ゼロゼロ融資の返済開始に伴うリスクと対応

1 アフターコロナに伴うリスクについて

新型コロナが5類に移行することになり、ようやく元の社会に戻りつつありますが、アフターコロナの社会に向けた環境変化のリスクにどう向き合い、対応するのか?元に戻すべきものと戻さないものの取捨選択の判断を適切に行うことが求められます。具体的には、行動制限や非接触の意識等を変えられない場合、景気回復の遅れやコミュニケーション不全による生産性の低下につながる可能性があります。一方で、コロナ禍で根付いたオンライン面談やテレワーク等は、DXを推進して生産性を高めていく上でも、柔軟な働き方を受け入れ優秀な人材を採用・確保するためにも重要と考えられます。

そして、アフターコロナにおいても、コロナ禍で背負った負の遺産までが消え去る訳ではありません。その代表格がコロナ禍において倒産防止のために行われたゼロゼロ融資です。借入である以上は、当然のことながら返済が必要となる中で、返済に追われ、息切れ倒産となるケースが増加しています。今回はゼロゼロ融資の返済がピークを迎える中で、その現状と共に、国の資金繰り支援の対応措置や取引先企業の倒産リスクへの対応について解説をさせていただきます。

2 ゼロゼロ融資について

ゼロゼロ融資とは、新型コロナウイルス感染症の拡大で売上が減った企業を支援するために2020年に始まった融資です。一定の要件を満たす企業に対して、金融機関に支払う利子を公的機関が3年間負担し、返済できない場合も信用保証協会が肩代わりするもので、実質無利子(利子ゼロ)・無担保(担保ゼロ)であるため、「ゼロゼロ融資」と呼ばれています。融資総額は2022年9月末時点で計約43兆円にのぼり、2023年7月~2024年4月に返済開始の山場を迎えます。元々は、コロナ禍において企業の窮地を救うための措置でしたが、基本的に売上減少による運転資金に対する借入であるため、借入金は既に人件費や家賃等の支払いに消えています。そのため、多くの企業がコロナよる環境変化に対応するための経営改善を行うことが出来ない中で、従来の経営を続けながら、利益の中から返済を行う事が求められています。しかし、環境変化の中で、コロナ前は返済に必要な利益を出していた企業でさえ利益を出すことが難しい中で、そもそも返済に必要な利益を出していなかった企業は、返済の目途が立たないことも想定されます。

3 ゼロゼロ融資の返済開始に伴う現状

東京商工リサーチが発表した2月の全国企業倒産件数は前年同月比26%増の577件となり、リーマン・ショック前後の2009年4月以来、13年10カ月振りに11か月連続で前年を上回り、ゼロゼロ融資を利用した企業の倒産も48件と2・5倍に増加しました。最長3年間の利子補給期間が4月から順次終了し、返済が本格化する中で、環境変化に対応した経営改善が進んでいない企業が多いとなると、今後も倒産件数は増加することが想定されます。また、ゼロゼロ融資の返済に加えて、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻、円高等の影響による燃料・原材料価格の高騰、人手不足が追い打ちをかけており、経営再建を断念する息切れ型の倒産も広がっています。実際に、物流業界では燃料の高騰で賃上げがかなわず、運転手不足が加速しており、営業を続けるホテル・旅館でも人手不足の課題を抱え、需要の回復にも拘らず、人員不足のためサービスを十分に提供できず、売上を拡大することが出来ないケースが目立ち始めています。

※企業の倒産情報

https://www.tsr-net.co.jp/news/status/monthly/202302.html

東京商工リサーチ調べ 全国の企業倒産件数

4 ゼロゼロ融資の継続支援策

そのような厳しい現状の中で、中小企業庁は民間のゼロゼロ融資からの借り換えに加え、他の保証付融資からの借り換えや、事業再構築等の前向き投資に必要な新たな資金需要にも対応する新しい借換保証制度(コロナ借換保証)を創設しました。

この制度の保証限度額は民間ゼロゼロ融資の上限額の6,000万円を上回る1億円となっており、保証期間は10年以内で据置期間は5年以内、金利は金融機関所定となりますが、保証料率は0.2%と非常に低い水準となっています。

しかし、売上または利益率が前年比5%以上減少していることや、金融機関による伴走支援と経営改善に向けた具体的な経営行動計画書の作成等が条件となっており、現状では2024年3月31日までに信用保証協会に保証申込を行う必要があります。

本制度は、新型コロナの影響で債務が増大した中小企業者の収益力の改善等を支援するための措置であり、要件を満たす企業の場合は、有利な資金調達ができるため、活用することをお勧めします。また、本制度の対象とならない企業についても、今後の様々マイナス影響を想定し、早期に財務戦略を決定し、返済計画を立てる事が求められます。

・コロナ借換保証の詳細は以下のURLを参照下さい。

https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/sinyouhosyou/karikae.html

5 取引先の倒産リスクへの対応

そして、倒産が増加する局面において非常に重要となるのが取引先の与信管理です。しかし、中小企業では与信管理に多くの人員を割くわけにもいかず、ましてコロナ禍において急速に変化した取引先の状況を適切に把握することは困難と考えられます。そのような中で、財務リスク対策として注目されるのが、取引先の倒産などに備える取引信用保険であり、損害保険大手4社の契約件数も2022年度に前年度比で1割増の大幅な増加となる見通しです。

取引信用保険は取引先の倒産などにより売掛金・受取手形が回収不能になった場合に、貸倒損失に対して保険金を支払う仕組みです。景気後退局面で加入が伸びる傾向にあり、ゼロゼロ融資の返済が本格化して倒産企業が増加する中で、売掛金を回収できずに連鎖倒産に至るリスクを回避するための財務対策として非常に有効な保険です。取引信用保険の活用メリットとしては、貸倒時に資金調達がスピーディーにできる点と、保険会社による与信管理機能の活用によって、貸倒損失の補填のみならず営業戦略にも活用できる点であり、特に中小企業に有用な保険と考えられます。

以上(2023年4月)

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画像:photo-ac


提供:ARICEホールディングスグループ( HP:https://www.ariceservice.co.jp/
ARICEホールディングス株式会社(グループ会社の管理・マーケティング・戦略立案等)
株式会社A.I.P(損保13社、生保15社、少額短期3社を扱う全国展開型乗合代理店)
株式会社日本リスク総研(リスクマネジメントコンサルティング、教育・研修等)
トラスト社会保険労務士法人(社会保険労務士業、人事労務リスクマネジメント等)
株式会社アリスヘルプライン(内部通報制度構築支援・ガバナンス態勢の構築支援等)

【朝礼】整理整頓は職場のルールです

皆さん、机の上を見てください。その机はきれいに整理整頓されているでしょうか。机の上に余計な物は置かれていませんか。引き出しの中はどうでしょうか。どこに何が入っているか、きちんと把握できていますか。

整理整頓はとりたてて難しいことではありません。本人にその気があればすぐにでもできることです。それにもかかわらず、実際には整理整頓は仕事の中では後回しにされがちです。整理整頓ができていない人にその理由を尋ねると、大抵は「時間がないから」という答えが返ってきます。

ここで、整理整頓の意味についてよく考えてみてください。考え方はシンプルでかまいません。ここでは「何のため」「誰のため」の二つに的を絞りましょう。

まずは「何のため」です。整理整頓をするのは「何のため」でしょうか。すぐに思い浮かぶのは、

1.きれいな職場で気持ちよく働くため
2.必要な書類や物を紛失しないため
3.来客時に恥ずかしくないようにするため
4.自分が使いやすくするため
5.仕事の無駄をなくし、時間を節約するため

です。

次に「誰のため」です。整理整頓をするのは「誰のため」でしょうか。

1.自分のため
2.会社のため
3.上司、同僚、部下など机を利用する人のため

です。

整理整頓ができた状態というのは、決まった物が、決まった場所に置かれている状態です。この状態では、どこに何があるかが分かっているため、必要な物があればすぐに取り出すことができます。逆に、整理整頓ができていない状態では、どこに何があるかが分からないため、何か必要な物があってもそれを探すのに時間がかかります。

物を探す時間は、「無駄な時間」です。仮に、1日に15分探し物のために時間を使っているとしましょう。1カ月の就業日数が20日だと5時間、1年では実に60時間にも及ぶ無駄使いをしていることになります。整理整頓を徹底することで、この探し物のための無駄な時間がなくなり、効率的に時間を使えるようになります。

整理整頓が仕事の基本といわれるのはこのためです。「時間がなくて整理整頓ができない」という人も、ちょっとした時間を利用して整理整頓をしてみてください。やるべきことは、不要な物は捨てて、必要な物は置き場所を決める。たったこれだけです。どうしても整理整頓が苦手だという人は、置き場所が一目で分かるように、シールを張るなどの工夫をしておくといいでしょう。最初は時間がかかるかもしれませんが、一度置き場所を決めてしまえば、後は使った物をそこに戻すだけですから余計な時間はかかりません。1日15分の「無駄な時間」がなくなることで、整理整頓にかけた時間はすぐに取り返せるはずです。

整理整頓は職場のルールです。整理整頓ができていないのは、定時に会社に出社しない遅刻と同じ、職場のルール違反と考えてください。そうとらえると、上司は部下に整理整頓についても厳しく指導できるでしょう。皆さん、整理整頓お願いします。

以上(2023年4月)

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画像:Mariko Mitsuda

黒字事業を手放して”全振り(ぜんぶり)”してでも立ち上げた「高卒採用」の支援。突き動かしたのは、高卒者と地域の中小企業のために「絶対、やらなあかん」という思い/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、佐々木 満秀(ささき みつひで)さん(株式会社ジンジブ 代表取締役)です。

「夢は、18才から始まる。」
このスローガンを掲げ、佐々木さんが率いるジンジブでは、高校生の就職(高卒採用)を支援しています。今まで世の中にありそうでなかった、しかも、社会的な意義がかなりある高卒採用の支援。実際に、地銀や信金などの地域金融機関が、取引先企業に紹介したいサービスとして大いに注目していて、3年で50行以上の提携を実現しています。この短期間で50行の提携はすごいこと、地域の企業からどれだけニーズがあるかが伺えます(2023年3月28日ニュースリリース)。
なんとこの佐々木さん、帝国データバンクで評点75点というものすごい数値を叩き出したこともあります。そんな超優良事業を手放し、自己資金をつぎ込んでまで立ち上げた「高卒採用支援 ジンジブ」。何かもう並々ならぬ心意気、覚悟を感じます。この記事では、全国の中小企業から見ても新たな「人財」発掘の可能性を秘めたジンジブのサービス内容と、立ち上げた佐々木さんが込めた思いをご紹介していきます。

●ジンジブのニュースリリースはこちら
全国で高卒採用から定着育成まで、企業の人事をサポートするジンジブ、都銀・地銀・信金・証券会社との提携が3年で累計50行超まで拡大

1 高卒採用の可能性を広げる「ジンジブ」

まずご紹介したいのが、ジンジブのとても印象的なウェブサイトです。高校生がまっすぐ未来を見つめ、新しい一歩を踏み出そうとしている感じが伝わってきます。

ジンジブウェブサイトの画像です

(出所:ジンジブのウェブサイトより)

ジンジブが支援している高卒採用は、大卒採用と違って、「学生が自分で探すのではなく学校斡旋が一般的」「一定期間は1人1社しか応募できない」という状況です。これでは、どうしても就職した後、ミスマッチから辞めるケースが出てきます。しかも、佐々木さん曰く、高卒採用のこの状況は佐々木さんが高卒当時の37年前から変わってないそうで、まるで時が止まっているようです……。

そこで、ジンジブでは、高卒採用を根本的に変えようと、次の2つを事業の柱としています。大卒採用では世の中的に一般的になっていることを、高卒採用でも一般的にしていこうという感じかもしれません。

  • ジョブドラフトNavi(ナビ):高校生の就活情報サイト
  • ジョブドラフトFes(フェス):合同企業説明会

また、他にも、高校生の就活支援につながる「教育」面でのサポート事業「ジョブドラフトCareer」や、高校生の第二新卒や既卒者などを支援する「ジョブドラフトNext」も行っています。「教育」の面では、例えば、高校生に対してデジタルマーケティングの基礎を教える研修などがあります。これは、今、どの中小企業でも足りないと言われるDX人材の育成につながると思います!

一方、第二新卒や既卒者などを支援する「ジョブドラフトNext」もとても大切な事業と感じます。佐々木さんは、「高卒の新卒採用のうち、3年で約40%が辞めてしまう。さらにそのうちの3分の1は、次の就職が決まらずニート・フリーターになってしまう」と教えてくれました。衝撃です。「ジョブドラフトNext」では高校生の第二新卒や既卒者の就活もサポートします。まさに、

高校生が就職するときも転職するときも頼れる存在、ジンジブ

といえるでしょう。
ジンジブのサービスの例はこちらです。

ジンジブのサービスの例の画像です

ジンジブのサービスの例の画像2です

(出所:ジンジブのウェブサイトより)

ジンジブが高卒採用で実現しようとしていることは、社会的な意義は高いものの、簡単にではありません。国や行政、主要な経済団体などが関わっており、変えるのはとてもとても難しい。それでも、佐々木さんは「ジンジブが考えている世界観を実現する」と、とても固い決意で取り組んでいます。
佐々木さんがこのように高卒採用に心血を注ぐようになったのは、佐々木さんのこれまでの思いや歩みが関係していました。次章からは、その思いや歩みを振り返ってみましょう。

2 高卒採用に賭ける「強い強い思い」

そもそも佐々木さんが、高卒採用支援に注力した原点は、

二極化がますます鮮明になっていく世の中に危機感を抱いたこと

だといいます。

生まれ育った国や地域、職業、学歴などによる二極化がますます進んでいく世界。二極化の中でも、言葉を選ばずに言えば、一般的に見て「強くないほう」にあたる人たちを支援したい。都会と地方ならば地方を。大卒よりも高卒の就職・採用を応援したい。そんな思いがあったそうです。

高卒採用の支援をしたいと思った佐々木さん、一緒に仕事をする経営幹部に相談してみますが、「マーケットはゼロ。無理」と大反対されてしまいます。しかも、国や行政と戦うなんて無謀だとも言われます。しかし佐々木さんはこう考えます。

「リクルートなどは大手企業だからこそできなかったのではないか。われわれのようなベンチャー企業だからこそできるのでは」

そうして佐々木さんは、そこに自らの果たすべき社会的意義があると奮起します。佐々木さんの思いは、高卒者にだけフォーカスしているのではありません。ひいては、思いは中小企業、日本の「これから」に至ります。

「高校生を応援したいのはもちろんですが、それでけでなく、中小企業を応援したいという気持ちが大きくあります。なぜなら、このままだと、大卒人材は大企業に食われて、中小企業はますます人を採れなくなっていきますから。
学歴で仕事のできる・できないが決まるわけではありません。学歴採用の落とし穴がきっとあります。知識や学歴はAIにとって替わられます。『賢い人=仕事ができる』という状況ではすでになくなってきています。
例えば、いわゆるブルーカラーと呼ばれる建設業などでは高卒採用者が活躍しています。AIにはできない、人でなければできない仕事こそ、高卒人材を活用していくことが望まれるのではないでしょうか」

こうしたことを考えている佐々木さん。色々な思いがあると語った高卒採用に関して、佐々木さんが発した次の一言が、すべてを表現しているような気がします。佐々木さんは、こう思ったそうです。

「絶対、やらなあかん」

3 黒字事業を手放し人生を賭してまで実現した高卒採用支援事業

1)高卒で就職。営業のおもしろさを知るも、病気や離婚、倒産を経験

ここで、佐々木さんのこれまでの歩みを振り返ってみましょう。とても紆余曲折あったとのこと、お話を伺っていると、さまざまな出来事があり、何人分かの人生を歩んでいるかのような印象を受けます。
佐々木さんは大阪で生まれ育ちました。借金問題により、高校時代は、大阪府立の高校であるにもかかわらず、京都の親戚の家から1時間半かけて通学していました。京都から大阪の高校に通学していたので、学校が紹介してくれる就職先がなかったそうです。
そこで、当時いわゆる「ガテン系求人情報誌」といわれた就職情報誌で高卒の新卒者向け求人を探した佐々木さん。その後、ダンプカーやトラックの運転手としてガンガン稼ぎまくろうとしていた矢先、23才の若さで大きな病と離婚という出来事に直面します。

そうした中、採用してくれた不動産会社において、入社からわずか2カ月で、佐々木さんはトップセールスを記録します。2カ月目で! かなりすごい実績ですが、これについて佐々木さんは「きっと18才からハタチくらいまでナンパばかりしていたからですよ」と。おそらく佐々木さんの、人の話をよく聞く、相手の懐にフッと入り込む、一生懸命に相手のことを考える、人に好かれる、といった感じが、その頃からあったのだと思います。

こうして営業のおもしろさに目覚めていった佐々木さん。その後、営業の実力を買われてベンチャー企業(営業会社)に転職します。その企業で常務取締役にまでなりますが、バブル崩壊や内部の問題などから、その企業が倒産してしまいます。まだ20代の若さで佐々木さんは、残務処理も含め、倒産の壮絶さを体験することになります。社員100名の行末について面倒を見たり、連鎖倒産する会社もあったり……。当時は、社員の給料が優先で、役員の自分は借金という生活だったそうです。
このときの経験から、「借金しない経営」を決意した佐々木さんでした。

2)無借金・黒字・人に迷惑をかけない経営にこだわった10年間

常務取締役をやっていたベンチャー企業が倒産した後、今から25年前(1998年)、佐々木さんは30才のときに携帯電話の販売促進に特化したプロモーションを手がける企業を創業します。倒産の経験から、とにかく「借金をせず、赤字を出さずに、人に迷惑をかけない経営」を目指した佐々木さんは、実際に無借金の黒字経営を10年間続けました。
それが奏功して、そのプロモーションの企業は、今から13年前に中小企業部門で帝国データバンクによる評点で75点、見事1位を獲得しました。「75点」、このような高得点は、他に聞いたことがありません!

こうして10年間突っ走ってきた佐々木さん、確かにお金は手に入りましたが、ご両親が病気になったり、40代に入った佐々木さん自身が精神的に弱ってしまったりという状況になったそうです。
自分の人生をどうするかを考え、当時、創業した企業を十数億円で買うという声もあり、企業譲渡してリタイアすることも考えたといいます。

3年間悩んだ末に、やがて45歳になり、心身の健康を取り戻した佐々木さん。これまでを振り返って、

「ガッチガチに硬い経営。儲かるが、楽しくない経営だった」

と感じたそうです。
社長である自分が、脇目も振らず、24時間365日、寝ずに働いて勉強している。そうすると、そのそばにいる役員も社員も疲弊していく。これを痛感した佐々木さんは、こう思いました。

「本当に楽しい経営、社員のためになる経営をしたい」

そこから「無借金経営へのこだわりをやめよう」「硬いだけの経営をやめよう」「無名な会社では意味がない(社員にとっても)」と考えるに至り、

「社会的に意義のある会社、知名度のある会社になっていこう、社会のためになる会社にしよう」

と決意したのでした。

うまく伝えきれませんが、佐々木さんのお話を聞いていて、これまでのものすごい歩み、紆余曲折、凄みが胸に迫ってくる感じがしました。ここから、佐々木さんは「高卒採用」に舵を切っていくことを決めます。

3)顧客を持たせて転職支援

2014年ごろ、佐々木さんはホールディングスの社長をしていました。広告ビジネスを手掛ける「株式会社ピーアンドエフ」、中途紹介採用の「株式会社社長室」、そして「株式会社ジンジブ」。
この、高卒採用支援の「ジンジブ」のみに注力したいと考えた佐々木さんは、黒字で売上も20億円出ていた事業を全部手放して、

全エネルギーと全リソースをジンジブという会社につぎ込むことを大決心

します。優秀な人材が3社に分散していたことに課題を感じており、全リソースを集中させ、意思決定も大胆にしなければと、自分を追い込む選択をしたのです。

「つぎ込むことを決心した」と一口に言っても、並大抵のことではありません。というより、言葉を選ばずに表現すると、「よくそこまで思い切った決断と行動ができたな……」と、ある意味恐れるレベルです。

当時の社員に対しては、佐々木さんは自分の気持ちを、次のようにストレートに伝えたそうです。

「ジンジブで取り組む高卒採用支援は『やりたい』ではなく『やらなければならない』ことである」
「リソースが分散している。ジンジブに集中させたい」
「再就職に有利になるよう、今ある顧客を持って行ってやめてよい。ジンジブに残ってくれるなら、それも嬉しい」

結果、マネージャークラスの半分もジンジブに残ったそうです。
退職する社員に、顧客をつけて再就職をサポートするのもすごいと思いますが、佐々木さんの気持ちに共感して残った社員が半分もいたのも、すごいと感じます。

佐々木さんは、このジンジブに全振りしたことについて、「自分は追い込まないと遊んでしまう。追い込んだほうが力を発揮するタイプなんです。黒字を捨てたらもうやるしかないので」といいます。
今の世の中には、口だけで偉そうなことを言って何も動かない人も多いですが、ここまで思い切ってガッツリ行動に移す、実践する佐々木さん。四の五の言わずに「やるか、やらないか」。何かを成し遂げられるかどうかは、「やるか、やらないか」の違いなのだろうなと感じます。

ここまでの決断と行動の背景にあったこととして、佐々木さんは「僕は友だちに恵まれていますから。だから(こういう決断も)できることです。上場企業の社長や役員など(肩書だけではなく)本当に素晴らしい友人がたくさんいるので、最悪、なんとかなるだろうという気持ちがありました」と語ります。これも、素敵なお話と思います。

4)実際に高卒人材を採用している佐々木さん

その後、コロナ禍の影響を受けた時期もありましたが、現在はそれも復活。冒頭でご紹介した通り、地域の金融機関や、その取引先である中小企業、ベンチャー企業からのニーズも増えており、実績も上がっています。

高卒人材を採用するのは、特に地域の中小企業、ベンチャー企業にとって、本当に意義のあることだと感じます。人手不足、特に若い世代の人材が足りないのはどこの企業でも深刻な課題です。それに対して高卒人材はポテンシャルがあります。

佐々木さんは、自分たちジンジブでも実際に高卒人材を採用しており、大いにポテンシャルを感じているといいます。例えばジンジブでは、7年ほど前から毎年、高卒半数・大卒半数を採用して、数年間をかけてどのような結果になるか試しているそうです。最初の1年は高卒人材は知識面などで大卒人材に遅れを取ることもあるようですが、3年も経つと、差はなくなるそうです。むしろ、「素直さは高卒人材のほうが勝っているため、成長伸びしろがあるかもしれない」と佐々木さん。

ジンジブでは現在、9拠点中3拠点の支店長に、高卒人材を抜擢しているそうで、彼らは入社7年で25才! キャリアとしては支店長を任せられるだけのものを積んでいながらも、まだ24~25才という若さです。こうして考えると、高卒人材は企業にとって、若返り、将来性といった意味でもポテンシャルがあるのではないでしょうか。

4 夢がどんどん広がる 今後の展望

3年間で50行以上の金融機関と提携しているジンジブ。地域の中小企業によりよいサービスなどをご紹介している地域金融機関のビジネスマッチング部門の方が特に興味を示しているようです。
「高卒でそんな採用の仕方があるのか」と、金融機関がお客さん(取引先企業)を紹介してくれるのだそうで、そうした紹介などからの商談は、月に300件近くにのぼります。そのうちの20~30%のお客さん(取引先企業)が導入してくれるそうです。実際に取引先企業に喜ばれる、かつ自分たち(金融機関)の収益にもつながるので、ジンジブのサービスは金融機関としても導入を検討しやすいのかもしれません。

特に地域金融機関や地域の中小企業には、「地元の若者を採用し定着させたい。地域に根付かせたい」ニーズが強くあるのも後押ししているのでしょう。
しかし、佐々木さんの眼差しはもっと先の未来を見ています。

「高校生は全国に待っているわけですから、高卒採用支援を全国に展開したいです。特に地方の高校生は困っていますから。都心から地方へ行く高校生の支援も、地方から都心へ行く高校生の支援も、両方やっていきたい。そうして全国に人材の流動性を作れたらと考えています」

実際に、今後は拠点も各地に増やしていくのが決まっているとのことで、これは待ち遠しいです! 高卒、大卒にかかわらず、誰もがやりたいことに出会える、選択肢が広がる未来。超有言実行で、「絶対やらなあかん」と決めたら必ず行動する佐々木さんたちが、そういう未来をつくると感じます! すごいお話を、本当に有り難うございます。

なお、高卒採用に並々ならぬ思いを持つ佐々木さんが、高卒採用について分かりやすく説明している動画もありますので、ここにご紹介します。

以上(2023年4月作成)

春の全国交通安全運動(2023/4号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

4月になり新入学児童の通学が始まります。また新型コロナウイルスの感染状況が落ち着きをみせており、買い物や観光などで外出する人も増えています。一方で通勤・通学、配達、趣味などで自転車の利用を始める人も多いと思われます。

この時期は、このように地理に不案内な歩行者や慣れない自転車利用者が増えるため、交通事故のリスクが高まります。

「春の全国交通安全運動」が実施されますので、これを機会に歩行者や自転車との事故防止について考えてみましょう。

春の全国交通安全運動

1.春の全国交通安全運動

「春の全国交通安全運動」が以下のとおり実施されます。
(内閣府・警察庁等主催)

◆運動期間:令和5年5月11日(木)から20日(土)まで
◆交通事故死ゼロを目指す日:令和5年5月20日(土)
◆重点テーマ(運動重点)

<全国重点>
①こどもを始めとする歩行者の安全の確保
②横断歩行者事故等の防止と安全運転意識の向上
③自転車のヘルメット着用と交通ルール遵守の徹底

<地域重点>
都道府県の交通対策協議会等は、全国重点のほか、地域の交通事故実態等に即し、必要に応じて、地域の重点を定めています。

春の全国交通安全運動ポスター

詳しくは、内閣府「令和5年春の全国交通安全運動推進要綱」をご参照ください。
https://www8.cao.go.jp/koutu/keihatsu/undou/r05_haru/youkou.html

2.自転車安全利用五則の改定

自転車の通行方法等を定めた「自転車安全利用五則」が令和4年11月に改定されました。

<自転車安全利用五則>
①車道が原則、左側を通行
 歩道は例外、歩行者を優先
②交差点では信号と一時停止を守って、安全確認
③夜間はライトを点灯
④飲酒運転は禁止
ヘルメットを着用

令和5年4月から、道路交通法の一部改正により、自転車乗用中のヘルメット着用が努力義務となりました。

※自転車乗用中の交通事故で亡くなった人の6割近くが頭部を損傷しています。また、ヘルメット非着用時の致死率は着用時と比べ約2.2倍高くなっています。

ヘルメット非着用時の致死率

※自転車の交通事故は1年間で約7万件発生しており、自動車との出会い頭事故の場合は重大事故となる傾向があります。また自転車事故で亡くなった人の8割近くに何らかの法令違反が認められています。

出典:警察庁HP「自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~」より弊社作成
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bicycle/info.html

3.事故防止に向けて

歩行者や自転車の利用者の中には、交通ルールを知らない、あるいは知っていても遵守する意識が低い人がいます。これを踏まえ歩行者や自転車との交通事故を防止するために、自動車の運転者が守るべきポイントを紹介します。

  • 交通ルールを遵守し、歩行者優先を徹底する。
  • 施設等への出入りのため歩道や路側帯を横断するときは、横断する直前で一時停止する。
  • 交差点を右左折するときは、自転車の有無を確認する。
  • 歩行者や自転車の側方を通過するときは、安全な間隔をとる、または徐行する。
  • 歩行者や自転車の多い、ゾーン30などの生活道路の通行を避ける。 など

都道府県の警察が公開している「交通事故発生マップ」を活用して事業所周辺や自宅周辺の危険箇所を確認し、通行時の注意点を話し合ったり、ヒヤリ・ハット体験を情報共有したりするなど、職場や家庭で交通安全について考えてみましょう。

<交通事故発生マップの一例>
警視庁HP「交通事故発生マップ」
https://www2.wagmap.jp/jikomap/Portal

以上(2023年4月)

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画像:amanaimages

異能の集団“プロデューサー公務員”を育てた村役場の職員の意識改革/1400人の山村のキセキ(後)

書いてあること

  • 主な読者:地方創生に関心のある経営者や町おこし担当者、地方創生を支援する金融機関
  • 課題:過疎化によって人材、資源、資金の全てが不足し、活力を取り戻す方策がない
  • 解決策:森林資源の価値の最大化を目標に、村内起業やSDGs、DXなどに挑戦し続けている岡山県西粟倉村の取り組みを参考にする

1 村役場の職員の意識は、こうして変わっていった!

このシリーズでは、西粟倉村の約15年間の軌跡と、地方創生の成功モデルと言われるまでの“奇跡”を遂げた理由について、西粟倉村役場の上山隆浩・地方創生特任参事へのインタビューを、前後編の2回にわたって紹介します。

前編では、西粟倉村が森林資源の価値最大化を目指した「百年の森林(もり)構想」に取り組んだ約15年の軌跡についてお聞きしました。

西粟倉村が約15年間でここまでの変貌を遂げる原動力となったのは、何といっても取り組みの中心的な役割を担った村役場の職員たちの存在です。後編では、西粟倉村を変えた村役場の職員たちが、どのような意識改革によって育成されていったのか聞いています。

2 “プロデューサー公務員”だから村を動かせる

1)村役場の職員の役割は、事業のプロデュース

百年の森林構想が始まってから、職員の働き方が大きく変わりました。構想を進めるために、民間の方とお話しする機会が増えたことが、業務の合理化につながったのです。

現在、村役場の職員(行政職)は38人です。それぞれが専門的な知見を持っているわけではありませんので、事業を進める場合、職員ができることは限られています。民間の方たちとお話しし、共に事業を進める中で、村役場の職員がやらないといけないことと、民間の方たちにやってもらったほうがよいことを、明確に意識することが重要だと感じるようになりました。

実際に事業を進めるために必要な議論は、民間の方たちにも参加してもらわなければなりません。ですから、職員がやることは、事業をプロデュースすることでリソース(ヒト)とファイナンス(カネ)を獲得しながら事業を進める体制をつくることです。そのためにバックキャスティング(目標を設定し、その実現のために逆算して計画を立てること)しますが、タイムスケジュールやアジェンダも民間の方たちに任せることもあります。村役場の職員はこうした作業に慣れていませんので、実践で訓練しながら覚えていきました。

百年の森林構想によって安定的に進んでいる森林整備

2)民間の「プレーヤー」が自走できる仕組みをつくった後は手を離す

最初の事業のテーマは、ローカルベンチャーを育成して「稼げる村」にすることでしたので、私がいた産業観光課と民間の方たちとで事業を進めていきました。そこで経験したのは、最初の段階から、実際にローカルベンチャーとして事業を行う「プレーヤー」になってくれる人たちにも入ってもらっていたことで、事業が進めやすくなったということです。

事業が採択され、走り始めると、そのプレーヤーが自らの事業として取り組むので、職員の手を離れてくれます。職員は、民間のプレーヤーが自立して事業を進められるような仕組みさえつくれば、いつまでも抱え込んだり関与し続けたりせずに済むので、事業を進めるのに合理的な手法だということが分かりました。そもそも、自治体が関与し過ぎると、概して良いことにはならないものです。

つまり、事業を進めていく上で、職員が行うべき重要な役割は、ディレクションだということです。一般的に、行政が事業を進める際に最も困るのは、事業の担い手(ヒト)がいないことと、事業を行う資金(カネ)がないという2つだけです。この2つさえ解決すれば、大体「やってみたら」という話になります。ですので、ディレクションする職員が、リソース(ヒト)とファイナンス(カネ)を調整することが大事です。ファイナンスに関しては、今は地方創生にかかわる交付金や国の補助制度の他、ふるさと納税など多くの方法があるので、可能な限りそれを活用する必要があります。

そこまで職員が行えば、後はリソースとなる民間の方たちが自己責任で考え、必要な人を集めて、実行してもらえます。

こうした役割を行う村役場の職員を、私たちは“プロデューサー公務員”と呼んでいます。

3)ローカルベンチャー育成で培った成功体験を全庁横断組織で横展開

「稼げる村」にするための事業を通じて分かった、プロジェクトを成功させる秘訣は、ビジョンとプロジェクトを一体化させることです。百年の森林構想では、2058年には、村を百年の森林で囲まれた「上質な田舎にする」という旗を掲げ、そのための森林資源の価値の最大化というビジョンを示し、そのシンボルプロジェクトとして具体的に百年の森林事業に取り組み、共感・共有を得ることができて人材も集まりました。

この成功体験によって、民間の方たちとプロジェクトを進めるノウハウが積み上がりました。そして、「稼げる村」になるためのローカルベンチャーが育成されるうちに、森林に関する事業の他にも、介護や助産婦、幼児教育など社会資本系のローカルベンチャーが徐々に立ち上がるようになってきました。このため、私がいた産業観光課だけなく、全庁的に対応する必要が出てきました。そこで2017年に、全庁横断的な組織である「地方創生推進班(現在は地方創生推進室)」を設置しました。

地方創生推進室を設置した後の西粟倉村役場の組織体系

3)プロジェクトを動かすのは提案者と賛同者

地方創生推進班は当初、役場内の各部署から2人ずつ参加してもらい、12人で構成しました。

百年の森林構想のときと同様に、まずはメンバーの思いや価値観を集約した旗を立てることから始めました。皆で1年かけて話し合い、「brighten our forests, brighten our life, brighten our future!! 生きるを楽しむ」というキャッチコピーを作りました。

次に、その旗を実現させるためのシンボルプロジェクトを決めることにしました。まず12人のメンバーが1人1つずつプロジェクトを提案して、12のプロジェクトの中から、皆で話し合って4つを選びました。そこから生まれたのが、企業や研究機関と協働して地域課題を解決する「一般財団法人西粟倉村まるごと研究所」や、教育コーディネーター事業を行う「一般社団法人Nest」です。

選んだプロジェクトは、提案したメンバーがリーダーになり、その提案に「いいね」と票を入れたメンバーが参加します。自ら提案、賛同したプロジェクトですから、「受け身」で臨む職員はいません。プロジェクトには、必要な知見を持っている外部の方にも参加してもらいます。

プロジェクトは、2年もしくは3年以内にスタートアップさせるという目標からバックキャスティングして、その1年でやるべきマイルストーンを設定し、それに向けて実行していきます。3年というのは、交付金が3年のものが多いからです。

4)職員がやることと民間に委託することを明確に分ける

ただし、職員は自分の通常の業務もありますので、外部の民間の方に手伝っていただくことになります。ですから、会議では職員が3~4人に対して、民間の方が7人といった感じになります。職員が自分たちでやることと、民間の方に委託することの線引きをしっかりとやっておくことが大事です。どちらかというと、実務を行っていただくのは民間の方なので、職員は、どうありたいか、そのために何をやるのか、というアイデア出しと、その実施が役割になります。

職員がやるのは、とにかくブレインストーミング(メンバーで議論してアイデアを出し合う)をして、事業を進めていくことです。会議の議事録の作成や、アジェンダ(会議の議題)の整備などは、民間の方にやってもらいます。また、専門家の方にも随時入っていただき、議論の方向性が間違っていないかを指摘してもらいます。最終的には、地方創生推進班を統括する私のところに上がってきて、事業が決まるという流れになっています。

地方創生推進班のメンバーは後に16人に増やしましたが、メンバーたちは、4年間でそのような訓練をしてもらいました。現在では、当時のメンバーたちが、実際にスタートアップした事業を展開させる役割を担ってくれています。

5)リソースの活かし方

事業を進めていくためには、必要なリソースの選択が求められます。例えば地元の金融機関は、脱炭素に関する新電力事業会社の株主として参加してもらっています。村民にとっては、都市部の民間企業でなく地元の企業が出資しているという安心感があります。また、地元の金融機関は地域の電力事業者とのつながりもありますので、電力事業者に業務面のお願いをしやすくなるという点でも、村にとってメリットがあると思います。

地元の金融機関にとっても、地域の脱炭素などの事業に携わっているというバリューを得られていると思いますので、Win-Winの関係ができていると思います。

3 「怪しい人たち」を受け入れた村民の意識改革

1)「村役場は移住者には優しいけど、村民には冷たい」

百年の森林構想がスタートして、木材加工事業などのローカルベンチャーが起業していった頃は、村民の中には、「50年かけて育ててきた森林がお金になるようになったときに来て、おいしいところだけ持っていくのではないか」「どうせ2年、3年で村から出ていってしまうのでは」といった声があったのも事実です。

また、移住者に対して、「怪しい人たち」「負け組が来た」という感覚を持つ村民もいたようです。そもそも、村民の中には、「田舎ではダメだ」と、自分の子供たちを都会に送り出している人もいますので、西粟倉村の百年の森林構想に共感して移住していただいた人と、価値観が全く相いれないわけです。

移住を支援する国などの制度によるサポートが手厚いこともあり、村民の中には、「村役場は外からの移住者には優しいけれど、村民には冷たい」「村の施策が村民に向いていない」と批判する人もいました。

若者の流入で村民の約16%が移住者に

2)移住者が10年以上住み続けるうちに、徐々に村民の見方が変化

村民の移住者に対する見方は、大きなきっかけがあったわけではなく、徐々に変わっていきました。ローカルベンチャーが残っているという状態が続いているということが、村民の見方を変えている最も大きな要因だと思います。ローカルベンチャーの起業が始まって10年以上たちますが、ローカルベンチャーは52社のうち50社が今でも村に残っていますので、「昔はすぐに村から出ていくだろうと思っていたけど、まだ残ってくれている」と、認識を変えていかれたと思います。

ですが、もし、ローカルベンチャーが2年や3年で潰れるケースが増えていたら、「それみたことか。村はお金を使ったのに、成果を出せていない」と、批判を受けるようになったかもしれません。もしそうなっていたら、村も萎縮してしまい、成果が出るまで事業を継続的に進められなかったかもしれません。

地域のコミュニティーの拠点となっている「あわくら会館」

3)移住者が地域コミュニティーを支える存在に

ローカルベンチャー育成の取り組みによって、西粟倉村ではそのようなケースがなく、逆にローカルベンチャーが事業を拡大し、村民を雇用するケースも増えています。それだけでなく、今や移住者の方たちが、消防団や介護施設など、人口が減っていくとできなくなる住民サービスの担い手になって動いてくれています。また、移住されてきた人たちは20代から40代で子育て世代であり、地域コミュニティーやレジリエンスの中心的な位置にいますし、保育園の園児の4割を移住者の家族が占めています。

もはや、移住者抜きには村の将来を語れなくなってしまっていて、村民も移住者の価値を認めるようになってきたということだと思います。もちろん、今でも移住者に厳しい目で見る方がいるのも事実ですが、多くの村民は移住者と一緒に地域コミュニティーを維持するようになっています。

以上(2023年3月)

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画像:岡山県西粟倉村役場

サービスロボットはここまで進化した! お茶くみする警備ロボ、同時に4品つくる調理ロボなどが登場

書いてあること

  • 主な読者:人手不足に悩むサービス業や流通業などの労働集約型産業の経営者
  • 課題:従業員の業務負担の軽減や、省人化を図るためにロボットを導入したい
  • 解決策:警備、物流・倉庫、飲食、接客の4種類の業務の現場で働くサービスロボットの事例と実際に導入した企業の生の声を参考に、自社で導入可能なロボットを検討する

1 あなたの隣にサービスロボット

今やロボットは、工場などで稼働する産業用ロボットだけでなく、サービス業や流通業など労働集約型産業にまで裾野を広げています。このような「サービスロボット」と呼ばれるロボットは、警備や接客といった対人業務までこなすようになっており、従業員の業務負担の軽減に役立っています。

この記事では、警備、物流・倉庫、飲食、接客という4種類の業務の現場で働くサービスロボットの事例と、実際に導入した企業の声を紹介します。従業員の業務負担を軽減させることができるか、ぜひご検討ください。

2 警備

1)「ugo(ユーゴー)」(ugo 東京都千代田区)

1.特徴

「ugo」は、施設内を巡回・点検するロボットです。

  • SLAM(自己位置推定)技術による自律移動
  • 2本の7軸アーム
  • 上半身を上下移動できるリフター
  • 360度カメラや深度カメラ、衝突防止機能、音声機能など

の機能を持ち、

遠隔操作も可能で、複数体を同時に制御することもできる

そうです。立哨(りっしょう)、巡回、点検をして、人の警備業務を補完します。急な業務内容の変化や不測の事態が発生した場合には、遠隔操作に切り替えて対応することが可能です。

また、警備業務の他にも、映像データの記録、報告書の作成などの事務作業も任せることができます。同社広報担当の荒木祥子さんは、

「ビルの警備では、ugo2台の導入で、 警備員4名分の労働力の補完につながりました。また、データセンターでは、メーターの読み取り、記録、PCヘのデータ入力といった事務作業を代替することで、人が行う作業時間を約50分削減できました」

と言います。

なお、ugoのアームはあらかじめ動作登録をすることで、エレベーターのボタンを押したり、ものをつかんだり、お茶くみをしたりすることもできます。そのため、警備やデータセンター、火力発電所などでの巡回・点検などだけでなく、工場での部材・製品などの運搬、遠隔操作を利用した来客案内やお茶出し、老人ホームでの介護業務のサポートといった、さまざまな現場で導入されています。

左はugoの全身。右上はアームを使いエレベーターのボタンを押す様子。右下はペットボトルをつかむ様子。

2.導入企業の声

2023年3月時点で「ugo」が導入されているのは、データセンター、火力発電所、オフィスビル、工場、介護施設、研究機関などです。導入先の施設からは、次のように評価されているそうです。

  • エレベーターの操作ボタンが押せるので、ロボットに連動するエレベーターに改装する必要がなくなった(商業ビル)
  • 自動巡回/点検、自動運搬、自動棚卸しなどに加え、遠隔操作もできるので力が必要な単純作業や事務的なルーティンワークが減った(工場)
  • お客さまへの簡単な声掛けや食事の誘導、レクリエーションの体操などでも活用でき、作業の軽減につながった(介護施設)
■ugo■
https://ugo.plus/

2)「PATOROR (パトロR)」(ZMP 東京都文京区)

1.特徴

「PATOROR」は、歩行程度の速度で自動運転し、表情と声で人に働きかける警備ロボットです。高さ約109センチ幅約65センチのボディーに、

  • 自律移動機能
  • 360度カメラ
  • 消毒液散布機能
  • パトランプ(青色回転灯)
  • 液晶パネル、スピーカー

が搭載されています。これらの機能を使い、

カメラで周辺の障害物を避けて走行し、事前入力したマップ情報に従って適切な場所に消毒液を散布する

などの働きをします。また、液晶パネルで表示される目の表情は、状況に合わせて変化するとともに、スピーカーから「右に曲がります」「道を譲ってください」などの声掛けをします。同社ロボセールス&ソリューション事業部の池田さんは、

「営業中の商業施設やオフィスビル、オフィス内などでも人に威圧感を与えずに、親しみを感じていただいています」

と言います。

左上は怒り顔で走るPATORO®。右上は消毒液をドアノブに吹きかけている様子。下は人に混じって屋外を走行している様子。

2.実証実験での声

2023年3月時点で警備ロボットとしての導入実績はありませんが、実証実験は行われています。実証実験を行った機関からは、次のように評価されているそうです。

  • 危険度の高い場所や人が行きにくい場所、夜間の公園などの巡回に期待できる(警察)
  • 人通りの多い地下街空間でも、人に代わって消毒作業ができるので助かる(商業施設)
  • 手すりやベンチ、床面などの消毒も自動で行うので消毒作業が軽減できそう(鉄道)
■ZMP■
https://www.zmp.co.jp/

3 物流・倉庫

ご紹介するのは、物流支援ロボット「CarriRoR(キャリロR)」(ZMP)です。

1.特徴

「CarriRoR」は、物流施設で荷物などを搬送するロボットです。タイプとしては、

  • ハンドルが搭載された「台車タイプ」
  • ハンドルを取り外してパレット台車の下に潜り込んで搬送する「パレット積載タイプ」

があります。

決められたラインに沿って走る無人搬送車(AGV)と違い、カメラで施設内の標識を読み取り、自律走行します。具体的には、

  • 路面に貼られた標識を識別しながら、自動で荷物などを搬送する「自律移動モード」
  • ジョイスティックで操作ができる「ドライブモード」
  • ビーコン(発信機)に反応し、自動追従する「カルガモモード」

という3つの機能があります。

さらに、同社のロボット管理システム「ROBO-HI(ロボハイ)」を導入すれば、

ロボットと自動ドアなどの設備が連携し、CarriRoRの移動に従ってエレベーターが自動開閉するなど、人手を介さないロボットの運用が可能

になります。同社ロボセールス&ソリューション事業部の塚田さんは、

「費用対効果が一番に求められる倉庫や物流センターでは、自律移動モードが一番活用されています。直近では、ROBO-HIを使用して自動ドアやエレベーターなどの施設設備と連携して活用するケースが増えています」

と言います。また、CarriRoRは、物流拠点や工場、小売店の搬送などの他、ホテルなどでも導入されているそうです。

左上はカルガモモードで牽引中の様子。右上は台車タイプの「CarriRo®」。下は自律移動モードで牽引している様子。

2.導入企業の声

2022年6月の販売開始より「CarriRoR」は累計300社以上の導入実績があります(2023年2月時点)。導入先の企業からは、次のように評価されているそうです。

  • 自社のロールボックスパレットの改造などをせずに搬送できる(運送)
  • カルガモモードを使うと1人のスタッフで多くの配膳ができるので助かる(旅館)
  • 声も出るため、なじみやすい、かわいい(小売)
■ZMP■
https://www.zmp.co.jp/

4 飲食

ご紹介するのは、4品同時に調理できるパスタ調理ロボット「P-Robo」(TechMagic 東京都江東区)です。

1.特徴

「P-Robo」は、パスタの調理ロボットです。幅約4メートルのボディーには、

  • 高出力・高回転するIH(電磁調理器)
  • 4つのフライパンを状況に合わせてハンドリングするアーム
  • P-Roboが何を調理しているか、一目で分かるモニター

などが搭載されています。これらの機能を使い、注文が入ると、

  • ソース・食材の投入
  • 麺のゆで上げ
  • かき混ぜながらの加熱調理(炒め調理)
  • 調理後のフライパンの洗浄

の4工程を自動で行います。このため、人が行うのは盛り付けだけです。また、独自開発した4つのフライパンを同時に稼働させることで、メニューによっては、1食目は約75秒、2食目以降は約45秒間隔で調理が可能だそうです。

同社広報担当の杉山さんは、

「P-Robo1台で1~2人の省人化が見込めます。ただ、ロボットが調理するという物珍しさだけでは、お店は続きません。熟練のシェフの味を再現し、ロボットなのにおいしい、と思ってもらうことにこだわって開発しました」

と言います。使いやすさにもこだわり、モニターで食材やソースの残量の確認もできるそうです。

左上はフライパンで同時調理する様子。右上はP-Roboが何を調理しているかが一目で分かる情報が表示されているモニター。下は「P-Robo」の全体像で、調理は左から右へ進んでいく。

2.導入企業の声

2023年3月時点で「P-Robo」が導入されているのは4店舗です。導入先の企業からは、次のように評価されているそうです。

  • レシピの暗記や調理方法を教える時間が減り、接客の指導に集中できるようになった
  • 注文から提供まで、通常店は約5分かかるところが1分強にまで短縮した
  • 通常の厨房が常時2~3人に対し、導入店は1~2人でまかなえるようになった
  • 人間の調理と比べて、味付けにブレがない
■TechMagic■
https://techmagic.co.jp/

5 接客

ご紹介するのは、1人で最大5体のロボットを操作できる「いつでも・どこでも・誰でも働ける、遠隔操作ロボット(以下「遠隔操作ロボット」)」(サイバーエージェント 東京都渋谷区)です。

1.特徴

「遠隔操作ロボット」は、遠隔操作によって1人で最大5体までの接客ロボットを操れるロボットです。このロボットには、

  • オペレーターの声をリアルタイムでロボットらしい音声に変換する
  • オペレーターの声に合わせてロボットが自動で動く
  • 細かい動作はパソコンを通じて操作できる

といった特徴があり、来場者は実際にロボットと話をしているような気分になるそうです。これまで商業施設、スーパーマーケット、アミューズメント施設、空港、保育園、行政施設などさまざまな現場で実証実験を行ってきた結果、

人が直接接客を行うよりも、ロボットを介してコミュニケーションを取るほうが、通常よりも高い立ち止まり率を実現

したといいます。また、通常の対面接客にはない顧客体験を生み出す可能性が発見されているそうです。

同社AI Lab(エーアイ ラボ)の馬場惇(ばば じゅん)主任研究員は、

「実証実験を行った商業施設からは、ロボットを介した質問対応を非常に多く遂行できたことから導入意向をいただきました。行政施設などからも、導入を検討したい意向をいただいています」

と言います。課題は、オペレーターの人件費を大きく上回る接客効果やコスト削減を実現できるかどうかとのことです。

左上・右上はスーパーマーケット、下は商業施設での様子。

2. 実証実験の声

遠隔操作ロボットの実証実験では、次のような結果が得られたそうです。

  • ロボットを通して園児や来場者の人気者になれるので、孤独感の解消や自尊心の向上といったやりがいにつながる可能性がある(オペレーター)
  • チラシ配布では通常の約5倍の受け取りに、声掛けの立ち止まり率は1.4倍になった(スーパーマーケット)
  • 利用客の約67%がロボットと会話し、また会話の8回に1回は笑いが起きるなど、対面接客にはない新たな『顧客体験』を提供できる可能性を感じた(アミューズメント施設)
■サイバーエージェント■
https://www.cyberagent.co.jp/

以上(2023年4月)

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若手社員の定着のために

入社した新卒社員や若手社員が「定着しない」「離職が目立つ」という企業経営者・人事担当者の声は非常に多くなっています。それを裏付けるように、最新の厚生労働省の調査でも、新卒社員の3割が入社後3年以内に退職しています。

本稿では、新卒入社1年目から3年目の若手新卒社員を対象にした「仕事や会社についての満足度」の調査を参考に、早期退職に至る若手社員の仕事のモチベーションや勤続意欲に関する考えを明らかにしていきたいと思います。

1 新入社員の入社理由

リスクモンスター(株)が、新卒入社1~3年目の男女600名を対象にした調査において、「現在の勤務先を就職先として選択した際の選択理由」(上位)は次のようになっております。

現在の勤務先を就職先として選択した際の選択理由

(リスクモンスター(株)「若手社員の仕事・会社に対する満足度」)

福利厚生がトップということは、意外のように思われますが、昨今の新入社員は、福利厚生を含めた労働環境の良い企業を選択し、入社後も採用時に期待したイメージが現状においても満たされていることが勤続意欲の維持に寄与しているものと考えられます。

2 入社後3年間に対する勤続意欲

また、「当面3年間に対する仕事・会社に対する勤続意欲」では、次のような結果となり、若手社員のおよそ2人に1人が3年以内での退職を考えていることが明らかになっています。

当面3年間に対する仕事・会社に対する勤続意欲

※背景色付きは、回答率が半数を超える数値

(リスクモンスター(株)「若手社員の仕事・会社に対する満足度」)

新卒入社2年目では「3年以内に退職」が前回調査より12ポイント増加しています。この世代は、就職活動においてコロナ禍の影響により就職活動がままならず、就職先の選定が不十分であったことが原因であると考えられます。

3 さいごに

また、本調査の別の項目では、「サービス残業」「業務効率が悪い」「有給休暇が取得しにくい」などは、時代遅れな働き方と認識されています。

このような調査結果を見るに、まずはワークライフバランスを重視した労働環境をつくること、タイムパフォーマンスを高めること、そして自社のことを知ってもらう機会を作るということが重要といえましょう。

企業にとって、若手社員の採用は、大きなコストをかけて実施する投資であって、早期離職は大きな損失となります。コロナ禍を経て変化してゆく社会環境を捉えて対応していくとともに、引き続き働き方改革の推進を図っていくことが、早期離職防止のための有効策となるのではないでしょうか。

※本内容は2023年3月13日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

若手社員の定着のために

入社した新卒社員や若手社員が「定着しない」「離職が目立つ」という企業経営者・人事担当者の声は非常に多くなっています。それを裏付けるように、最新の厚生労働省の調査でも、新卒社員の3割が入社後3年以内に退職しています。

本稿では、新卒入社1年目から3年目の若手新卒社員を対象にした「仕事や会社についての満足度」の調査を参考に、早期退職に至る若手社員の仕事のモチベーションや勤続意欲に関する考えを明らかにしていきたいと思います。

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ベストセラーを連発する編集者に聞く、どんな相手ともプロジェクトを成功させるコミュニケーション術とは?

書いてあること

  • 主な読者:取引先や上司、複数の関係者とのプロジェクトを成功させたいビジネスパーソン
  • 課題: 相手が目上だったり、大勢の意見が寄せられたりすると萎縮してしまい、思い通りの方向にプロジェクトを進められない
  • 解決策:「自分が下」といった上下関係を意識から外し、プロフェッショナルとして相手に見合う仕事をするという意識を持つ。その上で「譲っていい部分は譲る」「ビジネスマナーではなく相手に合わせる」といった柔軟な気遣いを心掛ける

1 ビジネス書年間トップ5に3冊を送り込んだ編集者の仕事術

2018年のビジネス書ランキング・トップ5(日販)のうち3冊は、実は1人の女性編集者が手がけたということをご存じでしょうか。

堀江貴文さん、落合陽一さんの共著「10年後の仕事図鑑」(30万部)、齋藤孝さん著「大人の語彙力ノート」(45万部)、伊藤羊一さん著「1分で話せ」(60万部)、この3つのベストセラーを生み出したのが、SBクリエイティブの学芸書籍編集部・副編集長(当時)だった多根由希絵さんです。

他にも堀江貴文さん著「本音で生きる」(37万部)、成田悠輔さん著「22世紀の民主主義」(24万部)など、数え出したらキリがありません。

これほどのヒット作を連発する辣腕でありながら、彼女を知る人は「謙虚で奥ゆかしく、たおやかで腰が低い」と口をそろえます。

名前を聞くだけでも圧倒されそうな著名人たちを相手に、どのようにしてリーダーシップを発揮し、著書出版というプロジェクトを成功に導いてきたのでしょうか。多根さんへのインタビューで見えてきたのは、

  • 勝ち負け・上下・強者弱者の関係から降り、フラットな姿勢で接することで対等に意見を言い合える関係をつくる
  • 譲ってもいいところは譲り、ビジネスマナーよりも相手に合わせることで最後には思い通りの結果を得る

という、多根さんならではのコミュニケーション術でした。

これは、立場や肩書に縛られがちなビジネスシーンにおいても、コミュニケーションを円滑にし、取引先や上司、部下との間で利益を最大化させるポイントともいえるでしょう。

実際、多根さんがどのようにそうそうたる面々と接し、プロジェクトを成功させてきたのかを詳しく紹介していきます。

2 勝ち負け・上下・強者弱者の関係から降りる

1)フラットな目線が「優しい堀江さん」を見出した

堀江貴文さん著「本音で生きる」は、読者から「堀江さんが優しい感じがする」と評され、堀江さんのことを好きな人からも嫌いな人からも手に取られているのが特徴だといいます。結果的に、同書の読者は半分を女性が占めています。

堀江さんからも「オンラインサロンの女性会員が増えた」と言われたそうです。一見、バサバサと世相や人を斬り捨てているかのように見える堀江さんの「優しい一面」は、なぜ引き出されたのでしょうか。

多根さんは、

「私からは、堀江さんがそう見えたのだと思います」

と振り返ります。

多くの著者をサポートして成果を上げてきた多根さん

多根さんによると、堀江さんは書籍の制作中、多根さんやライターへダメ出しをしたとしても、決して言いっ放しで捨て置くことはなかったといいます。取材がうまくいかなくて落ち込んでいると、「なんとでもなる」と声をかけてくれました。その後、マネージャーを通して「原稿作成で困ったときには、ネットの記事などを参考にしてもらってよい」と伝えてくれ、実際に「なんとでもなる」ようにしてくれたのだそうです。

多根さんがフラットな目線で堀江さんを見ていたからこそ、こうした一面に気づき、深掘りすることができたといえます。萎縮してしまいそうな相手でも立場や肩書を取り払い、人となりを見る。そうして相手の魅力を引き出し好きになることができれば、互いの余計な心の壁が消え、フラットな関係を築くことができます。

多根さんも、

「こちらをフラットに見てくれる著者さんとのお仕事のほうが、売り上げといった結果につながっている気がします」

と語ります。

2)勝ち負け・上下・強者弱者の関係から降り、プロフェッショナルな仕事をする

「相手をフラットに見る」というのは言うは易しで、思ってもなかなかできることではないかもしれません。多根さんはフラットな関係を築くコツとして、

勝ち負け・上下・強者弱者の関係から一度降りてみる

ことが重要だと語ります。

「ある強面の著者の方が、取材中、ライターさんへ『俺のこと怖いと思っているだろう。だからダメなんだよ』とおっしゃっていたことがありました。『怖い』と身構えていれば、相手には伝わります。また怯えることが、相手に警戒心を抱かせ、かえって攻撃性を増してしまうこともあるでしょう。その時点でフラットな人間関係ではなく、上下関係、あるいは強者と弱者の関係になってしまっています。そのまま役割が固定化してしまえば、プロジェクトが建設的に進むのは難しいでしょう」(多根さん)

余計な恐怖心や萎縮を取り除くことで、相手を無用に忖度(そんたく)することがなくなり、よりプロフェッショナルな仕事をすることができます。

多根さんと仕事をしたある著者は、「多根さんは謙虚で奥ゆかしく腰も低いけれど、私と意見が異なるときには“先生は、そうお考えなのですね。私は……”と、はっきりおっしゃるのですよ」と語ります。

フラットな人間関係をつくることで、目の前のプロジェクトのために率直な意見を出し合えるようになるのです。

勝ち負けや上下関係を意識しないために、多根さんが大事にしている言葉が、ホテルグループのリッツ・カールトンのモットー

「We are Ladies and Gentlemen serving Ladies and Gentlemen」
((お客様である)紳士淑女をおもてなしする私たちもまた紳士淑女です)

という言葉です。

これは、日本実業出版社に在職中、リッツ・カールトンの元日本支社長・髙野登さんの著書「リッツ・カールトン 一瞬で心が通う『言葉がけ』の習慣」を制作しているときに知った言葉だといい、多根さんは、

「上下関係で、自分が下だからと意見を言わなかったり動かなったりするのではなく、プロフェッショナルとして、相手に見合う仕事をするという意識や、自分自身の尊厳の大切さを感じました。そういう立ち位置でいたほうが、上下関係や人間関係とは関係なく、純粋に目の前の仕事を成功させるためにはどうするかを軸にできるように思います」

と話します。

3 相手の意見を取り入れ、自分の意見は譲れない2割を通す

1)守るのは大切な枠組みやコンセプトだけ。あとは他の人の意見に譲ってよい

上下関係から降りるといっても、中には上下関係をこそ大事にする人もいます。そういう相手の場合、多根さんは

10のうち8は相手の意見を聞き、最低限の2だけは自分の意見を通すようにする

そうです。

「10のうち8は相手の意見を聞き、最低限の2だけは、自分の意見を通すようにします。自分の考えや、やり方ではなかったとしても、大切なのはプロジェクトであって自分ではありませんから」(多根さん)

複数の人間が関わるプロジェクトの場合、自分の意見が全て通ることなどほとんどありません。

例えば、2018年のビジネス書で2番目に売れた堀江貴文さん、落合陽一さんの共著「10年後の仕事図鑑」は、当初の多根さんの企画とは違う構成になったといいます。ですが多根さんにとって大切だったのは、「10年後の仕事図鑑」というタイトルと、著者として落合陽一さんと堀江貴文さんの2人がいることでした。

「譲れないことは、実は1つくらいしかなく、そこに関わらないところはこだわらずに、手放していいと考えています。売り上げを左右する大切な枠組みやコンセプトは守りますが、それ以外の細かなところは、他の人の意見に譲ってよいのです」(多根さん)

2)相手の意見を取り入れることで、結果的に思い通りになる

他の人の意見を聞くばかりでは、最終的に自分の意見が消えてしまうのではないか、思い通りの結果にならないのではないかと不安に思う人も多いでしょう。

しかし多根さんが手がけた「世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか」の著者、Googleの元人事担当であるピョートル・フェリークス・グジバチさんは多根さんについて、

みんなの意見を謙虚に「うんうん」「ありがとう」と聞いて、取り入れながら進めていくのだけれど、最後には自分の思い通りになっている

と語り、「いいリーダーシップがある」と評しています。多根さんがただ意見を聞くのではなく、

相手の意見を取り入れていることを提示しながら進めている

からだといいます。

相手の意見を聞きつつ自分のペースに持ち込むのが「多根流」

編集者の仕事には、著者だけでなく、ライターなどの外部スタッフ、上司、編集部内の他の編集者、営業担当などさまざまな人間が関わってきます。こうした関係者たちからいろいろな意見が寄せられますが、多根さんは全て丁寧に耳を傾け、調整しながら総合的にまとめようと考えているそうです。多根さんは、

「たとえ相手の意見をそのまま取り入れることはできず、多少調整をしたとしても、『Aさんの意見は、データに基づいて、このように(調整して採用)しました』と、丁寧に説明をするようにしています」

と話します。その理由について多根さんは、

「それを繰り返していると、関わる人たちにとって、多少なりとも自分の意見が反映された結論となるため、周囲も納得してくれやすくなる」

と話します。

また多根さんは、自社の営業部へも足しげく意見を聞きに行くといいます。

「制作過程で相談し、意見を取り入れていくと、一緒につくっている感覚を持ってもらえます。それによって、書籍を販売する段階でも『(どうすれば売れるのか)一緒に考えてあげよう』と協力してくださるのだと思います。関わる人が皆ハッピーになれるよう、三方よしを意識しています」(多根さん)

4 「相手が大切にしているもの」を大切にする

人間関係やコミュニケーションで心掛けていることについて、多根さんは、

相手が大切にしているものを大切にすること

と話します。

それはメールの文章やタイトルの付け方、やり取りのテンポといった些細(ささい)なことへも及びます。

例えば、テクノロジーに詳しいある若手研究者のメールには、余計な言葉が一切入らず、1行でも用件のみを簡潔に書かれているそうです。その根底には、その研究者が大切にしている「効率」があります。多根さんも宛名や「お世話になります」なども省いて、用件だけを一言で返信するようにしているそうです。

他方、ある一流ホテルの支社長のメールは、時候の挨拶から始まります。人間関係やホスピタリティを大切に考えている人ならではのメールです。多根さんも同様に時候の挨拶から始めるようにしているそうです。

こうした心掛けは、書籍の編集方針や書店のPOPなどにも至ります。

例えば、『小さく分けて考える』の著者・菅原健一さんには、「自分の著書は、どんな人にも分かりやすいよう、小難しくしたくない」という意向がありました。そこで、書籍はかみ砕いて丁寧な一冊にすることを心掛けたといいます。

他方、研究者はエビデンスを大事にしているため、書店のPOPなどに過剰なあおり文句を付けることは控えたそうです。

相手をフラットに見るということは、相手の肩書や立場だけでなく、時にビジネスマナーを超えて、相手の大事にしているものを見るということです。

ビジネスマナーではなく、相手に合わせる

のです。

フラットな人間関係とは、相手に合わせて柔軟な気遣いができるということでしょう。

(注)記事中の書籍の発行部数は、すべて2023年2月末時点のものです。

多根由希絵

多根由希絵(たね ゆきえ)

新卒時はプログラマーとして勤務。その後、日本実業出版社にてムック、雑誌(月刊「企業実務」)、ウェブ、セミナーなどの担当を経て、SBクリエイティブ学芸書籍編集部 副編集長。2023年3月よりサンマーク出版に勤務。SBクリエイティブでの担当作に「1分で話せ」(伊藤羊一著)、「大人の語彙力ノート」(齋藤孝著)、「本音で生きる」(堀江貴文著)、「10年後の仕事図鑑」(落合陽一・堀江貴文共著)、
「読書する人だけがたどり着ける場所」(齋藤孝著)、「2030年の世界地図帳」(落合陽一著)など。

以上(2023年4月)

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江戸時代の剣術家・宮本武蔵。無敗の剣豪が武器選びについて語った、経営の取捨選択にも通じる一言とは?

あまりたる事はたらぬと同じ事也

宮本武蔵は、巌流島での佐々木小次郎との決闘など、生涯60回以上の勝負で一度も負けなかったとされる、「無敵」の剣術家です。また、後年は剣術を会得した兵法家として大名家に仕えた他、絵画に通じるなど、剣術以外の才にも恵まれた多能な人物だったようです。

冒頭の言葉は、論語を出典とする「過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如(ごと)し」ということわざと同じような意味ですが、武蔵の場合はより実践的で、闘いに際して自分が使うべき武器について戒めています。武蔵は、この言葉の前後で、「道具以下にも、かたわけてすく事あるべからず」「人まねをせず共(とも)、我身(わがみ)に随(したが)い、武道具は手にあふやうにあるべし」と記しています。現代語に訳すと、「武器選びは、特定のものだけを好んだり、人のまねをしたりせず、自分の特徴を踏まえながら、自らに合うものにしなければならない」という意味です。

武蔵といえば、大小2本の刀を同時に操る「二刀流」が有名ですが、この剣術についても、武蔵は「片手で刀を持つことに慣れれば、やがては自在に刀を操れるようになる」と言っています。奇をてらったわけではなく、より洗練された剣術を身に付けようとした結果、行き着いた答えが「大小2本の刀」だったというわけです。

武蔵の戒めは、現代人にこそ当てはまる部分が多いのではないでしょうか。私たちがものを選ぶときは、好き嫌いや世間の流行、他人との比較を基準にしがちです。

そのことは決して悪いことではないのですが、一定の歯止めがなければ、際限なくものを欲しがり、結局「持て余す」ことになります。そのための歯止めになるのが、本当にそれが自分にとって最適なのか、という冷静な自己分析です。

これは、自分のものを選ぶときに限らず、会社の売り上げや利益の目標、人事評価、部下に課す仕事量などを決める際にも当てはまることだといえます。自分の好き嫌いに影響されたり、自社の現実を踏まえずに、「多ければ多いほどよい」「競合他社がそうだから、自社もそうでなければならない」といった理由だけで物事を決めたりしていては、地に足の着いた持続性のある経営や業務はできませんし、部下も付いてこられません。

もっと自分を成長させたいと望む人にも、武蔵の言葉は参考になります。成長するために、自分に足りないものを探すことはあっても、自分にとって不要なものを捨てることから成長に結びつけようと考える人は、少ないものです。

武蔵の言葉は、世界が抱えている問題の解決のヒントにもなります。SDGsで掲げられている目標の中には、例えば貧困や飢餓の解消など、まずは余っている人(地域)と、足りない人(地域)との偏在を是正すべきものも少なくありません。

一度、自分に過分なものはないか、見直してみてはいかがでしょうか。

出典:「五輪書」(宮本武蔵著、鎌田茂雄全訳注、講談社、1986年5月)

以上(2023年3月)

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