日本のスマートホーム市場を大きく変えたのは、行動力とやり切り力が他に類を見ない事業立ち上げの猛者。未来の暮らしを、ビジネスをつくり出す秘訣は「スピード感と常識破りと丁寧な進め方」/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、橘 嘉宏(たちばな よしひろ)さん(三菱地所株式会社 住宅業務企画部)です。

橘さんが今まさに力を入れているのは、総合スマートホームサービス「HOMETACT(ホームタクト)」です。2022年12月に東京ビッグサイトで開催された「スマートハウスEXPO」にもひときわ目立つブースで出展され、HOMETACTは大盛況、かなりの人だかりでした。
このHOMETACTがまずすごいのは、複数メーカーのサービスを横断していて、ユーザーが簡単に一元管理・操作できることです。日本国内でスマートホームは、ユーザー(消費者)側の関心は高いものの「複数の家電メーカーが関係していると、個々のアプリがいくつもバラバラにあって操作が面倒」などが障壁となり、なかなかうまくいっていませんでした。
 これを、橘さんは、「日本に前例がなければ米国から持ってくる」という圧倒的な行動力、行動量、巻き込み力、やり切り力で「徹底した複数メーカー横断一元管理」を実現しています。大企業にいながらベンチャー経営者のような動きでHOMETACTを実現してきて、さらにこれからも進化を加速させようとしている橘さん。
スマホ一つで家ナカを思い通りに設定でき(カーテン開閉、温度、照明、音楽など)、新しいライフスタイルを創造していくHOMETACTそのものが素晴らしいのはもちろん、そこにガッツリ心血を注いでいる橘さんの考え方、動き方、進め方も素晴らしく(お話お伺いしていて興奮の連続でした)、多くの経営者やビジネスパーソンにとってヒントになるのではないかと思います。37歳の橘さんがどのようにしてHOMETACTを実現してきたのか、その機能の裏にある思い、実現してきた道のりなどを伺いました。

1 「HOMETACT」便利さの原点は「徹底してユーザーの気持ちに寄り添う」

1)ユーザーの気持ちに徹底して寄り添う

ここで改めてお伝えしますと、「スマートホーム」とは住宅設備や家電などのIoT機器を、スマホアプリやスマートスピーカーと連携させた住宅のことです。ドアの施開錠、照明や空調のコントロールを遠隔で操作できるなど、暮らしをより快適にする住まいのかたちです。

 そして、こちら(下資料)が橘さんが実現しているスマートホームサービス「HOMETACT」です。特に動画を見ていただくとどのようなサービスか分かりやすいと思います。テクノロジーの力で毎日の生活が“簡単に”快適になる、理想の暮らしがそこにあります。

●HOMETACT

HOMETACTの画像です

(出所:HOMETACT ウェブサイトより)

●HOMETACTがある暮らし(動画)

(出所:HOMETACT限定公開資料より)

冒頭でもお伝えした通り、HOMETACTが従来のサービスと全く異なるのは、複数のメーカーのサービスを横断して一元管理できることです。徹底的にシンプルなデザインとユーザビリティにこだわっていて、エアコンも給湯も、ユーザーが触るスマホの画面上では「メーカーのロゴなどなく、機能も最低限なので、どこのメーカーか分からなくなっている」くらいです。橘さん曰く

「ユーザーから見ればどこのメーカーのエアコンか給湯かなんてどうでも良い。エアコンなら、暑いとき寒いときにつけられればよい、快適な温度にできればよいわけです」

まさに、ユーザーの気持ちはそうです。橘さんがHOMETACTで実現している徹底したユーザビリティ。次のような「スマートホームが普及しないマイナスの“あるある”」を橘さんは大きく変えました。

  • メーカーやプラットフォームが異なると、それぞれのアプリで操作しなければならず、面倒。ユーザーにとってハードルが高い
  • そもそもユーザーは初期設定でつまずく
  • 運よく設定できたとしても、使っているうちにトラブルが起き、問い合わせたくても、メールフォームやチャットしかなく、ユーザーが思った通りに解決できない

●HOMETACTのユーザーが触るスマホの画面:メーカーに関する表示は一切なし

HOMETACTスマホ画面の画像です

(出所:日本情報マート撮影)

2)「超簡単に使える」のは機能を絞っているから

機能を絞り込んでいるのもHOMETACTの大きな特徴です。「日本のサービスは、なんでもとてもよく作り込まれています。例えば100の機能を実装し、さらに操作も4階層、5階層と深くなる。ただユーザーからすると、実際に使う機能は、そのうち5つくらいですし、操作もせいぜい2階層くらいでないと使いにくい」と橘さん。その言葉通り、HOMETACTは機能を絞り込んでいてあれこれ操作しなくてもよく、とても簡単&便利です。

また、初期設定は訪問で行いますが、以降は基本的に遠隔でトラブルシュートを行える体制を整えています。そうしたユーザーサポートは大手サービサーとの協業で成り立っています。初期設定から保守運用まで、本当によく考えられているサービスだと改めて感じます。
さらに言うと、橘さんが、ひいては三菱地所が、本腰を入れてこの総合スマートホームサービスをさまざまなメーカーなど「やる気のある企業」と連携して広げていく、継続していくという総合デベロッパーとしての覚悟をも感じます。

3)HOMETACTで実現できる自由自在に快適な暮らし

HOMETACTの機能をもう少しお伝えしておきます。位置情報や時間、特定のデバイス動作をトリガーとして、複数のIoT機器を自動で動かすことができます。例えば「帰宅間近になると、部屋の明かりをつけ、エアコンを入れて、風呂を沸かしはじめる」「日没の2時間前から、照明を間接照明にする」といった使い方があります。

日の出や日没の時間で設定できると、季節に応じてカーテンが開いたり照明が点いたりする時間が変わるので、季節感まで自動的に感じることができるという、まさに色々な意味で「温度感のある家」。まるで、家全体が人のように自分たちに寄り添って生活してくれているようです。HOMETACTを体験すると家に対して、何か温かい気持ち、家や暮らしを大切にしようという気持ちが湧いてきます。HOMETACT Labs 赤坂(東京都)では、まさにこのHOMETACTを体験・体感できます。スマートホームのパートナー企業をご検討されている場合などは必見です。家や暮らしに対する価値観がきっと変わります。

●HOMETACTが体験・体感できるHOMETACT Labs 赤坂をご案内くださる橘さん

橘さんの画像です

(出所:日本情報マート撮影)

HOMETACTの「タクト」には、臨機応変、機転の効くといった意味が込められています。ユーザーのニーズによって臨機応変に機転が効いてくれる自由自在な家、そういう家に、「指揮して(タクトを振って)オーケストレーションしていく」という意味も、「タクト」にはあります。実にネーミングの通りのサービスだと思います!

HOMETACT資料の画像です

(出所:HOMETACT限定公開資料より)

20年以上にわたり、各社が競り合って、自社の規格としか互換性のない商品開発に励んできたスマートホームの日本市場。「メーカーによるユーザーの囲い込み、これが結局ユーザーのためになっていなかった」と橘さんは振り返ります。橘さんは、米国で当たり前に行われているメーカー間の連携を日本に持ち込み、かつ、日本の不動産管理習慣や商習慣に適したプラットフォームを実現しました。これは、本当に並々ならぬことです。日本のスマートホーム市場の進化を牽引していくサービスであると確信しました。
次章では、そんな橘さんのこれまでを振り返ってみます。

2 「猪突猛進」に事業を進め、やり切ってきている橘さん

1)20代で事業立ち上げを経験したことが原点

足かけ4年、HOMETACTを進めてきてリリースしさらに進化させようとしている橘さん(すごいスピード感です)。自社やグループ会社内で音頭を取る他、メーカー間を横断する協力体制をまとめ上げ、海外企業とも協業。HOMETACTを1つのサービスとしてユーザーに提供できるまでにしました。「ユーザーから見れば、サービスが一体的でとても簡単に使える」ようになっていればいるほど、その裏側の作り手には相当の汗、苦労、思いが込められているものだと心底実感します。

ここまでのものを実現してきた橘さんの行動力、やり切り力の源泉は、橘さんがこれまで携わってきた事業企画にありそうです。
橘さんは、2008年に三菱地所に入社。連結決算などの経理部業務を4年間経て、2012年から住宅開発分野へ異動し、マンションの分譲や販売、計画を行う三菱地所レジデンスに、約3年間勤務しました。そのときに1棟リノベーション事業を立ち上げたのだといいます。
橘さんは当時、「他の人と同じことをやっていることへ違和感があり、何か新しいことをやりたい」と考えていたそうで、ちょうどそのころ、東京都内で築15年ほどのマンションが1棟売りに出ていたといいます。

この築15年ほどのマンションについて、橘さんは「普通にやっても勝負にならないなと。平均200平米超えのマンションだったのですが、おそらくリノベーションして売ったほうが回転率も上がるし、かつ物件の付加価値もより上がるのではないかと考えました。そこで、200平米超えという、普通の新築だとありえない規格を活かした販売戦略が取れるのではないかと、1棟リノベーション事業を立ち上げました」と話します。そして、2年がかりで販売完了までに至ります。これが事業立ち上げの経験になっており、ここで自分は事業企画が好きなのだと実感したそうです。若い20代のうちに事業立ち上げを経験したのは、非常に大きかったのかもしれません。

2)30歳前後でグループ会社内の縦割りを打破する業務を担う

2016年から、橘さんが担ったのは住宅事業部門のバリューチェーン推進業務です。グループ会社連携はもちろん、DX機能の立ち上げや、新規事業の発掘を行っています。
「その中でも大きな転機になったのが、2016年から2018年の三菱地所グループCRMシステムとグループ顧客向けサイトの統合プロジェクト『三菱地所のレジデンスクラブ』PJです」と橘さん。

当時、三菱地所グループの住宅部門のCRMシステムは13個ほどあり、さらにグループ7社にまたがっているような状態でした。かつ会員組織もバラバラになっていたそうです。それらを1つに名寄せして統合し、データプラットフォームと顧客窓口を整備するというこのプロジェクト、お話をお伺いしているだけで、途方もない、調整が相当に大変そう、実現が無理なのではと思う内容です。
このプロジェクトのことを、橘さんは次のように振り返っています。実に苛烈で、強い信念を持たなければ進められない現場が目に浮かびます。

「このプロジェクトは、個人的にはすごく大きかったです。私が29歳とか30歳くらいのときだったのですが、グループ会社で対峙する人が、総勢30人くらいいました。そして、途中からは私が中心となって打ち合わせを進めなければならなくなりました。
最初は、私より年長のグループ会社の経営企画や情シスの部長・課長たちに気を使いながら進めていたのですが、途中から、強烈にリードしないと実現できないと感じるようになりました。
例えば各社の情報ポリシーもバラバラでしたし、まず個人情報の保護ポリシーをグループで統合する基本的なところから、システム設計をどうするか、名寄せのルールをどうするかなどなど。とにかくがむしゃらにやっていたら、私もきつく言わざるを得ない場面も出てきました。
結果的には、かなり強いリーダーシップで、最後の方には、もうやるのかやらないのか、30歳前後ぐらいの若造(自分)がげきを飛ばしながらやるような激しいプロジェクトになっていました。でも一方で協力者もちゃんと増えていったんです」

2018年の6月にリリースを迎えるまでに、グループ会社だけでなく、ベンダーの方々なども含めると、150名ほどは関わっていたプロジェクトだったといいます。150名! これはもう、いちプロジェクトのリーダーという域を超えた業務領域です。想像を絶します。この過程で経験したことがHOMETACTへも繋がっているといいます。

CRMの統合や会員組織の統合、立ち上げについて、橘さんは、「私たち不動産事業者には、デジタル接点をお客さまと作りたいという、強烈なニーズがあります。そこに対して、グループで最低限、統合してデータマーケティングの基盤を構築しないことにはその先はないだろうと、私なりにかなり危機感と問題意識を持って取り組んでいたプロジェクトでした」と続けます。
この危機感から橘さんがたどり着いたのがHOMETACTの原点「スマートロック」です。

「スマートロックをきちんと導入してシステム連携し、会員組織と結びつければ、1日2回は使われるはずだということに気付きました。そこで不動産会社が、デジタルで顧客との接点を作ろうと思ったときに、スマートロックを取り込まない手はないだろうと。その仮説のもと調査を始めたことが、HOMETACTへと繋がっていきました」。橘さんの成し遂げてきたこと、考え抜いて来たことが、今すべてHOMETACTにつながっているということがよく分かります。

3)CESで受けた衝撃。日本がIoTで遅れを取った理由

HOMETACTの実現には、橘さんの海外調査も大きく関わっています。橘さんは2019年ごろからスマートホーム先進国のアメリカでの調査を重ね、どんなIoT機器がありどのように使われているのか、どのようなサービスが提供されているのかなど徹底的に調査を続けました。

2020年1月にはラスベガスで行われるハイテク技術見本市「CES」に参加した橘さん。そこでCESの実態に驚きます。CESは、他国のメーカーにとって単なる展示会ではなく、実はホテルのVIPルームで商談が行われる場でした。「展示会を見て喜んでいるのは日本人だけ。日本で報道されていることはほんの表層にすぎない」と危機感を抱いた橘さん。自身も展示会へ参加しつつ、あとは商談で具体的な話をするという“本来のCES”を体験して「この市場の動きは日本も目指すべきところだ」と確信したといいます。

またのちにパートナーとなる、クラウドによるIoT機器のAPI連携プラットフォームを提供している米国のYONOMI,Inc.(以下「YONOMI」)と連携することで合意に至ったのもこのタイミングでした。YONOMIとは、2020年、コロナ禍前に「日本で実証実験を行う」話をしており、それも大きなターニングポイントになったそうです。
橘さんはこのYONOMIの機能を活かし、かつ日本の不動産実務にフィットさせたプラットフォームを開発します。プラットフォームをそのまま海外から持ってこようとしていた時期もあったそうですが、日本の不動産の管理慣習にフィットしたシステムなど欧米にありません。議論や調査の末、日本にフィットしたものを自分たちで作らなければならないという結論に至り、HOMETACTおよびTACTCORE(アプリ、管理ポータルや機器連携を実現させるプラットフォームシステム)を開発したのだそうです。
外(海外)へ出て、外から新しいものを持ってくる。そして日本に合うようにつくる。これをやり切った橘さんです。橘さんでなければできなかったと思います。

帰国後の2020年の5月から、プロトタイプの開発を始め、わずか約1年半後にはHOMETACTのプレスリリースを出すに至りました。以来、機能改善などを重ねており、HOMETACTを導入した自社グループ物件は4物件。今後も賃貸・分譲マンションや注文戸建、リフォームなど導入を加速していきます。
2022年7月に経営会議に付議し事業化承認を経て、ようやく本格的に事業化。わずか4年でここまでたどり着いたというスピード感!そして事業化承認と併せて、HOMETACTの外部提供も開始。本格的なSaaS(System as a Service)外販をスタートさせています。

「普通なら、4年もあれば、その間に異動してしまう可能性もあると思います。だから私はすごくラッキーでした。ここまでやり切らせてもらえましたから。ただ、システム開発1つをとっても2年以上はかかっていますから、時間のかかるプロジェクトを、いかにスピード感を持って進めるのか。そこは大切にしてきました。1〜2年でできるDXや新事業なんてそうありませんから。HOMETACTはまさに不動産会社である三菱地所が始めた、ソフトウェアサービス。DXの『X』はTransformation(変態、変身)であることをみな忘れがちですが(デジタル化のことではないのです)、個人的には『これぞDX!』と胸を張れるPJです」

と言う橘さん。この点は規模や業種にかかわらず、全ての企業が参考にしたいところかもしれません。

3 社内外を巻き込み続けてきた秘訣

橘さんがこれだけの大きなプロジェクトを進めるには社内もグループ会社も、そして他社(ベンダーやメーカーなど)も、色々と巻き込まなければなりません。橘さんのお話を伺っていると、秘訣としては「腰を据えて取り組むことができた」「全体最適の丁寧なコミュニケーションを実践した」といったことが伺えます。

1)腰を据えた取り組み

橘さんは住宅業務企画部に8年在籍しているそうです。これは、通常3〜4年で異動する大企業では珍しいことです。橘さんはこのことについて「中長期的なキャリアを築けたのは幸せなこと。DXや新事業をやり遂げるためには、腰を据えて取り組ませてもらえる環境も、重要な要素だと思う」と話しています。このことも、新規事業に取り組む全ての企業にとって大切なヒントになるのではないでしょうか。
同時に、「部下(自分)の裁量をどんどん大きくして成長させてくれた上司との出会いもとても大きかった」と振り返る橘さん。「信頼する上司と8年間一緒に様々なPJを推進してくることができたのは、大企業では滅多にないことだとおもいます」。この上司と橘さんのコンビが最強だったようです。部下のほうから「人を成長させてくれることに長けた素晴らしい上司」と言われるほどの上司はなかなかいないでしょう。本当に素晴らしい上司、そして受け止めて成長した橘さんも素晴らしいのだと思います。

2)「全体最適」の丁寧なコミュニケーション

グループ会社内を横断することが一筋縄ではいかないのは想像に難くありません。むしろ大変さしか思い浮かびません。どのように進めていったのかをお聞きすると、橘さんは、自分1人の力では難しかった点も多いと前置きしつつ、次のように話してくれました。

「グループ会社との難しい交渉は、例えばその会社のポリシーとの戦いのようなものです。そうなると、役員クラスの方々の巻き込み方が大事になってきます。そうしたときに、私の上司は社内調整が非常に丁寧で、きちんと双方の落としどころを探りながら会話をしつつ、グループ全体としての目線を持った落としどころに着地させていました」
「その上司と私がよく話すのが“全体最適”と“部分最適”についてです。私たちは、全体最適の観点を常に重視しています。グループ会社を束ねる立場なので、短期的にはグループ各社の思いや利益はあるとしても、必ず“全体最適”の概念を持たせる。もしくは“全体最適”の概念を持っている社員を1人でも多く増やす。そのことに、私たちはこの8年間、一緒に取り組んできたと思っています。かなり地道なコミュニケーションに尽きるのですが、そうした啓蒙活動や社員の巻き込み。今振り返ると、これを非常に丁寧にやってきたと思います」

「全体最適の丁寧なコミュニケーション」。言うは易しですが、これは非常に難しいことだと思います。橘さんは、「全体最適」を見つつ、「全体最適だからと妥協せず、丁寧にやるべきことを実現してきた」感じで、地道に丁寧に、でもスピード感も忘れずに進めてきた。うまく表しきれませんが、地に足のついた、地面をコツコツと耕し続けるような力強さと大きな器、他にあまり類を見ない凄みを感じます。

4 目指すのはスマートホームサービスのインフラを担えるポジション

さて、こうしてHOMETACTを実現してきた橘さん。ポイントは色々とありますが、特に下記の両方のアプローチを大事にすることが、今回のプロジェクトで重要だったと振り返ります。

  • システム開発のような最短距離を駆け抜けるときには、今までの常識にない動きをしつつ
  • スケールアップさせるときには、丁寧に進めていく

 最後に、これからのことを橘さんにお伺いすると、次のようなことをお話しいただきました。

「賃貸管理のデジタル化を、スマートロックとの連携によって実現していきたいと考えています。それが両方機能するようになれば、HOMETACTは賃貸市場によりアプローチしやすくなります」
「日本における、スマートホームの主な使われ方でもあるのですが、エネルギーの可視化ソリューションとしての側面が大切です」

そして特に力強い覚悟を感じたのが今後についての次の言葉です。

日本はスマートホームサービスのプラットフォーマーが不在です。ですから、私たちが新しい生活インフラを担うという覚悟を以て、プラットフォーマーのポジショニングを目指しています

こうしたHOMETACTとは、さまざまな企業や機関が連携したいと考えるのではないでしょうか。地場のハウスメーカー、デベロッパー、マンションメーカー、家電メーカーなどなど。その他にも、生活インフラとなる企業(インターネットプロバイダー、電力やガスなどエネルギー系)、地元の金融機関なども考えられるかもしれません。人々の暮らしという面でも、ビジネスの面でも大きな大きな可能性を感じるHOMETACTです。
今では、三菱地所は、LIXIL、mui Labとスマートホーム事業領域での提携に向けた基本合意書を交わし、HOMETACTアプリでの使用エネルギーの見える化や省エネの推進などによる脱炭素社会への貢献も目指しています(2022年11月30日プレスリリース)。進化が止まりません。

そして橘さん、37歳。ここまでのことをやり遂げてきた方、とても文章で表しきれないくらい、ちょっと凄すぎる方です。しかも明るくて楽しくてサービス精神も旺盛! こういう方がいてくださるなら、未来は大丈夫と思えます。これからも橘さんのつくる未来に大いに期待します! 有り難うございます。

以上(2023年2月作成)

第28回 ベイシス株式会社 代表取締役社長 吉村公孝氏/森若幸次郎(John Kojiro Moriwaka)氏によるイノベーションフィロソフィー

第28回に登場いただきますのは、ベイシス株式会社代表の吉村公孝氏です。

モバイルやIoTの領域でインフラテック事業を展開するベイシス株式会社。2000年、吉村氏がたった一人で広島県で創業し、2021年にはマザーズ(現グロース市場)上場を果たしました。地方発のスタートアップから上場企業へ。成長を成し遂げてきた吉村氏が語る「イノベーションの哲学」とは?(以下インタビューでは「吉村」)。

1 「『この人だったら次もサシで飲みに行けるな』と思える人は、そんなに大きく価値観がずれていないですね」(吉村)

John

吉村さん、上場されてから、より一層お忙しい日々だと思います。そんな中お時間をいただき、本当にありがとうございます! いろいろとお話を伺えればと思います。

最初に、創業からこれまで、21年間の変化について聞かせて頂ければと思います。特に何が大きく変わったと感じていらっしゃいますか?

吉村:

そうですね、採用の質は変わってきていると思います。
また、会社の成長とともに、経営者としてのレベルも上がってきていると思いますし、スキルも身についた実感があります。
創業当初は社長といえど、営業や人事など一人で何役もこなしていました。今は組織を作り、仕組みで企業を成長させていけるようになりました。どんなに頑張っても、一馬力の力は限られています。チームで成果を出せるようにならないとスケールしませんよね。

John

良いチームはどのように作っていくのでしょうか? 失敗やそこからの気づきも含めて教えてください。

吉村:

まずメンバー集めでいうと、学歴や職歴、スキルがピカピカの人を採用しても会社のカルチャーに合わなかったり、経営陣と相性が悪かったりと、長続きしなかったんです。長続きしないだけならまだしも、そういう人が入るとカルチャーを壊すこともあります。カルチャーマッチが大事だと思いましたね。

John

条件だけでは、その人との相性は分からないということですね。会社にフィットするかを見極める、吉村社長流のテクニックはありますか?

吉村:

私流とまでは言えないですけど(笑)、カルチャーを価値観や、行動指針として明文化しています。具体的には、Challenge、Pride、Enjoyの3つですね。採用時には、これらに紐づけた質問をして、その人の価値観を理解しようとしています。例えば、「過去にどんな挑戦をしてきたのか?」「チームで何かやり遂げた経験は?」「どんな役割でチームに貢献したのか?」などです。

それから、上層部の採用時は一緒にお酒を飲みに行きます。一次面接でスキルなどを見極めたら、二次面接のアポで飲みに誘います。当日は夕方に1時間ほどオフィスで話したら、飲みに行ってお互いを知るようにしています。

John

どのように誘うのですか? 相手も緊張するのではないかと…(笑)

吉村:

フランクに行きますよ。「お互い会議室だとカッコつけちゃうから、場所を変えて話しましょう」と言います。お酒の席でも自分を繕う人はいますが、嫌な感じは分かるものなんです。そこは自分の直感を信じています。「この人だったら次もサシで飲みに行けるな」と思える人は、それほど大きく価値観がずれていないですね。

John

シリコンバレーの著名な投資家の方々も、誰に投資するかを決めるとき、土曜日の夜10時に「飲みに行こうぜ」と言われて行ける人と一緒にやりたいと言っていましたね。もう寝ようとパジャマを着ていても、楽しそうだと思って飲みに行ける方がいいと。価値観が近くないと会いたいと思えないでしょうし、それは大事ですね。

吉村さんは、価値観とはどのように形成されるとお考えですか? チャレンジの回数や経験でしょうか?

吉村:

どう形成されているのかは分からないですが…その人の持って生まれた性格もあるでしょうし、後天的なものもありますよね。ただその中でもいくつか、大切な価値観があると感じています。例えば、素直であること、利他的であること。そういった人たちとチームを作りたいですね。

2 「外部人材を多く採ろうというよりは、内部で育てようというところがあります」(吉村)

John

改めて、ベイシスの事業内容を教えていただけますか?

吉村:

今は、簡単に言うと、通信のインフラやネットワークを作ったり、運用を請け負ったりする事業を手がけています。例えば、モバイル分野だと、5Gの通信環境や、キャリアの電波が入りやすい環境づくりをしていますね。工事もしますが、注力しているのは環境を作った後の運用です。国内だけでも、1キャリアで数十万の拠点があります。その拠点に安定して電波が入るよう、ネットワークにアクセスし、安定運用できるようにしています。

それからIoT分野。こちらはリモートモニタリングに特化し、インフラネットワークを作っています。例えば電力会社の電気メーター、ガスメーターの遠隔監視です。以前はメーターをチェックするために、検針員が現場に行って目視で確認していました。それをスマートメーターに変更することで、遠隔でチェックしたり、料金の支払いがなければ電気やガスを止めたりできるようにしています。

他にも、小売店にネットワークカメラを設置して動画データを撮り、顧客導線を分析しています。これは、陳列棚の配置を変えて売り上げアップにつなげる取り組みなどに活用しています。また、河川の推移を遠隔で測定するセンサーを取り付けて水害防止につなげるなど、様々な取り組みをしています。

John

企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)にも関連してきますね。

吉村:

通信インフラを作ることが、そのままDX事業になるわけではありませんが、関係する部分もあります。通信インフラ業界は長い間、労働集約型の事業をしてきました。そこにITを取り入れることで自動化を進めるなど、業界のDXを後押ししています。ITによって少人数でもパフォーマンスを発揮できることが、競合に対する私たちの優位性でもあります。

John

どのような人材、チームなのですか?

吉村:

経営陣で言うと、一人は十数年前に中途で入り、管理部門のトップになっています。また別の人は新卒一期生で、たたき上げで役員になりました。数年前に買収した事業の管理者をしていて、そこから生え抜きで役員になった者もいます。いろいろな背景を持ったチームです。

John

どのような能力を重視して役員を選びましたか?

吉村:

事業部門を見ている責任者は、目標を達成する能力が優れていると感じます。管理部門はまた違う資質が必要ですが、数字を追っていないとしても成果が重要であることは変わりませんね。上場準備や資金繰りができているかなど、成果が見えますから。役員には、成果を上げる能力が求められると思います。

John

成果を重視する場合、これまで成果を上げてきた人を役員にする事例もあると思いますが、吉村さんは経験のない若いチームで上場しましたよね。それはなぜでしょうか?

吉村:

企業カルチャーかもしれませんね。一言で言うと、仲間を大切にするカルチャーがあります。成果は求めますが、成果が出ないからといって、外から新しい人を入れて交代させようとはならないです。野球に例えるならば、ジャイアンツではなく広島カープ。外部人材を多く採ろうというよりは、内部で育てようというところがあります。

John

ご出身が広島ですもんね。地方を拠点に、戦って伸びていくという姿勢は、重なるものがありますね。

3 「業界の多重下請け構造の末端からスタートしました」(吉村)

John

創業当初から、ベイシスは今のような事業に取り組んでいたのでしょうか?

吉村:

そうですね。私は理系大学を卒業して、通信・電力会社向けのインフラを作っている会社に就職し、技術を学びました。1995年、windows95が発売されて、携帯電話が普及し始めた頃のことです。これは将来性がありそうだなと感じて独立し、最初はフリーランスのエンジニアとして活動しました。

John

どのような経緯でフリーランスから法人化したのですか?

吉村:

最初から会社を作りたいという想いがあったんです。フリーランスになったのも、会社員よりも資金を貯めやすいという理由からでした。資金を貯めながら、携帯電話業界の人との繋がりを築いていき、3年程度かけて実績を作り、法人化しました。

最初は、工事が終わった後のアンテナと携帯機器のセットアップなど、一人でできるような案件を請け負っていました。大手メーカーが発注する事業、その下請けの下請けの下請けのような状態ですね。業界の多重下請け構造の末端からスタートしました。

John

そこから上場に至るまで、どのように成長されていったのですか?

吉村:

とにかく実績を出すしかありません。構造的に大手が挟まっているだけで、実働は私たちが担当していました。お客さまもそれが分かっているので、段々と間に企業を挟まず、私たちと直接取引してくださるようになりました。業界の中で評価されることで成長することができました。

John

多重下請け構造は他の業界でもある商習慣ですね。

吉村:

そうですね。私は多重下請け構造に違和感を覚えています。構造の末端出身なので、末端の企業の辛さが分かります。実際に手を動かしているのは自分たちでも、管理会社に中抜きされてしまい、価格は安くなってしまうんです。

だから私たちは、管理会社が入っていたところにITを導入して、自動で管理できるようにしてきました。それによって、末端の会社と当社が直接取り引きが可能となり、更にITにより生産性を劇的に高めることができました。古いやり方を変えながら、業界の生産性を高めていきたいと考えています。

加えて、私たちがパートナーシップを結ぶ企業は、再委託しない企業。自分たちで手を動かす企業としか仕事をしないようにしています。パートナー企業には、私らが開発したクラウドシステムを全部無料で使ってもらっていますね。その方が業界全体がよくなると思いますから。

4 「当たり前を信じない、疑うことが一つのポイントだと考えています」(吉村)

John

将来についてもお聞かせください。いつ頃まで社長を続けたいと思っていますか?

吉村:

私は今49歳で、もうすぐ50歳になります。ちょうどいつまでやろうかと考える時期ですね。今のところは、60歳が区切りかなと思っています。

人生100年時代とは言いますが、歳をとるとやはり若い頃とはパフォーマンスが違いますし、考え方もかたくなる部分があります。60歳を目処に社長は新しい人に任せて、サポート役に回るほうがよいと思っています。後進を育成しながら、エンジェル投資家やアドバイザーとしての活動が増えていくのかなと。

John

吉村さんのSNSを拝見すると、トークイベントや起業家育成、地元に関する投稿も多いですよね。後進の指導や育成にも取り組まれていますか?

吉村:

やろうと思っていますね。私自身、広島出身で創業も広島ですし、広島を中心に地域の起業家を生み出し、育てる活動には積極的に参加しています。ここ数年では、実際にエンジェル投資家のような形でベンチャーに出資し、メンターをする取り組みも始めました。

John

上場した社長自らが地元に還元される、素晴らしいスタートアップエコシステムが広島に出来ると良いですね。

吉村:

そう思います。東京では上場している企業に多く出会いますが、地方だと上場は遠い世界だと思っている企業が多いです。実際ここ20年くらいの間、中国・四国地方で上場した企業はほとんどありません。まだ当たり前じゃないんですよね。広島で創業し上場までこぎつけた経験を広めていくことで視座を高め、地方でも上場できると伝えたいですし、結果として地域起業家が育ち、産業が生まれていくような活動をしたいと考えています。

John

地方の企業を応援する時、大事にしているメッセージはありますか?

吉村:

「地方で創業した人あるある」は、視座が低く、視野が狭いこと。広島やその近辺、地元しかマーケットとして見ていないんですよね。それでは事業がスケールしません。だから私は、ニッチでもいいから世界、せめて日本中で使ってもらえるサービスを作ろうよと伝えています。

John

先ほどの野球に例えるなら、プロに行けるのになぜか草野球を極めようとしているみたいな。

吉村:

そうです(笑)。ロールモデルがいないので、物事を小さく見てしまうんですよね。私も最初の2、3年は広島だけを見ていましたから。

John

最初から全国を見ていると、マーケットもメンバーもお客様も、パートナーも変わってきますよね。成長スピードが違うと思います。上場している先輩が身近にいることで、「自分にもできるんじゃないか」と思える人が増えるのではないでしょうか。
参考までに、上場後のメリット・デメリットも教えてください。

吉村:

デメリットは、今は感じていないですね。インターネットで批判されて凹むくらいでしょうか。メリットとしては、企業としての信用度が上がりました。それによって大手企業にアプローチしやすくなりました。本当のところお客様がどう感じているかはわかりませんが、初対面の方に「上場されているんですね」と言われることが増えたので、上場企業かどうかは重視されているのだなと感じます。

John

メリットを多く感じていらっしゃるのですね。本当に上場おめでとうございます。続いて、社長として21年間やってこられた、事業へのこだわりも聞かせてください。

吉村:

私たちの事業は、裏方の地味な仕事ではあります。私自身、キラキラしたかっこいい事業をやりたいと思ったこともある(笑)。でも、生活の中の「当たり前」である通信環境を、20年以上守り続けてきた自負があるんです。

例えばこの先5〜10年で、5GやIoTがますます広がっていくはずです。それを広げるためのインフラをいまベイシスが作っています。私たちが作ったインフラを使って、新たなアプリやSNSなど多くのサービスが生まれ、人々の生活が豊かになっていく。「未来の当たり前」を支えるものを作っているのです。だから地味かもしれないけれど、価値のあることをやっているんだと伝えていきたいと考えています。

John

私はずっと、「イノベーションは未来の当たり前を作ること」だと思っているのですが、ベイシスの事業はまさにそれですね。

今、世界はバブルが崩壊して、VUCAと呼ばれる時代になっています。アメリカはインフレが続き経済が伸びている一方で、日本はデフレで伸び悩んでいる。その中で、ベイシスは業績を伸ばしてきました。吉村さんは「伸びる事業」をどうやって見つけてきたのでしょうか?

吉村:

特別なことではないのですが、「どこのマーケットを狙うのか」「自社の培ったノウハウ・強みが活かせるか」が重要だと考えています。失敗したときは、このどちらかが抜け落ちていました。逆にこの2つがマッチしていれば、ほぼ外さないですね。

例えば私たちがIoT分野に軸足を移したのは2015年ごろでしたが、その頃は早すぎて市場がまだ無く、うまくいかなかったのです。数年前にIoTが伸びそうだと感じ、培った通信ノウハウを生かして参入したところ当たりました。

John

マーケット選定のポイントは何を意識されてますか?

吉村:

市場規模が大きい、伸びそうなところ、もしくは競合が弱いところですね。競合が弱ければ、市場規模が小さくても一気に市場全体を取ることができます。逆に競合が強い場合は、自社の強みが必要です。私たちもサービスにITを入れたことで差別化できました。

John

読者の中には、差別化できる強みをどう作るかについて、悩んでいる方もいらっしゃると思います。強みを作る上でのポイントはありますか?

吉村:

私たちの場合は、労働集約で人手がかかるというビジネスモデルと、お客様は安く品質の良いものを求めているということが分かっていました。お客様に喜んでいただくために、そこに何の要素を付け加えればよいかを考えたとき、ITしかないと早い段階で気づきました。

もちろんITだけが答えではありませんが、ITの活用はわかりやすいし、外れにくい。テクノロジーを使ってビジネスモデルをどう変えていけるのか、それを考えられるかどうかで明暗が分かれると思いますね。

John

吉村さんのように、経営者は常に最新のテクノロジーについて学び、自社に活かせるものはないのかアンテナを張っておかなければなりませんね。次に、上場を目指す起業家、若者に向けて、ぜひメッセージをお願いします。

吉村:

偉そうに言える立場でもないですし、僭越ですが…。私が創業したときは、決して高い志があったわけではありませんでした。お金持ちになりたい、周りからすごいと言われたいというくらいの気持ちだったんです。業界を変えたい、良くしたいと思うようになったのは、起業した後でした。

最初はお金を稼ぐことに必死でしたが、稼げるようになるとだんだんモチベーションが上がらなくなります。「結局、何で起業したんだっけ?」と考えるようになり、使命感が芽生えました。

ですので、最初から高い志がなくても良いと思うのです。それでも起業というチャレンジをするのであれば、いつかは社会を良くしたいと思って欲しい。使命感や意義を見出して、社会のためになる起業家になって欲しいと思っています。

John

吉村さん、ありがとうございます。まだまだお聞きしたいことはあるのですが、あっという間に時間が過ぎていきますね。最後の質問になります。吉村さんにとっての「イノベーションの哲学」を教えてください。

吉村:

「当たり前を信じない」ことです。もちろんベイシスにはベイシスの、業界には業界の当たり前があります。でも、それは変わっていくもの。当たり前を信じない、疑うことが一つのポイントだと考えています。

John

なるほど、だからこそ「未来の当たり前」を作ることができるのですね。今までの当たり前を鵜呑みにするだけでは、お客様は満足し続けてくれません。未来の当たり前を作り続ける存在として、今後もかっこいい吉村先輩から色々と学ばせていただけると嬉しいです。本日は吉村さん、ありがとうございました!

吉村さんのイノベーションの哲学を示した画像です

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2023年1月11日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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テレワークのニューノーマル化

コロナ禍3年目にして初めて、行動制限がない年初となりました。一方で、いまだ続く新型コロナウイルス感染症の影響を考慮して、アフターコロナにおける新しい仕事のスタイルを見据え検討を進めなければなりません。
そのなかでテレワークは、コロナ禍の当初からオフィスへの出社からの切り替えが検討され、「ニューノーマル(新しい常態)」として、確立させようと各企業が努力を重ねてきました。
本稿では、「テレワークという新しい常態」の現状と課題を紹介し、今後どのような取り組みが必要なのかを考えていきます。

1 テレワークの現状

クラウドサービスを提供する企業の調査によると、週に3日以上のテレワークを実施していると回答した人は全体の28%で、「以前はテレワークしていたが今はしていない」と回答した人は全体の17%となりました。また、「テレワークをしている」と回答した方に対する「テレワークに不満がありますか?」との問いには、66%が何らかの「不満がある」と回答しました。

テレワークの実態調査

((株)ソウルウェア「アフターコロナにおける働き方実態調査2022年版」)

2 テレワークの不満や課題の内容

テレワーク自体への慣れからか、精神的な要因(「やりがいを感じづらい」「孤独を感じる」)より、次のように自宅で業務を行う環境に関連する不満や課題が目立つようになっています。テレワークが定着している方にとっては、オフィスと同様に働ける環境を求める声が多くなっていることが窺える結果と言えます。

テレワークの不満や課題

((株)ソウルウェア「アフターコロナにおける働き方実態調査2022年版」)

主な不満や課題の一つである、テレワーク下でのITツール利用で課題を感じる業務を複数回答可で聞いた結果としては「社内外での書類のやりとり」「交通費や経費の精算」「勤怠管理」などがあげられています。

3 さいごに

前述の通り、これからテレワークを「ニューノーマル」として定着させるためには、オフィス出社と変わらない「職場環境づくり」が大切になります。当然ながらオフィスは働くための場所として長らく整備されてきており、それに勝る環境を作ることは困難と言えます。しかしながら、日進月歩で進化する労務周りのシステムの導入や抜本的な業務(分担)の見直し、通勤手当・在宅勤務手当の整理などを行えば、自宅勤務だとしても変えられる職場環境もあるのではないでしょうか。

本内容は、あくまで複数社の調査結果となります。それでは、自社における問題点は何か、それをまず把握をすること。そしてその問題点に対応するためには何をすれば良いのかといったことに真剣に向き合うことが「テレワークのニューノーマル化」に必要なことと言えるでしょう。

※本内容は2023年1月11日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

「脱炭素」は中小企業にとっても“待ったなし” 脱炭素の基礎知識と簡単にスタートできる「CO2排出量簡易算出サービス」をご紹介します

「脱炭素」とは、

地球温暖化に影響を及ぼす二酸化炭素(CO2)などの「温室効果ガス」の排出量を、実質ゼロにすること

を言います。「実質ゼロ」は、分かりやすく言うと、温室効果ガスを「排出量−吸収量(植林や森林管理などによって吸収する量)」で差し引きゼロにするという意味です。
地球温暖化を止めるために、世界の多くの国が2050年には脱炭素を実現すると宣言しており、日本もその国のひとつです。もはや企業規模や業種に関係なく、脱炭素に取り組むことが、企業としてこの先生き残れるかどうかにつながると言っても過言ではありません。

この記事では、脱炭素について、下記をご紹介していきます。

  • 世界、そして日本が脱炭素に取り組むようになった流れ
  • 日本国内の中小企業にも求められる脱炭素への取り組み
  • りそな総合研究所が提供する「中小企業が第一歩として取り組みやすい方法」(CO2排出量簡易算出サービス。簡単、しかも「りそな総合研究所の会員」なら算出無料! また、りそなグループ各銀行の営業店においても、本サービスを利用して、お取引先のCO2排出量<概算値>を無償算出中!)

この記事を読めば、おそらく、

ニュースや会話でよく聞く「脱炭素」の基礎的なことがざっくりと分かる
コスト的にも労力的にも易しく簡単にスタートできる方法があると分かる

のではないかと思います。
「うちの会社は関係ない」「何からやればいいの?」「コストも労力もかかる。そんな余裕はない」と考えている経営者の皆さまは一度、この記事をお読みいただければ幸いです。脱炭素の入口は意外と身近にあるかもしれません。中小企業にも関係アリです。まずは、「できること」からスタートしてみることをご提案します。

●りそな総合研究所「CO2排出量簡易算出サービス」はこちら

1 世界、そして日本が脱炭素に取り組むようになった流れ

1)脱炭素はそもそもどこから?

脱炭素(同じような意味で「カーボンニュートラル」とも呼ばれる)が世界的な取り組みとして本格的に進められるようになったのは、2015年にフランス・パリで開催されたCOP21(第21回国連気候変動枠組条約締約国会議)がきっかけです。COP21には、196カ国・地域が参加し、

世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする

という目標を掲げたパリ協定が採択されました。

パリ協定の目標を達成するために、2018年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)がまとめたのが「1.5℃特別報告書」です。
この報告書では、世界の平均気温が1.5℃上昇した場合の気候の変化、生態系や経済システムへの影響やリスクについて、「CO2の排出量を2030年までに2010年比で45%削減、2050年には実質ゼロにする必要がある」と警鐘を鳴らしました。
パリ協定の目標を達成するためにも、世界の多くの国はこの報告書に従って、2050年までに脱炭素を実現すると宣言しています(125カ国・1地域/2021年4月現在)。

2)脱炭素とSDGsの関係は?

脱炭素の取り組みは、SDGsを実現するためにも欠かせないものとなっています。SDGsは、国連が定めた「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」のことで、17のゴールと169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。
SDGsの目標には、「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「13.気候変動に具体的な対策を」など、脱炭素社会の実現を目指すことを目標にしているものもあります。

3)日本国内の中小企業への影響は?

脱炭素を達成するために、国連などの国際機関や政府だけでなく、国際的な金融機関やシンクタンク、NGOなどによって、さまざまな国際的な枠組みが作られました。
 グローバル企業は、気候変動に敏感な国際金融機関やシンクタンクなど、海外の取引先から脱炭素の取り組みを具体的に求められるようになり、自社だけでなくサプライチェーン全体にわたった取り組みを強化するようになりました。例えば、トヨタ自動車は2015年に「トヨタ環境チャレンジ2050」を掲げ、自社のみならず直接取引を行う部品メーカーに対してCO2排出量削減を要請しています。つまり、トヨタ自動車のような、

グローバル企業・大企業のサプライチェーンに残るためにも、日本国内の中小企業は脱炭素に取り組まなければならなくなった

と言えます。中小企業を取り巻く環境については、次章でもう少しご紹介します。

脱炭素に関する用語集はこちら

2 日本国内の中小企業にも求められる脱炭素への取り組み

日本国内の中小企業には、脱炭素について、次のような点が関係してきます。

  • 2020年に菅義偉総理大臣(当時)が、国内の温室効果ガスの排出を2050年までに「実質ゼロ」とする方針を国際公約として宣言した
  • 2021年6月には改正地球温暖化対策推進法が公布され、自治体や企業の取り組みを開示したり、事業所ごとの温室効果ガスの削減量を公開したりする方針が示された
  • グローバル企業・大企業は脱炭素経営を実践しており、中小企業を含めたサプライチェーン全体にCO2の見える化や削減などを要請している
  • 多くの金融機関も中小企業による脱炭素の取り組みを支援するために、「サステナビリティ・リンク・ローン」(CO2削減など目標を達成すると金利が下がる融資)や、CO2排出量の算出サービスなどを提供し始めている
  • その他、脱炭素社会の実現に向けたさまざまな支援制度も実施されている

特に気になるのは、サプライチェーンのところです。グローバル企業・大企業の中には、脱炭素に取り組んでいない中小企業と取引をしたがらないところも出てきています。こうした状況は今後、ますます加速するでしょう。これは中小企業にとって脅威です。
ただ、逆に、チャンスでもあります。今のうちに脱炭素に取り組み始めていれば、「脱炭素に取り組む中小企業と取引したいグローバル企業・大企業」などが、新規取引先になるかもしれないからです。そう考える中小企業も増えてきているようです。
ここで中小企業にとってハードルになりやすいのは、「脱炭素、やらなきゃいけないのは分かってるけどコストも労力も大変そう」という認識です。そんなことはありません。

まずはできること、「自分たちの事業所のCO2排出量を算出する、見える化する」ところから、です。しかも、簡単に実践できる方法があります。

次章で、その「簡単にCO2排出量を算出できるサービス」をご紹介します。りそな総合研究所がご提供するものです。実際にこのサービスを使った企業の多くの方は、次のようにおっしゃっているそうです。

「具体的に数字(排出量)が分かると、新聞やテレビで言っている脱炭素が身近になり、実感できてきた」
「正直、今までほとんど脱炭素とかに関心がなかったが、実際の数字(排出量)を見たら関心を持つようになり、気にするようになった」

とても簡単ですので、一度試してみてはいかがでしょうか。詳しくは次章をお読みください。

3 水道光熱費の入力だけで算出!? 「CO2排出量簡易算出サービス」

1)簡単なので、まずはやってみよう。考えられるさまざまな活用シーン

りそな総合研究所では、環境コンサルティングサービスを展開する株式会社ウェイストボックス(愛知県名古屋市)と提携し、会員向けに、

CO2排出量を無料で試算する「CO2排出量簡易算出サービス」

を始めました。
りそな総合研究所「CO2排出量簡易算出サービス」はこちら

これはまさに脱炭素の第一歩、「まずは簡単にできる方法で数字(排出量)を知ってみよう」という位置付けのサービスです。そのため、国際的に認められている算出方法ではありませんが、

専用フォームに1年間の水道光熱費を入力するだけで、無料で手軽にCO2排出量の概算をざっくり算出することができます。

「1年間の水道光熱費を入力するだけ」というのは実に手軽です。加えて、事業所の敷地面積など他にも情報を追加入力していくと、算出されるCO2排出量は、より正確な数字に近づいていきます。実際に、

「本格的にCO2排出量を算出しようとするとコストも労力も時間もかかるが、水道光熱費を入れるだけだったらやってみるか」

と考えて申し込む方も多いようです。
 そうして考えると、意外と、次のような活用シーンも浮かんできます。

  • 経営者が、忙しい総務部長などに対して「簡単だからやってみよう」と提案
  • 逆に社員のほうから忙しい経営者に対して「簡単なのでやってみましょう」と進言
  • 二代目、三代目経営者などが、会社を継いだタイミングで「これまでと何か違う一歩を踏み出してみよう」と実践
  • 新しい年、年度の初めなど「きりのいい」タイミングで、経営者が社員に「今年(今年度)は、我が社は脱炭素に本格的に取り組むぞ!」と宣言するために分かりやすく見える化

皆さまも、自分たちの会社に合った活用シーンを、ぜひ想像してみてください。

2)実際に算出された数字はどう見える?

このCO2排出量簡易算出サービスを活用している企業で業種的に多いのは製造業、運送業、建設業、あとは食品関係ということですが、それ以外の業種でも活用できます。いずれにしても、CO2排出量を見える化すれば、次の取り組みを考えるきっかけとなります。排出量削減に向けて具体的なイメージが湧くかもしれません。排出量は、次の図のように表示されます(見本)。

CO2排出量簡易算出サービスの見本です

排出量合計の他、スコープ、カテゴリー、GHG(温室効果ガス)排出量(t-CO2:二酸化炭素1トン当たり換算)、比率(%)といった項目が表示されます。なお、スコープ(「Scope」と表示されることもある)とはサプライチェーン排出量の区分で、次のように1~3に分類され、スコープ3は15のカテゴリーに分類されます。

スコープ1、2、3の分類です

算出された排出量を見て、りそな総合研究所のほうから

「スコープ1と2でGHG排出量が100トン-CO2以上だと、今後、削減を求められる可能性があります」

といったことをお伝えすることもできます。
単純に、自分たちのCO2排出量がどのくらいなのか知ってみたいという「興味」は、意外と多くの方があるのではないでしょうか。まずは、一度試してみるのも一策です。

●りそな総合研究所「CO2排出量簡易算出サービス」はこちら

4 脱炭素に関連する用語集

1.IPCC(気候変動に関する政府間パネル)

各国の気候変動に関する政策に、最新の科学的知見を提供する政府間組織です。IPCCの報告書は、京都議定書やパリ協定などの条約採択、国際交渉の議論のベースとして重視されています。

2.UNFCCC(国連気候変動枠組条約)

地球温暖化対策に世界全体で取り組むことを定めた、国際的な条約(締約国数:198カ国・機関)です。国連の下、大気中の温室効果ガスの排出量と森林などによる吸収量を安定化させることを目標としています。

3.COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)

国連気候変動枠組条約の最高意思決定機関です。UNFCCCの締約国が地球温暖化、気候変動対策に関して話し合います。1995年にベルリンで開催された第1回会議(COP1)以降、原則毎年、開催地を変え、話し合いが行われてきました。1997年のCOP3で京都議定書、2015年のCOP21でパリ協定が採択されました。

4.GHG(温室効果ガス)プロトコル

温室効果ガス排出量の算定と報告の国際基準の開発・利用を目的に、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)とWRI(世界資源研究所)によって策定されました。2001年に初版が発行され、2011年には「Scope3基準」を正式発表。企業の排出量算定の国際スタンダードとなっています。

5.ESG投資

環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)の3つの要素を考慮した投資を指します。2006年に国連のコフィ・アナン事務総長(当時)が各国の金融業界や機関投資家に対して、ESGの視点を組み入れる「責任投資原則」を提唱したことで、広く認知されました。

6.WMB(We Mean Business)

企業や投資家の温暖化対策を推進している国際機関やシンクタンク、NGOなどが構成機関となって運営している非営利同盟です。カーボンプライシングや再生エネルギー、省エネに関する国際的なイニシアチブと企業・投資家を結ぶ役割を果たしています。

7.RE100(Renewable Energy 100%)

WMBの取り組みのひとつで、事業活動で消費するエネルギーを、100%再生可能エネルギー(以下「再エネ」)に切り替えていくことを目標とする企業連合として設立されました。参加要件には、遅くとも2050年までに100%再エネ化を達成する目標を立てることが求められます。

8.SBT(Science Based Targets)

WMBの取り組みのひとつで、企業が、パリ協定の目標に整合するように、「科学的根拠に基づいた削減目標」を定めているか認定をします。SBT認定を受けると、パリ協定に整合している企業であるとアピールできます。

9.TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures=気候関連財務情報開示タスクフォース)

持続可能性に配慮した企業を投資先に選定する判断材料として、どのような情報を、どのような形で開示させたいかをまとめるために設立されました。2017年に報告書が提出され、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」に沿って情報開示することが推奨されました。


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【朝礼】学歴にも会社の知名度にも頼らない君たちこそ、誇れる社員だ

けさは、私の古くからの友人の息子さんの話をしたいと思います。

その友人とは、家族ぐるみの付き合いで、息子さんのことも小さい頃からよく知っていました。もう10年以上前の話になりますが、息子さんが就職活動をしていたときに、実は我が社に入らないかと誘ったことがあったのです。

ですが、息子さんは学業が優秀で、名前の知られた大学を卒業し、上場会社に就職しました。私はそのとき、我が社に入社してもらえなかったことは残念でしたが、心から「就職おめでとう」と、友人と息子さんを祝福したことを覚えています。友人も息子さんも、「これで将来は安泰だ」と喜ばれていました。特に友人は私に、「一流会社に就職してくれるなんて、さすが自慢の息子だ」と誇らしげに語っていたものです。

ところが少し前に、息子さんが勤めている会社が、事業の一部を売却したというニュースを見ました。心配になって友人に連絡したところ、息子さんは売却された事業とともに、転籍しなければならなくなったとのことでした。友人は、「こんなことになるなんて思ってもみなかった。息子の将来が心配で仕方ない」と、ため息をついていました。

私は友人と息子さんに同情するとともに、改めて、「学歴があって、一流会社の社員になったからといって、将来まで安泰だとは限らない」ということを実感しました。

最近、息子さんと会う機会があったのですが、「転籍して、給料が大きく減りました。転職したいけれど、改めて考えてみると、自分には学歴くらいしか誇れるものがない」と話していました。もしかしたら、息子さんは一流会社に入ったことで安心しきってしまい、入社後、自分から主体的に何かに取り組んだり、技術を身に付けたりしてこなかったのかもしれません。彼の言葉を聞いて、私は「就職活動のとき、もっと強く我が社に誘っていればよかった」と後悔しました。

皆さんに改めてお話ししたいのですが、ビジネスパーソンとしての価値は、学歴や所属する会社の知名度で決まるものではありません。業務でどんな結果を出しているのか、業務に関して、どのような知見やスキルを持っているのかで決まります。

我が社は、世間的に名の知れた会社というわけではありませんが、それでも1つ、大いに誇れることがあります。それは、私が常日ごろから口酸っぱく言ってきた、「業務に関する知見やスキルを磨くように」という言葉を、皆さんが忠実に実践してきてくれたことです。自分を磨き続け、会社とともに成長してきてくれた皆さんは、我が社にとって誇るべき財産です。今、我が社は苦しいときではありますが、皆さんのような財産に恵まれた我が社であれば、必ず乗り越えられるはずです。全員で一緒に苦境を乗り越え、さらに会社を成長させていきましょう。

以上(2023年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】伝える力は「理由」と「数字」と「話し合い」

今日は、ビジネスをスムーズに進めるために重要な「伝える力」についてお話しします。

ビジネスにおいて「伝える力」とは、自分の考えを相手に伝え、理解・納得してもらうことです。これがなければ、共通の目的と具体的なイメージを持って協力して仕事を進めることはできません。

皆さんが仕事を進める際に、会議や商談など実際に会って話をするだけではなく、電話やメールでも頻繁に連絡を取り合うのは、繰り返し相手に自分の考えを伝え、意思の疎通を図るためです。

物事の伝え方は人それぞれですが、誰でも「自分にとっても相手にとっても利益が見込める話」は自信を持って伝えられるものです。話の内容もより具体的になるでしょう。「この提案が実現すれば、年間売り上げは1億円が見込める」といったようにです。

一方で、相手が損失を被る場合はどうでしょう。例えば、仕入先に30%という大幅な値下げをお願いするシーンをイメージしてみてください。「相手に申し訳ないな」という気持ちから、「ご無理は承知ですが、値下げを検討していただけないでしょうか」などと曖昧(あいまい)な表現でお茶を濁してしまいがちです。このような表現では、相手に自分の真意はしっかりと伝わりません。例えば、私がこのような言い方で値下げのお願いをされたら、それほど深刻な値下げ要求ではないと判断し、「十分に検討しましたが、値下げは難しい」と答えるでしょう。

しかし、この場合、相手にとっては30%という大幅な値下げは業務命令であるため、「会社として30%のコスト削減を図っております。仕入価格が現状のままだと、契約解除を検討しなければなりません」と2度目の値下げ要求をすることになります。

私ならばこう言われたときに、「そんなことだったら、最初からはっきりと言ってくれればよかったのに」と不愉快な気持ちになります。

言いにくいことを相手に伝えるのは誰でも苦痛なものです。このようなときこそ、「理由」と「数字」をはっきり伝えなければなりません。理由を伝えれば、相手はこちらの言葉が根拠のあるものであることを理解することができます。数字を伝えれば、検討の基準を持つことができます。

  

ビジネスでは、自分や相手にとって良い話も悪い話もあります。良い話は、多少、内容が曖昧(あいまい)でも問題になることはありません。むしろ悪い話をするときこそ、丁寧に、正確に自分の考えを伝えなければなりません。そして、相手から質問が出たら、それにしっかりと答える姿勢が信頼につながります。

以前、テレビで移植手術の世界的権威の医師のドキュメンタリー番組を見たことがあります。この医師が行う手術は患者の生命にかかわる困難なものばかりです。だからこそ、医師は手術のリスクや術後の患者の生活について、包み隠すことなく、また、患者が理解できるように伝えます。そして、患者が納得する、具体的には患者から質問が出なくなるまで話し合うそうです。

私たちの仕事においては、たとえどれほど悪い話であっても、この医師のように命にかかわるものではありません。

悪い話を伝えるときは表現を曖昧(あいまい)にしがちです。しかし、そのようなときこそ、「理由」と「数字」を明らかにして、相手が理解・納得できるまで話し合いましょう。

以上(2023年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

【中堅社員のスピーチ例】長篠の戦いに学ぶ「常識」の怖さ

皆さんもご存じの通り、私は日本の歴史、特に戦国時代が好きで、関連する書籍やテレビ番組をよく見ています。今年の大河ドラマ「どうする家康」も、毎週楽しみにしています。主人公である徳川家康は、さまざまな強敵を相手にしましたが、中でも武田家との戦いは、非常に大きな試練だったと思います。ですから、織田信長と家康の連合軍が、1575年に武田勝頼を破った「長篠(ながしの)の戦い」は、私にとって非常に興味深い戦いです。そこで今日は、この長篠の戦いについて、「常識」というテーマで話をしたいと思います。

長篠の戦いは、鉄砲が日本で初めて、本格的に戦いの場に投入された出来事として有名です。戦国最強といわれた武田軍の騎馬隊に対し、織田・徳川連合軍は3000丁の鉄砲を準備して対抗しました。当時の鉄砲は、弾を込めて撃つまでに数十秒かかるため、猛スピードで突進してくる騎馬隊には対抗できないと思われましたが、織田・徳川連合軍は、鉄砲隊を前段・中段・後段に分け、時間差で砲撃を仕掛ける「3段撃ち」という戦術によって、鉄砲の弱点を克服し、武田軍の騎馬隊を打ち破ったと伝えられています。

このエピソードは、当時の戦いの「常識」だった騎馬中心の個人戦を、鉄砲隊を中心とする集団戦に移行させた画期的な出来事だといわれています。それによって、鉄砲や火薬を入手するための経済力の重要性が高まり、城の立地や構造にも影響を与えたとされています。

長篠の戦いでは、織田・徳川連合軍の鉄砲隊の砲火を浴びた武田軍が、かたくなに騎馬隊を突撃させる戦術にこだわったために大敗しました。そして、有能な重臣を数多く失ったことで、後の武田家の滅亡につながったといわれています。勝頼は、「武田軍の騎馬隊が突撃すれば敵を蹴散らせる」という、従来の「常識」に凝り固まり、目の前の新しい現実に対応できずに、滅びていったわけです。

ここから、私たちも、「常識は、塗り替えられる」ということを教訓にすべきだと思います。私たちも日々、業界や会社の中で「当たり前」とされる、さまざまな常識の中で仕事をしていますが、仮にその常識を塗り替えるほどの革新的な考え方や技術が出てきたら、あっという間に周囲に置いていかれてしまいます。あるいは、今まで「常識だ」と信じていたことに間違いや問題点があり、非効率なことを続けているかもしれません。

常識を知らずに仕事をすることはできませんが、同時に「常識通りに行動すれば失敗しない」という、一種の思考停止に陥ることがないよう、気を付けて業務にまい進したいと思います。

ちなみに、長篠の戦いで「織田・徳川連合軍は鉄砲の3段撃ちによって、武田軍に勝利した」という「常識」も、実は裏付けとなる史料の信ぴょう性に欠け、誤っている可能性があるそうです。従来の「常識」に凝り固まって勝頼を不当に低く評価しないよう、気を付けたいと思います。

以上(2023年1月)

pj17133
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】多面的に見ると、本質が見えてきます

皆さんは、タイトルを見て面白そうと思って買った本や、おいしそうな名前だったので注文したメニューが、期待はずれであったという経験はありませんか。これは、目立つキャッチコピーに目を奪われて、内容をしっかりと確認しなかったことが原因です。

プライベートの話であれば良い経験の一つですが、ビジネスの場で同じ失敗をしてはいけません。外側だけを一瞥(いちべつ)して、内容をしっかりと確認しなければ、本質を捉(とら)えきれずに大きな過ちを招いてしまうことがあります。

今日は印象にとらわれずに物事の本質を見抜くためのポイントについて話をします。例えば、薄味の料理に味の濃いタレを一滴垂らしたときのことを想像してください。その料理はそのタレの味になります。また、淡い色のスーツに目が覚めるような赤色のネクタイを締めたときを想像してください。赤いネクタイは非常に目立ち、会う人に強烈な印象を与えます。このように、味や色の濃いものは、それがわずかな量であったとしても人の興味や注意をひきつけ、全体を印象付けるほどの影響力を持ちます。

このことは私たちのビジネスの世界でも同じです。例えば、真新しい情報や、画期的とされる新製品は私たちの目を引き寄せ、強烈な印象を与えてくれますが、一方でその強烈な印象は、その情報が確かなものであるのか、その製品が本当に利用価値があるものなのかどうか、を判断する目を曇らせてしまいます。私たち人間は、どうしても真新しいもの、刺激の強いもの、色の濃いものに注目する性質があります。

つまり、私たちは、印象の強さに意識を奪われて、物事の本質を見ていないのです。

確かに、目や耳に飛び込んでくるものを見るな、聞くな、気にするなというのは無理な話です。手品などはこのような人間の習性をうまく利用しています。手品であれば素直に騙(だま)されて楽しめますが、ビジネスの場ではそうはいきません。

そこで、まず自分が見ているものは物事の最も目立つ部分であるということ、そしてそれは物事の一部分にすぎないのだと自覚してください。その上で、物事を多角的に見るように努力してみましょう。

例えば、取引先との商談の場に際して、あらかじめ取引先の業績を調べておく、業界全体の動向や取引先の競合先についても調べておく、というようにです。商品パンフレットでも、裏から見たり、小さな文字から読んでみたり、色の薄い部分にあえて注目してみるのもよいでしょう。また、モノであれば前からだけでなく後ろ側、裏側、真上、斜めなどいつもと異なる角度から見てみましょう。インターネットで検索するときも、検索結果の後ろの方のページから見たり、いつもと違う検索エンジンを使ってみましょう。そうすれば、今まで見えなかったことが、次々と見えるようになってくるはずです。

本質を見抜くのは簡単ではありません。ビジネスで本質を見抜きたければ、前後左右、表裏から見るのはもちろん、近くから見る、遠くから見る、時間をおいてもう一度見る、そして、複数の人の意見をきくということも必要です。今日から試してください。

以上(2023年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

          

【値上げに成功する交渉術(4)】強引な交渉相手と当たってしまったらどうする?

書いてあること

  • 主な読者:物価高騰で苦戦し、自社も値上げをしようと決意している経営者
  • 課題:相手がとても強引で交渉にならず、圧力に屈しそうになってしまう
  • 解決策:「交渉依存度が低く、ハード型の交渉を展開してくる相手」との交渉は避ける

1 交渉はセオリー通りに進まない

前回の「交渉の構造を知って冷静に対処する」では、交渉の構造を明らかにしながら、大切なポイントとして、

  • ふっかけられても冷静でいること(相手のアンカーには付き合わない)
  • 絶対に譲らない基準(留保価値)を明確にし、覚悟を決めて交渉すること
  • 事前準備をしっかりとして、代替案(BATNA)を用意しておくこと

を確認しました。これらをやっておくだけでも、冷静に双方のメリットを考えられるようになるはずです。

ところで、このシリーズで紹介してきたことを、交渉当事者の双方が理解していれば、おかしな結果にはならず、わりと和やかに交渉が進みそうなものです。しかし、実際はそうはならず、全く理屈が通じない強引な交渉相手と対峙することがよくあります。一方的で強引な交渉はセオリーと反するはずなのに、なぜ、このようなことをするのでしょうか。

交渉に対する知識や経験の違いもありますが、それ以上に、

その交渉に対する価値基準や、交渉依存度が違う

ことに起因しています。こちらがプラスサム型の交渉を目指しても、相手が「値上げなんてけしからん!」と、ゼロサム型の交渉を展開してくると、全く話がかみ合いません。加えて相手が強引だと、いいようにやられてしまうことがあります。

このようなとき、どうしたらよいのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

2 「ハード型」と「ソフト型」の交渉スタイル

1)ハード型とソフト型とが対峙したらどうなる?

交渉にはハード型とソフト型とがあります。文字通りの交渉スタイルで、

  • ハード型:自分の条件に固執して敵対的に接し、自分の勝利のために相手に譲歩を迫る
  • ソフト型:状況に応じて自身の条件を見直して友好的に接し、双方の利益を目指す

といった具合です。ハード型とソフト型とが対峙した場合、ソフト型はハード型の攻撃を受け続けて圧力に屈してしまうか、交渉そのものが決裂しまうことが多いです。ハード型の交渉担当者は、ただ自分の条件を実現したいだけなので、交渉の局面も作れません。

このシリーズの1回目「交渉の本質を知り、交渉に対する恐れをなくす」で、オレンジの交渉を紹介しました。その内容は次の通りですが、この姉妹がハード型とソフト型の交渉を行ったらどのようになるでしょうか。

1つのオレンジを取り合っている姉妹がいます。姉も妹も、「自分がオレンジを丸ごともらう!」と言って一歩も譲りません。姉妹がけんかせずにオレンジを分け合うには、どうしたらよいでしょうか?

一例として示すと、次のようになります。

「オレンジの交渉」の姉妹がハード型だったら

妹のハード型は強烈で、これをやられると姉としては譲歩せざるを得ません。言い争っている最中に母親を呼ばれたら、「お姉ちゃんなのだから我慢しなさい!」と一蹴されるか、「けんかするならおやつはなし!」と、オレンジを取り上げられてしまうことが明らかだからです。

2)ハード型への対策

リアルのビジネスで、相手がハード型の交渉を展開してくることは珍しくありません。実際は、言動は穏やかでも、取引関係の優位性を押し出すなどして、一向に条件を変えない「隠れハード型」が多いでしょう。相手がハード型の交渉を展開できるのは、例えば、

  • 自社:相手は大切なクライアントであり、何とか良い結果を導きたい
  • 相手:相手は単なる業者であり、交渉が決裂しても他に依頼すればよい

などというほど、根本的な違いがあるからです。こうなってしまうと対策は難しいですが、方法としては、

  • 双方の上司の同席を求めて、交渉当事者をけん制する
  • 力のある第三者に仲裁を依頼する
  • 客観的な基準を提示して交渉の論点を広げる
  • アンオフィシャルな場も利用して、相手とコミュニケーションを取る
  • 交渉を長引かせて、相手の交渉担当者の態度が変わるのを待つ

などがあります。

いずれにしても、

交渉依存度が低く、しかもハード型で臨んできそうな相手とは交渉しない

というのが正解かもしれません。

3 なぜ、ソフト型が存在するのか

ここまで読み進めてくれた方は、「そのような状況ならばハード型で交渉すればよい」と思うかもしれません。しかし実際は、ソフト型の交渉を展開する人も数多くいます。なぜなら、

  • 交渉で勝ち過ぎると(自分の条件を通し過ぎると)、後に悪影響が出る
  • 交渉に至る前から良好な関係が築かれている

があります。

1)勝ち過ぎると恨まれる?

企業間取引は継続が前提です。いかに交渉とはいえ、取引相手を完膚なきまでにたたきのめしてしまったら、やられたほうは嫌な気分となり、その後の関係に支障が出るのは当然です。もちろん「コレはコレ、アレはアレ」と区別するのが大人ですが、人の感情はそう簡単ではないのです。

そして、完膚なきまでにやられたほうは、そのことを同業他社などに話すでしょう。「こちらは誠意を見せたのに、全く聞いてもらえず、高圧的に打ち切られた」といったようにですが、こうした話は尾ひれが付いて広まっていきます。ハード型とは、ある意味で相手にけんかを売るようなものですが、

交渉が終わってもけんかは終わらない

ということです。

ですから、賢い交渉担当者がハード型の交渉を展開することは少なく、むしろ相手に花を持たせながら、こちらの条件を上手に通していきます。これはつまり、

  • 相手にとって悪くなく、自分にとって願ってもないほどの交渉結果を引き出す(*)
  • 交渉では、相手に「勝った」気分になってもらうことが大切だ(**)

ということを実践しているということです。

2)日ごろの関係性は交渉を超える?

長年の取引があって相手のことをよく知っており、互いに成果を上げてきているような場合、

交渉以前の問題で、相手のために何とかしてあげたい

という気持ちが働くものです。これは、

交渉が始まる前から、良い結果が出ることがほぼ決まっているケース

です。もちろん、ビジネスですから、相手に値上げを受け入れてもらったら、次にこちらが何かを返さなければなりませんが、ここで分かるのは、

日ごろの関係づくりが自社のピンチを救う

ということです。効率化ばかりを考えていると、コミュニケーションの手数を減らすことを目指したくなりますが、一定の「ムダ」は必要ということです。

4 次回予告:交渉に臨む準備事項と交渉中の心構え

いかがでしょうか。今回の記事で、ハード型とソフト型の交渉スタイルがイメージできたと思います。相手の交渉スタイルについては、事前調査で十分に検討しておく必要があります。また、いざというときのために、日ごろの良好な関係も不可欠です。

続く次回では、実際に交渉に臨む際の具体的な準備事項と交渉中の心構えを紹介します。特に交渉中の心構えについては、いわゆる「バイアス」について触れ、気付かないうちにバランスを欠いた決断をしたり、思い込みで相手を恐れたり、嫌ったりすることがないようにするための注意点を紹介します。

【参考文献】

(*)「ハーバード×MIT流 世界最強の交渉術?信頼関係を壊さずに最大の成果を得る6原則」(ローレンス・サスキンド(著)、 有賀裕子(翻訳)、ダイヤモンド社、2015年1月)

(**)「負けない交渉術―アメリカで百戦錬磨の日本人弁護士が教える」(大橋弘昌(著) 、ダイヤモンド社、2007年1月)

以上(2023年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】「人の褌で相撲を取る」のもう一つの意味

今年度も残り2カ月程度となりました。年度始めに立てた目標は、どれだけ達成できましたか。1年間の活動を振り返ってみれば、数多くの課題が見つかるはずです。そして、特に管理職以上の人は、自分一人の努力だけでは解決できない課題が増えたことを痛感するでしょう。

組織や自分自身の成長に応じて、ビジネスは難しくなっていきます。新しいことにチャレンジしたり、これまでよりもレベルの高い人の信頼を獲得したりする必要があるからです。そして、これらの課題は、孤軍奮闘するだけでは、うまく解決できない場合があります。

例えば、新しいことにチャレンジする場合です。私たちにとっては未知の領域でも、他の誰かにとっては“土地勘のある”ビジネスであるというのが通常です。それならば、“土地勘のある”人のアドバイスを得たほうが課題を解決しやすくなります。そうした人と親しくなれば、人脈や販路を紹介してくれる可能性もあるでしょう。

これは「人の褌(ふんどし)で相撲を取る」ことでもあります。この言葉は良い意味で使われないこともありますが、私の考え方は少し違います。確かに、他人の権勢を利用する、「虎の威を借る狐(きつね)」のような振る舞いは好ましくありません。しかし、相手との信頼関係を築いた上で、相手の同意を得て褌を借りるのであれば、何の問題もありません。それに他人から褌を借りるというのは、相当に難しいことでもあるのです。

一つ、私の経験談をお話ししましょう。私には懇意にさせてもらっている10歳以上年上の大学教授がいます。彼はベンチャー企業を経営した経験があり、ビジネスをよく知っています。そして、折に触れて私に言ってくれます。「私の人脈を全部紹介してあげるよ。きっかけは会食でもゴルフでもいいんだから、もっと私を利用しなさい」

その大学教授は、知識だけではなく、リアルなビジネスを知っているからこそ、人の“パワー”を借りる、つまり人の褌で相撲を取ることの大切さを痛感しているのでしょう。

実際、私はその大学教授の“パワー”を借りてビジネスをすることもありますが、なぜ、ここまで私に良くしてくれるのでしょうか。大学教授に尋ねてみると、答えは「信用しているからだよ」というシンプルなものでした。信用をもう少し分解すると、「礼儀正しく約束を破らない」「相手のメリットをよく考えられる」「自分にないものを持っている」ということでした。

大学教授の言葉から、真摯にビジネスと向き合い、社外で通用する絶対的な強みがなければ、他人から褌は貸してもらえないことが分かるでしょう。あえて言います。人の褌で、正々堂々と相撲が取れる人になってください。言葉を変えれば、相手が大切な褌を貸してもいいと思えるくらい信用される人になってください。そのためには、皆さんは何を磨くべきでしょうか。来年度の皆さんの課題が見えてきたはずです。

以上(2023年1月)

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画像:Mariko Mitsuda