書いてあること
- 主な読者:既存事業の販路拡大や新規事業の開拓を考えている経営者
- 課題:トラック移動販売で事業展開できるかを知りたい
- 解決策:トラックはアイデア次第でワゴン車よりも多様なサービスが展開できるが、販路の確保が困難。コンセプトを決め、販売場所と顧客を早めに確保する
1 ビジネスの可能性を広げるトラックの移動販売
商品やサービスを顧客に届ける方法はさまざまで、「移動販売」もその1つです。移動販売は古くから行われていて、都心ではワゴン車などの小型車両を使ったキッチンカーをよく見かけます。移動販売の問題の1つはスペースが狭いことですが、この問題を解消しようと、
「トラック」を使って服飾店、カウンター付きバー、学習塾、美容室、整体サービスなどを展開する事例
が続々と登場しています。小型車両、中~大型車両、固定店舗の特徴を比較すると次のようになります。
この記事では、トラックやキャンピングカーを活用した移動販売の事例を紹介します。皆さんのアイデア次第でビジネスの可能性が広がります。
2 参考にしたいトラック移動販売の好事例
1)車内で試着ができ、服の製作者と顧客が直接話せる軽トラック
ユニセックス系のファッションブランドalls(オールズ)代表の清田良氏が、個人で運営する移動店舗「RARELY SEE OWLS」。2019年から毎週金曜日に開いていたアトリエショップを2021年6月に閉店。その後、移動販売へと転換しました。コロナ禍により途絶えた顧客との接点を作るには移動販売が最適だったそうです。
「セレクトショップへの卸しやネット販売では、お客さまとお話しすることができませんが、移動販売では、直接話ができます。服選びやトラック内での試着の合間に、服を作るまでのストーリーや思いなどを話し、納得して購入していただけている実感があります。トラック内での試着は、非日常的で新鮮に感じているお客さまが多いのも、移動店舗ならではですね」(清田氏)
試着室を完備した中古の軽トラックの購入・改造費は、およそ120万円。衣服の製作や仕入れ、什器(じゅうき)などを含め、初期費用は200万円ほどになるそうです。
2)昼はカフェ、夜はバーになるトラック
4トントラックに本格的なバーカウンターと客席を備えた移動型バー「TLUX」。昼間は協賛会社の商品を販売するポップアップカフェ、夜はバーとして、渋谷の月決め駐車場で営業しています。
「トラックのカウンターで、静かにお酒を飲む経験が珍しいようで好評です。2020年春、渋谷で通常の店舗として開業しようとした矢先に緊急事態宣言が発出されました。しかし、開業を諦めきれず、どういう形でやるかを検討した結果、トラックバーとなりました。最大14席しかないので、バー以外でも収益を確保する仕組みを考えてからスタートしました」(「TLUX」を運営するBAR TRUCK MEDIA TLUX 代表 篠崎友徳氏)
トラックの改造費など初期費用は非公開ですが、仕入れや人件費、駐車場利用などの固定費を含めた費用は、ポップアップカフェやイベント・パーティーなどの貸し切りレンタル、バーのオリジナル商品のEC販売など、複数の収益によって賄っており、黒字化しているそうです。
3)早朝や深夜も学びの場になるキャンピングカー
家庭教師だった藤原篤史氏が個人で運営しているキャンピングカー塾。岡山県内で「近くに塾がない」「送り迎えができない」「家庭教師を通す部屋がない」「深夜に勉強したい」「不登校の生徒がいる」といった家庭向けに、キャンピングカー内で学習指導を行っています。
「キャンピングカーでの授業は家庭教師と違い、家の片付けなどの必要がありません。そのうえ、こちらから訪問するので『送迎の手間がかからない』と喜ばれています。また、家の敷地や近くの空きスペースに停まっていると、早朝(6~8時)や深夜(23~25時)の時間帯でもご迷惑にならないようで、高校生を持つご家庭に好評です」(藤原氏)
キャンピングカーは家庭用エアコンが搭載されているタイプをおよそ600万円で購入。改造費はかかりませんでしたが、エアコンの電源確保のため、大容量ポータブル電源を2つ買ったそうです。
4)高齢者がオシャレを楽しめる移動美容室
海外を含めて9店の美容室を展開しているデレディール。同社の移動美容室は、高齢者を対象としているため、車椅子専用のリフト付きです。またボディが横に広がり、美容スペースとなる拡幅式の3トントラックを用いています。車内ではパーマ、カラー、シャンプーなどが、全てできるそうです。
「介護を必要とする方々もオシャレをしたい気持ちを持っています。それをかなえるには、美容室に行くというワクワク感覚が大切なので、内装も外装も本格的な美容室を作りました。見て、中に入って、オシャレするワクワク感を味わっていただけるようにしています」(デレディール 広報担当 小西氏)
初期費用は非公開ですが、一般的に理美容設備のある中古の2トントラックの場合は450万円ほど、3トントラックの場合は1000万~1300万円ほどになるといわれています。
5)自社の新商品や事業のPRのために移動車両を使う
販売よりも事業やサービスの紹介などの宣伝が目的で、トラック移動販売を利用するケースもあります。
1.自社のサービスをPRし、ECサイトへの誘導を図る
集英社が女性向けに商品やライフスタイルを提案する「HAPPY PLUS STORE」。固定店舗とECサイトを展開していますが、2022年11月7日に車内で試着や骨格診断などができるトラック4台を用意して、初の移動販売を行いました。出店エリアは、子育て世代向けに東京都江東区の高層マンション周辺(11月7~8日)と豊洲公園(11月12~13日)、ビジネスウーマン向けに東京都中央区日本橋にある屋外イベントスペース(11月10~11日)です。
「トラックの中で試着や服選びをする体験はあまりないので、注目されると期待しています。移動販売をしてみて、地域ごとの特性が分かれば、地域の客層に合う商品やカタログを店舗や書店に置けるようになります。それを見てサイトへの誘導率を高めていきたいです」(集英社 デジタルソリューション部 中谷みどり氏。なお、コメントは出店初日のもの)
2.ECサイトだからこそ、顧客のリアルな声を聞くために出店
腸内細菌の研究をベースに腸内ケア商品を開発・販売するAuB(オーブ)。ブランドの認知拡大と自社ECサイト「AuB STORE」への誘導、顧客のリアルな声を聞くことを目的に移動販売を展開しています。そのため、出店費用は広告宣伝費と考えているそうです。
「話を聞くと、『腸内ケアに興味を持っていたけど、何をしたらいいか分からない』『気になっていたが買うまでには至らない』というケースが多いことが分かりました。実際にコミュニケーションをとったお客さまからのリアルな声を、今後のPRのヒントにできそうです」(AuB PR・メディアリレーション 上田彰氏)
3.自社の出張サービスを知ってもらい、後日の注文につなげる
固定店舗と出張での整体サービスを展開しているスマイルクリエイト。新たな販路を求めてトラックを施術所にし、東京・湾岸エリアの公園や商業施設に出店しています。
「出張サービスをやっているのを知ってもらうと、個人や企業から施術に来てほしいと言われることもあります。移動販売は、利益よりも認知の機会が増えることを重視しています」(スマイルクリエイト 代表取締役社長 伊藤賢治氏)
なお、集英社、AuB、スマイルクリエイトの各社は、いずれも後述するShare Tomorrow「&MIKKE!」の移動販売サービスを利用しています。
ここで紹介したもの以外にも、
- 視力検査・測定機材を搭載した、メガネの移動型店舗
- 本格的な厨房設備を搭載して、野外でレストランを開くキッチンバス
- トレーニングマシンを設置し、車内でレッスンができるフィットネストラック
などの移動販売サービスを提供している事例があります。
3 移動販売で大切な「許認可」
1)路上や公園での販売は許可が必要
アイデア次第でさまざまな業種で展開できる移動販売ですが、全ての土地は誰かの所有物です。出店するには土地の所有者に許可を得る必要があります。特に、
路上での販売は、道路交通法により禁止
されていて、無許可で路上販売をすると駐車違反となります。路上販売には、出店したい地域を所管する警察署の「道路使用許可」が必要ですが、道路使用許可が下りるのは基本的にお祭りやイベントなどの場合であり、単独で許可を得るのは難しいと考えたほうがよいでしょう。
公園での販売は都市公園法により、公園管理者から営業許可を得る必要があります。公園管理者は国土交通省や地方自治体、地方公共団体など、公園によって異なります。
また、固定店舗と同じですが、業態によって公的資格や保健所、警察署などへの申請等が必要になります。事業を始めるに当たり、許認可が必要となる主な業種を紹介します。
2)一部の業種は、公的資格や申請等の手続きが必要
公的資格や申請等の手続きが必要なのは、主に次の業種です。
3)公的資格や申請等の手続きが必要のない業種もあるが、要注意
2)に該当しない業種の場合、公的資格や申請等の手続きは原則不要ですが、一部注意が必要なものもあります。例えば、小売業の移動販売の場合、商品によっては、
- 未開栓の酒類を販売できない
- たばこは、たばこ小売業の許可を得ていないと、移動販売(出張販売)の申請ができない
といった特有のルールがあります。また、
- リラクセーション(足つぼ、もみほぐし、ストレッチ、エステサロンなど、治療を目的とせず、身体の疲労回復を目的としたもの)
- ジム(フィットネス、スポーツなど)
などの業種には、独自の民間資格があります。取得すれば専門知識を得られ、顧客の信用につながります。
4)移動販売で使える保険
移動販売を行う際には、交通事故などへの備えも大事です。必要に応じて、次のような保険への加入を検討するとよいでしょう。
- 自動車保険:交通事故などで被害者への賠償や車の修理費用などが必要なとき
- 施設賠償責任保険:施設の欠陥や偶然の事故で被害者や従業員への賠償が必要なとき
- PL保険(生産物賠償責任保険):製造・販売した商品で顧客に損害を与えたとき
4 トラックで移動販売を始める4つのステップ
移動販売を始めるには、どんな店舗にするのかコンセプトを決め、車両の用意、販売場所や顧客の確保をしていきます。特に車両が大型になると出店できる場所が限られます。コンセプトが決まったら、
車両の用意と販売場所や顧客の確保を同時に進め、車両の完成と営業の開始のタイミングが合うように段取りを組む
ようにしましょう。営業にかかる時間のロスが減ります。
1)非日常感を演出できるコンセプトを決める
ワゴンや軽トラック、中型車両など多くの車両がひしめく場所に出店する場合、個性の強い店づくりが必要になります。移動販売の支援や出店場所とのマッチングサービスを行っているMellowの代表取締役・石澤正芳氏は、
「非日常感を演出することが大切」
と言います。例えば、
- 名物販売員や商品の製作者を配置する
- 製作過程を目の前で見られるようにする
- 外装を商品の雰囲気に合わせて派手にする
- 天候に合わせて商品構成を変える
などのアイデアです。
2)車両の用意
販売車両は、中古車両を購入して自ら改造する以外にも、移動販売の知識のある専門業者から移動販売に特化した車両を購入したり、レンタルしたりすることもできます。
ダイハツは、2022年9月から、軽トラックと荷台に乗せる取り外し可能な箱をセットにした「Nibako」のレンタルを始めています。レンタル料は1日1万3200円から。月額の場合は6万6000円です。
小物類、食器類の物販、衣料品販売から、生花、野菜、菓子、総菜など、さまざまな業種・業態で対応できるように取り外し可能なレールや棚穴が付いています。
3)出店場所の確保
出店場所を確保するには、次のような方法があります。
- 駐車場や商業施設などの空きスペースを利用する
- マッチング会社の出店サービスを利用する
- マッチングサイトに登録する
1.駐車場や商業施設などの空きスペースを利用する
・駐車場を利用する
駐車場を確保できれば、長期間の出店が可能です。例えば、第2章で紹介したBAR TRUCK MEDIA TLUXは、渋谷で営業するために、月決めの駐車場を2年間契約したそうです。また、キャンピングカー塾は、生徒を乗せて、駅前の市営有料駐車場などに駐車して学習指導を行うことがあるそうです。
・商業施設やアミューズメントストア、住宅展示場などのスペースを利用する
定期的にイベントを開催する常設の催事場や道の駅、サービスエリアなどは、大型車両が入れるスペースもあります。主催者側が出店募集をしている場合もあり、スペースが空いていれば、利用料を払うことで出店できるかもしれません。
・自ら空きスペースを探し、直接交渉する
>出店したいエリアがある場合、空きスペースを見つけ、地権者と直接交渉するのも1つの方法です。利用料を払い、空いたスペースや時間が有効活用できることを伝え、交渉します。大きな音を出さない、片付けを徹底するなどの取り決めは必要ですが、貸主が見つかれば、そのエリアの顧客を独占できるかもしれません。
2.マッチング会社の出店サービスを利用する
移動販売について、出店場所の提供、出店申請、販売ノウハウの紹介、車両のレンタルなどをサポートするサービスが登場しています。
・Mellow「SHOP STOP」:空きスペースと移動販売車をマッチング
出店者一人ひとりに専属アドバイザーがついて、店舗に見合った出店場所を紹介してくれます。また、登録ユーザーの位置情報と連動して出店情報を教えてくれる「SHOP STOPアプリ」による販促や、移動販売全般のサポートを行っています。出店費用は売上の15%です。リース車両の提供もしていて、車両代、車両保険、施設賠償、生産物賠償責任保険、同社の売上データを活用したアドバイスも含めて月額8万5000円から利用できます。
・Share Tomorrow「&MIKKE!」:販売車両から場所の提供までフルパッケージで支援
出店者の商品やサービスに合った「出店場所」と「移動販売車両」「レジ・什器などの備品」をフルパッケージで提供しています。出店料は1日2万円程度で、さらに出店前の安全運転講習や、営業開始後のサポートもサービスに含まれているため、車両やノウハウがなくても、移動販売を素早くスタートできます。
3.マッチングサイトに登録する
出店スペースと出店者をマッチングさせるサイトを使って、出店場所を探す方法もあります。車両サイズにより出店できない場合もあるので、事前に確認が必要です。
・自由市場
無料で会員登録でき、出店費用はスペース料金のみです。地図や期間から全国の出店場所を検索できる他、人気スペースのキャンセル待ちなども可能です。
・軒先ビジネス
無料で会員登録でき、出店費用はスペース料金のみです。悪天候の場合、出店時間前までの連絡でキャンセルできます。
・出店情報ナビ
無料で会員登録でき、出店費用はイベントごとに異なります。イベントの出店募集や商業施設、オフィス街での出店など、移動販売の募集情報が掲載されています。
4)顧客の確保
最後に、顧客を確保するための参考事例を紹介します。
1.口コミを活用する
キャンピングカー塾は、車体の看板を見た人から、停車中に声をかけられることがよくあるそうです。また、生徒の保護者の間で成績向上の噂が口コミで広がる効果もあり、初めて連絡してきた家庭には、初回のみ学習指導を無料体験できるサービスを行っているそうです(ほぼ100%の確率で有料サービスの利用につながるとのこと)。
2.これまでの付き合いを活用する
デレディールは、1995年に開業して以来、地域の顧客と長年付き合ってきました。顧客の中には、介護施設や老人ホームなどへ入所する人もいます。そこで入所施設へ出向く目的で、移動美容院をスタートさせました。このため、顧客は全て紹介を通じて獲得しているそうです。
3.事前に顧客を確保してから開業
高齢の買い物難民を対象に、自宅まで訪問する移動スーパーとくし丸は、連携する販売パートナーとスーパーに対し、開業の際、顧客の需要調査を依頼しています。
「開業前に1~2カ月かけて需要調査を行ってもらい、買い物に困るお客さまを120人以上見つけてもらうようにしています」(とくし丸 広報担当 小川奈緒美氏)
とくし丸の販売パートナーが顧客開拓で家を回る軒数は、1~2カ月で数千軒に上ることもあるそうです。実際の対面販売を始めてからは、信頼を得るために、約束した商品は次の移動販売のときに持ってくる「御用聞き」、消費しきれない量の買い物をしていたら売るのをやめさせる「売りやめ」、顧客の様子を見て、時に通院などを促す「見守り」などをしているそうです。おかげで、訪問時の顧客の購入率は「ほぼ100%」だそうです。
以上(2022年12月)
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