1 宝くじ販売業のビジネスモデル
この記事では、宝くじ販売業における業界の仕組みや動向、開業方法、さらに収支シミュレーションを紹介します。なお、シミュレーションにあたっては、都内一部などの人気売場による売上高の偏りを鑑みて、全国平均ではなく、地方都市での一例として静岡市での開業を想定します。
1)宝くじ販売業とは、どんなビジネスか?
宝くじ販売業は、統計局の産業分類表によると、正式には「宝くじ売りさばき業」と呼ばれています。なお、この記事では便宜上「宝くじ販売業」としています。
この宝くじ販売業は、
銀行から受託した「販売(売りさばき)」と「当せん金の支払い」の業務のほか、購入者への当せん調べや宝くじに関する各種情報の提供の業務を行う事業
です。
まず大前提として、個人や一般の会社などが宝くじを発売することは禁止(刑法第187条)されており、宝くじの発売元は、総務大臣の許可を受けた地方自治体(都道府県・政令指定都市)に限られます(当せん金付証票法第4条)。この地方自治体は、発売などの事務を銀行に委託することができます。
2)宝くじ発売の仕組み
委託を受けた銀行(以下、受託銀行)は、宣伝広告や宝くじ券の作成・発送、抽せん・当せんの発表、当せん券と売れ残り券の回収・整理をはじめ、宝くじ券の販売と当せん金の支払い業務を行っています。このうち、宝くじ券の販売と当せん金の支払い業務は、一般事業者への再委託が可能で、これを担うのが宝くじ販売業です。ちなみに、受託銀行は多くの場合でみずほ銀行が担っています。
宝くじ発売の仕組みは、図表1の通りです。

3)取り扱う宝くじの金額と種類
総務省「当せん金付証票発売許可基準」によると、宝くじ券の証票金額は、原則として100円・200円・300円・500円のいずれかと定められています。発売主体による宝くじの分類は図表2の通りです。

なお、これら宝くじ券の種類・売場ごとの割当枚数について、発売団体の自治体、日本宝くじ協会、みずほ銀行宝くじ部にヒアリングをしましたが、回答が得られませんでした。
4)宝くじ販売業の収益構造
宝くじ販売業の収入源は、
- 宝くじ券を売ったときの「販売手数料」
- 当せん金の支払額に応じて受け取る「支払手数料」
です。
販売手数料は、総務省「当せん金付証票発売許可基準」の第一条第11項第1号に従って決められています。少し古い資料になりますが、総務省「宝くじ受託業務について(2010年7月)」によると、2008年実績の販売手数料は、100円くじが9.45%、200円くじが8.4%、300円くじが6.3%、500円くじが4.725%でした(この記事の執筆時点で、これ以外に公表されている新しい資料は確認できませんでした)。
支払手数料は、当せん金額が10万円以上の場合、10万円未満かつ1000円以上の場合、1000円以下の場合、ATM購入の場合で分かれています。また、それぞれに上限額も定められています。 詳しくは、次の図表3と図表4の通りです。


2 宝くじ業界の動向
1)宝くじ販売店数について
全国市町村振興協会会報(2020年度1月号)に寄稿された「宝くじ売上増加のための緊急対策の実施について」(総務省自治財政局地方債課長・坂越健一氏)によると、2018年度の宝くじ販売店数は、金融機関ATM・郵便局を除くと6679件(図表5の網掛け部分の合計)で、2006年以降減少を続けています。これは店舗販売員の高齢化、売上減少等に伴う販売収益の減少などが要因とみられます(この記事の執筆時点で、これ以外に公表されている新しい資料は確認できませんでした)。

2)宝くじの販売金額の推移について
宝くじ公式ウェブサイトによると、2022年の宝くじ販売総額は8324億円となっています。推移としては、1990年には6333億円だったのが、2005年にピークを迎えて1兆1047億円となりました。その後、一度右肩下がりになりましたが、2017年以降はゆっくりと回復してきています。
全体的な傾向として、大型くじ(ジャンボ)の販売が低迷する一方、数字選択式くじ(ロト、ナンバーズ)の販売が堅調のようです。また、2022年4月にはインターネット専用宝くじ「クイックワン(Quick One)」が発売され、売れ行きが好調のようです。

3)宝くじの購入者について
宝くじ公式ウェブサイトによると、購入者数については、宝くじ人口(最近1年間に1回以上購入した人)の推計は5005万人、宝くじファン(宝くじ人口の内、月1回以上購入した人)の推計は1112万人となっています。宝くじの購入経験者は、8572万人(全国18歳以上人口の81.4%)、宝くじ潜在人口(今後の購入意向ありの人)は、2849万人と推計されています。

なお、2022年調査は前回の2019年調査と比較して大部分の項目において数値が伸びていますが、調査方法が調査員の個別訪問による「直接面接法」から、調査票を郵送して回答を郵送またはインターネットで回答してもらう「自記式」に変わっているため、一部数値に連続性がないことをご承知おきください。
3 どうやったら事業者になれる? 再委託の申請について
宝くじ販売業を始めるための方法について説明していきます。まず、「(図表1)宝くじ発売の仕組み」に記載の通り、販売を希望する事業者が受託銀行の窓口もしくは担当部門に申請することになります。さらに受託銀行は、この申請について発売団体の地方自治体から承認してもらう必要があり、地方自治体は、当せん金付証票法の第6条第6項に基づいて事前に公表している「再委託承認基準」に従って判断します。
なお、再委託承認基準の公表は、官報を通じて発売主体すべての連名によって行われており、すべての自治体のウェブサイトで掲載されているわけではありません。今回のシミュレーション地域である静岡市ではウェブサイト上に公表しておらず、詳しくは受託銀行にお問い合わせくださいとのことでした。
ここでは一例として、和歌山県のウェブサイトに掲載されているものを紹介します。
再委託承認基準に記載されている準備金や継続の見込み、立地要件、売場間の距離などの目安、また承認後から販売までの流れについては、自治体(静岡県・静岡市・浜松市)とみずほ銀行宝くじ部にヒアリングしたものの、回答が得られませんでした。
なお、みずほ銀行静岡支店へのヒアリングによると、準備金はかなりの高額になるとのこと。他にも以下の回答が得られました。
「新規の売場は出店可能ですし、多くの方からお申し込みいただいています。しかし、準備金が用意できなかったり、審査が厳しかったりで辞退される方も多く、なかなか売場数が増えないという状況です。準備金や立地条件の詳細については、窓口でないとお伝えしにくいので、ご希望の方は、お近くのみずほ銀行の支店窓口もしくは、みずほ銀行宝くじ部までお問い合わせください」(みずほ銀行静岡支店)
4 開業収支シミュレーション
1)前提条件
ここでは、総務省の公表資料や地方財政状況調査などを基に、宝くじ販売業の開業収支をシミュレーションします。
前提条件として、ショッピングセンター内にある3坪の区画にて、宝くじ売場1件を開業すると想定します。なお、売場の施工費や当せん番号自動照合機のリース料・購入費などについては情報が得られなかったため、このシミュレーションから除外していることをご承知おきください。
1.売上高
売上高は年間8282万円とします。算出式は次の通りです。
(宝くじ消化額36億3256万円+支払手数料1162万円)÷市内売場数44件≒8282万円
総務省「地方財政状況調査(2023年)」によると、2022年度における静岡市の宝くじ消化額は、36億3256万円でした。消化額とは、発売した金額(発売額)に対して、実際に販売した金額です。
次に、支払手数料について。総務省「宝くじ受託業務について(2010年7月)」によると、2004年度~2008年度(総務相によると最新データ)における支払手数料の売上比率(消化額比率)の平均は、0.32%となっています。これに前述の宝くじ消化額36億3256万円を掛けて、おおよそ1162万円と設定します。
なお、支払手数料率は該当の5年間において0.30%~0.35%という差の少ない数値に収まっていることから、大きく変動する可能性が少ないと考え、前述の平均値をそのまま採用しています。
2.原価率
次に原価率ですが、92.3%とします。算出式は次の通りです。
1売場あたりの宝くじ消化額8256万円×(100%-売りさばき手数料7.376%)÷売上高8282万円≒原価率92.3%
宝くじ販売業は受託事業ではあるものの、宝くじ券を受託銀行から仕入れる形態となっています。このときの仕入原価は、宝くじ券の証票金額から販売手数料を差し引いた額です。ちなみに、売れ残ったくじは受託銀行が仕入値と同額ですべて買い取ってくれます。
次に、販売手数料について。総務省「宝くじ受託業務について(2010年7月)」によると、2004年度~2008年度(総務相によると最新データ)の売りさばき手数料の売上比率(消化額比率)の平均は、7.376%となっています。
なお、販売手数料率は該当の5年間において7.33%~7.41%という差の少ない数値に収まっているため、大きく変動する可能性が少ないと考え、前述の平均値をそのまま採用しています。
以上から、宝くじ販売業における売上原価は、1売場あたりの宝くじ消化額(36億3256万円÷44売場≒8256万円)から受託手数料を差し引いた額(≒7647万円)で、原価率は92.3%となります。
また、宝くじ販売業においては、人件費(パート社員の給与)や賃借料、水道光熱費(店舗の電気代)も売上原価に含まれますが、これらは必ずしも売上と連動するものではないため、シミュレーション上の原価率には含めず計算します。
3.人件費
人件費は、年間408万円とします。算出式は次の通りです。
時給1130円×実働5時間×2名×年間営業361日≒408万円
令和5年度賃金構造基本統計調査を基に、店頭で雇用するパート社員の時給を1130円と設定します。勤務形態は、1日1人当たり実働5時間、一部の時間帯以外は1名体制かつ早番・遅番の2交代シフト制とします。また、年間の営業日数は12月31日~翌年1月3日を除く361日とします。
4.賃借料
賃借料は、年間324万円とします。算出式は次の通りです。
1坪あたりの賃料1万830円/月×区画3坪×12か月≒39万円
日本ショッピングセンター協会「SC白書2023」によると、サービス業の1坪あたりの総合賃料(賃料+共益費)は1万830円/月となっているため、今回は1万円/月と設定します。なお坪数は、今回のシミュレーションの前提としている3坪です。
5.原価、営業費用のその他
水道光熱費(店舗の照明や当せん番号自動照合機にかかる電気代)や、通信費(当せん番号の更新のため)、事務消耗品費(レシート用紙・筆記用具・紙・受け渡し用トレー)、店頭での販促費(当せん店舗PR用の張り紙・看板・旗や、置物などの店舗装飾品)を想定します。これらをまとめて、ここでは25万円と仮定します。
6.差引保証金
差引保証金は、家賃の10カ月分となる270万円とします。
7.支払準備金
当せん金支払い業務においては、受託銀行に代わって一時的に当せん金分の支払いをする必要があります。
第3章で記載の通り、再受託審査において確保しておくべき資金の目安が確認できなかったため、今回のシミュレーションには含めませんが、開業後には相応の支払準備金が必要になることにご留意ください。
8.損害保険料
今回のシミュレーションには含めていませんが、宝くじ券や支払準備金の盗難リスクに備えて、損害保険に加入することも検討するとよいでしょう。ご興味のある方は「動産総合保険」でお調べください。保管中・輸送中を問わず補償してくれます(保険事業関係者への取材による)。
ちなみに、保険料率については、建物内店舗か移動型店舗かなど、店舗のセキュリティ状況によって変動するそうです。また、同保険商品がない場合は、「企業財産保険」にて補償する保険会社もあります。こちらも詳しくは、損害保険会社にお問い合わせください。
2)収支シミュレーション



5 資料一覧
この記事の作成に当たって参考にした資料を以下にご紹介します。
書籍一覧
- 日本宝くじ協会「宝くじ事典 令和3年」(2021年5月)
- 日本宝くじ協会「『宝くじ』に関する世論調査報告書 16巻」(2022年11月)
ウェブサイト一覧
法令・通知など一覧
関連団体リンク一覧
以上(2024年7月作成)
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1 この記事は「ナンバー2」へのエールです
いわゆる「ナンバー2」は経営者にとって頼もしい存在です。実際、「経営者の次に影響力のある人」「トップの意図を理解している頼れる人」であり、精力的に活動しています。
ただ、ナンバー2には悩みあります。ナンバー2であることは誇りですが、重圧や不安を感じます。立場的にナンバー2は、自社や他社の経営者と接する機会が多くなります。そうすると、「経営者」という存在と自分との差を目の当たりにし、「自分の判断、選択は本当に正しいのか」「自分の実力が乏しいので周りの皆に申し訳ない」などと思ったりして不安を覚えるかもしれません。
この記事は、そうしたナンバー2へのエールです。ナンバー2の方には下記のような心構えなどをご提案しますので、ぜひ実践してみてください。
- 進化する経営者にいち早くついていく
- 経営者と社員、両方の「代弁者」となる
- 経営者が不在のときこそ声を出す
- 会社の「広告塔」になる
- 新しい可能性を創り出す
2 進化する経営者にいち早くついていく
ナンバー2のタイプはさまざまですが、ナンバー2に求められるのは、「経営者の思いや意図を理解し、とにかく素早く実行すること」です。そのため、まず、経営者の思いや意図を正しく理解しなければなりませんが、それが難しいと感じているナンバー2もいるかもしれません。
そこで、四半期ごとなどに会社の今後を、経営者とじっくり話すのです。ナンバー2であれば、ある程度経営者の思いや意図は分かっているでしょうが、日々ビジネスは動き、経営者の考えも進化します。ナンバー2は、その進化に早くついていくことが必要です。
3 経営者と社員、両方の「代弁者」となる
経営者の思いを形にしてくれるのは一人ひとりの社員です。ですから、直接、経営者が社員に説明し、指導するのが理想かもしれませんが、それは現実的ではありません。トップセールスや次のビジネス創出など経営者には経営者にしかできない仕事があり多忙です。また、経営者の発するメッセージは社員にとって理解しにくい面もあります。
そこで、ナンバー2が経営者の「代弁者」となって経営者の言葉を伝えます。例えば、経営者が「今後のためにこの仕事を遂行してほしい」と社員に伝えたら、ナンバー2は「今後のため」の部分をかみ砕いて「なぜ必要か」を説明するといった具合です。
一方、社員の思いやメッセージなどを代弁して経営者に伝えるのもナンバー2の役割です。経営者に対しては言いにくくても、ナンバー2にだったらある程度話してくれる社員もいます。また、「代弁者」とは少し意味が異なりますが、経営者の判断や考えが正しいと思えない場合は、率直に意見・指摘・進言することもナンバー2として重要です。
4 経営者が不在のときこそ声を出す
ナンバー2が経営者の「代弁者」としての役割を強く求められるのは、経営者が不在のときです。このとき、ナンバー2は、その場における最終的な判断を下し、組織全体をまとめ、動かしていかなければなりません。経営者という「重し」がないと、社員は好き勝手に誤った判断をしたり、バラバラの方向を見たりしがちです。そこで、ナンバー2は、経営者のいないときこそ、経営者の意図や会社として大切にしていることなどを、改めて社員に伝えなければなりません。
例えば、ミーティングなどで、「経営者が不在だが、今、会社としてやるべきことは何か。それは何のためか」「そのときに注意すべき点や難所は何か」などを全社員に伝えます。このとき、社員に現状で困っていることを挙げてもらうのも大切です。
経営者の留守を預かる際に重要なのは、経営者がいないことを社員が不安に感じないようにすることです。ナンバー2は、「何かあれば自分が必ずなんとかする」「皆で力を合わせればできないことはない」といった、強く前向きな姿勢を見せることが肝要です。
5 会社の「広告塔」になる
ナンバー2は、対外的にも重要な役割を担います。経営者に次ぐポジションであるナンバー2がどのような立ち居振る舞いをするのか、どのような考え方、進め方で仕事をするのかといったことに会社のレベルが表れるからです。
また、ナンバー2は、経営者の代わりに人に会う、会合や会食などに参加することもあります。そのときは、会社の代表としてこの場にいることに加え、自分たちの会社は何を実現したいと思っているか、何を大切にしているかなどを伝えるようにしましょう。
対外的には言動にも注意が必要です。経営者や社員を軽んじる発言はやめましょう。それとは逆に、ナンバー2が生き生きしていれば、会社や経営者、社員に魅力があると分かってもらえます。ナンバー2は、自分が重要な広告塔であることを忘れてはなりません。
6 新しい可能性を創り出す
経営者の思いや意図を理解し、素早く実行するためには、ナンバー2自身が常に情報収集し、人脈を広げるなどを実践し続ける必要があります。ナンバー2だからこそ、その立場や権力におごることなく自分自身を磨き続けなければなりません。
経営者の思いや意図を実行に移すとき、特に重要になってくるのは数字です。売り上げや利益の計画、実績などの数字は、「何を、いつ、どこまで実現するのか」を考えるよりどころになります。ナンバー2は、数字で話ができるようになりましょう。
また、会社の方針は最終的には経営者が決めますが、ナンバー2は、経営者が迷ったとき、頼れる相談相手でなければなりません。経営者よりも「背負っているものが少ない」ナンバー2のほうが自由に動ける面もあるでしょう。ナンバー2は、新しいことなども積極的に学び、情報収集した上で自分の頭で考え、経営者に進言することが大切です。
今後、会社がどのように進化するのがよいか、どのような可能性があるのか。ナンバー2は常に、こうしたことを考えておかなければなりません。会社が新しい可能性を創り出せるか否かは、ナンバー2に懸かっているといっても過言ではないのです。
以上(2024年8月更新)
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ビジネスは常に、意思決定(目標を達成するために必要な行動を選択すること)の連続です。ただ、この意思決定が勘や経験だけに基づくものだったり、単なる前例踏襲だったりすると、周囲から「なぜ、その選択をしたの?」と尋ねられたときに論理的な説明ができません。そこで紹介したいのが、「樹形図(決定木)」を作って考え得る行動の選択肢を洗い出し、最良のものを選び出すフレームワーク「ディシジョンツリー」です。
1 ディシジョンツリーとは
ディシジョンツリー(Decision Tree)とは、「決定木」や「決定木分析」と訳されるもので、
何かの意思決定をする際、考え得る選択肢の中から最良のものを選び出すフレームワーク
です。決定木と呼ばれる理由は、
木の形をした「樹形図(決定木)」を作って、欲しい答え(目標変数)にたどり着くための条件(説明変数)を見つけるから
です。
ディシジョンツリーを使うことで、勘や経験だけでなく、定量的な分析に基づいた判断がしやすくなります。この記事では、ディシジョンツリーにおいて必要な知識とその作り方、そして書き込みシートを紹介します。
2 ディシジョンツリーで大切な分類木と回帰木
1)分類木とは?
分類木とは、
顧客の購買データなどを、年齢や年収などで区分しながら作成する樹形図
です。例えば、図表1では、ECサイトで商品Aという高額商品を購入した顧客データから見込み客を選定しています。
図表1では、「年齢40代以上、年収600万円以上」の人が最も有力な見込み客となっています。分類木には、
早めに出てくる分岐ほど力が強くなる(重要度が高い)
という特徴があります。例えば、年代で別々の広告手法を模索しているなら「年齢」、地域なら「居住地」などが分岐の条件になります。
2)回帰木とは?
回帰木とは、
取り得る行動を「結果の数値」「発生する確率」に応じて分岐させ、各分岐の期待値(結果の数値×発生する確率)を算出するための樹形図
です。例えば、図表2では、見込み客に商品をPRするために、Web広告を「出す」「出さない」を判断するのに回帰木を使っています。ここでは、
- Web広告を「出す(出さない)」場合の収益を「結果の数値」
- Web広告が「好調(不調)」となる確率を「発生する確率」
としています。
なお、樹形図の「□」「○」「◁」の意味は次の通りです。
□(意思決定ノード、決定ノード):自分で分岐を選べる(意思決定によって決まる)
○(確率ノード、イベントノード):自分で分岐を選べない(確率によって決まる)
◁(終点ノード):これ以上は行動を起こさないので、分岐しない(終点である)

図表2は、おおまかなイメージを示したものなので、収益や確率の具体的な数値を記載していません(Web広告を出さない場合については、収益は「100%」の確率で「0円」となります)。次章でもう少し詳しく説明します。
3 ディシジョンツリーの作り方
1)Web広告を出すか否か
ここまでの流れを確認しましょう。
あなたは商品Aを販売するに当たり、「分類木」を使ったディシジョンツリーで、見込み客を選定しました。見込み客は、40代以上の年収600万円以上の層でした(図表1を参照)。
次に、「回帰木」を使ったディシジョンツリーで、この層に商品Aを効果的にPRする方法としてWeb広告を検討しました。Web広告費は100万円で、Web広告が「好調」なら収益は300万円、「不調」なら収益は30万円と想定しています。そのディシジョンツリーは図表3の通りです。なお、あなたはWeb広告が好調となる確率を20%と推定しています。

図表3の場合、ディシジョンツリーの作成手順とポイントは次の通りです。
1.「決定」の分岐を示す
意思決定の可能性の分岐です。図表3では、Web広告を「出す」「出さない」の2分岐になります。
2.「結果」の分岐を示す
意思決定によって生じる「結果」の可能性であり、その確率は作成者が決めます。図表3では、Web広告を「出す」場合、その「好調」「不調」の2分岐になります。
3.全ての分岐を終点まで洗い出す
「結果」の分岐の先でさらに行動を起こす場合、「決定」の分岐(成功した場合どうするのか、失敗した場合どうするのかなど)を付け足します。何も行動を起こさない場合、そこが分岐の終点となります。図表3では、Web広告を「出す」場合の結果(2分岐)と、「出さない」場合の結果(分岐なし)が終点です。最後に、終点ごとに収益を書き込みます。
2)Web広告を出すか否か、広告調査を実施するか否か
図表3は、Web広告を出すか否かのみを決定するディシジョンツリーですが、実際のビジネスの意思決定はもっと複雑です。例えば、Web広告を検討する際に、リサーチ会社に「広告調査」(ターゲットにリーチしやすい広告媒体やデザインなど)を依頼するか否かも検討するといった具合です。
この広告調査を組み入れて、Web広告を「出す」「出さない」を判断したディシジョンツリーは図表4の通りです。なお、広告調査を「実施しない」場合の分岐は図表3と同じなので、ここでは一旦置いておきます。
図表4の場合、ディシジョンツリーの作成手順とポイントは次の通りです。
1.「決定」の分岐を示す
図表4では、広告調査を「実施する」「実施しない」の2分岐になります。
2.「結果」の分岐を示す
広告調査を「実施する」「実施しない」の分岐の先に、「結果」の分岐を付け足し、発生する結果とその確率を書き込みます。
3.全ての分岐を終点まで洗い出す
「結果」の分岐にWeb広告を「出す」「出さない」という「決定」の分岐を付け足します。図表4では、この意思決定が終点となります。最後に、終点ごとに収益を書き込みます。
そして、図表3(広告調査を実施しない場合の分岐)と図表4(広告調査を実施する場合の分岐)を組み合わせた完成形が図表5であり、A~Gの7つの終点ができています。

樹形図が完成したら期待値を計算します。手順とポイントは次の通りです。
4.終点での期待値を計算する
期待値は、(結果の数値)×(発生する確率)で求められます。上から順に、広告調査を実施する分岐(終点A~D)では、
- 終点A(好調、出す)では、60万円(300万円×20%)
- 終点B(好調、出さない)では、0円(0円×20%)
- 終点C(不調、出す)では、24万円(30万円×80%)
- 終点D(不調、出さない)では、0円(0円×80%)
となります。
次に、広告調査を実施しない分岐(終点E~G)では、
- 終点E(出す、好調)では、60万円(300万円×20%)
- 終点F(出す、不調)では、24万円(30万円×80%)
- 終点G(出さない(好不調は関係ない))では、0円(0円×100%)
となります。
5.不要な選択肢を刈り取る
次に、不要な選択肢を刈り取ります。不要な選択肢とは、簡単に言うと「論理的におかしい選択肢」のことです。図表6のように「☓(バツ)」を付けます。
図表6の場合、
- 「好調」なのに、Web広告を「出さない」
- 「不調」なのに、Web広告を「出す」
という選択肢が刈り取りの対象です。選択肢を刈るときに大事なのが、
- 「やりたい」「やりたくない」といった感情で判断しないこと
- 刈り取った選択肢を削除しないこと
です。ディシジョンツリーはあくまで数値で結果を得るものなので、感覚を交えた判断は結果を出した後に行います。また、「何を刈り取ったのか」を見返したり、「なぜ刈り取ったのか」を社内で話し合ったりすることがあるので、×印を付けるなどにとどめ、後から確認できるようにします。
6.初めの選択肢ごとの期待値を集計する
最後に、初めの選択肢ごとの期待値を求めます。

ここでいう初めの選択肢とは、
- 広告調査を「実施」し、「好調」となる場合、Web広告を「出す」
- 広告調査を「実施」し、「不調」となる場合、Web広告を「出さない」
- 広告調査を「実施しない」
の3つです。具体的には、図表7の緑枠で囲った部分(α群、β群、γ群)ごとの期待値を出します。また、
「結果」の分岐の先では、関わってくる数値全てに割合が影響する
という点に注意が必要です。例えば、20%で分岐している先でかかる費用が100万円なら、期待値から引くべき費用は20万円(100万円×20%)です。
以上を踏まえると、α群、β群、γ群それぞれの期待値は次のようになります。なお、広告調査の費用は20万円とします。
- α群(終点A=広告調査を「実施」し、「好調」となる場合、Web広告を「出す」)
=収益の期待値60万円-Web広告の費用100万円×20%-広告調査の費用20万円
=20万円
- β群(終点D=広告調査を「実施」し、「不調」となる場合、Web広告を「出さない」)
=収益の期待値0円-広告調査の費用20万円
=-20万円
- γ群(終点E+F+G=広告調査を「実施しない」)
=収益の期待値60万円+24万円+0円-Web広告の費用100万円
=-16万円
この場合、最も期待値が高いのはα群です。従って、今回は、
広告調査を「実施」し、「好調」となる場合、Web広告を「出す」
という選択を取ることとなります。
また、今回は広告調査を実施する前の段階でディシジョンツリーを作成していますが、実際に広告調査を行った場合には、その結果を踏まえて数字(収益や確率)を修正し、再度ディシジョンツリーを作り直すと、より精度の高いものになります。
4 ディシジョンツリーで特に陥りやすいポイント
1)過学習になっている(条件を増やし過ぎていないですか?)
過学習になる、つまり分岐が増え過ぎるとディシジョンツリーの良さを潰してしまうことになります。理想としては、図表8のように、
縦に見て4分岐前後が最適
とされます。

もしも分岐が多くなるようであれば、図表3と図表4で実践したように、小さなディシジョンツリーを別々に作って見比べて判断するとよいでしょう。
2)結果に違和感がある
ディシジョンツリーの結果が出たものの、「この結果は本当に妥当なのか?」と違和感を覚えることがあります。期待値の計算結果と勘や経験、どちらが正しいのかを考える前に、
参考となるデータ、設定した数値、想定され得る選択肢の数などの条件が足りているか
を確認してみましょう。また、
「結果」の発生する確率や予測した収益などの見積もりに違和感はないか
も確かめてみましょう。数字を設定するのは作成者自身なので絶対の正解はありませんが、社内の他の人にも意見を聞いてみて納得が得られない場合、数字の見直しが必要かもしれません。
5 書き込みシート
最後に、実際にディシジョンツリーで意思決定を行うための書き込みシートを紹介します。プリントアウトしてお使いください。図表9は、1~3つの意思決定で悩んでいるときにお使いいただけます。
図表10は、2段階の意思決定が発生するときにお使いいただけます。
以上(2022年12月作成)
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1 3つある募集株式の発行等の形態
株式会社(以下「会社」)の資金調達は、金融機関からの借り入れや社債の発行などの「デット(debt:負債)」と、募集株式の発行や新株予約権の発行などの「エクイティ(equity:株主資本)」とに大別されます。エクイティは返済義務がなく、自己資本の増強につながりますが、経営権に影響が及ぶ恐れもあります。
ここで紹介するのは「募集株式の発行等」です。聞き慣れないかもしれませんが、要するに「増資」です。具体的には、
- 募集に応じた者に株式を発行(新株発行)
- 自己株式の処分による株式の割当
を指します。また、募集株式の発行等の形態は次の3つです。
- 第三者割当:特定の者に募集をかけ、応募者に株式を発行する
- 株主割当:既存株主に株式割当の権利を与え、応募者に株式を発行する
- 公募:不特定多数に募集をかけ、応募者に株式を発行する
募集株式の発行等の基本的な流れは次の通りです。
- 募集事項の決定(募集株式数、払込金額等を決定)
- 募集事項の通知・公告
- 株式の申し込み・割当・引き受け
- 出資の履行・効力の発生
- 株券の発行(株券発行会社の場合)
- 変更登記
以降では、第三者割当と株主割当に注目し、手続きの概要を紹介します。
2 第三者割当の手続き
1)募集事項の決定
募集の際は、次の募集事項を決定します。
- 募集株式の数
- 募集株式の払込金額またはその算定方法
- 現物出資の場合は、その旨並びに当該財産の内容および価額
- 金銭の払い込みまたは財産の給付の期日または期間
- 増加する資本金および資本準備金に関する事項
1.公開会社の場合
公開会社の場合、原則として、募集事項は取締役会が決定します。これは機動的な資金調達を行うためです。ただし、有利な価格で株式を発行する「有利発行」だと既存株主の株式価値が減少するので取締役会では足りず、株主総会の特別決議が必要です。また取締役は、その株主総会で有利発行が必要な理由を説明しなければなりません。
なお、種類株式発行会社が譲渡制限株式を募集する場合、その種類株式の種類株主総会の特別決議が必要です。ただしこの種類株主総会は、定款に定めれば省略できます。
2.非公開会社の場合
非公開会社の場合、株主は議決権割合の維持に大きな関心があります。そのため、取締役会ではなく、株主総会の特別決議で募集事項を決定します。ただし、株主総会で募集株式数の上限と払込金額の下限を定めれば、特別決議によって募集事項の決定を取締役会に委任できます。
なお、公開会社と同様に、有利発行の場合は株主総会による特別決議と取締役の説明が必要です。譲渡制限株式を募集する場合も、種類株主総会の特別決議が必要ですが、定款に定めれば省略できます。
2)募集事項の通知・公告
公開会社が取締役会で募集事項を決定した場合、原則として、株式の代金払込期日の2週間前までに、決定した募集事項を既存株主に通知します(全ての株主の同意があれば、期間の短縮可)。これは、不当な募集株式の発行がなされた場合に、既存株主が「株式発行差止請求権」を行使できるようにするためです。ただし、株主が多いと大変なので、公告でも大丈夫です。一方、公開会社が株主総会の特別決議によって募集事項を決定した場合、決定した募集事項を、別途、株主に通知や公告をする必要はありません。
また、新株発行(自己株式処分を含む)によって、新たに議決権の2分の1を超えて株式を所有する「特定引受人」が出る場合、会社は株式の代金払込期日の2週間前までに、既存株主に特定引受人の氏名等を通知するか、公告しなければなりません。そして、この通知等から2週間以内に、全ての株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主が反対の旨を会社に通知した場合、事業継続のために緊急の必要があると認められるときを除き、会社は代金払込期日の前日までに株主総会の普通決議による承認を受けなければなりません。
3)株式の申し込み・割当・引き受け
会社は、募集株式の引き受けの申込者に、商号・募集事項・金銭の払込取扱場所などを通知します。申込者は、氏名または名称、住所、引受株式数を記載した書面などで会社に申し込みます。
会社は、割当をする申込者を決め、払込期日または払込期間の初日の前日までに、申込者に割り当てる株式数を通知します。申込者は、株式の割当を受けて「株式引受人」となります。
4)出資の履行・効力の発生
株式引受人が株主となるには、金銭の全部の払い込みまたは現物出資の全部の給付が必要です。払い込みまたは給付がされた場合、期日が定められていればその日に、期日が定められず期間が定められている場合は履行のあった日に、株主となります。なお、現物出資の場合の手続きは金銭の払込みとは異なりますが、ここでは説明を割愛します。
5)変更登記
会社は、発行済株式総数、資本金の額など、変更すべき事項について変更登記をします。
3 株主割当の手続き
株主割当の手続きの多くは、第三者割当と同じです。以降では、第三者割当てとは異なる点を中心に紹介します。
1)募集事項等の決定
株主割当の場合、第三者割当の募集事項に加えて、次の事項を決定します(以下「募集事項等」)。
- 株主に対して、募集株式の割当を受ける権利を与える旨
- 募集株式の引き受けの申し込みの期日
1.公開会社の場合
公開会社の場合、取締役会が募集事項等を決定します。なお、会社が種類株式発行会社で、今回の株主割当によって特定の種類株主に損害を与える恐れがあるときは、種類株主総会の特別決議が必要です。ただしこの株主総会は、定款に定めれば省略できます。
2.非公開会社の場合
非公開会社の場合、定款の定めに従って取締役か取締役会が募集事項等を決定します。定款に定めがない場合は、株主総会の特別決議によって募集事項等を決定します。
なお、公開会社と同様に、会社が種類株式発行会社である場合、種類株主に損害を及ぼさないように種類株主総会の特別決議が必要ですが、定款に定めれば省略できます。
2)募集事項等の通知・公告
会社は、募集株式の引き受けの申し込み期日の2週間前までに、株式の割当を受ける権利を与えた株主に募集事項等を通知します。
3)株式の申し込み・割当・引き受け
申込者は、氏名または名称、住所、引受株式数を記載した書面などで会社に申し込みます。申し込みの期日までに申し込みをしない場合、株式の割当を受ける権利を失います。
4 株式発行の瑕疵
株式の発行に違法などの瑕疵(かし)がある場合、他の株主はそれを理由に株式発行の差止請求をしたり、株式発行の無効を主張したりすることができます。
1)株式発行の差止請求
株式発行の差止請求は、株式発行の効力発生前に行使できる手段です。会社が法令や定款に違反し、または著しく不公正な方法で株式を発行することによって、株主が不利益を受けるおそれがある場合に講じる措置です。
2)株式発行の無効主張
株式発行の無効主張は、株式発行の効力発生後に行使できる手段です。ただし、いったん効力が発生したものを無効にするのは大変で、一定のルールがあります。例えば、株式発行の無効を主張するためには会社を訴えなければなりません。訴えの提起は、相手が公開会社なら発行の効力発生日から6カ月以内、非公開会社なら1年以内に限られます。また、訴えを提起できるのは、株主、取締役、執行役、清算人、監査役に限られます。
無効の主張が認められた場合、判決の効力は原告以外の第三者にも及びます。どういった場合に株式発行の無効が認められるかは個別の解釈によりますが、一般的には重大な法令・定款違反となります。
この他、株式発行の手続きがまったくないままで株式発行に関する登記が行われた場合、株主は株式発行の不存在確認の訴えを起こすことができます。この訴えは、確認の利益を有する人であれば誰でもできますが(原告になるのは、前述した株式発行の無効の訴えを提起できる人の他に、従業員や債権者などとなります)、判決の効力は原告以外の第三者にも及びます。
以上(2024年7月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 渡邉和也)
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画像:Mariko Mitsuda