つです。

  • 原則的評価方式:類似業種比準価額方式、純資産価額方式、両者の併用方式
  • 特例的評価方式:配当還元方式

詳細は省略しますが、類似業種比準価額方式と純資産価額方式のどちらの場合も、純資産価額を引き下げれば自社株式の評価額が下がりますので、純資産価額を引き下げる方法を確認しましょう。

2 純資産価額を引き下げる方法

1)役員退職金の支払い

役員退職金を支払えば純資産価額を引き下げることができます。ちなみに、事業承継税制を適用する場合は、贈与時または相続時にオーナー経営者が代表権を持っていないことが要件の1つなので、オーナー経営者を退職させて役員退職金を支給すると、「純資産価額の引き下げ」と「事業承継税制の要件の1つを満たす」ことが同時に実現します。

役員退職金の金額には注意しましょう。役員退職金の適正な金額は、

最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率

といった功績倍率法で計算するのが通常です。数式にある「功績倍率」は、経営者であれば3倍前後となることが多いですが、あらかじめ功績倍率を定めた役員退職金規程を整備し、役員退職金を支払うときには議事録を作成しておかなければ、税務上否認される恐れがあります。

2)不動産の購入

賃貸物件となるアパートやマンションなどを会社で購入することにより、購入金額とその評価額との差額分だけ会社の純資産価額を引き下げることができます。購入したアパートやマンションなどは「時価」により評価されますが、この場合の「時価」は相続税評価額を用いることができるため、一般的に購入金額よりも低く評価されます。

ただし、事業承継以前3年以内にアパートやマンションなどを会社で購入した場合は、相続税評価額を用いて低い評価額とすることができず、通常の取引価額に相当する金額によって評価することとされるので、計画的に実施する必要があります。

3 自社株式の取り扱いと事業承継税制の問題

自社株式の問題は、事業承継後の経営権にも影響を及ぼします。経営者が持つ自社株式を、事業承継税制を使って後継者に引き継ぐ場合、

贈与や相続により引き継ぎを受けた後継者がその会社の筆頭株主となるなどの要件を満たさなければ、事業承継税制の特典である納税猶予を受けられない

のです。また、納税猶予を受けた後、引き継ぎを受けた自社株式の譲渡を行うなど、納税猶予が認められない事由が生じた場合、納税猶予を受けた贈与税や相続税の一部または全部を納付する必要があります。

4 オーナー経営者と会社との借入金・貸付金の問題

1)オーナー経営者が会社に貸し付けている場合

オーナー経営者が会社に貸し付けているケース、つまり会社の借入金の問題です。オーナー経営者が「返さなくていいですよ」と債権を放棄した場合、会社は債務免除益を計上しなければなりません。借金が減るのはいいことですが、半面、

負債(借入金)が減少して利益が増加し、純資産価額が引き上げられ、自社株式の評価額も上昇する

という問題が生じるので注意しましょう。

また、オーナー経営者が死亡した場合、会社の借入金はオーナー経営者の相続財産となり、オーナー経営者の相続人に引き継がれます。

2)会社がオーナー経営者に貸し付けている場合

先ほどとは逆に、会社がオーナー経営者に貸し付けているケース、つまり会社の貸付金の問題です。病気などオーナー経営者に特別な事情がある場合を除き、適正な利率による受取利息(認定利息)を計上しなければなりません。もし、「相手がオーナー経営者だから利息はいらない」とこの処理をしていない場合、利息相当額との差額がオーナー経営者への役員報酬となって課税されます。

適正な利率とは、その貸付金が他からの借り入れによるものであればその借入金の利率、それ以外の場合には、貸し付けを行った日の属する年ごとに租税特別措置法に定められた利率です。

また、会社が計上しているオーナー経営者に対する貸付金について債務免除した場合、返済能力がないなどの特別な事情がある場合を除き、その免除した金額の全額が給与として課税されます。

以上(2023年6月)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

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【SDGs】どうする? アクリル板の「大量破棄」問題

書いてあること

  • 主な読者:飛沫感染の防止のためにアクリル板を設置していた飲食店など
  • 課題:アクリル板が不要になったので処分したい
  • 解決策:アクリル板は産業廃棄物として処理する。SDGsを意識するならリサイクルも可能

1 不要になったアクリル板。つくる責任、つかう責任

新型コロナウイルス感染症は、感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザなどと同じ「5類感染症」に変更されました(2023年5月8日)。これに伴い、コロナ禍で実施してきた感染対策の見直しが進み、アクリル製のパーティション(以下「アクリル板」)の撤去が進んでいます。ここで問題となるのが、不要となったアクリル板の処理ですが、保管するには場所をとるので、結局、廃棄せざるを得ないでしょう。

この記事では、要らなくなったアクリル板を処分する際のポイントと、リサイクルの可能性を探っていきます。この取り組みは、SDGsの12番目のゴールである「つくる責任、つかう責任」にも関係してきます。

2 アクリル板は産業廃棄物

飲食店などが使ったアクリル板は、

産業廃棄物(廃プラスチック類)になるので、一般ごみとして捨てることはできない

ことになっています。そのため、適切な産業廃棄物処理業者(以下「処理業者」)に収集運搬や処分を委託しなければなりません。通常、処理業者はアクリル板のサイズと枚数、引き取り場所(建物の階数やエレベーターの利用可否、駐車スペースの有無)などを基に、収集運搬や処分の費用を算出します。東京都内のある処理業者にヒアリングしてみたところ、

縦60センチメートル×横1メートルほどのサイズのアクリル板が数枚程度の場合、付近に駐車しているトラックまで持参してもらう条件で、1枚2000~3000円の費用感になる(4月21日現在)

ようです。

なお、環境省は5類感染症への変更に合わせ、4月28日に処分についての情報提供を開始しました。

■環境省「不要になった新型コロナウイルス感染症対策の備品等(パーティション等)について」■
https://www.env.go.jp/recycle/waste/infect_contr.html

3 アクリル板はリサイクルできる?

処理業者の中には、主に廃プラスチック類の収集運搬を行うプラスチック回収業者や、主に廃プラスチック類の中間処分を行うリサイクル業者があります。廃プラスチック類は、次の3つの方法でリサイクルされています。

1.サーマルリサイクル(エネルギー回収)

廃プラスチック類を焼却し、発生した熱を発電や熱源に利用します。

2.マテリアルリサイクル(再生利用)

廃プラスチック類を洗浄、粉砕し、粒状化したものを溶融して再製品化します。

3.ケミカルリサイクル

廃プラスチック類を化学反応によって分解し、高炉・コークス炉原料として利用したり、ガス化、油化したりします。

2020年の国内の廃プラスチック類の有効利用率は次の通りです。

廃プラスチックの有効利用率

環境省リサイクル推進室へのヒアリングによると、アクリル板を含むアクリル製の廃プラスチック類について次のようなコメントが得られています。

これまでは海外輸出や焼却(サーマルリサイクル含む)、埋め立て処分が大半でした。マテリアルリサイクルをしている事業者は少なく、ケミカルリサイクルには多額の設備投資が必要なので、なかなか進みませんでした。

4 マテリアルリサイクルの好事例

緑川化成工業(東京都台東区)は、アクリル製品のマテリアルリサイクルをしています。プラスチック関連製品の加工・成形をしている同社は、国内で初めてエコマークを取得した再生アクリル板「リアライトRE」を約20年以上にわたって市場で展開しています。

「リアライトRE」の再生原料含有率は約80%。原料を再利用するため、本来のアクリル製品の製造よりも工数が少なく、初期製品とくらべてCO2排出量を71%削減できるそうです。

アクリル製品のマテリアルリサイクルは、

アクリル素材の回収→粉砕→溶解→再原料(ペレット)化→再生アクリル板などに成形

というフローで、再度市場に展開されます(図表2参照)。

アクリル樹脂のリサイクルフロー

アクリル板は、製造方法によって

  • マテリアルリサイクルができる押出板
  • マテリアルリサイクルができないキャスト板

に分かれます。ただ、製品になった状態で両者を見極めるのは難しく、この点がアクリル板の再原料化の難関です。そのため、これまでの同社の再原料化は、事前に選別された工場内端材(プレコンシューマー材)を主原料としていました。今後はアクリル板の大量廃棄を想定し、

2023年10月から独自技術による識別ラインの稼働を予定

しているそうです。

■緑川化成工業■
https://www.midorikawa.co.jp/

5 ケミカルリサイクルの可能性

ケミカルリサイクルは、2021年に三菱ケミカルと住友化学が参入し、実証設備を新設し終えたところです。三菱ケミカルは、2023年3月にアクリルグッズ等再生利用促進協議会に発起人として参画しました。同協議会はアクリル製品の再生利用を促す啓蒙活動と回収活動を行っており、活動の中で回収したアクリル製品は、三菱ケミカルがリサイクルをします。

また、住友化学は、2023年春からケミカルリサイクル品のサンプル提供を開始し、事業化に向けた取り組みを進めています。

■アクリルグッズ等再生利用促進協議会■
https://lucca-tokyo.co.jp/acrylic-recycling-pc/

6 (参考)アクリル板を保管しておく際の注意点

新型コロナウイルス対策を助言する厚生労働省の専門家組織「アドバイザリーボード」は、感染再拡大に備え、アクリル板について当面の保管を提唱しています。保管は次のようにして、ダンボールなどにまとめておくとよいでしょう。

  • 表面が傷つきやすいので、積み上げた状態で埃が付かないように覆いをする
  • たわみやすい性質があるので、斜めに並べず平積みする
  • 保管場所は温度が50度以下の場所で、なるべく紫外線が当たらず、湿度の低い場所にする(50度を超えると変形するおそれがある)

以上(2023年6月)

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