同一労働同一賃金とは?企業に必要な対策をガイドラインにそって解説

現在、非正規雇用労働者の割合は、労働者全体のほぼ4割を占めています。
非正規雇用は多様な働き方を実現する一方で、さまざまな問題点も指摘されていますが、その1つが正規雇用労働者との間に存在する待遇格差です。

そこで国は、待遇差のうち、どのようなものが不合理であり、どのようなものが不合理でないのか、原則となる考え方と具体例を示した「同一労働同一賃金ガイドライン」を公表しています。

そのガイドラインにそって、同一労働同一賃金のルールがどのようなものか、企業にはどのような対策が求められるのか、わかりやすく解説します。

同一労働同一賃金とは?

国は2018年12月28日に、「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」を公表しました。*1
いわゆる「労働者派遣法」(2020年4月1日より施行)と「パートタイム・有期雇用労働法」(2021年4月1日より全面施行)を反映させた内容で、これが「同一労働同一賃金ガイドライン」(以後、「ガイドライン」)と呼ばれるものです。*2

まず、「ガイドライン」の背景と趣旨をみていきましょう。

背景

この問題の背景には、非正規雇用労働者の多さと、正規雇用者との待遇格差があります。

下の図1は、労働者数の推移を表しています。*3

図1 正規・非正規雇用労働者数・割合の推移

図1 正規・非正規雇用労働者数・割合の推移
出所)厚生労働省「非正規雇用の現状と課題」p.1
https://www.mhlw.go.jp/content/001214080.pdf

非正規雇用労働者は、2010年以降増加が続き、2020年にはやや落ち込みましたが、その後、再び増加に転じ、2023年には労働者全体の37.1%を占めています。

非正規雇用労働者の中では、パート(48.5%)とアルバイト(21.6%)の割合が高く、契約社員(13.3%)がそれに続いています。

また非正規雇用労働者のうち、正社員として働く機会がなく、非正規雇用で働いている、いわゆる「不本意非正規雇用」の割合は、非正規雇用労働者全体の9.6%(2023年)に当たります。

では、待遇はどうでしょうか(図2)。

図2 年齢階層別賃金(時給ベース)

図2 年齢階層別賃金(時給ベース)
出所)厚生労働省「非正規雇用の現状と課題」p.5
https://www.mhlw.go.jp/content/001214080.pdf

この図から、非正規雇用労働者の平均賃金は、一般労働者(非短時間労働者)が601円、短時間労働者が517円、正規雇用労働者(正社員・正職員)より低いことがわかります。

さらに、教育訓練の実施状況を正規雇用労働者と比較すると、非正規雇用労働者は、無期雇用パートタイム、有期雇用パートタイム、有期雇用フルタイムのいずれの就業形態においても、「計画的な教育訓練(OJT)」、「入職時のガイダンス(Off-JT)」は正規雇用労働者の7割前後となっています。
また、「将来のキャリアアップのための教育訓練(Off-JT)」は正規雇用労働者のわずか29.2%~35.7%と、その格差が際立っています。

このように、ガイドライン策定の背景には、全労働者に占める非正規雇用労働者の割合が高いのにもかかわらず、正規雇用労働者に比べて待遇が悪いという問題があります。

同一労働同一賃金の概要

同一労働同一賃金の導入は、同一企業における正規雇用労働者と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。*2
そして、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できる働き方を目指しています。

留意点は以下の2点です。*4

1)同じ企業で働く正社員と短時間労働者・有期雇用労働者との間で、基本給や賞与、手当、福利厚生などあらゆる待遇について、不合理な差を設けることが禁止されている。

2)事業主は、短時間労働者・有期雇用労働者から、正社員との待遇の違いやその理由などについて説明を求められた場合は、説明をしなければならない。

禁止される差別的待遇、何が含まれる?

ガイドラインには、まず「原則になる考え方」が示され、次に裁判で争い得る範囲として、「問題とならない例」「問題になる例」が記されています。*5

同一労働同一賃金で禁止される差別待遇にはどのようなものがあるのか、非正規雇用労働者の約7割を占める短時間労働者・有期雇用労働者を対象に、ガイドラインにそってみていきましょう。

ポイントは、短時間労働者・有期雇用労働者の待遇が、正規雇用労働者との働き方や役割の違いに応じたものになっているかどうかです。*4

基本給

原則となる考え方は、以下のようなものです。

労働者の「能力・経験」「業績・成果」「勤続年数」に応じて支給する場合は、これらが同一であれば同一の支給をし、違いがあれば違いに応じた支給をする。*4

問題となるのは、以下のようなケースです。

1)能力・経験に応じて基本給を支給している会社で、正社員が多くの経験を有することを理由に短時間労働者・有期雇用労働者より高い基本給を支給しているが、正社員のこれまでの経験は現在の業務に関連がない。

2)労働者の勤続年数に応じて支給している会社で、短時間・有期雇用労働者に対し、当初の労働契約の開始時から通算して勤続年数を評価せず、その時点の労働契約の期間のみによって勤続年数を評価した上で支給している。*1

昇給に関しての原則となる考え方は、以下のようなものです。

労働者の勤続による能力の向上に応じて行うものについては、同一の能力の向上には同一の、違いがあれば違いに応じた昇給を行わなければならない。*5

問題となるのは、こうした原則から外れたケースです。

賞与

原則となる考え方は、以下のようなものです。

会社の業績などへの労働者の貢献に応じて支給するものについては、同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない。*4

問題となるのは、以下のようなケースです。

1)正社員には職務内容や会社の業績などへの貢献などにかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、短時間・有期雇用労働者には支給していない。

2)会社の業績などへの労働者の貢献に応じて支給している会社で、正社員と会社の業績などへの同等の貢献がある有期雇用労働者に対し、同一の賞与を支給していない。*1

各種手当

原則となる考え方は、以下のようなものです。*5

1)役職手当で、役職の内容に対して支給するものについては、同一の内容の役職には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない。

2)以下のような各種手当については、同一の支給を行わなければならない。

  • 業務の危険度または作業環境に応じて支給される特殊作業手当
  • 交替制勤務などに応じて支給される特殊勤務手当
  • 業務の内容が同一の場合の精皆勤手当
  • 所定労働時間を超えて正社員と同一の時間外労働に対して支給される時間外労働手当の割増率
  • 深夜・休日労働を行った場合に支給される深夜・休日労働手当の割増率
  • 通勤手当・出張旅費
  • 労働時間の途中に食事のための休憩時間がある際の食事手当
  • 同一の支給要件を満たす場合の単身赴任手当
  • 特定の地域で働く労働者に対する補償として支給する地域手当

問題となるのは、以下のようなケースです。*1

1)役職の内容に対して役職手当を支給している会社で、正社員の役職と同一の役職名であって同一の内容の役職に就く有期雇用労働者に、役職手当を正社員より低く支給している。

2)正社員と同じ時間数、職務の内容の深夜労働または休日労働を行った短時間労働者に、深夜労働または休日労働に対して支給される手当の単価を正社員より低く設定している。

3)正社員には、有期雇用労働者に比べ、食事手当を高く支給している。

4)正社員と有期雇用労働者にいずれも全国一律の基本給の体系を適用しており、かつ、いずれも転勤があるにもかかわらず、有期雇用労働者には地域手当を支給していない。

福利厚生・教育訓練

原則となる考え方は、以下のようなものです。*5

1)以下については、同一の利用・付与を行わなければならない。

  • 食堂、休憩室、更衣室など福利厚生施設の利用
  • 転勤の有無などの要件が同一の場合の転勤者用社宅
  • 慶弔休暇
  • 健康診断に伴う勤務免除・有給保障

2)病気休職については、無期雇用の短時間労働者には正社員と同一の、有期雇用労働者にも労働契約が終了するまでの期間を踏まえて同一の付与を行わなければならない。

3)法定外の有給休暇その他の休暇は、勤続期間に応じて認めているものについては、同一の勤続期間であれば同一の付与を行わなければならない。特に有期労働契約を更新している場合には、当初の契約期間から通算して勤続期間を評価する必要がある。

4)教育訓練は、現在の職務に必要な技能・知識を習得するために実施するものについては、同一の職務内容であれば同一の、違いがあれば違いに応じた実施を行わなければならない。

問題となるのは、以上の原則から外れたものです。

なお、このガイドラインに記載がない退職手当、住宅手当、家族手当などの待遇や、具体例に該当しないケースについても、不合理な待遇差の解消が求められています。*1
そのため、ガイドラインには、各社の労使により、それぞれの事情に応じて待遇の体系について議論していくことが望まれると記されています。

同一労働同一賃金への対応 企業のメリットは?

同一労働同一賃金は、企業にとっては人件費の上昇を意味します。
では、この問題に取り組むメリットはどこにあるのでしょうか。

厚生労働省の「同一労働同一賃金に関する法整備について(報告)」には、「雇用形態にかかわらない公正な評価に基づいて待遇が決定される」ことによる効果が、以下のように記されています。*6

多様な働き方の選択が可能となるとともに、非正規雇用労働者の意欲・能力が向上し、労働生産性の向上につながり、ひいては企業や経済・社会の発展に寄与する

また、非正規雇用労働者の待遇情報がオープンになれば、労働市場を通じて正規雇用労働者との不合理な格差を是正するメカニズムが働くようになるため、待遇に関する企業の情報がオープンになればなるほど、企業は労働市場で選別されるようになるという指摘もあります。*7

したがって、ガイドラインにそって非正規雇用労働者に公正な待遇を担保し、それをオープンにすれば、労働者から選ばれる企業になるポテンシャルが高まるといえるでしょう。

ただし、逆に、不公正な待遇情報がオープンになると、離職率が上昇するだけではなく、新規の人材獲得にも苦戦するようになるというリスクも指摘されています。

人事担当者が取り組むべき対策

同一労働同一賃金に関して、人事担当者がとるべき具体的な対策についてみていきましょう。

導入に際しては、以下のような3ステップをふむことが大切です。*2

STEP1:情報収集と社内点検

まず、情報収集は以下の3つが基本です。

  • パンフレット・リーフレット で法律の内容を把握する
  • 自社の法遵守の状況を法対応チェックツールで確認する
  • 相談窓口に法律の内容を詳しく聞いてみる

次に、社内点検では、以下のポイントを押さえます。

1)従業員の雇用形態の確認

  • 正社員と比べてパート・アルバイトなど労働時間が少ない従業員はいるか。
  • 契約社員や派遣労働者など契約期間が決まっている従業員はいるか。

2)労働条件の確認

  • 法を遵守した雇用契約書になっているか。
  • 正社員とパート・アルバイトなどとの間で待遇に違いはないか。

STEP2:就業規則と賃金体系の見直し

就業規則と賃金体系の見直しについては、厚生労働省による、以下のような支援の活用を検討しましょう。

1)「働き方改革推進支援センター」:労務管理の専門家による無料の相談支援

2)「キャリアアップ助成金」:非正規雇用労働者の正社員化や待遇改善を実施した事業者への助成金の支給

3)職務分析・職務評価の導入支援:基本給の現状確認・賃金制度見直しの一助になる

STEP3:検証

同一労働同一賃金の取り組みによって、従業員のモチベーションが向上したか、離職率は低下したかなどを検証し、その結果を今後の取り組みにいかします。

おわりに

同一労働同一賃金にどのように対応すれば、企業の競争力向上につながるのでしょうか。

それをテーマにした研究では、種々の分析をふまえ、以下のような結論を導き出しています。*7

同一労働同一賃金の待遇説明義務がただちに企業の競争力を高めるのではなく、競争力を高めるために待遇説明をどういかすかという発想の転換が、企業には求められることが示された。

これは、企業の競争力向上に結び付くような有益な効果は、同一労働同一賃金を導入すればそれだけで自動的に得られるものではないということを意味しています。

公正な待遇やそれを説明をすること自体が即メリットにつながるわけではなく、日々の職場での個別のコミュニケーションを通じて、待遇に対する非正規雇用労働者の納得度が高まり、モチベーションがアップする。そのことによって能力開発や職場への積極的な参加を促すことができ、それが企業の競争力向上につながるというのです。

こうした視点も備え、同一労働同一賃金が、従業員・企業双方にとって有益な取り組みになるよう配慮することが、人事担当者の腕の見せ所ではないでしょうか。

資料一覧

*1
出所)厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」(厚生労働省告示第430号)p.7, p.9, p.10, pp.11-12, p.13
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000469932.pdf

*2
出所)厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html

*3
出所)厚生労働省「非正規雇用の現状と課題」p.1, p.4
https://www.mhlw.go.jp/content/001214080.pdf

*4
出所)厚生労働省「「同一労働同一賃金」への対応に向けて」p.1, p.2
https://www.mhlw.go.jp/content/000824263.pdf

*5
出所)厚生労働省「「同一労働同一賃金ガイドライン」の概要①」p.1, p.2
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000470304.pdf

*6
出所)厚生労働省「同一労働同一賃金に関する法整備について(報告)」p.1
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000167471.pdf

*7
出所)中村天江(リクルートワークス研究所主任研究員)「「同一労働同一賃金」は企業の競争力向上につながるのか?─待遇の説明義務に着目して」(『日本労働研究雑誌』)pp.54-55,p.42
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2019/05/pdf/042-056.pdf

以上(2024年3月)

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2024年問題と物流業界 解決すべき課題と対策は?

トラック、タクシー、バスなどの自動車運送は、私たちの生活や経済活動を支えています。
ところが、その自動車運送業界は現在、危機に瀕しています。ドライバーの時間外労働の上限を規制する「改善基準告示」の改正が2024年4月に施行されるためです。

この問題は現在、自動車運転業界、特にトラック運転者が担う物流に深刻な影響を与えます。
これがいわゆる「2024年問題」です。

その最大の問題とはなんでしょうか。
また、その問題を解決するためには、どのような取り組みが必要でしょうか。

本記事では、自動車運送業界のうち物流に対象を絞り、2024年問題によって物流が直面する課題について解説し、国の打ち出した対策を中心に、そのソリューションを明らかにします。

2024年問題の概要と物流業界

まず、2024年問題の概要についてみていきましょう。

背景

持続可能な物流の実現に向けてドライバーの安定的な確保は大切ですが、トラック業界は、ドライバー不足という大きな課題を抱えています。*1

2022年9月の求人倍率は、全職業平均が1.20であるのに対して、トラック運転者は2.12と、約1.8倍に上っています(図1)。

図1 トラック運転者の求人倍率の推移

図1 トラック運転者の求人倍率の推移
出所)国土交通省「国民のみなさまへ トラック運転者手の仕事を知ってみよう 統計からみるトラック運転者の仕事」
https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/work

こうしたドライバー不足の大きな要因として、他業種に比べて厳しい労働環境にあることが挙げられます。
全産業平均に比べて、労働時間が約20%長いのにもかかわらず、賃金は約5~10%安く、業務内容が厳しい現場もあります。

労災請求・支給決定の件数も、こうした道路貨物運送業の長時間・過重労働を物語っています。*2
2022年度の脳・心臓疾患の労災請求件数は133件、労災支給決定件数は50件に上り、ともに全業種の中で最多です。

こうした労働環境を改善するためには、物流現場での働き方改革が必要です。また、自動車運転者の過重労働を防ぐことは、労働者自身の健康確保だけでなく、国民の安全確保の観点からも重要です。*3

「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(以後、「改善基準告示」)の見直しは、こうした状況を背景にしています。

改善基準告知の改正内容

改善基準告示は、法定労働時間の段階的な短縮を踏まえて見直しが行われた1997年以降、改正が行われていませんでした。*3

しかし、2022年12月に自動車運転者の健康確保などの観点から見直しが行われ、トラック、バス、ハイヤー・タクシーなどの自動車運転者について、労働時間などの労働条件の向上を図るため、拘束時間の上限、休息期間、運転時間などについて新たな基準が定められました。

労働基準法改正による時間外労働の上限規制では、年間960時間と定められていたものの、これまで適用が猶予されていました。したがって、違反しても罰則はありませんでしたが、2024年4月からは違反した場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が科されることがあります(図2)。*2

図2 労働基準法改正による時間外労働の上限規制の適用

図2 労働基準法改正による時間外労働の上限規制の適用
出所)公益社団法人 全日本トラック協会「解説 トラック運転者の改善基準告示ー2024年4月適用ー」p.1
https://jta.or.jp/pdf/kaizen/kaizen_text.pdf

この960時間は将来的には一般労働者と同じ720時間にすることを目指しています。

次に、下の表1は、トラックの改善基準告示見直しのポイントです。*3

表1 トラックの改善基準告示見直しのポイント

表1 トラックの改善基準告示見直しのポイント
出所)厚生労働省「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト>トラック運転者の改善基準告示>改善基準告示とは?」
https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/notice

こうした改正の施行が2024年4月1日であることから、この改正とその影響は「2024年問題」と呼ばれています。

物流業界最大の問題とは?

では、この2024年問題で、物流業界に想定される最大の問題とはなんでしょうか。
それは、輸送力不足です。

国は施策がない場合、需要に対して、2024年には14%、2030年には34%、輸送力が不足すると試算しています。*4

その背景となる状況を、厚生労働省による「自動車運転者の労働時間等に係る実態調査結果」(2021年度)からみていきましょう。

1年の拘束時間

表1でみたように、「改善基準告示」の改正では、1年の拘束時間(「労働時間」+「休憩時間」)の上限を、現行より216時間短い3,300時間に定めています。

しかし、1年の拘束時間が3,300時間を超えるトラック運転者の割合は21.7%に上ります(図3)。*5

図3 トラック運転者の1年の拘束時間

図3 トラック運転者の1年の拘束時間
出所)厚生労働省「資料1 自動車運転者の労働時間等に係る実態調査結果(概要)」p.3
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000883703.pdf

1日の休息期間

休息期間はどうでしょうか。
「改善基準告示」では、1日の休息期間(業務終了時刻から、次の始業時刻までの時間)を、継続11時間を基本とし、下限を9時間と定めています。

しかし、継続11時間を超えるのは全体のわずか31.1%で、下限の継続9時間を超えるのも52.4%にすぎません(図4)。

図4 トラック運転者の1日の休息期間

図4 トラック運転者の1日の休息期間
出所)厚生労働省「資料1 自動車運転者の労働時間等に係る実態調査結果(概要)」p.11
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000883703.pdf

足元のトラック運転者不足

上述したように、改善基準告示の改正は、ドライバーの健康確保の観点から、労働時間などの労働条件の向上を図るためです。それは、ドライバー不足の大きな要因である厳しい労働環境を改善することにもつながります。

しかし、1年の拘束時間と1日の休息期間の実態からもわかるように、改正された改善基準告示を遵守するためには、ドライバーの労働時間を現在よりかなり削減する必要があります。
その影響で短期的には人手不足がさらに厳しくなり、輸送力不足という深刻な状況をまねくことが危惧されています。

これが「2024年問題」最大の課題です。

不足する人手…取り組むべき対策とは

2024年2月16日、国は「2024年問題」の対策指針を示した「2030年度に向けた政府の中長期計画」(以後、「中長期計画」)を公表しました。
その内容を中心に、物流業者がとるべき対策についてみていきましょう。

賃金の引上げ

まず、2024年に、運転者確保のための賃上げを図ります(図5)。*6

図5 賃上げの効果

図5 賃上げの効果
出所)内閣官房「物流革新及び賃上げに向けた政府の取組」p.9
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/ik_dai1/siryou.pdf

トラック事業者が受け取る「標準的運賃」を8%引き上げるほか、荷物の積み下ろし作業にも適正な対価を求め、これらの対応によってトラック事業者の収益を改善させ、運転者の賃金を2024年度に10%前後引き上げることを目指します。

逆にいえば、これらの施策をとらず、賃上げの達成ができない物流業者は、今以上に深刻な人手不足に陥る可能性が高いといっていいでしょう。

政策パッケージ

国は「政策パッケージ」を打ち出し、さまざまな施策を積み上げれば、輸送力の不足分を補えるという試算を示しました(表2)。*6

表2 政策パッケージの効果

表2 政策パッケージの効果
出所)内閣官房「物流革新及び賃上げに向けた政府の取組」p.9
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/ik_dai1/siryou.pdf

パッケージの内容を概観していきましょう。

(1)荷待ち・荷役の削減

荷主や物流事業者を対象に、自動化・機械化設備・システム投資を支援することで、2030年度までに運転者の荷待ちや荷役の時間を2019年度比で1人あたり年間125時間削減する。

(2)積載率向上・物流の効率化

共同輸配送や帰り荷確保を促進する取り組みなどによって、2030年度までに積載率を44%にまで増加させる。また、自動運転やドローンなどデジタル技術を活用し、物流の効率化を図る。

(3)モーダルシフト

鉄道(コンテナ貨物)や内航海運(フェリー・RORO船など)の輸送量を今後10年程度で倍増することを目指し、トラックなどの自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換する。

(4)再配達削減

コンビニ受け取りや置き配、ゆとりある配送日時の指定など、物流負荷の低い受取方法を選択した消費者に対しポイントを還元する実証事業などを行い、再配達を現在の12%から6%に削減する。

(5)トラック輸送力拡大など

大型トラックの法定速度を2024年4月に90km/hに引き上げる。また、トラック輸送の省人化の促進や労働生産性の向上に向けて、1台で通常のトラック2台分の輸送を可能とする「ダブル連結トラック」の導入を推進し、その運転に必要な大型免許の取得を促進するなどの取り組みをする。

物流業者は、今後、以上のような施策が実施されることを睨み、それに対応可能な体勢を整えることが重要です。

おわりに

物流は国民の生活と経済活動を支える重要な社会インフラです。
そのため、国も2024年問題を解決するために、中長期計画をとりまとめ、有益な対策を講じようとしています。
物流業者には、そうした対策に歩調を合わせ、対応することが求められることになります。

最後に、中長期計画に盛り込まれていない点に言及したいと思います。
それは、2024年問題は、長期的な観点に立てば、今まで採用できなかった優秀な人材を採用するチャンスとも捉えられるのではないかということです。

たとえば、トラック運転者は男性がなるものというイメージがありますが、国は「トラガール促進プロジェクト」と銘打った取り組みを推進しています。*7
「トラガール」とはトラック・ガール、つまり女性のトラック運転者のことです。

国土交通省「トラガール促進プロジェクト」

トラック運送業界では近年、女性をトラック運転者として積極的に採用する動きが広がってきました。そのため、トイレや更衣室など施設の改修や力仕事の必要のない車両の整備、ライフスタイルに合わせた働き方が選べる制度の創設、福利厚生の充実など、さまざまな取り組みを進めています。*8

そうした観点からみれば、改善基準告示の改正・施行も、中長期計画も、女性が働きやすい環境の整備とも通じます。

国の打ち出した対策とともに、こうした視点を備えることも必要ではないでしょうか。

資料一覧

*1
出所)国土交通省「国民のみなさまへ トラック運転者の仕事を知ってみよう 統計からみるトラック運転者の仕事」
https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/work

*2
出所)公益社団法人 全日本トラック協会「解説 トラック運転者の改善基準告示ー2024年4月適用ー」p.2, p.1
https://jta.or.jp/pdf/kaizen/kaizen_text.pdf

*3
出所)厚生労働省「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト>トラック運転者の改善基準告示>改善基準告示とは?」
https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/notice

*4
出所)内閣官房「2030年度に向けた政府の中長期計画(ポイント)」(2024年2月16日)p.2
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/pdf/20240216.pdf

*5
出所)厚生労働省「資料1 自動車運転者の労働時間等に係る実態調査結果(概要)」(2021年)p.3, p.11
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000883703.pdf

*6
出所)内閣官房「物流革新及び賃上げに向けた政府の取組」p.9, p.5, p.6, p.8, p.7
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/ik_dai1/siryou.pdf

*7
出所)国土交通省「トラガール促進プロジェクト」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/tragirl/index.html

*8
出所)国土交通省「トラガール促進プロジェクト>トラガールの魅力」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/tragirl/miryoku/

以上(2024年3月)

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被災地を応援する「寄附金や義援金」は、いくらまで損金算入できるのか?

書いてあること

  • 主な読者:被災した地域などに寄附金を送りたいと考えている人
  • 課題:寄附金の税務上の取り扱いは、誰が誰に寄附をしたかによって異なるため複雑
  • 解決策:「誰が誰に寄附するか」を明確にして、税務上のルールを確認する

1 寄附金や義援金で被災地を応援したい

2024年1月に発生した能登半島地震は甚大な被害をもたらしました。自然災害が多く、「災害大国」ともいわれる日本。被災地支援のために「寄附金や義援金」(以下「寄附金」)を送りたいと考える経営者も多いことでしょうが、その際は税務上の取り扱いに注意しましょう。

結論から言うと、誰が誰に寄附するのかによって税金の種類が違ってきますし、どこに寄附するのかによって税務上の取り扱いも変わってきます。以下の図表は、被災地や被害を受けた人、団体などに寄附した場合の取り扱いを、大まかにまとめた早見表です。

画像1

この記事では、上の早見表ごとに金銭を寄附するケースを想定して、税務上の取り扱いを紹介します。なお、寄附金の税務上の取り扱いは非常に複雑なため、実際に寄附する際には、事前に税理士などの専門家に相談するようにしましょう。

2 法人として寄附金を送った場合

1)国や地方公共団体に寄附金を送った場合

法人が国や地方公共団体に寄附金を送った場合、法人税の計算上、寄附金の全額を損金算入できます。

なお、災害に関するものとは限らないため詳細な説明は省略しますが、地方公共団体が企画した地方創生のプロジェクトに対して寄附金を送った場合は、法人税・地方税の計算上、税額控除を受けられます(企業版ふるさと納税)。

2)日本赤十字社に寄附金を送った場合

法人が、一定の期間内(例年は4月1日~9月30日まで)に財務大臣が指定した日本赤十字社の事業に寄附金を送った場合、寄附金の全額を損金算入できます。

また、法人が通年において日本赤十字社に寄附金(上記以外のもの)を送った場合、法人税の計算上、通常の寄附金の損金算入限度額(以下「損金算入限度額」)と、特別損金算入限度額の合計額を上限に損金算入できます。

  • 損金算入限度額

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  • 特別損金算入限度額

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例えば、資本金等の額1000万円、所得の金額2500万円、当期の月数が12カ月の場合には、16万2500円(損金算入限度額)と80万円(特別損金算入限度額)の合計額96万2500円となります。このように、法人の資本金や出資金の額、所得の金額が影響してくるので、資本金の額が少ない場合、思ったよりも損金算入額が少ないケースがあります。

3)NPO法人に寄附金を送った場合

法人がNPO法人に寄附金を送った場合、法人税の計算上、そのNPO法人が認定NPO法人かそうでないかで、損金算入限度額が違います。

認定NPO法人の特定非営利活動事業に関連する寄附金を送った場合、損金算入限度額と特別損金算入限度額の合計額を上限に損金算入できます。

  • 損金算入限度額

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  • 特別損金算入限度額

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認定NPO法人以外のNPO法人に寄附金を送った場合、特別損金算入限度額の適用はなく、損金算入限度額が損金算入の上限となります。

  • 損金算入限度額

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認定NPO法人以外のNPO法人に寄附金を送った場合の損金算入限度額は、日本赤十字社や認定NPO法人に寄附金を送った場合よりも少額です。例えば、前述の事例同様、資本金等の額1000万円、所得の金額2500万円、当期の月数が12カ月の場合には、16万2500円になります。

寄附先の法人が特別損金算入限度額、損金算入限度額のいずれの対象となるかは、該当法人のウェブサイトなどで確認するようにしましょう。

4)民放テレビの義援金専用口座に寄附金を送った場合

法人が民放テレビの義援金専用口座に寄附金を送った場合、最終的な寄附先がどの団体等になるのかで判断されます。最終的に日本赤十字社や認定NPO法人に寄附されることが多いようで、この場合は前述した取り扱いと同じになります。

なお、最終的な寄附先は、民放テレビ各社のウェブサイトなどで確認することができます。

5)得意先に見舞金を送った場合

法人が直接得意先に見舞金を送った場合、寄附金ではなく交際費になります。中小法人(資本金の額が1億円以下の法人で一定の法人)の場合、交際費は原則として年間800万円以下まで、損金の額に算入できます。

ただし、見舞金が災害に関連したものは交際費には該当しないものとされ、災害見舞金として全額が損金に算入できます。ただし、金額があまりに過大だと、税務調査などで交際費に該当すると指摘される恐れがあります。明確な金額の基準がない分野のため、金額については、税理士などの専門家に相談するようにしましょう。

6)従業員に見舞金を送った場合

法人が従業員に見舞金を送った場合、寄附金ではなく福利厚生費になります。福利厚生費は、法人税の計算上、全額損金に算入できます。ただし、金額があまりに過大だと、税務調査などで給与に該当すると指摘される恐れがあります。あらかじめ慶弔・見舞金規程などを整理し、それに基づいて支給するようにしましょう。

7)被災した経営者の母校に寄附金を送った場合

法人が被災した経営者の母校に寄附した場合、その母校が取引先である場合を除き、原則として、法人の費用ではなく個人の支出とみなされ、経営者の役員報酬になります。役員報酬は、毎月同額であること(定期同額給与)など一定の基準に基づいていなければ損金算入できません。被災地への寄附金のように突発的に生じた役員報酬は、損金算入できません。

なお、母校が取引先である場合には、前述の得意先に見舞金を送ったケースと同様の取り扱いになります。

3 経営者が個人として寄附金を送った場合

1)国や地方公共団体に寄附金を送った場合

個人として、国や地方公共団体に寄附金を送った場合、所得税の計算上、次の算式により計算した金額を所得金額(税率を乗じる前の金額)から差し引くことができます(以下「寄附金控除」)。

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なお、寄附金控除を受けるためには、個人で確定申告をする必要があります。ただし、寄附先が都道府県・市区町村の場合で、かつ、ふるさと納税として寄附金を送った場合は、ワンストップ特例により、確定申告をしなくても寄附金に係る控除を受けることができます(年収が2000万円を超える場合など、確定申告をしなければならない人を除きます)。

2)日本赤十字社に寄附金を送った場合

個人として、日本赤十字社に寄附金を送った場合、所得税の計算上、前述の国や地方公共団体に寄附金を送ったケースと同様に、寄附金控除額を所得金額から差し引くことができます。

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3)NPO法人に寄附金を送った場合

個人として、NPO法人に寄附金を送った場合、所得税の計算上、そのNPO法人が認定NPO法人かそうでないかで、取り扱いが変わってきます。

認定NPO法人に寄附金を送った場合は、寄附金控除(所得控除)と、税額(税率を乗じた後の金額)から直接減額できる寄附金特別控除(税額控除)の選択適用が認められています。いずれが有利かは、税理士などの専門家に相談してみるとよいでしょう。

  • 寄附金控除

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  • 寄附金特別控除

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認定NPO法人以外のNPO法人に寄附金を送った場合、寄附金控除・寄附金特別控除のいずれも受けることはできません。

4)民放テレビの義援金専用口座に寄附金を送った場合

考え方は法人の場合と同じです。

個人として、民放テレビの義援金専用口座に寄附金を送った場合、最終的な寄附先がどの団体等になるのかで判断されます。最終的に日本赤十字社や認定NPO法人に寄附されることが多いようで、この場合は前述した取り扱いと同じになります。

なお、最終的な寄附先は、民放テレビ各社のウェブサイトなどで確認することができます。

5)得意先に見舞金を送った場合

個人として、得意先に見舞金を送った場合は、所得税の計算上、寄附金控除・寄附金特別控除のいずれも受けることはできません。

また、個人の場合は、その寄附金が災害に関連したものでも、控除を受けられません。

6)被災した経営者の母校に寄附金を送った場合

個人として、被災した経営者の母校に寄附金を送った場合、所得税の計算上、寄附金控除の対象となります。また、私立の学校法人に対する寄附については、認定NPO法人に対する寄附と同様に寄附金控除と、寄附金特別控除の選択適用もできます。

4 寄附金を受け取った側の税務上のルール

ここまで、寄附する側の税務上のルールを説明してきました。今度は、寄附金を受け取った側のルールを紹介します。

法人が寄附金を受け取った場合、法人税の計算上、

原則として、益金(法人税法上の収益)に算入

されます。つまり、商品の売上などと同様に、所得(法人税法上の利益)を増やすことになります。

一方、個人が寄附金を受け取った場合、

  • 勤務先の法人から受け取る場合、給与とみなされて所得税が課される可能性
  • 個人から受け取る場合、贈与とみなされて贈与税が課される可能性

があります。なお、受領した金額が年110万円以下の場合は、贈与税は課されません。ただし、被災等によって寄附金(見舞金を含む)を受け取った場合、受贈者の社会的地位や贈与者との関係、被災状況などに照らして、一般的に多過ぎないと判断されれば、所得税および贈与税は課税されません。いずれにしても、明確な金額の基準がないため、金額については、事前に税理士などの専門家に相談しましょう。

なお、国や地方公共団体から配分を受けた寄附金に関しては、金額の大小を問わず、所得税の課税の対象とはなりません。

以上(2024年3月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:photo-ac

【朝礼】「スマイル0円」こそが最強である

皆さん、おはようございます。今朝は「『スマイル0円(ぜろえん)』こそが最強である」というテーマでお話しします。

若い人にはなじみが薄いかもしれませんが、マクドナルドには「スマイル0円」というサービスがあります。いつ始まったのかは分かりませんが、私が最初に知ったのは学生の頃でした。ただ、当時の私は未熟で、「接客だから、笑顔で対応するのは当たり前。それより、ハンバーガーをタダにしてほしい」と茶化(ちゃか)していて、「スマイル0円」の大切さに気付こうとしませんでした。

しかし、今は「スマイル0円」の大切さが分かります。それは、「人を引きつける力」と「自分と相手に幸せを与える力」の2つに尽きます。

目の前に笑顔の人と機嫌が悪そうな人がいたら、笑顔の人に話しかけますよね。これと同じで、皆さんが笑顔でいれば、相手のほうから皆さんに近寄ってきます。新しい出会いが生まれ、何かが始まります。また、脳科学の分野では、笑顔になると、神経伝達物質の「セロトニン」などが多く分泌されるという研究があります。「セロトニン」は幸せホルモンとも呼ばれるものですから、皆さんの笑顔に触れた相手も笑顔になれば、一緒に幸せになれるのです。

難しく考えなくても、私たちは、日ごろから笑顔の力に触れています。例えば、ちょっと入ったお店の店員さんが笑顔で接してくれたら、とても穏やかないい気分になりますよね。

しかし近年は、ネット通販やキャッシュレス決済が増え、以前よりもお店の人と直接コミュニケーションを取る機会が減りました。また、「お客さまは神さまだから、決して逆らってはならない」という誤解や、カスタマーハラスメントの問題もあって、互いにどこか構えている「乾いた接客」が増えてしまいまいた。

これは、日ごろのコミュニケーションでも同じです。相手を尊重するのは良いことですが、一方で衝突を恐れて相手のテリトリーに立ち入ることがなくなったので、それこそ名刺情報のレベルまでしか相手を知ることができません。これはとても残念なことです。

『人を動かす』や『道は開ける』などの書籍でも知られるデール・カーネギー氏の言葉に、

笑顔は1ドルの元手もいらないが、100万ドルの価値を生み出してくれる

というものがあります。私が皆さんに伝えたいことを示した言葉です。

ただ、もはや笑顔はタダではなくなりつつあります。お店がお客を選ぶようになってきた今、笑顔は特定のお客に対する特別な対応になりつつあります。つまり、高いお金を払ったり、何度も訪れたりする常連に向けての、限られたサービスになりつつあるのです。笑顔の価値が高まっていると感じますよね。だからこそ、むしろ、私たちは笑顔を絶やさない集団でいましょう。100万ドル以上の価値が得られます!

以上(2024年3月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【規程・文例集】「賃金引き下げに関する労働協約と個別の同意書」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:社員の賃下げを検討している経営者
  • 課題:労働組合や社員とトラブルにならないよう、法令にのっとって手続きを進めたい
  • 解決策:専門家が監修した賃金引き下げに関する労働協約や個別の同意書を使用する

1 労働条件の不利益変更を行うのに必要な書面とは?

会社の業績が悪化したり、社員の成果が著しく低かったりなどで、「賃下げ」を検討せざるを得ないケースがあります。ただ、賃下げは「労働条件の不利益変更」になるので、実行するには次のいずれかの手続きが必要です。

  • 労働組合の同意を得て、労働協約を変更する
  • 合理的な内容であることなどを前提に、就業規則を変更する
  • 個々の労働者の同意を得て、労働契約を変更する

その際、1.については「賃金引き下げに関する労働協約」、2.と3.については「賃金引き下げに関する個別の同意書」といった具合に、手続きに応じた書面を用意しておくのが望ましいです。2.については本来、就業規則の変更内容が労働契約法第10条の要件を満たす合理的なものであれば個別の同意書は不要なのですが、賃下げは何かとトラブルになりやすいので、やはり用意しておいたほうが無難です。

以降で専門家が監修した労働協約や個別の同意書のひな型を紹介するので、ご確認ください。

2 賃金引き下げに関する労働協約のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の会社によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした協約を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【賃金引き下げに関する労働協約のひな型】

株式会社○○○○(以下「甲」)と△△△△労働組合(以下「乙」)は相互に協力して会社の発展を図るため、会社が従業員に支払う賃金について次の通り労働協約を締結する。また、本協約は就業規則その他、会社と従業員間における全ての協定または契約に優先する。

第1条(目的)

本協約は会社が従業員に支払う賃金支給水準の変更について定めるものであり、これに関連して賞与、退職金の算定基準となる賃金も変更される。

第2条(定義)

本協約において各用語の定義は、次に定めるところによる。

1.賃金:別途定める「賃金規程」(省略)第○条の年功給、職能資格給、技能給のことをいう。

2.賞与:賃金規程第○条の賞与をいう。

3.退職金:別途定める「退職金規程」に基づく退職金をいう。

4.従業員:就業規則第○条の従業員をいう。

第3条(賃金の改定)

本協約の締結後の最初に到来する賃金支払日より、会社は本協約「別表」(省略)に基づいて計算した賃金を従業員に支払う。

第4条(賞与の改定)

本協約の締結後最初に到来する賞与支給月より、会社は本協約「別表」(省略)に基づいて計算した賞与を従業員に支給する。ただし、本協約により賞与の支給月数が変更されることはない。

第5条(退職金の改定)

本協約の有効期間中に生じる退職金の算定は、本協約「別表」(省略)に基づいて行うものとする。

第6条(有効期間)

本協定の有効期限は○年○月○日から1年間とする。

締結日 ○年○月○日

甲 株式会社○○○○  
代表取締役 〇〇〇〇

乙 △△△△労働組合  
委員長 〇〇〇〇

3 賃金引き下げに関する個別の同意書のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の会社によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした同意書を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【賃金引き下げに関する個別の同意書のひな型】

△△△△(従業員氏名)は、本同意書で定める賃金改定について、○年○月○日、別紙説明資料の提示を受けた上で、会社から十分な説明を受けてその内容を理解し、同意した。本同意書の締結後、会社が支給する賃金、賞与、退職金が次の通り変更される。

1.賃金

  • 年功給:    円
  • 職能資格給:  円
  • 技能給:    円

2.賞与

本同意書の締結後、賞与の計算の基礎となる賃金は本同意書「別表」(省略)に定める額に基づく。

3.退職金

本同意書の締結後に生じる退職金の計算の基礎となる賃金は、本同意書「別表」(省略)に定める額に基づく。

締結日 ○年○月○日

甲 株式会社○○○○   

乙 △△△△(従業員氏名)

以上(2024年3月更新)
(監修 弁護士 八幡優里)

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画像:ESB Professional-shutterstock

中小企業に賃上げは必要? 会社負担が少ない「手当」を使ったアプローチ

書いてあること

  • 主な読者:賃上げの必要性は感じるが、経営の先行きは不透明な経営者
  • 課題:基本給を一度引き上げると簡単には下げられない
  • 解決策:会社負担が少ない「手当」で実質的な賃上げを実施する

1 賃上げムードでも判断は慎重に!

物価高の影響などから、賃上げ(定期昇給やベースアップ)に向けた動きが活発化しています。2023年10月以降の地域別最低賃金は、全国加重平均額で1004円(過去最高額、初の1000円超え)となりました。2024年春闘では、「みんなで賃上げ。ステージを変えよう!」をスローガンに、賃上げ目標を「5%以上(定期昇給相当分を含む)」とする方針が打ち出されています。

ただ、中小企業の経営者の多くは、

「賃上げはしたいけど、先行きを考えると簡単には踏み切れない……」

と考えているのではないでしょうか。賃上げは簡単でも、賃下げは「労働条件の不利益変更」の問題などがあって難しいので、どうしても慎重にならざるを得ません。

この記事では、そのような経営者に次の2つをご提案します。

  1. 今の賃金水準を確認し、賃上げの必要があるかを判断する
  2. 「手当」で実質的な賃上げをする

2 今の賃金水準を確認し、賃上げの必要性を判断する

今の賃金水準が世間相場を上回っていれば、無理に賃上げに取り組む必要はないでしょう。そこで、

厚生労働省が毎年3月ごろに公表する「賃金センサス(賃金構造基本統計調査)」

で御社の賃金水準を確認してみてください。賃金センサスでは、賃金や賞与に関するデータが、会社の規模や産業、社員の属性(性別、年齢、勤続年数、役職、職種など)に応じて細かく分けられています。

■厚生労働省「賃金センサス」■

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

例えば、社員数50人の小売業の会社が、社員の所定内賃金(毎月必ず支給する賃金、残業代などを含まない)を同業他社のデータなどと比較したい場合、社員の属性に合わせて、賃金センサスのデータを次のように検索します。

Aさんの所定内賃金であれば、40歳男性(勤続15年)の平均35万1700円や、40歳男性(課長級)の平均38万1300円と比較します。なお、これは月給の比較となりますので、賞与なども加味することを忘れないでください。

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御社の賃金水準が世間相場を上回っているなら、それを社員に伝えましょう。社員は世間相場以上の賃金をもらっていることを喜ぶでしょう。逆に、御社の賃金水準が世間相場を下回っているなら、賃上げを検討する必要があります。

ただし、前述した通り、「賃上げは簡単でも、賃下げは難しい」のが実情です。基本給を引き上げると後が大変かもしれないので、それ以外で調整したいところです。そこでご提案するのが、「手当」を使って実質的な賃上げを実施する方法です。

3 「手当」で実質的な賃上げをする

基本給と違い、手当は「就業規則等で定める要件を満たす場合のみ支給する」のが基本です。要件を満たさなくなれば支給は止まるので、基本給を一律に引き上げるよりも、新しい手当をつくって社員に支給したほうが、人件費が経営を圧迫するリスクを回避しやすくなります。

また、「基本給を引き上げる代わりに、賞与で調整する」という方法を取る会社は多いですが、賞与は多くの場合、6カ月に1回の支給です。それよりも、毎月の手当で実質的な賃上げをしたほうが社員は喜ぶかもしれません。

具体的な手当の例は次の3つです。

1)インフレ手当

冒頭でお話しした物価高の影響で、2022年ごろから注目を集めているのが、

物価高が続く間、社員の生活費を補填するために支給する「インフレ手当」

です。社員が生活に困らないようにするための手当ですが、物価高が続いていることが支給の前提条件なので、経済情勢が変わってきたら支給を打ち切ることもできます。就業規則等で

「支給期間は○年○月○日から1年間とする。ただし、物価変動の状況などを考慮して会社が必要と認めた場合、支給を継続することがある」

など、あらかじめ支給期間を決めつつ必要に応じて延長する定めをすることが考えられます。

支給額については、「基本給×○%」などで設定するケース、総務省が公表している「消費者物価指数」を基準に決めるケースなど、会社によってさまざまです。ちなみに、帝国データバンクが、2022年11月にインフレ手当を導入している会社について毎月の支給額を調査したところ、

最も多かった回答は「3000円~5000円未満」「5000円~1万円未満」(ともに30.3%)

でした(帝国データバンク「インフレ手当に関する企業の実態アンケート」)。

2)業務代替手当(育児休業など)

育児休業などで社内に長期間欠員が出る場合、導入を検討したいのが、

休業者のフォローに回る社員に対して支給する「業務代替手当」

です。通常時はさほど賃金に不満がない社員でも、社内に欠員が出て急に業務量が増えると、「今の賃金では割に合わない、もっと金額を上げてほしい」と考えるようになります。こうした場合に役立つのが業務代替手当です。

例えば、休業者が育児休業に入る前に、休業者の担当業務を他の社員に割り振り、新担当者に業務代替手当を支給するようにします。育児休業中の休業者の賃金を無給にしている会社であれば、その分の額を業務代替手当として、フォローに回る社員に分配することができます。育児休業が終了し、休業者が元の業務に復帰したら、業務代替手当の支給は終了します。

なお、育児休業については、2024年1月から

業務代替手当を支給した会社に対し、手当総額の原則4分の3(上限10万円×最大12カ月)を助成する「両立支援等助成金 育休中等業務代替支援コース」

が始まっています(業務体制の整備や育児休業等に関する情報公表について別途支給あり)。

■厚生労働省「両立支援等助成金 育休中等業務代替支援コース(下記URL中段)」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html

2)インセンティブ報酬

運用次第で会社の業績アップにもつながる可能性があるのが、

社員が特定の目標を達成した場合に支給する「インセンティブ報酬」

です。いわゆる「歩合給」と似ていますが、歩合給は販売件数などの実績に応じて一律に支給するのに対し、インセンティブ報酬は「社員が設定した目標を達成した場合にのみ支給する」という特徴があります。

「社員の頑張りに応じて支給するなら、賞与でいいじゃないか」と思うかもしれませんが、インセンティブ報酬のほうが、社員のモチベーションアップにつながりやすいケースもあります。

例えば、毎月の賃金に上乗せしてインセンティブ報酬を支給する場合、

社員は毎月目標を立て、インセンティブ報酬を獲得するため、その達成に全力で取り組む

ことになります。期首に大きな目標を立てて、期末に達成度合いを確認するだけだと、時間が経つうちに目標が有名無実化してしまうこともありますが、1カ月ごとなどの短いスパンで小さな目標を都度立てるのであれば、緊張感も継続します。経営者としても、目標を達成して会社に貢献してくれる社員が増えるのは喜ばしいことです。

インセンティブ報酬をうまく運用すれば、賃金体系を成果重視のものへと切り替えていくことができます。ただし、今まで賞与として支給していた分の額などをインセンティブ報酬に振り替える場合、その変更が「労働条件の不利益変更」にならないよう注意する必要があります。

以上(2024年4月更新)

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画像:Yellow_man-shutterstock

賃金の悪平等をなくす「調整給」はどこまで自由に支給できるか?

書いてあること

  • 主な読者:現在の賃金ルールの見直しを考えている経営者
  • 課題:賃金規程通りに賃金を支給すると、社員の能力を反映しきれない場合や、転職や定年再雇用による賃金低下に対応しきれない場合がある
  • 解決策:調整給で賃金を調整する。ただし、支給するケースや期間などを明確に決める

1 調整給(調整手当)とは?

一般的に、調整給(調整手当)とは、

賃金規程の通りに賃金を支払うことが妥当でない場合に支給する手当

です。例えば、

  • 社員の能力が想定より高く(低く)、ルール通りの賃金だと世間相場とかけ離れる
  • 前職や定年前などに比べて賃金が下がり過ぎてしまう

などのケースです。図で表すと次のようなイメージになります。

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調整給を支給すれば、このズレを解消できるので、経営者にとってはまさに「魔法の杖」のような賃金です。一方、調整給はルールが曖昧になりがちで、悪平等を解消するつもりが、かえって不平等になってしまうことがあります。そこで、この記事ではトラブルにならない調整給の運用ポイントを紹介します。

2 調整給を支給するケースを想定しておく

調整給も賃金なので、支給に関するルールを就業規則等に定める必要があります。あまり詳細に定めると運用しにくくなるため、

「調整給は、会社が必要と判断した社員に対し、一定期間支給する」

など、シンプルな記載にとどめるのが一般的です。とはいえ、「困ったら何でも調整給で対応すればいい」と安直に考えてはいけません。就業規則等で詳細を定めないということは、

調整給の金額や決定方法を個別に社員に説明し、同意を得て支給しなければならない

ということです。場当たり的な運用では、社員に納得のいく説明ができないでしょうから、

  • 社員の能力が想定より高い(低い)場合
  • 前職や定年前などに比べて賃金額が下がる場合
  • 賃金体系の変更で賃金額が下がる場合

など、経営者の中で「どのようなケースに調整給を支給するのか」をあらかじめ想定し、ケースごとの支給ルールを決めておく必要があります。

3 いつまで調整給を支給するのかも重要

調整給には、

支給事由が消滅したら、支給を停止したほうがよいケース

があります。具体的には、次のような場合です。

  • 社員の能力が想定より高いため、調整給を支給していたが、定期昇給によって本来の賃金額(調整給を除く金額)が上がった場合
  • 定年再雇用で賃金が下がったため、調整給を支給していたが、老齢年金をもらえる年齢になって生活が安定してきた場合

こうしたケースで調整給を支給し続けると、対象の社員は「賃金をもらいすぎている」状態、つまり他の社員にとって不公平な状態になります。ですから、調整給を支給する場合、

いつまで調整給を支給するのかとその理由を、個別に社員に説明し、同意を得る

ようにしましょう。また、いきなり調整給の支給を停止すると、支給額によっては社員の生活などに影響することもあるので、その場合、

昇給額などに応じて段階的に調整給を引き下げていく

といった対応も検討しましょう。

4 調整給を支給する代表的な3つのケース

1)社員の能力が想定より高い(低い)場合

基本給には「下方硬直性」といって、一度高い金額を設定すると減額がしにくい性質がありす。この点を考慮して、社員を採用する際の賃金は、

実際に仕事をしてもらわないと能力が分からないので、基本給を高く設定しにくい

というケースがほとんどです。そこで登場するのが調整給です。具体的には、

基本給を低めに設定し、調整しやすい調整給で上乗せする

という方法がとられます。例えば、入社時は「低めの基本給+調整給」を支給しておき、試用期間の終了とともに調整給を打ち切って社員の能力に応じた金額を基本給に振り替えるといった運用が考えられます。

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同様に、既存社員についても能力を賃金に反映しきれない場合などに、調整給を用いることがあります。例えば、賃金額全体に占める勤続給の割合が高い会社では、若手社員は能力が高くても賃金額が低くなってしまうため、調整をかける必要があります。この場合、

調整給は人事考課のタイミングで都度、支給額を見直し、継続的に支給する

といった運用が考えられます。

2)前職や定年前などに比べて賃金額が下がる場合

中途採用者の賃金額が前職よりも下がってしまう場合、調整給をプラスして低下分を補填します。社員の生活水準を維持することが目的なので、他の社員との公平性を考慮して、

調整給は社員の定期昇給時に徐々に減額していき、調整給を除く賃金額が前職の賃金額に追い付いたら支給を停止する

といった運用も可能です。ただし、その場合、実質的な賃金額が入社時から変化しないことになるので、入社時に社員に説明して同意を得ておく必要があります。

社員が定年後に嘱託などとして再雇用され賃金額が下がる場合、社員の生活を考慮して調整給を支給するケースもあります。この場合、原則65歳になると、老齢年金が支給されるので、そうなったら調整給の支給を停止することなどを検討します。

3)賃金体系の変更で賃金額が下がる場合

「年功給重視から職務給重視の制度に変わった」「等級制度を見直した」などのように、賃金体系に変更があった場合、それによって社員の賃金額も変動します。ただ、会社側のルール変更を理由に、いきなり社員の賃金額を変動させると生活などに影響します。この場合、

一定期間、賃金額が下がる社員については調整給をプラスする

といった運用が考えられます。

注意すべきは、調整給の支給期間です。影響範囲が全社員なので、いつまで調整給を支給するのか、慎重に考える必要があります。もともと実力重視の会社で成績などの評価がシビアなら、調整給の支給期間は1年など短くてよいかもしれませんが、そうでない場合は数年など長めの支給期間を設けます。自社の風土や社員の声などを検討して決めましょう。

もう1つ重要なのが、経営者のメッセージです。調整給に支給期間を設けるのは、

一定期間賃金を保証する代わりに、新しい賃金体系に対応した社員になってもらうため

です。社員が制度の上にあぐらをかかないよう、支給期間を設ける意味と、どんな社員に成長してほしいかを、経営者が積極的に発信するようにしましょう。

以上(2024年3月更新)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

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画像:ChatGPT

「賃金規程」のポイントを理解すれば、 賃金の基本ルールは大体分かる!

書いてあること

  • 主な読者:古い賃金規程を使っていて、内容を見直していない経営者
  • 課題:具体的にどう賃金規程を見直せばよいのか分からない
  • 解決策:「絶対的必要記載事項」「相対的必要記載事項」を中心にチェックする

1 賃金規程の記載事項にヌケモレはないですか?

賃金規程とは、

就業規則のうち、賃金に関する基本事項を本則と別に定めたルールブック

です。物価高の影響などで賃上げに向けた動きが活発化する中、賃金テーブルの見直しなどで規程に目を通す機会も多いでしょうが、その前に1つ質問です。御社の賃金規程は、法律上記載すべき事項を全て網羅していますか?

労働基準法(以下「労基法」)には、就業規則に記載すべき事項として、

  • 絶対的必要記載事項:必ず記載しなければならない事項
  • 相対的必要記載事項:定めがある場合に記載しなければならない事項

が定められています。賃金規程についても、図表1の通り記載すべき事項が決まっていて、なおかつそれぞれの項目について、法律上守らなければならないルールがあります。

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この記事では、絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項それぞれについて、法律上のルールや定め方のポイントをまとめています。「今は賃金規程を見直すつもりはない」という人も

賃金規程のポイントを押さえれば、賃金の基本ルールを一通り復習できる

ので、読んでおくと社員とのトラブル予防などに役立つかもしれません。

なお、「賃金規程のひな型」については、次の記事で紹介しているので、興味がある方はぜひご確認ください。

2 必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)

1)賃金(臨時のものは除く)の決定・計算方法

1.賃金規程の適用範囲

賃金規程を適用する社員を定めます。例えば、正社員とパート等とで賃金のルールが異なる場合、正社員の賃金は「賃金規程」、パート等の賃金は「パートタイマー用就業規則」で定めるのが一般的です。

2.賃金体系

基本給や手当など自社の賃金体系を整理し、賃金規程に定めます。

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少々複雑なのが手当です。なぜなら、手当には労基法上、

  • 基準内賃金(割増賃金の計算基礎に含まれる賃金)に該当するもの
  • 基準外賃金(割増賃金の計算基礎から除外される賃金)に該当するもの

があるからです。そのため、新しい手当をつくったり、古い手当を廃止したりする場合は注意しましょう。基準外賃金に該当する手当は次の7つで、それ以外は全て基準内賃金になります。

  • 家族手当(扶養家族の人数に応じて支給されるものに限る)
  • 通勤手当(通勤距離や通勤費用に応じて支給されるものに限る)
  • 住宅手当(住宅に要する費用に応じて支給されるものに限る)
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 臨時に支払われた賃金
  • 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金

3.賃金形態

時給制、日給制、月給制など、賃金形態を定めます。

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4.賃金からの控除

賃金は全額払いが原則ですが、法令や労使協定で別段の定めがある場合、控除して支払うことができます。次のように控除する項目を定めます。

  • 法令:所得税、住民税、社会保険料など
  • 労使協定:組合費、レクリエーション費など

なお、労使協定により控除できるのは、内容が明白なものだけなので、例えば「控除が必要と会社が判断したもの」など、曖昧な定めは認められません。また、「社員が備品を紛失した場合、その代金」などと定めて、会社の持つ債権と賃金を相殺することも禁止されています(ただし、社員が自らの意思で同意した場合は、控除が認められます)。

5.賃金の支給額

基本給、手当などの支給額を定めます。また、時間外労働(法定労働時間を超える労働)、休日労働(法定休日の労働)、深夜労働(原則22時から翌日5時までの労働)の残業手当の計算方法についても、次の割増賃金率に違反しないよう注意します。

  • 時間外労働:25%以上。時間外労働が60時間超の場合、超過時間分については50%以上
  • 休日労働:35%以上
  • 深夜労働:25%以上

なお、よく時間外労働と所定外労働(所定労働時間を超える労働)を混同する人がいますが、両者は必ずしもイコールではありません。例えば、社員の1日の所定労働時間が7時間の場合、7時間を超えて働いても法定労働時間(原則1日8時間、1週40時間)に達しなければ、割増賃金を支払わなくても違法ではないのです。支払うか支払わないかは、会社が賃金規程で定めます。

この他、注意が必要なのが休暇等の賃金です。例えば、年次有給休暇(年休)は必ず有給にしなければなりませんが、育児休業や介護休業は有給でも無給でもよいとされています。休暇等の種類ごとに、有給・無給の区別を明らかにしておきましょう。

2)賃金の支払方法

賃金は金融機関振り込みが一般的ですが、労基法上は通貨で直接本人に支払う(手渡し)のが原則です。金融機関振り込みにする場合、必ず社員の同意を取得した上で行います。

3)賃金の締切り・支払時期

1.通常の支払い

賃金は毎月1回以上、一定の期日に支払うのが原則なので、次のように計算期間と支払日を定めます。なお、賃金の支払日が土・日・祝日の場合、その前日に支払うのが一般的です。

  • 賃金の計算期間:毎月1日から月末まで
  • 賃金の支払日:翌月10日(前月の賃金締切り分)

2.臨時払い

社員が死亡や退職などをした場合の賃金の支払いについて定めます。こうした場合、社員や遺族からの請求に応じて7日以内に、会社はそれまでの労働に対する賃金を支払わなければなりません。

3.非常時払い

出産、疾病、災害など非常時の賃金の支払いについて定めます。社員が非常時の費用に充てるために賃金の支払いを請求してきた場合、会社はそれまでの労働に対する賃金を支払わなければなりません。

4)昇給に関する事項

昇給の算定期間や時期などを定めます。昇給は人事考課などに基づいて、毎年1回定期に行うのが一般的です。ただし、会社の業績が悪化した場合なども考え、昇給を行わないケースについても明らかにします。また、社員とのトラブル防止のため、降給の基準も定めておきます。

3 定めがある場合に記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)

1)臨時の賃金(賞与)

賞与を支給するかしないかは会社の自由ですが、一度賃金規程に定めを設けたら、その定めに従って支給しなければなりません。賞与については労基法上、賃金規程に何を記載すべきかが特に決まっていませんが、次のような内容を定めておくとよいでしょう。

1.賞与の支給時期と支給回数

「夏季と冬季に年2回支給する」など、賞与の支給時期と支給回数を定めます。ただし、会社の業績が悪化した場合なども考え、賞与を支給しないケースについても明らかにしておきます。

2.賞与の支給額と対象期間

賞与の支給額の決定方法を定めます。賞与は一般的に、社員の業務成績・勤務態度の考課結果などに応じて決定します。その際、考課の対象期間を賞与の種類(夏季賞与、冬季賞与など)ごとに明らかにします。

3.賞与の支給対象者

賞与を支給する社員、支給しない社員を定めます。一般的に、考課の対象期間内に勤務実績があって、支給日に在籍している社員を対象とします。

2)最低賃金額

最低賃金額(賃金の最低保障額)が決まっている場合、その金額を定めます。ただし、最低賃金法を下回る金額は設定できません。最低賃金には、

  • 地域別最低賃金:都道府県ごとに設定されている最低賃金
  • 特定最低賃金:特定の産業について設定されている最低賃金

の2種類があり、両方が適用される会社の場合、いずれか高額なほうが最低賃金となります。地域別最低賃金と特定最低賃金の金額などは、厚生労働省ウェブサイトから確認できます。

■厚生労働省「賃金(賃金引上げ、労働生産性向上)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/chingin/index.html

以上(2024年3月更新)
(監修 社会保険労務士法人AKJパートナーズ)

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