幕末・明治に活躍した勝海舟。いつでも大局を見据えて行動した彼の、物事に固執しない価値観が表れた一言とは?

主義だの、道だのといって、ただこればかりだと、極(き)めることは、私は極く嫌いです

勝海舟(かつかいしゅう)は、江戸時代には幕臣でありながら、明治維新後の新政府でも要職に就いた政治家です。明治維新の際には西郷隆盛との直談判によって江戸城の無血開城を実現させるなど、政権の円滑な移行に尽力し、欧米列強による侵略から日本を守るのに貢献しました。

幕末から明治維新にかけては、倒幕派、佐幕派、公武合体派、開国派、攘夷(じょうい)派など、幕府や諸藩のみならず、同じ藩内でもさまざまな考えを持つ人が入り乱れ、対立し、多くの血が流れました。そんな中で海舟は、日本を欧米列強による侵略から守るということを最優先し、国内での衝突を最小限に抑えるという、大局的な観点で日本の将来を考えることができた数少ない人物だったといえます。冒頭の言葉は、海舟にそれを可能にした大きな要因といえるでしょう。

「主義」とは、「こうあるべきだ」という理想、「道」とは、「このようにすべきだ」という方法論といえ、いずれも「価値観」に含まれる要素です。これらの価値観を絶対的なものだと決め付けてしまうことは、組織にとって押し付けと固執という、2つの弊害を生んでしまいます。

組織のメンバー全員の価値観が同じということは、現実的にあり得ません。1つの価値観を無理に押し付けようとすると、反発する人も出るでしょう。だからといって異なる価値観を持つ人を組織から排除してしまっては、多様な人材は集まりません。いずれにしても、多様な価値観を認められない組織は、組織として成立しません。

かつては、強力なリーダーシップを発揮して、自らの掲げる価値観をメンバーに浸透させた「カリスマ」が数多くいました。ですが、今は社会の価値観が多様化し、急速に変化している時代です。無理にメンバーの価値観をそろえて仮に能率が上がったとしても、個性が失われ、持ち味を活かせない機会損失のほうが大きいかもしれません。

また、1つの価値観に固執した組織は、その価値観が陳腐化した際に対応できないという弱点があります。新たな価値観を取り入れられる柔軟性と多様性を持たない組織は、長くは持ちません。

組織やトップが固執すべきなのは、最終ゴール、言い換えれば最も大きな理念だけです。そのゴールの認識さえ一致していれば、組織のメンバーそれぞれの主義や道などの価値観は、互いに認め合い、尊重するべきです。海舟であれば、ゴールは「日本を守る」ということでした。旧幕臣でありながら、明治政府にも参加した海舟を「変節漢」と呼ぶ声もありましたが、海舟からすれば、それも日本を守るため。主義や道にとらわれて、本当に大事なことを守れなければ、本末転倒です。

企業で働く社員には、一人ひとりに生きる上での理想があり、理想に基づいた働く目的があり、働く目的に基づいた働き方があります。企業を成長させ、永続させるというゴールさえ一致していれば、協力し合えるはずです。

出典:「海舟座談」(勝海舟述、巌本善治編、岩波書店、1983年2月)

以上(2023年2月)

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【役員報酬】生命保険を活用した役員退職金の準備方法

書いてあること

  • 主な読者:生命保険を使って役員退職金の準備をしたい経営者
  • 課題:具体的な商品の特徴や税務上のルールを知りたい
  • 解決策:生存退職金と死亡退職金に対応し、退職時期もイメージしながら決定する

1 事前に準備をしないと経営を圧迫する

役員退職金は多額なので、事前に支払い準備をしておかなければなりません。それは、

退職時に準備をせずに払ったり、借入金で賄ったりすると、自社の経営を圧迫するケースがある

からです。それに、根拠なく勝手に決めると、税務上で否認される(損金に算入できない)恐れがありますし、そうした前例をつくることはガバナンス的にも好ましくありません。

役員退職慰労金には、生存しているうちに本人が受け取る「生存退職金」と、在任中に亡くなった場合に遺された家族が受け取る「死亡退職金」とがあり、この点も考慮しておく必要があります。

この記事では、中小企業で一般的な生命保険を活用した準備方法についてご紹介します。生命保険を活用すると、契約内容にもよりますが、保険料の一定割合が損金算入できるなどのメリットがあります。

2 生命保険を活用した準備

1)定期保険

定期保険は、

一定期間内に被保険者が死亡した場合に死亡保険金が支払われるもの

です。保障期間の満期時の満期保険金はありません。

契約形態が、

  • 契約者:法人
  • 被保険者:役員
  • 死亡保険金の受取人:法人

の場合、支払保険料の税務上の取り扱いは、解約返戻率がピークに達するときの割合(最高解約返戻率)によって次のように異なります。

定期保険の税務上の取り扱い

2)第三分野保険

第三分野保険は、

医療保険、がん保険、介護保険などが該当し、被保険者が病気やけがをした場合に保険金・給付金が支払われるもの

です。定期保険と同様に保障期間の満期時の満期保険金はありません。

支払保険料に対する税務上の取り扱いは、保険の種類によって次のように異なります。

  • 定期:定期保険と同じ取り扱い
  • 終身(全期払い。保険料を一生涯払い続けるもの):定期保険と同じ取り扱い
  • 終身(短期払い。保険期間よりも短い期間で保険料の支払いが終了するもの):年間保険料によって異なる

定期保険と取り扱いが異なる終身(短期払い)のものに係る税務上の取り扱いは、次の通りです。

第三分野保険(終身、短期払い)の税務上の取り扱い

3)養老保険

養老保険は、

被保険者が死亡した場合は死亡保険金、保険契約期間が満期となった場合は満期保険金が支払われるもの

です。途中解約の場合は解約返戻金が支払われます。契約時に設定した保険金額がそのまま満期時の受取金額(満期保険金額)となるので、何年後にいくら受け取れるかが明確です。生存退職金と死亡退職金のいずれにも備えることができます。

通常、養老保険の保険料は全額を資産計上しますが、契約形態が、

  • 契約者:法人
  • 被保険者:役員・従業員全員(普遍的加入)
  • 死亡保険金の受取人:被保険者の遺族
  • 満期保険金の受取人:法人

の場合、福利厚生費として支払保険料の1/2を損金算入できます。

一方、養老保険を使って役員退職慰労金(生存退職金)の準備をする場合、役員の退職時期が当初の予定より延期されると、会計上、満期保険金(保険料積立金等の資産計上額を取り崩して受け取った保険金との差額)は収益(益金)となります。

養老保険の支払保険料の取り扱いは次の通りです。

【養老保険の支払保険料の取り扱い】

法人が契約者となり、役員又は使用人を被保険者とする養老保険に加入して支払った保険料は、保険金の受取人に応じて次の通り取り扱われます。

1.死亡保険金及び生存保険金の受取人が法人の場合

その支払った保険料は、全額資産に計上します。

2.死亡保険金の受取人が被保険者の遺族、生存保険金の受取人が被保険者の場合

その支払った保険料は、被保険者である役員又は使用人に対する給与として損金に算入します。ただし、役員給与には、損金算入に関する種々の制約があるので注意が必要です。なお、給与とされた保険料は、その役員又は使用人の生命保険料控除の対象となります。

3.死亡保険金の受取人が被保険者の遺族、生存保険金の受取人が法人の場合

その支払った保険料のうち、1/2に相当する金額は資産計上し、残り1/2に相当する金額は期間の経過に応じて損金に算入します。ただし、役員又は部課長その他特定の使用人のみを被保険者としている場合には、それぞれ役員又は使用人に対する給与になります(給与とされた保険料の取り扱いについては上記2.と同様となります)。

なお、持病で養老保険に加入できない場合や、「入社半年以上の社員」など客観的で合理的な基準に基づく制度導入の場合は、普遍的加入とみなされます。基準については、顧問税理士や保険会社担当者などに相談するとよいでしょう。マイナス金利が導入された現在、養老保険は必ずしも有利な選択ではなくなってきました。払い込んだ保険料と比べて、満期保険金のほうが少ないことがほとんどです。

(注)傷害特約などの特約があり、その特約部分の保険料の額が生命保険証券などで区分されている場合は、その特約部分の保険料の額を期間の経過に応じて損金の額に算入します。ただし、役員又は部課長その他特定の使用人のみを傷害特約等に係る給付金の受取人としている場合には、その特約部分の保険料の額は、その役員又は使用人に対する給与とします。

以上(2023年2月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:Svitlana-Adobe Stock

【朝礼】上司は「ありがとう」を口癖にしよう

社会人になると、仕事で褒められたり、感謝されたりすることが少なくなります。仕事というのはできて当たり前のことですから、当然と言えば当然です。

このことについて、知人の会社の女性社員から聞いたことを思い出しました。

その女性社員はお客さんが帰られた後の茶器を給湯室で洗っていました。そこには茶器以外にも、何人かが置いていったマグカップがありました。冬場で水しか出ない給湯室の作業はつらいのですが、それらを仕事と割り切り、淡々と洗っていました。

ところが、ふと、さも当然のように置いてあるマグカップを見て、「本当に自分がこの仕事をする必要があるのか」ということが頭の中をよぎったそうです。そして「別に、この仕事は私でなくとも誰でもできることだし、そもそも置いた人が洗えばいい。それならば私がする必要はないし、その間に別の仕事ができる」と考えていると、最終的には、「本当にこの会社で仕事を続けていいのか」と思うようになり、もんもんとしてしまったのだそうです。

この話を聞いたとき、私には思い当たるふしがありました。皆さんが毎日仕事に従事してくれるおかげで、会社は成り立っています。にもかかわらず、皆さんを褒めることもなく、感謝や労いの言葉すらかけていません。

私が「いつもありがとう」という感謝の言葉を口にしないため、皆さんの上司も、そうした言葉を口にしないようです。

先の女性社員の話には続きがあります。その女性社員が茶器などを洗い終わり、食器棚に片付けていると、ある人から「いつもありがとう」と声をかけられたのだそうです。その人は、いつも給湯室の流しにマグカップを置いていく人でした。今までそんなことを言われたことがなかったので、女性社員は驚きで「はい…」と返事をすることしかできませんでした。同時に、地味で目立たないことですが、こんな小さなことでも見てくれている人のいることが分かった上、感謝の言葉をかけられて、とてもうれしかったそうです。そして、「たとえ小さな仕事でも、それまで続けてきた努力はどこかで見てくれている人がいる。手を抜かず、着実に毎日の仕事をやり遂げよう」と思ったそうです。

皆さんも、慣れた仕事を毎日のようにしていると、本当にこの仕事をやっていていいのか、他にもっと面白い仕事があるのではないかと思うことがあるかもしれません。しかし、皆さんが行っている仕事はどんな小さなものでも大切な意味を持っています。どの仕事も一人ひとりが丁寧に着実に進めていくことで、会社が成り立っているのです。

このことは、私も皆さんの上司も分かっています。ただ、分かってはいても、皆さんへ「ありがとう」の感謝の言葉を伝えることができていませんでした。上司の皆さんは、部下の仕事のすべてに目を配り、そして「ありがとう」と言ってください。私も今日から「ありがとう」を口癖にします。

以上(2023年2月)

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画像:Mariko Mitsuda

【コスト削減の教科書(7)】材料費

書いてあること

  • 主な読者:資金繰りに不安があり、もう一段のコスト削減を図りたい経営者や財務担当者
  • 課題:コスト削減の中でも、手始めに経費削減を行う際のポイントを確認したい
  • 解決策:まずは基本的な考え方や進め方に立ち返り、材料費の削減を検討する。開発段階での機能や材料そのものの見直し、調達段階での仕入先の見直しなど、メリットとデメリットを理解した上で実施する

1 難易度別・コスト削減のヒント

1)開発段階

難易度A(事業全体への影響の考慮が必要)

  • 製品の機能の価値と、機能の実現コストを評価する
  • 使用する材料を見直す

2)調達段階

難易度B(実行するための作業や準備が必要)

  • 材料市況や為替など外部環境の変化に備える
  • インターネットでの調達を検討する

難易度A(事業全体への影響の考慮が必要、対外的な交渉が必要)

  • 取引数量を増やす
  • 現金仕入れを行う
  • 支払いサイトを短縮する
  • 仕入先を見直す

2 材料費を削減する際の考え方

1)直接材料費と間接材料費

材料費とは、製品を製造するために消費した物品の原価です。製品の主たる実体を構成するか否かで、直接材料費と間接材料費に分けられます。

直接材料費は、

製品の主要部分に用いられる物品の費用である主要材料費(原料費)、製品に取り付けられる部品の費用である買入部品費など

が該当します。

一方、間接材料費は、

接着剤や塗料など、製品を製造する際に補助的に消費される物品の費用である補助材料費、製品を製造する機械設備に使用する潤滑油や機械油などの消耗品の費用である工場消耗品費、金づちやドライバー、机・椅子などの工具・器具・備品の費用である消耗工具器具備品費など

が該当します。

材料費をコスト削減する際は、各材料の特性や購買実態を踏まえながら、最適な案を検討する必要があります。

2)製品の開発段階から材料設計を入念に行う

例えば、「耐久性」を売りとして製品の開発を企画したとします。しかし、アンケート調査を行った結果、顧客が製品の「耐久性」を重要視していないことが分かれば、「耐久性」を実現するために掛かる材料費は、削減の対象です。

しかし、生産が始まってからでは見直しが難しくなります。製品の開発段階から材料設計を行い、使用する部品の点数を減らせないか、部品の加工に要する工数を減らせないか、標準化した部品を組み合わせてモジュール化できないかなどを検討します。そして、調達段階で安価に仕入れる方法を検討するのがポイントです。

3)調達先の変更はメリットとデメリットを理解する

材料の調達段階におけるコスト削減の手法には、それぞれメリットとデメリットがあります。例えば、取引先を集約して取引数量を増やすと価格引き下げの可能性は高くなる一方、少数の取引先に依存しがちで、リスク管理の面からは好ましくない場合もあります。こうしたメリットとデメリットを理解した上で、材料費のコスト削減を進めていくことがポイントです。

3 材料費を削減する際の具体的な方法(開発段階)

1)難易度A:製品の機能の価値と、機能の実現コストを評価する

製品はさまざまな材料・部品で構成されており、それらの材料・部品は製品を特徴付ける個々の機能を果たしています。しかし、全ての機能が製品にとって本当に必要な機能とは限りません。

例えば、他社との差異化を図るためにさまざまな機能を付加したものの、製品が次々とリニューアルされていくうちに、当初の目的が曖昧になったり、多くの他社製品にも同様の機能が付加されて、既に差異化要因にならなくなったりしているケースが見られます。

材料費をコスト削減する際は、製品の機能と、それを実現するために使用する材料・部品に掛かるコストを評価します。評価は、実現された機能が顧客にとってどれだけの価値をもたらすのかという視点で行い、コストが掛かる割に価値が低い機能があれば、見直しを図ります。

2)難易度A:使用する材料を見直す

材料は、常により安いものに替えることができないかを検討します。ただし、製品の品質や価値を低下させては意味がありません。企業の信頼にも関わる問題ですので、材料を替えることの影響を、さまざまな角度から検討する必要があります。また、材料を替えることで、加工費が高くなってしまわないか考慮する必要もあります。

4 材料費を削減する際の具体的な方法(調達段階)

1)難易度B:材料市況や為替など外部環境の変化に備える

事業のグローバル化、製品の安全性や環境配慮へのニーズの高まりなど、材料・部品の調達を取り巻く環境は変化しています。材料費は、材料市況や為替によって変動するため、仕入先との情報連携を密にしつつ、景気の先行きも見据える必要があります。

購買担当者が知っておきたい指標の1つに、「PMI(Purchasing Managers’ Index、購買担当者景気指数)」があります。PMIは、製造業やサービス業の購買担当者を対象にアンケート調査や聞き取りなどを行い、新規受注・生産高・受注残・価格・雇用・購買数量などの指数に一定のウエートを掛けて算出されます。通常、50を分岐点とし、それを上回ると景気拡大、下回ると景気後退を示唆するとされます。

英国の金融情報・調査会社IHSマークイットが各国のPMIを算出している他、米国ではサプライマネジメント協会、中国では国家統計局・中国物流購買連合会がPMIを算出しています。

2)難易度B:インターネットでの調達を検討する

インターネットの発達に伴い、企業の中にはインターネットを経由した材料の調達を行っているところもあります。インターネットを経由し、仕入先と原材料や部品の情報を交換し、見積もりを取りながら商談を行い、仕入れを検討します。

インターネットでの調達によって削減が期待できるコストには、原材料や部品の仕入価格の削減に加え、仕入れに関連する業務の効率化もあります。このため、仕入れを担当する部署などの人件費を削減できる可能性もあります。

また、企業の中には、購買情報をウェブサイトに掲載し、仕入先を広く募集する「リバースオークション(逆オークション)」を導入しているところもあります。これは、仕様や契約条件などを専用のウェブサイトに掲載し、最低価格で落札した仕入先と契約する手法です。リバースオークションを用いることで、仕入先が提示する相場を把握でき、コスト削減が見込まれます。

3)難易度A:取引数量を増やす

取引数量を増やし、交渉力を高めることで、仕入価格を引き下げられる場合があります。具体的な方法は次の通りです。

1.取引先を集約する

類似した原材料などを複数の取引先から仕入れている場合は、取引先を集約することで、取引数量を増やすことができます。

2.社内の発注窓口を集約する

複数の工場があり、原材料の発注をそれぞれの工場で行っている場合は、発注窓口を1つに集約することで、取引数量を増やすことができます。

3.他社と共同仕入れを行う

同じ材料を仕入れている他社と共同仕入れを行うことで、取引数量を増やすことができます。  なお、地域によっては、同業種の企業などが共同仕入れなどを目的とした協同組合などの団体を設立していることがあるので、こうした団体へ加入できないか相談・検討してもよいでしょう。

4)難易度A:現金仕入れを行う

仕入れの支払いを手形で行ったり、掛け取引で購入したりするケースは多くありますが、現金で仕入れを行えば、仕入先は資金繰りが楽になります。そのため、現金決済を交渉材料に、仕入先と単価の引き下げについて折衝することも可能でしょう。

5)難易度A:支払いサイトを短縮する

支払いサイトを短縮できるならば、仕入先にとって都合の良い条件改善となります。例えば、平均サイトが60日であるところを45日に短縮できれば、その分、仕入先は短期間で資金化を図れます。そのため、支払いサイトの短縮を交渉材料に、仕入先と単価の引き下げについて折衝することも可能でしょう。

6)難易度A:仕入先を見直す

原材料や部品は商社や問屋などを通じて仕入れるのが通常です。仕入れルートが、元卸、1次卸、2次卸と多段階になっていると中間マージンが掛かる分、仕入価格が高くなります。直接メーカーから仕入れることができれば最良ですが、それができなくても、メーカーに近い商社や問屋などから仕入れる努力をしましょう。

法人取引の場合、仕入先を見直す機会はあまり多くありませんが、単価の引き下げ交渉が不調となってしまった場合には、仕入先の見直しの検討も必要でしょう。

以上(2023年2月)

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画像:pexels

【コスト削減の教科書(6)】福利厚生費

書いてあること

  • 主な読者:資金繰りに不安があり、もう一段のコスト削減を図りたい経営者や財務担当者
  • 課題:コスト削減の中でも、手始めに経費削減を行う際のポイントを確認したい
  • 解決策:まずは基本的な考え方や進め方に立ち返り、福利厚生費の削減を検討する。他社(世間相場)と比較しつつ、従業員のニーズに基づいて、単なる削減でなく費用対効果を重視してメニューを入れ替えていく

1 難易度別・コスト削減のヒント

難易度C(ルールの変更や制度の導入をすれば実行が可能)

  • 恒例の社内イベントを見直す

難易度B(実行するための作業や準備が必要)

  • 保養所・法人契約施設を見直す
  • 社宅使用料・寮費を見直す
  • 法定外福利厚生のアウトソーシングを利用する
  • リモートワークに合わせたメニューに入れ替える

難易度A(事業全体への影響の考慮が必要)

  • ユニホームなどの貸与・支給を見直す

2 福利厚生費を削減する際の考え方

1)コスト削減が可能なのは法定外福利厚生費

福利厚生とは、企業が従業員やその家族の生活補助・健康管理・自己啓発・余暇充実のために行う制度の総称です。福利厚生を行うための費用を福利厚生費と呼び、「法定福利厚生費」と「法定外福利厚生費」に大別されます。

このうち、

法定福利厚生費は企業が独自に変更することはできません。

一方、法定外福利厚生費は各社の法定外福利厚生の整備状況によって異なります。例えば、

通勤・住宅手当、家族手当、慶弔金、資格取得など自己啓発の補助、保養所の所有、スポーツクラブとの法人契約、社員食堂の運営、社内レクリエーション、特別休暇など

が該当します。総花的にメニューを充実させるのではなく、従業員の利用率が低いメニューを廃止・縮小する、自前ではなくアウトソーシングを検討するといった見直しを行うことで、法定外福利厚生費のコスト削減を図ることができます。

法定福利厚生費と法定外福利厚生費の違い

2)単なる削減でなく費用対効果を重視

新型コロナウイルス感染症の影響をきっかけとして、リモートワークに切り替える企業も増えました。社員食堂のようなオフィス内で利用する法定外福利厚生のメニューなどを廃止・縮小し、リモート手当などを支給している企業もあります。一方、対面でのコミュニケーションの重要性を強く感じた企業では、ミーティングスペースやレクリエーションスペースなどを充実させるといった考え方もあるでしょう。

法定外福利厚生は、従業員のモチベーションアップ、企業の従業員に対する思いや姿勢を伝える重要な取り組みです。単なる廃止・縮小ではなく、コスト削減の視点に加えて、従業員のニーズや企業の思いなどを踏まえて、メニューの入れ替えなどを含めて法定外福利厚生のメニューについて改めて考えてみましょう。

3)確認しておきたい世間相場

企業が従業員を雇用するために負担する費用は、実際に従業員に支払う月給(毎月決まって支給する給与)だけではありません。冒頭で紹介した法定福利厚生費や法定外福利厚生費の他、退職金の支払い準備、教育訓練の費用などさまざまなものがあり、これらを総称して「労働費用」と呼びます。

業種などで異なるものの、厚生労働省「令和3年就労条件総合調査」によると、常用労働者1人1カ月平均現金給与以外の労働費用のうち、法定外福利厚生費は6.7%を占めます。自社の法定外福利厚生費がこれよりも突出して高かったり低かったりする場合は、見直しが必要かもしれません。

また、日本経済団体連合会「2019年度福利厚生費調査結果の概要」では、法定外福利厚生費の内訳が紹介されており、2019年度は従業員1人当たり2万4125円(対前年度比95.1%)となっています。この資料では、「住宅・持家援助への支給額が多い」など、法定外福利厚生費がどの分野で使われているのかを確認することができます。

3 福利厚生費を削減する際の具体的な方法

1)難易度C:恒例の社内イベントを見直す

新型コロナウイルス感染症の影響をきっかけとして、忘年会・新年会などを含めた社内イベントの実施を見直す動きが広がりました。感染の影響などが低い場合も、恒例の社内イベントの実施を見直すことで、コスト削減の効果が見込めます。

社内イベントの目的や、従業員のニーズを把握した上で、効果が期待できない既存の社内イベントと、新たな社内イベントを入れ替える方向で検討します。

2)難易度B:保養所・法人契約施設を見直す

企業によっては、直営の保養所を保有していたり、スポーツクラブなどと法人契約を締結していたりする場合があります。従業員の利用率が高ければ、保有や契約を継続してもよいでしょう。しかし、あまり利用されていない場合、見直しが必要です。アンケート調査などを実施し、ニーズの少ないものは廃止も視野に入れて検討します。

3)難易度B:社宅使用料・寮費を見直す

社宅や寮の整備などの住宅関連は、法定外福利厚生の中心的なメニューであり、継続していきたいものです。しかし、企業の負担が大きく、場合によっては非入居者との不公平感が生じるものもあります。そのため、入居者からの適正な利用料の徴収など、法定外福利厚生費のコスト削減と従業員間の不公平感の払拭の両方を視野に入れて取り組むとよいでしょう。

4)難易度B:法定外福利厚生のアウトソーシングを利用する

法定外福利厚生費のコスト削減策の1つとして有効なのが、アウトソーシングです。主にアウトソーサーと呼ばれる企業が、「企業から従業員規模に応じた入会金と月会費を受け取り、法定外福利厚生のメニューや施設を用意して、企業の法定外福利厚生の一切の運用を受託する」といった形でサービスを提供します。

法定外福利厚生のアウトソーシングは、自前で充実した法定外福利厚生のメニューをそろえることが難しい中小企業などに活用されています。例えば、全国各地の商工会議所が会員企業向けに行っている、アウトソーシングによる法定外福利厚生サービス「CLUB CCI」や、ベネフィット・ワン、リロクラブ、イーウェル、リソルライフサポートなどのアウトソーサーがあります。

法定外福利厚生のアウトソーシングは、メニューについては大きな違いはありませんが、アウトソーサーごとに料金体系が異なります。一度、アウトソーサーの営業担当者から詳細を聞いてみるとよいでしょう。

5)難易度B:リモートワークに合わせたメニューに入れ替える

前述した通り、新型コロナウイルス感染症の影響をきっかけとして、法定外福利厚生のメニューを見直す動きも広がっています。例えば、椅子やモニターなどリモートワーク環境の整備を目的にリモートワーク手当を支給したり、社員食堂の代わりに提携先の飲食店で利用できる食事補助券など支給したりしている企業もあります。

リモートワークに取り組んでいる企業であれば、既存の福利厚生のメニューを縮小・廃止して、このようなメニューへの入れ替えを検討してもよいでしょう。

6)難易度A:ユニホームなどの貸与・支給を見直す

ユニホームを貸与している企業では、作業服や事務服などを、2着以上貸与しているケースが一般的です。その際、作業量や業務に応じて適正な数の貸与が行われているかを見直すとよいでしょう。事務職の場合はユニホームそのものを廃止するという考え方もあります。

ユニホームは、顧客に対する企業イメージなどにも関係しますので、対外的な影響も考慮しながらコスト削減を図りましょう。

以上(2023年2月)

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これでは売れない……社員のプレゼン力に不満を覚えたら

書いてあること

  • 主な読者:社員のプレゼン力や売る力に物足りなさを感じている経営者
  • 課題:資料が美しくないなどの問題もあるが、そもそも「熱量」が感じられない
  • 解決策:経営者が考える良いプレゼンを「要件定義」する。その上で経営者に近い視点を持てる社員を選抜して教育する

1 社員の「プレゼン力」に不満を覚えたら

社員の「プレゼン」が全然ダメ……

この記事は、こんな不満を持つ経営者の参考になるように、

組織のプレゼン力を高める方法

をご提案するものです。ここでいうプレゼン力は、「売る力」や「伝える力」と読み替えていただいても大丈夫です。

プレゼンについて解説した書籍やネット記事は数多く、セミナーも頻繁に開催されています。それに、中小企業では営業同行などで経営者と社員が一緒に行動することが多いので、社員は経営者の振る舞いを見られる機会が多いです。

にもかかわらず、社員のプレゼン力が高まらないのはなぜなのでしょうか?

2 良いプレゼンを「要件定義」する

もっともありがちな問題は、

一般的に社員のプレゼンは合格点なのに、経営者は物足りなさを感じている。ただ、物足りないポイントが曖昧で、何をすれば合格するのか誰も分からない状況

です。

かつて、筆者は知り合いの経営者Aから「社員の資料が分かりにくいので、資料作りの勉強会をしてほしい」と相談されたことがあります。経営者Aは「資料の作り方がバラバラで読む気になれない」ことを強調していました。そこで、「資料の構成、色使い、フォントの種類、文字数の配慮」などのルールを決めて徹底し、一般的に見て分かりやすい資料作りができるようにしました。

その結果、経営者Aも資料が改善されたと感じてくれましたが、不満は解消されませんでした。というのも、問題は資料の見やすさではなく、「社員の伝え方や伝える内容」であったと気付いたからです。そこで、次は「話し方や情報の整理術」についての勉強会もすることになりました。

この事例のようなケースは珍しくありません。ですから、経営者の皆さんは、

合格ラインとなる良いプレゼンの「要件定義」

をして、社員に伝えなければなりません。ゴールが曖昧なままでは、いつまでたっても組織のプレゼン力は向上しません。

3 熱量のある社員を選抜する

早速「要件定義」をしていきたいところですが、ここで課題になるのが「人」です。プレゼンを極端に分けると、

  • 綺麗な資料で、トークもスムーズ。だけど、表面的で冷たいプレゼン
  • 武骨な資料で、トークも“噛(か)み噛み”。だけど、すごい熱量が伝わるプレゼン

といったようになります。ケースバイケースとはいえ、筆者の経験上、

リアルのビジネスで通用するのは後者のプレゼン

です。すごいテクニックがあっても熱意が伝わらなければ、相手の心の琴線に触れることはできないということです。

そして、テクニックについて学ぶ機会はいくらでもありますし、要件定義も簡単です。しかし、プレゼンに熱量を込められるかどうかは社員次第となります。そのため、経営者は、

プレゼンを担当する社員を選抜

しなければなりません。

4 深掘りする力を養う

熱量のある社員を選抜したら、次は物事を深掘りする習慣を身につけましょう。熱量があっても、話していることが独りよがりだったり、視点が低かったりすると、聞いているほうはきついです。聞き手に配慮できない社員はこのようになりがちです。

改めて定義すると、プレゼンにおいて深掘りする力とは、

どうすればこちらの意図が相手に伝わりやすいか

を考えることです。未来も見据えて、こちらの形と相手の形を合わせるために、双方の利益を深く考えなければなりません。

深掘りする力を鍛える方法として、

文章の報告書を作る

方法があります。世間的には「効率化」が重視され、必要な情報が箇条書きにされた資料が歓迎されています。しかし、箇条書きだと、なぜ、社員がその項目を選んだのか、社員の思考が明らかになりません。それに、書く側の社員としても、深く考えずに何となくポイントを箇条書きにすることで形にできてしまいます。

これが文章の場合はそうはいかず、自分の書いていることに矛盾がないかを確認したり、本当にそれが伝えたいことなのかを確認したりして、物事を深く考えます。このため、文章の報告書で深掘りする力を鍛えることができ、実際、これを取り入れている会社もあります。

5 実践しながら擦り合わせる

あとはプレゼンを実践しながら、経営者の理想と社員の実態とのギャップを埋めていきましょう。経営者と全く同じ考え方をする必要はありませんが、

経営者と同じ問題に反応できるようになる。つまり、経営者に近い視点の高さと視野の広さを持つための感度を高める

ことが大切です。そのためには、経営者がクライアントなどと食事をする席に参加させ、そのような場でどのような話をしているかを聞かせることも重要です。

また、経営者が何を考えているのかを知ってもらうために、社内SNSに「社長チャンネル」(仮称)を開設し、そこに経営者の考えを投稿するのも一策です。

以上(2023年2月)

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画像:Chaay_Tee-shutterstock

DX戦略の現在地。他社はどこまで進んでいる?〜経営者200人アンケート

書いてあること

  • 主な読者:次年度を見据え、新たにDXに取り組みたい経営者
  • 課題:何から着手すべきか分からないので、他社がどのようなDXに取り組んでいるのか知りたい
  • 解決策:多くの企業が着手している項目や、DXを取り組むための参考になる支援機関や補助金情報を基に、まずは総務(経理・人事)業務のデジタル化などから着手する

1 2023年を御社のDX元年に!

今話題の「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。御社のDXはどこまで進んでいますか? 気になるのは、

他社のDXがどこまで進んでいるか

だと思いますので、そのような皆さんの参考になるように、独自アンケートから「DXの現在地」を探っていきます。

仮にDXのレベルを次の5段階に分けたとします。もし御社がレベル1やレベル2に相当するとお考えでしたら、2023年の目標として「レベル3まで達成すること」を掲げてみてはいかがでしょうか?

  • レベル1:DXの必要性を認識していない、取り組みたいと感じていない
  • レベル2:これからDXに取り組むために、情報収集や人材育成などの準備を進めている
  • レベル3:総務(経理・人事)業務のデジタル化など、他社も取り組んでいるDXに着手している
  • レベル4:自社の本業に関わる部分でDXに着手し、独自の商品・サービス開発などにつなげている
  • レベル5:IPAの「DX認定制度」に認定されるなど、外部の機関から取り組みが評価されている

では、早速、アンケートの結果を見ていきましょう。最後に相談機関なども示していますので、具体的なアクションにつなげてください!

なお、アンケートは2023年1月にインターネットで行い、経営者209人から回答を得ました。

2 DXの現在地。他社はどこまで進んでいる?

1)DXに前向きな企業は約4割

DXの取り組み状況を聞いたアンケート結果は次の通りです。

DXの取り組み状況について

およそ半数の方が「着手する予定はない」と回答している一方で、「これから着手する予定である」「着手しているが、まだ成果が出ていない」「着手しており、成果が出ている」を合わせると、約4割がDXの取り組みに対して前向きであることがうかがえます。

2)DXに取り組むきっかけは「経営者自身の思い」が一番

DXに取り組むきっかけを聞いたアンケート結果は次の通りです(図表1のDXの取り組み状況で、「着手しており、成果が出ている」「着手しているが、まだ成果が出ていない」「これから着手する予定である」と回答した方を対象に聞いています)。

DXに取り組むきっかけについて

最も多かった回答は「経営者自身が取り組みたいと感じているため」で、「法律などの規制・制度変更に対応するため」といった実務への対応や、「金融機関や税理士などから提案されたため」など外部からの提案を上回っています。経営者自身のDXに対する興味ややりたいという気持ちが、DXの推進力になっていることがうかがえます。

3)DXで実現したいことは「コスト削減」などの業務効率化

DXで実現したいことを聞いたアンケート結果は次の通りです(図表1のDXの取り組み状況で、「着手しており、成果が出ている」「着手しているが、まだ成果が出ていない」と回答した方を対象に聞いています)。

DXで実現したいことについて

「コストを削減したい」の回答数が最も多くなっており、「書類やデータの共有をスムーズにしたい」「作業時間を短縮したい」の回答が続いています。

「売り上げを倍増したい」「リモートワークなどの働き方に対応したい」という目標よりも、まずは足元の業務効率化を目標に据えると、よりDXに取り組みやすくなるかもしれません。

4)全社的に「ペーパーレス化」が進んでいます

総務(経理・人事)、営業、生産・物流の3部門で取り組んでいるDXについて聞いたアンケート結果は次の通りです(図表1のDXの取り組み状況で、「着手しており、成果が出ている」「着手しているが、まだ成果が出ていない」と回答した方を対象に聞いています)。

部門ごとのDX取り組み状況について

部門ごとの特徴は次の通りです。

  • 「文書の電子化・ペーパーレス化」「オンライン会議ツールの導入」「グループウェア・チャットツールの導入」は部門をまたいで全社的に取り組まれている
  • 総務(経理・人事)部門は「DXに取り組んでいない、取り組む予定がない」と回答した人がおらず、何かしらのDXに取り組んでいる
  • 営業部門は他の2部門と比較して「オンライン会議ツールの導入」と「グループウェア・チャットツールの導入」の割合が高く、コミュニケーションツールにDXが導入されていることがうかがえる
  • 生産、物流部門は「DXに取り組んでいない、取り組む予定がない」と回答した方の割合が他の2部門よりも高くなっており、他の2部門と比較してDXの推進が難しいことがうかがえる

裏を返せば、事業に直接関わらない総務(経理・人事)部門などのバックオフィス系はDXに取り組みやすい部門といえます。もし、これからDXに取り組むことを検討している場合には、まずは総務(経理・人事)部門のDXに目を向けてみるとよいでしょう。

5)DXの成果は「社内業務の効率化」

DXによる具体的な成果を聞いたアンケート結果は次の通りです(図表1のDXの取り組み状況で、「着手しており、成果が出ている」と回答した方を対象に聞いています)。

DXによる具体的な成果について

「新規商品、サービスを開発した」「他社との差異化を図れた」といった本業に直接関わるような成果はまだ出ていないものの、「書類やデータの共有がスムーズになった」「リモートワークなどの働き方に対応した」「作業時間が短縮できた」といった足元の業務効率化を実現した企業が多くを占めています。

6)1番に取り組みたいのは「文書の電子化・ペーパーレス化」

総務(経理・人事)、営業、生産・物流の3部門で、これから取り組みたいDXを聞いたアンケート結果は次の通りです(図表1のDXの取り組み状況で、「これから着手する予定である」と回答した方を対象に聞いています)。

部門ごとに取り組みたいDXについて

図表4の「部門ごとのDX取り組み状況について」に続き、部門を問わず、「文書の電子化・ペーパーレス化」にこれから取り組みたいと回答した方が多くなっています。

7)DX推進の課題は「コスト」と「人材確保」

DX推進に当たっての課題を聞いたアンケート結果は次の通りです(図表1のDXの取り組み状況で、「着手しているが、まだ成果が出ていない」「これから着手する予定である」と回答した方を対象に聞いています)。

DX推進に当たっての課題について

「ツールやシステムを導入するコストを掛けられない」の回答数が最も多く、「社内にデジタル人材がいない」が次点となっています。

一見、DXは高額なツールを導入したり、ITに深く精通していないと着手できなかったりすると思われがちですが、近年ではDXに関する情報収集や人材育成に活用できるポータルサイトなどもあり、取り組みのハードルは下がっています。次章で紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

8)DXを進めるには、目標をはっきりさせること

今後のDX推進に必要なものを聞いたアンケートの結果は次の通りです。

今後のDX推進に必要なものついて

「低コストで導入できるデジタルツール」や「助成金制度などの外部機関による支援」もDX推進のためには大切ですが、まずはDXに取り組む目的や戦略を明確にする必要があります。

DXにこれから取り組む場合には、前掲の図表3「DXで実現したいことについて」の回答も参考に、DXに取り組むことで何を実現したいかを明確にして、社員にも共有させるとよいでしょう。

3 総括:各社のDXの現在地は?

ここまでの質問を踏まえて、冒頭で紹介したDXの5段階のレベルについて聞いたアンケートの結果は次の通りです。

なお、5段階のレベルの定義は次の通りです。

  • レベル1:DXの必要性を認識していない、取り組みたいと感じていない
  • レベル2:これからDXに取り組むために、情報収集や人材育成などの準備を進めている
  • レベル3:総務(経理・人事)業務のデジタル化など、他社も取り組んでいるDXに着手している
  • レベル4:自社の本業に関わる部分でDXに着手し、独自の商品・サービス開発などにつなげている
  • レベル5:IPAの「DX認定制度」に認定されるなど、外部の機関から取り組みが評価されている

DXの現在地について

冒頭の繰り返しにはなりますが、これからDXに取り組もうとする際には、今回のアンケート結果を参考に、

2023年のうちに他社に後れを取らないレベルになること

を意識してみましょう。

4 (参考)DXに関する助成金制度や認定機関の紹介

ここでは、DXに関する助成金制度や認定機関などの情報をまとめました。これからDXに取り組む際に、ぜひ参考にしてみてください。

1)DXに関する情報収集や人材育成に活用できるウェブサイト

1.独立行政法人情報処理推進機構(IPA):DX SQUARE

DXに関する情報を発信するウェブサイトです。DXの基礎知識や用語集をはじめ、他社のDX推進事例やDX推進に役立つツールなどを紹介しています。

■DX SQUARE■
https://dx.ipa.go.jp/

2. IPA:マナビDX

デジタルスキルに関する学習コンテンツを紹介するウェブサイトです。DXの基礎的な講座をはじめ、社員のキャリアアップや企業研修に活用できる講座の情報をまとめています。

■マナビDX■
https://manabi-dx.ipa.go.jp/

3. 中小企業基盤整備機構:ここからアプリ

中小企業がDX推進に関して、導入しやすい業務用アプリを紹介するウェブサイトです。アプリの概要だけでなく、実際の企業による導入事例なども紹介しています。

■ここからアプリ■
https://ittools.smrj.go.jp/

2)DX推進に関する助成金制度

財務省:デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制

DXに不可欠なクラウド技術を活用したデジタル関連投資に対して、税額控除(3%または5%)または、30%の特別償却を行うものです。IPAが審査する「DX認定」の取得やクラウド技術の活用などが要件になります。投資額の上限は300億円となっています。

3)DXに関する認定制度

1.IPA:DX認定制度

2020年5月15日に施行された「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律」に基づく認定制度です。企業からの申請に基づき、優良な取り組みを行う事業者を経済産業省が認定するものです。

この制度に認定されることで、DX認定制度のロゴマークを利用し自社PRができるだけでなく、DX実現に必要なデジタル関連投資に対して税額控除、もしくは特別償却を受けることができるなどのメリットがあります。

■DX認定制度■
https://www.ipa.go.jp/ikc/info/dxcp.html?utm_source=dxsquare

2.経済産業省:DXセレクション

中堅・中小企業などのモデルケースとなるような優良事例を「DXセレクション」として紹介する取り組みです。優良事例を選定・公表することで、地域内や業種内での横展開をはじめ、中堅・中小企業などにおけるDXの推進や取り組みの活性化につなげていくことを目的としています。

■DXセレクション■
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-selection/dx-selection.html

以上(2023年2月)

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画像:TarikVision-Adobe Stock

【朝礼】あなたはヤマメか、サクラマスか

今日は皆さんに、問題を出したいと思います。皆さんはヤマメという魚と、サクラマスという魚の違いを知っていますか?

ちょっと意地悪な問題なのですが、正解は、「違わない」のです。生物学的には、両方ともサケ科の同じ種類の魚です。しかし、その生き方は全く異なります。川に一生住み続ける“陸封(りくふう)型”と呼ばれるのがヤマメで、川を下って海で育つのがサクラマスです。

では、ヤマメとサクラマスとの運命の分かれ道はどこにあるのでしょうか? その答えは、両者が生まれて約1年後に激烈を極める、縄張り争いにあります。体の小ぶりなヤマメが争いに敗れ、居場所を失って川を下るそうです。

海に出たヤマメは、川よりも天敵の数も種類も多い海で、危険にさらされながら生きることになります。ですが、海には餌となる小魚が豊富にいます。川に居続けるヤマメの大きさが20~30センチメートルほどなのに対して、海で生き延びたヤマメ、つまりサクラマスは、2倍以上の70センチメートル程度にまで成長します。そして海に出てから約1年後、産卵のために生まれた川に“凱旋”するのです。

ヤマメと比べて体の大きなサクラマスのほうが産み落とす卵の数は多く、子孫を残せる可能性が高くなります。つまり、一度は競争に負けたヤマメが約1年後にサクラマスとなり、川に残っていたヤマメに逆転勝ちするのです。

皆さんはこの話を聞いて、ヤマメとサクラマスのどちらになりたいと思いましたか? 私はかつてサクラマスの生き方に憧れて、積極的に広い世界に出て、学び、成長したいと考えたものです。

しかしながら、今の考えは違います。私が今、なりたいのは、ヤマメでもサクラマスでもありません。ヤマメやサクラマスを育む、川になりたいのです。

この会社にも、さまざまなタイプの人がいます。1つの仕事をコツコツやり遂げるヤマメタイプの人もいますし、社外でいろいろと学んでスキルアップをしたいと考えているサクラマスタイプの人もいます。

どちらの生き方も素晴らしいことですし、私はそれぞれの生き方を応援したいと思っています。今の仕事の専門性を高め、極めたいと考えている人には、それにふさわしい場所を与えられるようにします。外の広い世界で学び、成長したいのであれば、むしろ積極的に後押しして送り出したいと思っています。ヤマメは川で、サクラマスは海で、それぞれ精いっぱい生きているのですから、どちらも胸を張ってよいのではないでしょうか。

私はこの会社を、ヤマメやサクラマスが生き生きと泳げる、川のような会社にしたいと思っています。皆さんは、自分の思うような生き方をしてください。そして、自分と生き方や考え方の違う人とも、認め合える関係を築いていってください。

以上(2023年2月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】時間についても、自分に厳しく、人に優しく

約束した時間を守ることは、ビジネスパーソンとしてとても重要なことです。これはマナーではなくルールであると考えてください。

皆さんの多くは、毎朝、遅刻することなく出社してくれます。また、会議や簡単な打ち合わせさえ遅刻することはありません。私はこのことをとても誇らしく思っています。

しかし、遅刻はしないものの、いつも時間ぎりぎりにならないと現れない人もいます。こうした人はいずれ遅刻するのではないかと心配になってしまいます。

ビジネスパーソンが商談に遅刻するようでは、相手に「時間すら守れないような人は信頼できない。一緒に仕事をすることはできない」と思われても仕方ありません。約束した時間に遅れてしまったことが原因で商談が台なしになってしまうこともあるのです。

約束した時間を守るためには、「10分前行動」を徹底しましょう。例外を作らず、どのようなときも、早めに余裕を持って行動するのです。

例えば、とりわけ遠いところまで商談に行く場合は、早い時間から近くの場所まで行っておくなど、遅れないように準備しましょう。そうすることで道路の渋滞や交通機関の遅延など不測の事態で移動に時間がかかってしまった場合でも、遅れることを防ぐことができます。

仮に、商談の時間に間に合わなそうな場合には、「遅刻すると分かった時点ですぐに連絡する」「誠実に謝罪する」といった対応が大切です。

それでは、相手が商談に遅刻した場合はどのように対応したらよいのかを考えてみましょう。

自分が時間を厳守する人は、相手にもそれを求めがちです。しかし、相手が商談に遅刻してきたからといって、皆さんは厳しく接したり、不機嫌な態度をとったりしてはいけません。相手には「きっとやむを得ない事情があったに違いない」と考えて、笑顔で対応してください。

遅刻してきた相手は、皆さんに対して申し訳ない気持ちでいっぱいのはずです。そのため、その商談は交渉が始まる前から皆さんにとって、つまり我が社にとって有利な状況になっています。これは、皆さんが時間を守り、相手の遅刻を許したからにほかなりません。

昔からよく「自分に厳しく、人に優しく」といわれますが、時間についても同じことがいえます。自分は絶対に遅刻しないように気を付け、そして、相手の遅刻には寛容に接するように心がけましょう。

以上(2023年2月)

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画像:Mariko Mitsuda

経営者保証を外す機運が高まっている今がチャンス! そのためにも自社の経営状態を見直しましょう!

「経営者保証」とは、簡単に言うと、経営者が会社の連帯保証人となることです。経営者保証つきの融資を受けた場合、万が一会社として返済ができなければ、経営者は自分の財産を返済に充てなければなりません。
 そのため、経営者保証つきの融資を抱えている経営者の多くは、

会社の経営に失敗したら、自分の財産まで失ってしまう。経営者保証がなければいいのに……。

と思っているのではないでしょうか。
 経営者保証は、金融機関の長年の融資慣行として続けられていましたが、このように経営者の負担が大きいことから、2013年に「経営者保証に関するガイドライン(以下「ガイドライン」)」が作成され、経営者保証のつかない融資が推奨されるようになりました。
 しかし、2022年上半期の時点でも、経営者保証のつかない融資は33.1%にとどまっています。そこで政府は2022年に閣議決定した「総合経済対策」において、経営者保証のつかない融資を促すことを盛り込み、年内にそのための施策を取りまとめるとし、さらなる強化に乗り出したのです。このように経営者保証を外す機運が高まってきている今は、経営者保証を見直す機会です!

この記事では、

  • 2013年から始まった経営者保証を外す流れ
  • 経営者保証を外す要件を示した「ガイドライン」
  • 「ガイドライン」を活用すれば本当に経営者保証は外せるのか

について、解説していきます。

1 2013年から始まった経営者保証を外す流れ

前述のとおり、経営者保証を外すことや経営者保証のつかない新規融資を推奨する「ガイドライン」が、2014年2月から適用されています。
参照:「経営者保証に関するガイドライン(PDF)|全国銀行協会

しかし、その後も経営者保証のつかない融資は広がらず、金融庁は「ガイドライン」の周知を図るとともに、金融機関に対し「ガイドライン」の積極的な活用を要請したり、金融機関ごとの取組状況を一覧表にして掲示したりするなど、関与を強めてきました。
参照:経営者保証に依存しない融資慣行の確立に向けた施策について|金融庁

その結果、徐々に経営者保証のつかない融資は広がってきていますが、それでも2022年上半期の段階で民間金融機関による経営者保証のつかない融資は、33.1%にとどまっています(2017年度が16.5%)。
参照:「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績について|金融庁

こうした状況を受け、政府が閣議決定した「総合経済対策」にも経営者保証のつかない融資の促進が盛り込まれ、金融庁は2022年12月に「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針(以下「監督指針」)」を改正しました。改正のポイントは金融機関に対し、経営者保証を求めた際には、

  • 経営者にその理由を具体的に説明する
  • その結果を記録し、金融庁に報告する

などの手続きを課し、経営者保証をつけた融資を抑制することが狙いです。改正後の「監督指針」は、2023年4月1日から適用されます。
参照:「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」|金融庁

また、「監督指針」の公表にあわせて、金融庁・経済産業省・財務省が共同で「経営者保証改革プログラム(以下「改革プログラム」)」を発表。「改革プログラム」では、

  • 経営者と支援機関の目線合わせのチェックシートの作成(2022年12月作成済み)
  • 経営者保証を徴求しない新しい信用保証制度の創設(2023年4月~)
  • 金融庁に経営者保証専用相談窓口を設置(2023年4月~)
  • 経営者保証の解除を選択できる信用保証制度の創設(2024年4月~)

など計21の施策を行うとしたのです。
参照:「経営者保証改革プログラム」|経済産業省

このように、経営者保証を外すための取り組みが急速に進んでいます。

2 経営者保証を外す要件を示した「ガイドライン」

 経営者保証を外すためには自社の経営改善をし、金融機関と交渉する必要があります。金融機関は「ガイドライン」で経営者保証のつかない融資をすることが求められているので、これに沿った経営改善をしているかどうかが交渉のポイントになるでしょう。
 「ガイドライン」には、経営者保証を外すための3つの要件(以下「3要件」)が提示されています。3要件とは、次のとおりです。

  • 法人・個人の分離(資産の所有やお金のやり取りに関して、法人と経営者との関係が明確に区分されていること)
  • 経営基盤の強化(財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で借入金の返済が可能であること)
  • 経営の透明性の確保(金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されていること)

金融機関は、経営者保証を外す可能性を検討する際に、この3要件をどれだけ満たしているかを見てきます。
 経営者は3要件の全て、または一部を満たすよう経営改善に努め、金融機関と経営者保証を外す交渉をすれば、外す確率を高めることができるかもしれません。金融機関は3要件の充足度合いによっては、代替手法(停止条件付保証契約など)を提案してくる可能性もあります。
 この3要件を満たすために利用できるものが、「改革プログラム」の施策として作成された「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」などです。経営者がチェックするもの、商工会や弁護士などの経営支援者がチェックするものがあり、3要件のどういったところが見られるのかも分かるので、確認してみましょう。
 チェックシートは中小企業庁が作成した「収益力改善支援に関する実務指針」の24ページ目にあります。
参考:「収益力改善支援に関する実務指針(PDF)」|中小企業庁

3 「ガイドライン」を活用すれば本当に経営者保証は外せるのか

1)外すためには、まず金融機関に相談すること

日本政策金融公庫の調査(2022年10月)によると、経営者保証は、

金融機関に相談したうちの約45.4%が「解除できた」

と回答しています。同調査の「解除できなかった理由」についても、「ガイドライン」の3要件にかかわる、

  • 財務内容・業績が不十分(41.2%)
  • 会社と個人の資産・経理の分離が不十分(12.7%)
  • 情報開示不足(1.8%)

が、合計で55.7%に上っています。その他の「解除できなかった理由」も3要件に沿った経営改善を行えば、クリアできそうなものが大半です。「ガイドライン」に沿って経営改善を行い、金融機関に相談すれば、外せる可能性はさらに高まるといえます。そのため、まずは「ガイドライン」の内容を知り、

金融機関に相談してみることが大切

です。ただし、大前提として、いきなり解除の相談をするより、

金融機関と日頃からコミュニケーションを取り、信頼関係を築いておくことが大切

です。

メインバンクへの経営者保証の提供に関する相談結果の画像です

2) 「ガイドライン」を活用して外せた事例

中小企業庁の「事例でみる経営者保証の解除~課題解決のポイントとその効果(2022年9月20日)」では、3要件を改善して解除となった事例を多く紹介しているので、抜粋して紹介します。

3要件を改善して解除となった事例の画像です

事例は中小企業庁の他にも、金融庁が紹介しています。それぞれ内容が違うので、あわせて確認すると、参考になるでしょう。

参考:「事例でみる経営者保証の解除 課題解決のポイントとその効果(PDF)」|中小企業庁
参考:「『経営者保証に関するガイドライン』の活用に係る参考事例集(PDF)」|金融庁


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