【文例付き】2024年4月1日から 労働条件通知書はどう変わる?

書いてあること

  • 主な読者:労働条件をめぐるトラブルを避けたい経営者、人事労務担当者
  • 課題:2024年4月1日以降発行の労働条件通知書に、どう記載すればよいのか分からない
  • 解決策:就業場所、業務内容は「変更範囲」も明示する。パート等の契約更新は「上限」を明らかにし、「無期転換の申込機会」についても記載する

1 労働条件通知書などで明示する内容が変わります

会社は社員(正社員、パート等)と労働契約を締結する際、労働条件を「労働条件通知書」などで明示しなければなりません。明示すべき労働条件は労働基準法などで決まっているのですが、2024年4月1日からは、明示すべき労働条件が、図表1の赤字部分の通り変わります。

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2024年4月1日以降に労働契約を締結する場合、会社は、

  • 就業場所、業務内容の「変更範囲」
  • 契約更新の「更新上限」
  • 無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」

についても社員に明示しなければならず、違反したら「30万円以下の罰金」の対象となります。以降で、詳細を確認していきましょう。

なお、現在雇用している社員については、労働条件通知書を交付し直す必要は原則ありません。ただし、契約期間の定めがあるパート等(以下「有期パート等」)については、契約更新の都度、労働条件を明示する必要があるので、2024年4月1日以降に契約を更新する場合、上記の項目を追加した労働条件通知書を交付しなければなりません。

2 就業場所、業務内容は「変更範囲」も明示

1)改正のポイント

就業場所、業務内容については、現行のルールでは「契約締結時」の条件だけを明示すればよいのですが、2024年4月1日から「変更範囲」も明示しなければなりません。

変更範囲といっても、想定される就業場所や業務内容を1つずつ記載する必要はなく、

  • 会社の定める場所
  • 会社の指示する業務

といった書き方もできます。ただ、記載内容があまりに漠然としているといけません。特に就業場所や業務内容がある程度限定される「限定正社員」の場合は、

  • 就業場所の一覧を別紙で交付する(地図や組織図など)
  • 業務内容をおおまかなカテゴリーで分けつつ、簡単な概要を記載する

とよいでしょう。

なお、「労働条件通知書に記載漏れがあった」「他の社員の業務を代替してもらう必要が出てきた」「傷病や育児・介護などで予定通りに働けなくなった」といった事情で、労働条件通知書に記載していない条件での勤務を社員にさせたい場合、

社員に変更理由を説明して同意を得た上で、新しい労働条件通知書を交付

する必要があります。

2)労働条件通知書の記載例

2024年4月1日以降の労働条件通知書の記載例は次の通りです。

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なお、記載例では触れていませんが、社員にリモートワークを命じる可能性がある場合は就業場所に「社員の自宅など」を加えておく、在籍出向をさせる可能性がある場合は業務内容に「出向先の命じる業務」を加えておくようにします。

3 契約更新の「更新上限」の明示

1)改正のポイント

会社は有期パート等を雇用する場合、契約締結時に「契約更新の基準」を明示する義務があります。現行のルールでは「更新の有無」「更新の判断基準」「その他留意すべき事項」を明示すれば足りますが、2024年4月1日からは、これに加えて

更新上限の有無とその内容(通算契約期間または更新回数について)

を明示する必要があります。

通算契約期間は「契約更新を繰り返した場合、通算で最大何年働けるか」、更新回数は「最大何回まで契約を更新できるか」という意味です。労働条件通知書には、これらの上限があるかないか、上限がある場合はその内容(◯年、◯回など)を記載する必要があります。

なお、更新上限の定めがない労働契約を締結していたが、次の契約から上限を「新設」する場合、あるいは更新上限を次の契約から「短縮」する場合、

その理由をパート等にあらかじめ(新設・短縮をする前のタイミングで)説明

しなければなりません。

2)労働条件通知書の記載例

2024年4月1日以降の労働条件通知書の記載例は次の通りです。

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2024年4月1日以降に新たに設ける「更新上限の有無」の記載欄には、通算契約期間または更新回数に上限があるかないか、上限がある場合は具体的な内容を記載します。ちなみに、更新回数は、会社と有期パート等との認識さえ一致していれば、「最初の契約から数えた回数」でも「残りの更新回数」でも構いません。

なお、通算契約期間の上限を定める場合、「無期転換」に注意しましょう。無期転換とは、

有期パート等の通算契約期間(同じ会社でのもの)が5年を超えた場合、その有期パート等が会社に申し込むことで、契約期間の定めのない「無期契約」に転換できるという制度

です。会社は無期転換の申込みを原則拒否できないので、そもそも有期パート等の長期雇用を想定していない場合、通算契約期間の上限は5年未満に設定しておいたほうが無難です。

また、記載内容ではありませんが、実際に有期パート等に労働条件通知書を交付する際は、

「必ず更新上限まで契約を更新するわけではない」旨を確実に伝える

ようにしましょう。契約を更新しない場合に有期パート等とトラブルになるのを防ぐためです。

4 無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」の明示

1)改正のポイント

前述した通り、有期パート等は通算契約期間が5年を超えると、会社に無期転換の申込みをする権利(無期転換申込権)を得ます。現行のルールでは無期転換について明示する義務は特にないのですが、2024年4月1日からは、無期転換申込権が発生する契約更新のタイミングごとに、有期パート等に無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」を明示する必要があります。

  • 申込機会:無期転換の申込みができること
  • 転換後の労働条件:労働条件の変更の有無、転換後の労働条件の一覧または変更箇所

「無期転換申込権が発生する契約更新のタイミング」は、契約期間の長さによって異なります。図表4は1年ごとの契約更新の場合と、3年ごとの契約更新の場合を比較したものです。どちらも、グレー部分の有期契約が開始するタイミングから、無期転換の申込みが可能になります。

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グレー部分の契約期間中に申込みをした場合、その有期契約が満了するタイミングで無期契約に転換します。

2)労働条件通知書の記載例

2024年4月1日以降の労働条件通知書の記載例は次の通りです。

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2024年4月1日以降は、新たに「無期転換に関する事項」の記載欄を設ける必要があります(有期パート等が無期転換申込権を得ていなければ不要)。また、「更新上限の有無」を記載する際などに「契約更新の状況(現在○年目など)」も併せて記載しておくと丁寧です。

無期転換申込機会については、無期転換の申込みをした場合、いつから無期契約に変わるかを、具体的な日付(◯年◯月◯日)を明らかにして記載しましょう。

転換後の労働条件については、労働条件の変更があるかないかを明らかにした上で、転換後の労働条件の一覧や変更箇所を「別紙」で明示するとよいでしょう。「契約期間」以外の労働条件を変更しない場合、「無期転換後の労働条件は本契約と同じ」などと記載します。

以上(2024年1月)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

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画像: Rummy & Rummy-Adobe Stock

タワマン節税にメス、生前贈与改正。 大きく変わる相続・贈与税対策を解説

書いてあること

  • 主な読者:子供や孫などへの相続対策を行っている、または検討している人
  • 課題:一般的な税金対策に改正が入ったり、入ると見込まれたりしている
  • 解決策:近年の動きとして「暦年贈与・相続時精算課税・マンション節税・一括贈与(教育資金、結婚・子育て資金)」の制度改正を押さえる

1 改正が頻発している相続・贈与税

近年影響の大きい改正が頻発している相続・贈与税。生前贈与の非課税枠が縮小したり、タワマン節税にメスが入ったりと、これまで有効だった税金対策の効果が薄れたり、そもそも実施できなくなったりしています。

具体的に、どのような改正が入っているのか、または入る見込みがあるのか、この記事で分かりやすく紹介します。注目するのは、

暦年贈与・相続時精算課税・マンション節税・一括贈与(教育資金、結婚・子育て資金)

です。

2 暦年贈与

暦年贈与とは、1月1日から12月31日までの1年間(暦年)で、贈与額が110万円以下ならば贈与税がかからないというものです。毎年非課税で110万円を子供や孫などに渡せるので、将来的に発生する相続税の負担が減ります¥。ただし、亡くなる前の一定期間に行った生前贈与については、110万円以下も相続税の課税対象となります。この一定期間を加算期間と呼び、

2024年1月1日以降の贈与については、加算期間が3年から7年に延長

されました。改正後は、亡くなる前1~3年の間に行われた生前贈与は全額、4~7年の間に行われた生前贈与はその期間の贈与総額から100万円を差し引いた金額が相続税の課税対象となります。

暦年贈与は一般的な相続対策ですが、加算期間の延長や後述する相続時精算課税の改正(基礎控除の創設)によって、2024年以降は相続時精算課税制度を選択した場合の方が、より節税効果が高くなるケースが多く発生することが見込まれます。暦年贈与と相続時精算課税どちらを選ぶか、慎重に検討しましょう。

3 相続時精算課税

相続時精算課税とは、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子・孫への生前贈与について、2500万円までは贈与税がかからず、相続時に生前贈与分もまとめて相続税を計算するものです。生前贈与した金額の累計が2500万円を超えた場合は、超えた部分に対して一律20%の贈与税がかかります(この贈与税は、相続税を計算する際に相殺されます)。

2024年1月1日以降、

相続時精算課税制度で使える「年間110万円の基礎控除」が創設

されます。2024年1月1日以降に相続時精算課税制度を選択して贈与を行った場合、年間110万円以内であれば贈与税はもちろん、相続税もかからなくなります。加えて、贈与税の申告も不要です。従来は、相続時精算課税を選択すれば、少しでも贈与があれば、贈与税の申告が必要だったため、利便性がよくなりました。

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4 マンション節税

マンション節税とは、市場での売却価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離(かいり)するというタワーマンションの特徴(一般的に高層階ほど価格は高額になるが、相続税評価額に反映されにくいなど)を生かした相続税のスキームです(2023年10月時点)。

まず相続税の計算をする際は、被相続人(亡くなった人)が所有していた全ての財産に対して、税金がかかる対象となる金額を算出します。相続税が発生する場合、被相続人の財産の価額は、国税庁が定めている評価基準(財産評価基本通達)によって決められます。この評価額が高いほど相続税の税額が高くなり、評価額が低くなるほど、税額は低くなります。そのため、タワーマンションには節税効果があると考えられていきました。

2024年1月1日以降、財産評価基本通達の改正が行われ、相続税評価額の計算方法が変わり、マンションの相続や贈与に影響が生じると考えられています。

今回予定されている改正では、

実勢価格(実際の取引が成立する価格)との乖離が1.67倍以上になる場合においては、「相続税評価額×乖離率×0.6」で評価される

と見込まれています。新たな基準が盛り込まれることによって、相続税評価額は実勢価格の4割から6割になるように検討されています(改正前は2割程度という事例もあった)。相続税評価額が上がると、それに伴い相続税も高くなるため、従来に比べて相続税対策としての効果が少なくなる可能性が高いです。

5 一括贈与(教育資金)

教育資金贈与の非課税制度とは、親から子、祖父母から孫など直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合、1500万円までは贈与税が非課税になるものです。2023年3月31日が適用期限でしたが、3年延長され2026年3月31日までとなりました。

また、贈与者が死亡した時点で、贈与を受けた教育資金が残っていた場合の残額の取り扱いについて、いままでは受贈者(贈与を受けた孫など)が23歳未満・学生(教育訓練を受けている場合を含む)の場合には相続税の課税対象ではありませんでした。しかし、2023年4月1日以後の一括贈与については、

贈与者の死亡の際の相続税の課税価格の合計額が5億円を超える場合には、受贈者が23歳未満・学生の場合でも、「残額」は相続財産に加算

され、課税対象となります。

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さらに、受贈者が30歳に達した時点で贈与された教育資金が残っている場合は、贈与税が課されます。その際に適用される税率について、これまでは特例税率(低い税率)が適用されていましたが、

2023年4月1日以後の贈与については、一般税率(通常の贈与税率)が適用される

ことになっています。

6 結婚・子育て資金一括贈与非課税措置の見直し

結婚・子育て資金の一括贈与とは、父母などから結婚・子育て資金の贈与をうけたときに1000万円まで贈与税が非課税になる制度です。2023年3月31日が適用期限でしたが、2年延長され2025年3月31日までとなりました。

また、受贈者が50歳に達した時点で贈与された結婚・子育て資金が残っている場合などには、贈与税が課されます。その際に適用される税率について、これまでは特例税率(低い税率)が適用されていましたが、

2023年4月1日以後の贈与については、一般税率(通常の贈与税率)適用される

ことになっています。

以上(2024年1月作成)
(執筆 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

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画像:ronstik-Adobe Stock

【規程・文例集】自社に合った「役員規程」に仕上げるためのポイント

書いてあること

  • 主な読者:役員規程を整備していなかったり、ひな型をそのまま使ったりしている経営者
  • 課題:自社に合った役員規程にするために、どこを見直せばよいのか分からない
  • 解決策:役員の定義、役員規程の適用範囲、辞任、機密保持義務などを見直す

1 大きな権限を持つ役員にルールがないのは不自然です

「就業規則」はあるのに「役員規程」はない、そんな会社が少なくありません。労働基準法で10人以上の社員がいる会社には、就業規則の作成が義務付けられている一方、役員規程には、会社法などによる義務がないというのが背景にあるのでしょう。

しかし、役員は経営の中枢であり、権力や影響力が大きいわけですから、それを規定する役員規程がないのはガバナンスの面でまずいわけです。改めて整理すると、役員規程とは、

役員に共通して適用されるルール(役員の選任・就任、退任、執務条件、責務など)について定めた、いわば役員用の就業規則

です。特に、親族以外の役員がいるオーナー経営者にとって、役員規程は重宝するでしょう。

また、役員規程を作成する際に、インターネットや書籍のひな型をそのまま使うのはお勧めできません。役員構成などは会社によって異なるわけですから、役員規程も自社の実情に合ったものであることが必要なのです。

そこで、この記事では、

役員規程のひな型に通常盛り込まれている条項を「1)条文例」として紹介し、弁護士の視点から条文について「2)追記・修正案」と「3)解説」を記載

していますので、ご確認ください。なお、役員規程の作成・見直しをする際は、それと併せて、

役員と締結する委任契約に、役員規程が適用される旨の条項を盛り込んでおく

ようにしましょう。

2 「役員」の定義:自社の役員構成に合わせて修正する

1)条文例

第●条(役員の定義)

「役員」とは、株主総会で選任された取締役をいう。

2)追記・修正案

第●条(役員の定義)

「役員」とは、株主総会で選任された取締役および監査役をいう。

3)解説

役員構成は、会社によって異なるため、自社の役員がカバーされるように、適宜修正します。

3 役員規程の適用範囲:非常勤役員への準用について明記する

1)条文例

第●条(適用範囲)

本規程は、常勤の役員に適用する。ただし、必要があるときは、本規程の一部を非常勤役員に準用することがある。

2)追記・修正案

第●条(適用範囲)

本規程は、常勤の役員に適用する。ただし、本規程その他の書面で別途の定めがある場合には、本規程の一部を非常勤役員に準用することがある。

3)解説

役員規程の適用範囲については、特に決まったルールはないので、どのように定めても構いません。実務上は、「常勤役員のみ」を適用対象とするのが一般的です。

なお、非常勤役員への準用を定める場合、単に「必要があるとき」などとすると、どのような場合に準用が認められるのか分かりません。そのため、「本規程その他の書面で別途の定めがある場合」などとして、準用に明文の根拠を要求するように修正することが望ましいでしょう。

4 役員の辞任:辞任の事前通知期間を適切に定める

1)条文例

第●条(辞任)

役員が辞任する場合は、原則として2カ月前までに社長に届け出るものとする。

2)追記・修正案

第●条(辞任)

役員が辞任する場合は、原則として3カ月前までに社長に届け出るものとする。

3)解説

役員が辞任する場合、会社の業務運営に支障が出ないように、引き継ぎが確実に行える準備期間が必要です。準備期間としてどの程度の期間を確保すべきかについては、取締役の担当業務の内容や、後任者を確保できる見込みなどによって異なります。そのため、ひな型に記載された準備期間が短いと感じられる場合には、延長しておくとよいでしょう。

なお、会社の裁量により、所定の期間よりも短期間での辞任を認めることはできます。

5 役員の定年:退任時点を明記する

1)条文例

第●条(定年)

役員の定年は、原則として次に定める通りとする。

  1. 社長:70歳
  2. 取締役:65歳
  3. 監査役:65歳

2)追記・修正案

第●条(定年)

1)役員の定年は、原則として次に定める通りとする。

  1. 社長:70歳
  2. 取締役:65歳
  3. 監査役:65歳

2)事業年度の途中で定年に達した場合には、その日以降最初に到来する定時株主総会終了の日をもって退任するものとする。

3)解説

定年となる年齢を記載しているだけでは、いつ退任するのかがはっきりしないため、退任時期を明確にしておくべきです。退任時期については、取締役に欠員が生じないように、定時株主総会のタイミングに退任時期を合わせるとよいでしょう。

6 機密保持義務:別途NDAを締結して定める

1)条文例

第●条(機密保持)

役員は、職務上知り得た会社の機密情報を、正当な理由なく会社の内外に開示または漏洩してはならない。

2)追記・修正案

第●条(機密保持)

役員は、職務上知り得た会社の機密情報を、正当な理由なく会社の内外に開示または漏洩してはならない。また、役員は、会社との間で秘密保持契約書を締結し、その定めに従わなければならない。

3)解説

役員としての機密保持義務については、別途秘密保持契約書(NDA)を締結し、その中で詳細にルールを定めておきます。NDAで定めるべき事項は、次のようなものです。

  1. 機密情報の定義
  2. 例外的に開示を認める場合
  3. 退任後の機密情報の取り扱い
  4. 機密保持義務の存続期間など

以上(2024年2月更新)
(監修 弁護士 坂東利国)

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画像:ESB Professional-shutterstock

【労働条件の変更(4)】「労働契約」による労働条件の不利益変更

書いてあること

  • 主な読者:賃金引き下げなど、いわゆる「労働条件の不利益変更」を検討している経営者
  • 課題:労働契約の変更手続きの流れが分からない
  • 解決策:労働協約や就業規則に定めのない労働条件を変更する場合や、就業規則を下回らない範囲で労働条件を変更する場合、社員の合意を得て労働契約を変更する

1 労働協約や就業規則に定めのない労働条件を変更する方法

会社の経営状況や働き方の変化などを理由に、労働条件を引き下げることを「労働条件の不利益変更」といいます。労働条件を変える場合、労働組合がある会社なら「労働協約」の変更、労働組合がない会社なら「就業規則」の変更で対応するのが通常ですが、

労働協約や就業規則に定めのない労働条件を変更する場合などは、「労働契約の変更」が必要

です。また、変更の際は

  • 個別の社員との交渉・合意などを、正しい手続きで進めること
  • 就業規則の変更と労働契約の変更の使い分けなど、必要なポイントを押さえること

が大切です。以降で詳しく見ていきましょう。

2 労働契約とは?

労働契約とは、社員が会社から与えられた仕事をする代わりに、会社が社員に賃金を支払う契約です。労働契約を締結するに当たり、会社は次の事項を労働条件通知書などで社員に明示しなければなりません。なお、2024年4月1日以降は、図表1の赤字の内容を新たに明示する必要があります。

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労働契約の効力が及ぶのは、

労働契約の当事者である社員のみ

です。そのため、特定の社員の労働契約を変更しても、他の社員の労働条件は変更されません。労働契約の変更によって不利益変更を行う場合、変更する労働条件が、労働協約や就業規則に定めがある内容か否かで対応が変わります。まず、

労働協約や就業規則に定めのない労働条件を変える場合、労働契約を変更する必要

があります(契約期間、契約の更新基準(有期の場合)、就業場所など)。

次に、労働協約や就業規則に定めのある労働条件を変える場合です。労働協約、就業規則、労働契約の力関係は、

「労働協約>就業規則>労働契約」という力関係

があります。労働協約や就業規則よりも不利な労働条件を定めた労働契約は無効ですので、原則として労働協約か就業規則を変更しない限り、不利益変更はできません。ただし、法令上、「労働契約の労働条件が就業規則を上回る場合のみ、労働契約は就業規則に優先する」というルールがあるので、

就業規則を上回る部分の労働条件を変える場合は、労働契約を変更する必要

があります。なお、労働協約との関係では、たとえ労働契約の労働条件が労働協約を上回っていても労働協約が優先するという考え方が有力です。その場合は労働協約を変更しない限り、社員の労働条件は変えられません(社員が労働協約の対象とならない非組合員である場合を除く)。

3 労働契約による不利益変更の流れ

1)労働条件の不利益変更を行うことについて社員と交渉する

労働契約は会社が一方的に変更できないので、会社と社員の合意によって変更します。そのため、労働条件の不利益変更を行うには社員との交渉が必須です。

交渉の進め方などは当事者の自由ですが、通常は会社が労働条件の新旧対照表を作成し、変更が必要な理由を社員に説明します。例えば、賃金を引き下げる場合は賃金額の新旧対照表を作成し、変更が必要な理由(勤務成績が目標の○%に満たず、指導を継続しても改善が見られないなど)を説明するといった具合です。

2)労働条件の不利益変更を行うことについて社員の合意を得る

会社と社員が合意すれば、新しい労働条件が適用されます。「言った、言わない」のトラブルを防ぐため、「合意書」(任意の書式)を取得するのが無難です。合意書には、社員自身が署名する欄を設け、さらに、

社員が労働条件の変更について理解した上で合意する

などの文言を入れておくとよいでしょう。社員から「内容をよく理解せずに合意した」「会社の説明が不十分で、内容を誤解した状態で合意した」などと言われないようにするためです。

4 労働契約による不利益変更のポイント

1)社員の言い分も聴きながら交渉する

労働条件の不利益変更について社員と交渉する場合、会社と社員の立場の違いに注意しましょう。例えば、

「不利益変更を拒否したら、会社に居づらくなるのではないか」という不安から、本当は不利益変更に応じたくないのに、無理をして同意するケース

があります。その場の交渉は無事に終わっても、後に不満を募らせた社員がユニオンなどに駆け込み、「会社から不当な労働条件を強いられた」などと主張することがあります。

ですから、交渉の際は、必ず社員の言い分も聴くようにしましょう。例えば、「勤務成績が目標の○%に満たず、指導を継続しても改善が見られないため、月給を○円引き下げる」といった場合であれば、目標を達成できない理由などについて社員の言い分を聴きます。場合によっては引き下げ額の見直しや引き下げの撤回などを検討するようにします。

2)ケースに応じて、就業規則の変更と労働契約の変更を使い分ける

前述した通り、就業規則と労働契約の間には、

  • 原則:就業規則が労働契約に優先する
  • 例外:労働契約の労働条件が就業規則を上回る場合、労働契約が就業規則に優先する

というルールがあります。

例えば、就業規則で月給を25万円と定めている会社が、特定の社員と月給を30万円とする労働契約を締結することは問題ありません。また、月給が就業規則の25万円を下回らなければ、就業規則を変更せず、労働契約の変更によってその社員の月給を引き下げることも可能です。

同じ「賃金引き下げ」という不利益変更であっても、就業規則の変更で対応するか、労働契約の変更によって対応するかはケースによって使い分けるとよいでしょう。基本的なイメージは、

  • 賃金を一律的に引き下げるなら、就業規則を変更する(会社の業績が悪化した場合など)
  • 特定の社員の賃金だけを引き下げるなら、労働契約を変更する(社員の成果が著しく低い場合など)

です。

以上(2024年2月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

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画像:G-Stock Studio-shutterstock

【労働条件の変更(3)】「就業規則」による労働条件の不利益変更

書いてあること

  • 主な読者:賃金引き下げなど、社員の「労働条件の不利益変更」を検討している経営者
  • 課題:就業規則の変更手続きの流れが分からない
  • 解決策:労働組合が組織されていない(労働協約を交わしていない)場合は、就業規則の変更によって労働条件を変更する

1 労働組合がない会社が、社員の労働条件を変更するには?

会社の経営状況や働き方の変化などを理由に、労働条件を引き下げることを「労働条件の不利益変更」といいます。労働条件を変える場合、労働組合のある会社であれば「労働協約」の変更で対応するのが通常ですが、

御社に労働組合がない場合、社員の労働条件を変えるには、原則として「就業規則」の変更が必要

になります。また、変更の際は

  • 過半数労働組合や過半数代表者からの意見聴取などを、正しい手続きで進めること
  • 就業規則の変更の合理性など、必要なポイントを押さえること

が大切です。以降で確認していきましょう。

2 就業規則とは?

就業規則とは、賃金や労働時間など一定の労働条件をまとめた職場のルールブックです。社員数が常時10人以上の会社(実際は本店・支店などの事業場単位)の場合、作成は義務です。

就業規則に記載する事項は次の3つに分かれています。なお、「就業規則(本則)」とは別に、「賃金規程」などを別規程で作成する会社は多いですが、法令上は、本則も賃金規程なども全て就業規則に当たります。

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就業規則の効力が及ぶ範囲は、

就業規則の中で適用対象として定めた全ての社員

です。例えば、就業規則の中に「本規程は正社員に適用する」という定めがある場合、正社員にのみ効力が及びます。なお、正社員と異なる労働条件が適用される社員については、そうした社員を適用対象とする「パートタイマー用就業規則」などを別に作成すれば問題ありません。

労働組合がない会社の場合、社員の労働条件は、就業規則か労働契約によって決まりますが、

この両者の間には「就業規則>労働契約」という力関係

があるため、労働契約を変更しても、社員には就業規則の労働条件が引き続き適用されます。つまり、

就業規則のある会社が社員の労働条件を変える場合、まず就業規則を変更する必要

があるわけです。ただし、例外として、

労働契約の労働条件が就業規則を上回る場合のみ、労働契約は就業規則に優先

するというルールがあり、この場合は労働契約の変更で対応することになります。

3 就業規則による不利益変更の流れ

1)新しい就業規則を作成する

本来、会社は社員と合意せずに、就業規則の変更による不利益変更を行うことはできません。しかし、社員の不利益や労働条件を変える必要性など、いくつかの要素に照らして就業規則の変更が合理的といえる場合、社員と合意しなくても不利益変更が可能です。

合理性の判断のポイントは、第4章で事例を交えて紹介しますが、まずは経営者や人事労務担当者が、合理的かどうかを自己判断しながら新しい就業規則を作成することになります。

2)過半数労働組合や過半数代表者から意見を聴取する

就業規則を変更する場合、過半数労働組合(社員の過半数で組織される労働組合)から意見を聴取しなければなりません。過半数労働組合がない場合は過半数代表者(社員の過半数を代表する者)から意見を聴取します。なお、過半数代表者は、次の要件を満たす必要があります。

  • 管理監督者(労働基準法の「監督もしくは管理の地位にある者」、労務管理について一定の責任・権限を与えられている管理職など)でないこと
  • 就業規則に関する意見聴取のために選出されることを明らかにした上で、投票や挙手などによって選ばれた者であること

意見を聴取する際は、意見を聴取される者の氏名、意見の内容、聴取した日付などを書き込める「意見書」(任意の書式)を作成します。

なお、会社と意見を聴取される者が、変更内容について合意することまでは求められていません。つまり、

反対意見が出たからといって、就業規則の変更が無効になるわけではない

ということです。

3)変更した就業規則を所轄労働基準監督署に届け出て、社員に周知する

変更した就業規則は、過半数労働組合または過半数代表者の意見書を添えて、所轄労働基準監督署に届け出ます。書面で直接提出するか、「電子政府の総合窓口(e-Gov)」を使用できる環境にあればデータで送付します。

届け出が完了したら、変更した就業規則を社員に周知します。

就業規則を社員に周知しないと、新しい労働条件が社員に適用されない

ので、注意が必要です。例えば、オフィス内に就業規則を掲示しても、ほとんどの社員がリモートワークをしていて内容が確認できない場合などは、周知したことになりません。社内のイントラネットなど、社員が閲覧しやすい場所・方法で、就業規則のデータを掲示する必要があります。

■電子政府の総合窓口(e-Gov)■

https://www.e-gov.go.jp/

4 就業規則による不利益変更のポイント

1)「就業規則の変更が合理的か」が重要

前述した通り、会社が社員と合意せずに、就業規則の変更による不利益変更を行う場合、その変更が合理的である必要があります。具体的には、次の要素に照らして合理性を判断します。

  • 社員の不利益が大き過ぎないか
  • 労働条件を変える必要があるか(経営上の理由など)
  • 内容は適切か(変更の方向性、不利益の緩和措置、一般的な同業他社の状況など)
  • 労働組合等との交渉を行っているか
  • その他、就業規則の変更に当たって考慮すべき事情を見落としていないか

例えば、「仕事内容を基準にしたジョブ型の人事制度にしたいので、成果や仕事内容との関係性が薄い住宅手当を廃止する」という不利益変更の場合、次のような対応をしていれば合理的といえるかもしれません。

画像2

図表2の場合、「住宅手当を廃止することによる社員の不利益が大きい」のがネックですが、会社としては競争力を上げるためにジョブ型の人事制度への切り替えが不可欠と考えているのが難しいところです。そのため、

住宅手当を廃止する代わりに、調整給を一定期間支給するという落とし所によって、社員の不利益を緩和し、合理性を担保する

という対応になっています。

就業規則を変更する場合、変更に当たって会社が考慮した要素を、図表2のような形であらかじめまとめておくと、過半数労働組合や過半数代表者も、意見を述べやすいかもしれません。

2)必要であれば個々の社員の合意を得る

第3章で紹介した手続きを踏めば、会社と社員が合意しなくても就業規則を変更できますが、変更の内容によっては反感を覚える社員もいるでしょう。社員とのトラブルを回避したいのであれば、

個々の社員の合意を得た上で就業規則を変更し、あくまで反対する社員については個別の労働契約によって就業規則と異なる労働条件を定める

というのも1つの方法です。

以上(2024年2月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

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画像:garagestock-shutterstock

【労働条件の変更(2)】「労働協約」による労働条件の不利益変更

書いてあること

  • 主な読者:賃金引き下げなど、いわゆる「労働条件の不利益変更」を検討している経営者
  • 課題:労働協約の変更手続きの流れが分からない
  • 解決策:労働組合が組織され、労働協約を交わしている場合は、労働協約の変更によって労働条件を変更する。非組合員の労働条件を変更するには就業規則の変更も必要

1 労働組合がある会社が労働条件を変更する方法

会社の経営状況や働き方の変化などを理由に、労働条件を引き下げることを「労働条件の不利益変更」といいます。労働条件を変える場合、

労働組合がある会社なら、原則として「労働協約」の変更が必要

です。また、変更の際は

  • 労働組合との団体交渉などを、正しい手続きで進めること
  • 労働組合との交渉に失敗した場合の対応など、必要なポイントを押さえること

が大切です。以降で確認していきましょう。

2 労働協約とは?

労働協約とは、会社と労働組合が交わす書面の協定で、作成は任意です。労働協約に記載する事項は、労働条件(賃金、労働時間など)、組合活動(組合専従者、組合費の給与天引きなど)、団体交渉(交渉担当者、交渉手続きなど)などです。

労働協約の効力が及ぶ範囲は、

  • 原則:組合員のみ
  • 例外:労働組合が事業場(本社、支店など)の4分の3以上の社員で組織されている場合、組合員と非組合員

です。

労働条件は、労働協約、就業規則、労働契約のいずれかによって決まりますが、これらには、

「労働協約>就業規則>労働契約」という力関係

があります。そのため、就業規則や労働契約を変更しても、組合員には労働協約の労働条件が引き続き適用されます。つまり、

労働協約のある会社が組合員の労働条件を変える場合、まず労働協約を変更する必要

があるわけです。

なお、労働組合の組織率は減少傾向にあります。会社に労働組合がないようであれば、就業規則や労働契約の変更によって労働条件の不利益変更を行います。

3 労働協約による不利益変更の流れ

1)労働組合に対し、団体交渉を申し入れる

労働協約は、会社と労働組合の約束事なので、両者が合意しないと内容を変更できません。合意するには、労働組合と「団体交渉」をする必要があるので、まずは会社がその申し入れをします。申し入れの方法は労働協約などで定めます。例えば、「所定の書面を開催要望日時の○労働日前までに提出する」といった具合です。

申し入れの際は、労働条件の不利益変更を行う理由を明確にします。賃金引き下げを行う場合であれば、「業績が悪化している中で、全社員の雇用を維持するため」などが考えられます。

2)労働条件の不利益変更を行うことについて、会社と労働組合が合意する

労働組合との団体交渉を通して、労働条件の不利益変更を行うことについての合意を得ます。例えば、賃金引き下げを行う場合、団体交渉では次のような点がポイントになります。

  • 賃金引き下げの必要性を裏付ける資料があるか(会社の収益・支出、人件費の推移など)
  • 賃金引き下げの方向性は明確か(基本給を引き下げるのか手当の一部を廃止するのか、具体的にいくら引き下げるのかなど)
  • 賃金引き下げの内容は合理的か(例えば、社員の基本給は引き下げるが、経営者や役員の役員報酬は引き下げないというのは合理的と言いにくい)

団体交渉は1回で決着がつくとは限りません。例えば、賃金を引き下げることについては合意できても、その方法や引き下げ金額について反対意見が出ることなどがあります。そうした場合、ある程度労働組合の意見を尊重するなどして、妥協点を見つけていくことも必要です。

なお、団体交渉を繰り返しても、会社と労働組合が合意できない場合の対応については、第4章をご参照ください。

3)新しい労働協約を作成・締結し、組合員の労働条件を変更する

会社と労働組合が合意した場合、変更箇所や有効期間を確認しながら新しい労働協約を作成します。会社と労働組合それぞれの署名または記名押印があれば有効で、就業規則と違い、所轄労働基準監督署への届け出は不要です。なお、労働協約に決まった書式はありません。

4)就業規則または労働契約を変更し、非組合員の労働条件を変更する

労働協約を変更しても、基本的に非組合員には効力が及びません(事業場の4分の3以上の社員で組織されている労働組合を除く)。そのため、非組合員については、

  • 原則:就業規則を変更
  • 例外:就業規則と異なる労働条件で労働契約を交わしている場合、労働契約を変更

することによって、労働条件の不利益変更を行います。また、

労働協約や就業規則に定めのない労働条件を変える場合については、労働契約を変更

する必要があります(契約期間、契約の更新基準(有期の場合)、就業場所など)。

4 労働協約による不利益変更のポイント

1)労働組合との交渉に失敗した場合は、労働協約の解約を検討する

団体交渉を繰り返しても会社と労働組合が合意できない場合、労働協約の解約を検討するのも1つの方法です。具体的には、

  • 労働協約に有効期間(最長3年)の定めがある場合、期間満了の際に解約
  • 有効期間の定めがない場合、90日以上前に予告した上で解約(予告は、署名または記名押印した文書で行う)

します。

労働協約を解約した場合、労働条件の不利益変更は、就業規則または労働契約を変更して行います。

2)労働協約解約後の規律

労働協約が失効した後の措置について別段の合意がない場合、協約の効力は消滅しますが、新たな労働契約が成立したり、就業規則の合理的改訂がなされたりすれば、これらによって規律されることになります。

以上(2024年2月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 渡邉和也)

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画像:tashatuvango-Adobe Stock

【朝礼】草履と下駄を履いて「ChatGPT」を始めよう

皆さん、おはようございます。今朝は、「不完全でも走り出す勇気」についてお話しします。

最近のイベントや展示会に行くと、「ChatGPT」など生成AIに関する出展が目白押しです。今、最も注目されている技術だと実感しますが、残念なことに、出展されているサービスはどれも今ひとつで、今後に期待といった感じです。

ここからが話の本題です。今の私の話を聞いてみて、皆さんはどう感じましたか? イベントに出展する会社は、貴重なリソースを割いて研究を重ね、必死でパートナーを探しています。すぐに結果が出るほど簡単ではないでしょうが、今後、課題を突破して素晴らしいサービスをローンチする可能性を秘めています。にもかかわらず、「なんだ、今ひとつなのか。だったら、まだいいや」と思った人がいたら残念です。

「草履片々、木履片々」(ぞうりかたがた ぼくりかたがた)という言葉があります。これは戦国武将である黒田官兵衛が、「毛利攻め」の最中に本能寺の変の知らせを受けて動揺した豊臣秀吉に伝えた言葉だとされます。その意味は、「片方に草履、もう片方に下駄を履いた不完全な状態でも、全力で走らなければならないときがある」というものです。この言葉があったからこそ、秀吉は世に伝わる「大返し」をして明智光秀を討てたのかもしれません。

ChatGPTに話を戻しましょう。これだけ注目されているのに、未だにChatGPTを触ったことがない人が多いようです。そうした人は、ごく限られた情報で知った気になり、「セキュリティや結果の精度の問題があるから、まだ触らない」と、もっともらしいことを言います。しかし、実際に触ってもみないで何が分かるのでしょうか? 今の課題は解決され、また新しい課題が出てくるというサイクルが急速に回っているというのに。

だからこそ、私たちは片方に草履、もう片方に下駄という不完全な状態でも走り出さなければなりません。しかも、スタートは早いほど好ましい。周囲はとっくに走り始めているのです。

それに、ChatGPTに限ったことではありませんが、どんなに待っても、物事が完璧になることはありません。「完璧だ!」と感じるのは、その時に皆さんが考える完璧になっただけであり、他人から見れば不完全です。それに次の瞬間に技術はさらに進み、完璧の定義も変わります。

とにかく、やってみる。そんなマインドが求められています。まずは、「失敗」を口癖にして、自分や周囲を否定することをやめましょう。新しい物事を進めるのは難しくて当たり前。皆さんが「失敗」と言っていることは、次につなげるための貴重な経験です。それは他人がお金を払ってでも体験したいことであり、皆さんは先んじて経験できているのです。

いかがですか。現状にとどまる危機感を覚え、前に進む勇気が湧いてきましたか? さぁ、一緒に進みましょう!

以上(2024年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

部下が生意気で悩む教育担当者のやる気を取り戻すアプローチとは?

書いてあること

  • 主な読者:新人や若手の教育に悩んでいる教育担当者を奮起させたい経営者
  • 課題:教育担当者にやる気を取り戻してもらうためにどうすればいいのか迷う
  • 解決策:「部下が生意気」「部下が自分を慕ってくれない」「自分には教える能力がない」など、教育担当者の悩みに応じてアプローチの方法が異なる。まずは、教育担当者の気持ちに寄り添い、何に悩んでいるのかをよく聞くこと

1 教育担当者の負担はますます重くなる

御社の教育担当者は、新人や若手の指導で壁にぶつかっていませんか?

今、会社にとって教育担当者は、これまで以上に大切な存在です。リモートワークなど新しい働き方が浸透している上に仕事の内容も高度化・複雑化し、社員の考え方や能力のバラツキが大きくなっているからです。

また、オンラインで教育する機会が増えると、熱量や温度感などを共有するのが難しい場面も出てきます。教育担当者の中には、伝えたいことがなかなか伝わらず悩む人もいるでしょう。こうしたことが色々と重なると、教育担当者は疲弊し、やる気を失っていくかもしれません。

そんなときこそ、教育担当者に対する社長のフォローが必要です。やる気というのは、闇雲に応援されたり、一方的にアドバイスを与えられたりしても湧いてきません。社長がまず心掛けるべきは、

教育担当者の気持ちに寄り添い、何に悩んでいるのかをよく聞くこと

です。

その上で、教育担当者の悩みに応じて、具体的なアプローチの仕方を考えます。以降では、3つのパターンを例に社長が教育担当者に働き掛ける例を紹介します。

2 部下が生意気?

1)社長と呆田(あきれた)さんの会話

やる気を失っている様子の教育担当者、呆田さんに、社長が話し掛けました。話をしているうちに、どうやら呆田さんは、「仕事ができないのに生意気な部下にあきれてしまい、お手上げの状態になっている」ことが分かりました。

社長:呆田君、いつもご苦労様。

   部下の教育は大変だね。

   呆田君の部下は、特に難しいと人事部も言っているからね。

呆田:本当ですよ。社長、なぜ、あのような社員を採用したのですか?

   何度言っても仕事を覚えないのに、自分の意見ばかり主張してきます。

   しかも、その主張が的外れなのですから、もうお手上げです……。

社長:まぁまぁ。気持ちは分かるが、まだ君の部下になって1カ月だ。根気強く頼むよ。

   今は色々な社員がいるから、社員の良い面を引き出す教育投資は欠かせないよ。

呆田:それは分かりますが、あまりにもレベルが低いですよ。

   もう私にできることは全部やりました。

   私以外に、もっと教育担当として適任の社員がいるのでは?

社長:……。

2)呆田さんへのアプローチ

今どき、呆田さんのような教育担当者は少なくないでしょう。簡単な仕事でさえ満足にできないのに自己主張が激しく、場合によっては上司の教え方が悪いと不満を漏らす部下がいます。教育担当者が「お手上げ」になってしまうのも分かります。

このケースでは、部下に問題があるのは明らかです。しかし、呆田さんも、部下の仕事のできなさ加減や生意気な物言いばかりに気を取られていて、視野が狭いようにも見受けられます。

人材不足の折、「ピカピカの新人」は期待しにくいです。となると、今どきの人材育成は、教育担当者が視野を広く持ち、それなりの時間をかけて部下の良いところを見つけ、伸ばしていかなければなりません。

呆田さんに対して、社長はどのようにアプローチするべきでしょうか。効果的なのは、

小さくてもよいので社長と一緒にできる仕事を与えること

です。社長の考えに触れることで、呆田さんの視野は広がるでしょう。

社長との仕事で、呆田さんはミスをするはずです。その際、頭ごなしに叱らず、呆田さんの話を聞き、ミスを取り返す方法を一緒に教え、ある程度任せます。これは、日ごろ呆田さんが行っている指導と同じはずなので、呆田さんは自分の教え方を再確認できます。

教育担当者としての経験が浅いと、短期的な成果、つまり部下の“成長の証し”をすぐに求めてしまいがちですが、人はゆっくりとしか育ちません。そのことを呆田さん自身が体験できる環境を社長がつくることが大切です。

3 部下が自分についてこない?

1)社長と寂椎(さみしい)さんの会話

やる気を失っている様子の教育担当者、寂椎さんに、社長が話し掛けました。話をしているうちに、どうやら寂椎さんは、「一生懸命に部下を指導しているのに、部下が自分を慕ってくれなくてさびしがっている」ことが分かりました。

社長:寂椎君、いつもご苦労様。

   部下の教育は大変だね。

   君、ちょっと元気がないんじゃないか?

寂椎:いや、なんというか……。

   私、部下に好かれる上司になろうと頑張ってるんですけど……。

   部下が私でなく、私の同僚の○○さんにばかり話を聞くらしくて、さびしくて……。

社長:なるほど、その気持ちは分からなくもないが、部下は寂椎君を慕っているはずだよ。

   寂椎君のように一生懸命な教育担当者はそうそういない。自信を持って!

寂椎:はぁ~。それなら、もう少し態度で示してくれてもいいと思います。

   最近はオンラインも多く、部下がさらによそよそしい気もします……。

   私ではなく、私の同僚のほうが教育担当として適任なのでは?

社長:……。

2)寂椎さんへのアプローチ

真面目な教育担当者ほど、寂椎さんのような感情になりがちです。寂椎さんには、自分の頑張りを部下に押し付けるつもりはありません。しかし、頑張った分だけ感謝してもらいたいのが人間というものです。

一方、このケースでは部下にも特に悪気はないのでしょう。部下としても、日ごろ、自分の面倒を見てくれる教育担当者に感謝をしているはずです。ただ、他の人の意見も聞いてみたいという思いがあるのも当然です。

一生懸命に教えているからこそ、教育担当者にはある意味、“自分色に染めたい”という感情があります。しかし、部下の成長を願うなら、さまざまな人の意見を聞いたほうがよいのは明らかで、ここに教育担当者のジレンマがあります。

寂椎さんに対して、社長はどのようにアプローチするべきでしょうか。まず行いたいのは、

社長が寂椎さんとその部下をオンラインの異業種交流会などに招待すること

です。

教育担当者と部下がセットで参加している状況であれば、社員教育などをテーマに部下に話を振ってみることで、寂椎さんが知りたがっている「自分の指導に対する部下の考え」を聞き出せるかもしれません。そこに日ごろの指導への感謝などがあれば、寂椎さんも自分の教え方を肯定できます。同時に、社長はこうした場で、寂椎さん自身がさまざまな人から意見を聞けるよう配慮します。そして、寂椎さんは教育担当者として優れているが、寂椎さん自身がもっと成長するためには、さまざまな人の話を聞くことが大切だということを理解させるのです。

教育担当者である自分の言うことを聞いてほしいのは当然です。しかし、どんなに一生懸命で、優れた教育担当者であっても、やはり考え方には偏りがあります。それを埋めるべく、たくさんの人と話をする大切さを体験させることが必要です。

4 自分は人に教えられる器ではない?

1)社長と能不(のうぶ)さんの会話

やる気を失っている様子の教育担当者、能不さんに、社長が話し掛けました。話をしているうちに、どうやら能不さんは、「自分には能力が不足していて、部下を育てることには向いていないと思い自信を失っている」ことが分かりました。

社長:能不君、いつもご苦労様。

   部下の教育は大変だね。

   ん、どうした? 少し顔色が良くないよ。

能不:いえ、大丈夫です。

   ただ、実は私も社長に相談しようと思っていたことがあります。

   言いにくいのですが、私を教育担当から外してください。

社長:なぜ、そういうことになるんだい?

   能不君は一生懸命に頑張っているじゃないか。私も認めている。

   それなのに、一体、どうしたんだ?

能不:私には、うまく教えることができません。

   他の教育担当者に指導されている新人や若手はどんどん成長しています。

   このままでは部下に申し訳なくて……。

社長:……。

2)能不さんへのアプローチ

責任感の強い教育担当者ほど、能不さんのような感情になりがちです。責任感が強い分、部下に高いハードルを課し、また他の教育担当者やその部下と自分たちを比べてしまいます。

自分の部下に一番になってほしい気持ちはどの教育担当者にもあるでしょう。しかし、無理をし過ぎると部下への態度が厳しくなったり、自分自身が自信を失ったりしてしまいます。場合によっては、「自分は役立たずだ」とふさぎ込んでしまうかもしれません。

能不さんに対して、社長はどのようにアプローチするべきでしょうか。

まず、社長が、引き続き能不さんに教育担当を任せるか否かを判断

しなければなりません。能不さんの思いがエスカレートすると、自分の能力不足に悩み、離職を考えかねないからです。

引き続き能不さんに教育担当を任せる場合、

「教育担当者の能力の高さだけで、部下を成長させることはできない」ことを伝えます。同時に、「自分の能力の高低よりも、部下の性格とそれに合わせた教え方」を考えるほうが大事だと伝えます。

自分自身の教育担当者としての資質を疑うのは当然です。しかし、それは自分側の分析にすぎません。教育担当者と部下は、人間同士のぶつかり合いです。教育担当者は、自分のことよりも、部下のことを少しでも多く考えることが大切なのです。

以上(2024年2月更新)

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画像:fotofabrika-Adobe Stock

【労働条件の変更(1)】就業規則など労働条件を決める4つのルールと変更の考え方

書いてあること

  • 主な読者:賃金引き下げなど、いわゆる「労働条件の不利益変更」を検討している経営者
  • 課題:労働条件をどのように引き下げていいのか分からない
  • 解決策:「労働法規>労働協約>就業規則>労働契約」という力関係を理解し、適切な方法で労働条件の引き下げを進める

1 「労働条件の不利益変更」にはルールがある

会社の経営状況、働き方の変化などを理由に、

労働条件を引き下げることを「労働条件の不利益変更」

といいます。例えば、「業績が悪化したので、基本給を引き下げる」「仕事内容を基準にしたジョブ型の人事制度にしたいので、成果や仕事内容との関係性が薄い手当(住宅手当など)を廃止する」などがそうです。

ただし、労働条件を変えるには一定のルールがあり、会社が好き勝手に変更することできません。細かいルールは色々ありますが、まずは、

  • 労働条件は、4つの要素(労働法規、労働協約、就業規則、労働契約)で決定される
  • 4つの要素には、「労働法規>労働協約>就業規則>労働契約」という力関係がある

ということを知ってください。この記事では、この4つの要素の関係を図解していきます。

2 労働法規、労働協約、就業規則、労働契約の概要

1)労働法規

労働法規とは、労働に関する法令(労働基準法、労働組合法など)の総称です。会社と社員は労働法規の内容を守ることを前提に、労働条件を決定しなければなりません。

例えば、労働基準法に違反する労働条件を定めた労働契約は、会社と社員の合意があっても無効で、無効となった部分については労働基準法で定める基準が適用されます。

2)労働協約

労働協約とは、会社と労働組合が交わす書面の協定です。決まった書式はなく、会社と労働組合それぞれの署名または記名押印があれば有効です(届け出は不要)。

労働協約の効力は、基本的に組合員にしか及びません。ただし、労働組合が事業場(本社、支店など)の4分の3以上の社員で組織されている場合、その労働組合が会社と交わした労働協約の効力は、非組合員にも及びます。

3)就業規則

就業規則とは、賃金や労働時間など一定の労働条件をまとめた職場のルールブックです。社員数が常時10人以上の会社(実際は事業場単位)の場合、作成は義務です。

就業規則を作成・変更するには、社員の過半数で組織する労働組合(ない場合は社員の過半数を代表する者)の意見を聴いた上で(合意までは不要)、所轄労働基準監督署に届け出なければなりません。

4)労働契約

労働契約とは、会社と個々の社員が交わす契約であり、その基本原則は労働契約法、契約内容(労働条件)は労働基準法などで定められています。

3 効力の強いところからアプローチするのが基本

以上で紹介した4つの要素は「労働法規>労働協約>就業規則>労働契約」という力関係にあります。これを図で表すと次のようになります。

画像1

社員の労働条件は、労働協約、就業規則、労働契約のいずれかによって決まりますが、

どの場合も、労働法規に違反する労働条件は無効(労働法規が最優先)

です。

次に、「労働協約>就業規則>労働契約」という力関係があるので、労働条件を変える場合、

  • 労働協約がある会社は、労働協約を変更(効力が及ぶのは労働組合の組合員)
  • 就業規則がある会社は、就業規則を変更(社員数が常時10人以上の場合、作成は義務)

するというのが、基本的なアプローチになります。なお、このルールに照らすと、労働契約は最も効力が小さいことになりますが、例外として、

労働契約の労働条件が就業規則を上回る場合のみ、労働契約は就業規則に優先

します。ただし、労働協約との関係では、たとえ労働契約の労働条件が労働協約を上回っていても、労働協約が優先するので注意が必要です。

4 労働条件の不利益変更における力関係

簡単な例を挙げてみます。仮に労働協約、就業規則、労働契約の全てで、月給を30万円と定めていたとします。これを25万円に変更する場合、労働条件の不利益変更における力関係は次のようになります。

画像2

1)労働協約の変更

労働協約を変更すると、組合員の月給は25万円になります。ただし、非組合員の月給は30万円のままです。労働協約の効力は、基本的に組合員にしか及ばないからです(図表2「1.労働協約の変更」の「就業規則との関係」を参照)。ただし、例外として、労働組合が事業場(本社、支店など)の4分の3以上の社員で組織されている場合、その労働組合が会社と交わした労働協約の効力は、非組合員にも及びます。

2)就業規則の変更

就業規則を変更すると、非組合員の月給は25万円になります。ただし、組合員の月給は30万円のままです。組合員の労働条件については、労働協約が就業規則に優先するからです(図表2「2.就業規則の変更」の「労働協約との関係」を参照)。組合員の月給を引き下げるには、労働協約を変更しなければなりません。

3)労働契約の変更

労働契約を変更しても、組合員も非組合員も月給は30万円のままです。組合員の労働条件については、労働協約が労働契約に優先し、非組合員の労働条件については、就業規則が労働契約に優先するからです(図表2「3.労働契約の変更」の「労働協約との関係」「就業規則との関係」を参照)。組合員と非組合員の月給を引き下げるには、労働協約と就業規則の両方を変更しなければなりません。

労働協約、就業規則、労働契約のそれぞれの変更手続きについては、次の記事をご参照ください。

00414 「労働協約」による労働条件の不利益変更

00415 「就業規則」による労働条件の不利益変更

00416 「労働契約」による労働条件の不利益変更

以上(2024年2月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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画像:Mathias Rosenthal-shutterstock

【規程・文例集】「役員規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:最新法令に対応し、運営上で無理のない会社規程のひな型が欲しい経営者、実務担当者
  • 課題:法令改正へのキャッチアップが難しい。また、内規として運用してきたが法的に適切か判断が難しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士、公認会計士などの専門家が監修したひな型を利用する

1 役員規程とは

株式会社における役員とは、取締役、会計参与および監査役のことです(会社法第329条第1項)。役員が一定の規律の下でその役割を遂行していくためには、報酬や執務条件などをまとめた役員規程が必要です。役員規程の作成は法令で義務付けられていませんが、トラブルの未然防止などの観点から作成しておくのが望ましいです。注意点は、会社法などの関連法令や定款の定めなどと整合性を取ることです。最後に、「役員規程の作成で押さえておきたい会社法の事項(一部)」をまとめているので参考にしてください。

2 役員規程のひな型

各役員の有無などは会社の機関設計によって異なりますが、本稿では取締役会および監査役設置会社を想定し、一般的な内容の役員規程のひな型などを紹介します。実際にこうした規程を作成する際には、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【役員規程のひな型】

第1章 総則

第1条(目的)

1)本規程は、役員の就任・退任・執務条件・役員報酬などに関する基本的事項について定めるものである。

2)本規程に定める事項以外については、会社法などの各種法令、定款、株主総会および取締役会の決議に従うものとする。

第2条(役員の定義)

本規程における役員とは、株主総会で選任された取締役および監査役のことをいう。

第3条(役員の職位)

役員の職位は、次の各号の通りとする。

  1. 取締役会長
  2. 取締役社長
  3. 取締役副社長
  4. 専務取締役
  5. 常務取締役
  6. 取締役
  7. 監査役

第4条(適用範囲)

本規程は、原則として常勤役員に適用する。ただし、必要があるときは、本規程の一部を非常勤役員に準用することがある。

第2章 選任・就任

第5条(役員の選任)

1)役員は、株主総会の決議によって選任される。

2)株主総会に提出する役員選任に関する議案の内容として、当会社が提案する役員候補者は、取締役会により決定する。ただし、監査役である役員については、取締役会は、監査役の過半数の同意を得た上で監査役候補者を決定する。

3)第2項の取締役会の推薦を得ようとする者は、法令および定款に定める役員の要件を備えている者でなければならない。

第6条(就任の承諾)

株主総会において役員として選任され、かつ役員に就任することを承諾した者は、速やかに役員就任承諾書を会社に提出しなければならない。

第7条(役員の就任日)

役員の就任日は、役員就任承諾書を会社に提出した日とする。

第8条(役員の任期)

役員の任期は、取締役については、選任後2年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結のときまで、監査役については、選任後4年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結のときまでとする。

第3章 退任

第9条(役員の退任)

役員は、次の各号のいずれかに該当するときは退任となる。

  1. 任期満了
  2. 辞任
  3. 解任
  4. 定年
  5. 死亡
  6. 資格喪失

第10条(辞任)

1)役員を辞任する場合は、6カ月前までに会社に届け出なければならない。

2)役員を辞任する場合は、業務の引き継ぎを完了しなければならない。

第11条(解任等)

1)役員の解任は、株主総会の決議によって行う。

2)取締役会は、役員として適性を欠くと判断した場合には、当該役員に対して辞任勧告を行うことができる。

第12条(資格喪失)

役員に、会社法または定款に定める欠格事由が生じた場合には、その資格を喪失する。

第4章 定年

第13条(定年)

1)役員の定年は、原則として次に定める通りとする。

  1. 取締役会長:○歳
  2. 取締役社長:○歳
  3. 取締役副社長:○歳
  4. 専務取締役:○歳
  5. 常務取締役:○歳
  6. 取締役:○歳
  7. 監査役:○歳

2)任期中に第1項の定年年齢に達した場合には、任期満了日まで定年を延長するものとする。

第14条(退任後の処遇)

1)退任する役員が、在任中、特に会社に対して貢献がある場合、会社は当該役員に相談役を委嘱することができる。

2)相談役の委嘱は、取締役会決議によって決定する。

3)相談役の任期は1年とする。

第5章 執務条件

第15条(執務時間)

1)執務時間は、別途定める「就業規則」(省略)第○条~第○条の定めに準じる。

2)第1項に定める時間帯に職務を執行できない場合でも、業務に支障が生じないように配慮しなければならない。

第16条(休日・休暇)

1)休日・休暇は、別途定める「就業規則」(省略)第○条~第○条の定めに準じる。

2)休日・休暇の際には、常に会社と連絡を取れるように努めなければならない。

第17条(会社への届け出)

第15条第1項に定める時間帯に職務を執行できない場合、および休暇の取得に際しては、事前に会社に届け出なければならない。ただし、緊急時などやむを得ない場合は、事後の報告で足りるものとする。

第6章 責務

第18条(役員の責務)

役員は、職務執行に当たって、次の各号の事項を遵守しなければならない。

  1. 法令・定款・社内規程、株主総会の決議、取締役会の決議に従って職務を遂行すること
  2. コンプライアンスに対する高い意識を持って適正に職務を遂行すること
  3. 善良なる管理者としての注意義務を守り、忠実にその責務を果たすこと
  4. 所轄する部門や業務を統括し、他部門との連携・協調に努めること

第19条(取締役の責務)

取締役は、職務執行に当たって、次の各号の事項を遵守しなければならない。

  1. 取締役会に出席して、職務執行状況について報告すること
  2. 会社に著しい損害を及ぼす恐れのある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を監査役に報告すること
  3. その他、法令などで定められている事項を適切に遂行すること

第20条(監査役の責務)

監査役は、職務執行に当たって、次の各号の事項を遵守しなければならない。

  1. 取締役の職務執行を監査し、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成すること
  2. 取締役が不正の行為をし、もしくは当該行為をする恐れがあると認めるとき、または法令もしくは定款に違反する事実もしくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役会に報告すること
  3. 取締役会に出席し、必要があると認めるときは意見を述べること
  4. その他、法令などで定められている事項を適切に遂行すること

第21条(禁止および制限事項)

1)役員は、次の各号に定める事項をしてはならない。

  1. 職務上の地位を、手数料・リベートなどの収受のために利用すること
  2. 個人のために、会社の金品を使用したり、従業員を使用したりすること
  3. 会社の名誉や利益を毀損する行為をすること

2)取締役は、次の各号に定める事項に該当する場合は、取締役会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。

  1. 取締役が、自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき
  2. 取締役が、自己または第三者のために会社と取引をしようとするとき
  3. 会社が、取締役の債務を保証するとき
  4. その他取締役以外の者との間において、会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき

第22条(機密保持)

1)役員は、職務上知り得た会社の機密情報を、正当な理由なく社内外に漏洩してはならない。

2)第1項の規定は、役員退任後も遵守しなければならない。

第23条(賠償責任)

1)役員が、その任務を怠ったことによって会社に損害を与えた場合、会社に対して、その損害を賠償する責任を負う。

2)前項に定める責任は、役員退任後も免れない。

第7章 役員報酬および退職慰労金

第24条(役員報酬に関する事項)

1)役員報酬は、株主総会の決議で総額を決定し、具体的な配分は、取締役については取締役会、監査役については監査役の決議によって、それぞれ決定するものとする。

2)支給方法などは、別途定める「役員報酬規程」(省略)に定めるものとする。

第25条(役員退職慰労金に関する事項)

1)退任する役員に対しては、株主総会の決議により、役員退職慰労金を支給する。

2)支給方法などは、別途定める「役員退職慰労金規程」(省略)に定めるものとする。

第8章 雑則

第26条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

3 役員規程の作成で押さえておきたい会社法の事項(一部)

役員規程の作成で押さえておきたい会社法の事項(一部)は以下の通りです。あくまで主な事項と当該事項に関連する主な条文のみを紹介したものであって、これら以外にも多くの事項が会社法において定められています。また、定款の定めは、各社によって異なるため、役員規程作成の際は注意しましょう。

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以上(2024年2月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田賢生)

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